夏のある日、秋田にある老人介護施設に一人の男が訪ねてきた。男の名は米山靖樹、入所中の叔母のサト子に呼ばれ、東京からやってきたのだった。サト子は靖樹に黄ばんだ手紙の束を渡す。その手紙は、サト子の父、樹一郎が妻のタキに戦地から送った『愛の書簡』だった。タキがサト子の夢枕に立って、それを靖樹に渡すよう言ったのだという。
その手紙を預かることに疑問を感じた靖樹だったが、彼はひとまずそれを持って東京に戻った。数日後、その靖樹がまたサト子を訪ねてきた。靖樹は、預かった手紙のこと、それにまつわる当時の思い出を何でもいいから教えてほしいとサト子に願い出る。
靖樹が来た日と樹一郎が戦死した日が同じであったこともあって、サト子はそこに不思議な符合を感じながら、過去に起こった様々な出来事を靖樹に話し始めるのだった。
ひと通り話が終わった後、サト子は靖樹に向かって樹一郎の墓参りに行こう、と提案する。墓前、サト子を背負って線香を上げていた靖樹は、十七年前の亡くなった娘、晶子を思い出す。サト子もまた、顔も記憶にない父、樹一郎に背負われているような感覚になり、二人とも涙が止まらなくなる。
墓参りを終えた帰り道、靖樹の提案で二人は施設の外泊許可をもらって近くの温泉に一泊する。そこで、靖樹は妻、秋子とうまくいっていないことを、サト子は息子、晴彦夫婦との確執を、お互いに打ち明け合うのだった。
翌日、靖樹の提案で、二人は東京の靖国神社に向かう。その日は靖樹の家に一泊し、翌日、念願の靖国神社に詣でた二人だったが、大鳥居を出たところでサト子が貧血で倒れ、都内の病院に搬送される。その知らせを聞いた息子夫婦と孫の登は、秋田から一路東京に向かうのだった。
サト子の病状は快方に向かい、退院を明日に控えたその晩、靖樹の家には、靖樹夫婦と晴彦家族のにぎやかな声がこだましていた。
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