spine
jacket

───────────────────────



KCIC アニュアル レポート 01

かごしま文化情報センター(KCIC)
アートディビジョン

KCIC BOOKS



───────────────────────

 目 次


はじめに


KCICが生まれるまで。

KCICの活動内容


文化薫るかごしま Starting Eventアート・セッションKAGOSHIMA/想いつながる夕べ〜あかり×音楽×伝統芸能〜 【01】


OPENING POSTER PROJECT下薗詠子×松田朋春 写真作品「美人島」 【02、03】


地域×アートシリーズ「人、祭、花尾神社」【04】


KCIC ワークショップ 【05】


松田朋春セミナー【06】


BOX-ROOM Gallery【07】


音とあかりの散歩道【08】


夏のふるさとコンサート in 郡山【10】


コスモス祭り in 喜入前之浜町〜ふるさとの祭りと音楽〜【11】


曽谷朝絵「光のワークショップ」【09】

コラム

コラム1:登場人物は誰か小田久美子(アーツ前橋)


コラム2:KCICと協働して感じたこと市村良平(マルヤガーデンズ コーディネーター)


コラム3:鹿児島で新しい活動をつくらせてくれぇ~!藤 浩志(美術作家 十和田市現代美術館副館長)



※【 】の中の数字は、フリーペーパー「KCIC Arts Crossing」のプロジェクト番号と対応しています。KCIC所内等でお受け取りください。

はじめに

 2013年8月10日、かごしま文化情報センター(KCIC)が鹿児島市役所内にオープンしました。ここは、鹿児島市が2012年に掲げた第五次鹿児島市総合計画に基づく「文化薫る地域の魅力づくりプラン」の活動の拠点として位置づけられると共に、鹿児島市を中心に内外の文化情報の編集と発信の場として整備されました。この文化プランは、「美術」「音楽」「地域伝統芸能」に重点を置き、市内の文化団体やNPO法人、大学関係者、民間企業に所属する個人や、マスコミ、行政の約25名で構成される実行委員会で推進されています。

既存のスペースを利用する。できることからスタートする。

 KCICは鹿児島市役所みなと大通り別館内のスペースを利用したもので、新しい場所をゼロから創るのではなく、言わば、コストを極力かけることなく誕生しました。これは、できることからスタートさせるという、地域資源を活かした、とても現代的(現実的?)なスタートであったと思います。
 この別館の位置する場所は、環境もすばらしく、目の前には噴水と芝生の美しいみなと大通公園があります。また、階上には若手起業家を育成支援するための「ソーホーかごしま」や、市の将来を担う新たな産業の創出を目指す産業創出課など、これからの鹿児島を築いていくスペースや部署があり、自由な空気の中、柔軟な姿勢の人々が行き来している、新しいひととの出会いも叶う潜在性の高い場所。
 その中で、KCICは公園に面した約63平米のスペースに誕生しました。従来この場所は、自動販売機が5台ほど並んでいたフリースペース。2012年当時に実行委員会の美術部会員メンバーが着目し、市の了承を得てリノベーションが始まりました。
 この改装工事に、地元の大学で建築を専攻する教員と生徒たちが協力してくれたことはとても幸運なことでした。彼らの授業の中で、文化情報の編集と発信の基地として何が必要かを話し合いながら、施設に触ることなく(現状復帰できるように)、模型の試作を何度も繰り返しながら、改装案を提出。設計から実際の空間づくりまで加わっていただけたことが、大きな一歩となったことは言うまでもありません。


人が動き、価値を積み上げて行く。

 また、KCICを動かすメンバーとして、様々な職種の人がいることも、原動力となります。
 主要メンバーは、コーディネーター、アーティスト、建築家、カメラマンに映像作家などで構成され、拠点を設けつつも、企画を推し進める活動体として存在。それは、街なかでプロジェクトを実行することであり、また、情報発信のための取材・編集を行うこと。各々の専門を活かして、できる限りの活動を遂行するのです。
 そして所内には、日中はスタッフが常駐し、センターを訪れる方々に地域のイベントや県内外のさまざまなアート情報の案内を行いながら、WEB、電子書籍、フリーペーパー、そして展示といったいくつかのメディアを組み合わせたスタイルで、多様な文化情報の編集・発信のための作業を行っています。
 そういったひとつひとつの活動を積み重ねて、人と交わりながら、地域の文化的な将来像を積み上げていく—。市庁舎という本来は文化施設ではない場所の中に、異なる目的を持った新しい価値を付加する、1970年代から多く街中に出現したオルタナティブ・スペース※から一歩先に進んだ、新たな“もうひとつの”可能性を持つ文化的スポット(ポスト・オルタナティブ・スペース)としてのあり方を、KCICは探って行きたいと思います。

四元朝子 かごしま文化情報センター(KCIC) チーフ


オルタナティブ・スペース…美術作品専用の空間である美術館や画廊と異なり、必ずしも狭義の美術には当てはまらない作品発表や活動が可能な文化的なスペースのこと。美術史的には、1969年及び70年にマンハッタンに登場した非営利目的の小ホールが最初の「オルタナティブ・スペース」とみなされている。

KCICが
生まれるまで

 鹿児島市が進める「第五次鹿児島市総合計画」において、都市像に掲げる「豊かさ」を実現して行くためのプロジェクトのひとつ「“ディスカバリーかごしま”文化創造プロジェクト」。このプロジェクトを具体化した「文化薫る地域の魅力づくりプラン」を推進する組織として、平成24年度から「文化薫る地域の魅力づくり実行委員会」が発足しました。
 その取組のひとつが、平成25年8月にスタートした「かごしま文化情報センター(KCIC)」。当初は計画にはなかったこの拠点施設の設置を提案し、実現につなげたのが「文化薫る地域の魅力づくりプラン策定委員会」の美術部会メンバーです。そこで、スタートまでの経緯について、設立に関わったメンバーである下原美保さん(鹿児島大学教育学部教授)、ジェフリー・S・アイリッシュさん(鹿児島国際大学経済学部准教授)、宮之原綾子さん(株式会社しか屋取締役部長)、早川由美子さん(NPO法人PandA理事長・かごしま文化情報センター アドミニストレーター)に、四元朝子(かごしま文化情報センター チーフ)が伺いました。

KCICに関わった経緯


四元 KCICの立ち上げに関わった「文化薫る地域の魅力づくりプラン策定委員会」の美術部会メンバーにお集まりいただきました。まず、どのように皆様が委員になられたのかお聞かせください。
早川 平成23年の夏に初回の会合がありました。
下原 5年間で何かをやるということだけ決まっていた、と思います。 
ジェフリー プランの内容はかなり白紙の状態だった印象がありますね。
宮之原 最初に「第五次鹿児島市総合計画」に基づいた案を見せていただきました。資料には、鹿児島の近代美術や文化的な史実をまちづくりに生かそう、というような記述があったと思います。
四元 皆さんをはじめ、委員の名簿を見ると、大学教授から、企業の方、NPOの方など多彩なメンバーがいてバランスがいいな、面白いなと思いましたが、それぞれどうして委員を引き受けられようと思われたのでしょうか。
宮之原 これからのまちづくりの中で、美術、音楽、地域伝統芸能を生かしていきいきと魅力ある鹿児島を作る、その策定をしてほしいと言われて、なんて楽しそうなことをさせてもらえるんだ、と。私は美術に関するNPOをしているのですが、今まで行政と連携することがなかなか難しかったのですが、今回は行政と一緒にプラン作りができると聞いてすごくワクワクしました。
下原 私は逆にNPOさんと一緒にできる、ということを魅力に感じました。これまでの形ではなく、新しくやっていけるんだな、と。鹿児島も変わるかも、という期待感もありました。
早川 私は10年前からアート系のNPOをしていますが、自分が抱えていたミッションと、今回のプランについて聞いたお話が近かったんです。未来を目指して人とまちをどう作っていくか、という。それまでは孤軍奮闘という感じで続けてきたので、行政とも連携できることで、今までやってきたことの集大成になるかもと、喜んで引き受けました。
ジェフリー 私は行政から依頼されたら「はい」と言うことにしています(笑)。大学でまちづくりを教えていますから、行政側の視点を学ぶことも重要なのです。また、こういった場に行くといろいろな職種の方との良い出会いがあることも引き受けた理由の一つです。

左から、早川由美子(NPO法人 PandA)、ジェフリー・S・アイリッシュ(鹿児島国際大学 准教授)

行政と柔軟な姿勢で仕事をする


四元 では、計画はどのようにして具体的な形になっていったのでしょうか。
宮之原 もともと「第五次鹿児島市総合計画」に基づいてコンサルタントが作った素案がありました。美術に関しては、鹿児島には近代に素晴らしい芸術があるということで、それを生かしたまちづくりを、という案だったと思います。
早川 私たちが取り扱う美術のほかに、音楽、地域伝統芸能も含めて大きな柱が3本ずつあって。今もそれぞれの軸の部分は重点事業の中に反映されています。
宮之原 しかし、議論する中で、今から私たちがやるのであれば、当初の案とは異なり、現代美術を中心とした新しい考え方を提案しようということになったのです。ここでありがたいのが、普通は行政ではレールが敷かれていることも多いと思うのですが、「内容を変えてもいいですよ」ということだったんです。
ジェフリー 会議に参加している市の担当者も新しいアイデアに対して意欲的でした。せっかく集まっているのだからと、アイデアを歓迎してくれていたと思います。
下原 一方で、新しく提案した考え方については、様々な意見がありました。そのため、提案意図を伝えるために、何度も何度も確認と説明を重ねる必要がありました。
四元 それにしても、当初あった案に対して、内容を変えたいと提案した皆さんにも驚きましたし、それを受け入れた行政も面白いと思います。きっと、本質的には主旨が合っているからこそ、変えていいということになったのでしょうね。そもそも“アートによるまちづくり”というのがテーマだったのですよね。
早川 そうですね。テーマを実現するために、美術部会の方針としては「『質』の高いアートに触れ、自由に語りあう機会を増やす」としました。漠然としているかもしれませんが、実際に活動を進めながら具体化していこうということになりました。
下原 新しく提案した考え方について、委員と行政で議論を重ねていくうちに、美術部会の活動についてはある程度任せてくださるということになりました。そこで、私たちは、今回の目的に向き合うために、鹿児島の文化状況や課題について洗い出してみようということで話合いました。そして、一からプランを作ることになったのです。
ジェフリー 現場を知っている人達の意見を尊重する、ということだったのではないでしょうか。
宮之原 “質を高める”にはどうすればいいかということで、そのために必要なことを話し合いました。その中で、芸術について気軽に話し合える場として、サロンのようなものがほしいという話が出ました。
四元 それが拠点施設であるKCICの原点なのですね。
ジェフリー 確か、早川さんが、ワインとチーズと共にアートを語るサロンのようなものがほしい、とおっしゃっていたような(笑)。
早川 ほかの方からもそういった意見がありましたし、私も開かれたやわらかい場にしたらどうか、と言ったように思います。
下原 情報があちこちにバラバラあるから、ここに来れば情報が集まっているという拠点としての機能も必要ということでした。ホームページなどもひとつにまとめようというアイデアもありました。
ジェフリー 「アートインかごしま」という、私の素晴らしいアイデアですね。私のアイデアはいくつも消えましたけど、これは残りました(笑)。
四元 「アートインかごしま」とはどういうアイデアですか。
ジェフリー 市立美術館の館長さんが評論もほしいという話をされました。そこで、私が提案したのが、ギャラリーの情報等を集めた「アートインアメリカ」という素晴らしい雑誌があるのですが、それを鹿児島でできないかと。
早川 情報を集めて活用しようということですよね。
ジェフリー そうですね。私としては評論も大切ですが、それ以外の情報も必要だと思っています。ここに行けば、とか、これを見れば、芸術、音楽、伝統芸能などアートに関する情報を知ることができる、というようなもの。今思うに、1枚のサマリーシートのようにまとめられていることが重要なのではないでしょうか。館長さんと最初に考えていた「アートインかごしま」からはだいぶスリム化したものなので、これなら低コストでできると思います。このように、紙一枚またはネット上でしたら現実味があると思います。

KCIC実現のためのプレゼン


四元 拠点を作るという提案をされたとき、反対はありませんでしたか。
宮之原 当初のプランでは拠点の話はなかったので、反対はありました。なぜ必要なのか、人件費はどうするのかという声もありました。
早川 しかし、今回の計画の3本の柱を総合的に考えたときに、サロン的なものが絶対に必要だと思いました。そこで、平成24年には美術部会長を引き継がせていただいていたのですが、部会でプレゼンさせていただきました。
ジェフリー 拠点を作ることで、3本の柱を実現させていくということで。大黒柱になるというような説明だったように思います。それで場所を探し始めたんですよね。
下原 モデルとして京都芸術センターとか、東京の3331アーツ千代田などがイメージにあって。ワークショップができたり、トークショーができたりするような。
ジェフリー 私は個人的には、熊本市現代美術館の図書館のイメージとか…。
宮之原 でも予算を考えると、家賃や光熱費を払うこととか、現実的じゃないということが徐々に分かってきて。それで私たちが勝手に目をつけたのが、今KCICがある、鹿児島市役所みなと大通り別館1階にあるこの場所です。以前は自動販売機が置いてあるフリースペースでした。
早川 そこで、ここに拠点を置くことの意義を文書にまとめ、模型まで作って提案しました。既存の公共施設にこういった場所を新設することは、規制等もあって難しいことだと思いますが、鹿児島市の担当の方が相当頑張ってくださったのだと思います。
四元 模型まで作って、提案されたのですね。
早川 どうしても拠点を作る必要があると思いましたので、プレゼンにはインパクトが必要だと思いました。そのために知人の建築家・第一工業大学講師の根本修平さんが模型を作ってくださいました。提案していただいたプランは残念ながら予算の都合で実現はしませんでしたが…。
宮之原 それでも拠点を作ること自体にOKが出たときは、「おっ!」と驚きました。一方で「建築費はありません」ということでした。それで木の板を買うことになったんですよね(笑)。そして、板を使って棚や机を根本さんの研究室の学生さんたちが手作りしてくださいました。KCICは一応5年という期限で走っていますので、原状復帰ということも条件でした。
早川 振り返ってみると、模型を提案したのが平成24年の2月か3月でしたから、それからすごいスピードで拠点が形になったということですよね。

市役所内のスペース改装に、第一工業大学 根本研究室の学生が協力。

進むべき方向はブレない


四元 メンバーの皆さんが最初に提示されたプランを作り直してまでも、活動を続けられたのもすごいことですよね。
ジェフリー 我々は鹿児島市が最初に提案したキーワード“アートの向上”を言葉通りに受けとって向き合おうとしていた。ただ手段が違っただけだと思います。
宮之原 おっしゃる通りだと思います。鹿児島の市民が、美術とか音楽とか伝統芸能があふれる魅力のあるまちを誇りに思い、楽しめるようにしたい、という目的は変わっていないのです。手段を変えただけかなと。ただ、活動を進めるときにスムーズにいかないこともあり、担当課の責任者の方にプランの主旨を改めて確認しに行ったこともありました。そのとき「目的は合っているから、手段は変わっても構わない」という言葉をいただきました。このように理解を示してくださるということはなかなかないことだと思います。実は、あのときは、みんなでやめるか進むかという状況でしたよね。
早川 そういった状況もありましたね。
宮之原 多分、言われたことをそのままやっても面白くないし、かといって私たちの意見がすべて正しい訳ではないですし。いいものを作るためにお互いが議論を重ねながらやっていくことが当然のプロセスなのでしょうね。
四元 市民のアイデアに任せてみようという行政の姿勢もすごいですよね。
宮之原 市民との協働にチャレンジされているのだと思います。一方で、今回携わってみて、協働するということは、私たちの責任もすごく大きくて、時間もすごくかかるんだなということも認識しましたね。

“質の高さ”と今後の課題


四元 新たなプランを作る中で、先ほどおっしゃっていた「『質』の高いアートに触れ、自由に語りあう機会を増やす」ということが、共通認識としてあったということですよね。
下原 KCICについて“質を高める”ということを最初に設定したという話を美術科の学生にしたところ、そこには入れる人と入れない人がいるという意見が出まして。美術科の学生でさえそう感じているというのは驚きました。だからこそ、ちゃんと説明していかないといけないなと。KCICが私たちには関係ない、仲間内だけでやっている、と思われたらもったいないと思いました。
四元 美術館だと質が高いものはOKだけれど、市民団体だとそういった印象になるのでしょうか。
宮之原 あえて“質を高める”と言うからではないでしょうか。あらためて言われるとそう思ってしまうこともあるかもしれない。一方で万人に受けるというのは、何物も生み出さないのかなという印象もありますよね。
下原 例えば、KCICの「ボックスルームギャラリー」は、作家に依頼して展示しており、持ち込みの作品が展示できる訳ではありませんよね。その理由をちゃんと説明できないといけないなと思いますね。
宮之原 そのためにも、外部評価委員も必要だと思っています。まだ実現に至っていませんが。万人の評価ではなくて、KCICの目指すものを見ていただいた上でそこに添って、質の高いアートに触れ、自由に語りあう機会を増やすことが実現できているのかできていないのかという評価をしていただくことも必要だと思いますね。
ジェフリー 評価委員からの提言も必要。評価のプロセスによって、これからどう動くべきかという提言が生まれてくる可能性があるのではないでしょうか。
宮之原 また、これからの鹿児島を作るためには、鹿児島だけにこだわることはやめようという話も出ました。もちろん鹿児島ゆかりの芸術家は素晴らしい方がたくさんおられますが、それだけではない、という議論もしたような気がします。
ジェフリー 鹿児島だけにとらわれず、刺激を与えてくれる国内外の質の高いアートを取り入れようということですよね。
宮之原 質の高さに関しては、今後は、世界で活躍しているようなプロデューサーに見てもらえるようにしたいと希望しています。なぜ質の高いプロに関わってもらう必要があるのかは、これからも説明していきたい。子どもたちに教育のためにも必要なことだということを伝えたいですね。

情報発信の場としての機能をつくる。

打ち上げ花火ではなく継続性を


四元 KCICについて、サロン的な意義もですが、積み上げるための拠点としても必要ということだったのでしょうか。
宮之原 そうですね。質の高いものを見たい、ということもですが、見ることによって育つということも大切なのではという話になりました。若い世代に質の高いものを見せていくことで時間をかけて育てていくことが必要なのではないでしょうか。
早川 それで“まちなか展示”(街を会場として行うアートイベント)とかもありますし、日常的に良いものを目にすることが大事ではと。
下原 予算を使うのだったら、打ち上げ花火的なイベントだけではなく、継続性のあるものをということで、この拠点を作るという話になったのですよね。
早川 拠点を作ることで、人が常駐しなければいけなくなるので、その人たちも育つし、情報も集めることで街も育っていくよね、という感じだったと思います。
四元 単に情報を集めるのであれば、ホームページでもできますよね。
早川 人と人が会って話をし、化学反応が起こり、それで面白いことが起こる。やはり人次第だよね、と感じていたのだと思います。
宮之原 単発のイベントなら拠点がなくてもいいのかもしれないけれど、5年後、30年後の鹿児島市を考えたときに、継続していくことを考えるとやはり“人”なのかなと。そのためには、場所が必要という話だったように思います。
ジェフリー イベントだけで終わってほしくなかったというのがありましたよね。
早川 それはみんなの共通認識でもありましたね。
四元 「文化薫る地域の魅力づくりプラン」が5年という期限付きのプランであることについてどう思いますか。
早川 5年で終わらせたら意味がないと思います。積み上げて先につなげていくものにしたいと。
宮之原 最初の5年、という感覚ですね。
ジェフリー その感覚が強いです。

左から宮之原綾子(株式会社 しか屋)、下原美保(鹿児島大学 教授)

スタート、そして、これから


四元 KCICがスタートして約半年。これまでに行ってきたアートプロジェクトやイベントなどの様々な活動を通じて感じたこと、そして、これからの展望などをお聞かせください。
宮之原 半年が過ぎて、やりたいことが見えてきた気がします。やはり、拠点があるというのが大切だと思っていて。アーティストの方が何気なく寄ってくださったり。KCICの企画や活動を面白がってくれる人、協力してくれる人も集まってきてくれています。集まることから生まれていくことが目に見えてきています。
早川 まさに新しいコミュニティが生まれていますよね。
ジェフリー 展開していくコミュニティですね。
早川 場所にとらわれない、有機体みたいな感じでしょうか。
宮之原 そして、これまでの活動を通じて、KCICがまちに必要とされる可能性があるということを感じることができたのも良かったです。固定せずに、開かれた、広く受け入れられるような存在になれたらいいですね。
早川 KCICが、まちのあちこちで起こっている面白い人、コトをまちとして編集する機能を持てればいいと思っています。もちろん、鹿児島だけではなく、世界的な現象にも目を向けていきたいですね。また、質を高めることももちろん大切ですが、今回の話題にも上ったように、「質の高いものとは?」とか「これはどうだろうか?」とアートについて話し合うこと自体にも意味があると思っていますから、面白いことに敏感に、フットワーク軽く反応し、関わってみようとする人やまちの雰囲気が生まれることが大切な気がします。KCICに面白がって関わることによって、アートを「なんとなく感じる」ことができるようになった、というあり方を目指したいですね。
下原 私は、プラン策定に関わらせていただいて、今は一市民として快適に利用させていただいています。学生たちをプロジェクトに参加させてもらったり、こういった場で、メンバーとアートについて語り合えたりすることがとてもうれしいです。KCICの目指す最終目的がそれならば、一番最初に体験させていただいているので幸せだなと思います。KCICはたくさんの可能性を秘めていると思います。基盤はできたなと思うので、これからの発展が楽しみです。
ジェフリー 私は結構厳しい人で、あまり喜ばないのですが、オープニングプロジェクトの写真とトークが良くて喜びました。写真を見ていて、パワフルというか、迫力がありましたね。質の高さにこだわるのであれば、最初が肝心だと思いますから。あの作品は、あちこちでもっと大きなスケールでできたらもっと良かったですね。それと、KCICは、四元さんを巻き込んだというのが、すごいことだと思います。質を高めるということについて、しっかりしたブレーンはとても大切です。
早川 四元さんがいてくれなかったら、今のKCICはなかったと思います。
四元 私も、アートの仕事が鹿児島でできると思っていなかったのでうれしかったですし、責任も感じています。本日は、貴重なお話をありがとうございました。立ち上げ時のお話などもうかがえたし、KCICへのこれからの期待や課題も見えてきました。まだまだこれからのKCICがやるべきことを考えていきたいと思います。



原稿作成:小谷さらさ

下原美保(鹿児島大学 教授)
専門は近世やまと絵。これまで注目される機会の少なかった住吉派を研究している。英米の美術館・博物館に収蔵されている作品調査をきっかけに、海外からみた日本美術観や明治期における日本美術史形成過程に興味を持つ。近年では異文化交流のワークショップも手掛けている。

ジェフリー・S・アイリッシュ(鹿児島国際大学 准教授)
ノンフィクション・ライター、民俗学研究者。ハーバード大学大学院と京都大学大学院で民俗学を専攻。1998年より鹿児島県川辺町に移り住み、日々の生活や田舎暮らしなどを南日本新聞に9年間連載。地域創生、まちづくりなどについて教えている。2010年度南日本文化賞受賞。


宮之原綾子(株式会社しか屋 取締役部長/ NPO法人かごしまGIFT 理事)
鹿児島の納豆等食品製造・販売を行う老舗企業 株式会社 しか屋の取締役部長。アートと宇宙を活かしたまちづくりとして、2009年の皆既日食の際に種子島で行われた「時の芸術祭」や日比野克彦「明後日朝顔会議」などのプロジェクトに参加。企業の視点から、地域の文化振興に情熱を注ぐ。


早川由美子(NPO法人PandA 理事長)
http://www.npo-panda.jp
アーツマネジメントをベースに、その多様性を活かし、人や地域、企業、社会などを結びつける事業を展開。文化ボランティア養成やアートプロジェクト、展覧会、ワークショップ、商品開発などを手掛ける他、独自の作品販路開拓や行政・企業等と作り手を直接コーディネートする事業なども展開している。

KCICの活動内容

●2012年
文化薫るかごしま Starting Event
 アート・セッションKAGOSHIMA
 11月9日 会場 アミュ広場
 想いつながる夕べ〜あかり×音楽×伝統芸能〜
 11月17日 会場 県政記念公園、中央公園 あかり作品制作「GINGA」(平野治朗)


●2013年
OPENING POSTER PROJECT 下薗詠子×松田朋春 写真作品「美人島」
 8月10日〜10月30日 ポスター11種類制作、館内展示、フリーペーパー発行、市電広告 他
地域×アートシリーズ「人、祭、花尾神社」リチャード・バイヤーズ 他
 11月5日〜2014年2月2日 展示 12月7日 電子書籍公開、映像上映会
 会場:かごしま文化情報センター
KCIC WORKSHOP
 地域の古着ワークショップ「わたしのきおく、あなたのきおく、まちのきおく」 9月〜2014年2月
 写真地図ワークショップ「ニュー名所地図づくり」 9月〜2014年2月
 会場:市民アートギャラリー1Fほか 講師アーティスト:平川 渚
 スピンオフ企画「東川隆太郎さんとニュー名所を探して歩く」 
 会場:市民アートギャラリー、易居町、名山町 特別講師:東川隆太郎
松田朋春セミナー「イベントを育てる」9月3日、「街を素材にするアート」10月4日
 会場 かごしま文化情報センター
BOX-ROOM GALLERY 8月10日〜 常設展示 会場:かごしま文化情報センター
夏のふるさとコンサートin郡山 8月31日 会場:鹿児島市立花尾小学校体育館
音とあかりの散歩道
 10月19日 会場:鹿児島市美術館前庭、かごしま近代文学館・メルヘン館中庭、照国公園、探勝園 
コスモス祭りin喜入前之浜町〜ふるさとの祭りと音楽〜
 11月4日 会場:喜入前之浜町の前之浜小学校の近く貝底川中流一帯
曽谷朝絵 「光のワークショップ 」
 11月23日・24日 会場:山形屋、アミュプラザ鹿児島、マルヤガーデンズ
 

文化薫るかごしま Starting Event

アート・セッションKAGOSHIMA/
想いつながる夕べ〜あかり×音楽×伝統芸能〜

2012年11月9日 会場:アミュ広場  
11月17日 会場:長田中学校、中央公園


主催 文化薫る地域の魅力づくり実行委員会、鹿児島市、南日本新聞社


11月9日 アート・セッションKAGOSHIMA シンポジウム 右から山下洋輔(音楽家)、藤浩志(美術家)

2012年より5年間に渡り実行される「文化薫る地域の魅力づくりプラン」(鹿児島市)のスターティングイベント。「アート・セッションKAGOSHIMA」は、「美術」「音楽」「地域伝統芸能」の3つのジャンルから、藤浩志氏らが登壇するシンポジウムや山下洋輔スペシャルセッション開催の他、鹿児島市の地域伝統芸能である2つの踊り「大平の獅子舞」「前之浜チョイのチョイ踊り」を、最も多くの人が行き交う夕刻の鹿児島中央駅前のアミュ広場で披露。
想いつながる夕べは、「希望のシンボル白い風船に光をいれた「GINGA」を手に持って中央公園まで歩いていただき、みなさんの手で中央公園に壮大な光の芸術を完成させてください」と、街中で「GINGA」を配布。子どもたちが蛍光塗料で描いた光る絵を展示したスタードームとともに、計約600個の「GINGA」が中央公園を埋め尽くした。
「美術」の見せた見慣れた公園の風景が変わる様や、直前までの悪天候で他の場所での開催を余儀なくされながら、若い担い手たちの存在感に圧倒された「音楽」「地域伝統芸能」の演奏・演技など、市民を巻き込んだ街中での展開が、文化プランの目指す新しい鹿児島の街やあり方を感じさせるイベントとなった。

11月9日 アート・セッションKAGOSHIMA 山下洋輔による演奏 会場:アミュ広場
11月17日 想いつながる夕べ〜あかり×音楽×伝統芸能〜 鹿児島実業高等学校吹奏楽部 会場:長田中学校
11月17日 想いつながる夕べ〜あかり×音楽×伝統芸能〜 西上の太鼓踊り 会場:長田中学校
11月17日 想いつながる夕べ〜あかり×音楽×伝統芸能〜 「GINGA」会場近くの商店街で風船を配布



GINGA制作
平野治朗(ひらのじろう)
1963年、石川県金沢市生まれ。1987年に松蔭浩之とArt Unit Complesso Plasticoを結成し、その後、個人 またはユニットで活動。新しいメディアと身体の接点を追求し、視覚以外の感覚も刺激し体感できる作 品を国内外で発表。近年の主要な活動に、「[GINGA]@六本木」(六本木アートナイト、2009年)など。2012年より鹿児島県曽於市に在住。

11月17日 想いつながる夕べ〜あかり×音楽×伝統芸能〜 「GINGA」会場:中央公園

OPENING POSTER PROJECT
下薗詠子×松田朋春 写真作品「美人島」

2013年8月10日〜10月30日
館内展示(会場:かごしま文化情報センター、市民アートギャラリー)、フリーペーパー発行、市電広告 他
(プレイベント・トーク 7月18日 会場:鹿児島市立美術館)

主催 文化薫る地域の魅力づくり実行委員会、鹿児島市、鹿児島市教育委員会

木村伊兵衛賞受賞の写真家・下薗詠子(鹿児島在住)が、全国のアートプロジェクトを手掛けるプランナー・松田朋春によるコンセプトを基に、鹿児島の風景と人を被写体にした写真作品をポスターとして全11種類を制作し、発表。モデルに、ショップの店員、会社員、ミュージシャンやダンサーなど地元の女性11名の協力のもと、桜島や周辺の海岸等で行われ、完成したポスターは国内の美術館やギャラリー、大学、専門学校、市内の商業施設の他、公共交通機関(市電、フェリー、バスなど)にも掲出。この下薗詠子撮りおろし写真によるポスターは、かごしま文化情報センターのオープニングを知らせる告知物であり、また、街中に写真という作品を発表するものでもあった。
あわせて期間中は、市民アートギャラリーには高さ2メートルの作品を展示し、来所者を迎え入れた。

電子書籍ドキュメント・下薗詠子×松田朋春「美人島」
写真:下薗詠子 編集:かごしま文化情報センター(KCIC)
http://bccks.jp/bcck/120122/info


Photo:Eiko Shimozono / Model:Satoko Kojima

下薗詠子(写真家・いちき串木野市在住)  
http://shimozono115.wix.com/homepage#
1979年鹿児島県いちき串木野生まれ。現在鹿児島在住。九州ビジュアルアーツ専門学校写真学科で写真を学ぶ。19才から雑誌を中心にCDジャケット等で著名なミュージシャン・俳優・アーティスト・オリンピック選手などを国内外で数多く撮影。2010年に「2010 Visual Arts Photo Award大賞」を受賞し、出版された初の写真集「きずな」(青幻舎)で「第36回木村伊兵衛写真賞」受賞。2000年から個展等写真展を多数開催。コニカフォトプレミオ“新しい写真家登場「現の燈」“(東京/コニカミノルタプラザ)、個展「現の燈」(大阪/ビジュアルアーツギャラリー大阪)、KOBE ART COLLECTION 2010「絆の肖像」(神戸/神戸ファッション美術館)、Visual Arts Photo Award 2010 大賞受賞 巡回展「きずな」(東京・大阪・名古屋・福岡/ビジュアルアーツギャアリー)、第36回木村伊兵衛写真賞受賞作品展「きずな」(東京/コニカミノルタプラザ)、Olympus「She Has A“PEN”」写真展「answer song」(東京/オリンパスギャラリー東京・大阪/オリンパスプラザ)、個展「神之秘」(鹿児島/Gallery KoEN)、冠嶽アートフェスタ「神之秘」(鹿児島)。現在、ナチュラルフォト(一般の方を対象としたポートレート撮影)も行っている。
お問合せ:shimozono115@gmail.com


松田朋春(プランナー・グッドアイデア株式会社 代表取締役)
http://goodidea.co.jp
地域開発やイベント、商品開発、広告企画などに携わる。2005年愛・地球博公式アートプログラムでプランニング担当。「ランデヴー プロジェクト」「ダイアログ・イン・ザ・ダーク・タオル」でグッドデザイン賞、「ピノキオプロジェクト」「はっぱっぱ体操」でキッズデザイン賞、グッドデザイン賞受賞。著書「ワークショップ-偶然をデザインする技術」(共著・宣伝会議)、「わたしの犬退治」(新風舍)。立教大学観光学部非常勤講師。株式会社 ワコールアートセンター/スパイラル チーフプランナー。典型プロジェクト代表 詩を本から開放するプロジェクトoblaat(オブラート)世話人。2013年よりグッドデザイン賞審査委員。

フォトグラファー:下薗詠子 コンセプトプランニング:松田朋春
モデル:otoca、神野真帆、栫 さくら、熊丸恵、coco、コジマサトコ、鮫島由佳理、DJ matsuri、NAO、yumica、山元彩子、若松蘭子


撮影場所:有村海岸・有村溶岩採石場跡地・・桜岳陶芸(鹿児島市) / 荒川エリア(いちき串木野市) / 喫茶風の丘(日置市) / 吹上浜エリア(いちき串木野市・日置市・ 南さつま市)

アートディレクション&デザイン:冨永功太郎(冨永デザイン)
スタイリスト:Kitchan(スタジオワーク) ヘアメイク:Shiraco(スタジオワーク
コピー:小谷さらさ

撮影協力:NPO法人桜島ミュージアム桜島焼窯元 桜岳陶芸、喫茶 風の丘、株式会社 清友DJ matsuri、東郷さくら

鹿児島市街地の公共掲示板

地域×アートシリーズ「人、祭、花尾神社」
写真・映像:リチャード・バイヤーズ

電子書籍公開 2013年12月7日 
写真展示 2013年11月5日〜2014年2月2日
映像上映会+電子書籍出版記念トーク 2013年12月7日

主催 文化薫る地域の魅力づくり実行委員会、鹿児島市、鹿児島市教育委員会 

毎年9月23日、鹿児島市花尾町で行われる「花尾神社 秋の大祭」。地域の4つの伝統芸能と行者行進が奉納される本祭を、オーストラリア出身のリチャード・バイヤーズが記録撮影。「長い時間をかけて受け継がれて来た地域の芸能をいかに後世に残すことができるか」を試み、祭の写真、また踊り手達への取材を通して得た証言(テキスト)を収集。さらに現代の踊り手としてコンテンポラリーダンサーJOUから見た地域の芸能の魅力を加え、電子書籍にまとめた。また、かごしま文化情報センター所内には、バイヤーズの写真を書籍にあわせて立体的に展示、さらに書籍完成には映像を作成し、地元の方々を招いて公開イベントを実施した。

電子書籍「人、祭、花尾神社」
写真:リチャード・バイヤーズ
文章:リチャード・バイヤーズ、JOU、かごしま文化情報センター(KCIC)
http://bccks.jp/bcck/117628/info

Photo:Richard Byers

リチャード・バイヤーズ
http://richardbyers.tk/
1974年オーストラリア・メルボルン生まれ。メディアアーティスト。
シドニーの工業デザイン・コンサルタント企業でクリエイティブ・ディレクターを務めた後、5年前にフリーのアーティストとして活動を開始。近年は欧州、日本、豪州の各地を拠点とする。写真、線画、インタラクティブな映像インスタレーション等、様々な表現方法を用いて作品を制作。音楽家、舞踏家等、ジャンルを超えたコラボレーションも多い。2012年、在オーストラリア大使の招聘でリヒテンシュタインのシャーンにてライト・パフォーマンス「sound.transmission.light」を発表。また、のべ5ヶ月を宮城県石巻市で過ごしアートプロジェクトを展開。2013年、石巻市の日和アートセンターにて個展「光とつくる」を開催。2013年12月には、かごしま県民交流センターで、鹿児島在住のピアニストとのコラボレーションも行った。

所内 映像展示風景
所内 写真展示風景
「人、祭、花尾神社」紙本

KCIC ワークショップ

地域の古着ワークショップ
「わたしのきおく、あなたのきおく、まちのきおく」
2013年9月〜2014年2月

写真地図ワークショップ
「ニュー名所地図づくり」
2013年9月〜2014年2月

主催 文化薫る地域の魅力づくり実行委員会、鹿児島市、鹿児島市教育委員会 

アーティスト平川渚による二種類のプログラムを毎月実施。
鹿児島に住む人々の古着を用いて一つの作品を共同制作する「地域の古着ワークショップ“わたしのきおく、あなたのきおく、まちのきおく”」と、新しい視点で街を切りとり、新編集の地図をつくる「写真地図ワークショップ“ニュー名所地図づくり”」を行った。

平川渚 (ひらかわなぎさ)
http://www.nagisahirakawa.net
糸やハサミを入れた布を一定期間かけて空間に編みこんでいく作品や、身近な素材を模様のように切り出した写真作品等を制作。個人の制作と並行してさまざまな年代の人と行うワークショップを学校・美術館・映画館・駅構内などで行っている。2013年鹿児島に移住。

地域の古着ワークショップ
「わたしのきおく、あなたのきおく、まちのきおく」
2013年9月28日、11月16日、1月18日、2014年2月8日実施


個人の記憶や思い出を含んだ古着。参加者が持ち寄ったそれらを素材とし、作品づくりを行った。紐状にハサミを入れた古着で、大きなフレームに絵を描くように織り込み、最終的にたくさんの人の記憶が交差したひとつの作品ができあがった。

写真地図ワークショップ
「ニュー名所地図づくり」


参加者と共にKCIC周辺のエリアを歩き、各自の視点で街の「名所」を発見してデジタルカメラで撮影し、それらの写真を盛り込んだ地図を作成。新編集のエリア案内マップとして配布した。

実施エリア:
2013年9月29日 みなと大通り公園沿い、10月20日 易居町本通り、12月15日 鹿児島駅前~小川町、2014年2月2日 名山町

KCIC WORKSHOP スピンオフ企画
「東川隆太郎さんとニュー名所を探して歩く」

2014年4月12日
会場:市民アートギャラリー、易居町、名山町
主催:文化薫る地域の魅力づくり実行委員会、鹿児島市

2013年9月~2014年2月まで開催した「写真地図ワークショップ“ニュー名所地図づくり”」のスピンオフ企画。これまでのワークショップで参加者が発見した易居町・名山町の“ニュー名所”を、「NPO法人 まちづくり地域フォーラム・かごしま探検の会」代表の東川隆太郎氏が街歩きしながら解説。過去のワークショップ参加者に、東川氏が継続して行っている街歩きイベントの愛好者も加わり、これまでになく幅広い層が集まった。KCIC WORKSHOPで展開してきたアートの側面に、東川氏の解説によって歴史的な意味が付加され、より深みのある長期ワークショップの締めくくりとなる。(この企画の模様はUstream「KCIC-TV」にて配信した。)




東川隆太郎(ひがしかわりゅうたろう)
NPO法人まちづくり地域フォーラム・かごしま探検の会代表理事。歴史、温泉、音楽、映画も好きな、自他ともに認める「まち歩き」のプロ。まち歩きを地域資源の情報発信につなげたり、新たな価値づけとして提唱している「世間遺産」風にまちを眺めたりしながら、毎日どこかを散策している。

上:カメラを持って“ニュー名所”を探す参加者たち 下:解説をする東川隆太郎氏

松田朋春セミナー


「国内外のアートプロジェクトの事例」2013年2月3日
会場:鹿児島市教育総合センター


「イベントを育てる」 2013年9月3日
「街を素材にするアート」2013年10月4日
会場:かごしま文化情報センター(KCIC)


国内で様々なアートプロジェクトを手掛けるプランナー 松田朋春を招いて、3つのセミナーを開催。
2013年2月、「国内外のアートプロジェクトの事例」では、千葉県柏市の街づくり拠点「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)を紹介。また、「イベントを育てる」では、松田氏が発起人の一人となり、2011年にはじめた神奈川県横浜市のスマートイルミネーションについて、立ち上げから、東日本大震災を経てイベントをいかに作り上げて行ったか、また、「街を素材にするアート」では、イギリスのアーティスト・アントニー・ゴームリーの「one and other」など、海外の事例を基に、街を舞台に自由な発想で行われるアートプロジェクトを紹介し、これらを例に、鹿児島でアートを通したプロジェクトの可能性を話し合った。

松田朋春 プロフィールはOPENING POSTER PROJECT 下薗詠子×松田朋春 写真作品「美人島」

BOX-ROOM Gallery

2013年8月〜(常設展示)
会場:かごしま文化情報センター(KCIC)


KCIC所内にあるボックス状の棚の一マスずつをミニギャラリーに見立て、KCICリコメンドの作家の作品を紹介するスペース。2014年2月の時点で県内外の6組7作品が入居しており、絵画、写真、陶器、映像と、さまざまなジャンルの作品が並ぶ。


2014年2月時点入居作家
01根本修平+第一工業大学根本研究室 02根本修平+第一工業大学根本研究室
03さめしまことえ 04永里関人 05川瀬浩介 06松尾晴代 07リチャード・バイヤーズ  

01 「下薗詠子展示案」
作家名 根本修平+第一工業大学根本研究室

入居期間 2013年8月9日~

根本修平(ねもとしゅうへい) 建築家・第一工業大学工学部建築デザイン学科講師/SN2スタジオ
1975年東京都生まれ、1999年東京電機大学大学院建築学専攻博士前期課程修了、2004年九州芸術工科大学大学院芸術工学研究科生活環境専攻博士後期課程単位取得満期退学、2004年NKSアーキテクツ、2005年SN2スタジオ設立、2005年東京電機大学理工学部建築都市環境学系助手、2011年〜第一工業大学工学部建築デザイン学科講師。
受賞)「Floating Flop」Designs for Amphibious Living、第3位、2000年、「スポンチ」アートベンチング・プロポーザル・コンペティション、優秀賞、2002年、「FRPFabric Copse」大地の芸術祭、越後妻有アートトリエンナーレ2009出展、他多数

02 「KCIC整備案A-C」
作家名 根本修平+第一工業大学根本研究室

入居期間 2013年8月9日~

プロフィール 前ページ参照

03 「さめしまことえ(浦田琴恵)アーカイブ」
作家名 さめしまことえ

入居期間 2013年8月10日~

1979年静岡市生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒。2007年に東京から桜島に移住。
桜島をテーマにしたインスタレーションや絵画制作を行っている。
旧名「浦田琴恵」名義で、桜島の廃業した温泉ホテルや、古い下宿アパートを使ったアートプロジェクトの企画、九州のアートスペースをまわる旅のプロジェクト、コスプレ写真など様々な活動を行なう。
現在は夫と3歳の双子と共に鹿児島市に住む。
http://kotoe.ifdef.jp


04 「イマゴロキヅイタ」
作家名 永里関人

入居期間 2013年8月11日~

1978年鹿児島市生まれ、大分県立芸術文化短期大学卒業
子供の頃住んでいた種子島では家の中をカニが横切ります。そういう作品を作りたいと思っています。
鹿児島市在住 ギャラリーmoa主宰

05 「Scene of Light: AEON Taipei.2009.OOO 2011 Pray for Japan Edition」
作家名 川瀬浩介

入居期間 2013年8月21日~

作曲家・美術家。1970 年 京都生まれ 東京育ち。
2002 年、光のための音楽《Long Autumn Sweet Thing》を発表し、デビュー。
2005 年、愛知万博で発表された映像作品《ポピュラスケープ》の音楽を担当。2010 年、第13 回文化庁メディア芸術祭に、代表作《ベアリング・グロッケン II》が出展され話題に。2012年、東京スカイツリーで催されたイルミネーションイベントにて最新作《光の音色~a tone of light》を発表。
http://www.kawasekohske.info


06 「SMALL STORY OF KAGOSHIMA」
作家名 松尾晴代

入居期間 2013年8月21日~

2005年 鹿児島県工業試験センターデザイン工芸科修了。
2008年 旧姶良町にてコリス工房として独立。陶器制作。作家名義でオブジェやインスタレーション作品を制作。
各地でのクラフトマーケットやアートイベントに出展。
現在は姶良市蒲生町に拠点を置く。

07 「石巻 Ishinomaki 2012-2013 Culture and Art Documentary
文化とアートドキュメンタリー映画」
作家名 Richard Byers リチャード・バイヤーズ

入居期間 2013年9月10日~

1974年豪州メルボルン生まれ。ニューメディアアーティスト。シドニーの工業デザイン・コンサルタント企業でクリエイティブ・ディレクターを務めた後、5年前にフリーのアーティストとして活動を開始。近年は欧州、日本、豪州の各地を拠点とする。写真、線画、インタラクティブな映像インスタレーション等、様々な表現方法を用いて作品を制作。音楽家、ダンサー等、ジャンルを超えたコラボレーションも多い。2012年、在オーストラリア大使の招聘でリヒテンシュタインのシャーンにてライト・パフォーマンス「sound.transmission.light」を発表。また、のべ5ヶ月を宮城県石巻市で過ごしアートプロジェクトを展開。2013年、石巻市の日和アートセンターにて個展「光とつくる」を開催。

西俣の八丁杵踊り

夏のふるさとコンサート in 郡山

2013年8月31日
会場:鹿児島市立花尾小学校体育館


主催 文化薫る地域の魅力づくり実行委員会・鹿児島市・鹿児島市教育委員会 


出演:大平の獅子舞、西俣の八丁杵踊り、岩戸の疱瘡踊り、花尾小学校全校児童(合唱)、南方小学校4~6年生(竹太鼓)、こおりやま太鼓、Sweet pp、R&R スティールオーケストラ

南方小学校・竹太鼓

花尾小学校区にある花尾神社では、例年9月に「秋の大祭」が行われ、郷土芸能が奉納される。また、小学校には文化財少年団があり、校区一体となって郷土芸能の保存・伝承に熱心に取り組んでいる地域である。
当日は、花尾小学校区及びその周辺で永年伝えられてきた郷土芸能の披露に加え、地元小学生の演奏や、ゲスト出演の音楽団体の演奏が会場を盛り上げ、地域内外からの来場者に楽しんでいただいた。運営には、地元の多大なご協力を得、会場の舞台袖には、地元の大平地区自治会の方々が当日朝に切り出してきた孟宗竹と、手作りの竹かべを設置。それらに照明を当てる演出で、地元の竹をふんだんに使った幻想的な雰囲気を醸し出した。また、同自治会女性部の皆さんは、地元食材を使用した手作りの美味しいお弁当で、地域外からの出演者等をもてなした。このように地域と一体となった文化づくりを通して当地域が持つ魅力を再発見することのできる催しであった。

音とあかりの散歩道

2013年10月19日
会場 鹿児島市美術館前庭、かごしま近代文学館・メルヘン館中庭、照国公園、探勝園 


主催:文化薫る地域の魅力づくり実行委員会、鹿児島市、鹿児島市教育委員会
協力:てるくに宮前通り会

鹿児島市立美術館、かごしま近代文学館・メルヘン館、照国公園、探勝園のある鹿児島市の美しい文化ゾーンを中心に、音楽家、伝統芸能の担い手約17組が集い、街を多彩な音楽と柔らかい光が包み込んだ野外イベント。各会場の運営には、ボランティアや鹿児島大学、鹿児島国際大学、志學館大学の生徒が、また、あかりの制作には第一工業大学 建築デザイン学科の生徒約20名が参加した。

出演
山下小学校器楽部、THE SONGBIRD OF GOSPEL、声楽アンサンブル“カプリス”、アート・オブ・ウインズ、パスカル鳳空フィーニックス、濱田貴志&桐めぐみ、コトコカ、Happy Trombones、4cornale♪、夏雲、アンサンブル シティエラ弦楽四重奏団、生駒網雄、Stream Quintet、福田井山+久保禎、正調おはら節保存会、うさこりあん、尾崎佳奈子トリオ

インスタレーション制作
根本修平+第一工業大学根本研究室+KCIC アートディビジョン

photograph copyright 2013 中村一平/リアライズ(次ページ含む)

コスモス祭り in 喜入前之浜町
〜ふるさとの祭りと音楽〜

11月4日
鹿児島市立前之浜小学校近く貝底川中流一帯(喜入前之浜町)


主催 前之浜むらおこし実行委員会、文化薫る地域の魅力づくり実行委員会・鹿児島市・鹿児島市教育委員会


前之浜小学校周辺に咲く約300万本のコスモス畑一帯を会場とした、民俗芸能と音楽のイベント。
コスモスが見頃を迎えるこの時期に、例年コスモス祭りを地域一体となって開催してきており、今回で5回目を数えた。コスモスは、前之浜小学校周辺に広がる約3ヘクタールの田んぼに、夏の稲刈りが終わったあと、地元の方々が種をまいて育てた。
ステージでは、地元の前之浜チョイのチョイ踊りや、小中学生等の出演に加え、今回は内容を充実させ地域間の交流につなげるため、地域外から中名下棒踊り、広木虚無僧踊り、よしだポップスオーケストラを迎え、会場を盛り上げた。
会場づくりでは、咲き誇るコスモスが背景に広がるよう、コスモス畑の中にステージを設けた。また、地元のご協力により、舞台袖には刈り取った藁の掛け干しを、会場各所には藁小積みやユニークな案山子を設置した。
なつかしい田園風景の中で、地域内外の多彩な文化を感じていただけるイベントとなった。


出演:前之浜保育園、前之浜小学校、喜入中学校吹奏楽部、よしだポップスオーケストラ、前之浜チョイのチョイ踊り、中名下棒踊り、広木虚無僧踊り、ニコニコ太鼓など

前之浜小学校の合奏
広木虚無僧踊り
前之浜チョイのチョイ踊り

曽谷朝絵
「光のワークショップ」

2013年11月23日(土)、24日(日)
アミュプラザ 鹿児島、山形屋、マルヤガーデンズ(鹿児島市)

主催 アミュプラザ鹿児島、山形屋、マルヤガーデンズ
企画協力 かごしま文化情報センター(KCIC)


現代アーティスト 曽谷朝絵による光の森を、街中の施設に出現させるワークショップ。

アミュプラザ鹿児島、山形屋、マルヤガーデンズがこの冬、親子で楽しめるワークショップ「まちdeさんかんび」の一環として、3つの施設に、光によって色が変わるフィルムを切り貼りし、参加者でガラス面いっぱいに“光の森”を作り上げた。
講師の曽谷は、絵画とインスタレーションの2つの手法を展開し、光と色彩に満ちあふれ、ダイナミックで現代的な感性溢れる作品を制作するアーティスト。作品完成後の夕暮れには、作品に懐中電灯で光をあて、反射や色の変化を楽しんだ。
連休中のまちなかで親子がアートを楽しむ時間を創出した。

フィルムで“光の森”をつくる、曽谷さん本人によるデモンストレーション(山形屋)
光るフィルムの切り出しをする。(山形屋)

曽谷朝絵(そやあさえ)
http://www.morning-picture.com/
2006年東京藝術大学大学院にて博士(美術)取得。01年『第6回昭和シェル石油現代美術賞展』グランプリ、02年『VOCA展2002』VOCA賞、13年『神奈川文化賞 未来賞』、『横浜文化賞 文化•芸術奨励賞』他受賞多数。絵画やインスタレーション、映像とジャンルを超えて活動する。07年「Prism」西村画廊、10年「鳴る色」資生堂ギャラリー、「Swim」おぶせミュージアム、13年「曽谷朝絵展•宙色」水戸芸術館、などで個展。府中市美術館、水戸芸術館、セゾン現代美術館、PYO Gallery(北京)、高松市美術館などでグループ展、他発表多数。2014年2月より文化庁海外派遣芸術研修員としてニューヨークに滞在中。

切り出したフィルムを繋ぎ合わせて森を作る。(アミュプラザ鹿児島)
マルヤガーデンズの屋上庭園でガラス一面に飾られた光るフィルム。

コラム

コラム1:

登場人物は誰か

小田久美子(アーツ前橋 学芸員)

アーツ前橋 外観  Photo:Shinya Kigure

 文化薫る地域の魅力づくりプランの構想に微力ながら関わらせていただいた際に、現在のかごしま文化情報センター(KCIC)—つまり、拠点をもつことの意義が議論された。文化の発信拠点がまちの中に存在することは、市民にとってどのようなメリットがあるのだろう。このことについて、筆者が現在所属しているアーツ前橋のことも触れながら再考したい。

 アーツ前橋は、群馬県前橋市の中心市街地に2013年10月にグランドオープンした芸術文化の発信拠点。建物は新築ではなく、デパートだったものをコンバージョン(転換)して、元の建物の記憶を感じさせながら新しい機能をもつものに生まれ変わった。館の活動コンセプトは「創造的であること」、「みんなで共有すること」、「対話的であること」。展覧会やイベント等の館内事業の他に、館外の事業として地域アートプロジェクトを行っている。
開館までにプレイベントを積み重ねた結果、アーツ前橋がオープンする前後に、地元の方が口にしていた印象的な言葉のひとつが「登場人物が増えた」。つまり、拠点とそこで行われる事業を通して、新たな雇用が生まれるだけでなく、イベントに参加したり自ら活動したりする人たちが増え、交流と情報の交換が生み出されたといえるだろう。

 情報が集まるところには、人が集まる。逆もまた然り。充実した展示空間をもたなくても、活動する舞台はまちの中にいくらでもある。情報へアクセスできれば、面白いコト・モノ・ヒトに、地域の日常の中で出会う事が出来るのだ。郊外ではなく、人の流れのあるまちの中にこうした拠点があることは、活動や事業が活発になる追い風となる。
 個人的な感覚だが、近年、鹿児島では美術館や文化施設以外での展覧会やイベントが増えてきた。しかも、発信者は美術の専門家ばかりではない。文化や芸術の活動をする層が拡大していると言えるだろう。私はまずはその、やりたい、面白い事をしたい、楽しみたいという「当事者としての態度と行動」が大切だと思っている。文化芸術は、専門家が先端を突き進め価値を更新しながら築きあげる一角の他にも、広大な地平がある。作る人の他に、見る人や制作や発表をサポートする人、内容を言葉にして伝達する人がいなくては、コミュニケーションや価値は生み出されず、広がらない。
 もし、声を発したり手を貸したりする事を美術の専門知識の無さから遠慮する人がいたとしたら、自分のこれまでの経験と正直な気持ちを信じて、照らし合わせてみることからはじめてほしい。それが当事者になるという事、表現する事のはじまりだ。


 2013年夏、街角の掲示板にKCICのオープンを知らせるポスターが掲出されていたのを記憶している方も多いのではないだろうか。この下薗詠子×松田朋春 写真作品「美人島」は、ポスターと合わせてKCICでの展示、フリーペーパーやウェブなどの媒体でも展開された。その他にも、拠点で情報を収集して発信する事と合わせて、活動を展示室だけではなく、地域や日常を舞台に繰り広げている。
 そんな風に、地域に、日常に、その中のあなたに、KCICは少しずつ染み出して、すべり込んでくる。

 美術館やギャラリーの中ではなく、地域や日常の中でそうした出来事を作っていく時、芸術文化以外の力が必要不可欠である。もし、そんな力を自分の中に見つける事が出来たら、是非当事者となって関わってほしい。渡せるものと受け取るものが自分の眼前や手の中で交換される事で、感情が動き、ものの見方が変わる瞬間があるだろう。

 その時、あなたが登場人物になる。

アーツ前橋 地域アートプロジェクト「前橋食堂」ブックレット刊行記念イベントの様子

小田久美子(おだくみこ)
1985年生まれ。姶良市出身。鹿児島県霧島アートの森、鹿児島市立美術館職員、NPO法人 PandAコーディネーター、及び、鹿児島市の文化薫る地域の魅力づくり実行委員会美術部会員を経て、アーツ前橋学芸員。
現職では、主に教育普及や館外で行う地域アートプロジェクト事業に携わる。

コラム2:

KCICと協働して感じたこと

市村良平(マルヤガーデンズ コーディネーター)

曽谷朝絵「光のワークショップ」(「まちdeさんかんび」より)

 かごしま文化情報センター(以下、KCIC)とはじめて協働したのは、2013年11月に開催した「まちdeさんかんび」というイベントの時でした。曽谷朝絵さんというアーティストと参加者全員でアート作品を作るという内容が盛り込まれていて、大人から子供までみんなで、キラキラとした特殊なフィルムをショーウィンドウなど商業施設の大きなガラス面に貼って作品にしていくワークショップ。開催した結果としては主催者と参加者に一体感と達成感を与えてくれる素敵な場になり、できた作品は太陽や照明の光で様々な表情を見せてくれるものになりました。

KCICに声をかけさせてもらったのは、鹿児島市の中心市街地にある商業施設3館(アミュプラザ鹿児島、山形屋、マルヤガーデンズ)が共同で「街に出て来てもらうきっかけをつくろう」という目的のイベント(後の「まちdeさんかんび」)を考えている時でした。企画当初から親子向けのイベントにしようということで「ワークショップをしよう」ということだけが決まっていましたが、複数の商業施設が同時期にワークショップをするということだけでは、どこか話題性に欠けていると感じていました。そんな折に「参加者の人たちがみんなでアート作品をつくるワークショップを各商業施設が同じやり方で開催したら面白いのではないか」という発想に至り、以前から個人的に親交があり、アートなどの文化に造詣の深いKCICに声をかけさせてもらいました。

曽谷朝絵「光のワークショップ」(「まちdeさんかんび」より)

 予備知識やノウハウがなかったので、当初は「アートはよくわからないからイベントをやるのは難しいんじゃないか?」とか「アーティストのギャランティはいくら払えばいいの?」とか「壁は破壊したりしないよね?」など、アートイベントへの心配事が頭の中を過りました。
そんな不安を解消してくれたのがKCICで、主催者側の条件や要望をしっかりとヒアリングしてくれた上で、アーティストとの間を取り持ってくれました。その他にも当日のイベントの流れなども一緒に考えてくれ、ノウハウのない私たちをしっかりサポートしてくれて、主催者側としては心強いなと思っていました。
 KCICとの協働を通して私が感じたこととしては、「文化的なイベントを開催することへのハードルが少し低くなったな」ということが一番にあります。開催することへの難しさが軽減されるという意味ではなく、サポートしてくれる組織があるというのはイベントを開催する側にとってはとても心強いということです。
「まちdeさんかんび」のように街のにぎわいや集客を目的にアートや伝統芸能、音楽などの文化的なイベントを行ないたいと思っている民間団体は多くあると思います。今後も様々な文化的なイベントが開催されるだろうと思います。KCICにはそのサポート役として積極的にイベントに関わってもらい、活躍してほしいと個人的に思っています。 そして文化度の高いイベントが街に増えていくことを期待しています。

マルヤガーデンズ外観

市村良平(いちむらりょうへい)
1986年生まれ。島根県益田市出身。鹿児島大学工学部建築学科を卒業後、2011年4月よりマルヤガーデンズ(株式会社 丸屋)のイベントスペースである「ガーデン」のコーディネーターとして、数々のイベントの企画・制作を担当する。

コラム3:

鹿児島で新しい活動をつくらせてくれぇ~!

藤 浩志(美術作家 十和田市現代美術館副館長)

 1989年東京の都市計画事務所で働いていた頃、鹿児島の交通局電停前にある実家を改装し、Media garden「イイスペイス」をつくった。入り口に水の流れをつくり、いつのまにか金魚が泳ぎはじめ、入ってすぐ右側の小部屋を物販のコーナーとし、そこで販売する商品なども作った。当時は夢やエネルギーが溢れ、やりたいことがたくさんあったなぁ。
 一段上がったコンクリート床のフロアは中庭の緑に面し一面大きなガラス張りの空間となっていて、そこに世界地図の5大陸を象徴する大小さまざまな形のテーブルを制作し、京都からイノダコーヒーを取り寄せ、カフェとして営業をはじめた。カフェでは展覧会を行ったり、ライブイベントやパーティ、パフォーマンスなどを行ったり、様々な表現の場として利用され、そこを舞台とした小説なども生まれ、鹿児島で活動するいろいろな人の出会いの場にもなっていた。

イイスペイス内観

 そこから歩いて5分のところにある子どものころからの遊び場、甲突川にかかる5連の石橋「武之橋」を活動の場にできないかと妄想し、桜島や数多くある離島や海岸線、鹿児島県内の複雑で多様な自然環境をリサーチして、何か活動が発生する状況をつくりたいと動き始めていた。当時は文化ジャーナル鹿児島という貴重なメディアがあり、民俗学や社会学的視点を持つ研究者、学者や詩人も多く執筆し、鹿児島を知り、深めるには貴重な存在で、それを通して様々な人がネットワークを構築していて、僕自身の活動も深まるだろうと期待が大きかった。しかし…1993年8月6日鹿児島市を水害が襲った。
 様々な議論の末、水害対策に伴う河川の拡幅工事と5大石橋の撤去という決断はその後の様々な人の動きに亀裂をつくり、保存運動や反対活動等多くの人が無償の労力を尽くしたものの、大きな壁は揺るがず、4年間重ねてきた活動を断念し鹿児島を離れなければならないと考えるようになった。このことは、僕にとっては地域社会の現実を知る大きな学びと経験となったが、僕自身の活動そのものが、関係する多くの人に迷惑をかけていることに気づき、鹿児島を九州という広い視点から捉えなおそうと方向転換し、福岡に移動した。とにかく力不足を自覚していた。
 それから20年が経過し、地域を取り巻く状況はずいぶんと変化した。当時は窮屈そうに見えたアートシステムも多様化し随分と開かれてきた。地域社会はデジタルメディアでネットワーク化し、多くの人が行き来する交通インフラも整備され、LCCという離れ業も登場し、民俗学、社会学、地質学、経済学などの視点を持ち活動を行う研究者やパフォーマーや創作家あるいは新しい活動を作り出そうとする柔らかいエネルギーを持つ人達が鹿児島という地を拠点として動き始めている。そしてそれを阻害する大きな重石は以前よりずいぶんと軽くなったように思う。
 少なくとも鹿児島のいろいろな地域に活動の拠点も増え、アートプロジェクトなどの開かれた新しいシステムもそれぞれの地域で定着しつつある。そしてそれらをネットワークするKCICのようなシステムも構築され始めている。全く別の現場で新しい形のコーディネーターやキュレイター、企画者等が様々なメディアを利用し動き始め、新しい活動を作り始めている。面白くなってきた。
 今現在の僕自身の興味は、鹿児島と青森の類似性から九州と東北全体を通して捉えなおすことにある。周縁でありつつ北と南の玄関であるという太古の昔からの遺伝子の流れに興味を持ち、北の視点を持ちつつ奄美大島や南西諸島の島々に刻まれた「なにものか」に向かい合う表現活動に近づいてゆきたいと思っている。各地のアートプロジェクトと連携しながら…しかし、チンタラしていたら時間がだんだんなくなってきた。どうしよう。
 それと僕の課題はイイスペイスの跡地に作ったイイテラス(1998年完成)の活用。借金を払い終わる35年後の2033年ぐらいからアートセンターとして活用することをイメージして作った建物だが、今年で16年ほど経過し、ぼちぼち半分。そろそろ助走しなにかアプローチし始めないと僕自身ボケて何もできないかもしれないなぁ…との危機感。だれか一緒に運営考える人いませんかねぇ。

現在のイイテラス。鹿児島市路面電車「交通局前」下車徒歩0分。


藤浩志(ふじひろし)
http://geco.jp
1960年鹿児島生まれ。美術作家。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了後、パプアニューギニア国立芸術学校講師、都市計画事務所勤務を経て藤浩志企画制作室を設立。「ヤセ犬の散歩」「お米のカエル物語」「Vinyl Plastics Connection」「Kaekko」「藤島八十郎をつくる」等、各地で対話と地域実験の場を作る美術類のデモンストレーションを実践。

KCIC アニュアル レポート 01

2014年4月21日 発行 第2版

編集・執筆:早川由美子、平川渚、四元朝子(KCIC)、鹿児島市文化課

編集補助:平野トシミ、秋葉俊宏(KCIC)

記録写真:宮園めぐみ、砂田光紀

表紙デザイン:冨永デザイン
テキスト協力:小谷さらさ

発行:KCIC BOOKS

bb_B_00119218
bcck: http://bccks.jp/bcck/00119218/info
user: http://bccks.jp/user/126254
format:#002y

Powered by BCCKS

株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp

かごしま文化情報センター(KCIC)

jacket