地下高速を、トンネル内の壁面に付けられた照明にハンドルを沿わせながら、みずきの運転する車が歓楽街にあるみなみの店に向っている。隣りの車線を磨かれた自動車が可視光を反射させ、車に映り込んだ光の筋に、一瞬だけ別世界へ連れ去られる気がして無意識に瞼が動く。
過ぎ去る車は何処に走り去っていくのか、そう思った瞬間に眩しいシルエットは波打つ海に写り込む都会の寂寥になり、そのうちの輝きの一粒が星空の幻影に思えた。
地上に上がる為に路面に描かれたマークを確認して、身体になじんでいた車線を代え、視線の先にあるメーターが大きく振れて脈動の循環から外れると、一気に地上に流れる体感域に戻っていく。視線の先に見える路面を走る車の軌跡を見つめて、そこに進んでいた時間域にハンドルを合わせた。中心街へ向う人通りが多く、周囲の視線を浴びながら、これから仕事に向うんだろう女性が艶美に歩いている。
横断歩道の手前で信号が代わるのを待っていると、薄地で丈の短いコートを着た女性が振り向いた気がして、この街の望みを象徴するような切ない心地よさが通りすぎた。
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