昭和43年東北の田舎町から幸運に恵まれて東大に入学した室井は、ひょんなことからカトリックの修道会が経営する大学生寮で生活することになった。
そこでカナダ人修道士の舎監ベランと出会う。ベランは戦時中、敵国人として日本国内の強制収容所で過酷な抑留生活を送った経歴の持ち主だが底抜けに明るく包容力のある暖かな人柄で寮生の絶大な信望を得ていた。室井は忽ちその人格に魅せられ傾倒するようになる。パスカルの「パンセ」によって人生問題に開眼させられていた室井はベランとの個人的な接点を求めてカトリック教理の手ほどきを受けることになり宗教と真正面から向き合うことになる。信者になる気は毛頭無かったが次第にイエス・キリストの教えに魅了されていく。
ベランの手伝いで長野県の青柳に行った時にはベランの半生と信念を聴く機会に恵まれ強い感化を受ける。
入学時から東大は学内紛争で紛糾していたが入学式は何とか実施されたものの、その後、総長による機動隊導入に端を発して全学が騒乱状態に陥り七月ついに駒場も無期限ストに突入してしまう。そんな渦中にあって室井は集団に対する拒絶反応から紛争に対しては肯定とも否定ともつかないあいまいな態度に終始していた。九月には新左翼系活動派が駒場中心部建物のバリケード封鎖を強行する。
ついに室井も遅まきながらクラス連合という新しい組織に加わり活動に参加することとなった。
そんな騒ぎに翻弄されながらも寮食堂の伊達夫妻をはじめクラスメートの荻原、加納等多くの人々との親密な交わりが展開される。
また富士登山、寮が支援している養護施設の海浜キャンプ、寮のオープンハウス、江藤俊哉のクリスマス・チャリティコンサートの実現等に連なることにより貴重な体験を積んでいく。
さまざまな出来事、事件等にも遭遇するが一月には突然転勤によるベランとの別離に見舞われる。
二月にはバリケード封鎖されていた安田講堂が機動隊の強行突破により解放されるに及んで学内紛争は、ようやく終息を迎えることになった。
同じころ突発した食堂のおばさんによる窃盗事件をめぐって室井はベランの後任ボノールに対して激しく反目することとなり煩悶する。
自己の確立を模索しながら彷徨する一大学生の一年間の軌跡を描いた作品である。
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