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しこり 
2012年1月号

装丁 サッカローニ
制作 フリーペーパー『しこり』編集部

   目 次


  連載
  『ランナウェイ』3 藤本諒輔
  『紀州犬ケンジ』3 横田直也

  短編
  『松―まつ―』  長谷川智美
 『分厚い本で頭部を』           宮崎亮馬
  『年賀状ラプソディ』
           吉川浩平

  詩
  『杏露酒に溺れて』            あくた

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連載『ランナウェイ』 
            藤本諒輔

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   3

 ガラス張りのバーは思いの外澄んだ空気でぼくらを迎えた。奥の席で誰かがタバコを吸っている。それはコポコポと音をたてる気泡のようだった。ぼくたちはカウンターに腰掛けて、オムライスとカクテルを注文した。ぼくはこれからのことが不安だった。このまま、忘れたままでお互いはいいんだろうか。店内には女の歌声が流れていた。美しいハープの音色も聴こえた。
 そのオムライスの味をぼくは憶えていない。彼女は酸素を求める金魚のように口をパクパクさせていた。声は聞こえなかった。あるいは本当に出ていなかったのかもしれない。とにかくぼくは上の空で、上の空な自分だけがはっきり鮮明に見えていた。彼女の眼差しは屈折して、ぼくの背景を見ていた。どうやっても目を合わせることができない。彼女は人魚のように微笑み、ネイビーブルーのカクテルを飲んだ。ぼくも合わせて飲んだ。どんどん溺れていった。彼女が少しずつ透明になっていく。
 ぼくは最後の力を振り絞って、出よう、と言った。
「早く出よう」
「どうしたの急に?」
 なんでもない、はやく。逃げなくちゃ。彼女は不思議そうな顔をしたが、ぼくに従ってくれた。代金を支払って、外に出て、秋の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
「どうしたの急に?」
 彼女が同じことを尋ねた。ぼくは正直に、溺れそうだったんだと答えた。彼女は笑って、じゃあ、溺れずにすんでよかったわね、と言った。彼女はすっかり色を取り戻していた。
 それからぼくたちは家に帰って、食べ残したオムライスを惜しみながら二度目の夕食を摂った。彼女の作るオムライスは格別にうまかった。
「バーで食べるよりいいね」
 とぼくは言った。彼女は指についたケチャップを舐めて笑った。
 それから彼女は、わたしね、と話しはじめた。
「わたしね、あなたが思い出すまで何も話さないつもりだったのよ。意地悪かもしれないけれど、それがいいと思ったの」
 ぼくは黙って頷いた。
「だってそうでしょう? なにも思い出せないなんて、ばからしいわ」
「わたしね、今日初めて、生まれて初めて水族館に行ったのよ。気づいた?」
 彼女は目に涙をいっぱい溜めて言った。ぼくはどうしていいかわからずにただ黙っていた。彼女は留めていた髪をほどいて、ごちそうさま、と言い、ドアーを開けて外へ出ていった。荷物は置いたままで、オムライスはまだ半分も残っていた。呼び止めようにも、ぼくは彼女の名前を知らなかったし、なぜ泣いているのか、はっきりとわからなかった。
 やがて彼女が静かに戻ってきて、ごめんなさい、すこし取り乱したわ、と言った。ぼくはうまく笑えなかったが、なんとか「わかるわ」と言った。彼女の美しい白色の頬が緩んだ。外ではけたたましいサイレンが鳴り、止まりなさい、止まりなさいという警察の声も聞こえた。夜は真っ暗で、オムライスの黄色い光沢、そのそばには銀のスプーン。彼女はクリーム色のカーディガンを着ていて、肌は白く、まるで空気のようだ。

   —完—

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連載『紀州犬ケンジ』
            横田直也

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   3

 辿り着いたのは無人の大型倉庫だった。元々は工場だったらしく、錆びた匂いが漂っていた。何か別の匂いをかぎ取ると、ケンジは倉庫の奥に目を凝らした。奥には、数匹の犬たちが、寒さを和らげるように身を寄せ合っていた。
 その倉庫は、地元の野良犬たちの住処だった。そして秋田犬はそこのリーダーで、名をマサルといった。マサルの一存により、ケンジはその場でグループの一員となった。ケンジも悪い気はしなかった。ここにいれば、一匹でいるより楽に食って行けると思ったからだ。性が合わなければ出ていけばいい。ケンジはとりあえずマサルの言うとおり、グループに入ることにした。この時すでにケンジの脳内では、グループ内で完全に孤立し、最終的にグループから締め出される映像が生々しく映し出されていた。
 しかしケンジの予想はいい意味で裏切られた。グループの仲間たちは皆、ケンジに対して優しかった。彼らの優しさに触れ、ケンジは心を開いていった。彼らが皆捨て犬であるという共通点もケンジの心を開く要因となった。
 マサルも同じく捨て犬で、人間に対してただならぬ憎悪を抱いている。しかし彼は同じ境遇の仲間には優しく、それゆえに仲間達から尊敬されていた。マサルは野良犬と化した捨て犬たちを集め、仲間と協力し合って生きてきた。そしていつからか、マサルの考え方が、グループの考え方として反映されるようになり、自然と彼がリーダーの座に収まった。
 ケンジはそこで生活しているうちに、マサルに対して尊敬に近い感情が芽生えていることに気付いた。彼の優れたカリスマ性、そして彼も飼い主に理不尽な理由で捨てられた過去があることも、それに拍車をかけた。
 それがマサオに通じたのか、彼はケンジに様々な生きるすべを叩き込んだ。餌の調達、暖の取り方、そして群れを統率するための心得。ケンジはマサルの教えを丁寧に自分のものにしていった。
 そうしているうちに、あっという間に三か月が過ぎた。

「探しものは何ですか見つけにくいものですか」
 雨が降りしきる住宅街。ケンジとマサルは、二匹で今晩の食事を探していた。マサルはごみ袋をくわえた顔を、後ろのケンジに向けた。
「ケンジ、そっちの調子はどうだ」
「今日は駄目だ。やっぱり雨の日は調子が狂う」
 言いながらケンジは自分のゴミ袋の中身を確認した。やはり十分な量とは言えない。しかし、それはマサルの方も同じだった。雨の日は晴れの日よりも鼻が餌を探知しにくくなる。
 二手に分かれよう、とマサルが提案した。ケンジは了解し、川沿いの土手を散策することにした。土手の各所に設置されているゴミ箱(仲間たちは「宝箱」と呼んでいた)を一つずつ調べていく。三つ目のゴミ箱に近づくと、ケンジの鼻が餌の匂いを探知した。ごみ箱によじ登り、中を確認する。中にはシャケ弁の食べ残しが放り込まれていた。
 ゴクリ
 雨の中、自分の生唾を飲む音だけが聞こえた。グループの掟として、見つけた食事は倉庫に持ち帰るまで、手をつけてはならないことになっている。ケンジは無意識に周囲の様子を確認した。マサルの姿は、ない。ケンジは素早く頭を突っ込んで、シャケ弁をくわえ取った。
 ―やった!
 すると近くからゴン、と何かがぶつかる音がした。ケンジの心臓がピキリ、と音を立てて氷結した。
 ―まままま、まさか、バレたのか? いや大丈夫だ、まだ食ったわけじゃない。
 恐る恐る周りを見渡してみる。マサルはいなかった。ケンジは安心して溜め息をついた。
 ―なんだ気のせいか驚かせるな。危うく小便ちびりそうになったじゃないか……
 するとまたゴン、と鈍い音が鳴った。ケンジの股間がヒュン、となった。音の出どころは足元……ゴミ箱の裏。なんぞなんぞ。
 ケンジは裏に回り込み、慎重に覗いた。見えたのは大きな黒い塊だった。なんぞこれ?
よく見ると、そこには真っ黒いシェパードがぐったりと横たわっていた。
 ―死んでるのか?
 ケンジは頭をシェパードの身体に近づけた。息はしている。しかしだいぶ弱っているようだ。
「大丈夫か」
 シェパードは薄く目を開け、何を言うわけでもなく、ただ一点を凝視している。ケンジはその目線が、自分のくわえているシャケ弁に注がれていることに気付いた。
「腹が減ってるのか?」
 ケンジの問いにシェパードは力なく頷いた。その瞬間、シェパードの姿が、数か月前の自分の姿と重なった。気付くと、ケンジはシャケ弁をシェパードの口元に置いていた。シェパードはそれをすぐに平らげると、ゆっくりと身を起こしながらつぶやいた。
「あなたが神か?」
「ケンジ! そっちの宝箱はどうだった?」
 ケンジはハッと、後ろを振り返った。マサル。彼はケンジともう一匹の見知らぬ犬の姿を認めると、足早に駆け寄ってきた。
「マサルいいところに」
「どした?」
「いやこいつがここに」
「なして?」
「なして?言われても」
「警察犬か」
「え、そうなのこいつ」
「そうなの」
「そうなんですよ実は」
 警察犬が急に割り込んだ。ケンジは少しびっくりした。
 ―こいつ、喋れたのか。いや喋れて当然か。
 ケンジは警察犬が喋ったことに多少違和感を覚えたが、別に喋ってはならないという決まりも無いので、いいかと思った。ケンジは彼に尋ねた。
「警察犬、名前は?」
「タロウです」
「マサルです」
「ケンジです」
「ケンジ、タロウを倉庫に連れて行ってやれ。俺はもう少し探してから戻る」
 マサルは、ケンジにタロウを任せ、遠くに去っていった。ケンジはマサルの姿を見送ると、タロウを連れ、倉庫まで戻った。その道すがら、タロウは自分の生い立ちを淡々と語った。警察で生まれ、警察犬として育てられたこと。最近、新しく担当になった訓練士が最悪で、虐待を受け自力で逃げ出してきたこと。珍しい理由だったが、捨てられたという点においてはケンジやマサルたちと何ら変わりない。
 倉庫に到着し、ケンジは仲間達にタロウを紹介した。
「よろしくお願いします」
 予想通り、仲間たちはこの礼儀正しい警察犬を快く受け入れた。
「そういえばマサルは?」
 仲間の一匹がケンジに訪ねた。
「食事を探してから戻ると言ってた。もう少しで戻るだろ」
 ケンジは適当にあしらい、タロウに目を向けた。彼の顔には若干緊張と警戒の色が見えたが、さっきまでとは違う明るさも見えた。俺もあんな風だったのだろうか。ケンジはふとそんなことを思った。
 それから、マサルは二度と戻らなかった。

- -

『松 ―まつ―』
           長谷川智美

 青のペンキはすすけて白に近付いた。吐く息も白くふわりとした形を一瞬留めて消える。何もかもが白くなりたがる、冬。私は彼女に出会った。自宅から駅に向かう途中のバス停で、ベンチに腰掛ける小さな彼女を見つけた。いつ通っても彼女はそこにいた。布団のような袢纏を着て、深い緑のマフラーと、茶色のニット帽をつけて、微笑みながらそこにいた。あまりにも毎日いるので、私はいつしか彼女に挨拶をして通るようになっていた。彼女はにっこりと私の挨拶に答えた。5歳の時に祖母を亡くしていたせいか、彼女がなんとなくその祖母という感覚を呼び覚ます姿なのだった。
 彼女はバスが来ても乗らなかった。運転手も不思議そうな顔で扉を閉めた。ゆっくり動き出したバスを、彼女はにこにこしながら見送っていた。
「乗らないんですか?」
 思わず話しかけると、彼女はそのにこにこ顔を私に向けた。シワだらけの手は膝の上にちょこんと重ねられている。
「あれじゃないのよ」
 彼女は言った。そして目線をまた道路へ戻した。私は彼女の隣に座った。寒い冬の夕暮れのはずなのに、ベンチの周りだけは陽だまりのように暖かかった。音を立てて吹く風も、このベンチの周りには入ってこれないかのように、遠くに吹いているように見えた。
「お名前は?」
 彼女は私に聞いて来た。その声は優しく、しかし弱々しかった。
「捺っていいます」
「そう。いい名前ねえ」
 そう言って彼女はにっこりした。
「何を待っているんですか?」
 私が次に聞いて見ると、彼女はどこか遠くに目を向けた。
「おじいさんよ。もうすぐ来るはずだから」
「おでかけだったんですか?」
「そうねえ……お出かけだわね」
 彼女はそう言って、口元にしわくちゃの手のひらを持っていき、ふうっと息を吹きかけた。私もマネしてやってみる。ゆっくりとした時間がながれた。
しばらくすると、またバスが来る音がした。しかし、いつものベージュ色のバスではなかった。
「きたわ。おじいさん」
 彼女はそう言って、嬉しそうに腰をあげた。バスは深い緑の車体で、ゆっくりとバス停の前に止まった。入口ががシャンと開くと、そこには細身の老父が立っていた。彼女と同じような、温かい空気を纏った、優しい色の男性だった。
「お待たせ、松」
「待ちましたとも、おじいさん」
 二人はそう話して、ゆっくりと手を取った。そして松は、そのバスに乗り込んだ。
「じゃあね、捺ちゃん」
 松はそう言ってまた笑った。私はこの数分の出会いが、何となく惜しく、何も言えずに彼女を見つめていた。このバスの意味を、私は分かっていた。彼女の夫は彼女の肩を抱き、愛しそうに包んでいる。
「素敵な人と、結ばれてくださいね」
 彼女はゆっくり閉まるドアの狭間で言った。
「松さんは、幸せでしたか?」
 私が聞くと、松は少しびっくりした顔をしたが、すぐに「ええ、幸せでした」とまた、優しく笑った。
 バスは消えるように走っていった。姿が見えなくなって、後ろを振り返ると、さっきの温かいベンチはなくなっていた。私は松のようににっこりと笑ってみた。そして、バスが走っていった方へ、いつまでも手を振った。

   ー完ー

- -

『分厚い本で頭部を』
            宮崎亮馬

 この本によれば、「自分のまわりには良いサディストが居ない」と感じる人は、良いサディストになる資質を持っているらしい。彼女の部屋の本棚にはこの本が並んでいる。この本だけ並んでいる。
「予備はあるから大丈夫、好きなだけ」
 彼女の言葉は空気中から水中へ入る際の屈折を計算して僕へと放たれる。ソファに座っている僕は、しかし空気中とも水中ともわからない場所で唇の渇きを確認する。耳鳴りは止まない。彼女の下半身が目に入る。ずぶり。ずぶり。容赦はない。

 頬を思い切り打った後のその右手に、左頬に、残った熱こそ愛なのではありませんか。殿方の瞳に映る自分、驚いた表情をする自分が心底羨ましいわ。だってそこには理想があるでしょう。暴れ馬に乗って、町娘を暴行する。それが愛だと教えてあげましょう。泣き止むまでその頬を打ちましょう。
その女は「スニーカーを履いていたって、わたしは貴族なのです」と言い残して死んだ。

 百回目の「ごめんなさい」に混ざり始めた微熱。

 浴槽に浸かっていた私はふと頭を洗っている少年を眺めた。やけに私に懐いているこの少年の首を折りたい、すべてを奪ってやりたいと思う。弧をえがいた背中に、ぽつりぽつりと背骨が浮かんでいる。頭は既に泡立ちはじめている。
 私はこの少年をお風呂場から浴場へと連れ去るのだ。

 先輩に私の日記を読まれてしまったのです。先輩は、私の二年先輩です。アップルパイを焼くのが得意です。セーラー服がよく似合います。私は日記に先輩のことを書きなぐっていたのです。先輩が好きです。先輩にはこれから毎日、私の日記を読んでもらいます。逃がさないです。絶対に。

 捕まった蝶は、逃げ出すために蜘蛛になりたいと思う。
 捕まえた蜘蛛は、糸に絡まった蝶を見て、やはり蝶になりたいと思う。
 だから蜘蛛は蝶を食らう。

 分厚い本で頭部を殴打する。叩けば叩くほど、本からか、それとも男の頭の中からか、文章の断片が零れ落ち、それに応じて床もソファもこの本も赤く、赤く染まって、彼はその中で私の方を向いて沈み、何を思ったのか私は彼の中から私を眺めているのか、それとも私が彼の中に入り込んでしまったからなのかはわからないが、私も一緒に沈んでしまい、沈んでいるのかと彼に聞くと様々な方向から「何故女ではないのだろう」と嘆き悲しむ声なんて、おかしいわ、私こそ女じゃないの、殴打を続けるとそれが湿った音に変わって、これがサディストなのかしら、呼吸は荒くなり頭は犯されて汚されて、それがサディストなのかしら、もう一度もう一度としつこくせがむので、私は望み通りにしてやった。よく濡れていたので挿入に手間はかからなかった。
 分厚い本で頭部を殴打される。三回目から痛みは少しずつ消え、八回目を飛ばして百回目へ、百一回目からは至福に、私は腕にたまった乳酸が愛おしいとさえ感じながら口から泡を吹き床に転がり馬車に轢かれて殺人現場となるこの部屋の空気を吸って、また水中へと、戻る、潜る、沈む、全て引きずり込んでやると笑う、はははは、これこそが愛だとか、そんな真理があってたまるものか、真理がないという真理、矛盾を抱えた愛の真理だろうよ、それこそが鈍器を持った両腕を動かして、いや、それは重力だろうか、信じるも信じないも君次第だよと瞳の中に指を突き刺した。
 その本を閉じると、真っ赤になってしまっていて、どちらが表で、どちらが裏なのか、もはやよくわからなかった。私はそれをまた本棚へ運んだ。ずぶり。ずぶり。よく濡れていたので挿入に手間はかからなかった。

   ー完ー

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『年賀状ラプソディ』
            吉川浩平


   ○○○ー××××
    W県X市Y町
     シークレットパレス609号
 
     情野 厚子 様








 あけましておめでとうございます
 お元気でお過ごしでしょうか。
 先日、仕事の関係であなたのマンションの近くを通ることがあり、ふと当時のことを懐かしく感じたので、新年の挨拶をさせていただきました。
 ご連絡お待ちしております。

        000ー0000ー0000
        滑茸 遊人









   ×××ー△△△△  
    T県T市T町

     滑茸 遊人 様










 HAPPY NEW YEAR !
 今年も二人で、楽しい時間を過ごそうね!
 来月のグアム旅行、楽しみにしてるよ!

       ○○○ー△△△△
       W県W市W町
       胸野 熱子









   ○○○ー△△△△ 
    W県W市W町

     胸野 熱子 様







 謹んで新春のお慶びを申し上げます
 昨年は大変お世話になりました。
 本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 
 新入社員の中でも、胸野さんの仕事ぶりにはひときわ目を見張ります。
                       厚子より

       W県X市Y町
        シークレットパレス609号
       情野 薄男
          厚子








 from : 胸野熱子
 to : 情野薄男 
 subject : あけましておめでとうございます 
 








 あけましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いします。

 最近、奥さんにかまってあげてますか?
 忘年会で会った時の奥さん、すっごく欲求不満そうな顔してましたよ(笑)
 気が乗らないのはわかりますけど、あんまり不自然だと勘付かれちゃうから気をつけてくださいね。

 それじゃ、来週のお忍びグアム旅行、楽しみにしてますね!

- -

『杏露酒に溺れて』           あくた


 『ジェントルマン』

ビールの苦みに顔を歪めて
愛しさをはらませた視線に応える

くだらない嘘にまみれたふたりは
お互いが紡ぐ甘い言葉に食らいつく

いますぐに来てとは言えない。

 
 『猫たち』

気まぐれに寄り添い
次の瞬間知らんぷり

Its so easy to leave me!

呟くけれど

憎たらしい
憎たらしい

帰る場所は決まっている



 『カブトムシの歯形』

カブトムシに噛まれたの

いつしか無くすボキャブラリー
型にはまりゆく発想力

固定観念に紛れずに、
忘れないで、忘れないで。

カブトムシに噛まれた内もものかゆみを





 『夜の魔物』

電気を消せば後悔と悲しみが降りかかる
ベッドの下から手を伸ばし、足首を捕まれる

ずるずると記憶の糸がほどかれる

眠れないのは、足の爪がひっかかるからよ
涙の理由はわからなくてかまわないのに

しこり

2012年1月11日 発行 1月号 初版

著  者:
発  行:フリーペーパー『しこり』編集部

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発行者 BCCKS
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  『ランナウェイ』    藤本諒輔
   http://twitter.com/#!/_ryosukee
  『紀州犬ケンジ』    横田直也
  『松―まつ―』     長谷川智美
   http://twitter.com/#!/hasemmchon
  『分厚い本で頭部を』  宮崎亮馬
   http://twitter.com/#!/tamanihizaiwasu
  『年賀状ラプソディ』  吉川浩平
   http://twitter.com/#!/_kohchang
 『杏露酒に溺れて』    あくた
    http://twitter.com/#!/rtz_00  


  装丁:サッカローニ
  編集:吉川浩平







2012年1月1日 新年号
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