八十年代、キース・ヘリングやバスキアの名前が
日本に届くようになった頃、初めてニューヨーク行きの計画を立てた。
たしかマリオット・マーキスができたばかりで
そこに泊まることまで決めていた。一緒に行くはずだった当時の彼女が
直前になって行きたくないと言ったので旅行は中止になった。
後から聞くと親に反対されたらしい。
彼女の親が心配するのももっともで、当時のニューヨークには
まだ危ないムードがあった。それが直接の理由ではないけれど、
彼女とは別れてしまい、ニューヨークにも行く気がしなくなった。
それから何年かしたある日、突然ニューヨークロケが決まり、
心の準備ができないままケネディ空港に降りることになった。
自分にとって最初の海外での仕事なうえ、それまでほとんど
外国に行ったことすらなかったので、とても不安だった。
飛行機の中では「チキンかビーフか」と聞かれていることすら
意味がわからず、一緒に行ったベテランのカメラマンに
鼻で笑われたことを憶えている。
ホテルはタイムズ・スクウェアの真ん中。
なんというか無神経でイカしたボロホテルだった。
ベテランカメラマンはいつも高級なホテルに泊まっているから、
そこを「豚小屋みたいだな」と言っていた。
俺はそんなことどうでもいい、というより
他に比べる対象がなかったのでホテルに何の不満もなかった。
この時の印象が強すぎたのか、いまだにニューヨークに
行くときはボロいホテルに泊まることにしている。
「そんなところに泊まってるんですか?」と
言われることもあるが、好きで泊まっている。
当時はまだ危険だった、と言ったけど、案の定
そのロケ中にもホテルの裏で殺人事件が起きた。
駐車場でマフィアが3人、撃たれたそうだ。
カメラマンは銃声を聞いたらしい。
テレビのニュースで見たので、翌日の朝コーディネーターに
「殺人事件がありましたね」と聞くと、
別に珍しいことじゃないという顔だった。
撮影はワールドトレードセンターの近くのビルの屋上だった。
背景にワールドトレードセンターを入れるためだ。
俺は初めてのニューヨークだったから
わかりやすく目につくものはなんでも撮った。
その頃、パノラマサイズというのが流行っていて、
写るんですのパノラマを持って行った。
家を探せば、縦位置のパノラマで撮った
ワールドトレードセンターの写真があると思う。
知らない場所に行くのは、自分がテレビや映画や本で得た、
それまで持っていたイメージを修正することだと思っている。
ニューヨークも想像と結構違っていた。
2009年10月23日 発行 converted from former BCCKS
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