ひといきで読める、ちょっと怖い話を十話
「ねぇ、お化けと幽霊、どっちが良い?」
「ん? どう違うの、それ?」
「ほら、足が無いのが幽霊でしょ」
「うそつけ~」
「いいから、どっちが好き?」
「う~ん、あえて選ぶなら…、幽霊かな」
「んじゃ、幽霊~!」
いたずらっぽく笑った彼女は、生前と何も変わっていない。
「仕方無いよ、事故だったんだから…」
そう、みんなが言ってくれる。
たしかに、どうしようも無かった。
雨の高速、いきなり飛び出した何か…。
思わず切ったハンドル。
仕方が無かった…。
でも彼女だけは、納得していない。
助手席から飛び出して、路面に打ち付けられた彼女。
その潰れた死顔で、今夜も俺を睨んでいる。
「おっ、良い部屋じゃん!」
…最初は、みんなそう言うのよねぇ。
「風呂も広いし!」
…たまに長い黒髪が、浮き上がるけどねぇ。
「おお! ベランダからの見晴らしが最高!」
…ええ、紐を掛けてぶら下がると、もっとよく見えるわよ。
「えっと、不動産屋さん…」
「何も聞こえません。 気のせいですよ…」
奥さん亡くなって、もう三年だろ?
そろそろ、再婚とか考えないのか?
実は、アイツが死ぬ時にさぁ…。
新しい奥さん貰っても良いよって、言ったんだ…。
…、出来た人だったものなぁ。
でさぁ…。
ん?
毎晩、同じこと言うんだよ。
えっ?
枕元に立ってさぁ…。
「いくら口説いても、無駄だから…」
「俺の気持ち、判ってくれないのか?」
「いや、気持ちとか関係無いし…」
「ホントは、俺が好きなくせに」
「いや、大ッキライですから!」
「こうやって毎晩、俺の部屋で一緒に過ごしてるのに?」
「だからぁ~! アタシは、ここの地縛霊だっつーの!」
左足が、呪われているらしい。
父は事故で左足を挟まれ、車と共に焼け死んだ。
兄は左足を排水口に吸い込まれ、プールで溺れ死んだ。
俺を護る為に母は、祈祷の類に狂った。
呪いよりも、そんな母が怖かった。
やがて母は、シンプルな答えを見つけた。
今の母は、穏やかで優しい母だ。
俺は、義足にも慣れた。
終電には、まだ間がある。
車内は、そんなに混んでいない。
疲れた俺の顔が、窓に映ってる。
いきなり、通過駅の明るい光。
ふと見ると、ホームの端に女が一人。
長い黒髪が、うつむいた顔を覆って不気味だ。
それも一瞬。
また電車は闇の中へ。
窓には、俺の疲れた顔。
すぐ後ろに、長い髪が顔を覆った女。
ねぇ、西口の踏み切り。 出るんですって。
夜中に、白い服の女の子が立ってるって。
ほら、先月、あそこで女の子が亡くなったでしょ。
なによ…、信じないの?
でも、八百屋の奥さんも見たって…。
…うふふ。 ホントは、私も信じてないの。
だって幽霊が居るなら、とっくに出てるわよね…。
私は今夜も、この部屋でぐっすり眠るわ。
でも貴方は、床下で腐って、溶けて…。
ねぇ、もう骨になっちゃった?
お店に入ると、水やおしぼりを、二つ出されることがあるんですよ。
もちろん、こっちは一人です。
いつ頃からだったかなぁ…。
そりゃ、最初は気味が悪かったですよ。
でもね、もう慣れました。
店員が首をひねって不思議がっても、とぼけてやり過ごしてます。
ただ困るのが、ごくたまに、逆の立場になっちゃうんです。
つまり私の方が、相手を二人連れだと思い込んでしまうんです。
ふっと気が付くと、相手は一人なのに…。
さぁ…? 何でしょうね。
霊か何かなのか、錯覚なのか…。
まぁ、そんなことが、たまにあるんですよ。
そういえば、お連れさん、無口ですね…。
良いのかい、こんなとこで飲んでて。
だって、仲直りしたんだろ、奥さんと?
へへ、昨夜見ちゃったんだよ。
こっそり、家に帰ってただろ。
まぁ、とにかく、奥さんところに戻って良かったよ。
心配してたんだぜ、お前んちのこと。
どんな良い女か知らないけど、やっぱり最後は女房だぜ。
そこんところを…。
ん?
なに?
帰って無い?
なに、ムキになってんだ?
いや、見たって。
昨夜、コンビニに行った時だよ。 たしか夜中の一時くらい…。
なんだよ、その怖い目は…。
2011年12月29日 発行 初版
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