spine
jacket

───────────────────────



向日葵

石高 都桜

アプレック出版部



───────────────────────

     □1□




「うん!?」

頬に受けた衝撃に、とび起きた。目のくらむような白い光・・・???

驚いた理由を知る為に、手のひらをかざして目が慣れるのを待つ。

身体を起こすと、けむった水平線が遠くに見える。

突然、波の音が耳に飛び込んでくる。

振り返ると、大きな帽子の下に、弾けるように笑う君の、形の良い唇が見えた。



白く長い首すじ。大きく胸もとをあけた、白いコットンのブラウス。

セミロングの黒い髪。

君は笑いを満面に浮かべて、いたずらな顔で日傘をくるくる回している。

そして・・・右手には、ぎっしり水滴をつけたセブンアップの缶・・・がある



「あ~?こら~!」

「きゃはは!、だって、おなか空いちゃったよ」

「あぁ、そうか・・ゴメン寝てた・・・今何時?」

「もう1時半だよ」

「よし、行こう」



僕は立ち上がると、あたりに放り出してあったサンダルを見つけて履いた。

身体の下にあったサーフボードを、片手に持って海に駆けていき、砂を流すと、

すぐに彼女のところまで、駆け戻ってきた。



「ワンちゃんみたい」

「あはは、なんてこと言うんだ」



僕たちは防砂林を抜け、砂の浮いた国道をゆっくり横切った。

真昼の道路は真っ白く色が飛んでいる。

遠くから向かってくる車は、水銀の中から這いだしてくる甲虫のようだ。

僕は歩きながら、日傘の君の、すっきりとした、ふくらはぎを見ている。



国道の向こうは樹木の多い住宅街だ。

僕らは蝉の声をシャワーのように浴びながら、程なく、

夏の間だけ使う小さな家へと戻ってきた。



裏に回り、ウッドデッキにボードを立てかけると

壁に据え付けたシャワーを頭から勢い良く浴びた。

着ていたラッシュガードを脱いで、

いつもそこにあるハンガーにかける。





小さな庭には、大きな向日葵が、堂々と咲いている。

自分の季節を喜んで、誇らしげに、大きな顔をしている。

彼女が毎日欠かさず水をあげてるからだぞ。感謝しろ。



近くでキリギリスの眠くなるような鳴き声。そして遠くにはセミの声。

浴びているシャワーから弾ける水滴が、柔らかな色の虹を作った。




     □2□

さらさらのコットンのTシャツに着替えて、ダイニングに入っていく。

古いけれど大きな木のテーブルには、君の読みかけの本が端に寄せられ、

昼食がすでに用意されていた。



パンに切れ目を入れて、ソテーした牛肉と卵焼き、

それにレタスやトマトを挟んだバケットサンド。

添えられたオリーブとピクルス。粒マスタードの大きな瓶。

僕は買い置きのハイネケンの缶を開け、ひとくち飲んで君を待った。



堅い木の椅子に掛けて、はだしの足をぶらぶらさせる。

風が通り抜けた。






「あ~~ん、おなかすいた~~」

君が笑いながら、部屋に入ってきたので、この部屋は急に賑やかになった。

「食べよう、たべよう!いただきま~す」

君のアイスティのグラスにハイネケンの缶をぶつけるけど、音は出ない。

二人で笑った。



彼女は口数はそんなに多くは無いけれど、とても機嫌の良い人だ。

彼女の笑い顔には曇りがない。無表情だとキツそうに見える瞳が

楽しそうに笑うと、ああ、これがこの人の本質なんだとすぐにわかる。



僕たちは、今日の波の話、一昨日の雷が図書館の裏に落ちたらしい話、

今読んでいる本の話などを、取りとめもなく、話して、食べた。



「午後はどうするの?」と君。

「昼寝して、それからちょっと仕事。あ、夜はコスタ・デル・ソルに行こうか」

僕は近くのシーフードレストランの名前を挙げた。



彼女は、ちょっと考える目をして

「うん、わかった」

と、なんだか真剣な表情で言った。



彼女が、片づけをはじめる。

ハイネケンの缶を取るときに、僕はその手をそっと捕まえた。

彼女は僕の目を見てから、柔らかい眼差しで

「ちょっと待ってて」と言った。



僕は、いい風の吹き抜けている廊下を、

ベッドルームへ、裸足でぺたぺたと移動した。



     □3□


ドアのきしむ音で、君が部屋に入ってきたのに気が付いた。



レースのカーテンがひるがえる窓を見上げ、僕はうとうとしていたようだ。

片目を開けて君を確認して、また閉じた。

君は静かに、僕の寝ている横に腰をおろし、僕の手をやさしく撫でた。



「ふふ・・気持ち良さそう。私もお昼寝しようかなぁ」



そういいながら、君の手は、今度は僕の髪をゆっくりと撫でている

僕は、抜け切っていない眠気に誘われ、ネコの様に愛撫を受けていた。



ふいに、僕の唇が、温かく湿った君の唇にふさがれた。

僕は目が覚めると同時に、君への欲望を思い出した。

満足するまでお互いの唇を舐めまわし、唇をはさみ、丹念に咥え、

舌を暴れさせて・・・糸を引きながら離れた時には、もうどうしようもなく

繋がりたくなってしまっていた。



すこし乱暴に、君の着ているブラウスを剥ぎ取る。つややかな、象牙色の肌。

長い首には深く斜めに筋が通り、鎖骨へとつづく深い陰影を見せる。

控えめに膨らんだ乳房を手のひらで包み、期待で堅くなっている乳首をつまむ。



「あぁ・・めちゃくちゃにしてほしいの・・」



彼女にしては珍しい事を言い出した。



「わかったよ」



僕はそういったけれど、ショートパンツもショーツも脱がして、

君をすっかり裸にしてしまうと落ち着いて、君を可愛がってあげる気になった。

横向きに寝ている君の後ろに沿うと、背中から君の乳房をやわらかく揉んだ。

唇を肩甲骨のあいだに這わせて、華奢に見える背中に、舌を遊ばせた。



子供の頃からダンスをしている君の身体には、過剰なものがない。

美しい、女性のエッセンスがぎゅっと集まって、形になったような君のからだ。

とても細く見えるそのからだ全体に、しなやかな筋肉を持っていることは、

その身のこなしを見ているだけでも、わかる。



その白い身体の上を、乾いた風に煽られた、レースのカーテンがふわりと踊る。

昼さがりの窓辺でゆたう、象牙色の肌。

そしてそこだけ扇情的に溢れてしまった、両足の間の紅い裂け目。

君が溢れさせているのを見てしまった僕は、たまらずに指を沈めた。

苦しげなため息が漏れる唇から、小さな歯ならびがのぞけた。



仰向けにして、君の好きなやりかたで、苛めることにする。

みっともないほど勃起してしまった乳首を、舌でもてあそぶ。

2本の指で持ち上げ、むき出した小さな肉の芽を中指でゆっくりと、こねる。

長い首を反らせ、乾いたシーツを掴んだ君を、容赦なくいたぶる。

割れた腹筋が見え隠れする。つま先が伸びる・・



「ああ、だめ、だめ・・」

「だめじゃないだろ?」

「ああ、お願い・・」



間をおくこともなく、まだ痙攣している彼女の中に、僕は分け入っていく。

彼女はそれを歓びの声で迎え入れてくれる。

僕をすっかり収めて、大きさが丁度同じになった君の愛の器官は、

僕を強く掴んでヌルリと動く。



声が出る。



背骨を這い上がる、ぬめって、絡みつかれる悦びの感覚。

君の鍛えられたしなやかさは、僕を翻弄して離さない。

僕は早く、大きく、動く。前後に。

何度も、何度も、君の中に潜りなおす。

次はもっと深く、奥を求めて、何度も、何度も・・・



さっきよりも、切羽詰った君の声。

いつものように、繰り返し、何度も、お願いしている。

否定し、懇願し、叫び・・・そして君は弛緩する。



君が無感覚の間も、僕は止まることなく、ゆっくりと動き続けている。

すぐに君は戻り、声をあげ始める。



「ああ・・・また・・・」



頂上に近いところに、君はいきなり放り込まれる。

「あああ!だめだめ・・・」

そうして、君はまた、真っ直ぐに降りていく。

戻ってきて、気が付くとまた、頂が近い。



「あああ、また!もうだめ!あああ!」

「いやああ・・もうだめ、お願い!」



まるで川の巻き返しの中の木の葉のように、君は翻弄され

自分の意志とかかわりなく、登って、落ちることを繰り返す。

僕の汗がしたたり、君のへそに留まる。

僕はようやく、気を許すことにした。

君の耳元に、終わりそうだと告げる。



それを聞いて、君はまた急いで上りはじめてしまう。

「ああ、いって、いって・・だめだめだめだめ・・お願い!」

ぼくが脈打ちながら一番奥に注ぎ込んだ時、

ようやく、君は解放された。



君は、糸が切れた人形のように、横たわっている。

君にありったけの性欲をはき出してしまった今、

醒めた目であらためて見ても、しどけない君はとてもきれいだ。

ぼくはその髪をそっと撫で、頬に唇を当てると、

バスタオルを取りに洗面所に向かった。

     □4□


そのレストランは、気の早いコオロギの声を聞きながら

夜道を、ふたりで、そぞろ歩いても5分くらい。

海岸沿いの国道から一本入った、静かな道に面している。

暗い住宅街でそこだけ、オアシスのように暖かい光が漏れるお店だ。



彼女は黒いワンピースに着替え、ピアスとネックレスに金をあしらい、

とてもシックに見える。較べると、Tシャツのままのぼくは、ちょっと間抜けだ。

顔なじみの店員さんに挨拶をして、とても機嫌よさそうに振舞う彼女。

こういうときの彼女は、例の、イノセントな曇りのない笑顔と、

ほんの少しのセクシーさを見せて、まったく、非の打ち所がない。

僕はそんな彼女が自慢で、人に会わせるのがとても嬉しい。



「ここはシーフードレストランなのよ」



という彼女の折角のご注進には耳を貸さず、

「だって、さっき、僕のエネルギーは全部君にとられちゃったよ」

とうそぶきながら、僕はこの店では普段食べないステーキを、

彼女は順当に、平目のムニエルを頼んだ。

さすがにワインは、平目サマを尊重して白を頼む事に決めた。





ワインのテイスティングが終わった時、彼女はバッグから一枚の便箋を差し出した。



「見て欲しいの」



そういわれて、手渡されたレターには、英語で、入学許可書と書かれていた。

「NewYork Dance Accademy?これって前に行きたいって言ってた?」

「そうなの。欠員が出たらしくて・・・今週の初めに届いたのだけれど・・・」

そのとき、僕はこの先のストーリーを全て理解した。



9月にはおそらくスクールがはじまる。だとすれば、

彼女は間もなくここを飛び立って行くことになる。

そして、この場所には2度と帰ってはこないだろう。

いや、帰ってきてはいけない。

そして何より、僕は今、ショックを受けた顔をしてはいけない。



僕は目に力を入れると、ことさらに明るく、大きな声で言った。



「凄いじゃないか!やった!今日はお祝いだ!」

「ありがとう・・・」



きみは目に涙を浮かべている。君が嬉しいのか悲しいのか、

今の僕にはわからない。


     □5□

それからの一週間は、ヴィザの申請や買い物などで、

彼女はバタバタ忙しくしてはいたものの、

僕たちの間には、特に何事もなかったように過ぎた。



僕はいつもどおり、朝、起きたら波乗りをして、

(あんまり良い波はこなかったけれど)

午後、少し仕事をして、彼女と食事をしたり

当たり障りのない話をしたりして、過ごした。



でも、ひとつだけ変わったことがある。

僕たちのセックスは、とても穏やかで優しいものになった。

貪ったり、情熱をぶつけるようなところは、なりを潜めた。

こわれものを扱うように、時間をかみ締めるように、慈しんだ。

僕には、そのやり方しか出来なかった。



そして、ついにその日が来た。

朝食を済ませ、きちんと洗い物をすませた君は、

ちょっと緊張した顔で居間に立つと、

腰に手を当てて胸を張り、ぐるりと部屋の隅々まで見渡した。



彼女はこれから実家に行き、明後日の便で発つ予定だ。



君は真正面から僕を視線で捕まえてから、とても静かに言った。



「いままでありがとう。向こうに着いたらメールするね。」

「うん、からだに気をつけて、頑張って。あとで後悔のないようにね。」

「あなたも、身体に気をつけてね、お酒のみすぎちゃ、いやよ」

「あはは、そうだね。」

「ねえ、私に、行って欲しくないって、どうして言ってくれなかったの?」

「う~ん・・後から、あいつのせいだ、って恨まれたくなかったからかなぁ?」

「そう・・・・」



僕たちは、唇がふれるだけのキスをすると、表へと出た。

日差しの中にオレンジ色のタクシーが暑苦しく待っている。

タクシーに大きなケースを積み込むと、



「ありがと・・また・・ね・・」



と顔を伏せながら、そう言って、車に乗り込み・・・

そして、僕の愛するダンサーは、・・・本当に行ってしまった。






急にガランとしてしまった家は、とても暗く見えた。

僕はいつものように、冷蔵庫からハイネケンを取り出すと、

ウッドデッキの椅子に、腰を下ろした。

アブラゼミが盛大に鳴いている。

ぼくはハイネケンを飲み干して、緑色の缶を握りつぶした。



すこし雲の多い空に、向日葵だけが、馬鹿に元気に咲き誇っている。

ふと、向日葵に話しかけながら水をやっている、彼女の姿が浮かんだ。






・・・・・・・・・?

突然、おかしくなった。

何かが吹っ飛んだ。

目の前の風景が歪み、意味を成さなくなった。

胸が痛み、わけのわからないものが、心臓の上のあたりで暴れている。

ボタボタ、音を立てて流れる涙。

塊になり、次から次からせり上がって来る嗚咽。

僕は両手を握り締め、子供のように下唇を噛んで、泣いていた。

□あとがき□

このたびは、私の拙い本をお買い求めいただき、ありがとうございます。また、ここまで読み進んでいただいた方は、最後まで目を通していただいたということです。本当に、本当に感謝の念にたえません。

実は、私は株式会社アプレックという会社で、古本の買取や販売、アマゾンへの委託販売などをしたりしています。また、アマゾンで販売している人達のために出品代行サービスや、価格改定などのアプリケーションを作ったりしています。ですから今まで、本や、アマゾンには近い所にはいたものの、文章を書くという事は、私にとっては畑違いなわけです。

そもそも私自身は、変わり身の早さというか、企画、展開力はあるほうだと思うのですが、どうも肝心の商才のほうはそれほどでもないようで(笑)、本業で、なかなか儲けられません。そんなときにKDP(Kindle Direct Publishing)が開始された事に仰天して、自分もなんとか、コンテンツを発信する側に回るぞ、と決心しました。

また、文章を書くのは好きで、以前よりあちこちのブログなどには創作を発表していました。そして、「10年後に作家作家になる。」という事は以前から周囲に言っていた事でもあるのです。まあ、これは言わないと実現しないだろうから言っていた、という意味合いが大きいのですけれど・・・。

とにかく、この機会に真剣にやってみるか!と動き始めました。が、当然のこととして、無名の作家の小説なぞ、そうそう簡単に売れるものではありません。それでも、これからしぶとく頑張って、いずれは少々名前を売って、全部の商売も含めて好転させてやりたい、そのような野望を持っております。

ちょっと私の著作のご案内なぞをさせてください。

僕の書いた長編処女作、「嘘やろ、そっちやったんか!」は、今の朝鮮、中国、日本の国際問題と経済の事実を集め、仮説を立てて書ききった、社会派の小説ですが、サッカーの日本代表選手をモデルに登場人物を設定し、楽しめる作品になっていると思います。ご興味ある方は、是非読んでいただけると嬉しいです。

「5つの夏」はブログなどに発表していた短文の中から、夏をテーマにした5編のショートストーリーをあつめてみました。いずれも、シーンを切り取るような、僕の文章の原点です。

「いちばん簡単なKindle本の作り方」は、上記3冊をアマゾンで発表する上で、現状これが一番簡単だ!と自信を持っておすすめできる方法を解説しました。これからいろいろ、環境も整ってくるとは思いますが、当面は間違いないと思っています。ご自分で電子図書を出版してみたい方には、参考にしていただけるかと思います。


また、古本の仕事なのですが、会員制アマゾン委託販売、ウルルというサービスをやっています。古本やCD,DVDを送っていただいたら、弊社がアマゾンで販売し、一定の割合を還元するのですが、紹介制になっており、紹介者にも配分されるような仕組みです。

アフィリエイトなども簡単に作れる仕組みがある上、法人、団体でもアカウントが作成できますから、バザーの変わりに使って、町内会にお金がいくようにするとか、NPO法人で募金の代わりに使うなどで大活躍するサービスです。覚えておいていただけるとありがたいです。

上の文章を書きながら思ったのですが、私はどうやら、誰もやっていないアイディアを仕事にするのが好きで、変な仕事を作ってばかりいるので、認知されにくいのかもしれないですね・・・まあ、それでも6年近くなんとか生きてこれたし、いいか(笑)

またしても、いろいろ宣伝をしてしまいました。すみません。ところで、個人的に私はギターが好きで、ブルース系ロックギタリストです。多摩センターの「コルコバード」という緩~いライブハウスに良く出没しています。好きな人は是非、遊びに来てください。

本を通じて、多くの人に出会ったりもできるようになるのではないか、そんなことを楽しみにしつつ。

このたびはお読みいただいて、本当にありがとうございました。

2013年1月 石高 都桜

向日葵

2012年2月7日 発行 初版

著  者:石高 都桜
発  行:アプレック出版部

bb_B_00103531
bcck: http://bccks.jp/bcck/00103531/info
user: http://bccks.jp/user/114885
format:#002t

Powered by BCCKS

株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp

jacket