テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時、お伝えしていく予定です。
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この本はタチヨミ版です。
♣立ち入り禁止となっている福島第一原発20㎞圏内、
津田大介が見たその現状とは?
♣東京新聞の記者が語る「資源エネ庁によるメディア監視の実態」
7 速水健朗の「本を読まない津田に成り代わってブックレビュー」
♣東日本大震災から1年 被災地はどう変わったか
♣TPPで混合診療が解禁されると、
なぜ日本の医療制度が崩壊するのか
♣ビッグスリーはなぜ日本のTPP加盟に反対するのか
8 速水健朗の「本を読まない津田に成り代わってブックレビュー」
♣高速増殖炉もんじゅ君の語る「ツイッター情報発信術」
♣日本でもっとも幸せな県はどこか?
8 速水健朗の「本を読まない津田に成り代わってブックレビュー」
♣グーグル検索の「サジェスト機能」表示差し止め仮処分申請のゆくえ
♣若手論客・荻上チキが語る「ネットメディアをマネタイズする方法」
♣今なぜ日本を脱出する人が増えているのか
vol・24─1
津田大介が今気になっているニュースを毎週1つピックアップし、解説します。
〔毎号配信〕
──3月8日、津田さんは立ち入り禁止区域の福島第一原発から20㎞圏内に入られましたね。合法的に入られたんですか?
津田:なぜメルマガ発行日の翌日の話題がニュースピックアップで取り上げられているのかという問題はありますが(笑)、そうですね。環境省の除染モデル事業のメディア向け説明ツアーがあって、それに参加させていただくかたちで入りました。[*1] 僕以外は基本、記者クラブメディアの人たちばかりで、フリーの人間は僕だけだったんじゃないかな。
──20㎞圏内は初めて?
津田:そうなんですよ。20㎞圏内が立ち入り禁止になる前、4月上旬に福島を回っているとき20㎞圏内に入ろうとしたんですが、地元の人たちが知ってるような裏道がわからず、大きな道は警察が立ち入り制限をしていたので入ることは叶いませんでした。
──今回の立ち入りではどこを訪れたんですか。
津田:まずは一時帰宅の発着場になっている20㎞圏内の「道の駅ならは」[*2] で靴カバーを履いて、国の委託を受けた企業の作業員が高圧洗浄機で除染作業を行っている楢葉町役場に向かいました。[*3] 楢葉町役場ではちょうど建設会社の作業員が除染作業を行っており、作業によってどれだけ空間線量が下がったのか報告をしていました。[*4] その後、防護服を着て国道6号線を北上し、現在閉鎖中になっている常磐自動車道の除染作業を見学し、[*5] 最後に常磐富岡インターチェンジに立ち寄り、また道の駅ならはに戻って [*6] スクリーニングを行い、解散という流れですね。20㎞圏内にいたのは時間にして約3時間くらいでしょうか。当日リアルタイムでツイートしていた様子はNAVERまとめでまとめられていますので [*7] こちらもご参照いただければ。
──20㎞圏内に入った率直な感想を教えてください。
津田:まず思ったのは「意外と車通りがあるな」ってことでしたね。ちょうど今、富岡町の人たちが一時帰宅をしているということもあるんでしょうが、車は結構通っていて、はじめのうちは言われているほどのゴーストタウン感はそこまで感じなかったです。あと、20㎞圏内は作業車が入れないので、地震によってダメージを負った道路が放置されているという印象があったのですが、少なくとも6号線についてはきちんと修復されていましたね。
──「はじめのうちは」というと、あとで印象が変わったのでしょうか。
津田:そうですね。車は通っているものの、街には基本、人影がないので、住宅地や壊れた店舗がそのまま放置されている地域に行くと、やはりゴーストタウンであることは嫌でもわかる、というか意識せざるを得なくなりますね。線量計を見ながら走ってるとなおさら、ね。
──今回の行程において、放射線量はどんな感じでしたか。
津田:手持ちの放射線計(堀場製作所 PA-1000)で計ったのですが、20㎞圏内に入る検問所で0.65マイクロシーベルト毎時(µSv/h)前後、道の駅ならはで0.3µSv/h前後、楢葉町役場で0.4µSv/h前後。案外低いもんだなと思ったのですが、富岡町に入ったあたりで急に線量が上がって2µSv/hくらいになり、北上するに従ってどんどん線量が上がっていって、富岡町本岡新夜ノ森(新夜の森交差点)付近 [*8] に行ったとき、車内で9µSv/hを超えました。恐らく外に出たら、10µSv/hを超えていたと思います。このポイントが今回の取材でもっとも線量が高かったところですね。ここから西に向かって常磐自動車道の常磐富岡インターチェンジ [*9] に向かったのですが、このあたりはどこも大体車内で6〜8µSv/hくらいと高めの線量でした。常磐富岡インターチェンジの線量は大体4µSv/h前後でしたね。
──当たり前ですが、線量は高いですね……。
津田:そうですね。楢葉くらいの線量であれば、ホットスポットを除染して住むというのも現実的に考えられると思いますが、富岡町に入った途端に1µSv/hを超え、どんどん上がっていったのはショックでした。常磐自動車道は本来なら昨年、常磐富岡ICから相馬ICまでの区間が開通する予定で工事も行われていたんですね。[*10] 原発事故によって工事は中断せざるを得なくなったわけですが、作っていた地域のうち、双葉町の羽黒側橋〜上羽鳥橋の区間の空間線量が非常に高く、9.5〜50µSv/hもあるんです。[*11] ただ、幸いはことにそのあたりはまだ未舗装だったので、土の入れ替えを行い、舗装をすることで線量はかなり下げられるという見通しもあるんです。今回モデル事業を担当する大成建設がどこまでできるのか注目ではありますね。
──常磐自動車道は原発事故の影響もあり、開通は不可能だと思ってました。除染するということは、復旧させることを目指しているのでしょうか。
津田:NEXCO東日本は20㎞圏内にあたる楢葉PAから浪江IC北側までの区間はこの除染モデル事業の結果を踏まえ、復旧・整備工事に入るかどうか検討するとしています。[*12] NEXCO東日本の佐藤龍雄社長は数年がかりで除染して、警戒区域が見直されていけば、開通させたいという意欲を持っているという話です。個人的にはこの地区が復興するうえで高速道路の整備は必須だとも思うので、少なくとも常磐自動車道の除染作業がうまくいき、高速道路だけでも早く利用できるようになれば……とは思います。
──実際に除染作業の現場を見て、どのような感想を持ちましたか。
津田:なんというか、途方に暮れましたね。僕が途方に暮れるのもおかしな話なんですけど、それぐらい除染しなきゃいけない地域が広くて。現に10µSv/hとか出てる地域で除染していったとして、いったい何十年かかるんだろうというのが正直な感想でした。少なくとも「除染したら数年で住民が戻れるようになる」なんてことは富岡町ではありえない。厳しいけどそれが現実。頭では理解していたつもりですが、実際に訪れて、線量を計ってゴーストタウン化した町を見て、なんとも言えないやるせない気持ちになりました。すぐに戻れないのだとしたら、そのことをどう富岡町の人たちに伝えて、どう「新生活・新コミュニティ」を提供していくか。その具体的議論に行政・政治は入っていかなければならないと思いましたね。今のように、住民たちに期待だけ持たせ、効果がどこまであるかわからない除染に税金を大量投入することの是非も議論されなければいけないんでしょう。
──今回20㎞圏内を見て、「除染には反対」というスタンスになった?
津田:いや、いくら除染が大変だからといって、森林などに溜まった放射性物質を放置していたら、結局それが元になって二次汚染が拡大していくわけで、除染をきちんとやらなきゃいけないことも確かなんですよね。政策として20㎞圏内の住人に対して説明を行い、政府として決断をするということと、継続的に除染活動をしていくというのは別のレイヤーの話なんだろうと。今回の20㎞圏内取材もそうですし、先日取材してツイッターでテキスト中継していたがれき広域処理問題 [*13] もそうでしたが、除染を今後どうしていくのかということは、僕個人のテーマとしても、政治メディアとしても、きちんと継続的に追いかけていきたい。このあたりは、実際に除染活動に携わっている東大の児玉龍彦教授のようなキーパーソンにさまざまなアイデアやノウハウが溜まってきています。僕も機会を見て児玉先生がやってることをじっくり追いかけ、いずれ記事にしたいなとも思っています。
[*1] http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120308/t10013584371000.html
[*2] http://www.thr.mlit.go.jp/road/koutsu/roadstation/fukusima/fu07.html
[*3] その行程の映像記録はこちら
http://www.youtube.com/watch?v=XYB_o9v7q6w
http://www.youtube.com/watch?v=fUnORpVwrE4
[*4] 本格的な除染作業に入るにあたって、昨年12月に自衛隊が約2週間かけて楢葉町役場、富岡町役場、浪江町役場、飯舘村役場の4役場の除染を行った。その結果は環境省の報道発表資料で公開されている。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14624
[*5] その行程の映像記録はこちら
http://www.youtube.com/watch?v=m4uv0aYG3J0
http://www.youtube.com/watch?v=K3rADrdKV4s
[*6] 帰路の行程の映像記録はこちら
http://www.youtube.com/watch?v=S3jLBEJecwM
http://www.youtube.com/watch?v=uoW6wIBom7o
[*7] http://matome.naver.jp/odai/2133119112724490801
タチヨミ版はここまでとなります。
2012年4月11日 発行 初版
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ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。
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