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さすらいのファシリテーター 第二話

古賀弘規

ユーアンドミー書房

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第二話 仕組まれたシナリオ

「……ということで、この会議をうまく運ぶには、コジロー君、君の力がどうしても必要なのだよ。どうか一つ、この件を引き受けてくれないか」
「朝霧さん、私のポリシーをすでにご存じの方だと思ってお話しをうかがったのですが」
 オリオンスターコーポレーション専務室。さすらいのファシリテーター、コジローはこの会社の専務である朝霧氏に招かれてこの部屋にいる。
 一人で使うには贅沢すぎるほどの広い部屋。壁には海外で最近有名になったニューヨークのアーティストの大きな絵が掲げられている。応接セットは革張り、テーブルには葉巻が並べられている。朝霧氏の専用デスクは事務用のそれとは異なり、ダイニングテーブルと見間違えるほどの大きさ。一見すると、バブル期の成金趣味がそのまま投影されている。
 実のところ、このオリオンスターコーポレーションはこの景気低迷期のさなかでも驚くほどの伸びを見せている企業である。
「だから、そこは一つ何とか頼むよ。コジロー君も私の様なクライアントがいるから、裏ファシリテーターの仕事が成り立っているんだろう? そうじゃないと、こんな破格の値段を出して会議運営をお願いする、なんて商売は成り立たないよ」
「私は商売でこの仕事をやっているのではありませんよ。だからこそ、私のポリシーの一つ『一方が有利になる結果に導く会議の運営は請け負わない』というのがあるのです」
「だから、今回だけはなんとかしてくれないか。オリオンスターコーポレーションの改革のためには、どうしても私の派閥で有益なポジションを占めて、そこから今の社長に辞任して頂くしか方法はないんだよ。そのためには、次の会議では私たちが有利になる方向をつくりださないと」
「『私たちが』、ではなく『私が』というように聞こえるのですけどね。まぁ、どのような利権が絡んでいるかは私は知る必要もありませんし。何度おっしゃられても私はこの件を引き受けるつもりはありませんよ」
 コジローのこの言葉に、先ほどまでは穏やかな顔つきをしていた朝霧も、鬼のような形相で真っ赤になって立ち上がり、こう言い放した。
「なんだ、こっちが下手に出ればつけあがりやがって! オレを怒らせるとどうなるか、覚えておけっ!」
「ということは、商談不成立、ということですね。それでは私はここで失礼させていただきますよ」
 コジローは朝霧のその態度を冷静に受け止め、持っていたリュックをひょいっと背中に背負い大きすぎる重い扉を開けて、振り返ることもなく部屋を出て行った。
「ちっ、あのコジローが使えないとなると、こちらもちょっと不利だな。裏ファシリテーター、あいつに匹敵するほどの腕前を持つヤツは他にいないのか……」
 朝霧は葉巻を一本つかみ、慣れた手つきで火をつける。
「裏ファシリテーターか……」

 裏ファシリテーター。
 政治や企業の世界では、通常の生活をしている一般市民には表面化しないさまざまな問題が渦巻いている。金融問題、政策問題、利権問題、そして複雑な人間関係の問題。これらの問題は、最終的には権力のある人間にうかがいを立てて、その意見に従うというのがその世界では慣例となっている。が、それでは泣きを見る人も、いや、泣きを見る人の方が多くでてしまうのが現実。
 しかし、いつからか「お互いが納得いく結論を引き出してくれるヤツがいる」といううわさが流れ始めた。実際にその恩恵にあずかった人の口からは、いままでにない解決策を見つけることができた、という言葉がそろったように出ている。
 そしてその人物は「裏ファシリテーター」と呼ばれるようになった。そう、その人物こそさすらいのファシリテーター、コジローなのである。

「さて、コジローが使えないとなると次の手を打たねばな。やはり実力行使で行くか、それとも社長のスキャンダルをでっち上げるか」
 しかし、朝霧一人の頭で考えられるのはこれが限界。具体的な計画を立てようと思っても、脳みそがフリーズし、思考が前に進まない状態。
「ちっ、こんなときこそ裏ファシリテーターのコジローがいれば」
 朝霧は二本目の葉巻に手を出し、イライラ感をニコチンで抑えることにした。

「コジローさん、お疲れさま。コーヒーをどうぞ」
「あぁ、真希ちゃん、ありがとう」
 喫茶エターナル。『永遠』という名のお店。6人掛けのカウンターと4人掛けのテーブルが二つという、小さな喫茶店である。
 ここでウエイトレスのアルバイトをしている女子大生の真希からコーヒーを受け取るコジロー。カウンターにはコーヒーにこだわりを持つマスター。そのマスターがカップを磨きながらコジローに話しかけてきた。
「今日は商談だったんだろ。どうだったんだ?」
「はは、どうしたもこうしたもないよ。私が一番嫌う『シナリオのある会議』を依頼されたよ」
「ほう、それでどうしたんだ?」
「それはご想像通りだよ」
 コジローはコーヒーを一杯すすり、目をつぶってゆったりとしたポーズをとった。店の中には、飼っている文鳥の鳴き声と水槽の水の音だけが流れている。コジローはその音をBGMにして、自分だけの永遠の時間を楽しんでいた。この店の名前の通り、永遠の時間を。
 その永遠の時間を奪ってしまったのは、コジローの携帯電話のメール音。コジローはせっかくの自分の時間が奪われてしまったため、不機嫌そうな顔でそのメールに目を通した。そしてマスターに一言。
「マスター、ラジオをつけてくれ」
 マスターは黙ってラジオをつける。そこからは心地よい女性パーソナリティー・長野はるみの声。
「続いてのお便りは……ペンネームはなえさん。はるみさん、こんにちは。私は二人の子供を持つ主婦です。今度三人目の出産を控えているのですが、最近お菓子にはまって困っています。太り気味なんですよね……」
 ちょっと聞くと、主婦層を狙った昼のラジオ番組。が、コジローはその声を聞きながらメモをとる。そして……
「マスター、ありがとう。」
「なんだ、休む間もなく仕事の依頼か。しかも今度は女性ときたか」
「あぁ、こんな人間に仕事を頼む物好きもいたもんだな」
「コジロー、その物好きのおかげで生活が成り立っているんだろう?」
「生活のためにやっているんじゃねぇよ」
 コジローはそう言うと店を飛び出していった。
「マスター、いつも思うんですけど、どうしてあのラジオの番組が仕事の依頼だってわかるんですか? コジローさんとはるみさんがつながっているっていうのは知っているけれど」
 真希は不思議そうにマスターに質問した。
「ま、詳しくは秘密だが、はるみのあの内容はすべてコジローとはるみの暗号なんだよ。クライアントからの依頼ははるみに一旦渡るようになっているんだ。そしてラジオでコジローに知らせる。万が一、コジローが聞けなかったときのためにオレも教えてもらっているがね。ま、真希ちゃんもそのうち覚えてもらうことになるよ」
「そのうち……ですか」
 真希はコジローの飲んでいたカップを片づけながら、「そのうち」がいつなのかを考えていた。

「あ、はじめまして。コジローさんですね」
 コジローが待ち合わせた場所。そこはこの街では珍しい和菓子茶房のお店。メニューに並んでいるのは、コーヒーなどではなくいろいろな種類の緑茶。他にも抹茶などが飲み物として並んでいる。また食べ物のメニューも和菓子ばかり。正直なところ、この場にコジローはとても不釣り合いである。
 が、それを感じさせないのは、相手が女性だったから。そう、コジローに電話をかけてきたのは二十代後半か三十代前半であろう女性であった。
 相手がコジローをすぐに認識できたのは、ここに来る男性客がほとんどいないおかげであろう。事実、見渡す限り男性客はコジローただ一人であった。コジローは仕事の話をするのに似つかわしくないこの場所をときどき待ち合わせに利用する。その方が周りの目を意識しやすいからだ。
 女性のクライアントは珍しくはないが、そのほとんどが経営者など裏の世界にどっぷりとつかっている者ばかり。今回のような若い女性からの依頼は始めてである。
「で、一体どんな依頼なんだい?」
コジローはビジネスライクに話しを始めた。これはコジローの信条である。なまじ相手に同情したりすると、冷静なファシリテーションを行うことができない、コジローは喫茶エターナルのマスターに常々そう言っている。あえてマスターにそう言うのはコジロー自身が自分に言い聞かせているためでもあった。
「あ、初めまして。私は田坂真由美といいます」
 そういって真由美から手渡された名刺。そこには「総務部秘書課専務専任秘書」という肩書きがあった。問題はその会社の名前である。その会社の名前を目にしたコジローは、一瞬しかめっ面をしてしまった。
 そう、その会社の名前は「オリオンスターコーポレーション」。午前中その専務の朝霧からの依頼を断ったばかりである。
「オリオンスターコーポレーションさんか。で、私に何のファシリテーションをして欲しいと?」
 すぐにポーカーフェイスに戻るコジロー。そして真由美はその問いに対してこう答え始めた。
「はい、コジローさんならすでにお耳にしていると思いますが、今我が社は社長派と専務派の派閥争いが行われています。今のところ優勢なのは専務派だと言われています。が、オリオンスターコーポレーションは代々同族会社。先代の力が大きかったせいか、社長一族の力も強大なのは間違いありません」
「そんな派閥争いのお家騒動には関わりたくないね。この話はなかったことに……」
 コジローが席を立ってこの場を去ろうとした動きを、真由美の次の一言が止めた。
「いえ、お願いしたいのはこの派閥争いをおさめるというものではないんです。専務を……朝霧専務を止めて欲しいのです」
「止める? 朝霧専務を? どういうことなんだい?」
コジローは上がりかけた腰を再びイスに下ろし、身体を真由美に対して向き直した。それを見て、真由美は語り始めた。
「朝霧専務は今、実権を自分のものにしようと必死になっています。そのおかげで、本来の業務が滞っているのも確かです。そして、今度は社長を引きずりおろし、同族会社にピリオドを打とうとしています」
「それと、私のファシリテーションがどう関係するんだい?」
「はい、私もコジローさんのお噂はきいています。以前、商事会社の最大手、四星商事との契約の時に活躍して頂いたと」
 オリオンスターコーポレーションと四星商事の問題。これは特許についての利権話しがからみあい、お互いに一歩も譲らないという膠着状態の中、工事着工の遅れが問題化し、へたをするとお互いに大きな損失をだす、というもの。このとき、コジローのファシリテーションのおかげで、お互いが納得し、さらに利益を生むという解決策を生み出すことができた。
「あの会議運営はすばらしかったと、朝霧専務も常々申しておりました」
「今日はそんな思い出話をしにきたわけじゃないだろう。で、朝霧専務を止める、というのはどういうことなんだい?」
 コジローは真由美の目を真剣に見つめた。
「あ、はい。コジローさんが今朝朝霧専務からの仕事の依頼を断ったことは存じ上げています。そのせいか、あのあとすぐに緊急会議が招集されまして……もちろん、朝霧専務派だけですが」
「内容は、いかにして社長を失脚させるか、だろう?」
「えぇ、お察しの通りです。私は朝霧専務の言うことももっともだと思っております。今の社長は本当にこの会社の将来を考えているのだろうか? いまだに会社としてのビジョンが明確になっていないので、私たちは不安で仕方ないのです」
「だから、朝霧専務を? だとしても、朝霧専務についていくほどのカリスマがあると思うかい?」
「えぇ、問題はそこなんです。経営者として数字を見て分析する能力は、明らかに朝霧専務の方が上です。実際、社長の最終判断も朝霧専務の作成した資料を基に行われているくらいですから。しかし、人としてのカリスマは今の富田社長の方が明らかに上です」
 富田大二郎。オリオンスターコーポレーションの三代目に当たるこの社長は、若いときから経営学をたたき込まれ、この会社を急成長させた立役者だ。が、ここ数年は会社経営の第一線を朝霧専務他数名の幹部社員にまかせ、自分の研究に没頭し始めた。その研究は経営学ならばよかったのだが、心理学や宗教、はてはUFOといった普通の人では理解できない方向へ進んでいる。その態度に、朝霧専務他幹部社員は不安を隠さずにはいられないのだ。
 だからといって、富田社長が第一線を退かないのは、あのカリスマ性に惚れた株主連中が手放そうとしないからと聞いている。
「だからこそ、朝霧専務は社長を何とか失脚させようとしているのです。しかし、このまま朝霧専務を社長にしても、オリオンスターコーポレーションがうまく行くとは、私にはとうてい思えないのです。私だけではなく、朝霧派の若手部長も同じ思いです。朝霧専務と、社長の間を、そしてオリオンスターコーポレーションの方向性をコジローさんのファシリテーションの腕で何とかして頂けないでしょうか? おねがいします。朝霧専務を……あの人を止めてください!」
 しばらくの沈黙が続く。
 真由美はじっとコジローの顔をうかがっている。コジローはその真由美の目をじっと見つめている。何かを探るように。
 そしてコジローはゆっくりと口を開いた。
「わかった。この依頼引き受けよう。ただし、条件がある」
「条件……?」
「まずは社長、富田社長に会いたい。それが無理ならば、この依頼はなかったことにしてもらう」
「あ、はい。それならば何とかなると思います。ありがとうございます。ありがとうございます」
 真由美の顔は先ほどのものと違い、一転して笑みを取り戻した。
「この顔の方が、君はすてきだな」
 コジローは真由美に聞こえない、小さな声でぼそっとつぶやいた。

「初めまして……ではなかったですね。お久しぶりです、と言えばいいのかな?」
 コジローは今、オリオンスターコーポレーションの社長室にいる。
 目の前にいる相手、これは当然ながらオリオンスターコーポレーションの社長、富田大二郎である。その富田が気さくな感じでコジローに握手を求めてきた。
「そうですね、最初に私が四星商事とのファシリテーションをやって以来ですから」
 そう言いながら、コジローもにこやかにその握手に応じた。
「あの件ではお世話になったね。といっても、あの件を仕切ってくれたのは専務の朝霧だが。あれから何度か朝霧の依頼でコジローさんのお世話になっているようですね」
 この社長の言葉通り、四星商事との一件以来専務の朝霧がクライアントとしてコジローに何度も裏ファシリテーションの仕事を依頼している。そのほとんどが取引会社との、表沙汰にできないトラブル解決。そのたびにコジローは両者が納得し、さらにその後も利益となる答えを引き出している。
「朝霧の秘書から、コジローさんが会いたいということを伝えられてね。私もコジローさんの活躍はいつも耳にしているから、一度しっかりとお礼をしたいとは思っていたんですよ」
 富田はそう言いながら、自分で入れたお茶をコジローに勧めた。
 この社長室、専務の朝霧の部屋と広さは同じくらいだが妙に狭く感じる。それもそのはず。壁にはぎっしりと本が積み重なっている。それも整然と並んでいるのではなくどれも読みかけといった感じ。床にも本が散らばっている。さらに机には書きかけの論文。朝霧の部屋のような装飾物は一切ない。どこかの大学教授の部屋、といったほうがしっくりくる。
 コジローは一通り部屋を見回した後、おもむろにこう口を開いた。
「富田さん、回りくどいことは抜きにして率直に聞きましょう。富田さんはこのオリオンスターコーポレーションをどのような方向へ導きたいと思っているのですか?」
 そう言って、コジローは真剣な目つきで富田を見つめた。その真剣な目にしっかりと応えるように、富田も腰を下ろしてコジローと向かい合った。
「コジローさん、私のうわさはご存じですよね」
「うわさ、というと?」
「おとぼけはなしですよ。これだけウチの会社に関わってくれているんだ。話しくらいは聞いているでしょう。ボクが妙な研究をしているって事。心理学とか宗教とか、さらにはUFOを呼ぼうとしているとか」
「えぇ、確かにそのようなことは耳にしていますが」
富田はコジローのその言葉を聞き、お茶をひとすすりしてから言葉を続けた。
「だから、社員は不安になっている。特に専務の朝霧あたりは私を背任させようと必死だ。ま、それもそうですよね。ここまで大きくなったこの会社のトップが、新興宗教でも始めるんじゃないかってうわさになったら、それこそ株価が下落してしまいますからね」
 富田は自分のことにもかかわらず、他人事のような口調で言葉を発した。
 なんなんだ、この余裕ぶりは。さすがのコジローもこの富田の態度や言葉を理解することはできなかった。そのとまどいを隠すように、コジローは富田に質問を投げた。
「富田さん、あなたは社長としてこの会社をどのような方向へ向かわせようと思っていらっしゃるのですか? 今、富田さんがおっしゃったように社員の一部は不安になっています。その不安が……」
「その不安が、朝霧の秘書からの依頼となってコジローさんが今ここにいる。そうでしょ?」
 コジローは富田にズバリ言われて、びっくりしてしまった。まさにその通りだからである。富田の言葉は続く。
「まぁ、隠しておくほどのものじゃないし、そろそろその時期に来たようなのでコジローさんを信じてお話ししましょう。ボクはね、何も趣味や酔狂でこんな研究を始めたんじゃないんですよ。ある事件がきっかけで、この世界を研究し始めたんですよ」
 ある事件、それはかつての富田の右腕だった男の自殺。病名は『うつ病』。その当時、オリオンスターコーポレーションはようやく上場を果たし今からの伸びを期待される会社となった。しかしその反面、富田や朝霧を始め多くの幹部は前以上の仕事を強いられ、精神的にかなりきつい時期があった。
 そんなとき、富田のちょっとしたミスから大きな損失を被る事態が発生。そこをカバーしようと当時の右腕だった男、浜砂常務がカバーに走り回った。その甲斐あってか、損失は最小限にすんだ。が、株主から責任問題を問われたときに浜砂がすべてを請け負った。ここまでは美談なのだが、その後がまずかった。
 これだけの働きをしたにもかかわらず、浜砂は減給と降格の処分。これについては社長の富田も必死になって食い止めたのだが、流れとしてどうしようもなかったそうだ。そのころから浜砂の様子がおかしくなり、ついには自殺へと追い込まれた。
「あの事件、本当に罰せられるのはボクだったのに、浜砂を守りきれなかったボクの力が足りなかった……」
「だから、うつ病について理解しようとしたことがきっかけで、心理学や精神論、さらには宗教の勉強を?」
「コジローさん、そのとおりだ。そして今一つの結論に行きついた。これからの社会を生きる企業は、なによりも人を大切にしなければいけないと言うことだ。もちろん、今の時代この方向で多くの企業が業績を上げていることは知っているよ。これが社会の流れだと言うことも。でも、この会社の体質を根本から変えようとしたら、いくらボクが声を大にして叫んでも変わらないということも気づいたんだ」
 コジローはその通りと言わんばかりに、大きくうなずいた。
 事実、専務の朝霧は現物・現金主義者。お金の計算には鋭く、何か問題が発生したときにはその責任をとことん追及し、そして対策と同時に責任者へ厳しい処罰をするということで有名だ。そのおかげで、担当レベルからは不平不満が山のようにでている。中には浜砂同様うつ病にかかるものもいる。
「朝霧はうつ病について何も理解していない。うつ病の話しになると『それは個人の意志の弱さが出たものでしょう。会社が責任をとるべき問題じゃない』といって取り合わないんだ。まぁ、朝霧のおかげでこの会社の経営が成り立っているようなものだから、だれも文句は言わないけどね」
 富田はそう言って、湯飲みのお茶を飲みほした。
「なるほど、富田さんの言わんとしていることもわかりました。では再度お聞きします。富田さんはこの会社をどのような方向へ向かわせようと思っていらっしゃるのですか?」
「ボクはね、この会社の社員一人ひとりが強い心で結びつくいている。そしてすべての社員がここにいてよかった、そう思えるような会社にしたいんだ。この会社は大きくなりすぎた。大企業病が蔓延しているよ」
 コジローは富田の言わんとしていることを察知したのか、スケジュール帳を取り出し富田にこう言った。
「来週の火曜日、株主総会前の社内での戦略方針会議がとりおこなわれます。私はそのファシリテーションを請け負うつもりです」
「朝霧の依頼かな?」
「最初はね。しかしそれはお断りしました」
「ではなぜ?」
「この会社の社員を守るため、そしてこの会社を守るためです」
「そこまでする義理があるのかね?」
「えぇ、それがクライアントの真の願いであると確信しましたから」
 富田はその言葉を聞いて何かを感じたようだ。一瞬微笑んで、コジローに右手を差し出した。
「ではよろしく頼むよ、コジローさん」
コジローもその言葉に応えるように、ゆっくりと右手を差し出した。

「おぉ、そうか。コジローはファシリテーターを引き受けたか。よしよし、これでシナリオ通りだぞ……」
 コジローの退席後、朝霧は秘書からの報告を聞いて一人笑みを浮かべていた。

 コジローがオリオンスターコーポレーションの社長、富田と面会した翌日の朝。不意にコジローの携帯が鳴った。
「なんだこんな時間に」
 日課である朝のジョギングを終え、今からシャワーで汗を流そうとしていたコジローは不機嫌そうに携帯をとった。
「マスターか……はい、コジロー。どうしたんだ、こんな朝早く」
「コジロー、おまえさんに客だ。どうやらこの前の依頼主らしいぞ。とびっきりの美女だ」
 どうやら客というのは田坂真由美のようだ。先日オリオンスターコーポレーションでのファシリテーションを依頼してきた、朝霧専務の秘書だ。
 喫茶エターナルは朝からモーニングサービスをやっている。それにしてもこんなに早い時間に。そもそも、コジローと喫茶エターナルがつながっていることを知っているのは、ごく一握りの人間だけ。コジローは疑問に思いながらも、急いでシャワーで汗を流し、喫茶エターナルへと足を運ぶことにした。

「いらっしゃいませ……あ、コジローさん」
「真希ちゃん、おはよう。あ、コーヒーはいらないから」
 バイトの真希はコジローの顔をみてすぐにいつものブレンドを用意しようとしたが、コジローはそれを止めた。
「田坂真由美さん、でしたよね。とりあえずここを出よう。マスター、彼女の分はつけといてくれ」
 マスターはコジローの言葉に了解の合図。真由美をせかすように外へ連れ出した。
「コジローさん、どうしたんですか? あの女性と話しをするなら、ここでゆっくりすればいいのに」
 真希は不思議そうにマスターに尋ねた。
「コジローはね、この店でクライアントと仕事の話しは一切しないんだよ。あいつにとってここは日常を忘れるための異空間だからね」
 真希の問いにマスターはそう答えた。
「ふぅん。でもマスターとだったら仕事の話しをしますよね?」
「あくまでも必要最小限のね。あいつは外部の人間にこの場所を知られたくないんだよ。それに真希ちゃんに仕事の時の顔を見られたくないんだろうな」
 真希はマスターの言葉がどういう意味かわからないといった顔つきで、真由美の飲んだカップを片づけた。

「このあたりでいいだろう。ま、座りなよ」
 コジローは喫茶エターナルから十五分ほど歩いた公園へ真由美を連れ出した。その道中は一切無言であった。おかげで真由美はどうしてこんなに遠くまで連れてこられたのか、わけもわからないままである。
「コジローさん、どうしてあの喫茶店ではいけないのですか?」
「人に聴かれたくない話だからね。そうだろう、真由美さん」
 コジローは木陰のベンチにどっかりと腰を据えて、真由美の方を向いてそう答えた。
「あの喫茶店をどうやって突き止めたのか、それは問わないことにしておこう。それよりも、こんなに朝早くからどうしたんだい?」
「え、えぇ。実は来週の会議のファシリテーションの前に、どうしても緊急にコジローさんの耳に入れておきたいことがあって」
「そんなに緊急なのか?」
「はい。でも、それよりも私自身がこうやってコジローさんと会ってこのことを話していることを、他の誰にも見つからないようにしないといけないと思ったもので」
「よほど重大な情報のようだな。前置きはいい、用件だけ聞こう」
 コジローはビジネスライクに、表情を変えずにそう答えた。
「実は今度の会議の場で、裏切りを起こそうとしている人がいるんです」
「裏切り? それは朝霧専務のことではなくて?」
「えぇ、朝霧派の人間で海外営業担当の武田常務です。彼が朝霧を裏切って、会議の場で朝霧のスキャンダルを打ち出そうとしています」
「ほう、ということは社長派に寝返ったということかな?」
「いえ、そうではないんです。朝霧派でも社長派でもない、第三の勢力としてオリオンスターコーポレーションを握ろうとしています」
「武田常務……か。彼ならやりそうなことだ」
 コジローは武田常務の顔を思い出しながらそうつぶやいた。
 武田常務は、オリオンスターコーポレーションの中でも武闘派ともいわれている。かつては学生運動で機動隊を相手にしたとも伝えられている。仕事の上でも取引先を常に「敵」とよび、いかにして「敵」から仕事をとってくるか、といった戦術的な論法を部下に説くことを好みとしている。そもそも、この武田常務が朝霧専務の下についていること自体不釣りともいえる。
「このことをコジローさんに伝えておかなければ、来週の会議は大混乱を起こしてしまうのではと思いまして。それで急いで伝えないといけない……」
「そう思って、朝霧専務に私のいそうな場所を聞き出し、さらに人づてにあの喫茶店をつきとめた。ということかな?」
「え、えぇ……」
 真由美は少し口を重たくしてそう答えた。
「まぁいい。とりあえずその情報はありがたく受け取っておくよ。それよりも、君がこうやって私のところに危険を冒してまで来たというのは、君にも何か思うところがあるのだろう?」
 コジローは真由美の顔をのぞき込み、真由美の真意を探り始めた。
「私は……私はオリオンスターコーポレーションが好きで入社したんです。今はいろいろと言われていますが、社長の考え方やポリシーが好きで。今でもその気持ちは変わっていません。でも……でも、朝霧専務や武田常務が会社の舵を取るのであれば……その方が私は不安なんです。朝霧も武田常務も、いろいろと考え方を持っていますが悪い人ではありません。だからこそ、社長も含めてお互いが手を取り合って会社の舵取りをしてもらえれば……そう思って」
 コジローは真由美のその言葉を聞いて、突然立ち上がり電話をかけ始めた。
「あぁ、オレだ。コジローだよ。オリオンスターコーポレーションの件、大至急頼む。今日中にだ。それと片山、おまえ最近口が軽いぞ」
 コジローは手短に用件を済ますと、真由美にこう伝えた。
「君の会社の件はこちらにまかせておいてくれ。君はこれ以上危険なことはしないように。わかったね」
 真由美は黙ってうなずいた。さらにコジローは言葉を続けた。
「それと、片山が君によろしくと」
 真由美はその言葉を聞いてびっくりした。
「ど、どうしてそれを?」
「はは、君も片山も根は正直なんだな。二人ともちょっとカマをかけるとすぐにひっかかる。私の居場所を知っているのはごく少数。さらにその中でオリオンスターコーポレーションに一番詳しいのは、情報屋の片山だ。なにしろオリオンの元社員だからな。君がそんな片山を知っていてもおかしくはない。だから片山にもカマをかけたらすぐに口調が変わったよ。そして君もね。片山のヤツ、あれじゃ情報屋としてはまだまだ二流だな」
 真由美はやられた、という顔をした。しかし、コジローという人間にさらに興味が湧いたのも事実だった。
「よし、これで材料はほとんどそろった。あとは隠し味だけだな。真由美さん、君に頼みがある」
「なんでしょうか?」
「この先はいつもと変わらない秘書の仕事を続けること。そして私に連絡は一切取ろうとしないこと。つまり、朝霧専務には朝霧専務が思っているとおりに動いて欲しいんだ。もちろん、武田常務にもね」
「はい、わかりました。でも何か動きがあったときにはどうすればいいのですか? できればお知らせた方がいいと思うのですが」
「心配はいらない。私もプロだからね」
 コジローはやけに自信のある態度で真由美にそう伝えた。
「さてと、来週の会議はちょいと一波乱ありそうだな。まぁ、そうでなくてはこの仕事もこないわけだから」
 真由美は理由はわからないが、コジローのその言葉に妙に安心することができた。

「コジローさん、おはようございます」
 オリオンスターコーポレーションの受付でコジローを出迎えてくれたのは真由美だった。
 週が明けた火曜日、今日はいよいよオリオンスターコーポレーションの今後の経営方針を決める会議の日。そう、コジローがファシリテーションを依頼された会議の開催日である。
 コジローはファシリテーションを依頼された場合、会議の二時間前には到着するように心がけている。会議の場づくりと資料の整理、そして一時間前には精神統一のために会議室で瞑想にはいるためだ。コジローにとってこの瞑想の時間が会議のすべてを左右すると言っても過言ではない。それだけ、ファシリテーションに入ると集中力を要するということらしい。
「もうわかっていると思うけれど、会議室には開始三十分前までは誰も入れないように」
「はい、承知しています。でもその前に一つだけコジローさんに耳に入れておきたい情報が」
 会議室へ向かう途中、真由美はコジローにそう告げた。
「どんな情報だい?」
「えぇ、武田常務のことです。内容までははっきりとしていませんが、武田常務のターゲットは朝霧専務だけではなく社長にも及んでいるようです。とにかく今回の会議をスキャンダルでひっくり返し、二人の退陣を要求しようということらしいのですが」
「なるほどね……で、話しはそれだけかい?」
 コジローはそれだけで納得したのか、それとも真由美の発言を相手にしなかったのか。それ以上は興味のないそぶりであった。
 このコジローの態度については、真由美の方が驚いていたようだ。もう少し詳しい情報を知りたいと思うのが普通では? 真由美はそう思っていた。
「話しが済んだのなら、会議室の準備をするので行かせてもらうよ」
「あ、はい。わかりました」
 コジローの頭の中は、すでに会議でファシリテーションをやっている。真由美はそう感じていた。
「あ、一つ君にお願いがある」
 コジローは急に立ち止まり、真由美の方を向いてこう伝えた。
「今回の会議、君もオブザーバーとして参加するように。といっても、いつも朝霧専務のそばにいるので、いつもどおりに参加してくれるだけでいいのだけれどね」
「はい、わかりました」
 真由美はコジローがあらためて自分に「会議の参加」を伝えたことに疑問を持ちながらも、コジローに密かな期待を寄せていた。
「ではこれからオリオンスターコーポレーション事業戦略会議を開催します」
 朝霧専務の会議開会宣言。つづいて正面に座っているコジローの紹介。社長を始め今回会議に参加している役員メンバーおよび部長十六名、そしてオブザーバーとして秘書の姿が数名。この会議室にいるメンバー全員、一度はコジローのお世話になった者ばかりである。その中には当然、真由美の姿もあった。
 朝霧の形だけの紹介を終え、早速進行をコジローへ譲る。
「ではあらためまして、みなさんこんにちは。早速、事業戦略会議に移らせて頂きます。まず今回の会議の目的と目標について確認致します」
 そう言って、コジローはホワイトボードに『目的:今後の企業優位を成長させるための施策を打ち出す』『目標:三年後までの中期計画と次年度の短期計画の明確化と合意』と書き出した。
 会議の最初に目標と目的を的確に書き表すのは、コジローのファシリテーションテクニックである。これにより、会議参加者が会議の方向性を見失うことなく議論を進めることができるのである。
「では次に、本会議におけるルールを明確にしておきます。まず一点目……」
 コジローはこれもホワイトボードに書き記しながら一つ一つ参加者へ伝えていく。この方法もコジローのテクニックである。一通り説明した後で、コジローは最後の項目を繰り返して読んだ。
「最後の項目、『話に割り込まない』。これは必ず守るように。これを守らなければ、この会議から退出して頂きます」
 いつになく厳しい口調で最後の項目を強調するコジロー。しかも今回は会議からの退出という罰則付きだ。何度かコジローのファシリテーションを体験した朝霧でさえ、この厳しいルールにしかめっ面をしている。
「さて、まずは各部署から出されている今後の施策案について、一部署五分以内で説明して下さい」
 会場にちょっとしたどよめき。なぜなら、どの部署も五分で説明などというボリュームではないからだ。
「お静かに! なにも一から説明する必要はありません。施策の目的と目標値、そして概要の項目と期限。この程度伝えて頂ければ十分です。その他の内容については、後日資料がCD-ROMで送られることになっています」
 例年ならば各部署の施策資料が山のように積み上げられるこの会議。しかし今年はコジローからの指示もあり、資料配付は後日。さらにプレゼンテーションに使うパワーポイントの資料は一部署五枚以内と制限されている。
 これに喜んだのは各部署で毎年山のような資料をつくらされている担当達。逆に困った顔をしたのは発表する役員。資料の枚数が多ければ多いほど、「うちの部署はこれだけやることがあるんだ!」と毎年PRできていたからである。だが、その内容は紙芝居が多く、本質を全く突いていないことを役員以外の担当は実感していたのである。
 コジローの指示に従って、オリオンスターコーポレーションにある七つの部署からの報告が始まった。最初に報告を始めた技術部に関しては、自分のところで行っている業務の紹介の半分も説明しないまま五分が経過。コジローは無情にも途中でストップをかけ次の部署の報告へ切り替えた。
 他の部署も似たようなものだ。すべてを言い切る部署は残念ながら出なかった。が、やっていくたびに話の内容がコンパクトになり、最後に発表した海外業務部に至ってはあと一分ほどあれば終了というくらいまで上達していた。
 しかし不満を持っているのは最初に報告した技術部。
「コジローさん、いくら発言時間を守るというルールがあるとはいえ、満足に報告できないのであれば会議になりませんよ」
 技術部の川崎常務がそう愚痴を漏らした。その声に続いて、二番目、三番目に報告をした生産管理部、製造部の役員も不満を漏らした。
 その声に対して、コジローは最初の険しい顔とは異なり、穏和な顔つきでこのような話しを始めた。
「さて、皆さんお気づきになりましたか? いままでいかにムダな発言が多かったことか。最後に報告頂いた海外業務部の矢部役員、あの報告で内容に不満のある方はいらっしゃいますか?」
 コジローのこの問いに、あらためて矢部役員の報告のうまさに参加者一同は感心した。
「会議の発言というのは、いくらでも伸ばすことはできます。ムダな贅肉を付けて発言すれば、発言した方は満足できます。が、それではまわりは飽きてしまうし本当に伝えたいことがなんなのかがわからなくなる」
 一同は思わずうなずいた。
「それではすべての部署にもう一度発言のチャンスを与えます。時間は同じく五分。そのまえに五分間時間を差し上げますので、話す焦点を絞って下さい。それではスタート」
 コジローは手元のストップウォッチをスタートさせた。会議参加者一同は、あわてて担当部長と一緒に報告内容の焦点を絞り込む作業にかかった。
「コジローさん、さすがだわ。これで会議の主導権を握ったも同然だわ」
 真由美は心の中でそうつぶやいた。

「以上で報告を終わります」
 会場からは大きな拍手。今までこれほど盛り上がった報告もなかっただろう。それに一度は報告のやり直しをしたとはいえ、今までならば半日以上かかっていた各部署からの報告が会議開始からたった一時間半で終わったのだ。しかも、内容は例年よりも焦点が絞られており、参加者すべてが頭の中に発言を残すことができた。
 さらには、コジローがフィリップチャートを用いて、各部署の報告内容をさらにわかりやすく完結に記録してくれた。その記録も各部署の中期、短期目標と5W2Hが明確になっている。視覚にも残っているため、あとから振り返りができるのだ。
「さて、ここまでは各部署からの施策です。それぞれ考え抜いた内容だとは思います。これを一つ一つ見ていく前に、まずは富田社長から企業としての施策について、同じように発表してもらいましょう」
 このとき、朝霧の目線が富田と武田に向けられていたのを真由美は見逃さなかった。また、武田もその目線が富田と朝霧に向けられていた。
 社長の富田の発言が始まる。
 ここにいる参加者を始め、社員全員への感謝の意から始まり、「企業としての視点を人づくりの方向へ」という内容での報告だ。
 富田の用意した資料はわずかに三枚。だが、この三枚で富田が言いたい「人の成長に目を向けた制度とコミュニケーションづくり」が誰の目にも理解できた。役員の中には、何か思いがあったのか目頭を押さえている者すらいる。
 わずか五分弱であったが、富田の発言には感動すら覚える。
「異議あり!」
 その富田からの報告も後少しで終わろうと言うところで、突然武田常務が手を挙げて立ち上がり、コジローのいる場所へ移動し始めた。
 驚いたのは他の参加者。社長の言葉に多くの者がうなずき、納得できると思っていたからである。が、その武田の動きをコジローは冷静に受け止めた。
「武田さん、今は富田社長の発言中です。異議に関しては発言後にお願いします」
 コジローはバンッとホワイトボードに書かれているルールを示し、武田の動きを封じた。武田もさすがにこれには反抗できない。いや、コジローごときの発言に反抗することは簡単なのだが、「ルール」を言われたときの周りの目が気になり、引っ込むしかできなかったのだ。
「中断させてしまい申し訳ありません。富田社長、続きをお願いします」
 コジローは丁寧に謝罪し、富田の発言を促した。
「いや、いいよ。言いたいことはすべて言い切ったし。それよりも、ボクは武田くんの異議の内容を聞きたいな」
 コジローはその言葉を聞き、武田常務へ発言を促した。
「あ、いや。それでは異議を発言させて頂きます。社長の言う人の問題。これを扱うには……」
 だが、武田は先ほどの勢いをそがれたのか、発言に勢いがない。武田の発言は、以前自殺へ追い込んでしまった浜砂さんについての責任追及だった。が、その内容も富田社長の施策の必要性を訴えるための格好の材料になってしまった。武田常務の発言に一番納得できなかったのは、武田自身であったことは明らかである。
「ちっ、しくじりやがって」
 小声でそうつぶやいたのは朝霧であった。だがその声はまわりに聞こえることはなかった。しかしそのときの表情を見逃さなかった人物が一人だけいた。
「朝霧専務、今の武田常務の発言について一言ありませんか?」
 コジローは朝霧にそう質問した。
「あ、いや。人の面については社長のおっしゃるとおりだと思います」
 心にもないことを。朝霧は自分にそう言っていた。
「さて、社長と各部署からの施策案について提案が出ました。これから社内の意思統一に向けて、さらにこれらの案を完全なものにしていくための討議を行います」
 このとき、朝霧の目が輝いた。待ってましたといわんばかりである。だが、この後のコジローの発言が、朝霧のその意欲をそいでしまった。
「討議の方法ですが、五人から六人のワークショップ形式を取ります。秘書の方はオブザーバーですので、後ろで見ていて下さい」
 ちっ、これでは全体に自分の意見を通すことができないじゃないか。朝霧は心の中でそうつぶやいた。
 グループは富田社長、朝霧専務、武田常務がそれぞれ別々の班になるように別れた。これはコジローの促しが効いている。そして、それぞれの班に模造紙と付箋紙が配られた。
「これからブレーンストーミングを行ってもらいます。やり方はもうご存じですよね。それではまず、テーマを発表します。ここに掲げられている施策の問題点や不明点。これを十分間で三十項目以上出して下さい。もちろん、無記名式です。それではスタート!」
 いやおうなしにスタートするコジロー。その声につられて、役員や部長一同は付箋紙に書いては発表を繰り返す。
 十分後、さらにコジローはこう続けた。
「では次に、これらの施策のいいところ。これを十分間で同じく三十項目以上です。スタート!」
 あれこれ考えている暇はない。ブレーンストーミングは思いついたらすぐに発言が鉄則。朝霧も武田も、まわりの雰囲気に流されたのか、何かをたくらむ暇もなく意見を出していく。
 さらに十分後、コジローは三回目のブレーンストーミング。
「ここで、自分がやりたいと思っている施策を、思う存分出してください。ここが皆さんの主張を出すところです。言いたいこと、やりたいことを余すことなく全力で出し切ってください。これも時間は十分間。いきます。スタート!」
 この時点で、がぜん張り切ったのは朝霧常務。が、まわりはすでにブレーンストーミングの勢いに乗って、朝霧常務以上に言いたいことを出してくる。その雰囲気に負けじと朝霧常務も必死でコメントを出す。
 この様子を客観的に見ていた真由美。思わずこう漏らした。
「全員がコジローさんのペースにはめられているわ……」
 真由美の言葉通り、この時点で悪巧みを考える余裕もないのが現実であった。
 朝霧の出した意見。これはあくまでもブレーンストーミングの中で出された一つの意見としか見なされず、しかも無記名式なので誰が出したのか後から見てもわからない状況。かつ、朝霧常務は「社長をひっくり返す」という計画から意見を出しているため、すべてが否定的な意見。
 しかし、ブレーンストーミングで出されている大半の意見は、どうしたら会社をよくできるかという建設的な意見ばかり。その中でも、「人の心」に迫った社長の意見がひときわ目立っているのは、誰の目から見ても明らかであった。
 ブレーンストーミングで出された意見を各グループでまとめ、さらに発表。このときに参加者全員の思考は、先ほどのブレーンストーミング三連発で何も考えられないほど疲れ切っていた。が、その疲れが意外にも心地よいものであることを朝霧常務も感じていた。
「さて、ここでいくつかの施策が出されましたね。ここで出た意見と、各部署から出されている施策。これらを組み合わせて、『何があればこの会社は発展していくのか』という視点でさらに施策を明確にしていきましょう」
 コジローのテンポのよい進め方に、参加者全員が会議に引き込まれている。ここから建設的な意見が出ないわけがない。これがコジロー・マジック。
 しかし、一人だけこの模様を冷静に見つめている人間がいたことを、コジローも気づいていなかった。

「……ということで、今後の施策としては以下のようにまとまりました」
 コジローが会議のまとめに入った。気がつくと、朝霧も武田もコジローがまとめに入った案に同意している形となった。
 今回、コジローがファシリテーターをやった会議でまとめた案。それは富田社長が打ち出した「人」に目を向けての社内改革をベースとし、そこから派生して各部が業績を上げるためのプランを立てていった形となった。
「さて、皆さんにお聞きします。この案で来月開かれる株主総会の事業プラン草案としてもよろしいでしょうか?」
 この会議に参加しているほとんどの者が「これ以上の案はない。何を今さら」というような顔つき。それだけ完成度がいままでになく高いものであることがうかがえる。
「それでは決を採ります。この事業プランに反対の方、挙手をお願いします」
 コジローは確認のための採決を行った。
 この時点では朝霧も武田も、そして参加者一同も、さらにはコジローも反対する人はいないはずと思っていた。
「はい、反対です」
 なんとここで一人の手があがっていたのだ。しかも、反対したのは誰もが予想しなかった、そして誰もが放ってはおけない人物であった。
 その人物とは……
「しゃ、社長!?」
 朝霧はおもわず声をあげてしまった。
「はい、私は反対です」
 社長は右手をまっすぐにあげ、真剣なまなざしでコジローを見つめながらそう発言した。
 さすがのコジローも一瞬あせった。まさか社長が反対するとは。
「あ……は、はい。反対が一、ですね。では保留するという方……」
 引き続き決を採るコジロー。保留はゼロ、賛成が十五。
 結果を見れば賛成多数で本案決定、というところ。しかし、反対したのが今回の案のベースを立案した社長なのだ。
 コジローをはじめ参加者一同は、社長にどのような意図があるのかを知りたいのは当然のことだった。そこで、コジローはこう切り出した。
「富田社長、自らが立案した事業プランに反対ということでしたね。その意図を教えていただけませんか?」
「そうだね、みんなにボクの意図を知らせないとこの場はおさまらないだろう」
 富田はゆっくりと立ち上がり、全員が見渡せる位置へと移動した。
「まずは皆さん、会議お疲れ様でした。おかげでボクが考えていた以上のものができあがったよ。本当に感謝する。ありがとう」
 だったらどうして? これが富田の目の前にいる会議参加者一同にはさらに謎として深まっていった。
「今回決まった事業プラン、ボクの考えていたものをベースに社員一人ひとりを見つめてくれるようなものになっている。ボクはとてもうれしいよ。しかし、一つだけ重大なことが抜けていたんだ。ボクとしては、これが抜けたままではこの案に賛成することができなかったんだよ」
「そ、それはなんなのですか?」
 朝霧が社長に問いかけた。他の参加者も同様な思いを抱いていたはずだ。富田社長はその問いかけに対して、こう答えた。
「それはね、この事業プランを遂行する人物。つまりは責任者だ」
 いわれてみれば、細かなプランを遂行するための責任者は決まっていた。が、全体を取り仕切る責任者については明文化されていなかった。しかし、これは当然社長の富田が取り仕切るもの。誰もがそう思っていた。
「社長、それは社長のお仕事なのではないでしょうか? もちろん、社長お一人にまかせておくということはしませんよ。今まで通り、私や武田、その他の役員メンバーがしっかりとサポートさせていただきます」
 朝霧はそう発言した。これは当然のことだ。だから何を今さら、というのが全員の本音なのである。
 しかし、その思いに反した意見が富田の口から飛び出した。
「コジロー君、君もそう思うかい? 今回の会議の裏側を、そしてボクのことを全て知っている君ならそうは思わないだろう?」
 コジローはこの時点で富田の意図を全て悟った。
「コジローさん、どういう意味なんだ? わかるように説明してくれないか」
 朝霧の目は、富田からコジローへと移された。
 コジローはしばらく悩んだ末、ゆっくりと富田の横へ移動し口を開き始めた。
「富田さん、言ってもいいんですね」
 富田にそう確認。富田はゆっくりとうなずいた。
「では今回の会議について、何があったのかを説明させていただきます。その前に朝霧さんに確認したいことがあります」
「な、なんだ?」
「朝霧さんはこのオリオンスターコーポレーションを愛していますか?」
「もちろんじゃないか。だからこそ、今回はこうやって……」
 朝霧は一瞬しまった、という顔をした。その顔の変化をコジローが見逃すはずはなかった。
「ここにいる皆さんは本当に正直な方だ。けっして悪人にはなれませんね。では説明させていただきます」
 コジローは事の顛末を説明し始めた。
「まず最初に、この会議についてのファシリテーターを朝霧専務より依頼されました。ですが、このときには朝霧専務は自分が有利になるような決議を望まれていました。残念ながら私はそのような会議運営は引き受けないことにしています。ここで一度お断りしたのですが、朝霧専務の秘書、そこにいる田坂さんから再び依頼を受けました。このときには、朝霧専務のことを止めて欲しい、そういうことでしたよね」
 この言葉に、真由美はこっくりとうなずいた。
「さらに数日後、秘書の田坂さんから武田常務が第三勢力として謀反を起こす、という情報をいただきました」
 このときの武田は、いつもの武闘派の勢いをすでに失い、もじもじと下を向いていた。
「実はこれ、すべて朝霧専務が仕組んだシナリオ通りの出来事だったのです」
「な、何を根拠にそんなことを!」
 そう反論したのは朝霧本人。だが、コジローはあわてずに先を進めた。
「今回、朝霧専務が立てていた事業プラン、それは新たなるオリオンスターコーポレーションをつくるため、事業部の分社化と独立採算性を採ること。そして役員をそれぞれの社長に任命し、今の社長の富田さんには会長職へ退いてもらう。会長職、といっても実質は名前だけの名誉職。すべての実権は朝霧さん、あなたが握るというものだ。そのためにも、この会議の実権を朝霧さんが握りたかった。だが、強引に会議の実権を握ってしまえば誰もが疑いの目を持つ。だから、外部のファシリテーターが欲しかったんですね」
「うっ……」
 朝霧は絶句していた。コジローの言葉はさらに続いた。
「だから秘書の田坂さんを使った。自分の動きを止めてくれ。そういわれれば私が必ず動くと思ったんでしょう。私も最初はそのつもりでした。さらには武田常務が謀反を起こすという情報をわざとリークさせた。会議の場で武田常務が謀反を起こせば、社長と一緒に会社を守る立場として朝霧専務が立ち上がり、武田常務を追い払う。私はファシリテーターなので、謀反について直接関与する権限がない。ここで会議全体を朝霧専務が乗っ取り、流れをつくろうとした。ですよね、朝霧専務?」
「な、何を証拠にそんな言いがかりを!?」
 朝霧専務は猛然と反論したが、懐から一通の手紙を取り出し、そこに書かれている事を読み出した。
 そこには今コジローが伝えた事が全て書かれていた。さらには、CDROMが一枚。その中には朝霧専務が立てていた事業プランの裏側までがすべて記録されていることをコジローは伝えた。
「ど、どこでそんなものを……お、おまえか!?」
 朝霧の目は秘書の真由美へと向けられていた。一同の目は真由美へと向けられた。真由美はたじろぎもせず、ゆっくりと立ち上がって、しっかりと会議の参加者を見つめて発言を始めた。
「わたしは、わたしはこのオリオンスターコーポレーションが大好きです。この会社の理念に心底共感して、だからこそ今こうやってここにいます。でも…・・・でもこの会社が変わろうとしている。利益ばかりを追求して、私たちが本当に安心して働ける場から遠ざかろうとしている。だから、だから私はコジローさんに賭けたのです」
 力強い真由美の発言。
 富田、朝霧、武田を除く参加者は、未だに何のことだかわからないというような顔をしている。
 しばしの沈黙の後、コジローが口を開いた。
「では私から今の件についてご説明しましょう。今回の会議、先ほど私がお伝えしたとおり朝霧専務がこの会社を牛耳ろうとしてあるシナリオをつくりました。が、朝霧専務の秘書である田坂真由美さんはその計画にとても不安を感じました。それが今の発言からもおわかりでしょう」
 一同は首を縦に振った。
「しかし、このCDROMは田坂さんからいただいたものではありません」
 コジローのこの発言に、朝霧は驚いた。では一体誰が?
「このCDROM、実は富田社長からいただいたものです」
 これには真由美も驚いた。どうして社長が。これについては、富田社長が口を開いてくれた。
「なぁに、ボクもだてに毎日パソコンをいじっていたわけじゃない。朝霧君には悪いけれど、ちょっとハッキングさせてもらったよ。社内LANだから、セキュリティーもちょっと甘いね。ここは改良の余地有りだな」
 富田社長は笑いながらそう答えた。朝霧はこのとき、開き直ったのか立ち上がって大きな声で発言を始めた。
「ここまで私を追いつめたのは、社長、あなたのせいですよ。あなたが私にすべてをまかせっきりにしたのでしょうがっ! だから、私はこのままの社長方針ではやっていけないと判断したのです。社長、あなたが、あなたが悪いのですよっ!」
 朝霧は大きな手振りを交えながら、熱弁をふるった。
 これに対する社長の答えは、朝霧の熱弁をすべて吹き飛ばす一言だった。
「だから、ボクは君に責任者になってもらいたいと思っている。つまり、次期社長だ。よろしく頼むよ」
 あっけにとられる一同。しかし、この言葉が安易に出たものではないことが、次のコジローの言葉ではっきりした。
「富田社長、肝心なことを言い忘れていますよ。私からお伝えしてもよろしいのでしょうか?」
「あぁ、そのほうがいいだろう。そうしてくれ」
「では、社長に代わって皆様にお伝えしなければならないことがあります」
 一同は息をのんで、コジローの言葉を待った。一拍おいて、コジローは全員を一通り見つめた後に、こう発言した。
「社長は…・・・社長はもってあと半年の命です」
 一同の顔色が一瞬にして変わった。
「この先はボクから説明しよう」
 さすがに事態を重く感じたのか、富田が口を開いた。
「ボクもね、研究に没頭しすぎてうっかりしていたよ。ガンを告知されてね。実はかなり進行しているらしい」
 そういわれて見ると、富田は前よりもやつれて見える。それによく目をこらすと富田の額にはじわっと汗が。ひょっとしたら痛みに耐えているのだろうか。
「だからね、後のことは朝霧くん、君に任せたいんだよ。株主にはしっかりと説明はするよ。引き継ぎについては君の会社思いの優秀な秘書にも頼ることになるとは思うけれどね」
 真由美はそういわれて、少し顔をほころばせた。
「社長っ!」
 突然、常務の武田が立ち上がり、富田の元へ駆け寄った。一瞬青ざめる一同。またもや謀反か? しかし、コジローはその様子を安堵の表情で見つめていた。
「社長っ、わたしに、わたしにもぜひ今後のオリオンスターコーポレーションの発展をお手伝いさせてくださいっ!」
 よく見ると、武田の目にはうっすらと涙が。おそらく、いても立ってもいられない状況だったのだろう。コジローは武田の涙のわけを察知し、安堵の表情で見つめていたのだ。
「社長、私も!」
「私もお手伝いさせて頂きます、社長!」
 その姿を見て、次々と役員たちが社長の下へ駆け寄ってきた。
 だが、その輪に一人だけ参加しないものがいた。朝霧である。
「社長っ!」
 朝霧が自分の席に座り、正面を向いたままそう叫んだ。一同の目は、一瞬にして朝霧の方へ向けられた。だが、朝霧は無言のまま正面をにらんでいる。
「朝霧さん、そろそろおなかにたまった一言を出してみましょうか」
 コジローは朝霧に近寄り、朝霧の視線に入る角度からそう伝えた。コジローの目はとても優しく、すべてを受け入れてくれる安心感があった。
「専務、昔私に伝えてくれたあの言葉。あれを今ここで皆さんに伝えてみましょうよ」
 朝霧の秘書の真由美が、優しく朝霧に言葉をかけた。
「私は……私はオリオンスターコーポレーションが大好きだ。この私をここまで育ててくれた、この会社が大好きだ。だからこそ、私はこの会社のさらなる発展を願っている。もっともっと従業員が潤えるように、利益を上げていかなければならない。私は私なりに考えて、この会社を発展させようと思っているんだっ!」
 朝霧の声が会議室にこだました。
 確かに、この会議において朝霧のやろうとしていることは悪だったのかもしれない。けれど、そこにはこの会社の事を心から思っている優しさが込められている。そのことをこの会議室にいるすべてのものが理解できた。
「それでは皆さん、席に戻って!」
 コジローの声で、一同はいったん席に戻った。
「ではふたたび決を採ります。この事業プラン、および社長交代に対して反対の方、挙手をお願いします」
 もはやだれも手を挙げるものはいない。
「では、保留の方」
 ここでも誰も手を挙げない。
「それでは、賛成の方」
 全員がそろって手を挙げた。本来ならば手を挙げる権利のないオブザーバーもそろって手を挙げている。
「それでは、すべての方が賛成ということで、今回の議題である事業プラン、および社長交代に対して承認をいただいたとみなします。皆様、おつかれさまでした」
大きな拍手。朝霧も、真由美も、そして富田も涙を流しながら笑顔でこの決議を受け入れることができた。

「コジローくん、さすがだね」
 会議終了後、後かたづけをしているコジローに富田がそう言い寄った。そしてその横には朝霧と真由美の姿も。
「いや、今回はおそらく富田さんのしくんだシナリオ通りに進められた。私も罠にはまってしまったようですね」
 コジローはそう感想を漏らした。
「でもコジローさん、どうして今回は私を会議室にわざわざ入れたのですか?」
 真由美がそう質問した。
「君が、いや君しか朝霧専務の心を開かせる人はいないと思ったからね。君が朝霧専務のことを尊敬しているのは、最初にあったときによくわかっていたよ」
「え、ど、どうしてですか?」
「あのときの言葉、あれは演技では出ない言葉だよ。この会社を、社長を、そして朝霧専務を愛しているからこそ出た言葉だ。だから、私は今回のファシリテーションを受ける気になったんだ」
「コジローさん……」
 真由美の目に再び光るものが。
 その光景を見て、富田と朝霧はがっちりと握手を交わした。
「ミッション、コンプリート」
 コジローが小さくつぶやいた。

第二話 仕組まれたシナリオ 完

さすらいのファシリテーター 第二話

2012年3月16日 発行 初版

著  者:古賀弘規
発  行:ユーアンドミー書房

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古賀弘規

たぬきコーチの古賀弘規です。コーチング、ファシリテーション、自己啓発、人材育成、その他もろもろ、人生にお役に立つ小説や物語、ノウハウをお届けします。

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