spine
jacket

小室さんが五線譜に書き留めた言葉、そして描いたスケッチから、物語は始まりました。小室さんのイメージを僕らが受信し、僕らひとつひとつから拡散していく。拡散のルートはTweetかもしれないし、YouTubeの映像かもしれないし、あるいは何気ない日常の会話かもしれない。たったひとつのピースだけでもIncubation Periodがどこかに、誰かに届いたらいいな、なんて思います。

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Investigation Report

FJK

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 目 次

INTRO

Investigation Report 01: FOOL ON THE PLANET

Investigation Report 02: WE LOVE THE EARTH

Investigation Report 03: ACTION

Investigation Report 04: 永遠のパスポート

Investigation Report 05: HUMAN SYSTEM

Investigation Report 06: SEVEN DAYS WAR

Investigation Report 07: LOVE TRAIN

Investigation Report 08: KISS YOU

Investigation Report 09: GIRL

Investigation Report 10: COME ON EVERYBODY + COME ON LET'S DANCE

Investigation Report 11: GIVE YOU A BEAT

Investigation Report 12: NERVOUS

Investigation Report 13: 1974

Investigation Report 14: BEYOND THE TIME

Investigation Report 15: I am

Investigation Report 16: JUST ONE VICTORY

Investigation Report 17: GET WILD

Investigation Report 18: WILD HEAVEN

Investigation Report 19: BE TOGETHER

Investigation Report 20: SELF CONTROL

Investigation Report 21: ELECTRIC PROPHET

Investigation Report 22: TIMEMACHINE

OUTRO

INTRO

 ジャケットのイメージは「調査報告書」とのこと。「Incubation Period」というコンセプトを掲げたTM NETWORKの武道館ライブの映像が、DVDおよびBlu-rayディスクでリリースされました。二八年のIncubation Period(潜伏期間)を経て、三人の潜伏者が見て聞いて触れて感じて遭遇した人や物や出来事について報告する、という物語を軸にしたライブです。デビューした一九八四年を含む一九八〇年代、一九九〇年代、二〇〇〇年代に発表した曲、そして二〇一二年にリリースした最新曲「I am」が披露されました。「総決算」などではなく、すべての曲が物語を構成するパーツとして機能していました。光と音に包まれたステージの上は、そしてTwitterやFacebookというネットワークの中は、Incubation Periodという物語で満たされていましたし、今もなお物語は続いています。

 もちろんライブで懐かしい曲に再会して思い出が蘇った人は多いでしょうし、三人が目の前にいる事実に、どうしようもなく感動していた人もたくさんいますよね(僕だってそうだ)。それはそれとして、Incubation Periodという物語を改めてじっくりと読み解き、そしてイメージしてみると実におもしろい。イメージする余地、想像の余白が存在しているものに、僕は大きな魅力を感じます。オリジナルから乖離した物語をイメージすることもありますが、それよりはオリジナルを基盤にしたスピンオフのような物語が生まれることが多い。言うならばリミックスをつくるような感じです。

 Incubation Periodに触発され、想像のリミッターが解除されます。その言葉に触れた人の数だけ物語がカスタマイズされ、発展し、新しい価値が生まれる。たとえライブを観ていなくても、たとえTM NETWORKを聴いたことがなくても、ライブを体験した人が発信した言葉に触れることで別の新しいイメージが生まれたとしたら、きっとそれは不思議でおもしろい現象です。小室さんが五線譜に書き留めた言葉、そして描いたスケッチから、物語は始まりました。小室さんのイメージを僕らが受信し、僕らひとつひとつから拡散していく。拡散のルートはTweetかもしれないし、YouTubeの映像かもしれないし、あるいは何気ない日常の会話かもしれない。たったひとつのピースだけでもIncubation Periodがどこかに、誰かに届いたらいいな、なんて思います。

Investigation Report 01:
FOOL ON THE PLANET

 緊張感を高めるシンセサイザーの音が鋭く響き渡り、見知らぬ三人の影が宇宙に誘われて消えると、三人の潜伏者が地球に降り立ちました。夢の世界に紛れ込んだかのような光が渦巻き、レトロな電子音に似た音がぽつぽつと鳴る。光と音の中を三人がゆっくりと歩くと、そのトライアングルが輪郭を姿を現わし始めます。そして、これ以上は待ちきれないと思った瞬間に、ベースに包まれたシーケンサーの音が高らかに鳴り響き、美しいメロディが緊張を一気にほぐしてくれました。二〇一二年四月二四日、「TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-」の幕を上げた曲は「FOOL ON THE PLANET」です。

 一九八七年のアルバム『Self Control』に収録されている曲です。まったく予期しなかったこの曲が、久々のライブのオープニングであることに胸が熱くなりました。僕にとってライブでは初めて聴く曲であり、からっぽのグラスに水が注がれるように、自分の身体が音で満たされていきます。目の前でダイレクトに聴くと、リズムとボーカルの落差が思いのほか大きかった。分厚いリズムはぎゅっと凝縮されて重く響き、その一方で歌声はやわらかくて、メロディはやさしい。その振れ幅がとても気持ちよく、濃密なサウンドに乗せて届く歌詞が心地よさを高めてくれます。タイトルが語るように歌詞は地球を強く意識しており、夢という言葉が印象的に織り込まれています。地球に降り立った三人が最初に見たのは夢を抱いて生きる人間だったのではないか、そんなことを思います。

 オープニングのパフォーマンスの間に少しずつギアチェンジを重ねて、「FOOL ON THE PLANET」が鳴る瞬間にアクセルをぐっと踏み込む。スローな曲であってもトップ・ギアでライブを始められるわけですね。勢いよく飛び出すロケットスタートではなく、最初の一歩を力強く踏み出す感じと言うべきでしょうか。身体の中でじわりと熱く燃えているイメージ。アップテンポの曲で始まるのがオールスタンディング・ライブの定石だと僕は思っていて、そこに投じられた一石は実にインパクトがありました。これまでに味わったことのない感覚です。いくつもの意味で未知の体験に包まれながら「FOOL ON THE PLANET」を楽しみました。

Investigation Report 02:
WE LOVE THE EARTH

 キックとハイハットとスネアが織り成すループ・リズムが開幕を告げ、青い光がステージを包み、耳に馴染みのあるコーラスが鳴り響きます。四月二五日のライブは「WE LOVE THE EARTH」から始まりました。曲名のみならず、円形のステージと青く輝くライトが地球をイメージさせます。そう言えば、リズムが鳴り始める前にはシンセサイザーが歪んだ音を立て、赤い光がステージの上を切り裂くように走り、時に浸食するようにうごめいていました。シンセの調子を確かめる音出し…というものではなく、それも意味があったのだろうと思います。歪む音と赤い光が示すのは現実、危機、恐怖。それらと「WE LOVE THE EARTH」の音、メロディ、歌詞を対比させていたのかもしれません。

 ほんの少し時間を巻き戻して、曲が始まる前のパフォーマンスを思い返します。ステージをすっぽり覆う白い幕に映る三つの影。どうやらひとりは女性、ふたりは男性です。何かに怯えるように、何かを探すように、三人が動き回ります。幕がするすると下りてステージが視界に入ると、空に何か浮かんでいるのでしょうか、三人が上を見ているのがわかります。次第に光が強く濃密になり、その光は三人を覆い隠し、空へと連れ去る…。これは何を意味しているのでしょうか。ライブを語るとき、小室さんは「まだまだ謎はある」と言います。小室さんからのヒントは一切ないけれど、このパフォーマンスもただのイントロだとは考えにくい。何故この三人を連れ去ったのか? そして三人はどうなったのか? 考えるほどに、イメージするほどに謎が生まれ、楽しみは続きます。

 「WE LOVE THE EARTH」のオリジナル・ミックスは一九九一年の両A面シングルに収録されており、リミックスを同年のアルバム『EXPO』で聴くことができます。オリジナルの音源でも色気のあるベースは健在でしたが、二〇年を経てリズムが一段と厚みを増しました。ループにループが重なり、終わりのないループ・リズムに身を任せていると、どんどん気持ちよくなっていきます。キックとベースの音が唸りを上げているほど身体をダイレクトに刺激するし、それはすなわち踊りたくなるということです。BPMを落とした曲のリズムが厚くて太いと、それは踊るのにはベストの条件と言ってもいい。これはジャンルを問いません。さあ踊れと言わんばかりです。ゆえに踊る。リズムに身も心も委ねて踊る。

Investigation Report 03:
ACTION

 ライブの幕開けを飾った曲の興奮が冷めやらぬ中、Indigoというシンセサイザーの音が叫び声を上げます。聴く人に突き刺さるレーザーのような太い音が、武道館の温度を一気に上昇させます。曲は「ACTION」。二〇〇七年のアルバム『SPEEDWAY』の一曲目を飾っており、詞曲ともに小室さんのペンによる作品です。要所要所で差し込まれる小室さんのソロ演奏ではギター音が聞こえますが、正体はFantomというシンセサイザーでつくったギター音です。鍵盤を弾いて出すギターの音は、当然ながら実際にギターを弾くのとは異なる。ただ、ギターではあり得ないであろう弾き方があり、鍵盤でこそ出せる音の流れが生まれます。特に小室さんの弾き方には誰にも真似できない特徴がありますから、このギター音は唯一無二の音だと思います。

 このライブを編集し、映画館で上映する「ライブシネマ」という企画がおこなわれています。DVD/Blu-rayディスクには収録されていないカットが使われており、その違いが「ACTION」ではっきりとわかります。ライブシネマの編集では、画面を二分割あるいは三分割し、それぞれにメンバーを映す場面がありました。ウツと小室さんが歌う姿を同時に観たり、小室さんと木根さんのツイン・キーボードを寄りの映像で観たりできます。同じ小室さんの映像であっても、斜め前から映すカットと足元から映すカットが同時に観られる。特にこの曲は小室さんが選んだ言葉の存在感が大きく、それを全力で小室さん自身がコーラスする姿が大きく映るのは必然と言ってもいいでしょう。鍵盤を弾く姿はもちろんのこと、自らの言葉を自ら歌い、聴く人の心に届けようとする姿に改めて胸を打たれます。

 スピード感とクールさを併せ持つサウンドです。スネアとキックの鳴るパターンが更なる興奮を誘うし、スネアを抜き差しするタイミングがことごとく気持ちいい。そうしたサウンドに、切実さや痛みさえ漂う生身の言葉が乗ります。それが「ACTION」という曲です。サウンドだけ聴いても歌詞の内容をイメージすることは、おそらく難しい。身体を揺らすアクティブなサウンドが言葉に力を与えています。前に進む力ですね。行き場のない時期に生まれた言葉の中にも、純粋な気持ちが存在していた。本人がオフステージで言葉を尽くそうとも、あるいは外野が何を言おうとも、小室さんのすべては音楽の中にこそ凝縮されて詰め込まれている。「ACTION」を選曲し、そして歌うことは、すなわち自らの歴史と向き合っている姿を見せることだったのではないでしょうか。

Investigation Report 04:
永遠のパスポート

 二四日のみ演奏された「永遠のパスポート」は、一九八五年の『CHILDHOOD'S END』という二枚目のアルバムに収録されています。音源としてはこのレコードで初めて形になりましたが、その前のライブですでに演奏されており、当時は宇宙に関連した歌詞でした。その内容は「地球に彼女を置いて宇宙に戻らねばならない主人公」がいつかまた会えると願ったり、地球を去る前の日の出来事を綴ったりしたものです。音源化するにあたり、SFの要素を薄めたアルバムに合うように作り変えられたのでしょう。一見するとSFの世界とは縁がなく、ちょっとしたハプニングを含むカップルのひとコマを切り取ったラブソングです。「シャンプー」、「センターライン」、「助手席」、「アクセル」、「渋滞」、「寝顔」などの言葉を追っていくと、具体的な場面を鮮やかに思い浮かべることができます。テーマそのものは原詞と同じであって、「宇宙に戻る前の最後の一日」にフォーカスして描いたのかもしれませんね。

 そのような原詞を意識してセット・リストに加えたのでしょうか。それとも、湘南あたりで見られるかもしれない光景に三人の潜伏者は遭遇し、これも報告すべきだと思ったのでしょうか。そういった推測とは別に、また異なるストーリー、宇宙と大地をつなぐ物語を思い描いてみます。宇宙を漂っているときは宇宙の物語を歌っていて、地上に降りて歩き出すと地上の光景を歌う。宇宙を巡っていた言葉が大気圏に突入し、そして成層圏に入り、どんどん地上に近付く。言葉は姿を変えて、人間たちの中に潜り込み、同じ目線で地上の出来事を綴っていく。そうイメージしてみると、歌詞の変化もひとつの物語に思えてきます。

 そう言えばこの「永遠のパスポート」もライブで聴くのは初めてでした。タイムマシンに乗って自分の知らない過去にやってきたようなものです。懐かしさを感じるより、むしろ新しい出会いに胸が躍ると言うべきですね。初めて体験するやさしいメロディ。ミディアム・テンポの曲をしっかりと支えるリズムもやわらかく、中でもベースがやさしい雰囲気を演出します。まさしく地面に立ち、歩いて、すれ違う人々や行き交う人々を眺めている感じがしました。ウツの隣にはスポットライトがひとつ当たり、それを女性に見立て、歌詞にあるように、ウツは車から飛び出した姿を見ていたり、寝顔をそっと見守ったりしていました。そんなに二人の小さな物語を、三人の潜伏者は歌にして母船に報告したのでしょう。

Investigation Report 05:
HUMAN SYSTEM

 木根さんのアコースティック・ギターが一際大きく響くイントロ、その美しいメロディはトルコ行進曲の有名なフレーズです。小室さんが構築するシンセサイザーを軸としたサウンドに、木根さんのアコースティック・ギターがきれいに溶け込み、心地よく混ざり合います。二五日にのみ演奏されたこの曲のタイトルは「HUMAN SYSTEM」。TM NETWORKを知らなくてもイントロを聴けば、きっと記憶のどこかが刺激されるでしょう。イントロとアウトロに組み込まれたモーツァルトのメロディと、小室さんのメロディが互いの魅力を引き立てています。モーツァルトのメロディが聴く人を曲の世界に引き込み、その世界を小室さんの書いたメロディに誘われて眺め、旅する。そして再びモーツァルトに導かれて戻ってきます。

 アルバム『humansystem』のタイトル曲です。一九八七年にはオリジナル盤を二枚出していますが、二番目にリリースした方ですね。当時から人と人の関わりを「HUMAN SYSTEM」という言葉で表わしていました。けれども、小室さんは二〇一二年になってようやくこの言葉がしっくりきたと言っています。インターネットにつなぐことがデフォルトになり、そしてiPhoneを筆頭とした様々なデバイスが人と人をつないでいる。かつては手の届く範囲でのつながりをイメージする言葉でしたが、時が経った今はもっと広く、ワールドワイドなつながりを含む言葉に変化しています。ネットワークを通じて情報が、音楽が、気持ちが拡散する。ポジティブなものだけではないけれど、それはネットワークの功罪。功にも罪にも向き合うために、個人の良心や覚悟が重要になっていますよね。

 静謐な青い光がステージを覆い、濃度の異なる光が幾重にも重なり、美しいレイヤーができ上がる。青い光の層が音楽の美しさを際立たせます。小室みつ子さんが描いた詞の世界は、時が経っても鮮やかですし、むしろ時が経つほどに瑞々しくなるかのようです。具象と抽象の境界が溶け合う言葉の組み合わせは、文字として読んでも歌詞として聴いても美しいと思います。メロディに呼ばれて言葉が生まれ、そして言葉によって音が研ぎ澄まされた曲であり、ライブで演奏されるたびに胸を打ちます。Incubation Periodでは、小室さんがブラス系の音で弾くシンセサイザーが彩りを添え、曲の持つ純度を高めていました。

Investigation Report 06:
SEVEN DAYS WAR

 小室さんがシンセサイザーのアコースティック・ギター音で「STILL LOVE HER」を弾いた後、武道館は暗闇と静寂に包まれます。そしてスポットライトがウツに当たり、歌が響く。二五日のみに演奏された「SEVEN DAYS WAR」であり、TM NETWORKを代表する曲のひとつです。『ぼくらの七日間戦争』という映画の主題歌として覚えている方もいるでしょう。一九八八年にシングルがリリースされ、同年のアルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991-』には音をシンプルにしたミックスが収録されています。なお、先述の「STILL LOVE HER」も同じアルバムに入っており、つながりをちょっと意識したのでしょうか。

 歌の存在を強く意識する曲です。TM NETWORKはサウンドの比重が大きく、歌も楽器のひとつなんだとボーカル本人が言うくらいですが、時折、どうしようもなく歌に引き寄せられることがあります。この曲がライブで演奏されるときは、曲が始まるきっかけも終わるきっかけも歌です。それゆえか、歌が軸になっていると思うです。一筋の光の中で歌い始めるウツは、その瞬間、すべての視線とすべての期待を背負っています。二〇一二年三月二〇日に開催されたイベント「All That LOVE」のリハーサルで、小室さんは「ボーカリストの華と、それを背負うリスクのあまりにもかけ離れた状況」を感じたそうです。そのツイートを僕は何気なくお気に入りに入れておきましたが、何故だか今、ふと思い出しました。

 間奏のコーラスはみんなで歌うのがこの曲の特徴です。天井をぐるりと囲む武道館の照明が観客席を照らし、武道館全体を包み込み、ステージと観客席にぎゅっと一体感が生まれます。その様子を映すのに魚眼レンズを使用しており、見切れる部分も画面に映ることで、一体感までも映像に収めています。この曲を含む数曲の映像がYouTubeで先行公開されてから、カメラ・ワークがとても好きだなと思っていました。魚眼レンズが各所で使用されていたり、パンのスピードも管理されていたりして、観ていてとても気持ちがいい。二五日の模様は映画館でパブリック・ビューイングされており、そのためにも撮影のシステムに力を入れていたのでしょう。結果として、映像作品として高く評価されるものができたのではないでしょうか。クオリティの議論は専門家に譲るとしますが、カメラ・ワーク、映像の質感、アングル、スイッチングなど、どれをとっても僕は存分に楽しめています。

Investigation Report 07:
LOVE TRAIN

 絶え間なく鳴るキックとハイハットにベースが絡み、その上にスネアが重なり、乱舞します。加速度的にスピードを上げ、まるで高速道路を駆け抜ける車のようです。リズムは鳴るほどに速度どころか厚みも増しているんじゃないかとさえ思えました。曲名は「LOVE TRAIN」。一九九一年にシングルとしてリリースされてから、数々のライブを盛り上げてきました。収録されているアルバムは、さまざまなジャンルの音が詰め込まれた『EXPO』です。二四日のみのセット・リストです。

 小室さんは「ロック・バンドと言うにはやわすぎる」と言っていましたが、音色に気を配って作り込む小室さんの存在、あるいは立ち位置は他のバンドと比較することが難しいですよね。かつてTM NETWORKがTMNと名を改め、ロックに傾倒したときも、良かれ悪しかれ独特のロック・サウンドに仕上がっていました。それは荒ぶるロック・スターと言うよりは、音を組み立てて内に秘めた荒々しさを表現するアートのようなものだったのではないか。今もきっと変わらないですね。Incubation Periodの「LOVE TRAIN」もいつになくロックを感じるアレンジでしたが、リズムはトランスの雰囲気を醸していました。特定のジャンルに偏らないサウンドで貫かれる、屹立するオリジナリティは健在です。

 最後のコーラスのリフレインが続き、曲の終着地点に向けて加速していく中、音が落ちました。遠くに飛んでいってしまったかのように、かすかに聞こえるのですが、何かおかしい。曲の途中でミュートすることはこれまでにもあり、しかもそれは同じ「LOVE TRAIN」でしたが、今回は消える箇所があまりにも中途半端でした。やがて小さく聞こえていた音も完全に消え、すぐに戻らない。別の曲が始まるのかとも思いましたが、その様子もありません。ステージが慌てている様子が見え、さらにスタッフが三人に耳打ちをしているのも目に入ります。そうこうしているうちに、三人がステージから去ってしまいました。観客席の照明も点き、本当にトラブルが起きたのか? いやいや演出だろう? と真偽はわからないまでも、これは何を意味しているのか、その謎解きに頭を働かせながら、音の再開を待ちます。このまま無音の状態が長引けば、観客の興奮が冷めてしまうんじゃないだろうか……。

Investigation Report 08:
KISS YOU

 「LOVE TRAIN」のアウトロが突如途切れ、会場が明るくなり、三人の姿がステージから消える。そこには不思議な空白が漂います。やがて小室さんが戻ってくると、すぐに音も戻ってきました。小室さんはかすかに笑って親指を立ててみせ、ライブが再開します。聴いたことのないシーケンサーの音にノイジーな音声が潜り込み、唸るような音を立てる。スペース・シャトルとの交信を意識したであろうその音声は、「KISS YOU」のサンプリング・ボイスです。世界と宇宙をつなぐ交信に導かれて重厚なリズムが鳴り、イントロのメロディが高らかに響き渡ります。ライブの途中にぽっかり空いていた、シュールなエア・ポケットが熱い音に呑み込まれます。ギターもシンセサイザーもベースも唸り、吠えて、叫ぶ。

 リズムはIncubation Periodでも随一の厚さを誇ります。特にベースの存在感が大きく、ずしりと身体に響いてきます。何度もライブで聴いて心を震わせてきた曲であり、聴くたびにリズムがアップグレードしているのではないかと思うほどです。さらにこの曲の魅力を増幅しているのが、リズムの上にオーバーラップして色鮮やかな層を形成するサウンドですね。小室さんがキーボード・ブースの中を絶え間なく移動して鍵盤を叩く。短い時間の中に数多くの音色が輝きます。また、音符を細かく刻み、言葉をあふれるくらいに詰め込むことで、聴く者の心を何度も何度も刺激します。メロディに乗せて流れ出す言葉の多さは聴いているだけでも快感ですし、身体を揺らして口ずさめばもっと熱くなれます。

 この曲のオリジナルは一九八七年のシングルに収録され、アルバム『humansystem』にはアレンジを変えたバージョンが入っています。シングルの歌詞カードには、イントロとアウトロで流れるサンプリング・ボイスの内容が印刷されています。月面歩行が生んだ夢やチャレンジャー号の悲劇など、地上から見た宇宙の悲喜交々が綴られています。その中に潜り込む "We are on the earth." という言葉は、これらが地球から宇宙に向けたメッセージだということを示しているのでしょうか。一方、ウツは地球で起きた出来事をワールドワイドな視点で歌います。世界のことをクールに語りながらも、時として二人だけのサインを交わすように歌います。

Investigation Report 09:
GIRL

 ステージ後方には大きな縦長のLEDパネルが三枚立っており、ピンク色のような紫色のような色を持った模様が映し出されます。小室さんのイメージによれば、このLEDのパネルはモノリス。『二〇〇一年宇宙の旅』に登場するモノリスですね。ライブの間、三人が演奏する姿や、曲に関連する映像を映し出します。舞台を覆う照明と並ぶ、Incubation Periodを彩る重要な演出です。滲み出てきた模様は、モノリスをじわりと浸食し、かすれるように消え、そしてまた現れる。形を変えて空を漂う雲のようにも、水に溶けて広がる絵の具のようにも見えます。ステージから流れるメロディは「GIRL」です。"Girl I love you" と歌う、ストレートなラブソング。「LOVE TRAIN」、「KISS YOU」とセットで演奏された、二四日のみのラインナップです。

 小室さんのソロ演奏で「GIRL」のテーマ・メロディがゆっくりと響き渡ります。シンセサイザーの音が吸い込まれるように消えると、小室さんの弾くシンセサイザーと木根さんの爪弾くギターでイントロが始まります。そしてウツの歌が入ると同時にキックが鳴り始めます。思わず目を丸くしてしまうくらいにヘビーなキック。"I love you" と甘く歌う曲には不釣り合いと言えるほどの強靱なリズムに思わずニヤリとしましたね。物語の起承転結のように、曲の中でリズムもミュートされることがあります。ミュートされても身体の中でリズムは鳴り続けるし、飢餓感にも似た期待が高まります。そしてリズムが戻ってきた瞬間に一気に高揚する。それがライブでのリズムの楽しみ方のひとつであり、もちろん、リズムが厚ければ厚いほど気持ちは上がります。

 モノリスをキャンバスにして描かれる模様は、形と色と濃淡を変え続けます。ピンク色の模様が上から降りてきて、青い模様が下から昇っていく。それらは途中で巡り会い、重なり、すれ違う。いつの間にか輪郭を持ち、パーツが生まれ、ひとつの形に固まっていきます。何だろう? ピンク色に染まる顔と、青く彩られた髪……女性の横顔です。眼があり、鼻があり、唇がある。色を塗った切り絵のような横顔は表情をなくしてしまったのか、悲しいことがあって心を失ったのか。あるいは高まる気持ちを押し隠しながら誰かを待っている姿かもしれません。誰かの横顔を背に、ウツは最後のワンコーラスを歌います。

Investigation Report 10:
COME ON EVERYBODY + COME ON LET'S DANCE

 ディストーションを効かせたギターとドラムスから始まるイントロは予期せぬブレイクを差し込み、観客のリズムを崩してみせます。最初の四拍で音を止め、音を戻したと思いきや再び数拍で音を止める。二度に渡るフェイントでリズムに乗るタイミングを見事に失い、予定調和が崩れて呆気にとられているところを直撃するように音が鳴り始めます。弾幕を浴びせるようにビートを鳴らす曲のタイトルは「COME ON EVERYBODY」。一九八八年のアルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991-』に収録され、リード・シングルとしてもリリースされました。踊るために最適化された曲と言っていいでしょう。

 イントロの後はいつものように曲が演奏され、最後のリフレインが始まるかと思ったら、いきなり聴き慣れないパターンの音がカットインします。戸惑いと期待が一瞬にしてミックスされます。と、その瞬間に聞き覚えのあるフレーズ、「COME ON LET'S DANCE」のイントロが鳴りました。文字どおり踊れるサウンドを標榜した曲であり、TM NETWORKがダンス・ミュージックに傾倒していくきっかけとなりました。一九八六年のシングル、および同年のアルバム『GORILLA』に、それぞれミックスを変えて収録されています。リリースされて以降、ライブを盛り上げる曲として重要なポジションを占めてきました。

 「COME ON LET'S DANCE」のイントロの後にAメロではなく、すぐにサビが来ました。そしてサビの後、時間を巻き戻すかのような短い間が空き、再び「COME ON EVERYBODY」が鳴り始める。音のトリック、音のトリップ。トリックがトリップを生みます。どれだけトリックを仕掛けて、どれだけ驚かせば気が済むのだろう! かつて「COME ON LET'S DANCE」のライブ演奏では、オリジナルにないフレーズを小室さんが弾いていたのですが、そのフレーズをモチーフにして生まれた曲が「COME ON EVERYBODY」、というエピソードがあります。Incubation Periodでは後発の曲が元の曲を挟み込み、呑み込んでいたと言えます。踊れる成分に満ちた、濃密なダンス・ミュージックです。両日ともに同じ構成で演奏されましたが、二五日には最後のリフレインが続く中、音が落ちました。

Investigation Report 11:
GIVE YOU A BEAT

 二五日には「COME ON EVERYBODY」の最後で音が消え、一度ライブが中断しました。この「トラブル」について、後に小室さんは「どれだけ機材が発達しようとも、ライブ中に故障することは起こり得ることを示したかった」と語りました。音楽機材のような専門的なものだけでなく、スマートフォンやPCでも、我々の身の周りにもこうしたトラブルは起こりますよね。スペックが上がっても、小型化が進んでも、それに応じたリスクを新たに抱え込む。世の中の変化は、ある面では良いものですし、別の面から見ればハードルなのかもしれない。進化を肯定した上で、それに付随するリスクとも一緒に向き合う覚悟が重要なのかなと、改めて思いました。

 また、「ライブが中断した後で、もう一度観客のテンションを上げるには通常よりも大きな労力が必要。それをあえてやってみたかった」とも話しています。だからこそ、演出であることが明白だった二五日も同じ仕掛けを実行したのです。演出であっても音が消えている時間があまり長いと、ライブの流れが断たれて盛り上がりに欠けてしまう、とは僕が二四日に感じたことです。その危惧こそが小室さんの意図どおりだったようで、あえて流れを断ち切っても、ゼロに近いところまで落ちた興奮を再び引き上げるパフォーマンスを見せようとした、と。両日で「トラブル」前後の曲は異なり、それぞれに異なる方法でライブを再度ヒートアップさせました。

 小室さんが戻ってきて鍵盤の前に立ちました。音の状態を確認するように、小室さんがシンセサイザーを鳴らし始めます。音と光が徐々に集まり、束になる。やがてインパクトのあるフレーズが飛び出し、それは「GIVE YOU A BEAT」のものだとわかります。ダンス・ミュージックを前面に押し出し始めたアルバム『GORILLA』のオープニングを飾る短い曲です。そしてハードディスクに記録されていたコーラス "Welcome to the FANKS" と "Give you a beat" がリフレインを始めます。FANKSとは、一九八六年当時の音楽コンセプトを表現するキーワード。ざくっと意訳するとライブ会場をダンス・フロアにしてしまおうというコンセプトであり、それ以降、FANKSはTM NETWORKのファンを表わす言葉にもなりました。コーラスが繰り返され、音が絡み合い、音も声もスピードを上げ、頂上を目指して上昇して昇り切ったところでカットアウトします。

Investigation Report 12:
NERVOUS

 分厚い光が乱舞し、分厚いギター・サウンドが武道館の熱気をオーバーヒート直前まで高めます。踊らずにはいられなくなるこの曲は「NERVOUS」。一九八六年のアルバム『GORILLA』の中核を担う重要な曲であり、どのライブでも確実に観客を踊らせてきたことと思います。このアルバムをリリースするあたりから、TM NETWORKは「踊れる音楽」を意識し始めました。FANKSというキーワードを掲げ、彼らなりのカラーを持ったダンス・ミュージックを追求していきます。結果として、「踊れる音楽」という路線はグループの軸となり、形を変えながら今もなお重要な要素として存在しています。

 「NERVOUS」のイントロおよびインタールードは、レッド・ツェッペリンの「Heartbreaker」のイントロ部分をモチーフにしているとされます。ジミー・ペイジが弾いている有名なフレーズですね。楽器もテンポもオリジナルと異なり、細かい音符も足しているので、注意深く聴かないと「Heartbreaker」とはわからないでしょう。Aメロやサビをつなぐポジションにあるフレーズですが、前後をうまくつないで気持ちのいい流れをつくり、追い風のように勢いを与えてくれます。FANKSと言うとこの曲を思い出すのは、そのパンキッシュな力強さゆえでしょうか。ステージで小室さんが奏でるシンセサイザーからも、あふれ出しそうなエネルギーを感じ取ることができます。ロックに匹敵するパワーを持ったダンス・ミュージック。

 この曲で踊ることができたのは実に嬉しい出来事です。初期のダンサブルな曲をライブで聴くことは難しいため、予想もしていなかったセット・リストに心は躍りっぱなしでした。TM NETWORKは頑なに過去を置き去りにしてきたけれども、過去であれ現在であれ、かっこいいものはかっこいい。踊りたくなる曲は、やはりいつ聴いても踊りたいと思う。たとえ三〇年近く前の音楽であっても、それを表現するのは二〇一二年の音と二〇一二年の声です。三〇年間の変化を経た上での表現です。長らく眠っていた曲が覚醒して僕らの前に姿を現わしたのも、機が熟したからと言えるかもしれません。ストーリー、サウンドがそろい、然るべき曲が選ばれる。ジクソーパズルのピースのようにピタリとはまる。そんな奇跡の瞬間に立ち会えたという事実がまた嬉しいのです。

Investigation Report 13:
1974

 何かを手にした木根さんが前に出てきます。SONYのテープレコーダーです。そのスイッチをカチッと押すと、音が出…ない? 木根さんは、おやっという表情でテレコを覗き込み、軽く叩いてみせると、音が出ました。「1974」のイントロです。得意気な表情の木根さんですが、テレコは再び沈黙します。驚く木根さん。と思ったらまた音が出る、止まる、音が出る。もういいやといった感じでテレコをその場に置きます。イントロは無事に流れ始め、武道館がキラキラしたエレクトリック・ポップの雰囲気に満たされます。木根さんがかき鳴らすアコースティック・ギターはキラキラした音にうまく溶け込みます。そのギターの音を合図にして、ウツが歌い始めます。

 結成直後に書かれた、TM NETWORKの原点と言うべき曲です。デビューのきっかけになったのもこの曲です。一九八四年のデビュー・アルバム『RAINBOW RAINBOW』の中の一曲として世に出ました。後にシングルとしてもリリースされましたが、アルバムには、イントロにちょっとした会話が録音されたバージョンが収録されています。空に現われたUFOらしきものを見て、驚きの声を上げている少女?たち。この会話はIncubation Periodのオープニングに通じるものがあり、オープニングのパフォーマンスを観たほとんどの人が「1974」を思い浮かべたことでしょう。曲の中でも、宇宙から来た何者かを迎え、君とは一度会っているんだと歌っています。宇宙に魅せられ、ずっと望遠鏡を覗いて星を探していた一六歳のとき、そのレンズの向こうに君を見た、と。宇宙人との邂逅を通して、宇宙への憧れを綴った物語です。

 「1974」の中で主人公が出会ったのはTM NETWORKの三人だったのでしょうか。Incubation Periodでは、三人の潜伏者は一六歳の少年に遭遇したのかもしれないし、あるいは、とある三人のミュージシャンたちの出発点を眺めているのかもしれません。SONYのテレコがぐるぐると巻き戻す記憶と記録。曲がエンディングを迎えると、小室さんが鳴らすシンセサイザーがぽつりぽつりと響く中、木根さんが前に出てきてテレコを拾い上げ、スイッチを切ります。小室さんが弾き終わらないので、木根さんは小室さんのスイッチもぽんと押してから、そのままステージを降りていきました。

Investigation Report 14:
BEYOND THE TIME

 シンセサイザーに囲まれた小室さんの姿が暗闇の中に浮かび上がります。その手が鍵盤を叩くたびに音が生まれ、いくつも重なり、音のタワーをつくり出します。静謐な儀式を思わせる、透き通った音のタワーです。音に誘われて新たな光が降り注ぎ、白い円形のステージの上をなでるように動きます。そして音に導かれて光が集まり、次第に束になり、暗闇に屹立する光のタワーは空の向こうまで続いていくかのように見えます。これまで何度も見たキーボード・ソロですが、これまで以上に神秘的な空気を漂わせていました。小室さんの中の「静」の部分を強調したサウンド・インスタレーション。

 木根さんがかき鳴らすアコースティック・ギターが合図となり、「BEYOND THE TIME」が始まります。次から次へと音を紡ぎ、縒り、織る。音のレイヤーが本当に美しい曲です。足し算ならぬ掛け算の美学です。ひとつの音に耳を傾けながら、その音の向こうにある音を感じる。聴くたびに新しい音が顔を出し、かつて耳にしていた音が一歩下がると、また違った音の位相が生まれるのです。注目する音が変われば、それが前に出てきて、音のポジションが変わる。たとえデータとして同じであっても、聴く人が、聴く時が異なれば、それはもう別個の存在と言ってもいい。音が多彩で厚いほどに、ささやかなものではありますが、音の「変化」を楽しめるんじゃないかなと思います。

 「BEYOND THE TIME」と言えばやはり「逆襲のシャア」でしょうか。一九八八年に映画の主題歌となり、シングルのジャケットにもアムロとシャアのイラストが描かれていましたね。同年のアルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991-』にはアレンジを変えて収録されました。Incubation Periodではシングルのアレンジを元にして、ひとつひとつの音をつくり込んでいるようでした。曲が進むにつれて、演奏は熱を帯びていきます。音で気持ちを刺激し、高め、煽る。終盤、ブラックホールに吸い込まれるように音がカットアウトすると、三人の背後のモノリスが放つ光に照らされ、三つのシルエットが浮かび上がります。そして音が押し出されるように戻り、宇宙をゆっくり漂うように抑えた調べでメロディを奏でます。演奏はゆっくりとしたテンポながら、凝縮された熱を含み、青白く輝いています。その中で小室さんが弾くIndigoが強烈な存在感を放ち、その濃密な音とともに曲が終幕を迎えます。

Investigation Report 15:
I am

 ウツが「二〇一二年、三人がここに立てて、そしてこんなにもたくさんの皆さんが来てくれて、幸せです」と言い、三人がそっと頭を下げました。「そしてこの曲が生まれたということは必然でしょう。あらゆる人の関わりを歌った曲です。みなさんも気に入ってくれると嬉しいです」と続けます。そんなMCを受けて演奏したのが、TM NETWORKの最新シングルである「I am」。ドラムのブレイクをきっかけに始まるイントロ、そして大きなミラーボールに反射する光が武道館を染めます。"Yes I am Yes I am Yes I am a human" のリフレインは音と言葉が混ざり合ってひとつのメッセージを形づくる。マイクに手を添えて自分の声が入るように、そして届くように、小室さんは歌います。

 Incubation Periodを構成する要素は表側にも裏側にもいくつもあるかと思いますが、そのひとつに「三人でつくる音楽」というものがあります。言うまでもなくTM NETWORKはこの三人で始まりました。小室さんのキーボードとドラムマシン、ウツのボーカル、木根さんのギターときどきキーボード。三人の音楽はシンプルなトライアングルから始まり、それはもちろん二〇一二年の今もなお続いています。このライブでは小室さんの構築する音に木根さんのエレクトリック・ピアノやギターが加わり、随所で木根さんの音が前に出ます。「I am」について言えば、音源で小室さんが鍵盤で鳴らしていたフレーズを、ライブでは木根さんがエレクトリック・ギターで弾いている。シンプルなフレーズながら、そのリフレインが曲のスピード感を支えています。

 Incubation Periodの特別編集版がライブシネマ(ライブを映画館で観るスタイル)で上映されましたが、画面を二つや三つに分割し、それぞれに三人の姿を映しているカットがいくつもありました。「I am」ではウツが歌う姿と小室さんが歌う姿が同時にスクリーンに映し出され、まるでツインボーカルのバンドのようでした。小室さんはほとんどのボーカル・パートを歌います。本人も言っているように、確かにピッチは不安定かもしれません。それでもマイクをぐっと引き寄せ、声を大きくして歌うのは、伝えたい言葉があるからだと思います。曲の間、ずっとマイクに向かい続けた姿は、これまで見たどの姿よりも胸を張っていた気がします。

Investigation Report 16:
JUST ONE VICTORY

 二度目のMCを挟み、力強いドラミングとシンセサイザーの太い音で「JUST ONE VICTORY」が始まりました。この曲が収録されているのが、一九八八年のコンセプト・アルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991-』です。小室さんの考えたおおまかなストーリーをもとに楽曲をつくり、ライブ・ツアーでは大規模なセットを組んで、アルバムの曲をミュージカル仕立てで披露しました。アルバム制作およびツアーと並行して、木根さんが原案に肉付けして小説を書き上げ、ツアー中に出版されました。

 『CAROL』という物語はイギリスの小さな街から始まります。あるとき、謎のグループとして知られた三人組がメッセージを音楽に込めて発信します。主人公のキャロルだけがそのメッセージを受け取り、導かれるままに異次元に迷い込みます。そこは音が盗まれた世界。キャロルは三人とともに戦い、盗まれた音を取り戻します。このような物語を音楽で綴り、その終幕を飾るのが「JUST ONE VICTORY」です。宇宙から来た三人は、時間、空間どころか次元の境界線を越えて、別の物語にも潜り込んでいたということでしょうか。

 曲の終盤では、同じアルバム曲である「CHASE IN LABYRINTH」の音源を挟み込みます。それと入れ替わって「JUST ONE VICTORY」が戻ってくると、サウンドは一層パワフルになる。力強さを全面に押し出した音で一進一退のレースを表現します。物語における戦いを歌う曲でありながら、普遍的な言葉で組み上げられた歌詞は、聴く人それぞれの日常に当てはめることができます。Incubation Periodのステージで、人間は紛争や自然災害のような困難に直面するたびに勇気を持った、とウツ(の姿をした潜伏者)は言いました。そして、これから起きるであろう困難に勝利するために必要なのは自分たちを信じる心なのかもしれない、と続け、そしてそれを「たったひとつの心の勝利」と表現する。おそらく、この曲が生まれたときには込められていなかったであろう気持ちですが、それはすなわち、新しい命をそこに宿せるということです。メロディを変えずに新しい音でメロディを際立たせるように、Incubation Periodという新しいコンセプトで二五年前の言葉をアップグレードする。そうした解釈もおもしろいかなと思います。

Investigation Report 17:
GET WILD

 光が絞られ、ノイジーに歪む音が咆哮します。ステージ後方のモノリスに映るのは真っ赤に輝く塊。赤い塊は火柱が上がるように激しい動きを繰り返します。小室さんが手を挙げ、鍵盤めがけて振り下ろすと「GET WILD」のフレーズをサンプリングした音が鳴り響きます。興奮して歓声を上げようとした瞬間、爆発音とともに目の前が光り、ステージ前方から煙が上がります。熱風も感じたその特効は、煙が天井に昇るまで何ごとか理解できなかった。赤い光に塗りつぶされながら、小室さんは鍵盤を叩き続けます。手を振り上げ、勢いよく叩きつけるたびに、爆発音や破裂音が響き、再び煙が立ち昇ります。身体ごと鍵盤に叩きつけようとする姿には狂気すら漂います。鍵盤を連打して生まれる音は銃の連射にも聞こえ、もはやメロディを形成しない音が連なります。観ている側は、メロディを切り刻む姿に恐怖を感じながらも、トランス状態に誘われます。淡々とした解体作業なのか、アーティスティックな破壊行為なのか。赤く染まるステージには音の破片が散らばっています。最後に小室さんが手を振り上げ、鍵盤に叩きつけると、一際大きな爆発音とともに、本物の火柱が何本も噴き上がりました。

 火柱が収まると、キックとサンプリングの嵐が武道館に吹き荒れます。ばらばらになっていた音がつなぎ合わされ、リズムとなり、メロディとなり、「GET WILD」のイントロが姿を現わします。TM NETWORKと言えばこの曲ですよね。一九八七年に「シティハンター」の主題歌として世に出て以降、TM NETWORKの顔として存在し続けてきました。最も多くのリミックスやライブ・アレンジを施されてきた曲であり、音が差し替えされたり、イントロやアウトロが長くなったりし、インタールードが別物になったこともあります。

 Incubation Periodでは上述のパフォーマンスを繰り広げ、強烈な印象を残しました。このパフォーマンスは、照明、映像、特効を含め、「動」の部分を強調したサウンド・インスタレーションだと思います。静謐な音を織り上げた「BEYOND THE TIME」のキーボード・ソロは「静」の部分を意識したのに対し、こちらは音を解体して「動」を表現している。いつもと様子が違うパフォーマンスを観て、僕が抱いた第一印象は「破壊」や「暴力」でしたが、改めて考えると「解体」かもしれません。解体されつつある世界を冷静に眺めているのか、音楽のフレームワークを自分が解体すると考えているのか、果たして。

Investigation Report 18:
WILD HEAVEN

 "Just wild heaven" と叫ぶコーラスから始まる「WILD HEAVEN」。ハイハットとキックの応酬にベースが重なり、スネアが走り始める。「GET WILD」の勢いをそのままに、この曲もスピード感たっぷりに疾走します。オリジナル音源や過去のライブと比べてもアレンジの大きな変化は見られないのにもかかわらず、新鮮な気持ちにさせてくれます。その主な要因は、リズムですね。キックとハイハットとベースが凝縮されて鳴り、波に乗るように、スネアがタイミングよくビートを刻む。自らの肌で感じたときも、そして記憶を巻き戻しながら映像で観るときも、厚みのあるリズムが疾駆するさまは実に魅力的です。

 一九九一年のオリジナル・アルバム『EXPO』のために録音されましたが、収録は見送られ、全国ツアーの途中でシングルとしてリリースされました。当時はカラオケ産業が盛り伸び始めた頃のようで、カラオケで歌いやすい、そして聴いている人も口ずさみやすい曲が好まれたのでしょう。TM NETWORK(当時はTMNという名称)もその流れに乗ろうとしており、「WILD HEAVEN」もカラオケで歌ってもらえることを意識していたそうです。ただ、必ずしも歌いやすくはない。その後の小室さんの曲に見られるように、エクササイズとしての面が表われていました。すなわち、「ちゃんと歌おうとすると難しいけど何とかして歌ってみたい」という向上心をくすぐる曲。スポーツのような集中力を必要とし、その結果として達成感が得られる曲ですね。一九九〇年代半ばに売れた曲の傾向ですが、その片鱗がすでにありました。

 曲がゴールに向かうにつれ、ベースが唸ります。ベースが一度退き、また音が戻ってくるときの突風のような勢いは格別です。止めどなくキックが鳴って吹き荒れている中で、それでもなお存在感を示すベースに舌を巻くばかりです。そして土台を支えるリズムの上で、ギターもシンセサイザーも奔放に舞うさまは、いろいろな音がせめぎ合う音のバトル。一九九三年に発表されたリミックスでは、アウトロを一曲ぶんの長さに延ばして疾走するテクノ・サウンドに仕上げられましたが、そのときに感じた音の戦いを思い出します。音がぶつかり合い、それが独特のアンサンブルを形成する。疾駆するリズムに乗りながら、音と音の競演を楽しむ曲です。

Investigation Report 19:
BE TOGETHER

 追い風は止むことなく吹き続けます。「WILD HEAVEN」の余韻が残る中、「BE TOGETHER」のコーラスが武道館を歓喜の渦に巻き込みます。カラフルな光がぐるぐる回り、ステージも観客も関係なく照らして駆け回ります。そしてウツが叫ぶ "Welcome to the FANKS!" が歓喜を狂喜に変貌させます。一九八七年のアルバム『humansystem』に収録されており、当時からライブを盛り上げる曲として重視されていましたが、シングルにはなっていません。それにもかかわらず知名度が高いのは、やはり鈴木あみがカバーしたバージョンが有名だからでしょう。オリジナルの方はロックの風貌をしており、ビートを強く押し出して短距離走のように駆け抜けます。

 バンドの演奏にも力が入ります。イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、それぞれの要素が凝縮されたフレーズで構成されています。そのため時間の感覚が吹っ飛び、アウトロに駆け込む頃に我に返り、時間を飛び越えたとでも言うべき感覚に陥る。ゆえに、コンパクトにまとまって聴きやすい曲というよりは、音が凝縮されている曲と表現する方がしっくりきますね。そして最後のサビが終わってアウトロに入り込むはずが、サビが繰り返されます。最後のサビが一回で終わる構成に慣れていたので、意表を突かれました。けれどもライブの勢いはすごいもので、瞬時に反応して気持ちがもっと上がります。その後、ゆるやかに流れるアウトロがオーバーヒート気味の武道館をクールダウンさせます。そのまま終わると思いきや、突如として光が明滅し、ビートが激しく打ち鳴らされ、鳴らし尽くしたところでカットアウト。お馴染みの曲だからこそ、今回は各所にトラップを仕掛けてきたのでしょう。それらにことごとく引っかかる観客も含めて、TM NETWORKの遊び心は健在です。

 Incubation Periodは物語を描く舞台ではありますが、それと同時に音楽のライブでもあります。物語と音楽のバランスが崩れると、どっちつかずのものになってしまうんですよね。演劇的な要素が強いと、いわゆる「はじけた」感覚が足りない。かといってアップテンポの曲が多いと、コンセプトが薄まります。勢いのあるライブ仕様の曲を終盤に組み込んだのは、ライブの常套手段ではありますが、全体を覆う物語を成立させるための重要な仕掛けだったと思います。

Investigation Report 20:
SELF CONTROL

 小室さんがシンセサイザーに向かい、メロディを奏でます。「SELF CONTROL」を含むメロディがブラス系の音と相俟って、荘厳な雰囲気を醸します。充分に時間を使い、武道館が帯びた熱をゆっくりと冷ましてから、鋭い音が響いて「SELF CONTROL」のイントロが走り出します。これまでに大胆なライブ・アレンジやリミックスによる変化を加えられることがなく、ライブの定番となっている曲の中では珍しくオリジナルの雰囲気を強く維持しています。Incubation Periodではインタールードが長めにとられ、小室さんが自らのライブ・セットで使うサウンドを展開しました。二〇一一年六月一三日のDOMMUNEのように、シンセサイザーの音ですべてを構築するライブの系統の音です。生演奏から自らのシンセ・ライブにつなぎ、そして勢いを緩めることなくバンド演奏につなぐ。まるで曲をつないでフロアを沸かすDJです。

 一九八七年の二月にリリースされたアルバム『Self Control』のタイトル曲。このアルバムを軸にしたライブ・ツアーの最終公演が武道館でした。TM NETWORKにとって初めての武道館公演です。僕は映像で観るのみですが、宇宙から送信されたメッセージを受信するという物語が組み込まれていて、「SELF CONTROL」が物語を最も鮮明に描いていました。曲の途中で、宇宙からのメッセージが込められたバトンを木根さんが運び、ウツが媒介となり、それを受け取った小室さんがシンセサイザーの中に差し込む。そのバトンは次のライブ・ツアーで再び空に送り返されました。

 二五年を飛び越えて、一九八七年の記憶が不意にリンクします。Incubation Periodのステージで新しいメッセージが産み落とされます。二五年前の三人の潜伏者はメッセージを受け取る側でしたが、今度は報告という形でメッセージを残す役割を担いました。「SELF CONTROL」のリフレインが何度も何度も残響のように漂う中で、ステージの奥にそびえるモノリスにメッセージが映し出され、同時にそれを英語にした音声が流れます。「二八年間潜伏してきて、報告しなければいけない最も重要なことは、人間はどんな困難でも乗り越えられる素晴らしい力を持っているということでしょう。」という言葉を僕らは受け取る。最後にひとつ、「They are human」という言葉が流れ、響き、潜伏者たちの報告は終わります。

Investigation Report 21:
ELECTRIC PROPHET

 赤と青の光がゆっくりとステージを包み込む中、小室さんの手は鍵盤ではなく宙を動いています。V-Synthというシンセサイザーに近付いたり離れたりしており、手の動きに合わせて、音が穏やかな海面のように変化します。光と音が混ざり合い、船に乗って夜の海を漂っているイメージが湧き上がります。心地良い音のゆれに身を任せて浸っていると、そっと語りかけるような歌が始まります。曲名は「ELECTRIC PROPHET」。一九八五年の四曲入りアルバム『Twinkle Night』に収められているバラードです。初期のライブでは、エンディングを飾る曲として使われていました。遠く離れた地中海やエーゲ海の地名が幻想的な雰囲気を生み、その一歩で日常を描いた純粋な言葉が紡がれます。相手を包み込むストレートな愛情や、自分の弱さに屈しそうな不器用な優しさを歌っている、と僕は感じます。心穏やかに終わる映画のエンド・ロールを思わせる曲です。

 波間を漂う音の上から、木根さんがMOTIFというシンセサイザーで鳴らすベルの音は、夜空に瞬く星のようです。リズムのないサウンドが続き、途中からドラムとともに、ベースの音が混ざり合います。ベースの音は、そっと肌をなでるように柔らかく空気を震わせます。ウツの歌は、ぎりぎりのところで感情を抑えています。海の底にうねる水の流れのように、ダイナミックな気持ちの動きはあるけれど、それが海面からは見えない。それでも言葉の端々に純度の高い気持ちが垣間見えます。歌がその役割を終えると、小室さんの奏でるシンセサイザーの音が、胸の内を吐露するかのような盛り上がりを見せます。音が重なり、混ざり、泣きそうになるくらい切ないメロディが夜空を舞います。

 「ELECTRIC PROPHET」の余韻が漂う中、頭上に輝く光の中から、ひとつの指令が舞い降りてきます。それを、ウツ(の姿をした潜伏者)が空中でつかみます。少し離れたところから木根さん(の姿をした潜伏者)と小室さん(の姿をした潜伏者)が、その様子をじっと見つめています。手にした指令に目を通し、ちらりと二人を見遣ると、指令を宙に放り投げます。母船から三人の潜伏者に宛てた指令は、次に三人の潜伏者が地球に降り立つ時期と場所を伝えます。時期は地球の時間で言うと約四ヵ月後、場所は35.664319, 139.697753。そして指令がゆっくりと空に戻っていきます。

Investigation Report 22:
TIMEMACHINE

 小室さんがピアノを弾き、ウツが歌い、木根さんがアコースティック・ギターを弾きます。音のトライアングルがゆっくりと姿を現わし、次第に輪郭がくっきりと浮かび上がる。「TIMEMACHINE」と名づけられたその曲は、TM NETWORKがデビューして間もない頃に生まれました。どのシングルにもオリジナル・アルバムにも収録されておらず、ライブだけで聴くことができる曲です。初期のライブではよくセット・リストに顔を揃えていましたが、その後は数回だけ演奏されています。Incubation Periodで約十年ぶりに披露されましたが、二五日のみのアンコールのような位置づけでした。

 木根さんが曲を書き、小室さんが詞を書いています。SFの代名詞とも言えるタイムマシンをタイトルに冠していますが、歌詞は一見するとSFの雰囲気から遠いように思えます。当時のコンセプトを知らなければ余計に、抽象的にとらえるべきか、具体的なものを読み取るべきかわかりません。二〇〇一年に「TIMEMACHINE」を演奏したとき、小室さんは語りました。未来を見てきたけれど、その未来は決して明るいものではなかった。けれどもそれを伝えられなくて、もどかしくて、いっそのことこれから起こることを自分に見せないでほしいと思っている――そういった曲だと。夢や希望といったポジティブなものは同時に覚悟や恐れも孕んでいる、その二律背反をタイムマシンという言葉に込めたのかもしれません。未来に向かうのは決していいことばかりではないし、目をそらすこともできずに時間は進みますよね。パーフェクトに耐えられる強い人は多くないけれど、ほんの少しでも、前からやってくる未来に向き合って進めたらいいのでしょうか。

 曲が終わると、空から投げかけられた三つの光に包まれて、三人の潜伏者が母船に帰還します。ゆっくりと白い幕がせり上がり、再びステージを覆います。幕に映し出されたデジタル時計の数字が減り続け、ゼロに近付いていきます。カウントが止まったときに何が起こるのだろうか。じっと数字を見つめます。00:00:03、00:00:02、00:00:01、そして00:00:00。時が止まるかと思いきや、間髪入れずに今度は時を刻み始めます。00:00:01、00:00:02、00:00:03。積み上がっていく時間のピースを眺めながら、新たな動きの予感に胸を躍らせます。こうしてIncubation Periodという物語が一度その幕を閉じ、少し長めの幕間が訪れるのでした。

OUTRO

 Incubation Periodのステージで披露された二二曲について、ひとつひとつ言葉を積み重ねてきました。映像だからこそ新しく気づくことがありましたし、言葉を拾い集めながらミッシング・リンクをイメージしてみるのは実におもしろい体験でした。二二の観点から眺めてみたわけですが、想像の余白が驚くほどたくさんある物語です。歌詞が語るものやその行間を読んだり、音が表現するものを受け取り、その意図をイメージしてみたりする。あるいはLEDの映像が投げかけるメッセージに注目してみる。ライブに関わるすべてのことに想像を巡らせ、掘り下げてもいいくらいですね。そして、この物語に触れたひとりひとりから派生した物語(ただの会話でもTweetでもブログでもなんでもいい)がスピンオフし、それらはどこかで誰かと共有されているかもしれません。そういった物語の広まりも、きっと小室さんが言う「拡散」のひとつでしょう。ネットワークを伝い、人を媒介に拡散する物語です。

 ライブのときも映像を観ているときも、やはりそのリズムの厚みが気持ち良く、サウンドの核になっていると感じました。キックとハイハットとベースがミックスされたリズムは重厚であり、それでいてスピード感を失うこともバラードの雰囲気を壊すこともない。むしろ加速させたり、気持ちを盛り上げたりしてくれます。リズムのみならず、すべての曲のサウンドを小室さんが決め、スタッフとともに武道館仕様にデザインしました。そのサウンド・デザインがIncubation Periodというコンセプトの成立に一役買っていたことは疑うまでもありません。心地良い音の世界に包まれることで、僕らは迷うことなく物語に入り込めるんですよね。

 サウンドだけでなく、照明、VJ、電源、衣装、楽器、マネージメント……エンド・ロールに名前が流れるすべての人たちの仕事が組み合わさって成立したライブです。YouTubeにアップされた映像を観たとき、映画のような印象を受けましたが、DVD/Blu-rayのエンド・ロールはまさに映画のそれです。どこかの草むらが映し出されてます。生い茂る草は風にあおられて右に左になびいている。宇宙船から出る排気が強い風を起こしているのでしょうか。「I am」のインストゥルメンタルをBGMにしてスタッフの名前が流れていきます。「I am」が終わると、風の音だけが聞こえます。そして突如、通信が途切れたときのような音とともに映像が消えます。

Investigation Report

2012年11月3日 発行 初版

著  者:FJK
発  行:http://inthecube.exblog.jp/

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