2012年1月。目的地はタイとインド、それだけ決めて旅に出た。
最初に目指したのはThailand。
バンコクから南の島へ。
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出発の日、早朝の成田。
夜行バスに乗って、まだ人気のない空港に着いた。
だんだん明けてくる空。
空気は刺すように冷たい。
南へ。
南国の花。
路地の鉢植え。
意外なことに、
香りは強くない。
光と風と影。
「別世界に来た」と感じる。
窓の下の丸テーブルを巡って、夜毎各国入り乱れての取り合いが繰り広げられた。
最強なのは、夜中から朝までずーっとしゃべりまくって口げんかして、昼間普通に出かけて行く女の人。
この猫が寄って来た後、野犬が集まってきて、恐怖する。
食べ物が欲しいだけだと分かっていてもやっぱり怖い。
サイケデリックな睡蓮。
発光する、紫と黄色。
BangkokではKhaosan Rd近くのゲストハウスを根城に、ぶらぶら歩き回った。
狭い範囲に似たような通りや路地が入り組み、なかなか道が覚えられない。
横断歩道は、あって無きが如く。車優先。道路を渡る際は自己責任が問われる。しばしば轢かれそうになる。
ベトナムコーヒーを飲ませるカフェが1件だけあって、橋を渡って時々出かけた。
川沿いの公園に毎日のように通った。
旅行者も地元の人も集まる公園。記念写真を撮ったり、おしゃべりやランチをしたり。禁酒、禁煙の健康的な公園。暗くなると地元のカップルがいっぱい。
暑くて上半身裸になった旅行者やベンチで居眠りすると監視員がやって来て怒られる。
ここから見る夕日はとても綺麗なのだけれど、夕方になると大音量の音楽とともに地元のおばちゃん等が集い「エアロビクス」と称するダンスが繰り広げられる。うまい人はごく稀で大抵気のないダンスとなる。それが日暮れから真っ暗になるまで延々と続く。
行きつけの屋外カレー屋のお兄ちゃん。南の人ではありえない謙虚さ。灰皿を両手でさっと差し出す。忘れ物をしたら、走って追いかけて来てくれた。ポテトカレーにはまる。飲めなかったビールが、ここでは冷やしたジョッキでごくごく飲めた。(Changに限る。)
生臭い油のにおい。魚醤。揚げ物や甘いお菓子のにおい。生ごみや世界中の人のにおい。通りで売られる果物のにおい。屋台の食べ物のにおい。パクチー。なんとも言えない街の、Bangkokのにおい。
菩提樹の
葉っぱと影。
いつもの公園。
気持ちの良い緑。
鳥のさえずり、
小さなトカゲ。
きびきびした屋台の猫。
いつも寝ている。
寝ている猫をつっつき、なでたり。
開きかけの蓮。
定刻をだいぶ過ぎて、島へ向けてバンコクを出発。最高にろくでもない同乗者たちがいて、過酷なツーリストバスの旅となる。(今となってはおもしろかったけど。)
夜中。メジャーなリゾート地に向かう人々を下ろすと普通のワゴンに乗り換え、さらに別の車に乗換えて終点を目指す。
夜明け前、Surat Thani到着。バスの運行屋と結託している旅行屋(といってもごく狭い、机とイスがあるだけの空間)に連れて行かれ、「島へ渡るにはこちらの用意する船に乗るしかない」とのたまい、酷いぼったくり料金を提示される。彼らの提案を受け入れない数名はいつまでともなく放置される。南の国ではありがちなこと。誰も気にしない、堪えない。のんびりタバコを吸ったり、手持ちの食べ物を食べたり、話をしたり。私は写真を撮り、タイの日常の朝の始まりをゆっくり観察した。
真っ暗だった空がだんだん明るさを増し紫に明けてゆく。
ゴミ回収のリヤカーをひっぱる自転車に乗ったおばさん。旅行屋の前でうろうろしていた痩せこけた犬がふらふらと近づいて行くと大きな声で追い払われ、さらに車に轢かれそうになる。見るからに貧相で哀れな犬。ビスケットを抛ってやると、この犬は驚いて後ずさりし、鼻先でつっついてはみたものの結局食べなかった。残飯は欲しがり、ビスケットは食べない…。この犬はビスケットなど見たことも食べたこともなく、「知らなかった」のだ。
犬とは反対に、美しい黒猫がいた。ごうつく旅行屋の飼い猫で家人以外には近づかず、つんとして長いしっぽを揺らしている。朝、飼い主がどこかから朝ごはんを調達してくると黒猫はそれを欲しがって、足にまとわりついたり頭をすり寄せたり大変なコケットリイ。それまで抱いたり撫でたりしていた飼い主は、猫餌の皿を差し出すが、人間のご飯を欲しがる猫を最後には足を上げて邪険に振り払った。
すっかり空が明けて周囲の店も開き始めた頃、ついにあきらめた旅行屋についてくるように促されて歩き始める。旅行屋は最後まで意地悪く、わざと早足で歩き無意味な遠回りをしてローカルバスの停留所に連れてこられただけだった。
タイの一般の乗客とともに満員のワゴンに乗って島へ向かう船の出るRanongを目指す。
Ranong到着。トラックの荷台に乗り、船着場へ向かう。
初めて荷台に乗った。凄い日差し、凄い風を浴びて街中を疾走する。気を緩めると振り落とされそうになる。同乗した刺青師の男の人は、鉄筋剥き出しで工事中のまま停止しているような建物を指し「あれは何年も前から建設中のままだよ」と言って豪快に笑った。
乗り場に着くと案の定島を往復する定期便が1日に数便運航されていた(旅行屋の話はやはりウソ)。船と言っても小さな木舟にトラックのエンジンをくっつけて動かすもの。初めに島へ運ぶ食料や生活用品を積込み、空いているスペースに乗客が乗り込む。
海水をがんがん浴びながら島へ向かう。島に数件あるロッジごとに舟は停まる。基本的に船着場はないので海の中をばしゃばしゃ歩いて砂浜へ向かう。濡れないように膝まで服を捲ってもやはり濡れてしまう。
穏やかな海が目の前に広がるロッジに決め、バンガローを借りて島暮らしがはじまる。島には自家発電しかない。毎夜11時前には島中の電気が消える。もっと早かったり遅かったりアバウト。電気と言っても裸電球だけど。
朝起きて、すぐ水着を着て海に入る幸せ。顔だけ出してぷかぷか波に揺られる。空しか見えない。周りに泳いでいる人もいない。自分だけが海と空を独占しているかんじ。鳥が頭上を旋回している。
ハンモックを吊って、昼寝をしたり、本を読んだり。なんにもしない幸せ。一日に何度も泳いだ。
部屋の前には鮮やかな蘭の花。黄色いバナナみたいなものを頭に載っけた鳥。からだは重そうで、からだだけ見るとペンギンみたい。
食べ物は何でもおいしくて大盛。パンケーキのフルーツの大群に感激する。バナナ、パイナップル、パパイヤ、スイカ。ベジタリアンも全く問題なし。ヌードルスープベジタブル、最高。唐辛子万歳。
島には英語が母国語の旅行者は少なくて、フランス語やドイツ語が多く聞こえる。アジアの旅行者はほとんどいない(白人男性がタイの女性を連れていることは多い)。
世界の多くの人はこんなにも旅をして人生を楽しんでいる。「どのくらいの期間いるの?」と訊ねると「1ヶ月しか休みが取れなかったの。」と残念そうに答える。仕事をリタイヤした人はのんびり数ヶ月を過ごす人も珍しくない。一人でやってくる人も多く、自由に行動しながら一人旅同士友達になって助け合ったり、仲良く楽しんでいる。
キティガール。キティちゃんのプリントのワンピースをきた小さな女の子。挨拶するとき黙って手を上げ、こちらも手を上げて応える。大人びていておかしい。
アロー坊や。「ハロー」が「アロー」に聞こえる赤ちゃん。挨拶するのが楽しいらしく誰にでもアローを連発して皆のアイドル的存在。
隣のフランス人の女の人。日本だと「おばあさん」になりがちだけど、かっこいい成熟した大人。黒いビキニを着て日光浴をし自由に暮らしている。後からやって来た彼女の孫らしき女の人とおしゃべりしている姿が素敵だった。祖母と孫ではなく、女同士、の感じ。
裏のドイツのおじさん。いつも自分のバンガローの前の椅子に座って煙草を吸っている。飄々としていて、雰囲気のあるひと。やさしいひと。
ロッジで働く女の子たち。元気が良くて、しっかり働き者の笑顔の子。しょっちゅうフォークを落っことしたり、何か持ってくるのを忘れたりするちょっとドジな子。二人とも素朴でかわいい。
南国のゆったりけだるいムードが色っぽい、赤ちゃんを抱いた若い女の人たち。
アイドル顔のロッジの息子。
平和なところだけれど、恐ろしいこともあった。青いビキニの海パンが良く似合う、さわやかで紳士的なスイスのおじさん。彼はある日片足を酷い腫れと激痛に襲われた。数日後、死んでしまったと聞かされた。たぶん人喰いバクテリアの類。島では大した医療は望むべくもない。人事とは思えなかった。旅行中に限らず、いつ、何が起こるか、わからない。いろんなものを大切に。後悔しないように。
島で見た不思議な光景。夜、明かりに群がる蜻蛉の群れ。数十分でみんないなくなってしまう。その場で死んでいるわけでもないのに。一日か二日、そんな日があった。
夜には、海上に月や星の光の道ができる。
不思議な紋様の砂浜。
影を写す。
最初の蘭が枯れて、
入れ替わりに咲いた新しい花。
海と光。
空の色。
時々
バサリと音がして
椰子の葉っぱが落ちてくる。
小さな蟹の
巣穴だらけ。
お夕寝。
海岸で拾った貝。
誰かが残していった貝。
散歩の途中。
ジャックフルーツ。
大きな実。
いっぱいの実。
2012年8月25日 発行 初版
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