テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時、お伝えしていく予定です。
※このメールマガジンの発行予定日は第1~第4水曜日です。
BCCKS版は、発行に合わせて記事を追加していきます。
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この本はタチヨミ版です。
2012.9.6(号外)
津田大介の「メディアの現場」
──「アメリカ西海岸で働く日本人」その6
究極のノマドワーカー編
2012.9.15(号外)
津田大介の「メディアの現場」
──「アメリカ西海岸で働く日本人」その7
女優・菊地凛子編
2012.9.5(vol.44)
♣2030年、日本の原発はゼロになる?
♣町山智浩、『宝島』ゴールデンエイジを大いに語る
──80s〜90s アニメ、ゲーム、パンクブームの潮流
2012.9.12(vol.45)
2012.9.19(vol.46)
♣原発ゼロ政策、なぜ骨抜きになったのか
♣内部被曝を防ぐための食生活とは
※このメールマガジンの発行予定日は第1~第4水曜日です。
BCCKS版は、発行に合わせて記事を追加していきます。
※ゴールデンウィーク、お盆、年末年始には、適宜、合併号を発行します。
なお、取材期間などの関係で不定期に休刊することがあります。
ども、津田大介です。本メルマガはよくリアルの雑誌と比較されて語られがちです。それはある意味当然の話で、まず僕自身が雑誌ライター出身なんですね。実際、学生時代は雑誌ばかり読んでいました。要するに「雑多な内容だけど、よく読んでみると1つの軸に沿って興味深い記事が並べられている」というコンテンツが好きなんです。それを今のテクノロジーで広めていくとどうなのか、という実験をやっているとも言えます。だから、自分の名前を冠していても他人の寄稿記事を掲載したり、ほかの著者に連載をやってもらったりもしてるわけですね。
そして今回は、号外という形で小嶋にインタビュー特集を任せることにしました。ぶっちゃけると、今年3月、昨年の3月11日以降ほとんど休みなく働いてくれたご褒美に米国旅行をプレゼントしたのですが、単なるレクリエーションとして旅行させるのはあまりにもコストとしてかかり過ぎる。ならば取材も一緒にさせればいいじゃない! ということで、メルマガ用のインタビュー記事を作れと命じたわけですね。本メルマガは「あまり既存のメディアでは知ることができない情報を読者にわかりやすい形で提供する」ということを1つのコンセプトにしています。今回の号外連載7本はその意味でも貴重なインタビューになったのではないかと思います。とはいえ、普段の津田マガとはかなりテイストが違うので「号外連載」という特殊な形式で配信することにしました。通常の津田マガとはひと味違うインタビューをお楽しみください。
小嶋です。今年の3月にサンフランシスコとロサンゼルスに旅行に行ってきました。その中で、映像業界を中心に活躍されている日本人の方とお会いする機会が得られたので、「アメリカ西海岸で働く日本人」というテーマでインタビューを行うことにしました。本メルマガで何度かお知らせしているように、僕は今年「おくの細道2012」(http://okuno-hosomichi.tumblr.com/)というドキュメンタリーの監督をしました。また、以前映画業界にいたこともあり、今回、非常に興味深いお話が聞けました。このインタビューシリーズはバリエーションに富んだ方々が登場します。「日本を飛び出して留学や、海外で仕事をしてみたい」とか、「なんだかよくわからないけどアメリカ西海岸に行ってみたい」とかいう人の参考にもしていただけたらなと思っています。
本企画ではこれまで5回にわたって、さまざまな人たちを紹介してきました。みなさんの共通点は、日本を飛び出してアメリカ人社会の中で活躍しているということ。しかし今回ご紹介する映像作家の牧鉄兵さんは、アメリカの西海岸に住みながら、ほとんど日本の仕事しかしないというユニークな働き方をしています。5年前、友人の交通違反をきっかけに一時的に渡米することになった牧さん。当時日本で手がけていた仕事をアメリカに持ち込み、現地で制作して日本に納品。そんなことを繰り返しているうちに、気がつけば5年が過ぎていたのだそうです。収入は日本にいた時の半分。それでも環境に恵まれたロサンゼルスで、自分の好きな仕事と趣味のサーフィンに没頭できる。そんな彼の豊かな生活が垣間見られるインタビューになったと思います。「十分なスキルがあれば、仕事は場所を選ばない」──そうおっしゃる牧さんは、究極のノマドワーカーなのかもしれません。
──牧さんは、アメリカ在住なのに日本からの仕事しかしない映像作家だそうですね?
牧:平たく言うとそうですね(笑)。いちおう職業欄には「映像作家」と書くようにしていますけど、映像作品を作るほかにイラストを描いたり、マンガを描いたり……何でもやる映像作家です。
──アメリカの会社から仕事のオファーが来ることはないんですか?
牧:もちろんありますよ。5年前にアメリカへ来たとき、FacebookとMySpaceのページを作ったんですね。そこに自己紹介みたいなものをアップしたら、「俺は主にエミネム[*1]のマネジメントをしてる」と名乗る人から連絡があったんです。それが、ろれつの回らないギャングスタ(gangsta)みたいなしゃべり方で。ミュージックビデオの制作を頼まれたのですが、「ちゃんとした依頼なのかなぁ?」と不安になって思わず名前を検索しちゃいました。そうしたら、金歯を詰めて中指を立てた人たちの集団の写真がずらっと出てきたんですよ。「ホンモノのギャングスタだ!」ってびっくりしました。
──それで断ったんですか?
牧:いや、日本の音楽関係のネゴシエーターを連れて交渉に行ったんです。ネゴシエーターの取り分は30%という約束だったので、その人も「まず300万円から交渉を始めて、それから値下げして150万円ぐらいで落ち着かせましょう」とか言って張り切っちゃって。それで、ネゴシエーターが「牧鉄兵に作らせたら日本への広告効果もあるから、300万はかかる」と切り出したら、ギャングスタは「ファック・メーン!」って中指立てる勢いなんですよ。「お前みたいなやつとはやれない」って。
──ああ、向こうから断ってきたんですね。
牧:そういうことになりますね。僕、普段はそこまで高いお金で仕事をしてるわけじゃないんですけど、ギャングスタが怖すぎて、もう何も言えなかった(笑)。それがこっちで最初に受けたオファーでしたね。あともうひとつ、こっちのローカル・ミュージシャンから受けたオファーがあって。東京のアートを広めるために、アートディレクターの佐藤直樹さん[*2]がロサンゼルスのリトルトーキョーで大きなイベント「LITTLE TOKYO DESIGN WEEK 2011」[*3]を開いたんですね。そのレセプションに行った時、インド系の女性に「あなたにぴったりの役があるから、オーディションにこないか」と声をかけられたんです。話を聞くと、どうやら携帯電話のCMを作ろうとしているらしい。「日本のロックスターがアメリカに来て、その電話会社のプランに入れば日本と安く通話ができる」みたいな設定の物語仕立てにしたいから、日本語アクセントの英語を話す人を探していると言うんです。誘われるがままにオーディションを受けに行ったら、なぜかファイナルの審査に残っちゃったんですよね。
──映像制作じゃなくて俳優の仕事だったんですね(笑)。
牧:そう(笑)。だから当然、ほかのオーディション参加者はみんな俳優で、天を仰いで「damn!」みたいなオーバーリアクションの演技をするわけですよ。僕、そんなのやったことないから笑っちゃいました。「俺、何でアメリカでこんなことやってんだ」って。結局、オーディションには落ちたんですけど、その時に映像作品を渡したんです。「実は僕、作る側なんです」と言って。すると後日、「友達のミュージシャンが会いたがってる」と連絡があったんです。そのミュージシャンは、西海岸ではかなり大規模なロックフェス「コーチェラ・フェスティバル」[*4]にも出演したことのあるラッパーでした。今回は個人名義で仕事を頼みたいと言うから、僕はいつも受けてる予算を提示したんですね。すると、「そんな高い金額払えるか」とまた断られちゃった。こっちのローカル・ミュージシャンから受けたオファーは、その2件ですね。
──牧さんが監督を務めた、ミュージシャン・寺田創一氏によるプロジェクト「Omodaka」のMVに出てくる骸骨のアニメーション[*5]などは外人にも受けそうな気がします。アメリカで自分を売り込みたいという気持ちはないのですか?
牧:もちろんどの国の人であっても、自分と同じ文化を共有できる相手とはどんどん関わりたいと思っています。ただ実際のところ、アニメーションをひとりで作るのには、ものすごい時間と労力がかかってしまうんです。2、3カ月は引きこもって制作することになるので、ある程度の予算を組んだうえでプロジェクトを進めざるを得ない。これまでは言葉の問題もあって仕事の交渉を第三者にお願いしていましたが、今は自分でコミュニケーションが取れるようになりました。予算だけではなく自分の仕事について、最初に伝えることができればこちらでも理解されやすいのかなぁと思っています。実は先ほどの話に出てきた断られたオファーについても、今、予算も含めてもう一度話そうということになっているんですよ。
──アメリカの西海岸に来たきっかけは何ですか? 「アメリカン・ドリームをつかむ!」的な動機だったわけじゃないですよね?
牧:アメリカには特に興味もなかったし、もともと英語もまったくしゃべれなかったんです。僕は大学を卒業してからずっとフリーで映像を作っていたんですけど、ミュージシャンの戸田誠司さん[*6]や、マンガ家のタナカカツキさん
タチヨミ版はここまでとなります。
2012年9月6日 発行 初版
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ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。
PHOTO by OKOZYO