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ロンドンオリンピックを直前に控えた夏の夕方、ソウルには珍しく台風が接近していた。風が強くなり始めたソウルの李博明大統領の官邸に、一本の電話が入った。中国共産党の次期国家主席と目される周金平氏の代理人からであった。
李博明自身の今後について、相談があるので、極秘で、しかも直近に会いたいという話だった。すぐに周金平に対して確認を行った上で、李博明は上海行きを決めた。
数日後、専用機で上海に飛んだ李博明は、中国側の用意した車で移動し、上海のビジネス街、浦東地区リッツカールトンホテルの最上階の部屋に通された。
エレベータボーイが特別な鍵を使わないと行けない階で、ワンフロアがほとんどこの部屋かと思わせるくらいの広さがある。部屋の中に廊下があり、ベッドルームもいくつあるのかわからない。同行したボディガードは、周が到着したら、その廊下の先に案内されるのだろう。
落ち着いた近代的なインテリアは神経に障るところがどこにもなく、思い切り大きく取られた沢山の窓からは煙幕に薄められた夏の午後の日差しが入り込んでくる。
その窓は、大きな川と沢山のビル、そしてその間にゴミゴミと密集する家々、といった現代の中国の混沌を、濁った絵具を使った絵のように、封じ込めて見せている。そして、陽の光は、空調により打ち消され、完全にコントロールされている。
普段、身なりをとても気にする李博明の上着の脇には、少し汗が滲んでいて、それがすこし気に障っていた。お忍びでは、大きな荷物は持参しにくくもあり、なにより日帰りだ。
その部屋に、ボーイのノックの後から入室してきた周金平が入ってきた。丸く扁平な顔、薄い眉と、酷薄な印象の一重瞼のうえに、狭い額が続いている、そして七三に分けて撫で付けた頭髪。いかにも漢人の、狡猾な政治家という印象が拭えない。周は何食わぬ涼しい顔で、白いシャツに仕立ての良いダークスーツを着こなしている。
「外灘の風景が一望できる素晴らしい部屋ですな、わが国には残念ながらこれほどのホテルはありません。今日は、お招きいただけて光栄ですよ、周大人」
李博明は、笑顔を見せて、周金平に右手を差し出した。周が手を出すと、李博明は両手でその手を握り返した。周はその手に、自らの手を添えて、ほんのすこしだけ上下に振ると、父親のような顔で言った。
「李大統領、そろそろ任期切れも迫り、身辺が慌しくなってきたようにお見受けします。
先日はご長兄も捕まったと小耳に挟みました。貴国の大統領経験者は、歴代みな同じように追われる身になったりしてしまうようですが、あなたは大丈夫ですかな?」
「はあ、わが国の慣わしのようなものではありますが、まことに困ったものです。わが国の国民は、成功をおさめたものに対して嫉妬する気持ちがとても強いのです。」
李博明は、絞り出すように言った。普段、それが大きな不満であり、悩みの種であることが、透けて見えた。周金平は、ちょっと失礼すると言い、ソファに座ると、李博明にも席を勧めた。ソファとテーブルがあまりに大きいため、周と李の間は、物凄く遠く感じた。周はタバコに火を付けて、煙をゆっくり吐き出しながら、切り出した。
「これでも忙しい身なので、早速ですが本題を申し上げます。実は、大変僭越とは思いますが、もしあなたがご要望であれば、我が中国共産党があなたとご家族、ご親戚の身柄を保証したいと考えているのですが、いかがでしょう。」
李博明は、思わず目を光らせたが、身を乗り出すのは堪え、低く緊張のある声でたずねた。
「それは大変にありがたいことです。しかし、仮にも次期中国国家主席の周大人ともあろうお人が、一体どんなことを私に期待されているのでしょう」
周は、目の前の鉄観音茶で唇を潤すと、相手を安心させるように、笑い顔を見せて言った。
「なあに、簡単なことです。ちょっと日本を怒らせて、独島を紛争地域のような状態にしてほしいのですよ。あなたの国には過激な嫌日家も多い。世論も合わせて、日韓ともに、独島キャンペーンを激化させて欲しい、と申し上げているのです。」
「ふむ、それは難しくはないですが。でも、一体何のためなのでしょう?」
「あなたはまだ、大統領というお立場だ。今は理由をお話しするのはご容赦いただきたい。もちろん、時期が来たらきちんとお話はさせていただきます。
いずれにせよ、やっていただければ先ほどのお話は、必ず実現します。また、私共は、あなたの大統領退任後も、相応の地位をご用意できると考えております。いかがですかな?それとも危険を押しても、これでご引退をお望みですかな?李大統領」
李は、なおも緊張した顔で考えていたが、表情を緩めて言った。
「わかりました。細かいことは、後々、聞かせてください。ご提示いただいた事は必ずやるとお約束しましょう、周大人」
本当にうだるような暑さや、たまらんで。
おれ、本田圭一は、ビルの鉄筋がひん曲がりそうな暑さのなかを、毎朝新聞社にもどってきた。
普段フットサルで体は鍛えているから、それほど汗をかくほうではないが、さすがに今日、サラッと乾いた状態で涼しい顔でいるのは無理な話だろう。朝はパリっとしていたピンストライプのシャツも、涼しげなベージュの麻のパンツも、今は少しヘロヘロになってしまっている。
原発停止による節電とやらで、廊下の効かないエアコンの吹き出し口をはしごしながら、おれは雑然としたオフィスに帰ってきた。それに気づいた澤田女史が、長い髪を後ろで一つに束ねた、グレーのパンツスーツ姿で、つかつかと寄ってきて言った。
「本田君、また川渕デスクがおかんむりだよ。もうちょっと上手くやればいいのに」
やれやれ、やっぱりや。俺は、ちょっとしかめ面を作ると、澤田女史に言った。
「ああ、そやろね、何のことか見当はつくわ。ちょっと行ってくる。」
がっしりとした体つきに、四角い顔を乗せ、白髪頭を撫で付けた川渕は、白いワイシャツを捲り上げた姿で俺が歩いてくるのに気づくと、デスクの上の俺の書いた原稿を拾い上げ、それを指先で叩きながら言った。
「本田!このオスプレイの記事は、また甘いんじゃないか?もっと大衆の嫌悪感をあおるように書けないものかね。」
オスプレイは危険だ、という論調で、マスコミはアレルギーを煽っている。しかし、オスプレイ自体の危険性は、試作機からのデータまで入っていて、現行機は普通のヘリより安全というデータがでている。一方でオスプレイはその輸送力と航続距離において驚異的な機種で、導入すれば作戦範囲が広大になる。
日本国民にアレルギーを起こさせて、米軍にオスプレイを使用させないと、だれが得になるかは、ちょっと考えれば誰でもわかるだろう。俺は、この作為的に事実を捻じ曲げる、あるいは世論を誘導するような報道が、大嫌いだ。だから、こういうときについ、余計なことを言ってしまう。
「お言葉ですが、調べれば調べるほど、騒ぎ立てるほどのことではありませんよ。そんなのご自分でもおわかりでしょう?」
「何度言えばいいんだ!お前が主観的な判断を下す必要はない!必要なのは危険であるという事実を読者に伝えることだ!」
「俺にはワイワイ、そのへんで反対デモをやっているやつらの方が、よ~っぽど危険に見えるんですがねえ。それに、危険だ!というのも主観に思えるのですが。」
「なあ、本田ぁ、頼むからいい加減、俺の立場もわかれよ。もういい、この記事は中村に書き直させる。」
そこに澤田女史が、驚くべきニュースを持って飛び込んできた。
「川渕デスク!これ見てください!」
「李博明大統領、明日8月10日に竹島を訪問する予定・・・共同通信・・・・なんだこれは、気でも狂ったのか、あのおっさん。」
珍しく、川渕デスクが、他国の大統領をつかまえて、「おっさん」などと言っている。しかしながら、この件はそれだけ衝撃的だ。
「デスク、本当なんですか?李博明、何考えてんだ?ちょっと調べてきます。」
「おい本田、こんなことほじくりかえさなくていい。ただの人気取りだ。」
「でも、オリンピックの独島セレモニーに続いてこれだ。なんだか妙に作為的な気がしませんか?」
「いいからほっとけ。それから、この記事はオマエに書かせないからな。」
おれは、売り言葉に買い言葉で、つい減らず口を叩いてしまった。
「どうせコピペするだけの仕事でしょ、真っ平ですよ。」
「本田君、そんなことばかり言ってると、また文芸にまわされるよ。」
澤田女史に、ぴしゃりと言われてしまった。彼女は、普段強いが、いざとなるととても優しいタイプで、誰からも頼りにされている。おれは、ちょっと冗談めかして言った。
「うへ~そいつは堪忍してください。」
俺は白地に紺の太いストライプの入ったシャツの袖を引き上げ、右手の時計を見た。
「ちょっと言いすぎました、すみません。人に会う予定があるので、お先に失礼します」
俺は、カバンだけを持つと、まだ明るい町へと出て行った。すぐに携帯をかけると、5回ほどの呼び出しで、岡崎につながった。
こいつはフットサルチームの仲間で、一見頭は良さそうに見えないが、実は天下のキャリア様だ。外務省につとめている。ときどき、ニュースソースとして利用させてもらっている。まあ、実際にはオフレコで、記事にはできない事のほうが多いが。
「あ、圭ちゃん、電話来るんじゃないかと思ってたよ~」
「せやろ、オカ、お前、李博明のこと、なんか知っとるか?」
「いや、それがよくわからんのですわ~」
「まあええわ、ちょっといっぱいやらんか?」
「いいねえ。じゃ、いつものところで待っててよ」
「おう、わかた」
俺は、まだちっとも暑さの抜けない烏森の町を抜けて、打ち水も乾かない小料理屋「歩遠路」の暖簾をくぐった。絣の着物を涼しげに着たおカミさんが、声をかけてくれる。
「本田くん、いらっしゃい。この暑いのに、相変わらず颯爽としてかっこいいじゃない。でも、その金髪は、お固い新聞社には似合わない気もするけどね。ビールでいい?」
俺は熱いお絞りで顔から刈り上げたうなじまで、ぐるりと拭きながら言った。
「ああ、お願いします。あと、食い物は脂っこくないところ適当に」
「はいはい。最近は仕事の方、いいの?」
「あいかわらず、つまらないですわ。どこの国の新聞なんだ~!って暴れたくなりますわ」
「ほんとね。本田くんには悪いけど、私も新聞ぜんぜん読まなくなっちゃったわよ。テレビもバカみたいだし」
そのとき、ガラガラと引き戸が開き、岡崎慎一が暖簾の間から、にゅっと顔をだした。
「えへへ~、こんばんは~」
岡崎は長めの髪に、太い眉の下で細い目を更に細めて嬉しそうな顔をしている。
「おう、オカ、中国行ってたんやろ、しばらくやな~」
「圭ちゃんも、元気そうやな。ハット決めそうな顔しとるで~」
岡崎はおしぼりで顔全体をゴシゴシ擦ると、出されたグラスのビールを一気に飲み干して言った。
「ひや~、生き返ったわ!圭ちゃんから電話もらってから、汗をかいたビールグラスが目に浮かんで離れんかったで。そやそや、李博明のことやけど、どうも独断の行動みたいや。韓国政府にしたら、不利益が多くて、頭を抱えてる連中が沢山いるらしい。うちの韓国担当の連中も唖然としとったで。」
「せやろな。それやし、李博明にだって、それほど利益のある行為とも思えん。どうせ韓国では再任はない。大統領退陣は決まっているしな。」
「せや、いまさら人気取りしても意味ない。ところで、イスラム原理主義者たちが、最近また元気になって来ているらしい。そんでもってオバマさんもこの冬までやろ。経済政策が上手くいかなくて、旗色が悪いときてる。この次共和党になったりしたら、またアメさんは、中東でドンパチやりそうな気がするで。
ほいでもって、中国はまず間違いなく、周金平に変わる。こっちも軍部とつながった強硬派や。
韓国も大統領選で、政権交代確実。どうやら次は親北路線になりそうや。そうなると今ジリジリと韓国から離れていっているアメリカとも、もっと微妙になるやろうし、ますます不安定になるやろな。
日本は来年まであのクソ民衆党が政権を握ってたら、一気に国のパワーバランスが崩てしまうこの惑星直列みたいな年に、ホント、どうなるかわからん。危なくてて仕方ないわ。」
「惑星直列か、言い得て妙やな。それにしても、韓国は、金日恩が、無慈悲な攻撃でソウルを火の海にしてやる、なんて言っているのに、それでも親北政権になるのか。ものずきなやつらやな。
まあ、とにかく、俺も早く日本もこのクソ政権が終わって、マトモな政党にやってほしいわ。うちも裏金と外国人とアカにやられて、ちっともマトモな報道できんようになってるし。」
「そりゃ、圭ちゃん、元からやろ。毎朝新聞なんか入るからいけないんやで。どんなとこか、わかってたんやろ?」
「ああ、まあ、そりゃ少しはな。でも、当時はこんなに酷くなかった気がしたんやけどなあ。他は全部落ちたから仕方なく選んだんやけど、やめときゃ良かったわ。
とはいえ、今はどこの新聞社も全部おんなじ様なもんやからな。まったく、記者クラブなんて制度は報道の堕落やで。ところでオカ、お前専門の中国の方はどうなんや?」
岡崎は人懐っこい柴犬のような顔で得意分野のことを話し出した。
「上海の軍部がかなり強力になっとるよ。歴史的にみると、中国をここまでの大国にしたのは、鄧小平から胡錦濤に連なる知識人階級の「北京閥」なんや。
北京閥は、軍部の力をうまくコントロールし、中国を民主国家へとソフトな変革を促そうとしてきた集団。で、江沢民の流れをくむ「上海閥」は、軍部とグルになって利権をむさぼる共産党独裁主義集団みたいな感じや。
お前も知ってると思うけど、現在の中国の国家主席は北京閥の胡錦濤や。そして、次の国家主席に最も近いと言われているのが上海閥の周金平。
これまで胡錦濤率いる現政権は、アメリカとの関係を、なんとかうまく駆け引きしてきたんや。今、北京閥は李克強という男を担ぎ上げているが、そいつは若い頃、小沢一郎の家にいたこともあるという、ごっつい知日派なんや。そやから日本としては、北京閥の方が国益にかなうんやけど、実際は残念ながら完全に上海有利や。
さらに言うとな、周金平は、3年前に共産党軍事委員会の副主席になっていなければならない筈だったんや。でも、その決定直前にウイグル自治区にて大規模な暴動がおこりよった。
それが胡錦濤がG20に出席している間で、留守番役であった周金平がウイグル暴動の責任を取らされ、中国共産党軍事委員会に入れなかったんや。
これの絵を描いたのは、北京閥だといわれとる。周金平の足を引っ張るべくわざとウイグル自治区の暴動劇を引き起こしたってことや。
そのせいもあってか北京と上海は、今、ドロドロの逮捕劇やらなんやらを繰り返しとる。あそこは人治国家やから、逮捕や処罰するために、正当な法律はいらんからな。
まあ、これから中国はタカ派が政権を担い、対外的にも孤立する傾向にあるとうちらは見とるけどね。
味方は北朝鮮くらいしか無くなってしまうと思うで。で、北朝鮮には、港を租借して軍を駐留させている。土地も買って、武器とか資金も流しとるみたいや。」
「なるほどな~、もしかすると、李博明には、北とか中国からの圧力でもあるのかもしれへんな。ま、いろいろわかったような、わからない様な・・・ま、ええわ、オカ、ありがとうな。」
それから俺たちは、フットサルの話で盛り上がった。土曜日の試合には、岡崎も来れるらしい。俺は左手の時計を見ていった。
「さて、もう9時半か、オカミさん、おあいそして。」
「なんや圭ちゃん、もう行くん?」
「おう、明日も忙しいんや、ええ準備しとかんとな。」
韓国の李博明大統領は8月13日、「日本がその気になれば(日本軍慰安婦問題は)解決するのに、内政のために消極的なので、行動で見せる必要を感じた」と述べ、竹島訪問を決断した背景に慰安婦問題があったことを明らかにした。
韓国の李博明大統領は8月14日、「(天皇は)韓国を訪問したがっているが、独立運動で亡くなった方々を訪ね、心から謝るなら来なさいと(日本側に)言った」と述べた。
俺は、毎朝新聞社の廊下で、国際部の田中釣男につかまった。大学のサッカー部の先輩の田中は、183のおれよりも、もっと長身だ。FWもCBもこなすパワフルなプレイヤーで、空中戦では負けたことを見たことが無かった。今は少し頭頂部が薄くなってはいるが端正で鋭い顔つきをしている。そんな田中がこぶしを握り締めて、おれに怒りの形相で食って掛かってきた。
「おい本田、知ってるか?李博明の野郎、よりにもよって、天皇陛下を侮辱する発言をしやがった。」
「もちろん知ってますよ。なにか、おかしな裏があるのではないかと勘ぐってるとこです」
「裏なんざ、どうでもいいんだよ!あのヒロアキの野郎が本当はなんて言ったか知ってるか?
『日王は韓国民に心から土下座したいのなら来い。重罪人に相応しく、手足を縛って頭を踏んで、地面に擦り付けて謝らせてやる。重罪人が土下座もしない、言葉で謝るだけならふざけた話しだ。そんな馬鹿な話しは通用しない。それなら入国は許さないぞ!』
だぞ!ふざけんなあの野郎、ぶっ殺してやる!」
「まあ、先輩、落ち着いて。確かに李博明の物言いはふざけてるし、俺もそれを穏便な言い回しでしか報道できない自分が悔しいっすよ。日本人なら、怒って当然の話で、この非礼は宣戦布告レベルだと思います。
ですが先輩、どこか、変やないですか?
李博明は日本全体を挑発してるとしか思えないですよ。日本が韓国に対して腹を立てて、一体だれが利益を得るんですかね?おれは全然、腑に落ちないんですよ。」
「うるせー、なんで天皇がやつらに謝るんだ!日本人は2000年以上の長い年月、天皇を首長としてあがめ、民主主義を貫いてきたんだ。本田、仁徳天皇の民のかまどの話を知ってるか?」
「えっと、高き屋に のぼりて見れば煙り立つ 民のかまども にぎはひにけり、ですよね。」
「ほう、よく知ってるじゃねえか。さすがは元、文芸だ、人は見かけによらんな。
とにかく、天皇が、民のかまどより煙が立ち昇らないのは、貧しくて炊くものがないのではないかと、向こう3年税を免じたんだ。
その間天皇は、御所の修復さえ倹約したそうだ。これは3年後に天皇が同じ高台から見渡し、かまどの煙がたっているを見て、喜ぶ歌だ。このあと、天皇屋根を葺き替え、おかずも増やしたらしい。
こういうふうに、日本人は天皇陛下と共に、支えあって生きてきたんだ。それを何にもわからないやつに罪人扱いされる筋合いはねえ!」
「それは日本人の総意ですよね。ただ、博明は在日出身だからそのあたりはよくわかってるはず。だからやつは、わざと日本人全員を挑発したに決まってるんですよ。
日韓関係で利益を得ている人は少なくない筈だし、そもそも今まで、国家ブランド委員会なんて組織作って、あんなに韓流をごり押しして、宣伝費をガンガン垂れ流ししてたのに、これで全部吹っ飛んだわけじゃないですか。まったく合理的な行動ではない。でも、出たとこ勝負でやりたい放題やっているのかというと、どうもそんな様子でない。だから、なにか裏があるんじゃないかと言ってるんです。」
田中釣男は、ちょっと目を泳がせて考えてから言った。
「ふん、天皇発言は許せないが、いろいろ煩わしい日韓関係がこれでスッキリすると思うと、爽快感はあるがな。まあ、敵味方がハッキリするのは良い事だ。本田、調べてなんかあったら、教えてくれ。」
言葉の最後には背中を見せながら、田中は手をヒラヒラさせて、去っていった。向こうのほうで、
「釣男、お前元ブラジル人なのに、何でそんなに怒ってんだ」
「うるせー!俺は日本人だ!」
というやり取りが聞こえる。それを見送りながら俺は、「敵味方」という言葉がなんとなく気になった。
試合は2対2のまま、なかなか動かなかった。岡崎の泥臭いこぼれ球の押し込みと、前田のヘッドで2点入れたものの、川島の調子がもうひとつ上がらなかった。川島は2点を失った悔しさで何度も吠えた。
白銀灯の照明にさらされた人工芝のコートで、本田はめまぐるしく動いていた。彼の強い下半身はほとんど当たり負けしたことがないうえ、、上半身の使い方も上手い。そのため相手ディフェンスを引き付けてラストパスを出す技術はピカイチで、相手にとってはこれほど嫌な敵もいないだろう。
フットサルではサッカーに比べてコンタクトが少なく、俊敏性がフィジカルの強さを上回る傾向は確かにあるが、それでも彼の強さは抜きん出ていて、正確な足元と共に、本田の大きな武器になっていた。
後半の19分。同点。あとワンチャンスしかない時間だ。
フットサルは激しく攻守が入れ替わる。バレーの選手がローテーションするように、ポジションチェンジをして相手のディフェンスを抜こうとする。
右の自陣ゴール付近にいた本田は相手のシュートコースを消して身体をよせた。相手がたまらずロストしたボールを右足裏で寄せて、相手との間に身体を入れ、さらに時計回りのターンでもう一度前を向くと、左足で浮かせてトップにいる李に送った。
左サイドにいた李忠也は、本田のディフェンスを見てタイミングを合わせ、相手ディフェンスを外していた。予想通り本田からのパスが来たのを見て、半身から浮き球をボレーした。右足での難しいボレーで、成功したら奇跡だ。
しかし李忠也の放ったボールは見事に相手のサイドネットに突き刺さった。普段は無口で表情を変えない李忠也も、さすがに嬉しそうに白い歯を見せ、腕を振り上げてガッツポーズを見せた。
皆が集まり祝福し、その後インプレーになって間もなく、長い笛が鳴った。
俺は李忠也のところに駆け寄り、頭をクシャクシャにして、祝福した。
「おう、やるやんか!ええシュートやったでえ。あの角度から来たら、俺はボレーできひん。」
「いえいえ、本田さんのパスのおかげです。」
「なんや、謙遜とはらしくないな忠也。ところで、ちょっと聞きたい事があるんやけど、メシでも食わへんか?」
「ああ、そういえば腹減りましたね、行きましょう。」
「俺も行く。」
となりにボーッと立っていた前田遼二が言った。
「うわ、まじか~、やばいでこれは!」
駆け寄ってきた岡崎が、鼻に皺を寄せて笑った。
「俺はちょっと。ウイグル語の教室があるので、帰る。」
キーパーの川島英字がきっぱりと言った。そして丈夫そうな歯並びの笑顔で、みんなの背中を叩き、またな、とハキハキ挨拶すると、ガッシリとした後ろ姿を見せて、爽やかに帰っていった。
それにしても、こいつはなんで、こんなに語学をやりたいんやろ。語学学校の教師とはいえ、英語、フランス語は当たり前で中国語やビルマ語まで話せるらしい。
「岡崎なんか外務省キャリアの癖に、いまだに中国語さえちっとも喋れへんのに。」
おれが思わず漏らすと、岡崎は脳天気に言った。
「あ、ひどいな、圭ちゃん、おれだって随分話せるようになったで、ニイハオマ~」
焼肉屋で、俺たちは二つのロースターに3対1で座った。俺たちが3人分を適当にオーダーすると、前田はいきなり、「カルビ、ロース、塩タン、ホルモン、全部5人前、それとライスとキムチとユッケジャンスープを3人前」と言った。俺たちは笑いをこらえていたが、店員は目を白黒させて下がっていった。
「な、忠也、お前が今、日本人なのはわかっとるけど、昔の仲間の総連だか民潭だかで、最近なにか動きないか?」
李は涼し気な顔でコチジャンをタレに入れて、溶かしながら聞いた。色白で細面。切れ長の目が印象的な顔をしている。日本人だったら、青森あたりに多いような顔だ。
「動きってどんな?」
「いや、たとえば、北が攻撃しかける準備してるとか」
「うーん、帰化してからはみんな、あまりちゃんと話してくれなくなっちゃってるから。あ、でも一人が、お前、もうすぐ南北統一やで、大朝鮮国になるんやで、お前はチョッパリなんかになって、あほやな~って言ってた。全然信憑性ないとは思うけど。」
「ほー、そいつは北か?それとも南?」
「北。でもね、在日では本当は北も南もないんだよ。そもそも一緒だったのが、国の都合で分かれたから、俺らの親父や、じいちゃんの代が勝手にどっちかに所属したんだけど、途中で都合で入れ替わることもよくあるしね」
「そうなんか。けったいな立場やな。」
岡崎はカルビを燃やして、真っ黒にしてしまい、騒いでいる。前田は・・・・食っている。
「あ、それから・・・噂で聞いた話でしかないけど、今パチンコ屋から北へ、今までにない規模でお金が動いているらしいよ。民衆党の議員も一枚噛んでるとか、いないとか。」
「ほう、それは聞き捨てならんな」
岡崎は焼けた塩タンを全部、前田に取られたと騒いでいる。前田は・・・・食っている。
一心不乱に食っている前田の隙を見て、岡崎はユッケジャンスープを奪取し、得意そうな顔だ。
前田は、それを見て眉をピクリ動かすと、通りがかった店員にカルビクッパを3人前注文し、歴史の教科書のクロマニヨン人のような落ち窪んだ目で岡崎の顔を見て、ニヤリと笑った。
半年前・・・2011年冬のある日
金日恩は、憂鬱な目で灰色の平壌の街を見下ろした。冬の午前の街並みは暗い。無駄に広い道を行き交う車も、歩く人の姿もあまりない。
今はとにかく国が疲弊しきっている。2010年に父の金正日の行ったデノミで新通貨への交換額を制限したため、多くの国民が財産を失った。それからというもの経済的に有効な手段を打つこともできず、産業は廃れ、餓死者や亡命者が増えていく。
弱冠29歳で国の最高指導者になったものの、はじめから敗軍の将のような有様に日恩は、今日何度目かわからないため息をついた。
祖父や父の頃にはもっと活気があった。いつかこの場所に就くかもしれないわくわくした期待があったものの、手に入れたら屍だったような悲しさ。このまま中国か韓国に飲み込まれ、処刑されるのが俺に待ち受ける運命なのか?あるいは軍部のクーデターで殺されるのかも知れない・・・またいつもの嫌な考えが巡る。
今のこの国には戦線を維持する底力がないばかりか、満足に整備された兵器さえ、少なくなってきている。以前に行った東京の様子を思い出し、我が国とのインフラのあまりの違いに暗澹たる気になる。日本のパチンコから流れる資金さえ、なかなか予定通りに届かない日々が続いている。
どうにかしなければならない、そんな焦りがせり上って、声にならない叫びを飲み込む。この俺が自分の手で、国民の尊敬と繁栄を手に入れてやる。きっと、なにか手はあるはずだ。
そのとき、デスクの上の電話が小さく音を鳴らした。
「金日恩第一書記、中国の周金平副主席がお着きになります。」
「今行く。」
官邸正面入口の車止めに、金日恩は太めの身体を運んだ。黒塗りの車の後部座席から、周金平が降りてくるのを待って、握手をして迎えた。
「周大人、ご無沙汰しております。ご活躍はかねがねお伺いしております。」
「これはこれは、金第一書記自らのお迎えとは、恐縮至極です。」
「今回の訪問は内密という事でしたね。さ、早く中にお入りください。」
来客用の応接室は豪華な調度品が並んでいたが、いずれも古びた印象があった。その部屋のなかでこの頭の周囲を刈り上げた、太めの若い統治者は、主人としてあまり似つかわしくないように思える。
「確か、私が第一書記に就任したときにお会いして以来かと。周大人は来年には中国共産党の主席と目されておりますね。ご就任の際には、どうぞよろしくご鞭撻をお願いしたいものです。」
「金第一書記閣下、早速ですが私にちょっとご提案させていただきたいことがあります。これは貴国の将来に大きく関わることです。まずお尋ねしたいのですが、閣下は南北朝鮮の合併について、どうお考えですか?どうか、プロパガンダのようなお話ではなく、ざっくばらんに本音のところをお伺いしたいのですが。」
金日恩は少しの間宙を見つめ、心を決めたように話しだした。
「いきなり核心にずばりと切り込んでこられますね。もちろん朝鮮統合は、我々朝鮮人の悲願です。ですが、北朝鮮の代表として申し上げると、なかなか困難であると言わざるを得ません。御存知の通り我が国では、今は経済的にも困窮しており、南とのバランスが取れる状態ではないですから。」
「南の方が納得しない、とお考えですか?」
「まあ、いろいろと前提条件次第というところもあるでしょうが、概ねはそのような事ではないかと考えています。」
「では、もし我々、中国共産党が主導した上で、南が合併を希望したとしたら、閣下はご協力いただけますか?もちろん、閣下のお立場なども変わりはしますが、それでも指導者としてご活躍いただけるとお考えいただいて結構です。」
「そうですね、もちろん検討の余地は十分にあります。しかしながら話がとても大きく、いろいろな条件などをお伺いしないと、判断しきれません。」
「今のところ時期などを申し上げるのは尚早ですが、私共は今、水面下で準備を進めています。貴国には、しかるべき時期に軍隊をソウルへと動かしていただきたいのです。
その際には国境線突破の際の小競り合いは仕方がないですが、その後は目立った攻撃や略奪などはご法度です。できれば、アリランでも歌いながら、まるで統一軍としての平和的軍事行進、とでもいう感じでやっていただきたい。」
「しかし南にも軍隊はありますし、米軍も駐留しています。彼らが黙っていますか?」
「今、わが中国共産党では、彼らが動かない動機とタイミングを作ろうと、世界各地でいろいろと努力しています。私の計画では、韓国軍は動きません。
米軍は、韓国陸軍が動かず、韓国政府から出動要請もなかった場合、それをおして作戦行動を起こすとも、考えられません。米軍は2015年に撤退が決まっていて、韓国の防衛には及び腰ですから。本来ならそれまで待てば容易なのですが、それでは少し、遅きに失します。
今日私は、その作戦の時期がそれほど遠くないと思えるようになったので、こうしてご相談しに来た次第です。おそらく来年末には、私が中国の国家主席になり、公に軍を動かす立場になります。それからの話にはなると思いますが、ある程度状況次第という部分があるため、貴国にも準備を進めていただきたいのです。」
「なるほど。ところで、南北朝鮮の統一がなされた場合、我が国はどういう国になり、貴国との関係はどうなるとお考えでしょう。」
「現在の南の体制を基本的には踏襲して、議会制民主主義で自由主義の国となります。日本の天皇のように、新朝鮮はあなたの金一族を「王」と戴いて、一つにまとまります。我が国は密接な経済協力をし、貴国をバックアップするでしょう。
そして、これが我が国の望みなのですが、新朝鮮国には強大な軍事力を持っていただきたい。その軍事力を以って、我が国が動きにくい局面では、正規、不正規問わない軍事行動で、貴国に暴れていただきたいのです。」
金日恩は少しの間の宙を見つめて考え、ゆっくりと、低い声で言った。
「なるほど、お抱え暴力団のような国、ということですかね。」
「それは随分人聞きの悪い。とにかく、周金平の中華人民共和国の、最も大切なパートナーとなる、ということです。」
「わかりました。細かいお話はまた、後々お伺いするとして、差し当たり我が国は何をしたら良いでしょう。」
「まず、韓国政府に対して、挑発的な言葉で、攻撃の意思を十分に表明してください。ですが攻撃は行なわないでいただきたい。これはブラフですが、それで韓国国境へ兵力を集中させておく事が自然になります。しかし戦闘は、小競り合いくらいならいいでしょうが、おおごとになると、米軍が出てきてしまいます。
それから、羅先市、清津市近辺の港を租借したい。そこへわが国からの鉄道を引き、中国海軍が日本海に素早く展開できるようにするのが、当面の我々の望みです。」
「分かりました。おっしゃられたことは早速実行しましょう。その後のご計画についても差し支えない範囲でお教えください。」
「金閣下、ご理解いただけて嬉しいですよ。我が国、中華人民共和国と、新朝鮮国の将来を祝って、乾杯いたしませんか。」
金日恩は、痩せていれば精悍とも思える顔を、初めてほころばせた。通訳が連絡すると、素早くシャンパンがサービスされ、金日恩と周金平は、小さくグラスを打ち付けた。
2012年4月18日
【ソウル=中川孝之】北朝鮮の朝鮮中央通信によると、朝鮮人民軍最高司令部の報道官は18日、韓国のメディアや団体が、金日恩第1書記を侮辱したとして、「ソウルを吹き飛ばすための特別行動措置が取られる」との声明を発表した。
それによると、韓国紙などが、15日の金日成キムイルソン主席生誕100記念の軍事パレードを閲兵した日恩氏を中傷したとして、「挑発者に無慈悲な洗礼を与える」とした上で、「閲兵式(軍事パレード)で示された強力な攻撃手段が、そのまま我々の攻撃戦につながる」と、武力挑発を示唆した。
2012年9月10日
【瀋陽聯合ニュース】北朝鮮が羅先の羅津港に続き、咸鏡北道の清津港を中国に開放し、中国の「東海航路」進出が本格化する見通しだ。
中国現地紙の延辺日報が10日付で報じたところによると、吉林省図們市の民営企業、延辺海華集団は今月1日に平壌で北朝鮮港湾総会社と正式に契約を交わし、清津港の海運・港湾合弁会社を共同で設立した。中朝は、年間荷役能力が700万トンの清津港3号・4号埠頭を30年間共同で管理・利用することで合意。
俺は社員食堂で、少しも辛くないカレーライスを食べながら、隣の澤田女史に言った。
「なにやら、珍しく韓国に対して強硬に出てるで、民衆党は。それに、この件に関しては今まで報道しない自由を駆使して、とんでもない大事件まで隠してきた、うちを含めたマスコミが、何故がこぞって報道しとる。」
「さすがに天皇発言は、みんなも腹に据えかねてるんじゃないの?」
「そりゃ、今回のことは最大限、むっちゃ腹立つ事態やけど、普通はそんなこと報道しようとしたら、日韓関係を損ねるから報道はなら~ん!ってなるやろ。事が重大なら、なおさらの事や。
それがなんで各社ワイワイ、当たり前に報道しとるんやろか。おまけにまるで韓国の傀儡政権の民衆党が、スワップの延長してやらん、と珍しくマトモなこと言うとる。そもそもあいつら、天皇陛下を侮辱されて悔しい気持ちあるのか俺には疑問やで。」
「確かにね。今回政府が強硬な態度を見せているのは、ちょっと違和感あるね。でもきっと、選挙対策のつもりでしょ。無駄だろうけど。」
そこへうどんを持った田中釣男がやってきて、澤田のとなりに腰掛けた。
「澤田ちゃん、元気でやっとるか~?」
「ああ、釣男くん、あんたこそ国際部回されて、ちゃんと仕事できてるの?」
「おお、あたぼうよ!と言いたいとこだけどよ、あそこはもう中国と韓国の干渉がうるさくてまともに記事なんて書けねえよ。」
田中は割り箸を割ると、豪快に七味とうがらしをかけて、たぬきうどんを食う。
「田中先輩、なんで今回の李博明の件は、報道されてるんですかね?」
「ん~?」
田中は片方の眉を釣り上げて、本田を見た。口元を覆っていた丼を下げると、言った。
「お前、知らねえのか? 今回の件は中国から報道を規制するな、と言ってきたって噂だぞ?」
「え?なんで中国が?」
「知るもんか。あの国は上海だか北京だか軍閥だか、頭が沢山あるタコみてえな国だからな、俺みたいな単純な頭じゃ、理解できねえよ。」
「あら、釣男くん、よく解ってるじゃない。」
「まったく、澤田ちゃんにはかなわねえな。まあ、我社のバロンドールみたいな女だからな。仕方ねえ。」
田中は汁を全部飲んだ丼を置くと、目の前でパンパン、と手をたたき、「ごちそうさまでした」と丁寧に言うと、プラスチックのコップの中の水を、うまそうに飲んだ。
俺が自分のデスクに戻ると、川淵が来て言った。
「おい本田、今、日比谷で反原発デモやってるので、取材してこい。」
「お、取材していいデモですね。」
「そういうこと。早く行け。」
「それにしても、たまには取材費の出るような取材、回してくださいよ。」
川渕は苦笑して応えた。
「お前はいつも一言多いぞ。」
俺は笑いながら、カバンに小型のニコンを突っ込むと、歩いて日比谷公園を目指した。真夏の午後の日比谷公園は、光にあふれていた。そこにカラフルなTシャツなどを思い思いに着た人々が、デモに参加している。
それらの人たちの写真を撮っていると、不審なことに気づいた。デモの参加者には、普通の人も多いが、昔からのデモよろしく、マスクとサングラスの連中もいる。彼らの持っているプラカードのひとつの裏側にハングル文字が書いてあるのを見つけた。うんざりして、俺は取材の意欲を失った。
そういう目でよく見ると、プラカードの中にも「9条改憲阻止」だの「沖縄意見広告運動」だの、「オスプレイ断固反対」だのが混じっていて、その中で明らかに普通の人たちは、戸惑った表情をしている。
「いろいろ、香ばしいやつらが混じっとるで・・・」
思わずため息をついて、日陰のベンチに腰を掛けた。
と、そこにテレビクルーがやってきた。ものものしいテレビカメラの前で、スラリとした長い髪の女性キャスターが、背の低いおばちゃんにインタビューしている。
キャスターは膝と腰を曲げた苦しそうな姿勢で、マイクをおばちゃんに差し出しているが、おばちゃんはそういう事には全く無頓着に、言いたいことを言いまくっている。
「もう、ほんとにね、ほんとに、原発なんてまっぴらなんですよ!あんな危ないもの作る人達は、殺人者よね。殺人者。人を殺しても平気なんですから、オスプレイもおんなじ。もうね、安心して眠れる世の中にするために、今日来たんです。埼玉から。1時間半もかけて。だからもう、原発なんて廃止して欲しいですよ、ホントに、わかるわよね、もう頭にきちゃうんです。だってそうでしょ?キチガイ沙汰ですから。こんな簡単なことがみんなわからないから、私達デモしないといけないんです。ホント、バカは幸せですよね。私の甥っ子もちょっとなんていうんですか、世間一般ではお利口でないんですけど、その子はそれでも、幸せそうなんですよ。そうですとも。人間の幸せなんて、他から見たらわからないですから、ひとの不幸を見て笑っている人には、私は言いたいんですよ。そういえば、今日は埼京線が遅れたんですよ・・・・・」
キャスターは、顔に張り付いた笑顔を時折引きつらせながら、マイクを差し出していたが、ちょっとおばちゃんの勢いが落ちたところで、すかさずカメラの前に出て、話を遮ると、鮮やかにインタビューを終わらせた。
おばちゃんは唖然としている。その顔を見て、おれは、すっと溜飲を下げた。
キャスターは、カメラが止まったのを確認すると、表情を消し、すたすたと早足で俺が座っているベンチをとおり越して、水のみ場まで歩いてきた。
飲み場の水でハンカチを濡らして、首筋にあて、すぐ隣りのベンチに腰掛けると、おおきくため息をついて顎を上げ、目を半ば閉じた。俺にはその横顔の、おでこから鼻すじにかけての線が、とても女性らしく思え、話をしてみたくなった。
「すごいおばちゃんだったですね、でも、あのさえぎり方は見事だった。」
俺は内心の緊張を出さないように笑いながら言ってみた。彼女も最初はわずかに警戒の素振りを見せたが、すぐに笑って答えた。
「もう、あんな人ばっかりなんですから、原発デモは。嫌になっちゃいます。ですけど、うちの局に抗議に来るデモの参加者にマトモな人が多いのも、逆に困るんですけどね。」
彼女は白い歯を見せて笑いながら言った。風が吹いて、長い髪がふわりと揺れた。
「お、すごい切り返しですね。俺、本田圭一と言います。毎朝新聞の記者やってます。」
「あら、驚いた。その金髪で、記者さんだったの?では今日は取材?」
「そう。でもさっき、プラカードの裏にハングルが書かれているのを見て、うんざりして、ここのベンチで社会見学、というわけです。」
「私は奥間優子。ご存知かしら?」
「いや、すいません、あまりテレビ見ないんで・・・」
「記者さんがテレビ見ないで、良いの?」
「ばあちゃんに、テレビばっかり見てるとバカになると言われて育ったもので・・・」
「あら、それは聡明なおばあさまですね。」
彼女は笑って言った。笑うと口元が優しい形になって、おれはちょっと見とれてしまった。おれはこの女性キャスターの聡明さとストレートなところに、清々しい気持ちよさを感じた。
「奥間さん、おれはそろそろ社に帰って、このデモの記事でっちあげないとならんのやけど、良かったら後でビールでも飲みませんか?」
「あら、大阪弁と標準語のチャンポンですね。私も大阪なんです。」
「おお、そりゃええわ。では、これ、俺の名刺。携帯とメルアドも入ってます。よろしく。」
「はい、じゃあ、あとでメールします。」
片手を上げて挨拶すると、おれは日陰を出て、白く見える砂利を踏んで、歩いていった。脳天から降り注ぐ日差しのせいで、奥間優子とどこでビールを飲もうか、そんな考えもすぐに蒸発してしまい、それどころではなくなってしまった。
社に帰り、記事をでっち上げて、自分のノートPCで調べ物をしていると、メールが入った。
「奥間です、仕事終わりました。どこまで行けばいいですか? v(*^o^*)v」
「汐留のコンラッド・ホテルわかりますか?そこのロビー階のラウンジでどうでしょう?」
「わかりました。30分くらいかな。」
「了解、待ってます。」
俺は直ちにPCを落とすと、挨拶もそこそこに部屋を出た。社を出る前にトイレに寄り、顔を洗って暑かった一日の汗をちょっとだけ流した。首筋をタオルで拭っていると、田中釣男が入ってきて、小便をしながら言った。
「本田、民衆党が日韓スワップの白紙撤回するかもしれん、と言ってるぞ。」
「まじですか!民衆党は本気なのかな。先輩、情報ありがとうございます!」
おれは言い放って、トイレをとびだした。社の正面でタクシーを拾い、汐留に向かった。
コンラッドホテルは、浜離宮のそばにある、新しい高級ホテルだ。この辺のホテルは、地下街が発達しているせいもあって、1階がロビー、なんていう常識は全く通用しない。
おれは奥間優子が、ロビーの中央に飾られた、巨大な生け花の前を通り過ぎるときに、その姿に気がついた。当然のごとく昼間と同じ服ではあったが、ホテルの豪華な内装と、柔らかい光のせいか、昼間よりもずっとエレガントな美人に見えた。俺は手を上げて、優子を迎えた。
「奥間さん、来てくれてありがとう。なんや、昼間よりずっとキレイで、ドギマギしてしもうた。」
「いやだ、でもあんな直射日光の中じゃ、いろいろボロがでちゃうからね。今はバッチリ化粧もして武装してきたから。」
「ほう、そりゃ、恐ろしい。で、優子さん、ビールでいいですか?」
奥間優子は、笑って答えた。
「うん、お願い。ねえ、ここのホテルの中は高くて厳しいでしょ。この下にわたしの結構好きな居酒屋があるの。そこにしない?」
「お、そりゃ、安月給の俺にはありがたい。じゃ、ビール飲んだら、移動しましょう。」
「・・・・でね、その時ディレクター、なんて言ったと思う?優子ちゃんは機転が効くから何とかなるだろうと思って・・・、ですって。何考えてるのかしら、もう。頭来ちゃったわよ~。生放送なのよ~!」
角の席で、左90度で飲んでいる奥間優子は、おれの肩をバンバン叩いて言った。そして俺の右手と左手、両方にしている腕時計に気づき、大声で笑った。
「あれ~?本田くん、なんで両手に時計してるの~!?なんでなんで?」
「あ、いやね、時計は片手にするものだと、誰が決めたんやって思って。それに、ほら、両手にするとボディバランスもええしね。」
「あははは~、変なの~!」
俺は奥間優子が機嫌よく酔っているのを見て、とても嬉しくなった。気になっていた話題を振ってみる。
「優子ちゃん、ところでちょっと聞きたいんやけど、今度の李博明の騒ぎ、なんでちゃんと報道されたか知ってる?」
「え~、そういえば、なんか総連から報道を自粛するな、って言ってきたらしいって、誰かが言ってたよ。」
「え?総連もか。一体何なんやろ?」
「ん、なんかしたん?」
「いや、どうも気になって仕方ないんよ。今回の一連のオリンピックの独島騒ぎ、李博明の竹島上陸、そして天皇陛下侮蔑発言。みんな、李博明が一人で演じて、それを日本のマスコミがちゃんと取り上げとる。こう言うたらなんやけど、俺たちマスコミがこんなに事実をちゃんと報道したこと、最近ないやろ」
奥間優子は、頬杖をついて、その時の様子を思い出しながら言った。
「そういえば私も、報道することに違和感あったわ。こんなことニュースで流して良いの?って」
「せやろ。となると、中国と北朝鮮の利益が、やっぱりあるんやな。」
「でも、それって何やろか?ちょっと気になるなあ。」
「それがわからんのや・・・」
「私、ちょっと調べてみるわ。」
奥間優子は、バッグから手帳を出して、華奢で美しいペンで、なにやら書き込んでいるが、俺にはグチャグチャに見えた。酔ってるなとは、思ったが、一応言っておいた。
「ホンマか、なにかツテがあったら頼むわ。俺もなにか判ったら、連絡するわ。」
「オッケー。ほなら、本田君、もう一本いくで!あと、赤ナマコと塩辛と水茄子!」
「うっひゃ~、渋い選択やで。」
「あったりまえや、大阪の女、なめたらあかんで~」
「田中先輩、ちょっと教えて欲しいんですが」
社の国際部の田中のデスクに、おれは教えを請いに行った。田中釣男は表情を変えずに、「何だ?」と聞いた。今日も、地味なグレーのパンツに、白いシャツだ。ネクタイはしていない。
「日韓スワップを白紙撤回すると、どうなるんですか?」
「なんだ本田、そんな事もわからんのか。」
田中は椅子を回して本田に身体を向けると、隣の空き席の椅子を勧めて話し始めた。
「日韓スワップっちゅうのは、おまえもわかるだろうが、円とウォンを交換することを約束することだ。ウォンは国際的になんの信用もないからな。基軸通貨が保証しないと、他国との取引に支障が出る。
で、韓国は今、本当は深刻な経済危機だ。俺たちマスコミは言わんけどな。本当は外貨準備が足りなくて、またしても決済不能に陥る可能性すらある。実際、国のGDPの6割以上を占める財閥系企業は全て青色吐息の状態だ。
造船、鉄鋼は閑古鳥が鳴き、銀行の自己資本率は目を覆うばかり。実は形は韓国経済を維持しているものの、中身は外国資本であり、利益は海外に流出するという資本主義の植民地にされている。
だから日本が通貨保証を外すと、韓国はデフォルトの危機にさらされるわけだ。この前のサブプライムの時は、引き金は韓国が引いて、結局はIMFが助けたが、今度はそのIMFも怒らせてしまっているし、アメリカなどはサブプライムの引き金を引いた韓国のやり方に怒っているから、本当に国が倒産するかもしれん。」
「韓国にはアメリカを始め、多数の他国の資本や資金が流れ込んでいるんじゃなかったんですか?」
「前はな。でも、もう今は食い尽くされた感がある。IMFと米韓FTAでな。気の利いたのはみんな逃げ出してる最中だよ。これから見ててみろ。格付け会社が韓国のランキングを上げたりしたら決定的だ。やつらはサブプライム問題の時も、それをやったが、ほかにジョーカーを押し付けて、自分は最後の売り抜け真っ最中、ってシグナルだからな。」
「ってことはですよ、先輩。李博明は、自国をデフォルトさせようとして、一連の騒ぎを起こしてるとも考えられるってことですよね。」
田中は無精ひげのような薄いひげを触りながら、遠くを見る目で考えて、言った。
「ふん、まあ、そうだな。誰が得するのかは知らないが、そういうふうにも取れなくはない。もしかすると、ハゲタカファンドの手なのかもしれないな。とはいえ、一国の大統領が国を売るというのは、考えづらいが。」
「大体わかりました。釣男先輩、今度いっぱい奢ります。」
「おう、ありがとう。でも無理せんでいい。それから、こういう問題は遠藤が得意だから、聞いてみたらいい。俺よりは詳しいはずだ。」
「重ね重ね、ありがとうございます。」
「遠藤さん、ちょっと時間良いですか?」
遠藤は、少しタレ気味の眠そうにも見える目で、本田を見返した。唇の間から、前歯がすこし覗いている。
「ああ、本田君、どうしたの、経済部へ来るなんて珍しいね。」
「いや、ちょっと韓国の経済事情を教えていただきたくて。」
「おう、いいよ、そこ、座りなよ。」
遠藤は、座ると、垂らした前髪を弄りながら話し始めた。
目が前髪を追っているので、寄り目になっている。
「李博明の一連の騒ぎで、民衆党がスワップ延長を白紙撤回するって言ってますが、そうなったら韓国はどうなるんですか?」
「うーん、それでなくても外貨準備が足りないから、だめかもね。韓国の外貨準備高には、紙切れになった証券なども随分入っていて、発表の4割程度しかないというのは、この前IMFが入ったときにバレてるからね~」
「ダメって、債務不履行になりかねない、つまりデフォルトするってことですか?」
「そう。そもそも、韓国は、ものすごい外需依存社会なんだよ。韓国の発表だけど、GDP(国内総生産)を基準とした2010年の貿易依存度は日本が25%、米国が22%、中国が50%。これに対し韓国は87%と、猛烈に高い。」
「そうなると、どうなるんですか?」
「為替の変動をモロに受ける。今まで韓国政府は、ウォン安を維持するために、ずっと為替介入をやってきた。だから輸出産業は競争力もあり、利益も出る。結果として、サムソンとかが大きく伸びた。でもスワップが解消されると、韓国政府は外貨準備が少ないから、為替をコントロールすることが難しくなる。海外の資金に翻弄されるということだよね。」
「なるほど、もしウォン高になったら、輸出は壊滅状態になるというわけですね。」
「そう。ある試算では、韓国の損益分岐点はドルに対して1090ウォン以下と言われている。それより高くなったら、アウトなんだよね。」
遠藤は、ますます寄り目で前髪を弄りながら言った。
「外貨準備が少ないと、ファンドなどの資金に簡単に操作される。ファンドが入らなくても、たとえばドルとかユーロ、円などが金融緩和で発行量を多くするだけでも、ウォンは高くなる。そういう状態が少し長引くと、韓国内の輸出企業は窒息死する。すると今度は勝手にどんどん下がる一方、売り一色。下支えをする内需はない。あとは体力が切れたらご臨終というわけさ。」
「ふむ・・・」
「ただね、あの国は外貨建ての借款がめっちゃくちゃあるから、それはウォン高で実質減る。だから助かる部分もあるんだよね。
でも、国の15%がスマフォでできてるファンタジーな国家が、これからサムスンに続々来る訴訟に耐えられるか・・・・どっちに転んでも、明るい要因はない。サバイバルできたらたいしたもんだよ。」
「先輩、もし韓国がドボンしちゃったら、日本はどうなるんですか?」
「ん?多分どうにもならないよ。むしろパナソニック、シャープ、ソニー、みんな息を吹き返すんじゃない?まあ、韓国に対しての借款は返ってこないだろうけど、いままでもちゃんと返してもらってないみたいだし。」
「え、だって電子部品とかは、韓国製も結構あるんじゃないかと思うんですけど。」
「韓国はアッセンブリーしてるだけなんだよ。日本で基幹部品を作っているから、日本の会社は組み立てるところを他国に変えるだけ。もし韓国が完全に潰れても、日本で潰れるのは、キムチを輸入してる食品会社くらいだろう。」
「遠藤先輩、よく知ってますね。でも、うちの紙面はおろか、日本の新聞やテレビでそんな論調は見たことないんですけど。」
「こんなこと書ける訳ないじゃん。社も飛んじゃうし、民衆党も飛んじゃう。ついでに韓国も飛んじゃうよ。我々社畜としては、絶好調の韓国経済を見習えって書かないとね。」
「なるほど、ありがとうございました。ところで遠藤先輩、ガチャピンに似てるって言われませんか?」
「あ、ひどいな~気にしてるのに。」
「あれ、そうだったんですか?すいません。」
2012年8月27日[27日 ロイター] 米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、韓国のソブリン格付けを「A1」から1段階引き上げ、「Aa3」にすると発表した。これは韓国にとって過去最高の格付けで、日本や中国と並んだ。見通しは「安定的」。
ムーディーズは格上げの理由として、良好な財政ファンダメンタルズ、高い経済回復力、銀行部門の対外ぜい弱性低下を挙げた。
2012年9月7日
朝鮮日報・日本版によると、韓国企画財政部の崔鍾球(チェ・ジョング)国際経済管理官はフィッチの格上げについて、「主要国の信用 格付けが引き下げられる中で、格付け会社2社が韓国の格付けを引き上げたのは極めて異例。ムーディーズとフィッチが韓国の格付けを、信用力のある優良国家 を示すAA(ダブルA)に引き上げたことは、韓国が経済先進国として認められたことを示すものだ」と評価した、と伝えている。
2012年9月27日
中国を訪問している金仲秀(キム・ジュンス)韓国銀行総裁は27日、世界的な金融危機の再来に備え、中国に韓中間の通貨スワップの常設化を提案した。
2012年11月13日
米ゴールドマン・サックスは13日、韓国のアセットマネジメント(資産運用)部門の閉鎖を認めたほか、HSBCホールディングスも一部業務の削減を決定、米Yahoo!も韓国市場からの撤退を決めている。
「なるほど、李博明はなぜか自国の経済を壊そうとしている、というわけね。」
奥間優子は、バカでかい白ワインのグラスの、華奢な足を器用に摘むと、薄い緑色のワインを少し飲んだ。窓の外には、大きな運河が黒く広がり、遊覧船の明かりが、ゆっくりと移動している。
「そう。他に納得行く解釈が見つからへんのや。まともに考えたら、自国経済を敢えてぶち壊すなんて、愚の骨頂や。そやけど、よく考えてみると、今の日本政府も、同じようなもんかもしれん。」
「そうね、確かに。だとすれば、それを操っているのは外国よね。」
「せや。だから報道を促した中国、北朝鮮が怪しい。」
優子は、頭をちょっとかしげて考えた。シルバーのリングが耳の下で傾いている。と、その時、少し薄い色の瞳が、急に力を増したように見えた。
「あ、もしかすると・・・そうだわ、もし韓国が経済崩壊したら、北朝鮮との格差が無くなって、統一しやすくなるからじゃない?」
彼女は小エビのカクテルを刺したフォークを空中で止め、俺の顔を見すえて、俺の意見を求めた。半分にされてしまった甘エビと目が合った
「うん。そういえば、ドイツの時には、西ドイツは経済的に随分苦しんだらしいわ。優子ちゃん、もしかしてビンゴかもしれん。ただ、ときどき出てくる中国はなんなんやろ。」
「そうね、それは・・・パトロンじゃないかしら?中国が南北朝鮮を統一させて、経済的にその支配下に置く積もりなのかも。」
「おお、それや!すごいわ優子ちゃん!ほなら、中国が絵を描いてるってことやな。多分間違いないわ~。すごいな、優子ちゃんは、美人の上に頭までいい。才色兼備や。才媛というのは、こういう女性をいうんやな。いや、はじめて見たわ。」
「ちょっと本田くん、なんか、余計なこと考えてない?」
「いやいやいや、おれは別に・・・・ただちょっと。」
「ただちょっと、何?」
「あ、いや、その・・・優子ちゃん、よかったら、おれと、付き合うてくれへん?」
奥間優子は、目を丸くした。
「驚いた。付き合ってくれなんて言葉言われたの、大学生の時以来やわ・・・」
「あ、ごめんな~、垢抜けなくて。」
奥間優子は、下唇に人差し指を当て、ちょっと考えて、そのあと、顔中でにっこり笑って答えた。
「私ね、本田くんといると、とてもありのままで居られて気持ちいいな、って思っていたのよ。いいよ、付き合いましょ。私わがままだけど。よろしくお願いします、本田くん。」
中国の周金平国家副主席は9月5日、訪中しているクリントン米国務長官らとの会談を急遽キャンセルした。今秋の共産党大会で胡錦濤総書記(国家主席)の後を継いで最高指導者となる人物とあって、異例の事態にインターネット上では臆測が飛び交い、中国側は火消しに躍起となった。
周金平と李博明は、この前とは一変し、お世辞にも豪華とは言えない場所で会っていた。
上海のはずれの倉庫街。おそらく必死に掃除したのだろうが、そのホコリ臭さは拭えなかった。
周の用意した車の運転手は、道程くれぐれも警戒する必要はない、周金平自身が今失踪中ということになっており、まともな場所で会えないからだと、必死で説明していた。
「こんな酷い場所にお連れして、申し訳ありません、李大統領。しかし今、私は失踪中の身なので、どうかご容赦いただきたい。」
「いえ、どうかお気になさらずに。ところでご希望の通りのパフォーマンスはやったつもりなのですが、お気に召しましたか?」
「ああ、お陰様で効果は十分でした。おかげで韓日通貨スワップも危なくなりましたな。」
「そうなのですよ、周大人。我が国は御存知の通り、今は経済危機といっても良い。ちょっと困ったことになりました。」
周金平は、漏れ入る日の光をクッキリと際立たせるホコリの渦の中、小さくため息をつくと、続けた。
「李大統領。あなたはまだお分かりでないようですね。あなたの任期はもう間もなく終わります。あなたはおそらく、退任後に逮捕されるでしょう。ですから、私は米国のクリントン国務長官との会談をキャンセルしてまで、ここでお会いしているのです。急いで、あなたに私の考えをお伝えする必要があるからです。
はっきり申し上げますが、あなたの国の経済は、もう余命いくばくもありません。ハゲタカ・ファンドに食われ、IMFに食われ、米国FTAに食われ・・・為替もいいように弄ばれています。銀行や財閥系も、外人株主比率が50%以下の会社などないではないですか。しかも多額の外貨借款を抱えて。こういうのを、惨憺たる有様、と言います。」
李博明は言葉を失った。もともと前政権の経済政策の失敗を解決するため、経済に明るいと期待されて大統領になった李だったが、その舵取りは後から思えば、最善だったとはいえなかったのは自覚していた。
「李大統領、貴国の経済は、一旦壊してしまった方がいいのです。幸いなことに任期切れで、あなたは敗軍の将にならずとも済みます。それどころか、これから新生朝鮮国の英雄になれる可能性だってあるのですよ。」
「新生朝鮮国・・・・、というと、つまり南北併合ということですね。」
「そのとおりです。あなたの国の経済がストップする、あるいは決定的に危機のタイミングを見計らって、北朝鮮軍がソウルに無血侵攻します。」
李博明は息を呑んだ。そこまでお膳立てができているのか、自分は、日本を怒らせて、スワップを破棄させるとこで、韓国経済を窮地に追い込む事に手を貸したのだ。
「金日恩氏は、ソウルを陥落させたら、新朝鮮国の独立を宣言します。これで、大韓民国の借金はチャラです。韓国の産業界は皆、助かります。徳政令を他力で実現するのですからね。そして、韓国の民間企業を一旦召し上げます。これら一連の動きは金日恩の意志だと諸外国には思わせ、その後に徐々に軟化させていき、もとの経済に戻していくのです。
あなたの採った経済振興政策によって、国民もまた多くが住宅ローンで喘いでいますから、北朝鮮が進攻してきて統一政府ができたら、借金はチャラになるという噂をインターネットで流します。むろん、表向き、韓国の銀行や商工ローンは残しますから、それらがチャラになる事はありません。ですが、これで北朝鮮軍は、易々とソウルに進攻できます。韓国軍の兵士だって、借金チャラが良いから、戦闘する気も起こりません。
韓国内の外資は資産没収の上で撤退させます。もちろん、そのかわりは、我が国に入らせていただきます。欧米資本が食い荒らした後なので、さしたる旨みはありませんが、それでも豊富な中国からの資金が流入し、新朝鮮国の経済はすぐに回復するでしょう。」
「せめて、財閥系の企業だけでも、我々韓国人の手に戻せませんか?」
「なにを勘違いしておられる。深刻な経済危機が起こった時には、貴国の財閥系企業こそ、まっさきに倒れるてしまうのではありませんか?国の事変は最大の経済的危機です。その時には我々は、あなたの国の財閥系企業は事実上全て倒れると考えています。それとも、私共がそこに資金注入してから、あなた方に渡せ、とおっしゃるのですか?それになにより、貴国には財閥系以外に、まともな企業がないではないですか。」
「・・・・・わかりました。周大人、あなたのおっしゃる通りです。・・・なるほど、こうなってしまった今となっては、その計画は、我々韓国民にも、それほど悪い選択ではないようにも思えます。ですが、問題は米軍です。彼らは撤退は決まっていますが、まだ韓国に駐留しています。」
「確かにおっしゃるとおり。彼らは2015年に撤退予定ですから、まだ居ます。ですが、彼らが韓国にいるのは、いまや自国の経済的利益を守るため、という理由だけです。もし、北朝鮮の軍隊が、無血侵攻してきて、韓国陸軍は動かない、米軍に出動要請もない、というような場合、彼らはそれでも戦うと思いますか?
それから、米国海軍はことのほか屈強ですが、彼らは私達がけん制して、海上で必ず食い止めます。米国も、今、我が国と戦争をはじめる覚悟はないと踏んでいますし、アラブの問題が解決していない今、他国の紛争に首を突っ込んで反米世論に拍車を掛けたくはないでしょう。」
「・・・・たしかに、それならば彼らも傍観せざるを得ないかもしれません。」
「そうやって、新朝鮮国を建国した後、国は議会制民主主義にします。李博明大統領、あなたには、再び大統領、あるいは総理大臣の職に就いていただくことになるかもしれません。これはまだ、約束はできかねますが。金日恩第一書記には、日本の天皇のような地位に就いてもらいます。」
李博明は細い目に我が意を得たり、といった笑みをたたえ、周金平を見た。
「・・・・これは私にとっても、チャンスの再来といっても良いかも知れませんね、周大人。大筋は理解しました。」
「ありがとう、李博明大統領。そこで、我々は貴国の議会や軍部に対して、これから工作の仕上げをせねばなりません。このリストは、われわれが今まで工作を行ってきた議院や軍部の人たちです。重大な漏れがないか、確認をしていただきたい。明日の午後までにお願いします。お分かりでしょうが、この人選はとても大事です。」
「分かりました。できる限りのご協力をいたしますよ、周大人。その計画、ぜひとも実現しましょう。」
「わが国はこれから、尖閣にちょっかいを出します。日米の出方を見るためです。忙しくなりますので、代わりに腹心の部下をご紹介しておきます。」
周金平は、もう一人の人物を呼び、李博明に紹介した。二人は、埃が舞う薄暗い倉庫で、握手を交わした。
朝鮮日報日本語版 2012年6月14日
韓米連合司令官、韓国人将校のトップ就任を非公式打診。実現すれば、米軍が韓国人将校の指揮を受ける初のケースに
韓米連合司令部のサーマン司令官が「司令部の存続」と「韓国人将校の司令官就任」を韓国側に非公式に打診してきたことについて、韓国の複数の軍事専門家 は「米軍の歴史上、前例のないこと」との見方を示した。サーマン司令官の提案が実現すれば、歴史上他国の指揮官の下に入ったことのない米軍が、韓国軍司令 官の指揮を受けることになるからだ。 一方で、米軍が最高司令官の地位を他国に譲った前例がないことを根拠に「サーマン司令官は“韓米連合司令部体制は長続きしない”と考えているのではないか」との見方もある。
晴れた日の日本海は、群青の海に緑が映えて美しく、とても穏やかな風情だ。リアス式海岸の、狭い水平線を遮るように、緑色の小島が点在し、エメラルド色に輝いている。
若狭湾の、複雑な海岸線の奥深くに栄える天然の良港、それが舞鶴だ。京都府の日本海側に位置し、日本海における海上自衛隊の最重要拠点である。
グレーの船体に「177」の番号が白くペイントされた軍艦が、一直線の長い岸壁に接岸されている。巨大な艦橋に、すっきりとした武装。護衛艦「あたご」は舞鶴を母港とする、満載排水量10000トンのイージス艦だ。
この「あたご」はイージスシステム搭載艦としては、世界最大級の排水量を有し、遠くの敵機を正確に探知できる索敵能力、迅速に状況を判断・対応できる情報処理能力、一度に多くの目標と交戦できる対空射撃能力を備える極めて優秀な防空艦である。
今、その「あたご」から、2人の男が降りて来た。肩に階級章のついた、白い開襟の夏服を着ている。
年長の男は、岡田武司、一等海佐、この護衛艦「あたご」の船長だ。丸い顔に銀縁の眼鏡をかけたこの船長は、厚い唇を引き締め、険しい顔を見せていることが多いが、今、若い士官と話している顔には、刺繍のほどこされた制帽の下に、人の良さそうな笑顔が見える。
そしてもう一人は長谷川誠、一等海尉だ。彼は、当直士官として、船長と交代でこのあたごを操船するが、まだ30前後と思しき若さだ。精悍な自衛官そのものという印象だが、若い日のトム・クルーズのようなハンサムな男だ。
部下の間では、誰かが真面目な言動をすると「オマエ長谷川か!」とつっこみのネタになるほど真面目な男だが、部下には案外弄られるキャラで、本人も周囲とのそんな関係を望んでいるようだ。長谷川のその階級、大尉の英語読みから「キャプテン」と皆から呼ばれている。
彼らは連れ立って、基地の建物に入って行った。金曜の午後の、基地の中は静かだった。岡田は、書類にペンを走らせながら、長谷川に言った。
「さっき話した毎朝新聞の取材、そろそろ来ているはずだから、長谷川、行ってくれ。」
「はい、わかりました。」
「あ、それから、こんな時期だから、余計な事はあまり言わないでくれよ。」
「はい、承知しています。では、行ってきます。」
長谷川は、着帽すると、右肘を前に出す海上自衛隊独特の敬礼をし、門に向かって歩いていった。
俺は、海上自衛隊舞鶴基地の入り口で受付を済ませ、首からプレスの札を下げて、担当者が来るのを待っていた。そこに、夏の日差しを跳ね返す、白い制服を着た長谷川が颯爽と現れた。
名刺を差し出し、毎朝新聞を名のると、長谷川は俺の金髪にちょっと驚いた顔を見せたが、すぐに、小さな会議室へと案内してくれた。部屋に入った長谷川は、俺に名刺を指し出すと、言った。
「最近は金髪の新聞記者さんもいらっしゃるんですね、驚きました。」
「いえ、さすがに異端児で、まわりから煙たがられてます。ところで、今日はお忙しいところ、ありがとうございます。」
「いえいえ、何でも日本の国防戦力の特集をされるとか。」
「はい、今はこうやって、きな臭くなっていますから・・・・ところで、長谷川誠 一等海尉・・・失礼ですが、藤枝東高校で全国高校サッカーの決勝まで行った時の、長谷川選手ではありませんか?」
「え、ご存知でしたか?これは驚いた。」
「ええ、どこかで拝見したお顔だと思っていたのですけど、お名前を見て思い出しました。俺は中学生で、あの試合はテレビで見ていて、すげえ、速くてカッコイイな、と思ってたんですわ。1ゴール1アシストしましたよね。」
長谷川は顔を左右に振り、驚いたような、呆れたような表情を見せ、白い歯を見せて笑った。
「すごいですね、良く覚えてますね。僕のほうが記憶が曖昧なのに。」
「では、もうサッカーはやっていないのですか?」
「はい、随分迷ったのですが、高校を卒業してから、防衛大学に入って、この道一筋です。本田さんは?」
「僕は大学でもやっていました。ですが、大学の時に試合中に半月板をやってしまったので、今はフットサルを楽しむくらいです。」
長谷川は、ではそろそろ基地をご案内しましょう、と俺をさそい、イージス艦「あたご」の中や、ドッグにある潜水艦などを見せてくれた。おれはべつに軍事オタクではないのだが、見ているうちになんだか興奮してしまい、夢中になってしもた。日本の防衛は半端じゃない。そして、この長谷川一等海尉は気持ちの熱い男やった。
「現在、日本は、世界で2位の海軍力を持っている、といわれます。もちろん1位はアメリカです。我々、海上自衛隊の艦隊運動のうまさは日露戦争以来の伝統です。我々は、海軍の長い伝統に誇りを持って、その名に恥じないように演習を続けています。尤も、現代戦では索敵能力と武器の性能が重要になってしまっていますが。」
「潜水艦に関して言えば、日本は原子力潜水艦を持っていません。そして、動力性能や長期潜行能力は原子力潜水艦のほうがはるかに上です。しかしながら原潜はエンジンを止めることができず、また排熱のために水を循環させることを停めることができないため、静粛性に難があります。これは現代の音に追尾する魚雷などの標的になってしまいます。
潜水艦は隠密行動をし、突然敵艦を奇襲することが任務です。極端な話、潜水艦は見つかってしまったら逃げるのが最善の策というケースが多いのです。そういう点では、海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦は次世代の通常型AIP(Air-Independent Propulsion、非大気依存推進)システムとして世界最大で、非常に高い静粛性を誇ります。
しかも2週間は浮上せずに行動できます。日本の潜水艦は、冷戦時代にソ連と対峙してきた経験の積み重ねもあり、性能も、乗組員の錬度も、おそらく世界一です。」
俺はドックの上から、思っていたよりもずっと大きな潜水艦を見下ろして、聞いてみた。
「長谷川はん、海上自衛隊とアメリカ海軍がドンパチやったら、勝てますか?」
「本田さん、残念ながらそりゃ、無理ってもんです。太平洋戦争当時と同じで、兵力、船舶数などの差は歴然です。」
俺は、「そらそうですよね」と言った。それがきっと、がっかりしたように聞こえたのだろう。すかさず、長谷川がフォローを入れてくれた。
「ですが本田さん、現実に敵対する可能性のある中国に対して、実質的な艦の性能、錬度、士気、さらにトータルのシステムで、わが国はひとつとして劣るところがありません。相手を甘く見るのは禁物ですが、あちこちの分析で現在は日本が圧倒的に優位、と出ています。」
「では、例えば韓国とだと、どうですか?」
「われわれは、韓国海軍は2時間程度で無力化できるのではないかと踏んでいます。中国、韓国は共に仮想敵が陸続きですから、陸軍にウエイトを置いて来ました。両国とも海戦は経験に乏しく、兵器も旧型で、整備が悪いために稼働率も低い。さらに士気も低い、というレポートが複数上がっています。太平洋では、アメリカ以外に脅威はありません。」
「海戦は、制空権と制海権の両方を、どちらが取るかという戦いです。それは、両方で1セットですから、どちらか、ということはありません。現状では、極東アジアで日本近海でわが国から制空権、制海権を取れる国はない、と言っていいと思います。ただし、中国はすごい勢いで軍備を拡張しています。軍備に関してだけ言えば、数年後には追いつかれてしまうかもしれません。」
長谷川は、整備中の潜水艦に近づくと、そのボディを手のひらで叩きながら言った。
「ですが、たとえ兵器レベルで同等になったとしても、我々は負けるとは思っていません。多くの日本人が戦後、自衛隊は骨抜きの組織だと思っているようですが、とんでもない。僕は、多くの日本人は、気質的に真摯で優秀な軍人たりえると思っています。我々は皆、祖国と愛する人たちのために、命を投げ出して戦えるか、という問いを、自分自身に日常的に繰り返しています。そして、戦えると、信じているのです。」
俺は、長谷川のその言葉に、彼らの信念を嗅ぎ取った。感動するとともに、普段の自分たちがあまりにも防衛という大きな問題に無頓着であったことに気付かされ、少し動揺した。この男たちは、本当にやるだろうと思った。
「本当に、いそがしいところ、おおきにです、長谷川さん。すっげえ面白かったです。また、海上自衛隊をはじめとする皆さんの熱い心に、感動しました。長谷川さん、俺たち日本人は皆、東日本大震災の時の自衛隊員の方々への感謝の気持ちを、忘れていません。そして、今また、自衛隊を頼らざるを得ません。俺、そういう気持ちをこめて、きっといい記事を書きます。」
「そんな、僕らは自分の仕事をしているだけです。本田さん、よかったらまた遊びに来てください。今度は日本対ブラジルのサッカーの戦力分析でもやりましょう。」
長谷川一等海尉と、別れ際に携帯の番号を交換した。俺はこの堅物っぽい男の一本気なところに、とても好感を持った。
駐車場のレンタカーに戻ると、携帯の電源を入れた。奥間優子からメールが来ていた。
「駅についてるよ~」
俺は、レンタカーの赤いマーチを転がして、東舞鶴の駅に向った。さあ、あとは会社に電話一本したら、優子ちゃんとの旅行や。ええ取材もできたし、ホンマ、生きてて良かったわ。
意外にも、近代的なガラス張りの東舞鶴駅までは、基地からすぐだった。
ロータリーに車を停めて降りていくと、奥間優子はすぐに見つかった。今日は白いパンツに、バイオレットのカーディガンを羽織っている。すらりとしたスタイルにはパンツが良く似合っていた。
「本田君、こんにちは。かわいい車ね。取材は無事終わった?」
「うん、ええ取材できたよ。長旅ご苦労様。ささ、乗った乗った。」
敷島通り、三笠通りなど、戦艦の名前がついた通りを抜けて、車は海沿いの道に出た。奥間優子は窓をあけると、そろそろ夕日と言ってもいい日本海の空気を、胸いっぱいに吸い込んだ。目を細めて伸びをする彼女が、とてもリラックスして見えて、俺は嬉しかった。
「ああ、いい気持ちね~、東京にいると、なんだかいろんな精霊が少なくて、心が閉じちゃう感じ。今は頭の上が、スコーンって抜けて、上と繋がっているような気がするわ。」
「なるほど、俺には実感としてはないけど、言いたい感じはわかるわ。」
「あたしね、多分前世、巫女だったことがあるんじゃないかと思うのよ。変な、お化け見たりということはないけど、夢で見た場所に出くわして、あ、ここだ!って思ったりすることが多いの。そのせいなのか、お友達もなんだかそういう人が多いのよ。」
「ほなんか、そりゃ、これから優子ちゃんの話で退屈せんで済みそうやな。あ、退屈せん、といえば、今日俺に対応してくれた海上自衛隊の士官の人、俺がサッカーで中学生の頃、憧れた人だったんや。長谷川誠って人なんだけど。」
「ん?なんですって?長谷川誠?」
おれは優子ちゃんの口調が変わったので、そっちを見た。彼女は目を光らせて、俺の方に乗り出してきた。おれは少し、怯んだ。
「うそでしょ、あの長谷川さん?長谷川誠 一等海尉?本田くん、停めて、ちょっと車停めて。」
「どどど、どうしたんや、急に?」
「本田くん、長谷川さんって、若い時のトム・クルーズみたいな人でしょ?背が180くらいで。」
「うん、せやな、わいも男前やな、って思った。」
「私、横須賀の観艦式の時の取材で、長谷川さんに案内してもらったことあるのよ。長谷川さんって、そういう役を振られることが多いって笑ってたけど・・・・。それで、そのとき、女子アナが3人いたんだけど、みんな目がハートになっちゃったのよ。本田くん、長谷川さんに電話できる?」
「え、そら携帯番号聞いてるけど、そやけど・・・」
「教えて、私が電話してみる。」
俺は、釈然としない気持ちもあったが、抵抗するのもみっともないので、電話番号を教えた。
優子ちゃんは、番号をプッシュすると、ハキハキしたプロっぽい声で話し始めた。
「あ、長谷川さんですか?突然すみません、私フリテレビの奥間優子です。横須賀の観艦式の時にお世話になりました。はい、はい、その奥間優子です。あ~、覚えていていただいて、光栄です。
実は今、毎朝新聞の本田くんと一緒なんですけど、本田くんがさっきまで長谷川さんと会っていたと聞いて、びっくりしちゃって。あははは、そうなんです。で、今本田くんと、長谷川さん時間があったら、一緒に飲まないかなって言ってて・・・」
おれはそんなこと、言ってへん。
「はい。・・・・きゃ~、そうなんですか~?よかった~!」
ありゃ、これはダメや・・・・
「わかりました~、駅の前の知恵須賀・・ちえすかですか?変わった名前の店ですね~、そこで7時ですね、わかりました~、待ってます~。」
優子ちゃんは、電話を切ると、俺に笑っていった。「長谷川さん、来るって。駅に戻って~。」
はいはい・・・。
車を置き、駅のそばのビジネスホテルに、シングルを2部屋でチェックインすると、差し当たり7時までやることがなくなった。おれは駅のロータリーのベンチに座って、缶コーヒーを飲んでいた。
優子ちゃんには、やられてしもたな~。こりゃ、長谷川さんに取られてしまうかもな~。
そんなことをぐるぐる、考えるともなく、考えていた。
そのとき、背中から、温かいものがふわりと俺を包んできた。おれの胸の前に、バイオレットのカーディガンを着た両手が交差している。柔らかい、いい匂いがした。優子ちゃんが耳元で、ささやいた。
「本田くん、予定狂わせちゃって、ごめんね。もしかして、怒ってる?」
「え?ああ・・・怒ってはいないけど。長谷川さんは、俺もすぐに気に入るようなええ男やった。けど、優子ちゃんの知り合いで、しかも、トップ・ガンの時のトム・クルーズみたいなハンサムやった。それだけに、ちょっとなんというか・・・」
おれは背中に柔らかく当たる胸をちょっと意識しながら、やっとこさ喋っている。
「ふふ・・・長谷川さんがマーベリックだったら、本田くんはアイスマンみたいだよ。本田くんは、かっこいいよ。」
「・・・からかわんといてぇや。」
「ちっともからかってへん。安心して。だけど、一晩お預けや、ごめんなぁ。」
「え?」
優子ちゃんは身体を話すと、俺の肩に手を置いて、言った。
「さ、もうすぐ7時だよ、お店探そう。チエスカ。」
俺は優子ちゃんの方に真っ直ぐ人差し指を突き出して、言った。
「ユー!」
「?」
「ユー、スティル、デンジャラス!」
「・・・・!」
俺たちは二人で笑った。周りの人が振り返って見るくらい。
「知恵須賀」は、なんのことはない、駅のすぐそばの居酒屋だった。赤と青のとんでもなく派手な暖簾をくぐって俺たちが入っていくと、長谷川はもう背筋を伸ばして席についていた。今はチェックのボタンダウンにジーンズと、ラフな様子だが、それでもその伸びた背筋を見ると、軍人なんだと思わされた。
「長谷川さん、先ほどはどうも。突然の声がけなのに、わざわざ出てきていただいて、申しわけありません。」
「長谷川さん、こんにちは、しばらくです。その節はお世話になりました。」
長谷川は白い歯を見せて、笑いながら言った。
「いえいえ、そんな堅苦しくしないでくださいよ、僕だって楽しみに来たんですから。さあ、座ってください。」
そこに、黒人かと思うほど黒い男が、凄いスピードですっとんできて、お絞りを置いて素早く切り替えして戻って行った。名札には「武佐」とあった。身のこなしが尋常ではない。
奥の席では、なんとロシア人のような感じの白人が、4人、上半身ハダカで騒いでいる。
「なんか、面白い店のようですね、ここは。」
「わかりますか?お客さんが、発炎筒焚いたりしちゃうことがあるんですよ。」
店主は、肉屋の主人のような容貌の太った男で、不満そうな顔で、しきりに貧乏ゆすりをしている。胸の名札は「擦月」だ。おれは、なんだか知っている男のような気がして、気にしていると、優子ちゃんが長谷川に聞いた。
「長谷川さんは、明日もお仕事だったりします?」
「いや、自分は明日は非番です。今日は久しぶりに酒が飲めます。」
俺たちはグラスを合わせると、乾杯をした。夏のビールはやはりうまい!俺と優子ちゃんは「く~」とか「う~」とかうめいたが、長谷川はニコニコしながら静かにグラスを口に運んでいる。
「奥間さん、ここはトリ貝が絶品ですよ。あと、京野菜がありますから。」
「あ、ハモがあるやないですか~!!私、絶対ハモ食べたいです。」
「お、万願寺とうがらしもあるやん、天麩羅食うで!」
「あ、そうか、お2人とも関西出身なんですね。ならば今日は、関西の味をできるだけ楽しんでいってください。」
・・・・2時間後
「・・・そやから、ザッケローニの343の場合、攻撃の時はCBが広がって、サイドに数的優位を作ってますやん?となるとカウンターが怖いから、MFの真ん中2人は、もっとディフェンシブで対人がめっちゃ得意なタイプと、上背があるタイプなほうがええんちゃいま?」
「いや、そういうテクニカルな問題もあるけど、もっと根本的な部分ですよ、パスサッカーをして悪い意味で酔っている。キレイなサッカーをしていると足元をすくわれるんですよ。」
「ねえねえ、私だってサッカー知ってるよ。カカに会ったこともあるし・・・」
「え~~~!?」「お~~~!」
俺と長谷川は叫んだ。
「ドイツのワールドカップ行ったら、スタンドにいたんよ。完全にオーラ消してて、普通の人みたいやったけど、前の席にいたんやで~」
優子ちゃんは目がとろんとしている。長谷川は「やべえ、俺、酔っ払った・・・」などと独り言を言っている。優子ちゃんが、座りなおして切り出した。
「ところで、長谷川さん、今彼女とか、います~?」
おれはドキッとした。やっぱり優子ちゃん、気があるんかいな・・・・
「いえ、いません。海の上が多いというのもありますし・・・」
「横須賀のときに一緒だったアナウンサーのトモコちゃん、覚えてます?彼女が、すごく長谷川さんのこと大好きになっちゃったんですよ~、だから、もし長谷川さんが迷惑でなかったら、トモコから電話してもいいかな~って思ったんですけど・・・・それで、こんな機会めったにないから、よっしゃ、ひと肌脱いだれ~思うたんですよ~。」
「え!なんや、そうならそうと、早く行ってくれればええやん、優子ちゃん、人が悪いわ~。」
「え?いったいどうしたんですか?」
「本田君、私が長谷川さんに気があるんじゃないかと心配してたんですよ~。ね~、本田君。」
「そりゃ、優子ちゃん何にも言わへんから・・・」
「でも、私言ったつもりだよ、女子アナで目がハートになっちゃった子がいるって。」
優子ちゃんの目が、ちょっと意地悪そうに流し目になった。おれが言葉に詰まっていると、優子ちゃんは据わった目でおれの頭をなでなでした。くそ。酔っ払ってからに。
長谷川は、俺達をなんとなく愉快そうに見ながら、言った。
「トモコさん、覚えてますよ。是非電話ください、って伝えてください。」
2012年6月28日
核開発を継続するイランの原油輸出に打撃を与える米国のイラン制裁法が28日に発効、オバマ政権が必要と判断すれば、イラン中央銀行と取引する各国の金融機関に制裁を科すことも可能となる。欧州連合(EU)も7月1日からイラン産原油の全面禁輸を実施するなど、イラン包囲網が本格的に強まる。
2012年7月3日
イラン国会の外交・安全保障委員会の所属議員は2日、対イラン経済制裁に加わる国の石油タンカーのホルムズ海峡通過を阻止する法案を準備していると明らかにした。イラン国営通信などが伝えた。
2012年9月11日
リ ビア東部ベンガジの米領事館が武装集団に襲撃され、駐リビア米大使のクリストファー・スティーブンスと大使館職員3人が殺害された。エジプトの首都カイロでも同じ日、米大使館の国旗が焼かれる事件が起きた。
引き金となったのは、イスラム教の預言者ムハンマドを揶揄する内容のアメリカ映画。大使殺害の数日前 からイスラム圏の各地で映画に抗議するデモが勃発しており、怒りの炎は事件後もチュニジアやモロッコ、スーダンなどに次々に飛び火している。 問題の映画 を製作したのは、「サム・バシル」と名乗る自称イスラエル系アメリカ人。彼はイスラム教の偽善ぶりに注目を集めるために映画を作ったと主張している。
だが、この男の素性は謎だらけだ。領事館襲撃を受けて姿を消した後も電話で多くのメディアの取材に応じているが、その情報は矛盾に満ちている。そもそも、バシルという人物が実在するのかという疑いも高まっている。
2012年11月19日
【カイロ=大内清】イスラエル軍は、パレスチナ自治区ガザ地区への空爆開始から6日目となる19日も、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの軍事拠点などへの攻撃を続けた。ハマスなどもロケット弾攻撃を継続。フランス通信(AFP)によると、空爆開始からのガザでの死者は計91人に達した。
イスラエルのメディアによると、停戦仲介に乗り出しているエジプトの首都カイロでは18日、イスラエルやハマスなどの当局者が停戦の可能性を協議。ハマス関係者はAFPに話し合いは「前向き」だと語った。 またイスラエルの後ろ盾である米国のオバマ大統領は18日、イスラエルの自衛権を支持する一方、緊張緩和の必要性を強調した。
上海のとある中華料理店の個室、周金平は幼馴染の軍幹部と話をしていた。2人のリラックスした様子から、彼らが役職の関係を超えた間柄であるのが、わかる。二人の周りにはカラフルなチャイナドレスの若い娘が数人、甲斐甲斐しく給仕している。
「周さん、我々が作らせた映画は、見事にアメリカへの爆弾になりましたな。」
「いやいや、この結果は、見事という他ない。最初は荒唐無稽な計画かと思ったが、実に念入りな工作に恐れいった。たいしたもんだよ。張さん。」
張と呼ばれた太った男は、懐から葉巻を出して、火をつけると、満足げに椅子にもたれて言った。細い目が肉に持ち上げられて、吊り目のようになっている。
「イスラム相手にこれまで、武器の供給などを融通してきたことで、わが国は中東に食い込んできたが、この計画で、さらに大きな成果を上げられそうだ。
アメリカの中東に対する影響力は、いままでなんとか繋がってきたが、いよいよ、イスラムは反米で固まってきた。イスラエルと切っても切れないアメリカの中東での地位は、ここから急落していくでしょう。これから、イスラエルも国が存続できるかどうか、わかりませんな。
一方で、わが国の中東との関係はこれからますます良くなっていき、エネルギーで西側諸国に制裁を加えることもできる時代が来るね。対アフリカも、いまや我が国はアメリカよりも影響力は上ですからな。我々がトップにいる間に、中国は本当に世界の覇者になれそうではないか、周さん。」
胡麻をまぶした饅頭をつまみながら、いかにも満足そうに張が笑った。笑いの痙攣で、顎の贅肉が揺れている。
「まだだよ、張さん。中東との関係を深くしても、中東へのシーレーンはまだ、アメリカが握っている。これを我々の手中におさめなければ、片手落ちということですよ、だからこそ、第一列島線を切り、太平洋へ出る道を確保することは、我々の核心的利益なのだからね。」
「とりあえず中東は、あとは引き金を引くだけとなりましたな。次は、尖閣だ。日米のお手並み拝見と行こうじゃないですか。ところで、南北朝鮮への根回しは、もう大丈夫ですか?周同士。」
周金平はシェリーグラスに入った透明な酒をがぶりと飲むと、酷薄そうな顔を笑いに歪めた。
「韓国議会と軍は、お察しの通り、飴と鞭で簡単に落ちましたよ。後ろ暗いところのない議員などいないと言ってもよい状態ですからな。そして、日本とのスワップを解除した今、彼らはわれわれに協力を求めてきている。危機的状況のときにスワップを拒否すれば、韓国経済は終わりますし、それを行使するまでもない状況ですから、我々には保険の意味しかないですがね。
今はユーロもドルも、金融緩和でやっきになってますからな、基本的にウォン高圧力がかかっています。韓国にはもう、それを食い止める余力がない。だまっていても、転がり込んできそうな状況になってますからなあ。」
「周さん、我々は軍事的な意味合いから言って、韓国主導の南北統一を避けたかった。そうなると、朝鮮を軍事的にアメリカが支配してしまいますからな。しかし、もはやその心配もほとんどなくなった。あとは合併後に、北の核を我々が接収してごちらの監督下で再配備し、朝鮮軍には通常兵器のサポートをすれば済む。使い捨てできる手先ができるのが楽しみですなあ。」
2012年9月12日
【嘉手納】米軍嘉手納飛行場に12日午後、ステルス戦闘機F22Aラプター10機が新たに飛来した。周辺自治体への事前通知はなかった。同飛行場には、既に12機が7月から暫定配備されており、22機のF22が嘉手納に集中しているとみられる
2012年9月17日
中国の反日デモが18日、大きなヤマ場を迎える。満州事変の発端となった「9.18」に合わせて全国各地で大規模デモが呼びかけられている。17日には多数の中国漁船が沖縄・尖閣諸島のある東シナ海に向け出航。尖閣の海域で海上保安庁の巡視船と接触する事態も想定され、日中関係はさらに緊張しそうだ。
2012年9月26日 自民党 阿部新総裁が誕生
決選投票となった地民党総裁選は26日午後、国会議員による第2回投票が行われ、第1回投票で2位だった阿部晋三元首相が1位だった石破茂前政調会長を逆転、第25代の新総裁に選出された
2012年10月3日
米第7艦隊は2日までに、海軍横須賀基地(神奈川県)を拠点とする空母「ジョージ・ワシントン」と「ジョン・C・ステニス」を中心とした2個の空母打撃群(空母部隊)を西太平洋上に展開し、警戒監視に当たっていることを明らかにした。アジア太平洋地域で遠洋作戦能力の拡張を図り、動きを活発化させている中国軍の戦略を牽制、抑止する狙いがあるとみられる。
9月も末になった。9月半ばから、中国各地で反日デモが繰り返され、日本車が壊されたり、日系企業が焼き討ちにあったりした。中国の船はしつこく尖閣に出没し、示威運動をしかけてくる。おかげで岡崎も忙しく、こっちから電話をしても音信不通だったが、今日、久しぶりに電話が来て、今、いっしょに飲んでいる。
「まず、大前提として、圭ちゃん、このデモは官製デモなんやで。そもそも、中国で民衆が勝手にデモなんてやったら、捕まって、テーマ次第じゃ簡単に殺されてしまうんやから。」
岡崎は、ネクタイを外し、ビールのジョッキを振り回して大声で説明している。明日は土曜日だが、久しぶりの休みらしい。日曜は出勤するつもりだと言っていた。
「そいで、もちろん尖閣に来ている漁船も、政府か、軍かが金を出してる。漁民にとって尖閣までの燃料代は大変だからね。遊びでこられるようなものではない。そもそも、漁民かどうかもわからん。」
「せやろな。なあ、オカ、尖閣はまだ意味がわかる気もするのやけど、国内の反日デモは、いったいどういう意味があるんやろか。工場を焼いたり、日本車を壊したりというのは、経済をめっちゃ疲弊させるやろ?」
岡崎は、濃い眉のあいだに、縦にシワを刻ませて、考えながら言った。
「う~ん、これが実は難しいんだよね。中国に楯突くと、こうなっちゃうんだよ、ってところを誇示したいのか、もしかすると、日本の工場などを接収したいのか、それとも単に本当に民衆のガス抜きでやっているのかは、俺らもようわからん。もしかすると、中国の胡錦濤現政権つまりは北京閥への軍部のネガキャンかもしれんしね。
ただ、中国が田中角栄時代の日中友好から、躍起になって経済力、技術力を付けてきて、今、もう日本から吸い取るものは無くなったと判断したようには見えるね。日本企業を追い出して、プラントや工場をいただいてしまおうとしている様だ。そのための法律もすでに施行されているし。」
岡崎は最近はよっぽど忙しかったのだろう。俺と話していても、東京弁がいつもより多い。
「しかし、オカ、中国っちゅうところは、駄々っ子みたいな国やなあ。どうして日本の周りはこんなアホみたいな国ばっかりなんやろ。」
「うーん、実は中国は駄々っ子ではないと、俺は見ている。むしろ策略、謀略に長けた食えない国だと思うんや。ただ、一枚岩には絶対なれない国やからね。事象の動機が個人的な場合が多かったり、頭が複数いたりで結果カオスに見えてしまうのかもしれへんな。正真正銘の駄々っ子は韓国や。」
「なるほどな。ほな尖閣へはどうなんやろ。どうせ石油ねらっとるんやろうけど。」
「圭ちゃん、尖閣は、中国にとっては、蓋の隙間に見えるんだよ。中国はでかいけど、海に面しているのは日本海と東シナ海、南シナ海だけ。で、一度地図をひっくり返して、中国の立場で日本という国を見てみるといい。日本のEEZ(排他的経済水域)は長い列島線で、中国の上を、台湾までずっと塞いでいるんだ。第一列島線と呼ばれてるんやけど、こら、中国にしたら邪魔臭いで~。実は中国という国は、他の国の監視を逃れて、外海に出られない国なんよ。
俺らは日本は小さな国だと教わってきたけど、領海の面積はEEZを含めると、その面積は世界で6位という、どでかい海洋国家なんよ。そいで、中国はシーレーンを確保するために、少なくとも尖閣、願わくば沖縄まで取りたいと、本気で思っているんや。
岡崎は箸の先に醤油をつけると、テーブルに日本と、中国、アメリカの簡単な図を書いた。
圭ちゃんは中国が核ミサイルを持っているのを知ってるやろ。それは今はアラスカまでしか届かん。だからアメリカには直接的に脅威をあたえることができへんのや。そやけど、尖閣を盗れたら、中国はそこを要塞化して、無理やりでも戦艦や潜水艦を置くやろう。
そうして日米の船が近づけないようにしておけば、中国の船は好きな時に太平洋に出て行って、潜水艦でどこからでも核ミサイルをぶっ放せる。アメリカもそのあたりはよく解っているから、尖閣や沖縄は絶対に譲れない場所なんよ。」
「なるほど、そんな理由があったんやな!そやけど、中国はなんでそんな躍起になってシーレーンを他国と争ってまで確保しようとするんやろ。平和にやっていたら、経済封鎖なんてされへんやろうに。」
「うん、それはまず、中国は経済大国やけど、エネルギーに関してはお寒い状態だと自分で考えとるのが最大の要因やろね。自国の石油などは、掘りつくしてしまったと言われているし、歴史的にこれといった安定した供給先をもたないし。中国がODAでアフリカに金をザブザブ使ってるのはもっぱら雑多な資源関連やし。中国は資源だったら何でも、キチガイのように欲しがるんや。」
岡崎はビールを焼酎に切り替え、イカ刺しを注文して思い出したように言った。
「それと、中国はイスラムと、今まで時間をかけて、武器の輸出などで関係を作ってきている。これは、石油の安定した供給先をもつことにはなるけど、アメリカと敵対してまうやろ。アジアのシーレーンはアメリカが牛耳ってるのやから、アメリカと敵対しても石油を運べるように、準備していると考えられてるわけや。」
おれは、岡崎の説明を聞きながら、なんか腹が立ってきた。
「おい、オカ、ってことは、中国にとっての敵性国家は明らかにアメリカであり、さらにこの日本、ということやろ?それなのに一体どうして、相変わらず日本がODAをジャブジャブ出したりしてるんや。この間だって、民衆党の鳩屋間が、黄砂対策のために何兆円も出す約束してきたやないか!
そもそもGDPだって、もう中国に抜かされてるやないか。3位が2位に、なんでお金を寄付せなあかんのや。トランプの大貧民やっとるのと、違うんやで!中国はその金で、軍備を拡張して、ますます日本を追い詰めようとしとるんやんか!」
「圭ちゃんの言うとおりや。全くおかしい。日本には、田中角栄以来、親中議員が歴史的にずっとおって、それが親中官僚と組んで、うまいこと手を変え品を変え、金を流す道を作りよる。政治家は代替わりしても同じ事しよるし、官僚は一度流れを作ると、めったなことでは変えへん。いや、自分では変えないといったほうがいい。国庫に金がなくて、国民が不景気に喘ぎ続ける今、こんなこと続けていたら自殺行為や・・・」
俺は、悔しそうな岡崎の顔をみて、気がついた。
「そやけど・・・・それを日の光の下に晒せない、俺たちマスコミも悪いんやな。そう考えると、俺たちは二人とも、日本の大切な金を中国へ流すシステムのために、汗水たらして働いて給料をもらっている、ってことやんか!なんや、このけったくそ悪さは!」
そのとき、俺の携帯が鳴った。奥間優子からだ。
「あ~、優子ちゃん?ん?今、新橋で飲んどる。前に話した岡崎と一緒や。・・・・おうおう、来い来い。オカも喜ぶで。」
電話を切ると、岡崎が言った。
「圭ちゃん、誰が来るの?」
「オカ、知っとるかな、フリテレビの奥間優子や。」
「えええええええ~~~っ???奥間アナ?なんで圭ちゃん知ってるの~?」
「いや、ちょっとした縁で会ってな、それから良く飲んだりするんや。」
「それだけ?」
岡崎は疑いの目で俺を見ている。まあ、こいつに隠しても仕方ないか。
「いや、今、お付き会いさせてもろてる。」
岡崎はそれを聞いて笑い出した。
「あはははは、圭ちゃん、お付き会いさせてもろてる、って、随分下から目線やんか~!」
「あ~、そういわれると、そうやな。あっちの方が、ちょっと年上やし。」
その時、入り口の引き戸が開いて、ベージュのスーツ姿の奥間優子が現われた。
今日は髪をアップしているが、そのおくれ毛がきれいにコントロールされていて、一般人とはちょっと違う感じが垣間見える気がする。
優子ちゃんは俺が手を上げたのを見つけると、楽しそうに表情を変えて、俺たちのいる小上がりに向って、ハイヒールの足で軽やかに歩いてきた。
「本田君、こんばんは。」
「あ~来た来た、優子ちゃん、こいつが、岡崎や。オカって読んどる。」
奥間優子は、岡崎に、秀でた額と整った眉を見せて、挨拶した。いつもは隠れている耳が露わになっていて、その血の気を帯びた色合いが、とても女らしく見えた。
「岡崎さん、はじめまして。話は本田君から良く聞いてます。奥間優子です、よろしく。」
岡崎は餌をもらって喜んでいる小動物のような顔で言った。
「ここここ、こんばんは。あの、テレ、テレビで時々見てます、どうぞよろしく。」
「オカ、嬉しそうな顔はええけど、カミカミやな~。」
優子ちゃんも笑って、岡崎に対して優しい目をして、俺の隣に座った。
周りの席では、気がついて隣人を肘で突いて知らせている女がいたり、優子ちゃんが誰だったか思い出そうと、右斜め上の空中を睨んでいるおっさんがいたり・・・結構大変なもんなんだな、と改めて思った。俺は聞いてみた。
「優子ちゃん、こんなゴミゴミした店やと、顔バレしてまうやろ、大丈夫なんか?」
「うん、平気よ。そんなのいちいち気にしてたら生きていけないわ。」
「そんなもんか~?」
「そんなもんよ。だからって、いきなりキスしたりしちゃだめよ。」
「・・! アホかいな!なんでそんなことすんねん!」
「ひゃはは!、圭ちゃん赤くなっとるで~!」
岡崎が心底嬉しそうに手を叩いて笑っとる・・・まあ、ええか。
「なるほど、李博明は韓国経済を壊そうとして、あんなことをした・・・ということやな。そして、それは中国主導やと・・・・」
岡崎は、うすく無精髭の生えた顎をさすりながら、さっきとは打って変わって真剣な顔で、そう言った。
「せや。荒唐無稽な気もするけど、合理的な解釈としては、それくらいしか思いつかん。」
「いや、案外間違ってないかもしれんよ、圭ちゃん。中国の描きそうな絵かもしれん。中国人は人をたらしこんで、大きな物をコントロールしようとする傾向があるからね。まあ、こんな話はうちの韓国担当からも聞いたことがないから、本当のところはわからへんけど、ちょっと調べてみるわ。」
「なあ、もし本当にそうだったとして、債務不履行になった統一朝鮮を中国が手に入れることは、意味あるのやろうか?」
「そりゃ、あるやろ。中国の先端と同等かそれ以上の技術をもった企業やプラントを、何社もいっぺんに手に入れることができるんやで。それに、軍事的な意味合いでも、日本海に一気に打って出れる港を仰山持つことができる。もしかしたら、北朝鮮の兵士は中国や韓国よりはええかもしれへんし、なにより、共産党に不満を持つ一般国民に対して、ええプロパガンダになるんちゃうか?」
そこへ酔っ払った優子ちゃんが突っ込んだ。
「白菜もようけ売れるようになるやろしな~」
「せやせや・・・、って、どんだけキムチ食うねん!」
下手なボケとつっこみだったが、内容はともかく、慣れ親しんだ話のリズムに笑いながら、俺達はその仮説にどれだけリアリティがあるのか、それぞれが考えていた。
「なあ、オカ、中国は尖閣にちょっかい出してるけど、今はアメリカが、させへんで~やっとるやろ。日本も引く様子はみせてへんし。そうなると、実効支配していない尖閣を取りに行くと、かなりの確率で中米戦争が起こりそうになるやろ。さすがにそれをするほど、中国はヤケクソではないはずや。
となると、尖閣は中国とアメリカの間で、結局手を出せん石みたいになっとる。さらに、今、アメリカを寄せてしまったから、南沙諸島とかで勢力を伸ばして、太平洋に出る道を確保するのも難しい。なんやら、中国は余計なことしてるように見えるんやけど、それでも毎日律儀に監視船をよこすのは、なんでやろな。」
優子ちゃんが口を挟んだ。
「最初は、日本とアメリカの出方をみていたんやないの?で、案外堅くて、これはあきまへん・・・ってなってるんちゃうかな?」
「ああ、それは確かにそうかも知れへんな。それだったら、もうちょっとしたら引くのかもしれんな。」
岡崎も、キュウリの味噌漬けをバリバリ食べながら、難しい顔をしている。まあ、こいつにもわからんのやろうな。そんなことを思っていたら、岡崎はボソッと言った。
「韓国が債務不履行状態になったら、北が攻めてきたら受け入れるやろうな。そうすれば大っぴらに借金踏み倒せるしな~。そいでもって、韓国の持っているものは中国に全て献上や。昔の清国の時代に逆戻りというわけやなあ。」
韓国の持っているものは全て中国のもの・・・・おれにはなんや、その言葉が気になった。
2012年11月17日
沖縄県の尖閣諸島の沖合では、13日も中国の海洋監視船4隻が、日本の領海のすぐ外側にある接続水域で航行を続けている。中国当局の船が、尖閣諸島沖の日本の接続水域に入るのは25日連続で、海上保安本部が、領海に近づかないよう警告するとともに監視を続けている。
尖閣諸島の周辺海域では、ことし9月に政府が尖閣諸島を国有化して以降、中国側による船の派遣が常態化しており、中国当局の船が日本の接続水域に入るのは25日連続。
海上保安本部は、4隻に対し領海に近づかないよう警告するとともに、24時間態勢で監視を続けている。
岡崎と店の前で別れた。優子ちゃんが俺の手を求めてきたので、俺たちは手をつないで歩いていた。最近の東京では珍しく温度が下がり、残暑に対抗する薄着では、ちょっと心もとない感じの夜だった。
いつものように機嫌よく酔った優子ちゃんは、繋いだ手を振って、で鼻歌を歌いながら歩いていたが、なんとなくいつもと違う様子で、俺に、部屋に泊まりにこないかと誘った。
タクシーでたどり着いた優子ちゃんの部屋は、2LDKの立派なマンションで、さすがに俺の部屋とは随分ランクが違っていた。
落ち着いたブラウンで統一された部屋はキレイに片付いていた。部屋はそれほど女らしいとは言えなかったが、俺にはとても好ましかった。俺がベージュの革の大きなソファに腰を下ろすとすぐに、スパークリングワインが出てきた。俺がそれを開けている間に、トマトとフレッシュチーズ、生ハムなどが、背の高いワイングラスとともに、魔法のように現れた。
「優子ちゃん、すごい手際の良さやな。」
「でしょ、料理は好きだから、普段からちゃんと用意してるのよ。」
俺たちはグラスを軽く合わせると、ワインを一口のんだ。ワインはスッキリとした苦味のあるシャルドネで、キリッと冷えていて、とても美味かった。俺の普段飲んでるのと、だいぶ違うかも知れんなあ。
「本田君、本田君のところも同じようなものじゃないかと思うのだけど、私ね、つくづく今の仕事が嫌になっちゃったのよ。」
「なにかあったんか?」
「特に今日、何かあったわけではないけど、いつもの偏向報道が、いよいよ我慢できなくなってきたの。たとえば、明らかに侵略する気まんまんで向ってくる中国にはそれほど批判しないで、日本人に向って、冷静な対応が求められます・・・って、冗談じゃないよね。それを見ている人たちも、絶対に冗談じゃない、って思ってるはず。
そして、びっくりするほどメチャクチャやっている民衆党の、あきらかな大事件もスルー。その事実は国会中継を見た人だけが知っているような状態で、テレビも新聞も沈黙。報道しているのは、それほど信用されていない週刊誌だけでしょ。
政策も作れない民衆党を擁護して、国会がすすまないのは野党のせいと言い張るような仕事。こんなの、人の役に立ってないよね。だって、嘘と世論誘導ばっかりなんだもの。」
「俺も、おんなじや。日本人の立場から、まともな記事を書いても、掲載してくれへん。もし掲載したら、すぐに中共の新聞社、というよりあれは諜報機関と言っても良さそうやけど、それが逆ネジをぶち込みに来よる。
この国のマスコミは完全に中朝の管理下や。日中報道協定か、なんか知らんが、こんなものは知る権利を冒涜しとるし、ひとに道を誤らせる。それを承知でやっているのだから、これはもう犯罪や。
優子ちゃん、べつに優子ちゃんが言い出したから俺も言うのではないが、俺は毎朝新聞を辞めると思う。報道の仕事は嫌いじゃないが、仕事で毎日信条を破るようなことを続けるのはまずいやろ思ってるんや。」
「そうなんだ・・・。本田君も一本気だからね。私もニュースキャスターではなく、なにか別の道がないか、今探しているところ。もう、料理番組にでも回してもらおうかしら、なんてね。」
優子ちゃんは薄く笑うと、細いワイングラスを手にしたまま、俺の肩に頭を預けてきた。軽やかに見える彼女の重さを感じながら、俺はしばらくそのままにしていた。そのあと、彼女の頭を動かさないように支え、その手のワイングラスを取って注意深くテーブルに置くと、抱き寄せて長いキスをした。彼女の腕がおれの首に巻き付いてきた。優子ちゃんの身体をつよく抱くと、おれは思わず深い、安堵の溜息をついた。
2012年11月14日
中国共産党が11日の内部高官会議で、胡錦濤(フーチンタオ)総書記(国家主席)の「完全引退」を決めたことがわかった。開会中の第18回党大会終了後に 総書記だけでなく、党中央軍事委員会主席を含めたすべての党の要職を習近平国家副主席に譲る。同時に、江沢民・前総書記ら引退した党高官の政治介入を禁じる内部規定を定め、長年続いた「長老政治」に終止符を打つための決定をした。
2012年11月16日
衆議院は16日午後の本会議で解散された。総選挙は12月4日公示、同16日投開票の日程で実施される。民衆党政権での解散は政権交代を果たした2009年9月以来初めて。同党は3年間の政権運営で世論の逆風にさらされており、政権を維持できるかどうかが最大の焦点となる。
野田佳彦首相は16日午前の閣議で解散を宣言し、全閣僚が解散書類に署名した。午後3時50分に始まった衆院本会議では、横路孝弘衆院議長が解散詔書を朗読して解散を宣言した。
2012年12月4日 ロイター
中国と韓国は、両国の通貨スワップ協定を活用して、2国間貿易での元とウォンの利用を拡大することで合意した。韓国の企画財政省・中銀が4日、共同声明で明らかにした。
両国の中銀が、市中銀行を通じて、貿易決済用の元とウォンを貿易会社に貸し付ける。今月中に貸し付けを開始する。両国は昨年後半に通貨スワップ協定を締結。限度額は590億ドル(64兆ウォン、3600億元)となっている。
韓国にとって、中国は最大の輸出先。輸出の約4分の1は中国向けとなっているが、貿易決済のほとんどはドル建てで、元建てやウォン建ての決済は約3%にとどまっている。
「ふむ、中国が炊きつけて、李博明にあの茶番をやらせ、日本を怒らせ、韓国経済の背骨をガタガタにさせて、北朝鮮と合併させようとしている、って事だな」
田中は、いつものように、ちょっと不機嫌そうな表情で、本田を見て言った。そのとき、ウエイトレスが注文をとりに来たので、田中はアイスコーヒーを注文した。おれも同じものをたのんだ。
「確かに、利害関係は成立する。李博明は政権末期で逃げ道を確保したいから、その話に乗るだろう。政権の途中だったらできない相談だし、経済の建て直しに失敗したという結果も出てしまっているしな。そして韓国のあらゆる層は今経済危機で瀕死だから、統一に名を借りた徳政令をやり遂げることができる。
そして北は、経済的にあまりにもどん詰まりにいる。餓死者がでるような状態を放置していたら、クーデターでやられるかもしれないし、他国に食われるかもしれない。もし得るものが名前だけだとしても、統一朝鮮の王という立場は、金日恩としては安定的で魅力的だろう。
そして、中国にとってみたら、熟れた柿が落ちるみたいに朝鮮全土が手にはいる。そもそも中国としては、韓国主導で南北統一された日には、米軍までもれなく付いてくるから、絶対に避けたい上に、北主導で統一した朝鮮を子分にすることができたら、軍事的にもなにかと有利にできそうだし、旧韓国を治めてしまえば経済的にも利益は出そうだ。良くいう事を聞く優良自治区になるんじゃねえか。
おまけに、共産党の悩みの種の、人民の不満を逸らす意味での効果も相当期待できそうだしな。しかしまあ、中国は共産党が建国して以来、一貫して領土問題では周囲を削っている。南はチベット、北はモンゴル、西はウイグル。そしていよいよ東に朝鮮、というわけだ、とんでもない人民共和国もあったもんだな。戦後唯一の帝国主義国家はますますのご発展というわけだ。」
俺は昼飯でいっしょになった田中と、喫茶店で向かい合っていた。オフィス街にある、昔からあるような喫茶店だ。傍らのマガジンラックには、新聞各紙と週刊誌が置いてある。
「そうなんですよ、田中先輩。おれの友達の外務官僚で、中国担当の岡崎ってのがいるんですが、そいつに話した時も、いかにもありそうな話だ、いうてました。」
「なるほどな、面白い。本田、おめえ文芸出て短いあいだに、結構わかってきたじゃねえか。お前、国際部に来ないか?俺が引いてやるよ。」
「え?ホントすか?・・・・あ、でも、先輩に迷惑かけたらマズイから、ちょっと考えさせてください。」
「なんだ?迷惑なんか気にするな。やりたいようにやればいいんだよ。」
「いや、ちょっとそういう意味ではなくって・・・」
田中は目を光らせた。
「おい、まさかお前、会社辞めようってんじゃねえだろうな。」
俺は突然図星を突かれて動揺した。
「あ、いや・・・・。先輩、本当を言うと今、悩んでるんす。俺達のやっていることは、ちっとも日本のためになってない、むしろ害悪を垂れ流してるんじゃないかと。報道は、あることをそのまま伝えるのが正しくて、国民に濃い色眼鏡を付けさせて、特定の者の利益になるように誘導することは、お金を払って新聞を読んでくれている人への裏切り行為じゃないかって・・・」
「・・・・本田、おめえにそれを言われると、耳が痛てえな・・・・確かに、心あるブンヤは今、みんな苦しんでるよ。それは俺も同じだ。だがな、本田、お前この仕事が好きなら、ちょっと待て。」
田中は胸ポケットからセブンスターを出し、一本抜き出すと、火をつけてから、顎を突き出すように上を向いて煙を吐き出しながら、言った。
「中国は周金平が主席になってこれから日本に強硬な態度を取ってくるだろう。そして日本は阿部総理になる可能性が高い。阿部総理はお前も知っている通り、ああ見えてガチガチの保守だ。これからまた、国内の中韓勢力を追い込み、国同士も対立する可能性がある。
そうなった時に、俺達は正しいスタンスに戻れる可能性があると俺は踏んでいる。他力本願で情けないが、俺たちが嵌まり込んでいる罠は、結構大きな、国という枠組みで張り巡らさせれている。だから、俺達がなにか言っても、今はゴマメの歯ぎしりだ。
しかし、国が方針を大きく転換したら、価値観や思想も転換するかもしれん。たとえば、憲法改正に成功したら、日本は自分のケツは自分で拭かなければならない。そうなると、自然と政治家、官僚、国民、皆の意識が変わる。そのときに必要とされる報道も変わる、そうは思わないか?」
「・・・なるほど。先輩、俺、もうちょっと考えてみますわ。」
「おう、そうしてくれ。ところで、今お前の追ってるネタは、国際部そのものだ。お前が嫌でなければ、俺はうちのキャップに頼んでおく。それでいいか?」
「そりゃ・・・・でも俺、結局辞めてしまうかも知れませんよ。」
「おう、その時はその時だ。好きにすればいいさ。」
田中は、伝票を摘むと、立ち上がってスタスタとレジに歩き始めた。
社の自分のデスクに戻ると、澤田女史が、俺のところに寄ってきて言った。
「本田くん、川淵さんが、この特集を私と本田くんでやるように、だってさ。」
「明日のエネルギー・・・」
「うん、太陽光とか、風力、地熱、そんなのの候補や将来性、問題点なんかをわかりやすく特集するんですって。」
「面白そうやないですか。偏向報道よりは100倍ええわ。」
澤田は、ほんの一瞬だけ、また始まった、という表情をしたが、そのあと柔らかい表情を見せて言った。
「うん、ホントだね。本田君はまっすぐだから、今のうちの会社のやり方は厳しいよね。ところで、私は新しいものを追っかけるから、本田くんは未開発の既存エネルギーを調べてくれない?」
「おお、望むところですわ。じゃ、尖閣の石油と、メタンハイドレートあたりをやります。」
「メタンハイドレートは面白い人いるわよ。公演見ただけだから知り合いではないけど。」
「もしもし、総合独立研究所さんですか?わたくし、毎朝新聞の本田ともうします。青木所長とアポをとらせていただけないかと電話しました。」
「少々お待ちください、青木と代わります。」
「もしもし、青木です。いきなり失礼は承知で言いますが、毎朝新聞さん、僕はおたくの新聞、あまり好きではないんですけどね。」
本田は苦笑しながら言った。
「はあ、すいません。でも、俺も好きではありません。」
受話器の向こうから、大きく笑う声が聞こえた。
「実は、メタンハイドレードについて教えて欲しいのです。明日のエネルギーというシリーズ企画です。」
総合独立研究所は、江東区にあった。研究所というより個人オフィスに近い規模だったが、どこからも独立して、自由な立場から研究、提言を行うという社是から言って、それが俺にはとても好ましく思えた。
社長で主席研究員の青木繁晴所長は、目を丸くして俺を迎えた。
「いや~、金髪の記者さんですか。毎朝新聞も変わったものだ。」
「いえ、お陰で会社には冷たい目で見られます。ですが、この頭のせいか面白がって、深い話をしてくださる方も多いんです。まあ、おれは他の人と違う意見を聞きたい、という主張だと思ってください。」
「なるほど、心意気は理解しました。まあ、座ってよ。」
おれは勧められたソファに腰を下ろして、青木の顔を見た。写真では見ていたが、本人はとても目に力がある人物だった。精力的で、経験豊かで、しかも人情がある人に見える。
「お忙しいところ、本当にすみません。青木所長の本、何冊か読ませていただきました。すごい経歴をお持ちですね。まさに今の日本に起こっている事を語るにふさわしい人やと思いました。共同通信にもいらしたのですよね。」
「経済部と政治部に居ました。ですから報道の仕事はだいたい検討がつきますよ。」
そっけなく言われてしまった。どうやら青木は、余計な話で時間をつぶしてもらいたくはないようだ。
「早速ですが、メタンハイドレートについてお話をお聞かせ願いたいのですが、そもそも実用化は可能なのでしょうか?。」
「ご存知かと思いますが、メタンハイドレートはLNGと同じようなものです。ただ、白い塊で、液体ではないですから、自噴したり吸い上げたりできない。つまり、採掘するには特化した特殊な技術は必要ですが、それらは日本が本気になってやったら、決して難しいことではないです。
ただ、日本近海で初期に採取の研究が行われたのは南海トラフだったのですが、この海域では、海底油田の採掘方法を応用して1999年から2000年にかけて試掘が行われ、詳細な分布状況が判明しています。そこには総額500億円を費やしたのですが商業化には至っていません。
なぜかと言うと、南海トラフなど太平洋側のメタンハイドレートは、分子レベルで深海における泥や砂の中に混溜しており、探索・採取が困難だからです。」
青木は説明しなれている様子で、立て板に水で話していく。
「一方で、浅い海で、海底に塊状で顔を出していて、低コストで採掘できる日本海側の研究には、年間なんと250万の予算しか付いていません。船を動かすためには燃料代だけでも1日100万円以上かかるんですよ。日本海のメタンハイドレートは、韓国への顔色伺いや、石油利権に絡む東大教授や国会議員や企業などが採掘に対し反対の姿勢をとっていたりするので、ちっとも研究が進んでいないんです。」
「なるほど、そういうふうに、敵がなにやらワラワラいるということは、かなり有望と考えてええわけですね。」
青木の目が光った。少し身体を乗り出して、言った。
「その通り。日本のメタンハイドレートの資源量は、1996年の時点でわかっているだけでも、天然ガス換算で7.35兆立方メートル、日本で消費される天然ガスの約96年分以上と推計されています。
もし海底のメタンハイドレートが低コストで採掘が可能となれば、日本は自国で消費するエネルギー量を賄える自主資源を持つ国になるんです。さらに尖閣諸島近海の海底にあるとされている天然ガスや新潟付近の石油などを含めると日本は世界有数のエネルギー資源大国になれる可能性が十分にあるんですよ。」
俺は心底驚いた。子供の時から、日本は資源の無い国だから、加工貿易で立国していると教わってきたのに、真相はこうなのか?
「そんなにですか?だったら、なんでさっさと掘り出さんのやろ。それで、社会保障費の問題や、財政赤字の問題、税負担の問題、全部解消してまうやないですか!」
青木は我が意を得たり、とばかりに、嬉しそうに笑った。
「そうです。さらに言えば、雇用問題も新しい産業が創出されることで上向きます。雇用や社会保障、セーフティネットなどがしっかりすれば、少子化問題も改善されます。原子力発電の問題だって、廃棄物の処理以外は解決です。まあ、原子力に限ってはこの問題が最大のネックですけどね。
さらに、あえて誤解を恐れずに言うなら、資源を売ったお金で国内で軍需産業をやればいいんです。死の商人と言われるのが嫌なら、例えば防衛兵器だけに特化するという方法だってあります。予算さえあれば、ミサイルディフェンスや衛星兵器など、日本の技術ならすごいものが作れます。
それらをASEANをはじめとする同盟国に売れば、核の脅威も低減するかもしれませんし、軍事的にそれらの国と強く結びつくことができ、中国への牽制にもなりますから、日本の安全保障上大変有効です。そしてなにより、付加価値の高い軍需産業は、多くの雇用と外貨、さらに技術革新を生みます。
まさに今、日本の輝ける将来へ繋がる扉が、日本海にあるメタンハイドレートなんですよ。」
青木氏の声が随分でかくなっていたが、それを聞いたおれは、すっかり感動してしまった。まさかこんなブレイクスルーの方法があるとは思っていなかった。今の日本に漂っている閉塞感なんて、これで吹っ飛ばせるで。
「でもね、いい話には闇が付きまとうんです。僕が自民党政権時代、当時の資源エネルギー庁長官や石油会社の所長に日本海のメタンハイドレートについて尋ねたら、青木君、それに首を突っ込むと、命に関わりますよ、という答が返ってきたんです。
日本が敗戦国で輸入国であることによって世界の秩序ができているのだから、それを壊すことはできない。資源がない国でなければならない、というわけです。この事実を知った時、初めて日本の根っこにぶつかった気がしました。そういうところも、政治的に解決する必要があるんです。
僕は去年の夏、イギリスで開催された国際ガス・ハイドレート学会に出席したんですが、韓国が竹島の南にあるメタンハイドレートについて研究発表をしたんです。もう、本当に東海のメタンハイドレート関係の発表がウジャウジャあった。
そのとき、ある発表者は日本海を「東海」と称したうえで、2014年に東海のメタンハイドレートを実用化すると言ったんです。そしてその金を出しているのは、アメリカ政府だったんですよ!」
俺は、わけがわからなくなった。アメリカは徐々に韓国から手を引いているように見える。なのに何故韓国と組むのだろう。おれはそのことを青木に尋ねてみた。
「うん、それについては、あくまでも去年の話です。先日、8月15日だったか、アーミテージ元米国務副長官とナイ・ハーバード大学教授は、日米同盟強化のための対日政策提言というのを発表して、アジアの安定を日米同盟によって繋ぎ止めるための提言をしたんですが、その中にメタンハイドレートの日米共同研究・開発を進めるべきだとありました。
これは、韓国を見限って日本と組む、という意味に取れます。韓国が今、中国に接近していることもあり、アメリカは米韓の同盟をもう見切っているという様子も見えますから。ただ、アメリカとて一枚岩ではないですからね。
いすれにせよ、面倒なのは、竹島は韓国が実効支配、これは僕はあえて占領していると言いたいのですが、まあ、実効支配しています。そして、以前に韓国の元大臣が話してくれたのですが、韓国は、竹島を、最初はメンツで奪ったけれども、今は海底の資源こそ、子々孫々に伝えるものとして、手放せないんだって言ってました。もはやメンツではなく、利害なんです。
そしてなにより、一方の日本は韓国の顔色を見て及び腰で、挙句の果てに民衆党は3年間、アメリカを裏切り続けています。日本は頼りにならないから、とその時点でアメリカが韓国と組もうとする点は僕は責められません。アメリカにしたら、共同開発ができれば、相手は日本であれ、韓国であれ、どちらでもいいんです。それくらい、各国はシビアにこの竹島のメタンハイドレートを狙っているんですよ!」
「なるほど、日本はよほどしっかりしてこの件にとりくまないと、周りは涎をたらして狙っているというわけですね。」
「その通り。日本はいつまでもナヨナヨした考えではいけません。竹島のメタンハイドレートはアメリカの共同開発でも仕方がないかもしれませんが、もしノー!と言いたければ、軍事的にも独り立ちしている必要があります。僕は、憲法を改正するべきだと思ってるんですよ。」
「憲法を変えれば、日本は自分のケツは自分で拭かなければならない。そうなると、自然と、政治家、官僚、国民、皆の意識が変わる、ということですか?」
俺は田中の受け売りで言った。青木は満足そうに頷いていった。
「そう、そう、その通り。おおもとが変わったら、上に乗っかっているものは変わらざるを得ないんです。今は千載一遇のチャンスです。周辺国の横暴に、日本人は安全保障の重大さを思い知りました。国民の憲法改正に対する拒否感は、かつてないほど低いと言えます。オマケに、アメリカはお金がなく、日本に独力での防衛能力を期待しています。日本が憲法を改正すれば、日米の付き合い方にも変化が出てくるわけです。」
2012年9月9日
新たな日本のエネルギー資源として期待されるメタンハイドレートの開発を日本海で進めるため京都府や新潟県、秋田県など日本海沿岸の10府県は9月9日、「海洋エネルギー資源開発促進日本海連合」を設立。今後、企業などと連携して政府へ提言をまとめる。
メタンハイドレートは、天然ガスの主成分であるメタンが低温高圧の環境で水と結合。シャーベット状の固形物質となり「燃える氷」とも呼ばれ、火力発電の燃料に利用できるなど次世代エネルギー資源として期待されている。
2013年○月x日
イスラム原理主義組織ハマスが、イランの首都テヘランのアメリカ大使館を砲撃し、アメリカ大使はじめ警備の海兵隊員など22人を殺害、60人以上を負傷させた。これに対してオバマ大統領は、世界平和に対する重大な冒涜行為だと表明した。翌日、米国政府はハマスに対し、断固たる対応を取ることに決定した。
イージス艦「あたご」は、第3護衛隊「しらね」「まきなみ」「すずなみ」と共に、沖縄から石垣へと続くルートの洋上で停泊中だった。その操作室である艦橋は3方に沢山の窓があるが、どれも小さく、それぞれの窓は丈夫な骨組みで枠どられている。水色と白に塗り分けられた鉄板がむき出しの部分が多い、機能一辺倒の部屋だ。折からの晴天で、外と比較すると中はひどく暗く感じる。
その艦橋の窓から少し引っ込んだ場所に設けられた操舵席で、長谷川は当直士官として舵を握り、通信士から状況を聞いていた。現在、中国の漁船団と共に、漁業監視船「漁政」と海洋監視船「海監」の中国公船が大挙押し寄せており、領海ギリギリで海上保安庁を刺激し続けている。
と、そのとき、防衛省から各艦への通達が入った。
「米国海軍第七艦隊は、本日沖縄海域を離れ、ペルシャ湾へ向う。各艦とも緊張感を持って、防衛にあたれ。また、我々海上自衛隊は、ペルシャ湾の機雷除去のために掃海艇を派遣することに決定した。」
艦内には、わずかに緊張感が増した。が、ホルムズ海峡封鎖がイランで決議されて以来、そうなるとは艦内の誰もが予想していたので、特段の騒ぎにはならない。現在、中国の戦艦が日本の領海に極めて接近している様子はないが、上海の南の海上にある中国最大の軍港である舟山軍港からは、何隻かの軍艦が港をでて、周辺の海を航行中だ。
長谷川は、水平に配置されたレーダーシステムのディスプレイを見た。現在、通常より多くの対潜哨戒機P3Cが潜水艦を警戒して尖閣諸島周辺を調査しているのがわかった。P3Cは現在世界で実戦配備されている哨戒機の中では最も高性能な機体で、空から海中深くを探知出来る高性能なレーダーや赤外線探知機などを駆使して潜水艦を捕捉し、その潜水艦を対潜魚雷などで殲滅する事ができる。自衛隊はこれを90機も保有している。
「長谷川、操船を代わろう。」
「岡田艦長、もう起きられたのですか。」
岡田は短い顎を引きつけるように頷いて言った。視線は前方、何も異常がないように見える明るい海を、あちこちチェックしている。
「第七艦隊が海域を離れたと聞いたので、状況を確認しに来た。まだ中国側に動きは無いようだが、どう思う?」
「はい、もし何かあるとすれば、米軍の第七艦隊がすぐには引き返せない位に離れた時に、仕掛けて来る可能性があるのではないかと考えます。」
「そうだろうな。司令部とも連絡を密にして、EEZ外の船舶の動きにも注意するようにしてくれ。我々も、ペルシャ湾に艦隊を出さざるを得ない以上、日本の防衛が手薄になる。早期発見と対策がいつも以上に重要だ。」
「はい、了解しました。それにしても、今更ですが、中国がこうして執拗に尖閣を狙ってきますが、たとえ一旦上陸を果たしたとしても、制空権をとれない以上、占領状態を維持するのが困難なのは、向こうもわかっていると思います。一体どうしたいのでしょうか。」
岡田は一瞬目を上に泳がせてから、顎を触って応えた。
「うむ、俺にもよくわからんが、日本がへたれて弱気な対応をしてくるのを期待しているのかもしれんな。実際のところは、阿部政権になってから国内の世論もそれを許すような状態ではないがね。」
「実際問題として、制空権を握るということは、こちらが相手を排除するために攻撃する、ということですよね。そこまで事態が進んでしまった場合、日本政府は本当に中国相手に攻撃できるでしょうか。わが国の領土に他国の軍が侵攻してきているわけですから、憲法9条はこの際問題ないとしても、その一線を越えるというのは、中国との戦争を意味する訳ですから・・・・」
「そうだな、だがそれは俺たちが考えても仕方がない。残念ながらその判断は俺たちにはできないのだからな。俺たちは、下された命令に対して、全力を尽くすのみだ。」
いつだって、この問題は堂々巡りだと長谷川は思ったが、その言葉は飲み込んだ。岡田は艦長としての責任において、長谷川よりもずっとリアルにこの問題に向き合っているはずだからだ。例えば艦と乗員に危険が迫った時、あるいは他の船に危険が迫った時、命令を待たずに攻撃ができるだろうか。
あるいは、こちらの出方を見るために、ジャブのような機銃掃射などがあった場合、どう対応するのか・・・このイージス艦が軍艦である以上、我々の攻撃はすなわち、戦闘である。もし自分だったらその火蓋を切って落とせるか・・・・
「長谷川、お前は攻撃できるか、考えているだろう?」
「あ、はい。わかりますか?」
「当たり前だ、顔にそのまま書いてあるぞ。」
岡田は笑いながら言った。
「なあ、長谷川、俺にも、最善の判断ができるかどうかの自信なんてないよ。だがな、我々はこうして戦艦で、事実上の紛争海域にいるんだ。戦うべきところで戦わなかったら、意味がない。そもそも、いろいろな物事には流れというものがある。それを無視して暴走するのは問題外だが、流れの中で必要なことをやっているかぎり、それは誰がはじめようが、たいしたことではない。そうはおもわんか?」
「はい、おっしゃるとおりだと思います。」
「そうか、それならいい。少し休め。」
長谷川は肘を前に出す海軍特有の敬礼をして、艦橋を離れた。海軍の敬礼は、狭い船内で肘が横に張り出さないようにするためのものだ。狭い廊下をたどり、私室に戻ると、脱帽し、ベッドに腰を下ろした。ふと気づくと、ライティングテーブルの上の携帯電話が点滅している。メールは、トモコからだった。石垣島近辺からの電波を拾ったのだろうか。
「長谷川さん、アメリカの第七艦隊が行っちゃいましたね、なにがあるかわからないから、気をつけてくださいね。いつも、日本を守ってくれて、ありがとう。ファイトです!」
長谷川は、おもわず顔をほころばせると、ゆっくりと返事を打ち始めた。今のこの葛藤、誰かに聞いて欲しい。もちろん、深いところで理解してもらうことはできないだろう。それでも、聞いて欲しい。そんな思いだった。ただし、今は海の上だ。このメールは届かないだろうとも思っていた。
中国の監視艇は、それから数日の間は、接続水域内を航行しているが、大きな変化はなかった。
接続水域とは、排他的経済水域の最も領海寄りの部分を呼ぶ。基本的に島の地形の出っ張った部分を線で結び、その内側が内水、そしてそこから12海里(約22km)を領海と呼ぶ。ここまでは排他的に利用することができる場所である。
そして、そこからさらに12海里を接続水域と呼び、沿岸国が、領土・領海の通関上、財政上、出入国管理上(密輸入や密入国)、衛生上(伝染病等)の法令違反の防止及び違反処罰のために必要な規制をすることが認められた水域のことを指す。
「・・・・につけ!」
長谷川ははっとした。なんて言った?
「魚釣島領海に中国籍の漁船と監視艇が侵入、上陸を試みているとみられる。本艦はこれより紛争海域に向う。総員配置につけ!」
長谷川は飛び起きた。時計をちらりと見ると、午前11時だった。洗面台で身なりをチェックして、急いで着替えて艦橋に向った。
「岡田艦長、長谷川一等海尉、今戻りました。」
岡田はちらりと長谷川を見ると、小さくうなづいた後に、指令を出した。
「魚釣島に漁船10隻と、監視艇3艇が接近している。我々は目視距離まで近づき、海上保安庁の巡視艦の援護をする。」
若い通信士の宮地亮が、高校生のような顔で、生真面目に言った。
「艦長、現場の映像が来ました。」
「よし、映せ。」
岡田が応えると、艦橋のモニターに海上保安庁の巡視船上から撮影された現地の様子が映し出された。漁船は船団を組んで、そそり立った魚釣り島を目指している。海上保安庁のひだ型巡視船が、船団の前に回りこみ、横っ腹を見せて進路を塞ぐと、船団は二手に分かれて回り込もうとした。
巡視船の前方を抜こうとした船は、巡視船が前進したために進路を阻まれ、引き返すような挙動をしている。後ろに逃れた船は、再び魚釣島を目指すが、そこに小型の巡視船が2隻で進路を阻もうとしていた。その時、接近してきていた中国の海洋監視艇「海監」の甲板から白煙が見えた。
「銃撃!銃撃!監視船が発砲しました!」
「くっそ!やりやがった。」
モニターを見ていた砲術長二等海尉、永友佑都が握りこぶしを左手に叩きつけて言った。身体は小さいが、呆れるほどアグレッシブで、つくづく敵に回したくない男だ。
「永友、落ち着け。Mk45 5インチ砲発射用意」
岡田はレーダーを覗きながら言った。
「Mk45 5インチ砲発射用意。」
永友は復唱した。
岡田は、艦隊に全速で海域に向うように指示した。
「今、向こうの艦もあわててるやろ。」
岡田は珍しく関西弁で、嬉しそうに言った。
「中国監視艇、進路をひとふたまるに変更、海域から脱出していく模様です!」
宮地亮が大声で言った。
「へへん、ざまあ見ろ!」
永友祐都が嬉しそうに言って、鼻の下を擦った。
数時間後、日が傾き始めた頃、宮地が言った。
「指令本部より通信。中国舟山軍港より、中国軍艦隊が出撃中。うち15隻がこちらの海域に向っていることを確認しました。艦隊の海域予定到達時刻ふたまるふたまる。」
「指令本部より追加打電。舞鶴基地より、第7護衛隊、みょうこう、ゆうだり、ありあけ、せどぎりがこちらに向っています。予定到達時刻ふたひとまるまる。」
長谷川は岡田の顔を見た。岡田は厳しい顔でつばを飲み込んだが、そのあと、笑って言った。
「さて、いよいよインチキ護衛艦ではなく、中国軍のお出ましか。どうなるやら。」
長谷川たちの乗る「あたご」は緊張間の高まる中、夜の帳に包まれていた。冬の日本海は荒れることが多いが、今日はめずらしいほど静かな夜だ。岡田は、少し休むと言い、自室に戻っている。
「キャプテン、中国はどう出てくると思う?」
永友祐都はガムを噛みながら、目だけをこちらに動かして言った。通信席では宮地亮が、黒い目でまっすぐこちらを見ている。このふたりは、平時なら徒競走のライバルだ。二人とも、陸上選手並みに早い。
「そうだな、やつらが本気でこっちを沈めようとしているなら、もうちょっと前から潜水艦がいないとおかしい。その気配はないから、にらみ合うつもりなんじゃないかと思ってる。」
「やっぱりそうか。SSM-1Bぶっ放して、すっきりしてえな。神経戦をやられたらこっちは不利だ。なにしろ、向こうさんは俺たちが先に撃ってこないことを知ってる。」
永友は、日焼けした黒い顔に、目を光らせながら吐き捨てるように行った。こういうことを言うが、この男は戦いで冷静になるタイプだ。
「ああ、しばらく、しんどい時間が続きそうだな。少し交代して、休んでいたらどうだ?」
「眠れるわけもねえし・・・まあ、スタミナには自信があるから、心配ないですわ。頭は普段から停止してるも同然だし。」
長谷川と宮地は薄く笑った。そのとき、岡田が戻ってきた。
「どうだ?」
「はい、海上保安庁の船舶は、現在海域から出て待機しています。また、呉の第一潜水隊から派遣された、「うんりゅう」と「はくりゅう」が現在領海内で潜水待機中です。」
「わかった。俺は何も起こらんと踏んでいるが、実際どう出るかはわからん。油断はするな。」
夜が更けた。中国艦隊は、尖閣の接続水域、島から22kmの領海ギリギリを低速航海中で、今のところ領海侵犯してくる様子は無い。先ほどより、司令部より領海を侵した場合攻撃をする旨、警告を呼びかけているものの、それに対する応えもない。
岡田が宮地に顔を向けて言った。
「宮地、第三配備を解き、第一配備へと変更。全護衛隊に伝えろ。」
「はい、わかりました。」
第一配備は、哨戒配備の最も警戒態勢の強い配備であり、戦闘が差し迫った時のものだ。戦闘配備になると、艦内の通行も制限され、食事も戦時食となる。いずれの配備も、交代はない。
「こちら第三護衛隊、旗艦あたご。全護衛隊に告ぐ。これより第三配備を解き、第一配備へと変更。」
各艦から、緊張感を伴った、了解の返事が戻ってきた。これから、長い夜が始まる。
2012年11月16日[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]
韓国の大企業が相次いで非常経営に入っている。アップルと特許訴訟中のサムスン電子と米国で燃費問題が広がる現代(ヒョンデ)自動車もそうだ。 両看板企業は突発変数によるものだが、他の大企業の事情はもっとよくない。 LGは事業全般を見直し、年末の役員人事に強力な成果主義を適用すると明らかにした。 現代重工業はすでに早期退職者を募集中で、ポスコはグループ構造の再編とともに非常経営に入っている。 かつて韓国大企業は、危機であるほど攻撃的な経営をするという逆発想で目覚ましい成長を繰り返してきた。 しかし今回は違う。 韓国経済が長期低成長に入る兆しが表れているうえ、来年の世界経済環境が非常によくないからだ。 大企業が委縮すれば、投資の減少と採用の縮小につながる。 春から始まった設備投資の減少は来年も続く見込みだ。
2012年11月16日
韓 国政府は16日、冬の電力需給対策を発表した。昨年の‘9・15停電事態’以来何度も電力需給対策が出されてきたが、今冬は強い寒波の影響で電力需要が史 上最高になると予想されていて、電力当局の緊張感はいつになく高い。来年1月に予備電力が127万キロワットに落ちるという当局の展望は、現在の電力事情がど れほど深刻なのかを端的に見せている。原子炉1機の発電容量が100万キロワット前後であるため、この冬原発が一機でも故障すれば、全国で‘ブラックアウト(大 停電)’に陥ってしまう。毎年繰り返される節電対策程度では、‘電力端境期’を越せるのか憂慮が強まっているが、発電所が完成して700万キロワットの電力が新 規に供給される来年末まで、我慢して耐える以外に案を探すことができない。
2013年○月x日
奇 誠楊は、銃剣を据え付けた銃を持って、民家で待機していた。昨夜突然の命令で、大変な数の軍人が、軍服を着ずに、奇のいるあたりの民家に入った。中にはかなり多くの男がいて、奇は驚いた。どうやらいよいよ、38度線を越える日が来たようだ。我が北朝鮮軍は勝てるのか?本当にうまくいくのか?生きて帰れるのか?
民家の中は一応火の気もあり、夕飯では、米が出たのが嬉しかった。最近はずっと、飼料用のトウモロコシの汁しか口にしていない。
坊主頭で、目が切れ目のように細く、つり上がった丸顔の男が立ち上がった。
「おい。みんな、所属と名前を言ってくれ。」
それを受け、兵士たちは順番に名乗っていった。坊主の男は、リストと照合して、印を付けて行った。
「第5軍団中級兵士 奇誠楊であります。」
奇は、緊張気味に答えた。朝鮮人にしては、高い鼻と濃い眉をしている。
「皆、おれは第6軍団中士、鄭大盛だ。今日は俺がここを指揮する。話をよく聞いてくれ。」
「はい。」
全員が押し殺した声で、返答した。
「明日の午前、我が人民軍は38度線を越えて、韓国領へと進攻する。」
奇は、予想はついていたものの、改めて緊張した。いよいよ、本当にやるのか・・・
「今回の作戦はこうだ。まず、先鋒は戦車隊と砲兵隊だ。これが38度線を突破する。戦車隊は、500台を予定している。しかし、この作戦ではこれ以上の攻撃は行わない。国境を突破したら、全員が粛々とソウルへ行進する。なにか質問はあるか。」
背の高い、目つきの鋭い男が手を上げて聞いた。
「攻撃しないとは、どういうことでしょう。相手が銃撃してきても、こちらは撃たないということですか?」
「そうだ、こちらは撃たない。ただし、おそらく相手からの激しい抵抗はない。あった場合には、先鋒の戦車、砲兵隊が片付ける。歩兵は、行進するのだ。そして、行進の際、アリランを全員で歌いながら歩いてくれ。」
「アリランを歌いながら・・・・ではまるで、戦勝軍が凱旋するようにですか?」
「その通りだ。今回、事前工作によって我々は、戦わずともすでに勝利している。我々は韓国を無血占領し、新統一朝鮮国の樹立を宣言しに行くのだ。金日恩第一書記 は、新朝鮮国の王になられ、われわれは韓国の経済や技術を手に入れ、これから偉大なる発展をしていく。明日はその記念すべき日なのだ!」
奇は、それを聞いて興奮した。苦しかった飢えとの戦いも、もう終わる。そう思ったら、笑いが止められなくなりそうなほど、嬉しかった。周りには、笑っている男もいた。
「そんな作戦だから、略奪、強姦などはもってのほかだ。見つけたら軍法会議にかけずに銃殺するから肝に銘じておけ、わかったな!」
皆の中の男たちは声をそろえて、「はい!」と答えた。
「威勢が良いのはいいが、今日は静かにしていてくれ。国境が近い。明日はきっと、うまいものが食えるだろう。今日は静かに休め。以上だ。」
朴 智聖は、顔なじみの飯屋でひとり、プルコギの晩飯を食っていた。一重瞼で眉は薄く、頬骨が高い、韓国にいたら埋没してしまう。朴の顔は、そんなよくある顔だ。今夜は、ビールとマッコリを飲んで、少し良い加減になっている。
テレビでは、イランがアメリカ、イスラエルと協力国への制裁としてホルムズ海峡閉鎖を決議したことにより、原油価格の急上昇が取り沙汰されていた。それに伴い、韓国は今までのウォン高から急激なウォン安へと為替が急反転した。そして同時に、深刻な株安も進行し、海外の資金は急速に国外に流失していると言っている。政府は緊急金融対策本部を設け、その対応に追われているらしい。最近就任したばかりの金融大臣が、顔に疲労をにじませ、血相を変えてまくし立てている。テレビでは毎日、この事で大騒ぎをしている。
朴 智聖には、それがどれだけ大変な事かは、よくわからなかった。しかし、重大なことなんだろうな、俺は関係なくてよかった、とぼんやり考えていた。
「朴さん、マッコリ、もう一杯飲むかい?奢ってあげるよ。」
店のオバちゃんが言った。このオバちゃんとも長い知り合いで、母親のように接してくれる。
「あ、うん、ありがとう。」
「あんたは、真面目だからいいさね。ホントにこの辺には馬鹿しかいないから、嫌になるよ。あ、ところで朴さん、聞いたかい?北朝鮮がいよいよ攻めてくるって噂。なんでも、北朝鮮が来て統一政府ができたら、借金がチャラになるって噂だよ?別の国になっちまうから、政府の借金も、企業の借金も、あたしらの借金も全部 チャラだとさ。それなら統一して欲しいよね。」
「あ、俺もそれは聞いたことある。本当にそうなったらいいのにね。」
朴は、借金を返してしまわなくて良かった、と思いながら言った。
朴 智聖は韓国南西部の全羅南道にある霊光(ヨングァン)原発で警備員の仕事をしている。高校を卒業してからソウルに出るでもなく、地元でぶらぶらとその日暮らしをしていたが、知人の紹介で、今の仕事を紹介された。この不景気に仕事にありつけるのさえ幸運と言える状況だった。結婚することもできた。
朴は、昨年マンションを購入した。世間ではみんな、家を持っていない者は買わないほうがおかしいという論調だったし、実際借金も簡単にできた。なにより、家を買ったらなんとなく箔が付いた気がする。
だが、妻が妊娠していることがわかり、悪阻が酷くて仕事をやめたので、収入が随分減ってしまった。そこに加えて、最近の物価高で、警備の仕事だけでは食べて行くのも不自由するくらいだ。子供ができたら絶対に金が足りなくなるのがわかりきっていた。
だが、3ヶ月前に、朴に幸運がやってきたのだった。
原発警備の仕事を紹介してくれた車という男が久しぶりに電話をよこした。
「朴さん、どうですか?景気が悪いですけど」
「ああ、車さん、家を買ったんですが、お金がなくて大変です。これから子供も生まれるのに。」
「朴さん、私はあなたを応援したい。ですから、お金、出してあげましょう。返すのはいつでも良いですよ。」
「え、本当ですか?でも、僕はなにもお返しできることがないです。」
「いいんです。いずれ、あなたにお願いすることが出てくると思います。あなたはそのときに一仕事してくれればいい、どうですか?」
後日あった時、車は、朴の家が半分買える位の、大金を持ってきた。さすがに怖くなったが、利子はいらないし、返さなくてもかまわないというので、もらっておいた。だが、車のアドバイスで、借金の返済に回す事はせず、隠して使うことにした。
朴 智聖はぼんやり、そのときのことを思い出していた。額が大きいので怖い気はするが、あんな大金を一気に稼げるのならば、危ない橋を渡ってもかまわないと、いつのまにか覚悟は決まってきていた。ただ、自分が何をするのかがわからないのが不安だった。
街灯もないため暗く、身を切るように寒くなった家への道を歩いていると、SAMSUNGの携帯が鳴った。ディスプレイには車の名前が表示されていた。それを見るなり、朴の心臓が大きく打った。いよいよ来たか。覚悟を決めて電話に出た。
「朴さん、わたし車です。お元気ですか。ところで前に言ったお願いなんですが、時期が来ました。一仕事やって欲しいんです。」
朴はのどがカラカラに干上がった気がして、喉を詰まらせながら聞いた。声が少し震えた。
「車さん、・・・・僕はなにをするんですか?」
「いやあ、私にはできないけど、朴さんには簡単なことです。いいですか・・・・・・」
朴は、車の言葉に何度か相槌を打っていた。電話を切ると、すこし晴れやかな顔で、家路を戻っていった。
翌朝は晴天だったが、寒い朝だった。朴はいつもと同じ時間に、霜柱の立った道を歩き、発電所に出勤した。制服に着替えてタイムカードを押すと、朴はいつものように、発電所の中を巡回警備していた。リノリューム貼りの廊下を歩き、左手の時計で時間を確かめると、制御室に入って行く。
「朴さん、おはよう、今日は寒いねえ。」
知り合いの技術者が声をかける。朴はつとめて元気にそれに挨拶をした。
知り合いの皆にいつものように挨拶をしながら歩いていきながら、目は目的の赤いボタンを探した。
あった。あれが緊急停止ボタンだ。
朴は何食わぬ顔で、そこに近づくと、誰も見ていないのを確かめて素早く手を伸ばし、そのノブを回した。
発電所内で、いくつもの警報が鳴り、アナウンスが流れ、原子炉が緊急停止していることを告げる。制御棒が差し込まれ、核融合反応はストップすることが確定した。制御室の所員たちは、右往左往し、慌てて原因を突き止めようとしている。朴は小走りに警備室へ向う振りをしながら、警備室の入り口を通り過ぎて表へ出た。門衛に挨拶をして外へ出ると、そのあとは懸命に走った。
すでにそのときには、ソウルを始めとした韓国の多くの都市は停電でブラックアウトし、街の機能をほとんど無くしていたことには、昼間のことゆえ、朴智聖はまだ気がついていなかった。
ニュースをお知らせします。今日午前、韓国南西部にある霊光(ヨングァン)原発で、原子炉の緊急停止装置が作動しました。このため、同発電所の原子炉は全て停止し、ソウル市を始めとする韓国の主な都市は、現在停電しています。
韓国政府の発表では、この原子炉の再稼働にはすくなくとも2、3日程度かかる見通しで、関係者は原因の究明を急いでいます。韓国国内はその間、ほとんどの機能がストップするものと見られ、折からの経済問題にも悪影響を及ぼす可能性が高いと懸念されています。
護衛艦「あたご」の乗員誰にとっても、永遠に思えるような長かった夜が明けた。海の上を薄く流れるもやと、低い太陽だけが見える。現代の海戦では、相手は水平線の向こう側にいて、見る事はできない。
下手に近づくと、武器の性能に劣る中国海軍相手といえど、こちらも手痛い攻撃を受ける可能性が高くなるため、彼我の距離は30キロくらいあけている。こちらの兵器からすると、それでも近すぎる位だが、中国艦隊が上陸を目指して魚釣島へと船を進めた場合、離れすぎていては阻止できない。
あたごをはじめとする第三護衛隊は、敵と魚釣島を結ぶ線とほぼ直角に、そこから30キロ離れた場所で待機している。万が一中国艦隊が魚釣島へ進攻した場合、こちらは敵艦を正面に見て、相手艦はこちらに横腹を晒す位置だ。現代のミサイルが、戦艦を相手に外すことはまずないが、砲撃では圧倒的に優位となるうえ、 相手に対する面積が最小になる。
その体勢のまま、護衛隊4隻は待機していたが、相手は動くでもなく留まっていた。昨夜合流した第七護衛隊、みょうこう、ゆうだり、ありあけ、せどぎりは、敵と魚釣島を結ぶ線の反対側に30キロ離れた海域に展開して警戒している。
と、そのとき司令部から連絡が入った。
「司令部より打電。中国の舟山軍港、旅順軍港より艦隊が出撃しました。その数どちらも25隻。行き先は現在のところ不明。舟山を出た艦隊は東、対馬方面へ、旅順発は南下しています。」
長谷川は呟いた。
「東?ではこちらではないな。一体どこへ行くつもりだ?」
岡田も、厳しい顔をしながら首をひねった。
「25隻とは随分多いな。ただ事ではない。司令部に護衛艦隊のバランスを取り直すよう提言しろ。」
奇 誠楊は、次第に明るくなってくる小屋のなかで、沢山の戦車の、無限軌道の軋む音を聞いていた。まだ、待機命令が出て、外に出ることは許されていない。小屋の中の男たちはみな、身支度を済ませ、墨で汚した顔の中を目ばかり光らせている。と、そのとき、各小屋に伝令が走りこんできた。
「全員、行軍に加われ!国境線を越えたら、アリランを歌いながら進むこと。いいな!」
奇たちは、小屋の外へ飛び出た。晴天の光に一瞬翻弄されながら見ると、すでに長い列ができていた。奇も早速それに加わり、歩き始めた。霜柱を踏みしめ、雪の残るぬかるんだ道を、兵士たちは機関車のように白い息をたなびかせて行進していった。
2時間ほどで、国境線に出た。有刺鉄線を巻いた4重のフェンスはおそらくは戦車によって倒され、歩兵が歩くべき場所にはすでに木の板が敷かれていた。見張り塔は沈黙し、国境を越えるための障害は何もなかった。あれほど遠いと思えた韓国への道を、奇たちは一跨ぎに超えていった。
国境線を越えると憲兵がいて、行進を4列縦隊に編成した。奇はその左端になったが、隊列の中に、時折北朝鮮と韓国、両方の国旗が並んで掲揚されているのがいくつか見える。
歩をすすめるうちに、農村めいた風景が、次第に市街地に変わってきた。自国と比べると、道路の整備もよく、鉄筋のビルの数もはるかに多い。車やオートバイも沢山止まっている。この国が、祖国になるのか。奇にはそれが信じられない気がした。
4時間ほど歩くと、休憩になった。奇は、あちこちで兵隊がハングルで文の書かれた紙を囲んで話をしていることに気がついた。どうやら同じ紙が沢山配られた様子で、その中の一枚が、足元に飛ばされてきた。奇はそれを拾って読んだ。
「我々は北朝鮮軍です。今回我々は、民族の悲願である祖国統一のために進攻を決意しました。これは、今危機的な状況にある韓国の国民を救うためでもあります。
現在韓国が置かれている経済およびエネルギーの危機は、まもなく貴国に壊滅的なダメージを与えることが必至です。その場合、ウォンは紙切れになり、貴国のインフラは外国管理となり、国民の皆さんの個人的な財産まですっかり、外国に差し押さえられてしまうことになるでしょう。
我々は、祖国を統一し、新たなる国家を樹立することにより、貴国の経済的な失敗を精算し、ともに手を取り前に進みたいと願ってここにやってきました。
これで全てが解決し、夢のような日々が来るというのは楽観的に過ぎますが、私たち朝鮮民族はこれから、力を合わせて輝かしい未来のために努力していくことができます。
我々は、今日、祖国統一の神聖なる目的のために、ソウルを目指しております。別れた懐かしい人たちに再び会えることを心から願っています。我々は今日、攻撃する意思を持っていません。どうか我々に無駄な血を流させないで下さい。
韓国の国民の皆さん、御自分の置かれた状況を十分お考えいただき、我々が今日、ここに現われた意味をご理解いただき、どうか悲願の祖国統一を成し遂げるため、道をお譲りください。」
奇は、これを読んで嬉しくなり、隣の男にも見せた。俺たちは今、韓国の国民を救うために行進している、平和と統一の使者だ。周りの男たちもこれを読んで、白い歯を見せた。
休憩が終わり、奇ら、北朝鮮軍は再び行進を開始した。彼らの足取りは先ほどよりも軽かった。男たちの唇から、アリランの歌が力強く流れた。
奥間優子は、原稿を持って、キャスター席にスタンバイした。レンガ色のジャケットに、群青色のブラウス。首には目立つシルバーのネックレスがあしらわれている。カメラの上に赤いライトが点灯され、オンエアになった。一瞬の後、奥間優子の目つきが厳しくなり、緊張感のオーラをまとった。
「ニュースをお知らせします。今日午前、北朝鮮の戦車、装甲車と歩兵の部隊が、韓国との国境を越え、ソウルに向けて進攻しています。その数は10万人以上と見られ、まだその全貌ははっきりしておりません。一方韓国内では特に抵抗も見られず、沿道の韓国民のなかには北朝鮮の国旗を振るものもいて、軍事侵攻は静かに進んでおります。その先頭は間もなくソウル市内に入る模様です。
一方、ソウルは先の原発停止を受けて交通、通信などが麻痺しております。現在まで、韓国政府、韓国軍などからの発表はありません。
在韓米軍では北朝鮮軍の侵攻を受け、韓国政府の要請があれば、作戦行動を開始すると表明しておりますが、今までのところ韓国政府からの要請は入っていない模様です。
次のニュースです。
昨日より尖閣諸島魚釣島を巡って、海上自衛隊の第三、第七護衛艦隊と、中国軍の艦隊15隻がにらみ合っている問題では、防衛省の発表では、現在まで中国軍に動きは出ていない模様です。
また、本日中国の舟山軍港、旅順軍港より艦隊が出撃しました。どちらも25隻の艦隊で、旅順を出発した艦隊は韓国の接続水域を通過して釜山近辺に、舟山発の艦隊はソウルの西の海域を巡航しております。これらの艦隊が尖閣諸島に向う様子は、今のところ見られません。
これに対して外務省では、在中日本大使館を通して確認をしておりますが、現在まで回答は得られていません。」
その後、奥間優子はいつもどおり、天気予報のコーナーを振ったりして、仕事をこなした。オンエアのライトが消えてほっとした表情を見せ、視線を落とした。しばらく何かを考えている様子だったが、ロッカールームに携帯電話を取りに行くことにした。
社会部のドアが突然開け放たれ、目尻を吊り上げた田中釣男が大声で吼えた
「おい!本田、お前の言うとおりだったぞ、北朝鮮が今、ソウルへ進攻してる!」
社会部の連中もさすがに口々にどよめいた。
「やっぱりですか、いよいよ韓国はなくなりますね・・・?」
突然岡崎の言った言葉が頭に浮かんだ。韓国のものはみな中国のものになる。おれの頭の中でカチリと音を立てて、ピースがはまった。
嘘やろ?そっちやったんか!
「先輩、先輩!韓国がなくなると、竹島はどうなりますか!?」
「ん~、そりゃ、新しい朝鮮の支配下になるんだろうが・・・・。いや、ちょっとまて、中国だ!」
「先輩、これは厄介なことですよ、中国軍が竹島を押さえてしまったら、取り戻すのは難しい!」
「そうだな、今、韓国に実効支配されている以上、ある程度やつらにアドバンテージがあるからな。」
「田中先輩、のんきなことを言っている場合じゃないんです!竹島の南には、日本の90年分の天然ガスが埋まっているんですよ!メタンハイドレートという形で!」
田中は驚いた表情で聞いてきた。
「あれは採掘にコストがかかりすぎてダメなんじゃないのか?」
「とんでもない、既得権益がからむ連中が隠そうとしていただけで、本当はメッチャ有望なんですよ!実際韓国は来年にはアメリカと組んで、実用化しようと企んでいたんですから。」
「アメリカと組んで・・・?だったらなおのこと、キナくさい。中国がアメリカに、大人しく資源を渡す事は考えられん。やつら絶対に竹島を取りに来るぞ。」
俺の頭の中で、いろいろな出来事がすっきりと繋がった。
「そうか、尖閣はデコイだったんや!中国は尖閣にジャブを繰り出して、日米の出方を見る。そのときにヘタレてくれたら尖閣を取る。でも、ここはアメリカも重要視しているから、だめでもともとや。
そして、海上自衛隊の艦隊を尖閣に引き付けて釘付けにしてそれをまず常態化した。そしてこのタイミングで米国大使館攻撃、ホルムズ海峡閉鎖。結果として第七艦隊のインド洋への進軍。これも裏で中国が一枚噛んでる可能性が大いにある。尖閣が手薄になったため、日本の自衛隊はそちらに注視せざるをえない。
そして、中東での争いによって引き起こされる、かねてから弱っている韓国の経済危機。それに乗じて、さらに原発を止めて大規模停電を起こし、その日に北朝鮮軍が韓国に進攻した。
そしたら在韓米軍を牽制する振りで中国軍が韓国の領海にでてきた。このタイミングで出てきたのが、なによりの証拠や。これはどうやら、隙を見て本命の竹島に食いつこうってハラや!」
俺と田中は、呆然と睨みあった。いや、目は相手を見ているが、実際にはお互い、今の仮説を検証し、そのうえで今自分に何ができるか、必死で考えていた。
「本田、どんなタイミングで中国軍は竹島を武力支配しようとするだろうか?」
「まともに考えたら、統一朝鮮が建国を表明して、中国と軍事協定を結ぶと宣言した後でしょうか。まあお世辞にもまともな国とはいえへんからわかりませんが。いずれにせよ、韓国が緩い占領をしている今しか、竹島を取り返せるチャンスはなさそうです。ところで先輩、政治部の人、今国会とかに居ますかね?」
「おう、聞いてみよう。来い。」
田中と俺は廊下を走った。でかいのが二人、血相を変えて走っているので、皆、おびえた表情で端に寄った。田中は政治部に駆け込んで聞いた。
「今、国会にだれか行ってるか?」
「どうした、血相変えて。今は吉田と牛田が行ってるよ。」
「あー、よりによってこんな時に若造か!」
「おい、あいつらは若いが、仕事は一人前以上だぞ!」
「そんなことはどうでもいい!だれか阿部総理か、田父神防衛大臣に話通せるやつはいねえか!」
「おまえ、そりゃちょっと無茶だろう。しかもこの非常時だぞ。ブンヤの言う事聞いてくれるほど暇な人なんか居ないだろ。」
俺はそのやり取りを聞きながら、青木氏に連絡を取ろうと思いついた。
「先輩、俺、ちょっと他のルートあたって見ます!こっちはお願いします!」
その前に岡崎はどうだろう?すぐに電話してみるが、呼び出し音だけで繋がらない。そりゃ、忙しいに決まってる。俺は、青木氏に電話してみる。
「青木所長ですか、毎朝新聞の本田です。忙しいところ、ちょっと俺の話を聞いて欲しいのですが、今北朝鮮が韓国に侵攻してますよね。で、中国海軍が韓国周辺に出張ってきています。そしてまた、中国海軍は尖閣にもちょっかいを出しています。これは偶然の一致だと思いますか?
というのは、おれは中国が李博明をそそのかして竹島上陸や天皇侮辱をやらせて、韓国経済を危機にさせ、ついでに沢山の原発を検査で使えなくしたうえで、最後の原発を落とし、北朝鮮に韓国に進攻させたんちゃうか、思っているんですよ。
で、それは統一朝鮮を支配下に置くためだろうと思っていた。けど、尖閣に軍艦を出すタイミングから見て、こいつら、尖閣をデコイにして、竹島狙ってたんや!思ったんです。竹島狙ってへんかったら、このタイミングで尖閣に軍艦だしてくるわけないやないですか。わざわざ2面作戦の局面はよう作らん。」
青木はそれを聞いてしばらく考えてる様子だったが、咳払いをしてから言った。
「ふむ、つまりイランのホルムズ海峡閉鎖からが中国製の一連の仕掛け花火ってことですか。なるほど、いかにも上海の考えそうな話だ。証明するのはなかなか難しいが、可能性はかなりありそうですね。」
「竹島に中国軍は絶対に進攻すると思います。アメリカに資源を渡したくないだろうし。そやったら、タイミングは今が最適です。第七艦隊はいてへんし、すでに中国の軍艦は釜山のあたりをうろうろしてるんやから!そして、日本が竹島を取り返すチャンスも、今しかない!」
「本田君、君の言う事は正解かもしれない。僕も打てる手は打ってみる。が、今僕が連絡を取れる相手ではそれを阻止する決断をできる人がいない。僕は今大阪にいるんですよ。もう一日早かったら、東京で動けたのに・・・・とりあえず、やるだけやってみます。」
「・・・・わかりました。できるだけお願いします。」
「うん、よく連絡をくれました、ありがとう。」
俺が携帯を切るや否や、呼び出し音が鳴った。奥間優子からだ。
「本田君、いよいよ北朝鮮が進攻したね。」
「優子ちゃん、それが、中国の狙いにはどうやら竹島らしいんや!」
「そんな・・・、なんで竹島なの・・・・資源?」
「日本の90年分のメタンハイドレートや。尖閣は日本の艦隊をひきつけるデコイやった。日本に取り返すには今しかないんや!中国に支配される前に竹島を強引に取りかえさなんだら、日本人の未来の希望を盗られてしまう・・・」
「そんな・・・・本田君、だれかに進言できないの?岡崎君は?」
「連絡は取ろうとしてるんやけど、あいつもてんやわんややろう、繋がらん。」
「そう・・・・私も、なにか方法がないか、手を回してみるね。」
「ああ、優子ちゃん、たのむわ。」
奥間優子は、長谷川に電話してみた。もちろん彼は海の上だろう。尖閣に張り付いていたら、電話は無理だろう。そのとき、次の出演番組のディレクターが通りがかった。
「優子ちゃん、あと15分で、ニュース解説だよ。スタンバイたのむよ。」
奥間優子は、上の空で返事をしながら考えていたが、徐々にその目に力がこもってきた。
続いて、今日のニュース解説の時間です。今日は、北朝鮮の韓国進攻について、東京大学国際関係学部准教授の今野康之さんにお伺いします。」
奥間優子は、落ち着いた声で言った。今野は、四角い真面目そうな顔で、頭を下げて挨拶した。今野は口火を切って話し始めた。
「まずはじめに、今日の北朝鮮による、これだけ大規模な進攻は、かなり事前準備をしなければ不可能だという事が言えます。そのため、今日起こった韓国の大停電は仕組まれたものである可能性が高いでしょう。
そもそも、この夏以来、今まで原発の管理に対し、むしろ無頓着であったと言っても良い韓国が、突然精力的に検査をはじめ、その結果として多くの原発が部品交換や故障のために停止していたところに、今朝の霊光(ヨングァン)原発で、原子炉の緊急停止装置の作動です。これら一連の問題は作為的であるという疑いが高いですね。」
今野はしたり顔で言った。
「では今野さん。今日、北朝鮮が進攻すると同時に中国の軍艦が50隻も出航して、韓国の海域に出てきたということも、やはり準備されたことと見てよろしいとお考えでしょうか。」
今野は、自分が言おうとしたことを言われてしまったのか、ちょっと目を光らせて優子を見た。
「その通りです。北朝鮮の進攻の裏に、中国の軍事力で在韓米軍を沈黙させようという意図があると思います。平和的に無血侵攻してくる北朝鮮軍に対しては、米軍も手を出しにくいですからね。」
「ということは、今回の大規模停電の日に起きた北朝鮮の韓国への侵攻は、後ろで中国が糸を引いていた可能性が高い、という結論になるかと思います。それでは、尖閣に昨日、中国が戦艦を出してきました。これもなにかの作為があると思われますか?」
今野はちょっと虚を突かれたような表情を見せた。ディレクターがカメラの脇の暗いところから、心配そうな顔で見ている。
「そうですね、・・・・・日本の出方を見たのではないでしょうか。」
「お言葉ですが今野准教授、米国の第七艦隊が東アジアを留守にしている今、中国の監視船が発砲し、代わりに軍艦を15隻もよこしたことが、ただ単に日本の出方を見たジャブとは思えません。」
今野は驚いた顔で、美人のニュースキャスターを見た。気分を害した様子ではないが、なんでこんなにぐいぐい出てくるんだ、この人は?と表情が言っていた。
「今野さん、すみません。事が急を争うため、私にお話させてください。実は、随分前からこの件を予想していた人がおります。その人は、李博明韓国大統領の竹島訪問、天皇侮辱発言から、その後ろで中国が動いていると考えていました。
中国が裏であやつって韓国と日本の関係を壊し、日韓通貨スワップを止めさせて韓国経済を衰退させ、北朝鮮主導で朝鮮半島を統一させるつもりのようだ、と予測していました。
ですが、その人は、中国が尖閣にたびたびチョッカイを出してくることに対して、疑問を持っていました。尖閣はアメリカの利害と日本の利害が一致するため、中国には手を出しにくいことがわかっているからです。しかし、今日、北朝鮮が韓国に侵攻した際に中国が同時に軍を動かしたことで、一連の事件に対する中国の関与が完全に明るみに出ると共に、尖閣を刺激する理由が見えたのです。
みなさん、中国軍の尖閣への軍艦派遣は、おそらく海上自衛隊を引き付けるためのデコイです。中国は、北朝鮮に韓国へ侵攻させ、中国海軍を韓国の海域に派遣して米軍の牽制をしていますが、もう一つ、軍艦派遣には理由があると思います。それが竹島です。
竹島の海域には日本の使用量にして90年分ものLNGがメタンハイドレートという形で眠っています。現在アメリカが日本に共同開発を呼びかけておりますが、日本は今まで韓国を刺激するのを避け、この件を黙殺して来ましたため、一時アメリカは韓国と共同開発を計画しておりました。それほど、アメリカはこの竹島の資源に対して貪欲に向かい合っています。
もし竹島に中国の軍艦が入り、海域を制してしまったら、その奪回作戦は小競り合いではなく、大規模な戦争となってしまうかもしれません。日本が事を荒立てずに竹島を取りもどせるチャンスは、韓国が混乱している上に中国の力がまだかろうじて及んでいない、今をおいて他にないのです。今釜山あたりに展開している中国艦隊が間もなく、竹島の海域を制圧しようと試みる可能性があります。
現在、日本政府の方々、防衛関係の方々はこの非常事態への対応のため、私どもにはなかなか進言ができる機会がありません。そのため、こういう大変失礼な形でご報告させていただいております。これを見た防衛関係者の方は、どうか竹島の防衛を念頭に入れて、今後のご計画を立てていただきたいと願います。ごらんの皆様、そして今野准教授、大変失礼しました。」
奥間優子は、深々と頭を下げた。スタジオ内はしん・・・と静まり返っている。ただ一人、今野だけが拍手をした。奥間優子は今野に、少しだけほっとした表情を見せた。
スタジオは暗転し、次の瞬間電気がついて、ディレクターが爆発した。
「馬鹿野郎!なにを勝手なことやってんだ!ふざけるな!俺の首を飛ばして良い気分か!?」
奥間優子は、頭を下げて、何度も、何度も謝った。
俺が国会議事堂でプレスの腕章をもらおうと、うろうろしていると、岡崎から電話が入った。
「圭ちゃん、優子さん、やりおったね!」
「へ?何をだ?」
「え?知らないの?テレビの生中継のときに、竹島の危険を説明して、防衛関係者に注意を促したんだよ。それでどうやら今、防衛庁もやっきになって対策を考えているみたいだよ。」
「ほんまか、すげえ女やな・・・・。」
「何を他人ごとみたいに言ってるのさ。圭ちゃんも負けないように頑張らなきゃね。」
「お、おう。オカ、教えてくれてありがとうな。」
俺は岡崎からの電話を切ると、すぐに優子ちゃんに電話をかけた。数回の呼び出しで、柔らかい声が聞こえてきた。
「あ、優子ちゃん、やりおったな、オカから聞いたで。」
「うん、そんなことより本田くん、すぐに国会議事堂に来れない?」
「え?俺、いまそこにいてるで。」
「ホント、それはすごくタイミングがいいわ。私、さっきの放送の件で、防衛庁から話を聞きたいと言われたの。急いで防衛庁の香川さんという人に会って。本田くんの電話番号を伝えるから、その人から電話してもらうね。私もあとから行くから。」
「よっしゃ、わかった。」
そばにあった自動販売機で買った温かい缶コーヒーを一本飲むうちに、香川という男から電話があった。待ち合わせ場所に行くと、真面目そうに三つ揃えを着て、頭を七三に分けた小柄な男がパスを持って俺を待っていた。本田さん?とぶっきら棒に聞いてきた。
「はい、毎朝新聞の本田です。フリテレビの奥間優子アナに言われて来ました。」
香川は嬉しそうな顔をして言った。
「あ~、奥間アナって呼び方、なんか卑猥だよね~。」
この非常時に、結構大物だな、こいつ。俺は思った。
俺は香川の後をついて、議員やら大臣やらがうろうろしている場所に足を踏み込んでいった。さっきまで入れなくてジタバタしとったのが、嘘のようや。
通された部屋で待っていると、香川はなんと、田父神防衛大臣と一緒に入ってきた。制服組の自衛官からはじめて防衛大臣になった人で、日本の防衛の要だ。俺は緊張した。有事の現場がわかっている大臣の存在感は半端ではなかった。おもわず、敬礼したくなってしまった。
「あなたが本田さん?驚いたな、金髪の新聞記者さんとは。」
おれはちょっと珍しいことだが、金髪にしているのを後悔した。今は、軽く見られたくなかった。
「田父神防衛大臣、俺の髪の毛の事は置いておいて、どうか話を聞いてください。」
俺は話し始めた。最初に疑問を持ったキッカケ、友達の外務省官僚から聞いた話、青木氏の話・・・おれは夢中で話した。日本が資源国になる、こんな素晴らしいことがあるか、そのチャンスを逃したくなくて、俺は必死だった。おれが話し終わると、田父神防衛大臣が言った。
「本田くん、話は分かった。我々も、竹島を中国が狙う可能性というのは、もちろん考慮はしていた。しかし、今回の事がもし、はっきりと中国が絵を書いて、計画通りに韓国を中国がつぶしたということであれば、私も君の言うとおり、このタイミングで竹島の資源を狙って来ると思う。早速対策をたてよう。本田くん、君は見かけはいささかチャラいが、どうしてどうして、いい男だね。」
「田父神大臣、おれがいい男だろうが、極悪人だろうが、そんなことどうでもいいです。ですが、竹島をなんとか守ってください。あそこには、日本の将来の希望が埋まってるんです。どうかお願いします。」
そのとき、香川が奥間優子を連れて部屋に入ってきた。田父神防衛大臣は、俺の隣に立った優子ちゃんと俺を交互に見て、これはなかなか、お似合いのカップルですね、と人のよさそうな顔で言って、笑った。
となりにいた香川は、嬉しそうな顔で
「・・・とおもうやんか~」
と言った。こいつは大物ではなくて、もしかすると、ただの天然か?
その時、別の男が電話を持って入室してきた。田父神防衛大臣は緊張した様子で、電話を取った。受け答えは英語だった。
Mr.Aokiという単語が聞こえた。青木氏がこっちから動いてくれたのか。俺は嬉しかった。
電話を終えて、田父神は言った。
「本田さん、奥間さん、今の電話は在日米軍の将軍でした。青木氏から連絡が行ったそうです。竹島を決して取られてはならない、竹島は日米共同の利益そのものだ。という内容の電話です。アメリカの利益にされているのは少しひっかかりますが、いよいよ、日本人と我々防衛関係者は覚悟を決めなければならないようです。」
と、そこになんと、テレビで見慣れた阿部総理が入室してきた。緊張した顔の中にも、俺達を思いやって柔和なふりをしているのがわかる。総理は高い声で、早口に言った。
「話は聞きました。奥間アナ、本田さん、気づかせてくれてどうもありがとう。特に奥間さんは、あれほどの事をやってしまったので、職場に居づらくなってしまうかもしれないのを心配しています。僕からもあなたの会社には電話を入れるつもりですが、あなたの会社は僕を嫌っているから、逆効果にならないといいけど。」
そう言って、阿部総理は笑った。
「今日のあなたたちの洞察力と行動力、勇気には、総理大臣としてはもちろん、いち日本人として心から感謝します。」
阿部総理は、俺と、優子ちゃんに、両手で握手をした。なんてこった。こんなことになるなんて、驚きや。
そのあとすぐに、阿部総理と田父神防衛大臣は部屋を飛び出していった。こんな時だから当然だろう。俺たちは香川の手配で、国会議事堂から黒塗りの専用車で送ってもらうことになった。。
俺たちはシートに腰を降ろすと、優子ちゃんのマンションを運転手に告げて、ようやく人心地ついた。
「本田くん、今日はいろいろあったね、でも、なんとか上手く伝わってよかったよ。」
「ホントや、優子ちゃんのお陰やで。あとは、長谷川さんたちの頑張る番やな。」
「それにしても、在日米軍が竹島を取られるな、と言ったということは、米軍も出てくるのかしら。」
「それはどうやろな。米軍は、韓国では国内が争乱状態になっていないせいで動いてないのやろ?無血侵攻する北朝鮮軍に銃弾の雨降らしたら、国際的に大バッシングにあうかも知れんしな。そもそも、アメリカが国際世論を敵に回すメリットが、今の韓国を守ることには見つけられんやろ。
それと同じように、日本の領土を奪還するために米軍が動くとは思えん。アメリカは、これは日本の問題やから、日本がなんとかして竹島を奪還しろって言ってくるくらいのものやろう。」
「そうね、それに今のアメリカは対イスラムで中東のエネルギーに対してすごく弱くなっちゃったから、代替えのエネルギー供給地の確保はすごく大事でしょうからね。」
「うん、そやけどシェールガスが取れるようになって、アメリカは中東に対して、以前よりガツガツしてない気もするけどな。シェールガスやらメタンハイドレートやら、代替えエネルギーが結構具体的になってきたから、これから徐々に、中東からは手を引くつもりかもしれへんな。アメリカはシェールガス革命とか言って、これからエネルギーを輸出するつもりで動いているらしいで。」
優子ちゃんはそれを聞いて、そうなんだ、と言ってから大きく伸びをした。そして、俺の腕を取って、おれの肩に頭をあずけた。甘く、乾いたいい匂いがした。優子ちゃんは俺の指を触りながら言った。
「わたし、疲れちゃった。本田くん、マッサージしてほしいな~」
「え、俺がするの?自慢じゃないが、下手やで~。」
「ふふ、いいから。」
いいか悪いかでなくて、俺も疲れとるんやけど・・・
東京の夜はまだ始まったばかりだが、市ヶ谷の駅から程近い防衛省の周辺は、それらの喧騒から無関係な場所だ。多くの人はただコートの襟を立てて無関心に通り過ぎる。
北風がまっすぐ通り抜ける広い敷地のなかにいくつもの建物が建つ防衛省の、その中心に位置する防衛省舎の会議室では、田父神防衛大臣ほか、陸海空自衛隊の長、防衛省の背広組などに加えて外務官僚などが集まり、差し迫った大きな問題に対して白熱した論議を展開している。
田父神防衛大臣は普段とはうって変わって、神経質そうな顔を見せて言った。
「私は、今回こそは先手を打つべきだと思う。今回のオペレーションに失敗した場合、日本国の損失はあまりにも大きい。竹島を中国に盗られた場合を想像してみてください。日本の未来の財産、日本海での制海、制空権、アメリカへの信用と、これから長期にわたるであろう日米同盟という軍事提携の価値、それらを一気に失うことになる。」
「しかし、先手を打って、万が一、中国が動かなかった場合には、わが国は火事場泥棒的に竹島を奪い返したとして、中国、統一朝鮮などの国際社会から叩かれるのは明らかですな。」
外務官僚の一人が言った。
「これだけ敵性国家であることがはっきりしている相手に、まだ好かれたいというのですか?」
田父神は言葉は静かだが、決然とした口調で言った。外務官僚もさすがに場違いな発言だったと思ったようだ。
「いいですか、まず我々がはっきりさせないといけない問題がある。経済の問題などとは違い、安全保障の問題ではどっちつかずという選択はまずできない、という事です。アメリカと中国は、事実上利害の対立する敵国同士です。大事なのは、わが国がどちらの陣営につくかをはっきりさせた上で、その立場に基づいた行動をとる、という事です。違いますかな?」
先ほどとは違う外務官僚が言った。
「おっしゃる通り、アメリカ軍の首脳が、竹島を日米共通の利益と位置づけたと言うのなら、我々はあらゆる手を使ってでもその目的を達成しなくてはいけませんね。われわれがヘタレて、日米の利益を損なうことは、アメリカの極東アジアへの関心を低下させて、わが国の安全保障も危険に晒す結果になりかねない。」
田父神は、顎を引き付けてうなづいた。
「そうです。我々は何時までも庇護者ではいられないのですよ。今までアメリカの傘の下で安心していましたが、それは今まで、何もなかったからできたことなのです。我々は今、初めて現実を突きつけられて、選択をしようとしています。そして一旦選択したならば、断固としてそれをやり抜く必要があるのです。それが国家の信用ということです。」
制服を着た初老の男が田父神のあとを引き取った。
「わかりました。つまり、戦火を交えることを恐れずに作戦計画を立てよう、というお話ですね。私はそれに賛成です。及び腰で作戦を立てるのは、現地の隊員を危険に晒すことにもなりますから。どうですかな、それが立場上、どうしても受け入れられない方はいらっしゃいますか?」
そう言って、初老の男は、一人ひとりと目を合わせて確認した。異論を言うものはいなかった。
「よろしい、それでは、具体的な作戦計画に移るとします。田父神防衛大臣、よろしいですな?」
田父神が、無論です、と答えると、竹島の地図と写真、周辺の海図、中国艦隊の位置、自衛隊の現戦力などがモニターに映し出された。
「田父神大臣、先手とおっしゃると、具体的にはどういう作戦が良いと思われますかな?」
「まず、現在竹島に在留している韓国人、これは民間人ということになっておりますが、現実には兵士と見てよいでしょう。彼らを日本に送還し、日本の法律、つまり入国管理法で逮捕します。具体的には、陸自の特殊部隊が夜間に上陸して彼らを確保の上、揚陸艇かヘリで連行します。
そして日本国旗を掲揚し、島に武器を搬入し、周辺に軍艦を配備します。中国戦艦が接近したら、わが国の領土領海から出るように警告します。これで中国側が強行に出た場合、自衛隊は空、海合同で、相手を殲滅してしまうことをも辞さない覚悟で戦闘し、中国軍を退けます。」
先ほどの初老の男が言った。
「問題は、中国軍の出方ですな。普通その状態からムキになって攻撃してくることはなさそうですが、何分相手は中国だ。何をしてくるかわかりませんぞ。こちらも十分な火力を用意するに越した事はありませんね。」
そこに秘書官から連絡が入った。
「これから、阿部総理がお見えになるそうです。」
田父神と初老の男は顔を見合わせた。初老の男が嬉しそうに言った。
「おお、それはそれは、話が早くていい。」
防衛省の会議により作戦が立案されてから6時間後、酒井裕樹は、厚いウエットスーツを着てゴムボートの上にいた。この小さな船で2時間以上も冬の夜の日本海を冷たいしぶきにさらされながら、手元のコンパスとGPSを頼りに渡って行く事は、あまり気持ちの良くない経験だった。
普段の作戦ならば、海上自衛隊のおおすみ型輸送艦に搭載可能な高速のエアクッション艇などを使うが、今回は夜間の隠密作戦ゆえ、10隻のゴムボートに、約100人の兵士が乗り、先鋒を切る。その後はヘリと揚陸艇が物資を運び込むことになっている。現在、竹島の周辺海域に韓国籍の船の姿は見られない。
酒井裕樹は、離島防衛・奪還やゲリラ戦をおもに訓練している西部方面普通科連隊(通称WAiR)の隊員だ。普段は長崎県の佐世保におり、対馬や五島列島などで訓練を繰り返している。彼は、その隊員たちの中でも身体も大きく、足も速い。いわば陸上自衛隊のフィジカルエリートだ。見た目はゴツい顔だが、笑うと人懐こい可愛らしさがにじみ出てしまう。隊員からはゴリのあだ名で愛されている。
そして彼の隣には、酒井剛徳がいる。剛徳は、身体こそ裕樹ほど大きくも強くもないが、その卓抜したスピードと身のこなしが特徴で、常に周りをあっといわせるような能力を持っている。ドイツとの混血で、地毛の色も茶色で、ハンサムな男と言って良いだろう。彼らは、チームからダブル酒井と呼ばれている。まだ若いのでバックアップを担当する事が多いのだが、いずれはWAiRの中心的なメンバーになるだろうと期待されている。
酒井裕樹と酒井剛徳は、陸自に入った年も同じで、配属もずっと同じ。どうやら近くにいるような縁があるようだ。非番の時には佐世保の町に一緒にくり出し、飲みに行ったり、一緒に行動することも多い。
剛徳は、出発前に行きつけの飲み屋のエリちゃんがくれたというカーキの軍服を着たフエルトのマスコットを見せて、裕樹に焼餅を妬かせようとした。しかし弘樹も同じものをもらっていたので、丈夫そうな歯を見せて笑いながらそれを剛徳に見せた。彼は情けないような、残念そうな顔をしていた。今はその剛徳も黒いウエットを着用し、黙りこくって前に広がる闇を見つめている。
ようやく暗い海を渡り終えて、星明りの中で目を凝らすと、竹島の女島のシルエットが視界の半分ほどにも大きく、真っ黒な姿を屹立させているさまがわかるようになった。彼らは予め決められた上陸地点に到着すると、すぐさまに行動を開始した。最初は体が凍えてか動きが悪かったものの、すぐに回復したようだ。
僅かな星明りの中、全員がすこしも迷うことなく次のアクションに移るさまは、良く訓練されているとともに、この作戦に対して密なブリーフィングが行われた証だろう。小さなカチャカチャという音と白い吐息だけを残して、100人もの男がスルスルと移動していくのは、異様な風景であった。
女島には、道らしいものは一本しかないが、その道の左側の真っ暗な崖を、酒井剛徳がスルスルと駆け上がったと思ったら、あっという間にロープを確保して、大勢が上がれるコースを作った。酒井裕樹はその反対側のサイドを、星明りを頼りに足場を確保しながら登っていく。そして、ほぼ全員がその島の小さな居住施設の周囲に集まった。中には少なくとも40人以上の人間がいるだろうと報告されていた。
大変な人数で包囲しているものの、外は驚くほど静かだ。風が通り過ぎる音がうるさく聞こえるほどだ。建物の中は、明かりが薄く漏れているところもあるが、動くものの気配は無い。
一人が火薬をセットした。全員が伏せ、あるいはしゃがんで、目を塞ぎ耳を押さえる。
「バン!」
案外軽い乾いた音で、カギが吹っ飛び、先鋒が飛び込んでいった。他の隊員も、声もなく飛び込む。音もなくダッシュし、ドアの脇で待機し、中に殺到する。隊員たちはブリーフィングで叩き込まれた見取り図を思い出し、居住区と通信室を制圧しに走った。後から酒井がサーチライトを持って駆け込み、明かりが確保された。
部屋には酒ビンが散乱している。食い物の残りが床にこぼれているのが見える。酒盛りでもやっていたのだろう。奥からは確保された男たちが次々と、言葉もなく連行されてきた。韓国語のできる隊員が、全員がいるかどうかを問いただしている。別の建物に一組だけ移住していた民間人の夫婦も、同時に突入した部隊によって無事確保できた。
どうやら、上陸作戦は一切抵抗も被害もなく終わったらしい。島の発電装置を動かし、建物の中が明るくなると、ようやく皆はほっとした表情で歯を見せた。こちらから突入した時点で、エアクッション艇がこちらに向っている。逮捕者はまもなく敦賀に運ばれることになるだろう。
酒井裕樹は、剛徳の姿を認めて嬉しそうに話しかけた。
「よう、韓国側が油断してくれていて良かったなあ。それにしてもゴートク、いい動きだったぜ。」
「うん、ゴリさんこそ、あのメッチャ重いサーチライトもって、良くあんなスピードで走れるねえ。バケモノだな。」
「まあ、俺の場合、頭がないからカラダで勝負、ってかあ?」
酒井裕樹は人の良さそうな顔で笑った。そのとき、遠くからヘリの音が聞こえてきた。
竹島には、韓国が作ったヘリポートが一つある。竹島の地形から見て、重火器を担ぎ上げる事は困難なため、今回はヘリが護衛艦と竹島を往復して、物資を運ぶことになっている。彼らにはこれから、この無防備な島を、大急ぎで何とか少しは防衛できるようにしていかねばならない。
「よし、ゴートク、物資が来たようだ。この島が中国に狙われるようになるのは、すぐだ。突貫工事を急ごう。」
ダブル酒井は、まだ暗い道を、ヘリポート目指して上って行った。建物の横に、日の丸の旗がはためいているのが見えた。ゴートクは、それを指差して裕樹に嬉しそうに笑いかけた。
イージス艦「あたご」をはじめとする第三護衛艦隊は今、夜明け前の暗い日本海を、日本の内水に近い進路で進んでいる。山口県あたりのまばらな明かりを右手に見ながら、竹島周辺海域を目指していた。
「作戦本部から連絡が入りました。陸自のWAiRが、竹島を奪還したそうです。」
宮地が、張りのある低い声で告げた。
「おしっ!やった~!」
永友が後ろから、座っている宮地の肩を掴んでガクガク振ってから、一度大きく飛び跳ね、こぶしを突き上げてガッツポーズをして見せた。そのあと、宮地の正面に行くと、指をピンと伸ばした両手をまっすぐに下げ、背中を伸ばしたままピョコンとお辞儀をした。突然のお辞儀に宮地もおかしなタイミングでお辞儀をして返した。
「領土問題がこれで一件、片付いちゃいましたよ!艦長!」
岡田は顔に浮いた脂を手のひらで擦り、笑いながら言った。
「おいおい、そんなに簡単にいかんやろ。明日には多分、中国の船が来る。いや、もう気づいているだろうから、そろそろ鉢合わせしないとも限らない。お前ら、油断するなよ。これから正念場だ。」
北朝鮮の侵攻の翌日午前に、はじめて韓国から発表があった。共同通信によると、本日午後、韓国政府、及び北朝鮮政府が合同で、正式な記者会見発表を行うらしい。いよいよ、統一朝鮮国の樹立になるのだろう。
日本政府は、在韓、在中日本人のために船やチャーター便を手配して、日本人を帰国させはじめている。民間人の保護を実践しはじめた、というわけだ。また、第三国の客船を手配して、日本にいる中国人や朝鮮人韓国人を帰国させること検討されているようだ。つまり戦争になる可能性を高く見積もっているという事だろう。
おれはこの判断は、今までの日本らしからぬ、歯切れのよいものだと感じた。今まで諸外国に対して、笑っていいのか怒っていいのか自分で判断がつかず、周りの顔色ばかりを見ていた日本だが、さすがに一連の暴挙を中韓が繰り広げるのを見て、いつまでも仏の顔では通用しないと悟ったのだろうか。
しかし、うちの社はこの判断を、自民党政府の大暴挙だとして、ヒステリックに騒ぎ立てることにしたようだ。おれはこんな騒ぎに加わりたくない。それに、どうせ川渕のおっさんも、こんな時に俺に書いて欲しくないに決まっている。
おれは青木氏の事務所に行くとホワイトボードに書き残して、社を出た。電話をすると青木氏は時間が余り無いと断ったうえで、会いたいから是非きてくれ、と言ってくれた。
「本田くん、この前はご苦労様でした。お陰で日本には対応する時間と、考える余裕ができました。これは日本にとって本当に大きな事です。これからどういうふうに対応するかは、阿部総理はじめ、政府の考えることですが、少なくとも考える余裕ができたことはとても大きい。」
「青木さんこそ、ご苦労様でした。在日米軍の長官に言われて、阿部総理や田父神防衛大臣も、腹が決まった様子が見えました。おれは本当にありがたかったので、こうしてお礼を言いに来たのです。」
「そうか、それは良かった。役に立てて嬉しいですよ。」
青木は本当に嬉しそうに顔をほころばせて、言った。
「青木さん、これから中国軍はどう出てくるでしょう。日本は竹島を守ることができるんでしょうか?田父神防衛大臣は竹島の防衛を約束してくれましたが、何も起こっていないようで、正直、落ち着かない変な気分です。」
「本田くん、物事にはタイミングというものがあります。今中国軍が竹島に侵攻するというのは、竹島が韓国の実質支配下にあるという事実から考えて、いささか無理があります。おそらく、統一朝鮮国家樹立後に、中国との軍事協力を表明した後に、中国は上陸、建物の建造など、実質支配のための具体的な手段を取ってくるはずです。」
「なるほど。ところで青木さん、もし、中国が竹島に上陸し、占有した場合、後から日本はそれを奪還できるでしょうか?」
青木氏は、顎をなでながら考えて、言った。
「難しいと言わざるを得ません。おそらく、中国海軍は韓国に駐留し、竹島の近辺は中国の軍艦がうろうろする様になってしまいます。中国はさっさと開発を開始するでしょうから、竹島の近海は完全に向こうの支配下になります。これを奪還するならば、全面戦争の覚悟が必要です。」
「はあ、やっぱりそうですか。では日本が竹島を奪い返した場合はどうですか?」
「当然、逆のことが起こります。おそらく海上自衛隊が制海権を取り、航空自衛隊、あるいは米軍のエアフォースが制空権を握って、中国を寄せ付けない体制ができると思います。」
「日本政府は武力を使っても、竹島を奪還すると思いますか?」
「わかりません。客観的に見れば相手の中国はすでに戦艦が領海侵犯を犯し、今はほぼ交戦状態なわけですが、日本は今までの戦争をとにかく避ける、という考え方から完全に脱却できていません。長い間の習い性ですから、簡単にそこから抜け出るのは、なかなか難しい。」
「そうですよね、ここは日本の防衛関係者に意識を変えてもらって、頑張ってもらうしかありませんね・・・・」
おれは、長谷川の生真面目な顔を思い出した。田父神の知性を純朴さが同居しているような顔も浮かんだ。きっと今頃、二人とも、ものすごい緊張感の中で頑張っているに違いない。
「私は、日本と中国は、この際戦火を交えたほうがいいのではないかとも思うんですよ。というより、相手はことを構える気満々です。放っておいたら、防衛線がどんどん日本に近くなってきて、危険が増すだけです。今、後手に回ると後の危険はどんどん大きくなります。」
青木氏は真面目な顔でそう言い出した。
「本田さん、中国は今、ものすごい勢いで軍拡しています。今のところ海軍力で日本が上回っているのは確かですが、あと2年もしたら、わからない。その時には中国は、すくなくとも軍備の面では同等になってしまうと思っています。
一方、中国共産党が持っている大きな問題は、国内の不満がとても高まっているということです。中国では、デモや暴動が日常的に起こっています。今、中国の治安維持に必要な費用は、軍事費を上回ってしまいました。これは相当に異様な数字です。共産党は末期的なんです。
僕は決して戦争を肯定するものではないのですが、それでもこの際、中国に対して日本は一戦を構え、中国軍を叩くべきではないかと思います。それが引き金となって、中国の国内問題が激化し、共産党が倒れる事もあり得ます。チベットやウイグルで民族浄化などという野蛮なことを推し進める中国共産党が崩壊すれば、世界は大きな脅威を取り除くことができますし、現実に迫害されている人々が沢山助かります。
それにすでに色々と侵害されている我が国の主権、というか利益。これらも取り返す機会ができると思います。尖閣近辺のガス田もそうです。あのあたりの油田、ガス田は世界第二位の産油国であるイラクと同等の埋蔵量があるのではないかと言われています。
日本は中国の主張に従い共同開発をしていますが、自国のEEZ内でも、独自の開発を行うことができません。しかし中国は、日本のEEZのすぐ横で、独自開発をはじめ、チューチュー石油を吸い上げています。この際、一旦敵国となってしまえば、いろいろと打つ手はありますからね。」
俺は青木氏の話を聞きながら、Youtubeで見た、チベットの僧侶の焼身自殺の映像を思い出した。抵抗することを潔しとせず、抗議のために自ら身体を焼き捨てた人たち。いったい、どれだけ苦しいんやろうか。
心臓も、脳も、皮膚が焼かれても、そう簡単に活動を止めることはできへんやろ。きっと永遠とも思える苦痛の中、安らかな死に抱き取ってもらうまでの間、あの人達はどんなことを考えるんやろ。
自分たちの置かれた境遇の理不尽さ、不条理を、焼身自殺という劇的な死を選びとることで、世界の人に訴えたかったチベットの人たちの気持ち。ベトナム領の南沙諸島で、ほとんど抵抗することもできないまま、中国軍に撃ち殺された人もいる。それを考えると、それだけでも、日本が中国と戦う理由があるやないか、そう思えた。
明るい日差しの中を、ゆったりと船は進む。こんな日の航海でなければ、長閑な日和だな。長谷川はなんだか不思議な気がした。これから命のやり取りをするかもしれない局面で、これほど清々しい気分になる自分を訝った。あれほど、自分たちの役割が虚構の上に立っているのではないかと疑った過去が、気がつくと遠いものになっていた。
先ほど、竹島の近海を通過した時には、大勢の陸自の連中が竹島を要塞化しようと頑張っている姿が見えた。どちらからともなく手を振り、振り返した。俺たちも頑張るから、おまえらも頼むぞ。みんなの心がそう言っていた。
そうだ、俺は戦うために、国から学資まで出してもらい、その後も平時であれば無駄な恩恵を授かり、生きてきた。自分が無駄飯食いじゃないかって、自嘲したくなるような時だって何度もあった。でも、ようやく俺たちがその結果を出す時が来たんだ。俺たちこそが、俺達だけが、愛する日本の国、愛すべき日本の人々、みんなを守ることができる。こんなすごい特権はない。軍人になってよかったじゃないか、長谷川誠。
そこに、キャプテン、ちょっといいすか?と問いながら、永友佑都が隣に立った。
「長谷川さん、俺、気がついたんすけど・・・実は俺は今、すごくシンプルになったんすよ。日本の国が好きで、日本の人たちが大好きだって、気がついたんです。そもそも、俺はひねくれ者なので、今まで本気でそんなこと思ったことなかったっすよ。
でも、こうやって確実に敵対する存在が現れた今、俺が守るべきなのが、日本の人たちでよかったって、心から思えるんす。いつだって、俺の周りの人達は、不良だったおれに愛想をつかすこともなく、根気よく接してくれた。俺は地元の人達含め、優しい日本人のために、この戦いを勝つと決めたんす。」
永友は真っ黒に日焼けした顔に、白い歯を見せて笑った。後ろから、それとなく聞いていた宮地が、席を離れ、近づいてきた。顔に似合わないでかい図体の宮地が、嬉しがっている大型犬のような顔で俺たちをまっすぐに見た。
「そうだな、俺もホントにそう思うよ、永友。」
長谷川は永友の背中を叩きながら言った。この愛すべき真面目な男たちを、俺より先に死なすことだけは絶対しないと、心に刻みながら。
イージス艦「あたご」は佐世保からの第二護衛隊と合流し、竹島近海を哨戒していた。佐世保の第二護衛隊は、あたご型護衛艦の「あしがら」を保有しており、こちらの火力は倍化している。
しかしながら、悠々と手に入れるつもりだった竹島を目の前で掻っ攫われた中国としては、どうにも腹の虫が収まらないに違いない。長谷川は全面戦争になるとは思っていなかったものの、果たしてどうなるのか・・・考えると下腹に重いものを感じるのだった。
俺たちは、社のテレビの前に集まって、歴史的な瞬間が来るのを待っていた。この問題は日本にとってシャレにならない影響を与えるのを誰もが承知していたからだ。テレビの中の雛段には、韓国大統領と金日恩が並んで座り、これから会見が始まる。
壇の上に座った大統領が緊張気味の顔で口火を切り、発表が始まった。通訳が英語で話す声が聞こえる。統一朝鮮国は、立憲君主制の資本主義国となるという事が発表され、テレビの向こうでは、どよめきと拍手が起こっている。が、テレビの前の田中は、うそつけ、人治国家に決まってるじゃねえかと呟いた。
そして、国名は朝鮮国とし、その国の君主として、金日恩が王となることが発表され、再び大きな拍手が起こった。しかし、その後が見ものだった。金日恩が、当たり前の建国の詔を述べた後に、いきなり議会の解散、総選挙を命じたのだ。旧韓国側の議員、大臣たちは一斉に大騒ぎを始めたが、おそらく国王の議会の解散権は、条項に盛り込まれていたのだろう。また背後には旧北朝鮮の所属らしき兵士が詰めていることもあってか、誰かの一喝で一気に静かになった。
金日恩は、総選挙は来月の10日に行われること、そのために報道機関はあらゆる協力をして、候補者の政見を国民に知らせること、北朝鮮での選挙投票のための準備を急速に推し進めることなどを命令し、最後に付け加えた。
朝鮮国は中国と安全保障条約を締結し、今後全面的な軍事協力関係を持つことになる・・・と。
いよいよ、きやがったな、と田中が歯を食いしばった怖い顔で言った。これで、こっちも竹島奪還の件の報道規制は終わりだ。忙しくなるぞ。
俺達の報道のベクトルは、突然に変わった。中朝連合対日米という構図がハッキリしてしまった以上、今までの中朝寄りの報道は不可能に思える。公の発表こそ無いが、日中の報道規制のことは一旦忘れて、俺達は事実を書きまくった。
おれは、心の隅で、昔ウチの会社が戦争を煽った経歴があることが気になった。今の俺達が書きたいように書いたら、結果として同じ事になりはしないか、そんな疑念が頭をよぎった。でも、とにかく今は事実を書き連ねて、正しい報道をするしかあるまい。そう考えてひたすらに書いた。
そして書きあがった自分の記事を見返して、何も知らない人が明日、この記事を見たら目を疑うに違いないと確信して、ため息がでた。昨日までとはすっかり立場が反転している。だが、それも仕方がない。今オレが書いているのが事実だとしたら、今まで書いていたものは、赤が白に見える色眼鏡をかけて書いていたからだ。
とはいえ、まだまだ会社の上層部は戦争反対、自衛隊の暴走という切り口で行きたがるのだろうか。ちょっと信じられないが、ありそうな話でもある。自分が混乱しているのを感じたので、俺は優子ちゃんに電話してみた。当然忙しいから、返事が来るのに1時間ほどかかった。
「あ、本田くん?どう?」
「今までと立場が180度かわってしもうた気がするのや。本当にこれでいいのかと、なんか心配になって、優子ちゃんに電話してみた。」
「やっぱり・・・あたしもそう。スタッフ皆が妙にノリノリになっているのだけど、このまんまだと、第二次大戦に誘導したマスコミと同じ役割をやりそうで、怖いのよ。」
「優子ちゃんもか。俺は中立という立場の難しさを痛感したわ。いままで、左よりだから思考停止していても書けたのやけど、バランスを上手く取ろうと思ったら、ものすごく多岐の分野の情報と、冷静な分析が必要や。いままで俺たちマスコミが情報を遮断していたこともあるのやろうけど、判断に足りる情報が世の中に転がってへん。」
奥間優子は、深い溜息をついて言った。
「同感よ。あたしたち、世界一賢い日本人を、馬鹿な人達にしてしまうために、今まで日夜頑張ってきたんだって思ったわ。ひな壇芸人やオカマちゃんの日常、食べ物屋さんの情報と韓流。こんな時に、だれか助けて、って思うような時に、皆の頭の中はわたしらのせいで空っぽ。もう、もどかしさと申し訳無さで、服脱ぎたくなっちゃうわよ。」
俺は思わず笑っていった。
「おいおい、それ、やめとき。放送コード引っかかって二度とテレビ出れへんようになるで。まあ、優子ちゃんは余計に人気でるやろうけどな。」
「あら、そうかな?じゃあ、試してみようかな。」
「あほ。」
「あはは、そうね。ありがとう、すこし落ち着いたわ。」
「俺達はその程度の話で済むけど、長谷川さんたちは今、竹島で敵艦と対峙してるんやで、あの人達の価値観の狭間での葛藤は、俺達どころではないやろな。」
「うん、本当にそう。トモコも泣きそうな顔しとったわ。無事だといいんだけど・・・」
「まあ、あの人たちのことやから、きっと最善の選択をして帰ってきてくれるやろ。逆に言うと、俺たちは彼らの判断を大事にして、守ってやらなあかんのかもな。」
「うん・・・でも、それも今は、正しいのか正しくないのか、わたしにはよくわからないのよ。」
「せやな、ちょっと慣れるまで仕方ない。時間が経てば、いろいろな方向からの情報も出て来て、いろいろ考えられるかもしれへん。」
「そうね。」
「そうや。」
「本田くん、今晩は、遅くなると思うから申し訳ないんだけど、良かったらうちに来てくれない?」
「せやな。俺も明日早いかも知れへんから、沢山飲んだりはでけへんけど、優子ちゃんと一緒にいたいわ。」
「ありがとう。じゃあ、帰れそうな時間分かったら電話かメールするね。もし時間があるようなら、おうちに帰って、服持って来たらいいじゃない。」
「せやな、そうさせてもらうわ。じゃあ、あとで。」
「うん、本田くん、私、落ち着いたよ。ありがとう。」
「あ、そう言われたら俺もや。こっちこそ、ありがとうな。」
「ふふ・・・」
「どしたん?」
「本田くんがいて良かった、って思ったよ。」
「また、いきなりそんなこと言うんやから。」
「だって、ほんとやし。」
「そか、じゃ、あとでな。」
「うん、あとでね。時間の目処が付いたら、電話するね。」
朝鮮国の会見が始まる前には、すでに中国海軍と海上自衛隊は、竹島の近海で対峙する形になっていた。竹島を中心に囲い込むように、海上自衛隊の艦隊は位置していた。3隻は竹島を背にして中国軍に対面し、左右には2隻ずつの艦が展開し、中国の艦に回り込まれないようにし、1隻は竹島の後方にいる。長谷川の乗艦しているイージス艦「あたご」はサッカーならばスリートップの右側だ。
「これは、統一朝鮮が中国と安全保障条約を締結したと言ったら、すぐに開戦になってしまいそうだな。こっちを本気にさせないでくれよ、俺たち日本人は、少し前までの日和見とは違うんだぞ・・・」
そう言って、岡田はレーダーを見た。敵の艦隊は15隻、こちらは8隻。数の上では不利だが、火力ではおそらく、こちらがはるかに上だ。2隻のイージス艦だけでも、相手の8隻を一気に沈めることすらできるかもしれない。その他にも、2隻がパトリオットを艦載している。その気になれば殲滅できる。
当然のことだが、こちらの状況は防衛省の作戦本部も十分理解している。その上で阿部総理と田父神防衛大臣は、先制攻撃は禁じるが、中国艦が発砲した場合、こちらも全面的に反撃するように、という指令を出した。
こちらに危険が迫る場合、相手の艦を沈めることにも躊躇するべきではない、むしろその場合には積極的に相手の戦力を削ぐように言われている。これはつまり、今後この紛争が長期化した場合に、相手の艦を減らしておくことが士気をくじくことになるので当然のことであるが、同時に日本が徹底的に抗戦する意思を固めたという証左だ。
そして先程から中国戦艦に対し、再三、相手がこちらの領海内に不法侵入していることは呼びかけており、退去しない場合武力に訴えると警告している。しかし、彼らはそれに応える気は全く無いだろう。逆に、朝鮮国が声明を発表した時点で、同盟国の領土保全と称してこちらに攻撃を仕掛けて来る可能性が高い。
その場合、最も心配なのは島に上陸している陸自の部隊だ。作戦の時間が短く、また竹島が裸の岩山のようなものだけに、まだ要塞化がちっとも進んでいない。彼らは岩山に裸で張り付いているに等しい状態で、まともに中国艦隊の火器にさらされたらひとたまりも無い。
この件に関しては、海上自衛隊は竹島に陸自がいないほうが作戦の自由度が高いために、陸自の撤収を主張したが、戦局がどう展開するかも不明なため、実効支配を早期に強めることが重要という陸自の意見が採られ、今も突貫工事をすすめている最中だ。
竹島の諸島のなかでは男島のほうが標高が高く、そちらから見ると女島は男島の陰になる。日本の艦隊は、女島にいる陸上自衛隊の部隊を援護するために、男島を背にしてそういう陣形をとっていた。中国の軍艦に反対に回りこまれたら、極めて危険な状態になってしまうからだ。
「艦長、統一朝鮮国の会見報道が始まります。」
宮地が良く通る声で言った。
「よし、全艦隊、戦闘準備。」
「全艦隊、戦闘準備!」
岡田の命令に、宮地が復唱し、それを全艦に知らせた。
艦上の者は皆、固唾を呑んで、のろのろとした時間の経過の中に入った。全員が緊張し、見守り、そして自らの思考の中に沈んでは戻ってくることを繰り返した。そのなかで、朝鮮の記者会見の様子もモニターに映しだされている。
現代の海戦では、通常はるかに遠距離で攻撃が始まる事を想定されている。今の兵器は射程が数百キロあるため、相手を目視してから攻撃を始めるような事態は稀と言ってよい。しかし、今のケースは竹島を囲んで、しかも宣戦布告がなされていない状況のため、すでに相手に懐深く食い込まれてしまっている。
武器の精度や策敵能力の高い海上自衛隊としては当然、よりアウトレンジの戦いのほうが有利であり、中国海軍は逆に、接近戦ではその不利が少なくなる傾向がある。そんな中で、足を止めてインファイトの殴り合いのような戦闘開始を待つ身には、落ち着けといわれてもなかなか難しい。つい先ほど、すがすがしいと思った自分の甘さを哂いたくなる。
長谷川は落ち着くために水を飲みたい、と思ったその時、作戦本部より入電があった。
「朝鮮国樹立が宣言され、安全保障上、朝鮮国が中国軍の傘下に入った。中国軍は現在、朝鮮国の領土である独島を占領している日本を非難し、領海からの退出を主張している。日本はこれを無視することに決定した。いつ戦緒が開かれてもおかしくない状況だ。くれぐれも注意されたし。」
長谷川はそれを聞いて、一瞬自分が狼狽しそうになった。頭の上からミサイルがふって来るような気がして、足元がぐにゃっとしたような感覚があった。敵艦は近い。大丈夫なのか?慌てて周囲を見回すと、岡田と目が合った。岡田は落ち着いた顔でこちらを見返すと、ちいさく頷いた。
長谷川は、岡田のいつもと同じ深さをたたえたその目を見て安堵を覚えた。そして自分の手のひらを見て、「日本は必ず俺たちが守る」と小さく呟き、その言葉を握りつぶした。さっきまでのうすら寒い感覚は、まるで憑き物が落ちたように消え去り、今度は興奮が足元から全身を登り、武者震いで震えるのを覚えた。
「中国艦隊が5隻、右舷方向に展開して行きます。」
砲術長の永友が言った。
「よし、面舵30度、微速前進。」
岡田の掛け声とともに、船は中国艦の動き始めた方角に舳先を向け始めた。
「面舵30度、よーそろー」
「あたご」は中国艦の進行方向に向っていく、3トップの形は崩れ、今はタッチライン沿いを敵のゴールライン近くまで切り込む役割になっている。右のウイングに展開した「まきなみ」「すずなみ」と共に、相手の進路をブロックしようと動く。と、そのとき、敵艦影から、煙が上がるのが見えた。
「砲撃!敵フリゲートの機銃が銃撃を始めました!」
という声に重なるように、とどろくような砲声が響いた。岡田が叫んだ。
「ファランクス迎撃せよ!」
「ファランクス、迎撃します。」
永友は復唱すると、ファランクスシステムを起動させた。ファランクスは米国のシステムだが、一般的にはCIWS(Close in Weapon System)と呼ばれ、艦船を目標とするミサイルなどを至近距離で、迎撃する個艦防御システムだ。自動制御で、タングステンの弾を高速でばら撒き、敵の砲弾などを破壊、迎撃する。
通常の戦闘ではこの前に2段くらいの防御システムがあるのだが、今回は、はなからこの最終的迎撃兵器に頼らざるを得ない。もしもCIWSを潜り抜けてきた砲弾があれば、こちらは被弾するはめになる。
ファランクスはものすごい音と共に、銃弾をまき散らし始め、敵の砲弾を砕いていく。
「永友、敵の砲を破壊しろ。」
「了解。Mk45光学照準システム用意。敵艦隊の主砲、ミサイルボットを狙え」
永友は復唱が帰ってきたのを確認すると、独特の言い回しで告げた。
「うちぃかたはじめ!」
こちらの主砲が的確に相手の武器に被害を与えているのがわかる。着弾して爆発する砲座もあり、相手の攻撃が緩んだのが実感としてわかった。
イージス艦は、防空に優れた艦というだけではなく、多くの情報機器とリンクした総合作戦司令室でもある。各艦の攻撃対象や敵味方の援軍などの情報もまとめて提示され、それに対して合理的な防御策なども半ば自動的に判断し、味方の艦に伝える事もできる。
「艦長!敵艦隊の中心からミサイルが発射されました。その数8機です!」
「ESSM迎撃用意」
「ESSM迎撃準備よし。」
永友が真剣な顔で応えた。この男はこの状況に興奮しているのか、上気した顔をしている。岡田が冷静な顔を変えずに言った。
「ESSMうちぃかたはじめ!」
ESSMは艦艇に搭載されているMk99イルミネーター(射撃指揮装置)からのレーダー波照射によるセミアクティブ・レーダー・ホーミング・ミサイルで、比較的近距離にも対応できる。あたごに搭載するイルミネーターからは、同時に12機のESSMを発射することができる。
あたごの前後甲板に設置されたイルミネーターから、ハリネズミのように12機のESSMが発射された。それぞれが生き物のように白い尾を引いてのたくり、宙に放たれ疾走する危険なミサイルを迎えに行く。その間にも、右翼に展開した中国戦艦5隻は、主砲の砲弾で弾幕をはりながら、竹島に向って回り込もうとしている。
その時、金属がぶつかり合うような物凄い衝撃が走り、船が大きく振動した。艦橋の乗組員たちも、足元をすくわれ、吹っ飛んだ。長谷川が急いで艦内のディスプレイをチェックする。どうやら右舷後方に被弾したようだ。
「被弾!右舷後方喫水線上部。直ちにチェックしろ。怪我人はないか。」
岡田がさすがに慌てたような素振りで、怒鳴った。
「栗原機関士ほか3名が怪我。軽傷です。機関には異常なく、航行可能です。また、航空自衛隊のF15Jはあと7分程度でこちらに到着予定です。」
「わかった。補修班は修理を急げ。」
岡田はほっとした表情を見せた。
「艦長、中国戦艦が竹島の裏側に回りこみます!」
「いかん、食いとめるぞ!!」
ダブル酒井は、タコツボと言えるかどうかもわからないような、浅い塹壕の底に伏せている。酒井宏樹が頭を上げて回りを見廻して言った。中国艦隊からは、時折轟音とともに、地を揺るがす砲弾が飛来している。
「おいこら、参ったな。すっかり始まっちゃったぞ。手も足も出ない。」
「おい、ゴリさん、頭出すなよ、ふっ飛ばされるぞ」
ゴートクが宏樹の頭を抑えて言った。
「それにしても、海自の連中逃げ出したりしないだろうな、こっち側から狙われたら、俺達はみんなお陀仏だぞ。」
「大丈夫さ、あいつらの手を降った姿を見ただろ。あいつらは俺達を心の底から信用していた。言葉こそ交わせなかったけど、俺には聞こえたんだよ、頑張ってくれ、そっちは任せたぞ。こっちは俺達に任せてくれ・・・ってね。」
「そうか、おまえがそう言うならそうなんだろう。おれはそういうのはからきしダメだが、お前のそういうところは信用してるからなあ。」
「うん、信用してくれていいよ。俺はね、子供の時からそういう勘は異常にいいんだぜ。ときどき死んだばあちゃんが色々教えに来てくれたりもするしな。」
「ほんとかよ、そりゃ心強いなあ。」
と、そのとき、酒井たちが張り付いている山の脇から突然に、巨大な中国戦艦の艦橋が現われた。酒井たちはその馬鹿馬鹿しいほどの大きさに、あっけにとられた。船は島のすぐ脇に来てしまっていた。
「うわわわ・・・・!!」
酒井たちは遮蔽物のほとんどない岩山を、船の反対側に回り込もうと走った。
今にも砲弾が自分たちを襲う可能性が高いなか、急な斜面を真横に走るのは難儀だった。
「退避!退避!山の反対側に回り込め!」
誰かの叫ぶ声が聞こえる。酒井裕樹は景色がコマ送りになる緊張感のなかを、必死に走り、飛んだ。しかし、相手の砲はあまりにも至近距離だった。ドン!という音と共に、彼らは衝撃と煙の中に包まれた。
「竹島の陸自が中国艦の砲撃を受けています!」
宮地が怒りをあらわにしながら怒鳴った。
「艦長、このままでは島の陸自部隊は全滅します、攻撃しましょう!」
長谷川は岡田を見つめて言った。岡田は一瞬視線を上げて考えたが、長谷川の目を見返していった。
「よし。全艦隊に連絡。こちら、あたごの岡田だ。ただいまより我が艦は、竹島を急襲している中国艦隊に対して、SSM1Bで攻撃する。中国籍他艦に対しても同様に攻撃を行うよう艦隊に要請する。」
「こちら第二護衛隊、旗艦くらまの加茂。岡田艦長、了解した。こちらもこれより、中央と左翼に展開した中国艦をミサイル攻撃する。」
「SSM1B発射用意!」
岡田は真っ直ぐ前を向いて、命令を下した。永友が復唱する。
「SSM1B、うちぃかたはじめ!」
永友は同じ節回しで復唱すると、赤いスイッチを押した。
艦前方甲板に配置されたMk41ミサイル垂直発射システムから、5機のミサイルが発射され、竹島の方角へと低い弾道で進んでいく。その次の瞬間、海上自衛隊の艦隊からミサイルが乱れ飛び、中国艦に襲い掛かった。
日本海は一瞬で、形容しがたい轟音と黒煙に包まれた修羅場と化した。火薬の炸裂する音、金属が崩落する衝撃音・・・・煙は広く海上を覆い、しばらくは肉眼での見通しが効かなくなった。ひとしきりそれらの音が鳴り響いた後、永友は落ち着いて確認し、報告をした。
「あたごから発射されたSSM1Bは全弾命中。」
岡田は揚陸艦に対して竹島に上陸の上陸自隊員の救助を命じ、あたごには、竹島に向かわせた。
「救護船は中国軍人の保護にあたれ。捕虜の反撃には十分注意をし、警備に人数をかけろ。」
竹島の周辺海域では、すでに2隻が沈み、2隻が今まさに沈没の最中であった。海には大きな渦ができ、油が浮き、人が浮いている。あたごからありったけの救命ボートを投下すると、生き残りの中国艦一隻が、斜めにかしいだ後ろ姿で、海域を離れるところだった。
巨大な水煙の中、明るい海に、大きな音を立てて屹立する、半分に折れた船。救命ボートの上の中国兵が下半身のない死体をボートに引っ張り上げている。多くの人間が、造作物が、いま海の藻屑になろうとしている。空自のF15Jがはるか遠くを旋回するのを視界のすみに認めながら、長谷川はまるで現実感の欠落したシュールな絵のような、悲惨な光景を、呆然と見ていた。
海上自衛隊の船は数隻が被弾していたが沈没などの被害はなく、怪我人も軽傷者ばかりだったが、竹島に上陸していた陸自の被害は大きかった。100名余の上陸者のうち、20名が死亡、27人が重軽傷を負うという悲惨なものだった。
とはいえ、中国海軍に与えた被害ははるかに大きく、戦艦9隻が沈没した。中国の誇る新鋭艦は、西側からは偽イージスと揶揄されてはいるものの侮りがたい船ではあったが、それらは居合わせた3隻全部を沈めることができた。逃げ帰った艦はむしろ旧式のものばかりで、これからの中国軍の海上の進攻作戦に大きな支障となる傷を与えたといって良い。
長谷川は「あたご」の艦橋からそれらを見やっていたが、急速に体からアドレナリンが引いていってしまったのか、どうにもならないような倦怠感と心細さを覚えた。あれは、俺たちがやったんだ。国のためにとはいえ、たとえ、彼らが兵士であるとはいえ、人を殺したことには何も違いはない。
今、ゴムボートで救助を待つ中国兵たちは、心からの日本に対する恨みを覚えているに違いない。戦争は、憎しみの連鎖しか作り出せない。しかし、戦場での一番残酷な現実は、殺さなければ殺される、という事だ。長谷川は深い闇を覗き込んだような気がして胴震いを覚え、思わず窓枠に両手をかけたまま、しゃがみこんだ。
「おい、大丈夫か、しっかりしろ!」
体をゆすられて、酒井裕樹は気がついた。さっきまでの轟音が嘘のように静かになっている。左の耳は耳鳴りがして、男の声が聞き取れない。鼓膜をやられたか。身体をざっと見回すと、アースカラーの迷彩服が切れ、肩とひざから血がでているのが見えた。痛みは感じないが、軽傷なのかどうかはよくわからない。起き上がると、髪の毛の中から大量の土砂が出てきて、思わず目をつぶった。
「おい、他の連中はどうなったんだ!?ゴートクは?」
「まだわからん、とりあえず生存者をピックアップしている。」
酒井はその言葉を不思議な気持ちで聞いた。生存者?ってことは、大勢死んだのか?
「おい、うそだろ、大勢死んだのか?」
そう言って立ち上がった時に、酒井の視野に飛び込んできたのは、迷彩色のボロキレのようになったさっきまでの友人だった。血の流れたところには土砂がこびりついている。随分汚くなってしまうんだな、とぼんやりと考え、酒井はよろよろと近づいていくと、しゃがみこんだ。
「おい、ゴートク、お前のばあちゃんは教えてくれなかったのかよ、うそだろ!」
酒井は、うそだろ、うそだろ、とつぶやき、手のひらで、まだ温かい友人の頬をさすった。ポケットからフエルトでできた兵士のマスコットが覗いた。それは少しも汚れておらず、きれいなままだ。そのとき、運ばれてきた担架に乗るように命じられたため、酒井宏樹は友を弔う余裕さえもらえないまま、移送された。
担架に乗せられ、毛布を掛けられた酒井は、突然身体の震えが止まらなくなった。おい、落ち着けよ、酒井裕樹。自分に言い聞かせるが、どうにもならない。歯の根が合わない。こんな姿を他の隊員には見せられないな、とぼんやり思った。ゴートクは死んだのか、そう考えてみても、少しも実感が湧かないままだった。
「おい、本田!自衛隊が竹島を奪還して中国海軍を退けたらしいぞ!」
「え?本当ですか!まじですか!?」
「ああ、中国戦艦を沈めたらしいがな・・・」
「!」
おれは田中と一緒にテレビの前にすっ飛んで行った。テレビでは偶然、優子ちゃんが臨時ニュースを読みあげているところだった。
「繰り返し、臨時ニュースをお知らせします。今日午後、朝鮮国の樹立にともない、中国軍が竹島に進攻してきました。
これに先駆け自衛隊は今日未明、竹島を不法占拠していた韓国人52名を入国管理法違反の疑いで逮捕していました。
中国海軍の進攻により竹島周辺海域では船舶による戦闘が行われ、日本はイージス艦3隻を含む戦艦9隻を沈め、残りの中国艦を退却させました。
この戦闘により、陸上自衛隊佐世保基地に所属する特殊部隊兵士20名が死亡、27人が重軽傷を追ったほか、海上自衛隊の艦搭乗員にも若干の怪我人が出た模様です。
また、この戦闘について中国、朝鮮両政府からは強く抗議が寄せられています。」
おれは、奥間優子の口から具体的な結果が述べられるのを目にして、はじめて現実に戻った気がした。
なんてことや。これで、日本は戦争に踏み出してしまった。平和ボケした日本と、古臭い帝国主義を維持したいびつな国家、中国。両国はこれから、長いこと戦うことになるかもしれへん。一体、どうやったら終わるんやろ・・・おれは気分がひどく落ち込むのを感じた。
(次巻へ続く)
このたびは、私の拙い本をお買い求めいただき、ありがとうございます。また、ここまで読み進んでいただいた方は、最後まで目を通していただいたということです。本当に、本当に感謝の念にたえません。
実は、私は株式会社アプレックという会社で、古本の買取や販売、アマゾンへの委託販売などをしたりしています。また、アマゾンで販売している人達のために出品代行サービスや、価格改定などのアプリケーションを作ったりしています。ですから今まで、本や、アマゾンには近い所にはいたものの、文章を書くという事は、私にとっては畑違いなわけです。
そもそも私自身は、変わり身の早さというか、企画、展開力はあるほうだと思うのですが、どうも肝心の商才のほうはそれほどでもないようで(笑)、本業で、なかなか儲けられません。そんなときにKDP(Kindle Direct Publishing)が開始された事に仰天して、自分もなんとか、コンテンツを発信する側に回るぞ、と決心しました。
また、文章を書くのは好きで、以前よりあちこちのブログなどには創作を発表していました。そして、「10年後に作家作家になる。」という事は以前から周囲に言っていた事でもあるのです。まあ、これは言わないと実現しないだろうから言っていた、という意味合いが大きいのですけれど・・・。
とにかく、この機会に真剣にやってみるか!と動き始めました。が、当然のこととして、無名の作家の小説なぞ、そうそう簡単に売れるものではありません。それでも、これからしぶとく頑張って、いずれは少々名前を売って、全部の商売も含めて好転させてやりたい、そのような野望を持っております。
ちょっと私の著作のご案内なぞをさせてください。
「向日葵」は僕の処女作と言っても良い短編です。海辺の街のあるカップルの、愛情と性と別れを、夏というシーズンを絡めて描きました。長編とはかなり違う情緒的な文章で、ぼくの持ち味は、どちらかというとこっちだと、自分では思っています。この話はセックスのシーンがあるのですが、それをアマゾンに申告したら、アダルト商品になってしまいました。(笑)
「5つの夏」はブログなどに発表していた短文の中から、夏をテーマにした5編のショートストーリーをあつめてみました。いずれも、シーンを切り取るような、僕の文章の原点です。
「いちばん簡単なKindle本の作り方」は、上記3冊をアマゾンで発表する上で、現状これが一番簡単だ!と自信を持っておすすめできる方法を解説しました。これからいろいろ、環境も整ってくるとは思いますが、当面は間違いないと思っています。ご自分で電子図書を出版してみたい方には、参考にしていただけるかと思います。
また、古本の仕事なのですが、会員制アマゾン委託販売、ウルルというサービスをやっています。古本やCD,DVDを送っていただいたら、弊社がアマゾンで販売し、一定の割合を還元するのですが、紹介制になっており、紹介者にも配分されるような仕組みです。
アフィリエイトなども簡単に作れる仕組みがある上、法人、団体でもアカウントが作成できますから、バザーの変わりに使って、町内会にお金がいくようにするとか、NPO法人で募金の代わりに使うなどで大活躍するサービスです。覚えておいていただけるとありがたいです。
上の文章を書きながら思ったのですが、私はどうやら、誰もやっていないアイディアを仕事にするのが好きで、変な仕事を作ってばかりいるので、認知されにくいのかもしれないですね・・・まあ、それでも6年近くなんとか生きてこれたし、いいか(笑)
またしても、いろいろ宣伝をしてしまいました。すみません。ところで、個人的に私はギターが好きで、ブルース系ロックギタリストです。多摩センターの「コルコバード」という緩~いライブハウスに良く出没しています。好きな人は是非、遊びに来てください。
本を通じて、多くの人に出会ったりもできるようになるのではないか、そんなことを楽しみにしつつ。
このたびはお読みいただいて、本当にありがとうございました。
2013年1月 石高 都桜
2012年12月15日 発行 初版
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