文庫版まえがき

　はじめましての方もそうでない方もこんばんは（今、夜なので）。作家・編集者のバーバラ・アスカです。
　このコラム集は、「ミリタリーが専門でない物書きがふと思いついたミリタリーに関わること」をちまちま文章にしてまとめたものです。
　特徴は、「戦艦大和とか零戦とか、堅いものは全然出てこない」ということです。
　もうひとつ、「ミリタリーについてよく知らず、人に聞いてばかりの初心者が書いているので、当然、初心者にもわかりやすい」ということです。まあ、本文にも書きましたが、私もミリタリー書籍を編集しはじめて結構経ってしまったので、そろそろ「アイアム初心者」とは言いにくくなってきましたが、ココロはまだ処女でございます。
　ミリタリーの世界は大変奥深く、兵器とか戦略とか開発とか以外にも、たくさんの事柄が関わっています。人がうじゃうじゃ毎日一緒に暮らしているわけですから、まあ、日常生活に関わる事柄はみんな「ミリタリーの世界」にもあると言っていいわけで。

　「軍事」というとえらく国家的規模なナニのように感じられますが、まあ、このコラムのように身近な、ほのぼのしたアレもありますよ、ということで、お気軽にお楽しみいただけると幸いです。

バーバラ・アスカ

目次

文庫版まえがき


おもしろミリタリー宣言！

一次資料を読む楽しみ

古本市めぐりの魔の手

続・古本市めぐりの魔の手

自衛隊と海軍

佐渡島にて戦争を考える

文献紹介『敵軍戦法早わかり（米軍の上陸作戦）』

イベントレポート「東立川駐屯地夏祭り」

イベントレポート「防衛省・市ヶ谷駐屯地夏祭り」

おもしろミリタリー宣言！

わかりやすくておもしろいミリタリーがあってもいいじゃないか
　

　ミリタリーはおもしろい、と思う。
　戦争とか国防とかいった類いのことは、国や団体がかなりのカネと時間と労力をつぎ込む事柄である。
　ミリタリーの分野はでっかい兵器、ちいさい兵器から、戦略のようなソフト分野、さらには食べもの、被服まで多岐にわたる。ミリタリーイベントで売られているものを見ると、「本当に、ミリタリーというものはいろんな分野があるんだなあ」と思ってしまう。
　ただ、その入口が難しいというか、敷居が高いのも事実。ミリタリーについて前知識も予備知識もない人は、なかなか入ってこられないのである。
　以前から感じていたのは、「ミリタリーは、濃いマニア向けの商品が多い」ということ。はっきり言えば、「入門書が非常に少ない」のだ。
　その理由は、いろいろ考えられる。「ミリタリーファンは、初心者よりもマニアのほうが多いと思われていること」「ミリタリー書籍は部数をあまり刷ることができないので、マニア向けの高額商品にせざるを得ないこと」「ミリタリー書籍は過去にたくさん出ているので、新しい内容を考えると、マニア向けの、知られていない情報を掲載した本になってしまうこと」等々。

　私は、わかりやすくておもしろいミリタリー書籍やミリタリー情報がもっとあってもいいと思う。いや、なくてはおかしいのだ。
　そもそも、同じ本があってはいけない、という発想自体がおかしい。
　これはもちろん「内容がまったく同じコピーで良い」ということではなく、ある例えば兵器についての本であれば、難しいマニア向けの本があってもいいし、それを小学生でもわかるように解説した本があってもいい、ということである。
　今は、前者のマニア向けばかりで、後者がまったくお留守になっている。
　なぜ、こんなことを言い出すのかというと、私自身が、まったくのミリタリー初心者だからだ。
　最近では『零戦の操縦』『戦艦大和３０００人の仕事』を企画、編集し、『自分でつくる　うまい！　海軍めし』などを書いているので、そろそろ大声で「私は初心者です」と言いにくくなってきてはいるが、まだまだミリタリーマニアの入口にも立てない初心者であることは間違いない。
　私が、ミリタリーについての本を出したり企画を立てられたりしたのは、たまたま、身近に教えたがりのミリタリーマニアがわんさかいて、その「よき師」に親切にいろいろ教えていただいたからである。
　それでわかったこと。
　「マニアには、初心者の気持ちはわからない」ということ。
　それと、もうひとつ。
　「初心者がおもしろいものは、マニアにもおもしろい」。
　なるほど、今でも古書市場で子ども向けの百科シリーズが人気あるのもうなづける。

　そういうわけで、この『ミリタリーのコネタ』シリーズでは、（２０１２年１２月現在）初心者である私、バーバラ・アスカが書いた「わかりやすくておもしろいミリタリー」のお話をお届けします。
　情報を掲載するときはできる限り原典にあたって、正確さを心がけようと思っておりますが、解釈は基本的に「オレ流」です。その解釈が正しい正しくない濃い薄いは二の次で、とにかく目指すものは「おもしろいミリタリー話」です。
　それと、「私が興味ある、おもしろいと思うミリタリーネタ」。自分が楽しくなくちゃ、読む人もおもしろいと思えないはずだからね。
　もし、これから話すお話に「アレ？」と疑問が生まれたり、異論があったりしたら、ご自分で調べるなり、発表するなりしていただければいいと思います。個人で零戦や戦艦大和を所有している方ならともかく、結局はみんな資料でしか知ることができないもの。その資料が正しいか正しくないかは確かめようがないし、本当は、何が正しくて何が間違っているのかは、誰にもわからないかもしれないのです。

　というわけで、この『ミリタリーのコネタ』シリーズでは、身近でおもしろなミリタリー駄話だばなしを展開していこうと思います。乞うご期待！

一次資料を読む楽しみ

　一次資料を読むのは楽しい。
　紙も古いし、ぼろぼろなものもあるし、何より文字が旧字で読みにくい。手書きのものはさらに読みにくい。しかし、それを苦労して読んだあとは充実感がある。
　なにより、「私はいま、歴史に直接触れている！」感覚がたまらない。
　また、いわゆる「新資料」を探すのも楽しい。私はここ一年ばかりで一次資料を読み始めた初心者であるが、その浅い経験から言わせていただくと、「世界の歴史をゆるがすほどの新資料」とまでいかなくとも、単に「今まで知られていなかった内容の資料」という程度のものであれば、コツコツ読んでいると結構見つかるものである。それを大々的に発表するも、自分だけの胸にしまっておくのも、どちらでもいいだろう。「世界の知識に貢献せねば！」という義務はない。貢献したければすればいいし、死蔵するならそれもいい。当人が楽しければいいと思う。
　探し方は人によっていろいろであるが、私の場合は防衛研究所図書室のコンピューター端末で、分類項目を見ていき、「これはおもしろそうだ」と思った項目を上から順に探していく。そして、ひとつでも良さそうな資料が見つかったら、その関連項目を探す。この繰り返しであるが、当たりの鉱脈が見つかったときはすごくうれしい。次々におもしろい資料が見つかるからだ。
　はっきりいってかなり地味な作業だが、それがなぜか楽しいのである。透明のプチプチをひとつひとつつぶすのが楽しいことと似ている。
　一次資料を読む楽しみは、宝探しと同時に、推理ゲームでもある。「こういう資料があるんだから、ああいう資料がきっとどこかにあるだろう」と思って探してみると、ある。「こういう元素があるんだから、ああいう元素もあるだろう」と考える科学者にも似ている。資料探しに仮説を立てて、それが当たったときの喜びたるや。
　もちろん、資料を探し当てただけではまだ何も始まってはおらず、単なるコレクターと変わらないのだが、「資料を見つけて嬉しい」というごほうびくらいあってもいいではないか。それを使って本を書くことは、とても根気のいることなのだから。

　きっと、これまでの歴史家も、こんな作業をしてきたんだろうな、と思うと、古い資料を探すのが一段と楽しく感じる。