spine
jacket

ゆめの国に落ちてきたフミは、謎のいきものドーマと出会う。
ドーマは焦っていた。ゆめの中だと気づいたらフミは二度と元の世界に戻れなくなってしまうのだ!

───────────────────────



フミちゃんドリーム

まつながけいいち

まつなが出版



───────────────────────

 目 次

タイラヤマ

ウェノ

ギャッコ

トショカン

タイラヤマ

 ドーマは待っている。タイラヤマのひらべったい山頂さんちょうにはドーマのほかにはだれもいない。の低いタイライチョウが密集みっしゅうし、タイラクコの紫色むらさきいろの花がいている。地面をちょろちょろと走るのはタイラトカゲだ。ときどき上空で笛のような音がひびくのはデイビーボーイがとおぎたのだろう。ドーマは尻尾しっぽをゆっくりりながらタイライチョウのかげの中を歩いていた。足音はたてない。もうすぐ来るはずだ。
 藍色あいいろの空。この島の空はいつも変わらない。その藍色あいいろの空を横切る青い光が見えた。ドーマは足をとめて空を見上げた。か細い青い光がぐんぐん大きくなってくる。タイライチョウの葉がれ、タイラトカゲたちが尻尾しっぽを残していっせいに巣にかくれた。大気にはげたようなにおいが充満じゅうまんしてくる。いっしゅんあたりが静まりかえると同時に青いひかりが落ちた。タイラヤマが青くまる。
「いて!」
 声のする方に意識いしきを向けると、ダブダブの服をきた小柄こがらな生き物がしりもちをついていた。目をつむり、口を真一文字にひきしめ、そのまま固まっている。よっぽどいたかったのだろうか。ドーマがかげから観察していると、その生き物は唐突とうとつにひょいと立ち上がり、おしりをポンポンはたいた。あたりを見渡みわたして不思議そうな顔をしている。自分が知らない土地にいると気づいただろうか。小さな生き物は自分のたけほどのタイライチョウの木をめずらしそうに見つめている。
「ここはどこだ?」
〈お前さんの知らない島さ〉
「うぎゃ。だれ?」
〈オレはドーマだ〉
 少女は落ちていたぼうを拾い上げると、まわしはじめた。
「うりゃー、でてこい!」
 デタラメにぼうまわしてもドーマがみつかるはずがない。ドーマはタイライチョウのかげでじっと小柄こがらな生き物を観察している。二本の手と二本の足。ずいぶん器用に道具をあつかえるようだ。ぬののようなものを持ち、島の言葉は話せない。
 力任ちからまかせにぼうまわしていた小柄こがらな生き物はそのいきおいにられて左右にふらつきはじめた。右、左、左、また右。こまのように動き回り、とうとう後ろに大きくバランスをくずした。せま頂上ちょうじょうはずす。
「ありゃ?」
 後ろはがけだ。小柄こがらな生き物はえだを放り投げて、両手をぐるぐるとまわした。
 ドーマは尻尾しっぽばした。小柄こがらな生き物の胴体どうたいにくるとるときつけて安全なところまでりもどす。
「あ、ありがと」
 ドーマの尻尾しっぽがタイライチョウのかげにするするともどっていくのを見ながら、小柄こがらな生き物はやっとおとなしくなる。
〈オレはドーマだ〉
「さっき聞いたもん……」
〈お前さん、ニンゲンだな?〉
「そんなの知らないもん!」
 小柄こがらな生き物のひとみからみるみるなみだがあふれる。
「フミちゃん、ここに落っこちただけだもん。小学校三年生だから帰り方が分からないだけだもん」
 フミは大きな声で泣き出した。ドーマには「小学校」も、突然とつぜん泣き出した理由も分からない。しかしたぶんこれがニンゲンだろう。話を続ける。
〈帰りたくないか、ニンゲンよ〉
 フミはまない。持っていた青いぬのに顔をうずめてなみだぬぐっている。ドーマの言葉も聞いていないようだ。
〈ニンゲンよ、時間がないんだ〉
 ドーマの言葉にあせりがにじむ。しかしフミはまない。ドーマが途方とほうにくれているとき、轟音ごうおんひびいた。タイラヤマ一帯がびりびりとはげしく震動しんどうした。タイラクコの実が次々と落ちる。ようやく顔を出しかけていたタイラトカゲがまた巣にんだ。フミもおどろいてぬのから顔をあげ、左右をキョロキョロと見ている。
〈メガネマルさ、下を見てみろ〉
 フミはタイラヤマのがけからおそおそる顔を出して下をのぞんだ。島を囲う海が見える。その水面に白い巨大きょだいな生き物がかんでいた。小山のような巨体きょたいで、顔もヒレも見えない。小さな島がもう一つあらわれたかのようだ。メガネマルの周囲には水がはげしく渦巻うずまいていて、白い波がたっている。間をおかず爆発音ばくはつおんが立て続けにひびくと、三本のしおが柱のようにげられた。
「すご!」
 フミがをまんまるにしている。
〈メガネマルは普段ふだんは海の底にいるんだが、ときどきああして空気をいに上がってくるんだ〉
「うわー。雨だ雨だ」
 大量の水が空からってきた。メガネマルがばした海の水が落ちてきたのだ。
〈お前さん、もう一度きくぞ。帰りたくはないのか?〉
「帰りたいけど? 道知ってるの?」
 フミが走り回りながら答える。
〈ウェノに行けばもどれるって話だ〉
 フミは足元をチョロチョロと走るタイラトカゲにおどろいている。水を求めて巣から出てきたらしい。
「じゃあ、いく」
 機嫌きげんは直ったようだ。
〈ニンゲン、オレはお前さんに姿すがたを見せることはできない。音をたてて歩くからそれを目安についてこい〉
 フミはうなずくと、青いぬのをしっかりとにぎりしめた。
 ドーマはわざと音を立ててタイラヤマの山頂さんちょうからの細い道を下り始めた。木々の下や岩陰いわかげやくぼみを選んで移動いどうする。フミはときどき耳をすませてドーマの場所を確認かくにんし、器用に山道を歩いてついてくる。周囲の木や花に興味津々きょうみしんしんのようすだ。30ススも歩くと、タイラクコのうすむらさきの花がり、かわりにノガラシの黄色い花がえてきた。タイラヤマは低い山だ。りるのに時間はかからない。山道も平坦へいたんになってきた。
〈お前さんの持っているものはなんだ〉
「これはバスタオル、これはパズル。着てるのはパジャマね」
 どれもドーマの知らないものだ。
「ドーマ、お風呂ふろきらいなの?」
 フミはくりかえし説明しているがドーマにはさっぱり分からない。どうせニンゲンはすぐニンゲンの世界にもどる。ドーマは適当てきとうに相づちをうった。

ウェノ

 この辺りにくると大きな樹木じゅもくり、道の両脇りょうわきにノガラシの大群たいぐんが黄色い花をかせている。みつをもとめて昆虫こんちゅうがとびかい、昆虫こんちゅうねらって小さな鳥が集まっている。ドーマは木のかげからいつのまにか花の中に身をかくしていた。道はかわに行き当たった。かわといっても水は流れていない。広がっているのは黄土色の地面、すなだった。砂地すなじが帯のように延々えんえんと続いていた。フミは道のはしまで行って、砂地すなじをのぞきこんだ。すると何かが突然とつぜんすなの中から飛び出してきて、フミの頭の上にしがみついた。丸々と太った小さな動物が甲高かんだかい声で鳴く。固まるフミ。
〈スナザルはいたずら好きだから気をつけろ〉
 ドーマが花の中から声をかけた。
 スナザルがくるりと地面にりる。ききききっ。からだをってすなはらうと、大量のすながった。フミはすなまみれだ。すなを落としてすっかり細くなったスナザルは、持っていた小枝こえだ猛烈もうれつないきおいでこすりはじめた。たちまちえだからけむりがあがり、先端せんたんに小さな火がともる。まだおどろいて硬直こうちょくしているフミを尻目しりめに、スナザルはその火を持ったまますなの帯の上を身軽に走って行った。
「なんなの、あのサル!」
 ようやくフミがおこしたとき、スナザルのゆくてに街がみえた。フミがさけぶ。街はすなかわの真ん中にそびえ立っている。白っぽい古びた建物がたちならび、きれいに舗装ほそうされた道や装飾そうしょくのほどこされたまどが見える。ウェノだ。フミはスナザルのこともわすれてじっとウェノを見ていた。
「ねえ、あの街動いてない?」
〈ああ、ウェノはさまよう街なんだ。このすなかわ流砂りゅうさ、つまり本当のかわのように流れているのさ。ウェノはすな一緒いっしょにタイラヤマのふもとを一周している〉
 すなの帯は低い音をたてて流れていた。ウェノはすなかわをただよう箱舟はこぶねなのだ。
 風がいてすながり茶色のカーテンがウェノの姿すがたをしばしかくした。すなが晴れるとウェノはすぐ近くまでせまっていた。道路や街路樹がいろじゅがはっきり見える。
うつるぞ〉
 フミは一度流砂りゅうさかわからはなれると、助走をつけてとんだ。
「ジャーンプ!」
 フミはかたい道路にんでゴロゴロと転がった。
「いてて。ドーマ、どこ?」
〈近くにいる。安心しろ〉
 フミは街路樹がいろじゅけよった。たたいてみる。
「これ石じゃん!」
〈ウェノじゃ街がまること作り物だ。川まであるぜ〉
 フミは街の中心部に向かって歩き始めた。ドーマが後をつける。ウェノの街並まちなみは家、建物、街路樹がいろじゅ、道、小鳥や小動物、すべて石造いしづくりだ。ヘノは風にそよぐかのよう、スナザルやタイラリスはとびかかってきそうだ。しかし、実際じっさいにはわずかな植物とときおり空を通過つうかする鳥だけがウェノにある生命だった。大昔にだれかが作ったと言われているが、石をこんな風に加工できる存在そんざいはドーマも聞いたことがなかった。いまやその石造いしづくりも多くはヒビがはいり、こわれかけている。
 フミは石の家や、石のや、もうくずれてしまった道端みちばたの何かを見つけるたびに、たたいて遊んでいる。不意に高い笛の音のようなものが聞こえ、フミは空を見上げた。ウェノの上空を何かが飛んでる。
「あれ、デイビーボーイじゃない?」
〈お前さん、なぜ名前を知っている〉
「だっておにいちゃんが持ってるもん。ちびっこい恐竜きょうりゅうだよ」
 ドーマは何度もウェノにきたことがあるが、ここでデイビーボーイは始めて見た。
〈この街に何か心当たりはあるか?〉
「見たことあるような、無いような。遠足で行ったような、行かないような」
「遠足とはなんだ」
 フミの返事がない。突然とつぜん曲がり角からフミが飛び出してきた。
「うりゃあ! あれ、いない?」
〈お前さん、何をやってるんだ〉
「ドーマ、どこだー」
 ドーマはフミが走ってくる直前にかべがり、かざりの多いひさしの上に飛び乗っていた。ウェノのまどはいい。大げさなかざりがついていて、ドーマが簡単かんたんかくれることができる。ドーマは次々とうつりながらフミを誘導ゆうどうした。音で気づいたフミはしきりに上を見上げるが、ドーマは巧妙こうみょうに身をかくす。
「いま何時? 夜じゃないし昼じゃないし、何時なの?」
〈この島はいつもこんな明るささ。お前さんのところはちがうのか?〉
ちがーう。お昼はもっと明るいし、夜はもっと暗いよ。ほんとに、ここはどこなんだろう……」
 ドーマはだまる。ドーマはかくしている。ここはニンゲンの住む世界ではない。ここはニンゲンのゆめの中。お前さんは自分のゆめの世界にまよんでしまったのだ。しかしそれを教えるわけにはいかない。もしここがゆめの中だと気づいたら。
もどれなくなるのさ……〉
「なんか言った?」
 自分のゆめの中でゆめの世界にいると気づいたニンゲンは二度と元の世界にはもどれなくなる。この島でひとりでいつまでもらさなければならないのだ。それがつらいことなのかドーマには分からない。ニンゲンに気づかれる前にニンゲンをニンゲンの世界に返せばいいだけだ。
 やがてフミとドーマはひとつの建物の前に出た。入り口へ続く無駄むだ幅広はばひろ階段かいだんならぶ石柱、かざりのきざまれた巨大きょだいとびら、建物は低層ていそうだが広大な敷地しきち規則的きそくてきに二列になら丸窓まるまどと四角いまど外壁がいへきは赤い石と灰色はいいろの石を組み合わせたツートンカラーだった。
〈こいつだけはホンモノだ〉
 ドーマはちらりと上空に意識いしきを向けた。まだデイビーボーイがいる。
「ドアがでかいねー」
〈開けるんだ〉
「フミちゃん、むり」
〈横に小さなとびらがあるだろう。それならお前さんでも開けられるはずだ〉
「どうして分かるの」
 なんとも言えない違和感いわかんがドーマの中に広がるがその正体がつかめない。
 代わりに伝える。
〈いいから開けろ〉
「ちぇ」
 フミが無理といった巨大きょだいとびらのすぐとなりに小さなし戸があった。古いかざりがほどこされているが手をかけるところがない。フミは両手をあてて体重をかけてした。
「んー、おりゃあ!」
 し戸はするっと開き、フミはいきおあまって中にころがりんだ。ドーマが後からすべるように入ってくる。中は薄暗うすぐらい。大きなテーブルのようなものがずらりとならんでいるのがぼんやりと見えた。
「どこ、ここ?」
〈ここにはどんな願いもかなえてくれるやつがいるらしい。お前さんも帰れる。よかったな〉
「そうか。カミサマがいるのか」
 フミはテーブルによじのぼっている。普通ふつうのテーブルではなく、天板にあつみがあって上面がガラスでおおわれている。その中には色とりどりの鉱石こうせき、古ぼけた木彫きぼりの人形、文字らしきものがまれた紙、昆虫こんちゅうの標本、装飾品そうしょくひんかぎ、何かのほね、服、楽器のようなもの、大小のカバン、本、何に使うのかさっぱり分からないものもならんでいる。陳列棚ちんれつだなだ。
〈オレはそのカミサマってのをさがしてくる〉
「いってらっはーい」
 フミはガラスに顔をけたまま答えた。
 ドーマは建物のおくに進んだ。建物は複雑ふくざつ構造こうぞうだった。絵のならぶ大きな部屋へやびんかざられたカビくさい部屋へや、歩くと音のする長い廊下ろうか、一だんしかない短い階段かいだん、風の流れる広いけ、ドーマには目的のわからないせまい空間。生き物の気配はない。
 そのとき入口の方から大きな物音がした。ニンゲンのさわぐ声が聞こえる。どうやら陳列棚ちんれつだなをひっくり返したらしい。ドーマは少し考えて探索たんさくを続けることにした。さらにおくまですすんでみたが、どこにも生き物は見つからなかった。ニンゲンのいうカミサマがここにいたとしても今はいない。ドーマはそう結論けつろんしてニンゲンの元にもどった。
〈なんなんだ、これは〉
 陳列棚ちんれつだながほとんどたおれて中身がゆか散乱さんらんしている。
「フミちゃん、服を着替きがえようとしたの。だってパジャマじゃ歩きにくいでしょ」
たしかに風変わりな紋様もんようの入った服に着替きがえていた。背中せなかには小さなカバンをしょっている。
「バスタオルもパズルも入れたの。あとね、石も、人形も、紙もいれたの。使うかもしれないから。これでカンペキなのだ」
〈それを取り出すために全部こわしたってわけだ〉
こわしてないもん。勝手にたおれたんだもん」
 ドーマは入ってきたとびらに注意を向けた。こちら側からも把手とってもなにもないツルツルのとびらだ。
〈お前さん、あのとびらをまた開けられるか〉
「まかせてー。うりゃ」
 フミはとびらに体当たりした。ゴツンと音を立ててひっくり返る。とびらはびくともしない。フミは頭をおさえている。
 このとびらは内側からは開かないようだ。ドーマは不安になる。
 これじゃ、ここにいたカミサマとやらは、まるでふうめられていたみたいだな。そんな生き物が願いをかなえるのだろうか。そしてそいつは今はいない。
〈オレたちが入ってきたときに、ちがいに外に出たってことか〉
「器用だねー」
〈このままじゃオレたちがめられちまう。ジジをぶぞ〉
 暗がりの中でドーマはえた。それは不思議な声だった。大きな声ではないのに、ビューンとガラスが振動しんどうする。フミは思わず耳をふさいだ。それでも音は小さくならない。陳列棚ちんれつだなれたガラスのかけらがゆかで小さくはねた。
 ウェノの近くにいればいいのだが。
〈あとは待つだけだ〉
「じゃああそびぼうっと」
 フミはすわんで、ポケットから色とりどりの鉱石こうせきをとりだした。次にリュックを開けてみすぼらしい木の人形を取り出す。頭、胴体どうたい、手足の板をひもでつなげてある人形だった。フミはもっていたパズルの箱とその人形と鉱石こうせきを一列にならべていった。慎重しんちょうに一直線になるようにならべる。ようやくその列が完成するというときに、突然とつぜんフミたちの入ってきたとびらから長い灰色はいいろの毛の動物がころがりんできた。ゴロンゴロンと転がって、フミがたおした陳列棚ちんれつだなにぶつかって止まった。ジジだ。

「入ってきちゃってどうする!」
 フミはさけんだがジジには興味津々きょうみしんしんの様子だ。ふわふわで丸いからだにゆっくりと近づいた。ジジはやさしげな目でフミを見つめる。こわくなさそうとみるや、フミはジジにしがみついた。毛をつかんで背中せなかによじ登る。ジジは灰色はいいろのヒゲを楽しそうにらした。
「やっほーい!」
〈遊んでる場合か〉
 と、全く同じ姿すがたのジジがゴロゴロととびらから入ってきた。
「またきた」
 さらに三匹目ひきめ、四匹目ひきめ、五匹目ひきめときたところで、ようやく六匹目ひきめのジジがとびら途中とちゅうで止めた。
「いっぱいきた!」
〈ジジは群生ぐんせい動物さ。集団しゅうだんで考える、いわば集合知せいの……聞いてんのか!〉
 フミは五匹ごひきならんだジジの背中せなかねている。
 ジジたちがゆっくりと歩き始めると、フミは歓声かんせいをあげた。
〈待て。オレが先に出る〉
 ドーマはジジのあしの下にもぐむと素早すばやくドアをすりける。
〈ジジ〉
 すばやくかざまどの上にかくれたドーマが問いかける。
「なんじゃ」「なんじゃ」「なんじゃ」「なんじゃ」「なんじゃ」「なんじゃ」
〈ウェノにはどんな願いごともかなえるカミサマがいるって話だったが、あの建物にはいなかった。外に出たのだと思う。どうやったら見つけられる?〉
「カミサマとは。くわしく調べるのならトショカンに行くしかないの」
〈どこにあるんだ〉
「ギャッコに行けばトショカンの入り方は分かるはずじゃ。それよりあのニンゲンをどうする気かの。ワシもニンゲンは始めて見たぞ」
〈元の世界に返す〉
「分かっているだろうが、ここはニンゲンのゆめの世界じゃ。あのニンゲンにそれを気づかれんようにな」
〈ニンゲンを元の世界にもどす方法はだれも知らねえ。まったく面倒めんどうなことになったぜ〉
「なに話してんの? つーかジジ話せるの?」
〈島のことばで話しているのさ〉
「ロンゴロンゴっていうのが言葉なんだ」
〈お前さんは島の外から来ているからな。そう聞こえるんだろう〉
「フミちゃん、ドーマの言葉なら分かるよ」
〈オレは話しているんじゃない。お前さんの頭の中に直接ちょくせつ伝えているんだ〉
「どういうこと?」
〈耳をふさいでみろ〉
「何にも見えない!」
〈目は開けていい〉
「あ、ドーマの声が聞こえる」
 フミは耳をおさえたまま答える。
〈そういうことさ〉
「じゃあこのウサちゃんとも話せる?」
 フミは両手を頭の上につきだした。手の中にいつつかまえたのか小さな動物がいた。長い耳をらし、赤い目でじっとドーマがいるほうを見ている。フミの手の中でおとなしくしている動物に、ドーマは話しかけてみた。耳の長い動物がロンゴロンゴと鳴く。
〈そいつはナイトウというそうだ〉
「ナイトウか」
 フミはふむふむとうなづく。
「ナイトウ遊ぶぞー」
 フミはジジの背中せなかをグラウンドにしてナイトウとおにごっこを始めた。ナイトウはジジの背中せなかをピョンピョン走りながら長い耳を広げた。そのまますっと空にかぶ。フミは喜んで猛然もうぜんとダッシュするとナイトウのあしに飛びついた。フミの小さな体も一緒いっしょがる。
「わーい。ジジ、見て」
 ナイトウは耳を羽ばたかせて高くがって行く。フミの姿すがたがぐんぐん小さくなっていった。豆粒まめつぶのようなシルエットから、フミの声がひびいてくる。
「手が無理。もうむり。うーうわー」
 今度は豆粒まめつぶからぎゃくにぐんぐん大きくなってくる。フミはジジのれのど真ん中にまっさかさまに落下した。ドーマはおどろいたが、フミは笑いながらいあがってきた。ジジのやわらかい毛皮のおかげでなんともないようだ。まったく無茶をする。ドーマはあきれていた。
 ナイトウはそのまま飛び去っていった。
げちゃった。フミちゃんも飛びたかったなあ」
〈お前さんがいじめるからだろう。次に会ったときにはあしにつかまっていいか聞くんだな〉
「むー」
〈ギャッコに行くぞ〉
「待って。くさくない?」
 ふくれっつらから一転、フミが鼻をくんくん鳴らす。たしかに何かがえるにおいがする。
「あっち」
 走り出すフミに、ジジたちがぞろぞろついていく。ドーマもしぶしぶ後をつける。いま出てきた巨大きょだいな建物の側面に回りこむと、「川」があった。天然の川をして蛇行だこうしているが石造いしづくりだ。ただその中にはんだ本物の美しい水が流れていた。そのあたりでにおいがきつくなる。
流砂りゅうさの上にある石の街でこれほどの水が確保かくほされているとは、ウェノはなぞの多い街じゃの」
 ジジが立ち止まった。頭を地面に近づける。道いっぱいに何かがあった。縦横じゅうおう規則正きそくただしくびる線と、それに沿って三角形の突起とっきが無数にならんでいる。そこを小さな生き物があわただしくっていた。それは街だった。ウェノの街路いっぱいに広がるおもちゃのような街だ。三角形にみえたのはこの街の住居じゅうきょらしい。
「街じゃ! ウェノの中に別の街があるとは知らなんだ」
 その小さな街が騒然そうぜんとしている。おもちゃの街の一角がほのおに包まれている。このほのおげたにおいの正体だった。
「きっと、あのサルだよ!」
 フミはさけんだ。小枝こえだに火をつけてげていったスナザルのことだ。
 街の中を走りまわる小さな生き物は六本の手足を持ち背中せなかに赤い斑点はんてんがあった。大きさはフミの指の先ぐらいだ。火災かさいをなんとか食い止めようとしているようだが、火のいきおいが強すぎる。
「わっ」
 ジジが飛び上がる。長いヒゲの先端せんたんに火がついている。顔を近づけすぎたのだ。フミがカバンをまわしてジジの顔をたたいた。なかなか消えないとみると、ヒゲをつかんでジジを川までっていく。
「こりゃ、ひっぱるな」
「ロンゴロンゴ言わないの!」
 フミが半ば無理やりジジの顔を川の中にしずめるとようやく火が消えた。ヒゲのはしが黒くげている。
「こりゃ早くなんとかしないと街が全滅ぜんめつしてしまうの」
 ジジが顔からポタポタと水をしたたらせながら言った。
 フミはカバンから青いバスタオルを取り出した。また川まで走っていき、バスタオルをんで水にひたす。あわただしくもどってくると、バスタオルをまわした。
「うりゃー、水攻撃こうげきー!」
〈おい、無茶するな!〉
 バスタオルからの水滴すいてきが街にそそぎ、三角形の屋根をうった。細い道路も建物もたちまちれていく。小さな生き物たちは突然とつぜん落ちてきた水のかたまりおどろき空をあおる。火のいきおいが一気に小さくなった。フミが残った火にバスタオルをしつけて消していく。えた建物にいる小さな生き物たちは、慎重しんちょうにつまんで移動いどうさせた。
 三角形の家から次々と住民たちが出てきた。みんな背中せなかに赤い斑点はんてんがある。よく見ると地面にたくさんのあなが開いていて、そこからも住民が出てくる。みんなずぶれだ。やがて一面が小さな住民たちでめつくされた。赤い斑点はんてんが不思議なパターンをえがく。
「ニンゲンのやることはずいぶん大胆だいたんじゃな」
〈無理やりすぎるだろ〉
「この街はイシャーと言う。自分はトランカだ」
 住民のうちの一匹いっぴきがジジたちに近づいてきて、声をげた。
〈ドーマだ。姿すがたを見せられなくてすまない。丸いのがジジ、さわいでいるのがニンゲンだ〉
「スナザルのやつに火をつけられてこのザマだ。ほんとうに助かったよ、ニンゲンとやら」
〈あんた方の街は石造いしづくりではないんだな〉
「ああ。自分たちは飛行できるので、ウェノから出て木材を調達している。地下はこのあごっている」
 トランカは頑丈がんじょうそうなあごをカチカチと鳴らした。
「あの青いぬのじゃ」
 ジジがフミの持つぬのを見て話にんできた。うれしそうにしている。
〈どうかしたのか〉
「あの青いぬのはバケという動物のかわでな。それをかぶれば好きな生き物に変身できるぞ」
 ドーマは半信半疑はんしんはんぎで、その話をフミに伝えた。
「でもこれバスタオルだけどね」
〈ジジが言うんだからやってみろ〉
「テントウムシになれー。むにゃむにゃ!」
 フミは青いバスタオルを頭からかぶった。するするとフミの身体が小さくなっていく。ヒゲのような触覚しょっかく、大きな目、なにより斑点はんてんのあるかた胴体どうたいだ。ただ背中せなか斑点はんてんだけが水色だった。トランカがおどろきで触覚しょっかくふるわせた。青い斑点はんてんのイシャーのたみは、するすると大きくなって、バケのかわをかかえる元のフミの姿すがたもどる。
「これすごいね!」
〈またオモチャがえたな。これで気がすんだか。ギャッコに向かうぞ〉
 ドーマはトランカに別れを告げた。
「あなた方がこなければ、イシャーの街はどうなっていたか分からん。イシャーのたみは受けた恩義おんぎわすれないぞ」
〈気持ちだけもらっておくよ〉
 ドーマは豆粒まめつぶのようなイシャーの指揮官しきかんに答えた。
「ばいばーい!」
 フミが手をる。イシャーの無数のたみがいっせいに羽根を広げてぶぶうんと音を鳴らす。別れの挨拶あいさつらしい。
「フウセンカズラをさがすのじゃ。ウェノに生えている唯一ゆいいつの植物じゃから、すぐ分かるはずじゃ」
 ジジはゆっくり歩きながら話す。ドーマに言われてフミもそのへんを走り回っている。
「しかしニンゲンとはみなこうなのかの」
 ジジがひさしかくれるドーマに話しかける。左右にはくずれかけた石造いしづくりの建物が続いている。
〈うれしそうだな〉
「あの好奇心こうきしんの強さを見れば分かるじゃろ。動物にも、建物にも、鉱石こうせきにも、人形にも、植物にも、景色けしきや言葉にも興味きょうみしめす。面白おもしろい生き物じゃ。例えばこの空の色にしても、ワシらは何とも思わんが、ニンゲンなら興味きょうみを持つかもしれんの」
〈そういえば、ニンゲンの世界の空の色はこことはちがうらしいぜ。なんでもヒルだかヨルとかで色が変わるとか〉
「ほほ。となればここにいるだけでここがゆめの中だと気づかれてしまうかもしれんの」
 たような角を何度か曲がると赤茶けた石をめた広場に出た。そこにフミどころかジジでもすっぽり入りそうな大きな風船型の植物がいくつも生えていた。フウセンカズラだ。色のないウェノではフウセンカズラの緑はたしかによく目立つ。
「フウセンカズラは面白おもしろい草での、中に入ると空にかびがる。そして行き先を教えると、ちゃんとそこに向かって飛んで行くのじゃ。乗り物として使えるわけじゃな。ギャッコに行くにはこれを使うしかない」
〈それに入れと言うのか〉
「中は見えん。ドーマでも大丈夫だいじょうぶじゃよ」
 ドーマはしぶしぶフミに説明する。
「え、飛ぶの! やっほーい」
 フミは頭からフウセンカズラの中にんだ。
〈お前さんは島の言葉は話せないだろう。フウセンカズラに行き先をどうやって伝えるんだ。ジジと一緒いっしょに乗れ〉
 フミのフウセンカズラにジジがんできた。せまいらしく、フミはフウセンカズラから頭をぴょこんと出した。ジジが何事か言うと、フウセンカズラがふわりとかびがった。フミが歓声かんせいをあげる。次々とフウセンカズラがちゅういていった。ドーマは念のため一番暗い緑色のフウセンカズラに最後にもぐりこむ。
 フウセンカズラが上昇じょうしょうすると島の全景が見えてきた。
「ウェノってほんとに全部石だね」

 ウェノの白っぽい街がすなかわをゆっくりと移動いどうしている。フウセンカズラは上昇じょうしょうを続け、そのウェノの街も小さくなっていく。すなかわの周りにくノガラシの花が黄色いけむりのようだ。その向こうにタイラヤマの平べったい頂上ちょうじょうが見えてきた。
「あ、フミちゃんがドーマと会ったところだ。フミちゃん、歌をうたいまーす。作詞さくし作曲フミちゃん」
 フミの歌が聞こえてきた。

♪ドーマがでてきて こんにちは
♪タイラヤマで かくれましょう
♪でんでろでんでろ

 ジジたちがうれしそうにからだをふるわせる。
〈でんでろがよけいだな〉
 フウセンカズラは自ら飛行する能力のうりょくはない。大気の流れをつかんでただようだけだ。だから目的地まで長い時間がかかる。藍色あいいろの空の下、緑色のフウセンカズラがふわりふわりと飛んでいく。
「あっ、海だ」
 タイラヤマのがけからのぞきこんだ藍色あいいろの海が島を囲んでいる。今は静かだ。
「じゃあ、2番ね」

♪海の中から こんにちは
♪となりの島まで メガネマルでいきましょう
♪でんでろでんでろ

〈でんでろがよけいだ〉
「ドーマ、あの白いのなに?」
 島が海とれるあたりが真っ白にまっている。
〈あれは雪さ。島の一番低いところは雪におおわれている。「冬の森」だ。オレたちは滅多めったに近づかねえ〉
「寒いもんね」

♪雪がったら こんにちは
♪寒いところには いきません
♪でんでろでんでろ

〈だからでんでろが……〉
 フウセンカズラは風に乗ってふわりふわりと飛び続ける。
 23番を歌っていたフミの頭の上に何かがりた。黒ブチで赤いの小さな生き物。
「ナイトウ! どこいってたの? フミちゃん、歌をうたってるの。じゃあナイトウが帰ってきたからナイトウ記念ね」

♪頭の上に こんにちは
♪ナイトウは 羽根があるから落ちません
♪でんでろでんでろ

〈……〉
 ナイトウはフミの頭の上で気持ちよさそうだ。
 フミの歌はきずに続く。フウセンカズラは相変わらずの速度だ。
 眼下がんか景色けしきが変わってきた。草原が広がり、大きな樹木じゅもくえてくる。島の中腹ちゅうふくはウェノやタイラヤマとくらべるとかなり暑い。上空にいても草のかおりがとどくような気がする。
「じゃあ、71番」
 フミが言いかけたとき、高い笛の音がひびいた。空気をく音がして、何かがフミのフウセンカズラのそばをとおぎる。トカゲのような姿すがたがみえた。デイビーボーイだ。フウセンカズラにパックリとあながあく。フミの両足が外に飛び出した。
「うひゃー、落ちる!」
 ふたたびデイビーボーイがおそってくる。さっとすれちがうとフミのフウセンカズラの下半分がバラバラになる。ささえを失ったフミとジジは空中に投げ出された。ナイトウはそらがる。
〈ニンゲン!〉
「落ち……」
 どかっと何かにぶつかる音がした。
「……なかった」
〈……〉
 フミの姿すがたが見えない。フミはフミよりの高い植物が密生みっせいする中に落ちたのだった。の高い植物は黄金色こがねいろの大輪の花をかせている。エナンの花だ。エナンの花が生えている場所は、上からみると地面かと思うほど広い。ドーマはフウセンカズラをいてり、花の中に姿すがたかくす。
「ドーマ、いる?」
〈ああ〉
「ここは空の上?」
〈でかいの上さ。ギャッコはの上にあるんだ〉

ギャッコ

 ギャッコをささえる樹木じゅもく茶碗ちゃわんのような形でえだを広げている。そのてっぺんはえだからみあって天井てんじょうのようになっている。そこにエナンの種が飛着して一面に育ったらしい。ドーマたちはそのエナンの中にったのだった。ジジたちも次々とりてくる。
「ずいぶんかかったねー。フミちゃんつかれちゃったよ」
 ドーマはそれには答えず花のおく姿すがたかくした。ジャラジャラと金属音きんぞくおんが聞こえる。エナンの花を無遠慮ぶえんりよにへし折って、何ものかがヨタヨタと不器用に近づいてきた。
「こんにちは、こんにちはー!」
 けたたましい声だ。
「ちょうハデなペンギンがきた……」
「どちらさまかしらー」
「ドーマ、なんて言っているの?」
 ドーマは返事をしない。
 エナンの花をかき分けてあらわれたその生き物は、大きな首かざりと金ピカのかんむりを頭にせ、オレンジ色の四まいの羽根をバタバタさせて、短いあしでヨタヨタ歩いていた。目だけは油断ゆだんなくあたりを見回している。
「ワシはジジじゃ」「ワシはジジじゃ」「ワシもジジじゃ」「ワシもじゃ」「ワシもじゃ」
「こんにちはー、ワタシはミャッキよー。ギャッコにようこそー」
「なんて、言ってる、の?」
 フミが負けじとあしをバタつかせながら話にむりやりむ。だがフミの言葉は通じない。
「変な鳴き声ねー」
「たしかにそうじゃの」
 別の方向からもギャッコの住民があらわれる。こっちはミャッキとちがって無言だ。かんむりも首かざりもない。羽のオレンジ色だけが同じだ。兵士といったところか。フミとジジたちをいつのまにか取り囲む。
〈こりゃヤバイな〉
 ドーマが思う間もなく周囲のギャッコ兵があみを投げた。フミとジジが抗議こうぎするひまもない。フミの頭上にかんでいたナイトウにもあみがうたれる。ナイトウがポトリと落ちてきた。ドーマはエナンの花の根元に身をせ息をひそめていた。
「うぎゃー、なんだこれ」
 あばれるフミがたちまちあみにからまり、さかさまになった。ジジはおとなしくつかまっている。ミャッキが命令すると、ギャッコ兵たちはいっせいにあみを引きずり始めた。フミもナイトウもジジたちももまとめて運ばれていく。天井てんじょう広場にはいくつか出入り口があるらしく、そのうちのひとつをりていく。
「いきなりで悪いけど逮捕たいほさせてもらうわー。天井てんじょう広場に空からりてくるのは”天井てんじょう広場に空からりたつみ”なのよー。これでワタシにも運が向いてきたかしらー。おーほほほほほほ」
 ミャッキが高笑いしながら後に続く。
 ドーマは音もたてずに後をつける。長い尻尾しっぽがピンとがっていた。
 ギャッコの巨大きょだいで、中には無数の部屋へやがある。ギャッコ兵はフミたちをそのひとつにの格子状こうしじょうのドアのアある部屋へやに連れていった。ろうだろう。ドーマは廊下ろうかから様子をうかがう。ギャッコ兵はフミとナイトウとジジたちをむりやりろうんだ。せまいせまいとフミとジジたちがしあっているのを、ミャッキがバカにした顔でながめている。
「こんにちはー、ちょっとこれ見てねー」
ミャッキはわくのついた鏡を持ち出した。
「ジジ、せまい。あ、鏡までちょうハデだ」
「そこの動物、鳴くんじゃありませんー」
 ジジがぐふふと笑う。
 ろうの前に置かれた鏡には天井てんじょう広場がうつっていた。一本づつ色のことなる柱を縦横じゅうおうに組み合わせた大きなモニュメントがうつっている。
「ジジ、せまいよー。こ、これ鏡じゃなくてテレビじゃん」
 鏡の映像えいぞうが動き出した。モニュメントの柱の一本に小さな亀裂きれつが入る。亀裂きれつはみるみる広がっていく。鏡からは音は聞こえないのが、かえって不気味な迫力はくりょくがある。フミも文句もんくをいうのをやめて鏡に見入っている。亀裂きれつ沿って木材がけ、細かい木片もくへんが飛び散る。しばらくその状態じょうたいたもっていたが、とつぜん一気に柱がくだけた。真ん中からへし折れ、モニュメント全体がゆっくりとかたむきだした。
「うひゃー」
 スローモーションでモニュメントが崩壊ほうかいした。もうもうと粉塵ふんじんが上がる。モニュメントが天井てんじょう広場にたたきつけられ、エナンの花びらが飛び散る。ギャッコの住民たちが続々と集まってくるが、なすすべがない。そこに見覚えのあるケバケバしいよそおいのミャッキが出てきた。
「ここからが見ものよー」
 ミャッキは羽根をって住民を下がらせた。そしてくずちたモニュメントの前で体を折ると、何か唱え始めた。身じろぎもせずに見守る住人たち。
 木片もくへんがひとつ、ふわりとちゅういた。
 小さなかけらだったが、ひとつまたひとつとかびがる。あとはさっきのシーンをぎゃくにみているようだった。木片もくへん次第しだいに大きな破片はへんになり、集まり、やがて柱を形作っていく。歓声かんせいをあげているらしいギャッコ住民たち。柱が天井てんじょう広場から起き上がり、ついにはモニュメントは完全に元通りになった。まるで魔法まほうをみているようだ。
「おぬしはまじないかの?」
「そうよー。ギャッコのミャッキは島一番のまじないよー。さがものならまかせて、安くしとくわー」
「するとそれが話にきくギャッコの鏡かの。しかし、あんなことのできるまじないはきいたことがないの」
「とぼけるんじゃないわよ!」
 ミャッキがバシッと羽根をたたきつける。ジジたちがいっせいに飛び上がる。
「まじないでこわれた建物が元にもどったら苦労しねえんだよ」
「口調まで変わっとる……」
「ん? あら、ワタシとしたことが。言わなくても分かっているのよー。あれやったのあなた方でしょー? なにしろ空からギャッコに来たのはあなた方が始めて。ただものではありませんねー」
ちがうんじゃ。ワシらは行くところがあっての。トショ……」
「うるせえんだよ。今日きょうからはここであたいのために働きな。これであたいはさがばりを使うチンケなまじないは卒業だ。本物の魔術師まじゅつしだからな。けけけ」
「また口調が……」
「ところで、これはどなたのものー?」
 ミャッキがフミのパズルの箱を取り出した。小さなハンドルのついた木の箱だ。フミが窮屈きゅうくつそうに手を挙げる。ミャッキはフミにパズルを投げた。羽根をくるくる回す身振みぶりをする。
「ハンドル回せってこと?」
 フミは箱についた小さなハンドルを回し始めた。ハンドルは重く、フミは顔をにしている。
「それはロレツじゃ」
「わ、ジジがしゃべった!」
「はい。手をとめないでー」
「だって、ちょう重い……」
「それはロレツといってな、その取っ手を回している間はどんな相手とも言葉が通じるのじゃ」
「あなた動物じゃなかったのねー。何かできることあるのー? 言ってみなさないよー」
「フ、フミちゃん、歌が得意だよ。でも、ちょう重い……」
「じゃ、明日あしたから毎朝ワタシのために歌ってちょうだい。お願いしましたよー」
 フミはあきらめて手を止めた。ミャッキとジジの言葉がロンゴロンゴにもどる。
 ドーマはその場をはなれた。ニンゲンのもっていたロレツはおどろきだが、まずろうかぎをさがさなければいけない。ギャッコの内部はえだ複雑ふくざつにからみあって迷路めいろのようになっていた。見つからないようにうろついていると、おそろしい急勾配きゅうこうばいで下に向かう通路があった。ギャッコの根元にりる通路らしい。脱出だっしゅつに使えそうだ。通路の場所を覚えると、次に部屋へやを調べ始めた。トショカンの場所はギャッコに行けば分かるとジジが言っていた。どこかにてがかりがあるはずだ。
 台がひとつだけの小部屋こべやに入る。台の上に見覚えのあるフミのカバンが置いてあった。ミャッキはご丁寧ていねいに中を調べてロレツを見つけたらしい。ほかにはなにもない。部屋へやを出ようとしたとき、声がひびいた。
「ニンゲンを返すのはやめなさい」
 ドーマは全身をこわばらせる。何か見落としたか?
〈……だれだ〉
「名前に意味がありますか? わたしの名前はゼッケルベッケル。あなたはニンゲンを元の世界に返そうとしているそうですね。やめておきなさい」
〈どういうことだ〉
「自分でもうすうす気がついているのではありませんか? ここはニンゲンのゆめの世界です。ニンゲンを返せばあのニンゲンはまた新しいゆめの世界を作るでしょう。わたしたちの世界は無くなってしまいます。この島にすむすべての生き物が消えてなくなるのですよ。わたしたちが生きるためにはニンゲンを返してはなりません。あなたはニンゲンと会話ができますね。この島のために、ここがゆめの世界だと伝えなさい」
〈何を言ってやがる……〉
「あなたはニンゲンを返したがっています。それはなぜですか。あなた自身にも分からないはずです。わたしたちはニンゲンのゆめとして作られた存在そんざいですからね」
 ドーマはウェノで小さなドアからなら入れるとフミに教えたときに感じた違和感いわかんを思い出した。そして唐突とうとつ違和感いわかんの正体に気づいた。自分がニンゲンのためにやっていること、なぜそれをやるのか、なぜそうすればいいのか、それが自分でも分からないからだ。ゼッケルベッケルは、ドーマがそう感じるようにゆめの中で作られた存在そんざいだと言っている。ニンゲンのゆめの中でそうなっているからにすぎないのだと。ドーマはしびれるような衝撃しょうげきを受けていた。
 それっきり声は途絶とだえた。さぐりを入れてもあたりに生き物の気配はない。今はゼッケルベッケルの正体さがしをする時間はないようだ。ドーマはからだをふるわせて動揺どうようはらい、次の部屋へやに入った。まだ足元がふらついていた。
〈これはまじないの道具か……〉
 その部屋へやには細々とした道具がずらりとならべられていた。ドーマが目を付けたのは四角い木枠きわくに糸でつるしたはりがはめまれた道具だった。それがなんなのかドーマには分かった。理由を考えないようにしてドーマはその道具の前にうつる。
〈トショカンはどこにある?〉

 はりふるえはじめた。ギャッコのさがばりは、さがもののありかをしめすまじないの道具だ。しかし左右に大きくゆれて安定しない。
〈ダメか。さがばりうわさほどじゃねえな〉
 ドーマはあきらめてさらに部屋へやおくに進む。部屋へやすみに茶色いつつが転がっているのに気づいた。するどつめを使ってつつくと、中から出て来たのは古ぼけた紙だった。やぶかないように慎重しんちょうに広げる。古ぼけた筆致ひっちえがかれた島の地図だった。トショカンの位置がハッキリと記されている。
〈「冬の森」か。見つからないはずだ〉
 ドーマは場所を記憶きおくきざんだ。部屋へやから出ようとしたとき、むかいの部屋へやからギャッコ兵が出てきた。あわてて身をかくす。ギャッコ兵はドーマには気づかずヨタヨタと去っていく。ドーマはそれを確認かくにんするとむかいの部屋へやに入った。思った通りろうのものらしい鍵束かぎたばがぶら下がっていた。ドーマはかべがってかぎつめに引っかける。部屋へやを出ると音を立てずにろうもどった。
「ドーマはどこに行ったの! フミちゃん苦しい。せまい!」
〈ここにいるぜ〉
「ドーマ!」
「ようやくもどってきたのかの。かぎは見つかったじゃろうな」
 ガシャっと音を立てて鍵束かぎたばろうの中にまれた。フミが拾い上げて、ろう隙間すきまから手をばしてかぎを開ける。まっさきにフミがろうから転がり出てきた。カバンのありかをドーマにたずねる。ジジたちもぞろぞろ出てくる。
げるぞ。そこを出たら下に向かう通路がある。それをひたすらりるんだ〉
「りょうかーい!」
 フミが飛び出していき、ジジたちが続いた。ドーマは少しおくれて通路に入った。
「いて! うわ! なんだ!」
 フミのさわぐ声が聞こえる。あまりの急勾配きゅうこうばいにフミはあちこちにぶつかりながら転がるようにりていく。ジジたちはほとんどボールとなって転がっている。ナイトウは飛んでついてくる。ドーマは優雅ゆうがかべって追いかけていった。後方がさわがしくなってきた。追っ手だ。
がさないわよおおおおおお!」
「ペンギンがきたー」
〈急ぐんだ!〉
「うりゃあ!」
 フミがジジに飛びついた。ジジと一緒いっしょにころがりおちる。頭がガンガンかべに当たる。
「いてててて!」
〈その調子だ!〉
 ジジとフミはぐねぐね曲がった通路をものすごいスピードでりていく。
 いいかげんフミの声も弱々しくなってきたころ、通路の先が明るくなってきた。出口だ。ドーマは速度を落とす。ジジたちはそのまま外に飛び出した。順番に地面に落ちる。
 ばふっ。
 ばふっ。
 ばふっ。
 ばふばふっ。
 フミがまっさきに起き上がった。巨大きょだいなギャッコのみきの周りにもエナンの花がみだれているが、天井てんじょう広場のものほど大きくない。
「いてー。やっとげられたよ。ジジ、大丈夫だいじょうぶ?」
 地面にのびていたジジが一頭ずつ起き上がる。
「ひどい目にあったのう。しかしこれでトショカンに行けるというものじゃ」
〈ああ、場所は覚えてきたぜ〉
「トショカンのかぎも持ってきたかの?」
〈……それはなんだ?〉
「ミャッキが言っておったじゃろ。トショカンにはかぎがなければ入れないから、お前たちには無理じゃと。それにろうもどってきたおぬしにもワシが聞いたぞい」
 ジジの言っていたかぎとはトショカンのかぎのことだったのか。ミャッキの話はろうはなれたあとのことらしい。ドーマがちょうどまじないの道具を調べていたころだろう。ふるえて定まらなかったギャッコのさがはり。そのときひらめくものがあった。あのはりは正しかった。
〈その辺を調べるんだ、ニンゲン。何かあるはずだ〉
「ふはーい」
 フミはギャッコの根元をさがしはじめた。エナンの花をかき分け、土を蹴飛けとばす。
 ジジも捜索そうさくに加わる。
「あった!」
 フミがみつけたのは、した根にさった大きな銅色どういろかぎだった。
「ギャッコから落ちてきたようじゃの。なんでまたそんなことになったのじゃ?」
 フミがかぎっこく。
かぎ、ゲット!」
 フミがかぎを頭上にかざした。ナイトウがうれしそうにかぎの周りを飛ぶ。そのときものすごいスピードで空から滑空かっくうしてきたものがある。しっぽの長いトカゲのような姿すがた。デイビーボーイはフミの手からトショカンのかぎうばい、口にくわえて空にがっていく。あっけにとられるフミとドーマたち。ナイトウが両耳をはためかせて追いかけたが、デイビーボーイのスピードにはかなわない。すぐに姿すがたは見えなくなってしまった。
「ちびっこい恐竜きょうりゅうかぎをとられちゃったよ!」
「トショカンの場所はどこじゃった?」
〈冬の森だ…… お前さんたちがそこにいたら、ここから出られねえ。ちょっとはなれてくれ〉
 周辺にフミとジジがいなくなってから、ドーマは出口からりた。しなやかな身体が一瞬いっしゅん黒いすじとなってちゅうを横切り、すぐに草むらに身をかくした。
〈トショカンに入れなければカミサマのなぞはとけねえ。となればかぎがなくても入る方法を考えるしかねえだろう。とりあえず冬の森に向かおう〉
「そういうことになるかの。では出発じゃ」
 一行は移動いどうを始めた。独特どくとく芳香ほうこうを放つエナンの花の中を進む。
〈そうだ。ゼッケルベッケルって知ってるか?〉
「はじめて聞く名前だの」
 ドーマは、フミがロレツを使っていないことを確認かくにんして、ゼッケルベッケルとの会話をジジに説明した。
「なかなかの知恵ちえものじゃな、ゼッケルベッケルとやら」
 ジジのれがうれしそうにからだをらす。
〈どう思う?〉
「それはワシらの世界の外で起きていることを心配するようなものじゃな。空が落ちるんじゃないかとか、海の向こうからこわいものがやってくるんじゃないか、そういう類のものじゃな。ゼッケルベッケルのことばすら「そうできている」からかもしれんぞ。ニンゲンのゆめがゼッケルベッケルを生み出したのじゃからな。めて考えても結論けつろんは出んじゃろ。ドーマは自分の信じる道をゆくしかないの」
〈さっきのデイビーボーイにゼッケルベッケルの野郎やろうがかんでると思うか?〉
「デイビーボーイはほこたかき種族じゃぞ。ことばは持たぬが、高度な知性ちせいを持つと言われておる。簡単かんたんにゼッケルベッケルとやらの口ぐるまに乗るかの」
邪魔じゃまばかりしてるけどな…… こうなったらとにかくトショカンだ〉
 島でもっとも海に近い部分はつねに雪におおわれていて、「冬の森」とばれていた。ドーマやジジのような島の上の方にすむ動物は、冬の森にはめったに足をれなかった。冬の森は多くの生き物には寒すぎ、深い雪に足をとられ、判断はんだんあやまると二度ともどって来られない。しかも得体のしれないカイブツが住むといううわさだった。ミャッキの地図によれば、トショカンはその冬の森の中央にある。
 坂道を下って行くと、ギャッコの黄金の花はたちまち姿すがたを消す。エナンが育つには高い気温が必要なのだ。冬の森はまだずっと先だが、景色けしきは急速に変わってきた。あたりにむき出しの岩がえてくる。同時に気温が下がってきた。フミはジジの上で走り始めた。
「寒いからジョギング!」
 フミは人形をふりまわして、ジジの上で走り回っている。
 ドーマとジジたちは冬の森の進み方を話し合っている。冬の森のおくまで行ったものは少ない。このまま進んでもいいのか話しても結論けつろんは出なかった。
 ギャッコから100ススも歩くと道が広くなってきた。ジジたちのく息が白い。はるか前方に黒ぐろとした森が見える。あれが冬の森だ。ジジによると冬の森には一本として同じがない。奇妙きみょうな森だ。その森のおくにトショカンはあるという。
「雪だ」
 フミが空を見上げる。ちらちらと白いものがりていた。フミはバケのかわを身体にき、ジジの上で寒そうにねている。
 一行は休まず歩き続けた。さらに100ススも進むと本格的ほんかくてきに雪がりはじめた。足元の雪は徐々じょじょに深くなってくる。すでに地面は雪におおわれて見えない。ドーマが移動いどうする木のかげも雪におおわれ、かくれる場所がなくなってきた。
 口数少なく雪の道を進む。
 フミはジジの毛皮にもぐりこんでふるえている。ナイトウも一緒いっしょだ。
「あでだに」
 フミはジジの毛の隙間すきまから目だけ出している。ふるえる声で「あれ何」と言ったつもりらしいと気づいたドーマは、フミの向いている方向に注意を向けた。単なる雪野原にみえたが、その雪がぐにゃりとがった。雪の中にまっていた何かが起き上がったのだ。
〈ジジ!〉
「いかん、ダジョウカンじゃ」
 雪の中から姿すがたをあらわしたのは、太い円柱形の胴体どうたいを持つ生き物だった。周囲にずらりと子供こどものような小さな目と小さな手がならんでいる。胴体どうたいの下には子供こどものようなあしがたくさん生えている。無毛で真っ白なので、雪にもぐれば見分けがつかない。その子供こどものような手がむにゅんとびて、一頭のジジをとらえた。
「こら、はなさんか」
 軽々と持ち上げると雪の中にほうり投げる。ジジは雪に頭からんだ。足をバタバタさせている。
「フミ、フミ……」
 ダジョウカンが子供こどものような声を出す。
〈ニンゲンの言葉を話すのか!〉
 また手がびて、別のジジが雪原にてられた。フミはジジの背中せなかにしがみつき、目をきくつじて長い毛の中に身をかくしている。ダジョウカンのうでがまた一本びると、木陰こかげに回りこんできた。げようとしたドーマを雪原におさえつける。すような冷たさがドーマをつつむ。ドーマの体温がどんどんうばわれていく。

 またジジが一匹いっぴき。また一匹いっぴき。とうとうフミがかくれているジジだけが残った。ダジョウカンの手がびる。最後のジジをまわすと、フミはジジと一緒いっしょに空中にてられ、雪原に転がり落ちた。ダジョウカンの動きが変わる。フミを見つけたのだ。
「フミ、フミ……」
「来るなー」
 泣きそうな顔で雪の上をげるフミ。しかし一歩ごとに足が雪にもぐってしまう。
〈ニンゲン!〉
 ダジョウカンは小さなあしを細かく動かしながらフミに近づいていく。雪の中でもがくフミにダジョウカンの手がびた。軽々とフミを持ち上げる。ダジョウカンの頭頂部とうちょうぶがぱっくりと開いた。中には子供こどもの歯がぎっしり生えていた。
「うわーん!」
 フミが泣き出す。フミがあばれてもダジョウカンは意にかいさないようだ。
 この手をどうしたら外せるのか。ドーマはあせった。全身の力をこめてもピクリとも動かせない。ダジョウカンのうでつめをたててもいたもつかない。あたりは荒涼こうりょうとした雪原で、使えそうなものはない。ドーマは全身に力をこめる。それでもダジョウカンの細いうでは動かなかった。
 フミの泣き声がはげしくなった。そのときダジョウカンの動きが止まった。小さな手が丸太型の胴体どうたいをなでまわし、何かをはらとそうとしている。体表に何かが付いているのだ。ダジョウカンの白いからだの上で赤と黒の小さな点が動いていた。無数の小さな生き物がダジョウカンにいているのだった。
「言ったでしょう。恩義おんぎわすれないと」
〈トランカ!〉
 トランカたちはイシャーの街からドーマたちを追いかけてきたのだった。
 ダジョウカンの身体がみるみるうちに赤と黒のイシャーのたみおおいつくされていく。ダジョウカンが子供こどもの声で悲鳴をあげた。ドーマをおさえる手がはなれる。細かく何かをくだくような音がする。ドーマはトランカが自慢じまんしていたあごを思い出していた。
 フミをつかまえていた手が根元から落ちた。フミが泣きながらす。ダジョウカンは雪のうえをデタラメにいずるが、その姿すがたはどんどん小さくなっていく。やがてイシャーのたみもれてダジョウカンの痕跡こんせきは雪の上から消えてしまった。フミがトランカたちにる。
「ありがとう、テントウムシ……ぐす」
〈助かった。感謝かんしゃするぜ〉
「これ以上進むのはあなた方には無理だろう」
 ジジを一匹いっぴきずつ助けながらトランカが言う。
「ソリに乗ればいいんじゃない」
 なみだきながらフミが言う。
〈なんだ、それは〉
「木の板を組み合わせてその上に乗れるようしたやつだよ。雪の上をすべるの」
フミが雪の上に絵を書きながら説明する。ジジはドーマから話をきいてすぐ納得なっとくしたようだ。
「ニンゲンの世界には便利なものがあるんじゃな」
 トランカはうなずくとあごするどく鳴らした。イシャーのたみがいっせいに飛びたち、やがて大量の木材と樹液じゅえきを運んできた。ジジたちが樹液じゅえきを使って短い手足で器用に固めてつなげていく。
「木を板にしてしまうとはイシャーの技術ぎじゅつはすごいものじゃな」
〈あのウェノの石造いしづくりの道にあなをあけてたぐらいだからな〉
 十分な数の板を運び終わるとトレンカが言った。
「ここは自分たちには寒すぎる。そろそろ限界げんかいだ。幸運な旅を」
〈あんたたちには感謝かんしゃしてもしきれない。またいつか会えるといいな〉
 イシャーのたみが羽根を鳴らして別れを告げる。フミはいつまでも手をった。

トショカン

 ジジとフミはソリに乗りこんだ。ソリがゆっくりすべした。身軽なドーマは木のかげから後を追う。トショカンまではなだらかな下りだ。一行は冬の森をけていった。冷たい空気が流れる。ときおり森のおくで動くものがあったが、近づいてくるものはなかった。木々の間をけだすと、前方にそびえたつ黒っぽい建物が姿すがたを表した。岩をけずしたとうだ。
〈あれがトショカンらしいぜ〉
 ドーマが後ろから声をかけた。
 ジジが一斉いっせいに上を見上げる。フミもナイトウも一緒いっしょに上を見る。あまりにとうが高くてジジの上でひっくり返るフミ。
「でっかいねー。寒いけど」
 ソリがトショカンの前で止まる。ジジがフミを乗せたままとびらに近づいた。なんのかざりもない石のとびらかぎのかたちのくぼみがある。
「やっぱりかぎがないと入れないよ」
 かぎをはめむ場所のようだ。
 そのとき甲高かんだかい笛の音が聞こえた。フミとジジは顔を見合わせる。白い大気をき、デイビーボーイが飛んできた。ドーマたちの頭上すれすれを通過つうかして、何かを落としていった。フミがとびついた。
かぎだよ!」
〈どういうことだ?〉
 デイビーボーイは頭上でくるくると回っている。何かを待っているようだ。
 フミはぴょんぴょんねながらデイビーボーイに手をふっている。
〈あいつの気が変わらないうちに、とびらを開けるぞ〉
「よっしゃー」
 かぎをフミがはめんだ。かぎはなめらかにまれると、どこかで何か大きなバネがけるような音がした。足元がかすかにれた。そして巨大きょだいとびらが頭の中にまでひびく音をたてて開き始めた。バラバラと石のかけらが落ちてくる。ここはもう長い間だれもおとずれていないはずだ。中からほこりっぽい空気が流れ出してきた。
 ドーマはとびらからすべんだ。すばやくかげに身をひそめたところであしを止める。
 トショカン内部は巨大きょだいな空間だった。石造いしづくりのとうの内部は中空で、外壁がいへき沿って四つの螺旋らせん階段かいだん延々えんえんと続いている。とうはあまりに高く、螺旋らせん階段かいだんの上の方はぼんやりとかすんでいる。中空部には、ロープ、縄梯子なわばしご、橋、あみ滑車かっしゃはりなどがめぐらされ、でたらめな蜘蛛くものようになっている。とうを建てたときのなごりだろうか。そして、その外壁がいへきすべてが本にくされていた。しかも一冊いっさつの本はフミの背丈せたけより大きい。インクとかわとカビのにおいがした。
〈……なんて数だ〉
 ドーマは書棚しょだな隙間すきまからとうを観察した。あまりの本の多さに絶望的ぜつぼうてきな気分になる。これではいつになったらカミサマのことが分かるのか。
〈どうしたらいい〉
「読んでさがすしかないの」
〈急いでるんだ!〉
「ワシもさがすぞ」
トショカンの入り口に別のジジがあらわれた。
「ワシもじゃ」「ワシもじゃ」「ワシじゃ」「ワシじゃ」「ワシじゃ」「ワシじゃ」
 ジジが続々ととびらから入ってくる。
「ジジがジジをんだのじゃ」
〈しかし雪が〉
「言ったじゃろ。ワシらは群生ぐんせい動物じゃ。どこにいても一頭。知識ちしきつねに共有しておる」
 ジジたちはみな足に短い木のソリをつけていた。フミが言っていたスキーとかいうやつだ。入り口で四方向に分かれ螺旋らせん階段かいだんをのんびりと登っていく。
 ジジは本にたどりつくと短いあしで器用に書棚しょだなからして表紙を開く。短い手がフル回転をはじめた。猛然もうぜんとページをめくる。ドーマにはとても読んでいるようには見えない。ジジの列は途切とぎれない。次から次へとあらわれて、はるか上方まで登って行く。やがて巨大きょだいなトショカンはどこをみてもジジだらけになっていた。階段かいだんを上るジジ、りるジジ、本を読むジジ、本をしまうジジ、ジジと情報じょうほう交換こうかんするジジ。
「ジジだらけだー。そうだ」
 フミはロレツを取り出してハンドルを回す。
「ジジー、さがしてる本が見つかったらフミちゃんにも見せてねー!」
 ジジが一斉いっせいにうれしそうに笑ったので、トショカンが少しれた。こうなったらドーマにできることはない。かげひそんで事態じたいながめるだけだ。フミもまた鉱石こうせきと人形を出して遊びはじめた。ナイトウがフミの上でそれをながめている。
 とうのはるか上の方で一頭ジジがなにかさけんだ。トショカン中のジジの動きがピタリと止まる。
すべての本を同時に読めば一冊いっさつを読む時間で見つかる理屈りくつじゃな」
 近くのジジがつぶやいた。やがてジジからジジにわたされて一冊いっさつの重そうな本が螺旋らせん階段かいだんの上の方から運ばれてきた。
「それじゃそれじゃ」「その本じゃ」「見つかったぞ」「ワシが見つけたんじゃ」「ワシじゃ」「ワシじゃ」
 ゆかに置いた本をジジの大群たいぐんが取り囲む。かわの見事な装丁そうていだが題名も作者名も書いてない。フミも背中せなかに乗ってのぞんでいる。ジジが本を開いてページをめくる。
「読めないよ。漢字?」
〈この島のことばだ。お前さんにはムリだ〉
 書棚しょだなかげからドーマが答える。
 フミはジジからりるとページをめくった。挿絵さしええがかれている。
「絵なら分かるよ……これがカミサマ?」
 挿絵さしえのカミサマは、小さなからだ、長い耳、赤い、黒ブチの毛並けなみだった。
「これ、ナイトウじゃん!」
〈なんだと〉
 フミはロレツのハンドルを力いっぱい回した。
「ナイトウ、ナイトウがカミサマなの?」
 ナイトウはふわふわと飛びながら悲しそうな顔で答えた。
ぼくにはこれしかできないんだよ。願いをかなえることしかね。だから願いをかなえる。でもなぜかみんなぼくきらってウェノの街にめたんだ」
 ドーマはナイトウとの出会いを思い出す。ウェノの建物から出たときにすでにニンゲンが連れていたのだ。
〈ナイトウはウェノのあの建物にいたのか!〉
「そうだよ、ぜーぜー」
 フミはハンドルを回しつかれてかたで息をしている。
〈なぜ言わなかった〉
「ドーマが聞かなかったもん。それにたなこわしたっていかっていたしさ、ぜーぜー」
〈待てよ。ギャッコでジジたちがなんでもできると勘違かんちがいされてあやうく監禁かんきんされるところだった。あれをやったのはお前か、ナイトウ。おれたちの話を聞いて先回りしたんだな〉
 ウェノを出たあとナイトウが飛び去ったのは、げたのではなくギャッコに向かったのだった。正体を知られたくなかったナイトウはトショカンへの道をざすために先回りしたのにちがいない。
〈そしてかぎてた〉
 しかしナイトウにフミをもどす力があるのならそれはどうでもいい。ギャッコではちゃんと願いがかなって、あの巨大きょだいなモニュメントが元にもどったではないか。
〈ナイトウ、ニンゲンを元の世界に返してやってくれ〉
ちがうんだよ。あのみょうな形の門がこわれたのもぼくのせいなのさ」
〈どういう意味だ〉
「そのままの意味さ」
 ミャッキの鏡でみた巨大きょだいモニュメントの崩壊ほうかい復活ふっかつ。まるで時間がぎゃくに回ったような感覚。
〈そうか! お前の力はものごとをみだし、それを元にもどすだけなんだな…… それを「願いがかなった」と勘違かんちがいさせる〉
「勝手に勘違かんちがいするんだけどね。そう。ぼくはものごとをうまくいかないようにして、それを元にもどすだけさ。それでもみんな喜んでくれるよ。だからニンゲン、君は帰れないよ。ここは君のゆめの世界だからね!」
 ドーマは愕然がくぜんとしてフミの方を向いた。なぜナイトウがニンゲンをこの世界にとどめようとするのか。
 フミはかたで息をしている。
「ドーマとナイトウの話は長すぎるんだよ。フミちゃんつかれたもん」
 フミはロレツをにぎりしめている。途中とちゅう力尽ちからつきて回すのをやめてしまったらしい。助かった。ドーマは安堵あんどで足から力がけた。
〈しばらくロレツを使うな、危険きけんすぎる〉
「ニンゲンを返してはいけません」
 聞き覚えのある声がんできた。
〈ゼッケルベッケル! お前か!〉
「ナイトウ、お前の力を使いなさい。言葉が通じなければ行動でしめすのです。ここがニンゲンの世界とはちがうと分からせてやりなさい。お前ならできます」
 ドーマは必死にゼッケルベッケルをさがす。ゼッケルベッケルもついてきたのか。声は近くから感じられるが、ジジが多すぎてほかの生き物の気配が分からない。
 ナイトウは耳を広げるとふわふわとがった。事情じじょうを聞いていないフミは喜んで追いかけて行く。ナイトウの赤いが光る。
「いて!」
 フミが派手はでに転ぶ。ゆかに置いた本につまづいたのだ。革表紙かわびょうしがっている。そこからスルリと手が生えた。フミの足首をつかむ。
「ぎょえー」
 本には三本のあしと三本の手が生えている。本は立ち上がり、フミをさかさまに持ち上げる。
「パーンチ!」
 フミはさかさまになったまま、本人間の胴体どうたいなぐる。おもわずフミを放り出す本人間。フミはふんぞりかえる。
「参ったか」
 周囲の書棚しょだなれだした。大きな音をたてて本が落ちてくる。ドーマが上を見上げると上空から本が雨のようにそそいでくる。ジジが右へ左へはじめた。頭の上に本が落ちてのびてしまうジジもいる。フミは器用に右へ左へと本をかわしている。
「よい。こら。おい。ひょい。そら」
 ドーマはしっぽをばしてフミを書棚しょだな隙間すきませた。ゆかに落ちた本からは次々と手足がはえて、フミめざしておそいかかってきた。
げろ!〉
 走りだすフミ。階段かいだんのぼって行く。くるくると螺旋らせん階段かいだんをあがっていくと、上からも本人間のれがりてくるのが見える。下からも本人間。
「うりゃあ!」

 フミは空中にジャンプした。手をばして中空にめぐらしてあるあみにしがみつき、身軽によじ登っていく。本人間たちも次々と飛びついてくるが、あみとどかず下に落ちていった。フミはあみを使ってとうの中央まで移動いどうすると、こんどはロープについてる滑車かっしゃにぶら下がる。
「アッアアー!」
 滑車かっしゃのスピードを生かして本人間のれにむ。螺旋らせん階段かいだんから転げ落ちる本人間たち。
〈本を粗末そまつにするな!〉
ちがうよ! 本を助けるんだよ!」
 すぐに別の滑車かっしゃにつかまり、一気に反対側まですべっていく。そこからまた猛然もうぜんと上に登り始めた。げまどうジジ、登ってくる本人間、りてくる本人間。それを左右にわしながらフミはひたすら階段かいだんをのぼっていく。前から本人間が殺到さっとうする。フミは中空にかけられている細い橋にとびのり、グラグラとれる橋を全速でける。追いかけてきた本人間が橋に足をかけるとその重みで橋がくずちた。それを見るなりフミはすばやくジャンプしてロープにしがみついた。ブランコのように左右にいきおいをつける。
「とおー」
 えがいて大きくちゅうを飛ぶと本人間の集団しゅうだんに頭からむ。バラバラと下に転げ落ちていく本人間。フミは立ち上がるとさらに上を目指す。本人間たちの数が多ければ中空部のロープや橋を使い、少なければ素早すばやく左右にかわす。だれもフミを止められない。
「意外と軟弱なんじゃくですね」
〈……ゼッケルベッケル。出てきやがれ〉
わたしかくれたことはありませんよ」
 とうとうフミはナイトウのかんでいるところまで上がってきた。
「こら、ナイトウ! やめないとフミちゃんいかるぞ!」
 ナイトウの赤いがフミを見つめる。フミの周囲の本が一斉いっせいかべから飛び出した。フミの上に殺到さっとうする。あっという間にフミの姿すがたが見えなくなる。
 本人間の一体がポンと空中に飛び出した。まっさかさまに落ちていく。隙間すきまからフミのあしがのぞいている。本人間をり飛ばしたらしい。フミが隙間すきまからがってくる。そのあしを本人間がつかんだ。フミの身体がかたむき、そらに放り出された。
「落っこちるー!」
 フミの身体がまっさかさまにとうを落ちる。
〈ジジ!〉
「ワシじゃ」「助けるのじゃ」「ニンゲンを」「ほら集まれ」「ほら集まれ」「集まって助けるのじゃ」
 ジジの大群たいぐんが一箇所かしょに集まる。バフっと音をたてて灰色はいいろの波の中にフミの姿すがたが消える。
「いてて。フミちゃん、落ちてばっかりだよ」
 フミはバケのかわを頭からかぶった。
「ジジになれ、むにゃむにゃ!」
 フミの姿すがたがジジのれに消える。本人間たちはフミを見失って右往左往うおうさおうしている。ジジがとうの中央に集まり始めた。ジジの上にジジが、そのジジの上にジジが乗る。やがて見事なジジのピラミッドができあがった。
 ピラミットの頂上ちょうじょう近くで一頭のジジが立ち上がった。さっとバケのかわてる。フミだった。
「いまです、ナイトウ」
〈見つけたぞ、ゼッケルベッケル!〉
「……わたしが声を出すのを待ってましたか。これはやられました。しかしあなたはわたしのところに来られますか。この光の中に」
 フミがぶちまけたカバンの中身。古い木作りの人形から声はひびいてくる。
〈まさかニンゲンの持ち歩いていた人形がお前だとはな〉
 ドーマは今までの疑問ぎもんのかけらがすべて正しい位置におさまった気がした。
〈お前もナイトウもずっとウェノにいた。そこでナイトウにお前の話をんだんだな。お前とナイトウはニンゲンに連れられてウェノを脱出だっしゅつしたが、オレたちがトショカンを目指していると聞いて、ナイトウをギャッコに先回りさせた。ぜんぶお前の指示しじか、ゼッケルベッケル〉
「それはどうでしょう」
 かげの中にしかいられないドーマと、自分では動くことのできないゼッケルベッケルの奇妙きみょうな対話が続く。
〈後をつけられているかと思ったが、オレたちがご丁寧ていねいに運んでいたんだな。だからお前が話すのはニンゲンがカバンからはなれたときだけってわけだ。しかしデイビーボーイはどうやってあやつった?〉
ぎゃくですよ。デイビーボーイはあなた方の味方なのです。ナイトウにてさせるつもりのかぎを横取りされたのには参りました。あれはニンゲンにゆかりのものですか?」
 おにいちゃんが持っているとフミは言っていた。デイビーボーイはかぎとゼッケルベッケルたちが一緒いっしょになるのをふせいでくれたのだ。
〈フウセンカズラで移動中いどうちゅうにニンゲンをおそったように見えたのは、お前を攻撃こうげきしていたのか〉
「そういうことになりますね」
 ドーマは時間稼じかんかせぎをしていた。
 あとはフミにまかせるしかない。ゼッケルベッケルに余計よけいなことはさせない。
〈お前は自分で歩くこともできない。ナイトウを手先に使ったのはそのためだな〉
わたしは理を説いただけですよ」
 そのときフミの悲鳴が聞こえた。
 ナイトウが耳を羽ばたかせて、フミに体当たりしたのだ。ジジのピラミッドの上でフミのからだが大きくはねて転落する。落下地点にはジジがいない。
「あそこから落ちればさすがに気づくかもしれませんね」
〈……!〉
 ドーマはかげから飛び出した。全身のバネをつかって跳躍ちょうやくする。間一髪かんいっぱつ、転落してきたフミの下にすべんだ。フミのからだがドーマの上でねる。フミはおどろいてドーマを見つめた。ビロードのようになめらかな黒い毛並けなみの山猫やまねこ、ピンととがった尻尾しっぽ、そしてドーマには顔が無かった。ドーマにきつくフミ。
〈お前さんは、オレがこわくないのか〉
「ドーマはフミちゃんがこわいの?」
〈……よし、しっかりつかまれ〉
 ドーマの全身に力がみなぎった。力を開放かいほうしてジジのピラミッドをがる。ドーマはおそいかかる本人間たちをやすやすとかわしていく。かろやかに跳躍ちょうやくしながら、またたにナイトウの側までたどりついた。
〈後はまかせたぞ、ニンゲン〉
 フミはドーマからりて、正面のナイトウをにらみつけた。
「ママに聞いたもん。ナイトウ、赤い寝不足ねぶそくなんだぞ!」
 フミは、ロレツを回しながら歌いはじめた。

♪鳥もパタパタ もうねむたいね
♪ウサギもぴょんぴょん 時間割じかんわり
♪ジジもモフモフ 歯をみがこう
明日あしたがくるまで みんなおやすみー
♪でんでろでんでろ

 不思議そうな顔をしていたナイトウのがだんだんじてくる。耳の羽ばたきがおそくなり、ふわふわと下降かこうをはじめた。
「ナイトウ、なにをしているんですか。ニンゲンを返してはいけません」
 フミの子守唄こもりうたひびわたる。
 ピラミッドのジジたちが次々とねむりに落ちていく。気持ち良さそうなイビキがきこえてきた。ナイトウがジジのピラミッドの中ほどに着地してじる。ナイトウの力が失われ、本人間たちがいっせいに本にもどった。本がジジのピラミットを転げ落ちていく。
 ねむり。ここではだれも体験したことのなかったもの。ゆめの世界に欠けていたもの。いまゆめの世界の島にはじめてねむりがもたらされたのだ。ナイトウも、ジジたちも、そしてドーマも。
「ナイトウ、ナイトウ。どうしたのです」
 そこへ本があらしのようにってきた。一冊いっさつがゼッケルベッケルの上に落ちる。
「ぷギュー」
 ゼッケルベッケルはばらばらの木片もくへんになって飛び散った。
 ジジのピラミッドがくずれていく。ナイトウはゆかですやすやねむっている。
「ふわー、フミちゃんまでねむくなってきちゃったよ」
 フミはふかふかのジジのベッドの上に大の字に寝転ねころんだ。
 ドーマはうすれていく意識いしきの中で思う。たとえゼッケルベッケルのいうようにニンゲンはまた新しいゆめの世界を作るのだとしても、またこのニンゲンの世界に生まれたいものだ。この好奇心こうきしんの強い、エネルギーにあふれたニンゲンのゆめで。ドーマは心の底からそう思った。

――おしまい――

フミちゃんドリーム

2013年1月12日 発行 初版

著  者:まつながけいいち
発  行:まつなが出版

bb_B_00111500
bcck: http://bccks.jp/bcck/00111500/info
user: http://bccks.jp/user/118761
format:#002t

Powered by BCCKS

株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp

まつながけいいち

フミちゃんのパパになって9年目

jacket