テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時、お伝えしていく予定です。
※このメールマガジンの発行予定日は第1~第4金曜日です。
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この本はタチヨミ版です。
♣遠隔操作ウイルス事件の捜査が進展しない原因はどこにあるのか
♣社会を変える人材の育て方(前編)
──被災地復興のリーダーを支える〝右腕〟たち
∇ツイッター社員たちが交わした1週間の会話
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※ゴールデンウィーク、お盆、年末年始には、適宜、合併号を発行します。
なお、取材期間などの関係で不定期に休刊することがあります。
みなさんこんにちは。津田大介です。
突然ですがおにぎりを食べて感動した経験ってありますか? 僕はこれまでコンビニのおにぎりを食べて既存の価値観がぶち破られるような感動をした経験が2回あります。1回目は小学生のとき、近所にできたファミリーマートで「ツナ」のおにぎりを食べたときでした。それまでおにぎりといえば母親が作る「鮭」か「たらこ」か「梅」しか存在しないものだったからです。マヨネーズで和えられたツナがおにぎりの具としてこんなに革新的なおいしさをもたらすものだったのか! と目から鱗が落ちたことを覚えています。津田大介10歳のときの話ですね(1983年)。
もう1つは、今からもう10年以上前になるでしょうか。セブンイレブンのしっとり型おにぎり「ねぎ味噌」を食べたときです。味噌がおにぎりの具になるということは知ってましたし、食べたこともありました。しかし特段おいしいと感じることはありませんでした。しかし! セブンの「ねぎ味噌」おにぎりは違った。信じられないおいしさに満ちていました。動物性タンパク質を使わなくてもこんなにおいしいおにぎりを作ることができるのだ、と衝撃を受けたことを昨日のことのように思い出します。
その後おにぎり評論家となった僕ですが、僕を十分に満足させてくれる味噌系のおにぎりはなかなか現れませんでした。セブンイレブンは定期的に味噌系のおにぎりを投入してくるのですが、最初に発売したねぎ味噌を超えるインパクトのおにぎりは僕の中では出てきていません。
しかし! 今週ついに現れたのです。久々に僕を感動させるおいしさを持った味噌系のおにぎりが! その名も「手巻おにぎり しょうが味噌」!
http://www.beeboo.co.jp/shopdetail/2040418101751/
これはおいしいです。しょうがをかなり効かせた味付けながら、味噌の良さも十分残しており、それが白米と組み合わさることで絶妙なハーモニーを醸し出しています。ここ数年、セブンイレブンのおにぎりで5つ星を付けられるのは「焼つくね」だけだったので、久々に5つ星おにぎりが誕生しました。みなさんもぜひお試しあれ。
あ、そういえばなんか世界経済フォーラム(ダボス会議)が選出する今年のヤング・グローバル・リーダーズに選んでいただきました(http://news.mynavi.jp/news/2013/03/14/157/)。ヤングでもグローバルでもないので、なぜ僕が選ばれたのかと今でも不思議なのですが、米国在住で世界銀行のSocial Media Communications Officerなどを務める立入勝義さんが推薦してくださったみたいですね。ダボス会議の担当者の方に会った際に、この件で「推薦を受けたとしても、実際にはかなりデュー・デリジェンスをして選ばれてますから」と聞きました。俺のことデューデリした上で、それでも選ぶというのはダボス会議の調査力に一抹の不安を感じずにはいられないわけですが(冗談ですよ)、いや、ホントにありがたい話です。ここ数日「津田大介」でツイッター検索すると「津田が権力者層に取り込まれる第一歩だ」とか「今後、あいつはネット世論のコントロール役としていいように使われるから言動には注意しないと」といったネガティブな反応がいろいろ見られます。人間の想像力は豊かだなと思う反面、もちろんそういう部分もゼロではないとも思うので、今後は大局的な視点からヤンググローバルな話題(http://live.nicovideo.jp/watch/lv129161083)を、ソーシャルメディアに投げかけていきたいといきたいと思います。
まぁ、たぶん今までとやることはあまり変わらないとは思います。お金が儲かるようになって、政治メディア作りが楽になるといいなーとは思いますけど。ヤンググローバルな金銭的サポートが舞い込むよう、星に願っていきたいと思います。
ということで、津田大介のヤンググローバルメルマガ、スタートです。今号も面白いコンテンツたくさんご用意しました。Have fun!!!
vol・69─1
津田大介が今気になっているニュースを1つピックアップし、解説します。
〔毎号配信〕
2月10日に威力業務妨害の疑いで「真犯人」と目される人物が逮捕されたことで、急速に進展を見せた遠隔操作ウイルス事件。しかし、逮捕された容疑者は一貫して容疑を否認しており、一度は検察が処分保留にするなど、警察も容疑者が犯人である決定的な証拠にはたどり着けていない様子がうかがえます。はたして逮捕された容疑者は真犯人なのか。また、この事件の捜査が進展しない背景には何があるのか解説します。
──2月10日に遠隔操作ウイルスの「真犯人」と目される片山祐輔容疑者が威力業務妨害の疑いで逮捕[*1]されてから約半月が経過しました。以降、マスメディアや警察は彼の逮捕につながる情報を小出しにしていますが、最近、彼が録画・録音しない限り取り調べには応じない[*2]というスタンスを打ち出して以降は、あまり大きな進展はなくなってきています。ズバリ、彼が真犯人である可能性は高いと思いますか。
津田:既に4人を誤認逮捕させられる[*3]という赤っ恥をかかせられた状況ですし、わざわざ逮捕前からマスメディアにリーク情報を流し、テレビ局に猫カフェに行ってる姿などを撮影させている[*4]警察ですから、彼らとしても真犯人であるという相応の自信があるんだと思います。さまざまな状況証拠から考えて僕も可能性は十分にあるとは思いつつ、真犯人であるかどうかはまだ断言できる状況ではないですね。そして、もう一つ、もし彼が真犯人であったとしても、起訴されて有罪になるかというのは別の問題なんですよ。
──というと?
津田:警察は確信を持って逮捕に踏み切ったのでしょうが、片山容疑者が真犯人であることを公判でも認めさせる客観的証拠をどこまでつかんでいるかという点がカギになるんだと思います。というのも、元検事の落合洋司弁護士が語っているように[*5]、サイバー犯罪は殺人事件と違って状況証拠を積み上げれば有罪にできるタイプの犯罪ではないからです。起訴しても警察・検察が「片山容疑者が真犯人である」という決定的な証拠を公判で示せなければ、証拠不十分ということで無罪判決が下る可能性はある。現状はそのあたりのラインが微妙なケースなんだと思います。
逮捕につながる大きな状況証拠の1つと言われるのは、片山容疑者がネコに近づく様子が江の島の防犯カメラに写っていたことですが、あくまでこれはネコに近づく様子が写っていただけであって、片山容疑者がネコに証拠となるSDカードが含まれる首輪を取り付けた映像が公開されているわけではありません。片山容疑者の弁護人である佐藤博史弁護士[*6]は警察や検事に「片山容疑者がネコに首輪を取り付ける映像があるならそれを見せてほしい」と要望したそうですが彼らはそれを示すことはできなかったそうです[*7]。警察としても、もしその映像があるならすぐにでも公開しているでしょうし、江の島の防犯カメラの映像は状況証拠の1つに過ぎないんでしょう。
もちろん、ほかの状況証拠もあります。犯行予告で「メモリーカードを埋めた場所」とした雲取山付近を車で走行していたことがETCの履歴やNシステム[*8]で確認されています。そして11月13日に報道機関などに送られた自殺予告メール[*9]で添付されていた写真の人形と同じ人形をネット通販で購入していたということも明らかになっています[*10]。
そして、2月20日に報道された大きな「証拠」とされるのがFBIから提供された情報です。米国のクラウド型ファイル保存サービス「Dropbox」[*11]に一連の遠隔操作ウイルス事件で使われたすべてのバージョンのウイルス「iesys.exe」が残されており、そこに片山容疑者が派遣されていた港区のIT関連会社のパソコンを示す付帯情報があったそうです[*12]。
それに加えて「真犯人」はウイルスを侵入させるための「おとり書き込み」を2ちゃんねるなどの掲示板にする際、接続経路を匿名化する暗号化接続ソフト「Tor(トーア)」[*13]を使って行っていました。Tor経由の書き込みは発信元の特定をすることが困難なのですが、書き込みの一部にTor経由ではないものがあり、そのアクセス記録を警察が調べたところ、港区のIT関連会社であることがわかり[*14]、これがFBIが突き止めたIT関連会社と同じだったわけですね。Dropboxは作成途中のウイルスの「保管」目的で使われただけでなく、遠隔操作──他人のパソコンを乗っ取るためのマルウェア[*15]をダウンロードさせる目的でも使われていた[*16]ので、よほどのことがない限り「真犯人」以外は使わない。そして、マルウェアの感染を促す書き込みも同じ会社のパソコンからなされていた。この2つが一致したことに加えて防犯カメラなどの「アナログ」な状況証拠を組み合わせることで警察は片山容疑者に行き着いたんだと思います。あとはここから先、どれだけ直接的な証拠を警察が見つけられるかでしょうね。
──起訴するかどうかを判断する検察はこの事件についてどのようなスタンスなのでしょうか。
津田:疑わしいものの、「直接的な証拠」を警察はまだ見つけられていないという判断のようですね。実際に、片山容疑者が2月10日に逮捕された威力業務妨害容疑について東京地検は3月3日に「一層の慎重な捜査が必要」として処分保留にしています[*17]。これは、「現時点での状況証拠だけでは起訴は無理」と検察が判断した結果です。
しかし、処分保留と同時に今度は警察が遠隔操作ウイルスによって誤認逮捕した日本航空宛ての脅迫メール事件でハイジャック防止法違反(航空機の運航阻害)と偽計業務妨害の疑いで再逮捕しました[*18]。法律上、逮捕されて刑事施設に留置される時間は最大で72時間となり、その後勾留され、取り調べを受けます。勾留期間は10日間ですが、10日間の延長が認められており、取り調べがうまく進まない場合など、多くは10日間延長され、合計20日間勾留される。つまり、一度逮捕されると留置+勾留で22〜23日程度は身柄を拘束されるわけですね[*19]。3月3日に片山容疑者が再逮捕されたのは、この勾留期間と大きな関わりがあります。警察は勾留期間をフルに使ったものの、片山容疑者に「自白」させることができず、東京地検も有罪に持ち込めるだけの確証がないと判断し、処分保留にした。つまりは「時間切れ」になってしまったということですね。
しかし、遠隔操作ウイルスは同時多発的に行われたので、別の容疑で逮捕してしまえばまた23日間拘束できる。そのため「ハイジャック防止法違反」なんていう大げさな罪状を持ち出して再逮捕したと。一連の遠隔操作によって引き起こされた事件は全部で13件あるとも言われています。警察は片山容疑者が真犯人だと確信しているようですから、彼が自白するか、もしくは客観的な証拠が見つからない限り、勾留期限を迎えたら別件で再逮捕し、事実上ずっと拘束を続けるつもりなんでしょう。この再逮捕については佐藤弁護士が「不当逮捕だ。大阪の事件では誤認逮捕しているのに、警察は恥の上塗りをした」[*20]「誤認逮捕の時も、それなりの客観証拠はあった。その客観証拠を被疑者に突きつけて、反論や弁解を聞くべき。言い分も聞こうとしないで、有罪に持ち込もうなどとありえない。目の前にいる被疑者が真実を知っている。その言い分に冷静に耳を傾けるべき。そうではなく自白を取ろうというのは間違っている、というのが足利事件の教訓だったはず」[*21]と強い調子で警察を批判。こうした再逮捕で自白を強要する警察の手法を「代用監獄」と批判する記事[*22]も出てきてますね。
──片山容疑者が真犯人でない可能性は?
津田:佐藤弁護士は2月21日に行われた記者会見で「1月3日午後3時半以降に江の島で撮影されたネコの写真」の提供を呼びかけています
タチヨミ版はここまでとなります。
2013年3月23日 発行 初版
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ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。
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