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わたしがDSDで泣いた日

ふじもり さら



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  この本はタチヨミ版です。

 

  

 


DSD(=Direct Stream Digital )

スーパーオーディオCDがアナログ音声をデジタル信号化する際の方式。オーディオの世界においてはCD-DAに用いられるリニアPCM方式に代わる新技術であるが、原理自体は新しいものではなく、古くからあるパルス変調の一つであるPDM方式(パルス密度変調方式)に商標を付けたもの。

まえがき

 2012年3月、私は全く就活をせずに大学を卒業して、とりあえずフリーターへの道を進むことにしたところだった。

ある日、普段何となく眺めていた音楽配信サイトOTOTOYのトップページに、インターン募集中と書かれたバナーを発見。そして、最初からそのつもりであったかのように何のためらいも無く、応募のメールを送った。仕事内容の内の「インタビューの書き起こし」という仕事に興味を持ったのだ。アーティストがどのように考えて音楽活動をしているのかを、本人が話している声を聞きながら知ることが出来るなんて激アツじゃないか!と。そんなきっかけで、学生でもないくせに4月からOTOTOYインターンが始まった。

白状すると、その頃の私はまだ、OTOTOYでのインターンを志望したくせにインターネットで音楽を買うことにすら抵抗があった。高音質で音楽を聴くことにもほとんど興味が無かった。音質が悪くたって、メロディーや音楽の良さや、プレイヤーの魂は変わらないよ、と思っていた。そして、実家から持って来ていたアナログ盤を聞くのが最高の贅沢だと思っていた。

いつの間にか夏になり、インターンとしてOTOTOYに通うようになってまともにDSDを体験しないまま数ヶ月が経たってしまった。さすがにそんな状況が後ろめたく、居心地が悪くなって来た頃、OTOTOYのDSD音源一覧の中からFISHMANS+の「A PIECE OF FUTURE 2011」を見つけた。私はFISHMANSが高校の頃から大大大好きで、最も影響を受けたバンドのうちの一つだ。お金の無駄遣いは出来ないフリーター生活だが、この曲は特にお気に入りだったので、これなら買って損した気持ちにはならないだろうと、思い切って購入してみた。DSDの再生ができるというフリーソフト「AudioGate」もダウンロードし、電気屋で何度も試聴して選んだお気に入りのヘッドホンも装着。

さっそく、DSD音源を再生してみた。

丁度、バイトに行く前の昼頃だった。この時、カーテンの隙間から見えた晴れ渡った空は、一生忘れないだろう。イントロの風のような音が耳に流れ込んで来た瞬間、両肩から腕、そして指先にかけてが、びりびりとした感覚に包まれた。まるで、耳元で彼らが演奏しているかのようで、ヘッドフォンを付けていることなど、むしろ、部屋に居ることすら、いつの間にか忘れてしまっていた。お腹の辺りで、心がとても喜んでいた。表情筋に力が入っているのが分かった。いつの間にか、私は泣いていた。

それが私の、DSD初体験の瞬間だった。

この感動の余韻に浸りながらバイト先に向かおうと、iPhoneにA PIECE OF FUTURE 2011のmp3データを入れて電車に乗り込んだ。さっきの喜びを期待して、再生してみる。同じヘッドホンで聞いているのに、何だかさっきとは印象が違う。もちろん音楽そのものは素晴らしいし、頭も体も揺れるし、感動もあるのだが、涙が出る程では無かった。さっきの感動は一体何だったのか...。拍子抜けしたことも、はっきりと思い出せる。どうやら、二回目だからとか、そういうことでは無いようだった。バイトに向かう電車の中で多摩川を見つめながら、私が今まで聴いてきたmp3というデータはこんなに味気の無いものだったのか...そう思った時、私の音楽鑑賞の概念は、ガラガラと崩れていった。そしてその直後、音楽鑑賞の可能性への期待も膨らんできた。壊れたところから新たに生まれてくる好奇心、様々な疑問。「一体、この二つの音源の違いは何なんだろう。」「DSDってやつぁ何者なんだ。」「何が私に涙を流させたんだろう。」

DSDのことを、もっと知りたい。

そして絶妙なタイミングで、BCCKSのワークショップでOTOTOYの本を出すことになった。せっかくのタイミングだ、これから深めて行く知識や経験を体験記として本にまとめてみよう。
こうして、私はこの本を書き始めた。この本が、音楽好きの女の子たち(もちろん男子たちも!)の元に届き、DSDの良さがより多くの人々に広まることで、いつか家電量販店にDSDのコーナーができることを願って。

——ふじもり さら



 



 


 
 本書の最終目的は 「わたしはどうしてDSDで泣いたのか?」、その答えを見つけることだ。
先ずは、DSDとmp3の差を目の当たりにしてから、頭の中に浮かび始めた数々の疑問を整理し、一つ一つ解決してゆく必要がありそうだ。

あのときの衝撃を思い出して、これまでの私の思考を、順を追って見てみる。



  タチヨミ版はここまでとなります。


わたしがDSDで泣いた日

2012年7月26日 発行 初版

著  者:ふじもり さら

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藤森 沙羅
@fujimorisara


1989年生まれ/山梨県小淵沢町出身/フリーター/2012年4〜10月の半年間インターンとしてOTOTOYで勤務/ギリシャリクガメを飼っている/お酒あまり飲めない/シンガーソングライター タニザワトモフミのコーラス(愛称:サリー)/詩的集団POEMERSのメンバー/

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