Interview!、今回は京都府立植物園樹木医の肉戸 裕之さんに話を聞いた。もし植物が病気をしていたり枯れかけていたら、必要な処置を施す樹木医の仕事と、植物園の取り組み等について話を聞かせてもらいました。木や花、もの言わぬ植物達の声を聞く人は、どんな風に世の中をみて、日々を過ごしているんだろうか。
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この本はタチヨミ版です。
私が担当するこのゾーンは「日本の森 植物生態園」と言いまして、一万五千㎡のエリアに北から南まで日本全国に生育する約千種類の植物を集めています。公園のようにきれいに整備するというよりも、できるだけ山の雰囲気ありのままにみせることを大切にしています。だから枯れた枝などもむやみに伐らずにそのまま置いています。
この枯れた木には、キツツキが巣を作り、今年の春に三羽のヒナが巣立って行きました。一見、雑草のようなものでも絶滅危惧種など、レッドデータに記載されているかなり貴重な植物もあります。
鳥が種を運んできて生えている植物もあります。朝来ると、ムクドリ、ウソ、など多種多様な鳥がいます。お客さんが来られたらどこかへ隠れてしまいますけれど、早朝に来たらすごく多いですね。
京都にある植物園ということで、京都の植物を展示することで特色を持たせることができればいいと思うのです。沖縄や北海道に生える珍しい植物もありますが、京都で普通に見られる木や草も積極的に展示していきたいです。園内で名札が付いてある植物を図鑑と照らし合わせることで、これはこういう植物なんだなと知り、実際山へ行った時や自生しているものを見たときに「あの木だな」と分かってもらえればいいと思うのです。だからそんなに貴重なものばかりではなく、普段身近にある木や草も植えていきたいのです。
面白いものでは、サロメチールに似た匂いがする木があります(サロメチールは湿布の匂いに似ています)。ミズメと言いますが、別名、夜糞峰棒(ヨグソミネバリ)といいます。名前からして強烈な匂いを連想させられそうですが、昔の人は強烈なこの匂いを嫌っていたのでしょうね。この木は、ふつう公園にはないです。京都でも少し深い山の方に行けば自生していると思います。植物園では子供たちが来たときに小枝を渡して「匂いを嗅いでごらん」という風に案内すると、びっくりしながらも喜んでくれますよ。
錦葉椿といって、葉の形が金魚の形をしている木もあります。これは形がユニークなので花屋さんにも出回っていますが、これだけ大きなものは珍しいですよ。
植物の盗難が結構多いので困っています。世界中どこの植物園でもそうでしょうが、ちょっとでも珍しい植物を展示すると、どうしても盗まれてしまうというリスクがつきまといます。広い園内をずっと張り付いて見張っているというわけにもいきませんし、野山に入った雰囲気で見ていただきたいというここのコンセプトもあるので檻をつけるわけにもいきません。ある日見に来たら、ない、というのはやっぱりショックですよ。まあ自然の山から引っこ抜くより、植物園なら種のストックをしていて補充がきくのでマシかなと思うようにはしていますが、ショックですね
植物は生きているとは常々感じています。物も言いませんけど。それゆえに私の勉強不足で枯らしてしまったりすると、本当に情けなく感じてしまいます。
普通は三月頃、早春に植物を植えかえたり、移植することが多いのですが、種類によってはこの時期に触ってはいけないものもあるのです。それを勉強不足で動かして枯らしてしまったり、そういう時はものすごくやるせない気持ちになります。
木というのは一気にではなく徐々に枯れていくので、毎日見ていると、元気がないなとかは分かるようになってきます。そこを見逃さないようにするのが大事というか。植物の顔色をいつも伺っています。だから長めに休みを取って旅行に行ったりすると少し心配になってきたりもします。これは職業病みたいなものですね。休み明けの日は不安だったりします。担当者がもう一名いますので情報を伝え合ってはいるので大丈夫は大丈夫なのですが……。
植物園全体では一万二千種類の植物があると言われています。私自身、まだまだ知らない植物というのもたくさんあり、新しい発見があります。その度にまだまだ勉強不足だと思い知らされています。調べる方法は、基本的に図鑑ですが、上司や詳しい人がいれば、その人に直接聞いたり、一緒に山を歩くのが一番勉強になる方法です。
日本の植物を担当している関係で、休みの日にも山へ行き自生地の勉強をしています。地元の詳しい人に案内してもらったり、山主さんがいたら、一緒に行って「この木の種、ちょっともらいますよ」という感じで種子をもらったりします。植物園では、苗や木を運んでくるというより、種から育てるのが基本なんです。海外の植物園と種子を交換して新しい種子を導入したりもします。趣味と勉強を兼ねて。仕事以外でも、ほとんど植物に関することをしています。
種子は植物園内で昔から栽培しているものもありますし、園芸店で購入する場合もあります。ただ、どこのなんという植物なのか、きっちりしたデータがあるものでないと植物園では展示・保存できないので、信用のできる人から種をもらいます。もし担当者が代わっても把握できるように、出所を明らかにして、データは管理しています。そうでないと同じ植物でも、地域が変われば変異があったりしますし、遺伝子的に違う由来のものになってくる可能性もあるのです。
小学校や中学校くらいのころから、植物や農業に興味があって、経済とか法学系の学問よりも農学系のことの方がやってみたいなという漠然とした興味はありました。自分の中学校時代の卒業文集などをみてもやっぱりそういうことが書いてありますね。今でも家で家庭菜園をしたりとか、いろんな植物を育てています。そういうことがもともと好きなんです。食糧問題にも興味がありました。食糧自給率って日本は低いじゃないですか。ああいうのを何とかしようと思ったら、やっぱり農業からかなと思っていたんです。
あまり勉強しなかったために一年浪人したのですけれど、漠然と農業系のことを学びたいなということは思っていたので、あまり不安にはならなかったですね。最初から植物園と決めていた訳でもありません。ただ、なんか農業に関係することがやりたいなと漠然と思い続けてはいました。
大学では森林や林業を学ぶ林学科というところで学びまして卒業後は京都府庁に入りました。そこで山の管理などをする部署に配属になりました。
最初の勤務先は、京都府北部の舞鶴になり、そこで鳥獣保護や保護区域の設定などの仕事をしていました。最初の一年は慌ただしかったです。山中で鳥が巣から落ちているとか、人里付近におりてきた猿を捕獲したり、連絡が入るたびにそこへ行って対策を考えていました。いきなりよくやっていたと思いますよ、我ながら(笑)。
もともと鳥なんかあまり知らなかったんですが、その時に鳥の種類なども勉強しないといけないなと実感して少し勉強しました。
京都府北部地域で森林や林業の開発許可などに関係する仕事に携わった後、京都府の本庁の森林保全課に配属になりました。そこでは、これぞ行政というような仕事ができたので、そこはそこで面白かったです。企画や予算も自分で立てて、全国各地の同じ仕事をしている都道府県の仲間と連絡を取り合ったのでネットワークができたりとか、ハードワークでしたがやりがいはありました。自分で仕事を作っているという実感がありました。出先機関にいるときは、そこの地域の方達とこの地域をどういう風に良くしていこうかと話し合える良さがあり、それはそれで面白かったのですが、本庁には本庁の面白さ、やりがいがありました。その時は今と違って完全に行政マンでした。ここ、植物園とは仕事のやり方や時間の流れ方がまったく違っていましたね。
そして、この植物園に勤めて五年目になります。しかし植物園では、私はまだ新入りの方です。下から2番目とかそれくらい。ベテランの方達に比べればペーペーというか、まだまだ歴史が浅いです。
植物園の職員は府の職員なのですが、長くいる方が多いですね。二十年、三十年なんていう方はたくさんいらっしゃいます。ベテランの方達の中にはずっとここに勤めていて、技術的にかなりすごいものを持っていられる方もおられます。
今ちょうどそういう方達がどんどん辞めていている時期なのです。それが問題になっていて、若い人をその分入れているかといえば、そうではないので植物を栽培する技術を持っている人が伝えられない。それがちょっとネックになっていますね。
「ここは生きた植物の博物館だ」と園長がよく言ってますので、私はその言葉に忠実に仕事をするようにしています。博物館というなら、種類を集めて、分かりやすいように展示して、単に植えてあるだけではなく、来てくれた人がちゃんと見られるように展示するものだと解釈しまして、そうしているつもりです。
ここでのやりがいを一番感じるのは、来てくれたお客さんが緑に親しんでくれている光景みるときですかね。私たちは公務員なので、府民の方がいて、そのおかげで植物園もあるし僕たちも働いている。府民になにかの形で返していきたいという思いがあって、だからでしょうか、来てくれた方たちが楽しんでくれている、憩いの場となっている光景をみるとほっとしますね。子供たちが自然に触れて何かを学んで帰ったり、親子連れでいらっしゃっていたり、そういう光景に関われているというだけで十分幸せですね。
それから私個人として取り組んでいきたいなと思っているのは、絶滅危惧種などに指定されている植物の保全や保護にも携わっていきたいですね。前任者がやっていましたので、それを引き継ぐ形で始めたのがきっかけです。日本の植物園同士がネットワークを作って、絶滅危惧種の保存や増殖を行っておりますが、絶滅危惧種を植物園で緊急避難的に保護しても、栽培が困難なものが多いのです。もともと生息する環境でしか生きることができないという植物が、絶滅しかかっているので、生息する環境を守ることが大事です。いくら人工栽培が成功しても根本的な解決にはならないのです。
保護した環境で生き残ることと、もともとの自然の環境で生き続けることは違うと思うのです。貴重な植物を保護するのも植物園の役目ですが、もともとの自生する環境に戻す取り組みも必要なのです。トキやコウノトリと同じです。
単に花がきれいに咲いている場所が植物園というのではなく、そういう方面にも力を貸していけるようになりたいと思っています。緑の憩いの場を提供するだけではなく、保護、保全という分野は私たちがやるべきことではないかと思うのです。
また、そういった活動をしていることのPRもしていかなくてはならないです。単に珍しい植物を持っていますというのでは、趣味の世界と変わらない。どういう植物で、どういった理由で保護していると明確にして、その情報を示して、PRしていかないとと思います。
活動や取り組みを認めてもらうためには、まずはお客さんに来てもらわないといけない。年間数千人しか来ないようでは、何を言っても聞いてもらえなかったりするかもしれませんが、数百万人も来る植物園が言っているんだったら納得してもらえる。
お客さんに来てもらい、楽しんでもらうという努力をしつつ、希少な植物の保護・保全の活動もやり成果を出していかなくてはならないのです。だから関わる仕事、全部大事ですね。
こちらの湿地ゾーンにはイヌザクラという樹木があります。もともと二本の幹が根の部分で繋がっていていたのですが、一本が台風で折れてしまい、その部分が腐り始めてしまいました。だから今再生させているところです。皮の部分から新しい根が出てくるので、その根を活かして再生できるようにしているところです。これでだいたい三年目です。直径五ミリくらいの細い根っこが今では三センチくらいにまでなっています。これが将来、幹になればこの木もまだまだ生きられるかなと思っています。
この木、実は植物園にも一本しかないので、もし枯らしたら首だと先輩職員に脅かされていたりするんです。一応、サクラの一種なので春には咲きます。きれいな白い花で、あまりサクラっぽくはないですけれどきれいですよ。樹齢はおそらく五十年くらいは経っていると思います。イヌザクラを治療したように、樹木医の仕事もやりたいのです。私のライフワークとして、樹木医の仕事にももっと本腰を入れてみたいなと思っています。今は植物園の担当エリアの中で出来ることをしていますが、将来はもっと本格的に。
タチヨミ版はここまでとなります。
2013年6月16日 発行 初版
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2012年5月に始動したInterview!プロジェクト。インタビューという手法を用いて、世の中を読み解き伝えるというテーマのもと、フリーマガジン『Interview!』を創刊しました。京都や大阪で配布している本フリーマガジン。ここでは過去に『Interview!』で公開されたインタビューや最新のインタビュー等を公開していく予定です。 About us 「Interview!プロジェクト~芸術力とは何かを問う、本の出版プロジェクト~」 人と話す。相手を引き出す。わたし達が追う「芸術力」というのは、一般に言う美術・芸術の類のものではない。各々が持つ感覚や感性、つまり生き方に表れるものである。当たり前のように存在しているからこそ、人々は見落としがちだ。だが、特出して誰の目にも見て分かるものだけが素晴らしき芸術の力ではない。だからこそ、インタビューという手法を用いて、世の中に数多存在する芸術力を見出し、伝える。そうして出会った芸術力に、人は触発され、自らの行動に落とし込むことができる。では、わたし達はどうやってそれを伝えればいいのか、本を出版して人々に問うことを選択した。文は人の意思によって読まれる。何もしなくとも進んでいく映像とは違い、自分で読もうとしなければ何も進まない。つまり、人が文を受け入れながら読むため、心に響きやすい。芸術力を「感じ」とってもらうには最適な方法。お金も知識もないが、自分にできることはなんだってやる。自己満足で終わらせないために、本の出版という形で人に情報を発信するのだ。作ることで糧を得、わたし達、そしてこの『Interview!』を手にした人が生きることに繋がるよう。現に、あなたにも届いている。 http://blog.livedoor.jp/interviewproject/