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【試し読み版】音楽配信はどこへ向かう?

小野島 大

Impress Business Development LLC



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まえがき

 本書は『ミュージックマガジン』誌に連載中のコラム『配信おじさん』をまとめたものだ。

 そもそもこの連載は、同誌2008年7月号の特集『CDはどこへ行く』に、音楽配信に関する記事「CDからインターネットや携帯電話へ? ナイン・インチ・ネイルズの試みから考える音楽配信の可能性と限界」(本書に『ナイン・インチ・ネイルズ、新作を高音質音源で全曲完全無料配信~音楽配信の現状、その可能性と限界』として収録)を寄稿したことがきっかけだった。その時点で特に音楽配信に関して造詣が深かったわけでもないし、ヘヴィな配信ユーザーというわけでもなかったが、この記事は思いのほか好評だったらしく、同年末になって同誌から連載の打診を受けたのである。

 『配信おじさん』というタイトルはもちろん、喜納昌吉の名曲「ハイサイおじさん」にひっかけたもの。担当編集の斉木小太郎さんとタイトルを考えるうち、苦し紛れに思いついたダジャレをそのまま採用してしまった安直さが示す通り、当初はたいしたコンセプトも意気込みもなく、配信独自リリースされている音源でも適当に紹介すればいいや…というきわめて気楽な気持ちで始めたものだった。

 ところがいざ連載を始めてみれば、「配信独自音源」などほとんどないことに気づく。いや、もちろんないことはなかったが、少なくともぼくや『ミュージックマガジン』読者が興味を持てそうなものはきわめて少なかった。ナイン・インチ・ネイルズやレディオヘッドは例外中の例外で、当時のほとんどのアーティスト(特にポップ/ロック系)にとって、あくまでも作品リリースのプラットフォームはCDであり、配信は付け足しでしかなかった。音楽配信サービス自体が少なかったこともあり、話題もそれほど多くない。

 そこで(ぼく自身の勉強という意味もあり)、まずは音楽配信に造詣の深い関係者のお話をお聞きして、音楽配信の過去と現在をぼくなりにまとめてみようと考えた。それが今野敏博さんや津田大介さんなどへの取材である。さまざまな識者への取材で配信の歴史と現状をぼくなりに把握したあたりで、ユーストリームやドミューン、さまざまなクラウド・サービスなど、音楽配信に新しい潮流が台頭し、『配信おじさん』も、音楽配信関連のニュースを中心に、そのつどの音楽業界全般の話題を紹介したり論評を加える、現在のスタイルが出来上がっていったのである。CDから配信という音楽業界の遷移を考えると、配信について語ることは、そのまま音楽業界の現状と未来について語ることだった。

 ぼくの専門は音楽評論であって、ITの専門家ではないし、音楽配信業界に強いコネやニュースソースを持っているわけでもない。ただ、音楽業界の片隅で禄を食む人間として、音楽配信利用者として、なにより一介の音楽愛好家として、目についた話題をクリッピングして、岡目八目で論評してきただけだ。いま読み返すと認識不足や勘違い、偏見、勇み足、コロコロ変わる意見など、赤面ものの記事も多い。だが2008年から2013年初頭にかけての日本における音楽配信の歩みについて、あくまでも音楽マニアのユーザー目線からではあるが、それなりにまとまったものとなっているとは思う。ここから音楽配信、ひいては音楽業界の将来……というより、「そうあってほしい未来図」が見えてくればいい。

 記事を読み返すと、わずか数年前のことでも大きく状況が変わっていて、IT業界の移り変わりの激しさに驚かされるが、その中でも終始一貫して、ソニーとiTunesストアの関係についての言及(というよりはソニーへの文句)があまりに多いのに苦笑させられる。さぞやソニー関係者の方々は気分を害されたと思う。この場を借りてお詫びを申し上げたい。それだけに、ソニーのiTunesストアへの参入は、なによりも嬉しい出来事だった。

 本書には日本に於ける音楽配信の歴史を残すという意味合いもある。なので、明らかな事実誤認や誤字などを除いて、再録にあたり修正は加えていない。文中に登場するさまざまな情報も、あくまでも雑誌連載当時のものであり、同様に識者・関係者・音楽家の方々の発言・肩書き等も当時のものであって、現在とは異なる場合もある。本書の趣旨をご理解いただき、当時の発言そのままの掲載を快諾していただいた方々に、心から感謝したい。連載中からさまざまな助言をいただいた田口和裕さん、単行本担当編集の宮崎綾子さん、そしてもちろん、連載の機会を与えてくれた『ミュージックマガジン』編集部にも感謝を。連載は、2012年1月号より、それまでの2ページから1ページに減ってしまったものの、現在も継続中である。


2013年6月 小野島 大

まえがき

2008年~2009年

2008年7月号□ナイン・インチ・ネイルズ、新作を高音質音源で全曲完全無料配信~音楽配信の現状、その可能性と限界

2009年1月号□「配信おじさん」連載第1回/音楽配信の現状/ブライアン・イーノの発言

2009年2月号□今野敏博さんに聞く(1)日本に於ける音楽配信ビジネスの歴史

2009年3月号□今野敏博さんに聞く(2)音楽配信の現状と未来

2009年4月号□津田大介さんに聞く/音楽業界は年間1枚しかCDを買わない100人よりも、年間100枚CDを買う人を一人でも増やすべきだ

2009年5月号□渡辺健吾さんに聞く/ダンス・ミュージックに於ける音楽配信事情

2009年6月号□沼田順さんに聞く/個性派インディ・レーベル主宰者にとって音楽配信とは

2009年7月号□高橋由起子さんに聞く/メジャー・レーベルの音楽配信政策

2009年8月号□ミトさん(クラムボン)に聞く/高音質配信の意義/理想的な音楽の伝え方

2009年9月号□フジロックにて音楽業界人に音楽配信の利用状況を聞く

2009年10月号□ナップスター・ジャパンの担当者に聞く/定額制サービスの先駆者

2009年11月号□レコミュニ(オトトイ)の新しい試み

2009年12月号□音楽ファンのためのPCオーディオ入門

2010年

2010年1月号□デジタル時代の音楽ソフトを考える

2010年2月号□okadadaの衝撃/インターネット時代の音楽家のあり方について

2010年3月号□クラウド時代の音楽のあり方について

2010年4月号□ナップスター・ジャパン撤退

2010年5月号□リョウ・アライさんに聞く/ネット時代のインディペンデント音楽家のあり方について

2010年6月号□直枝政広さん(カーネーション)に聞く/ライヴ音源配信サイト「LIVE CARNATION」開設

2010年7月号□HMV渋谷店閉店の衝撃/サブスクリプション型配信サービスの台頭

2010年8月号□七尾旅人さんに聞く/配信サービスDIY STARSの開設

2010年9月号□配信サイト「nau」の試み/テキスト配信の可能性

2010年10月号□CD文化は消滅するのか

2010年11月号□充実する無料配信サイト

2010年12月号□田口和裕さんに聞く音楽配信の現状と未来

2011年

2011年1月号□アマゾンMP3、iTunesストアでビートルズ音源、映画取り扱い開始

2011年2月号□海外発ネットラジオ、無料音楽配信サービスの現状

2011年3月号□iTunesストアでYMOの取り扱い開始/新たなSNSサービス、フェイスブックの可能性

2011年4月号□「音楽メディアユーザー実態調査」を見て

2011年5月号□配信おじさん拡大版――ネットだから、配信だからできること――3・11直後の動きを追う

2011年6月号□レディオヘッド『ザ・キング・オブ・リムス』のCD版が届く/ハイレゾ音源の魅力

2011年7月号□iTunes in the Cloud / LISMO アンリミテッド powered by レコチョク

2011年8月号□ドミューンのもたらす新しい可能性

2011年9月号□グーグル・ミュージック/ロンドン暴動

2011年10月号□待たれるiTunesストアへのソニー参加/プロジェクトFUKUSHIMA!

2011年11月号□アップルが音楽シーンにもたらしたもの

2011年12月号□音楽誌の電子化事情

2012年~2013年

2012年1月号□映画配信サービスの状況

2012年2月号□「音楽が氾濫している時代」の「嗜好のタコツボ化」

2012年3月号□スウェーデン初の音楽配信サービス「スポティファイ」の魅力

2012年4月号□iTunesストアのリニューアルがもたらしたもの/ソニー洋楽がiTunesストアで取り扱い開始

2012年5月号□ニール・ヤングが高音質ファイル形式を開発中/レコチョクの定額制サービス

2012年6月号□違法ダウンロード刑罰化は、なぜ既存の音楽業界を救わないか

2012年7月号□東京のライヴハウス赤坂BLITZ が、ライヴ音源の配信サービスを開始

2012年8月号□定額制サービス、ソニー・ミュージック・アンリミテッド登場

2012年9月号□タブレットを購入して電子書籍について考える

2012年10月号□スポティファイが日本上陸できない理由/ハイレゾ配信事情

2012年11月号□一個人でも自作曲をiTunesストアで手軽に配信できるサービス=チューンコア登場

2012年12月号□ついにソニー楽曲がiTunesストアで販売開始

2013年1月号□個人が作ったDJミックス音源の権利処理を代行、販売までしてくれるサービス=Beatport Mixes

2013年2月号□2012年はCD文化最後の栄華だった?

2013年3月号□「ミュージック・アンリミテッド」の高音質・低価格化/米レコード店アメーバ、廃盤レコードの配信サービス開始

2013年4月号□増え続けるスマホ向け定額制配信サービス

2013年5月号□定額制配信サービスがもたらす影響/「ミュージック・アンリミテッド」の試用記

2013年6月号□台湾初の配信サービス「KKBOX」が日本上陸

製品版のご案内

2008年7月号□ナイン・インチ・ネイルズ、新作を高音質音源で全曲完全無料配信~音楽配信の現状、その可能性と限界

CD以上の音質が完全無料

 GW真っ最中の5月5日。突然飛び込んできたニュースは、ぼくを驚かせるに十分だった。ナイン・インチ・ネイルズ(NIN)が新作『The Slip』を配信先行リリース。本誌5月号(注1)で紹介した『Ghosts』の配信先行発売からわずか2ヶ月というハイ・ペースのリリースだが、度肝を抜かれたのが、全曲の音声ファイルが完全無料という英断である。もちろん7月には有料のCDがリリースされることが決まっているが、おそらくNINはCDの売り上げで制作費を回収しようとは思っていない。NINが配信するのはCD以下の音質でしかない圧縮音源だけではないからだ。MP3のほか、CDクオリティ音質のアップル・ロスレスとFLAC、さらに24bit/96kHzのWAVファイルまで、すべてがフリー・ダウンロードという太っ腹なのである。24bit/96kHzといえば、一般にデジタル・レコーディングのさいのスタジオ・マスター音源と同等のクオリティの音質である。それを惜しげもなく完全無料で配布。この衝撃を、クラムボンなどで活躍するミュージシャン/プロデューサーのミトはこう語る。

 「ショックだったのは、トータル・コンプが全然かかってないこと。だからダイナミック・レンジがすごいんですよ。小さな音と大きな音の差が。ああいうのって、CDではできないんですよ。いや、やってやれなくはないんだけど、メジャーの中で、ラジオとかでかかることを想定すると、マスタリング・エンジニアの人はどこでもかけられるようにノーマライズするわけですよ。でもNINはそんな配慮を全然してない。24/96のレンジだからできたんであって、つくづくCDの16/44のフォーマットがうらめしいと思った。CDでやることの制約はいろいろあるけど、なにより音そのものの表現力。たとえばポータブルのHDレコーダーで24/96で自分たちのリハの音をいいポイントで録ると、すごくいい音で録れるんですよ。これでできあがってるんです、本来は。でもこれを圧縮すると音が変わっちゃうんですよ。粒の粗い感じになる。だから作っていてモチベーションが下がることもしばしばあって」

 つまり、近年DAW(Digital Audio Workstation)によるデジタル録音が一般化し、24bit/96kHz、あるいはそれ以上の高音質でのレコーディングが可能となった。だがすでに30年近く前の技術であるCDには、その高音質のままの形で収めきれない。そこでマスタリングによって、CDフォーマットに適合するようダウンコンバートしなくてはならない。せっかくいい音で録ったのに、CDにするためにわざわざ音質を落とさなければならないわけだ。つまりレコーディング環境の進化に、CDというフォーマットはすでに対応できなくなっている。そこにもどかしさを感じていたミュージシャンは数多いはず。

 そうした高音質化の需要に応えるために開発されたのがSACD、DVDオーディオといった「次世代CD」と言われる新しいフォーマットである。だがさまざまな事情で普及にはほど遠い。一方、通信環境の劇的な整備によってネットのブロードバンド化が急激に進み、24bit/96kHzのファイルでも配信可能な環境が整備されつつある。つまりCDというハコを経ずとも、スタジオ・マスター・レベルのデータをリスナーに直接供給できるようになった。NINは、そうした動きをいちはやく先取りしたのである。しかも完全無料という形で。世界中のミュージシャンたちの羨望の溜息が聞こえてくるようではないか。

 もっとも24bit/96kHzの音声ファイルは巨大サイズとなり(NINの新作はZIP圧縮でも全曲で1・2GBもある)、ダウンロードするだけで一苦労。しかも完全な形で再生するには対応するインターフェイスや再生用アプリケーションを揃える必要がある。敷居は高いわけだが、少なくとも選択の自由は与えられている。そして、そうしてダウンロードした音源は容量さえ許せばマイクロSDカードなどに収めることもできる。ということは、(対応する環境が整備されれば)iPodなどのデジタル携帯プレイヤーはおろか携帯電話から24/96の音源を再生することだって、将来は可能になるはずだ。「そうすれば、高いCDプレイヤーなんていらないですからね。プレイヤーがいらないってことは、CDいらないんですよ」、とミトはサラリと言う。


たくさん出したい、早く出したい

 こうしたNINのあまりに過激な動きは、レディオヘッドへの対抗心も大きいはず。昨年秋に新作『イン・レインボウズ』をやはり配信先行、しかも代金は購入者が決める、いわば実質無料でリリースするというシステムは、既存の音楽業界の枠組みを壊す試みとして大きな反響を巻き起こしたが、配布した音声ファイルが160kbpsという低音質の圧縮音源だったことで、NINのトレント・レズナーは、「劣化音質のファイルをエサにCDを買わせるトリックだ」と激しく批判していた。もちろんNINの試みは世界規模でトップのセールスを誇り、多くの忠実なファンを抱えるカリスマ・アーティストだからできた面もある。だが彼が投げかけたものは決して小さくはないはずだ。

 こうした動きにいち早く対応しつつあるのがスコットランドのハイエンド・オーディオ・メーカー、リンだ。DTMの分野では24/96など高品位音源に対応したPCオーディオの環境が早くから整備されていたが、リンはホーム・オーディオとしてのPCオーディオの可能性にいちはやく注目し、昨年、対応したシステム「DS」シリーズを他社に先駆け開発・発表した。さらに傘下のリン・レコーズで、24/96の高音質ファイルの配信もおこなっている。リン・ジャパン広報部の古川雅紀は語る。

 「もともと録音したデジタル・データがあって、それをモノに変えたメディアがCDです。CDを再生するのは、そこからさらにまたデジタルの情報を引き出すという作業になる。そうした面倒なプロセスよりは、元のデジタル情報をそのままの形で再生したほうが、元の音源に近い音質になる。しかもネットワークのインフラ整備で、高音質のファイルを配信という形で直接エンドユーザーに届けることができるようになった。一方でSACDやDVDオーディオが伸び悩む状況があり、ディスク・メディアよりも、こちらの方に可能性を見いだしたわけです」

 現状の配信サイトの多くはMP3やAACなど圧縮音源の配布にとどまり、高音質ファイルの配信はまだ少ない。だがさまざまな環境が整備されれば、CDクオリティもしくはそれ以上のファイルがふつうに配信される日も、そう遠くはないはずだ。

 配信のメリットは音質面だけではない。リスナーにとっての最大のメリットは、いつでもどこでも手軽に音楽を入手できること。ミュージシャンにとっては、音源完成からリリースまでのタイム・ラグがなくなることだ。

 「普通のミュージシャンなら、もっと(音源を)たくさん出したいんですよ。もっとレスポンスを早くしたい。早く出したい。盛り上がってる時に(リスナーと)共有したい。CDのリリースまで待っていると、どんどん冷めていくのがわかるし。今やっと、ミックスとかマスタリングとか、自分たちで音楽を制作パッケージするところまではできるようになった。でもいざ出すとなると、特にメジャーのアーティストは手間がかかる。CDで出す限りは。だから配信の意味はすごく大きいです」(ミト)

 もちろんさまざまな制約で、完成即配信という例はまだ少ない。だがそれが多くのミュージシャンの望みである限り、いずれは配信先行もしくは配信のみでのリリースが主流になっていくだろう。CDはボーナス・ディスクだのDVDだの豪華ブックレットだの特殊ジャケだのの付加価値をつけたマニア向けのプレミア商品として生き残っていく。じっさいNINやレディオヘッドなどメジャー・レーベルを離脱しインディペンデントに活動の拠点を移したミュージシャンたちは、明らかにパッケージ・ソフトから配信というフォーマットに力を注ぐようになっている。

 パッケージ・ソフトではジャケットのアート・ワークも作品の一部であり、音楽と一体化することで、アーティストの表現世界が描かれる。それを補うように、NINはアートワークをPDFファイル化したものを、音声ファイルとともに配信している。音楽を聴きながらPCのモニター画面でアートワークを眺めるという作業には大きな違和感があるが、それも慣れの問題だろう。

 おそらくヴァイナルは、音の良さ、そしてDJ用途、さらに大きなアートワークの魅力などで趣味嗜好品的に生き残る。だがCDはどうだろう。ぼく自身、ヴァイナルで育ち、CDを買い集めることに人生の大半を費やしてきた人間だから、パッケージ・ソフトのモノとしての魅力にはどうしても抗えない。だがそんな感傷がすでに時代遅れになりつつあることは、アメリカの音楽関係の小売店で、配信大手のiTunesストアが売り上げ1位に躍り出たという事実で明らかだろう。

日本の特殊事情 音楽として消費されるところまでもいかない

 だが、こうした状況は、こと日本を舞台に移すとガラリと変わる。

 日本レコード協会発表の資料によると、08年度第一四半期(1~3月)の音楽ソフト(オーディオ+ビデオ)の生産実績(金額ベース)は、前年同期比95%と、長期低落傾向に歯止めがかからない。これに有料音楽配信を加えると、前年同期比101%と、わずかながらプラスとなる。音楽配信の伸び(前年同期比128%)でレコード業界全体の売り上げ減をカバーしていることになるが、音楽配信の売り上げのうち90%近くはモバイル配信、つまり携帯電話の着うたや着うたフルのダウンロードで占められ、インターネット(PC)ダウンロードは10%程度でしかない。もちろんこんな国は世界中で日本だけである。しかも有料ダウンロードの数倍、あるいは十数倍の数の違法着うたダウンロードの存在も指摘されている。

 年初までナップスター・ジャパン㈱にて音楽配信サイトの運営に携わり、現在はぴあ㈱に所属し業界事情に精通する望月展子は、「PC配信の勢いは明らかに横ばい。マーケットは毎年少しずつ伸びていますが、事業者も楽曲自体も増えていますから。モバイルをプラットフォームにした音楽配信ビジネスとPCをプラットフォームにしたものでは売り上げも伸び率も全然違うというのが実感です。その傾向は今のところ変わる気配がないし、コンテンツプロバイダーのなかにはPC配信を見限るところも出始めている」と現状を分析する。

 PC配信が海外に比べ日本で伸び悩む理由については、貸しレコードの存在や権利問題の複雑さなど日本独自のハードルが存在すると指摘する。

「パッケージの売り上げの大半(約8割)を占める邦楽の権利許諾がまだまだ充分に解放されていない。権利者の中でとにかく複雑な問題があって、着うたフルまでが精一杯といった状況。それもレコード会社やマネジメントなどの権利者直営サイトがメインで、私が配信ビジネスに関わりだした10年前と比べてもまだこんなに厳しいかってぐらい。iTunesストアに関しても日本では苦戦していると聞いています」

 いっぽうモバイルでの配信ビジネスについては「携帯ビジネスそのものが日本は特別で、周辺ビジネスまで含めてこんなに大きな国はない。PCがどうのというより、携帯産業があまりに巨大化する中で、ユーザーも事業者も、いいじゃん、携帯がプラットフォームでいいじゃん、って方向に全員で行っちゃいそうな気がします。家で固定でPCでっていうよりは、モバイルの方向に。それは映像もゲームも同様のトレンドでは」という。

 前述のように将来的には携帯をプラットフォームにした高品位再生もありえるとはいえ、現状の圧縮音源による着うた配信で、アーティストの意図が十分に伝わるとは思えない。ヴァイナルやCDなら飽きたら売るなり譲るなりして次の持ち主に移り「リサイクル」されていくが、デジタル・データ、それも容量が限られた携帯などではデリートされてオワリである。とはいえ売り上げがアーティストにとっても無視できないほど大きくなっている以上、その範囲内でできるだけいい音で提供し、飽きさせないよう価値を高める努力はあるようだ。ユニバーサルミュージック㈱の制作ディレクター、海部幹男は、「例えばラジオ受けをよくするためのマスタリングというのは従来からあったんですよ。それと同様に、着うた用のマスタリングというのがありますね」と指摘する。

 多くのミュージシャンは着うたのあり方については、よくわかっていないというのが実態のようだが、前出のミトは否定的な立場だ。「どんどん音楽を、音楽的な実感を無力化してるんじゃないか。着うたってことは、電話がきたら鳴るってことですよね。それってただのデータ、効果音ってことでしょ。音楽を感じるためのものじゃない気がする。実際にその曲がどうだったかってことは語られない。友達同士の共通の話題として使われて、旬を過ぎればデリートするだけ」

 ポップ・ミュージックは消費されるものである。だが着うたでは消費されるところまでもいかない。そもそも音楽として機能していないからだとするミトの指摘は厳しい。

 一方海部は、着うたは、ひとつのとっかかりとして意味があると言う。「売り上げを支えるものでもあるし、興味をもってもらう入り口としてはなんでもいいのかなと思う。子供たちはそんなにお金もないし、昔と比べれば音楽以外の娯楽はいっぱいある。その中で、誰でも持ってる携帯で手軽にいつでもチェックできる、これはいいことじゃないか。コアなものの売り上げは昔からそんなに変わってないと思うんですよ。浮動票的な人が、音楽にいったり、その他の娯楽にいったりする。CDの売り上げが落ちて着うたが伸びたのは、そういうライトユーザーが着うたに移行したからでしょう。自分らが中高生のときも、音楽にそんな興味ないやつは、友達にダビングしてもらって終わりだったでしょ。でも興味を持ったら、貸しレコ屋で借りたり、小遣いためて買うようになる。だから音楽を巡る状況はそんな変わってなくて、ただ見え方が変わってきただけじゃないかな」


ファンとビジネスはライヴに向かう?

 このほかにも廃盤レコードの配信用アーカイヴ化のプロジェクトについて、違法配信サイトなど違法コピー問題や発売前新譜の流出問題、マイスペースなど音楽系SNSについて、CD売り上げ減にともなうレコード会社の収縮とアーティストのレコード会社離れ、その存在意義、日本でNINやレディオヘッドのようなあり方は可能か、など、配信を巡って語るべきことはいくつもあるが、紙数が尽きた。最後に触れておきたいのが、コンサート・ビジネスについてだ。冒頭に挙げたNINのアルバム全曲無料配布は、DAWの普及などでアルバム制作費そのものは激減しているものの、配信用サーバーの構築や維持、その他の諸費用による欠損はかなりの額に達するはず。それをワールド・ツアーの収益(出演料、グッズ販売など)等でカヴァーする心算ではないかと推察されるのだ。そうであれば、NINの音楽活動の中心にはライヴがあり、レコード(音源)は、そのためのツールである、という言い方も成り立つ。レディオヘッドなども、事情は同様だろう。つまり、彼らのような試みは、誰もができるわけではない。無料で公開するなら、制作費を回収するための別の場所が必要だし、われわれのように音楽を音楽として楽しもうとしているようなリスナーには、まだ有料配信のインフラは十分整っていない。

 音楽ソフトを巡る状況とは裏腹に、いわゆるコンサート・ビジネスは巨大化の一途を辿っている(注2)。そうした状況は日本でも同様で、着うたのダウンロード(しかも違法サイトから)と、友達から借りたCDのリッピングで済ませるような若者が、ライヴだけはマメに通い、Tシャツなどコンサート・グッズをせっせと買い込むのは、それがレコードと違い「複製不可能」な体験だからだ。もともとレコードは複製芸術であり、複製可能だからこそ、その音楽は短期間で急激に広まっていく。その中に違法コピー等が含まれるのは避けられないし、ネット時代になってそれは加速化した。CD、配信などデジタル音源が主となりホンモノと寸分違わぬコピーが簡単に可能になった今、その流れを押しとどめることはできない。だがライヴ体験の複製は不可能であり、だからこそ複製可能なレコードより上位に置かれるのだ。

 現在のJポップやロックは昔の歌謡曲などに比べ売り上げははるかに多いのに、昔の曲のように老若男女誰もが知るような曲は少なくなった、と言われる。昔の曲はミリオン売れてたわけではないが、皆聞いていたし知っていた。つまり共有されていた、だが今はレコードが売れた人数しか知らない、というわけだ。どこで共有されていたかといえば、茶の間に一台だけ置かれたテレビやラジオ、あるいはステレオ・セットだった。核家族化が進む前、一家団欒という言葉が成立していたころだからこそ、そこから流れる一曲を、家族全員で聞き、同じ思いで共有できたのだ。

 しかし携帯電話の着うたや携帯プレイヤー、一人一台用意されるパーソナル・コンピューターから再生されるファイルでは、そんな思いなど他人と共有できるはずもない。ではかっての茶の間に代わる共有の場は何かと言えば、それがライヴなのだ。家庭もライヴも、複製はできない。音楽ソフトの未来は不透明だが、ライヴの存在感は今後ますます増していくことになりそうだ。(文中敬称略)

  (注1)

  『ミュージックマガジン』誌 http://musicmagazine.jp/mm/

  (注2)

  一般社団法人コンサートプロモーターズ協会調査の「ライヴ市場調査データ」http://www.acpc.or.jp/marketing/transition/2009/によると、CD売り上げが急減し始めた1998年以降2008年まで、年によって多少の増減はあるものの、同協会の正会員社が扱ったコンサートの公演本数は1・63倍、総入場者数は1・58倍、年間売り上げ額は1・51倍と、軒並み150%以上の伸びを示している。

2009年1月号□「配信おじさん」連載第1回/音楽配信の現状/ブライアン・イーノの発言


音楽配信・2009年初頭の現状

 今月から音楽配信についての連載記事を書かせていただくことになった。7月号の「CDはどこへ行く」特集で配信の現状についてのレポートを書いたのがきっかけだが、個人的にも配信サイトは仕事上でも趣味の面でも欠かせぬツールとなっている。とはいえ同特集の評論家アンケートなどを見ると、まだまだ配信が積極的に利用されている現状とはとても言い難い。

 だがすでに配信音源を無視して現在の音楽シーンを語ることは不可能になっている。ナイン・インチ・ネイルズやマーキュリー・レヴのように新作アルバムの音源を丸ごと無料配信という例は極端としても、配信のみもしくは先行での販売は普通だし、先行トラックをプロモーション代わりに無料ストリーミング配信するのはもはや当たり前のことだ。またマイスペースでの試聴は、まったくやっていないアーティストを探す方が難しい。特に欧米ではマイスペースはもっとも有効なプロモーション媒体として注目されており、ここを足場にブレイクした例は枚挙にいとまがない。また著作権的にはグレイではあるが、ユーチューブなどの動画サイトでは、主要アーティストのPVはもちろんTVやコンサート映像などが続々とアップされていて、今後ブレイク期待の若手だけでなく、すでに解散したバンドや消えてしまったアーティストの貴重映像なども見ることができる。また従来のAMやFMに代わってネットラジオやポッドキャスティングも手軽に音楽に接することができ、急速に普及しつつある。

 ヴァイナルからCD、あるいはVHSからDVDという普及が急速に進んだのは、利便性の圧倒的な向上があったからだ。逆に言えば、音質や画質の多少の向上ぐらいでは、普及の足しにはならない。SACDやDVDオーディオの失敗はその好例だし、ブルーレイ・ディスクもおそらく本格普及するのは当分先になるだろう。だが配信の利便性にはパッケージ・メディアの限界を軽々と打ち破る可能性がある。


2008年末現在の主な配信サービス/iTunesストアの問題点

 第一回の今回は、筆者が実際に使っている配信サイトを中心に、日本語対応しているものから、いくつか紹介していこう。

 まずは配信最大手のiTunesストアだが、カタログの幅広さ、iTunesというアプリケーションやiPodと完全に連動した使いやすさ、インターフェイスのわかりやすさなどで群を抜いている。iTunesオリジナル、あるいはiTunesライヴと称した独自商品も揃いつつある。矢野顕子がデビュー・アルバム『Japanese Girl』をピアノ弾き語りで再現したライヴ音源(「盤」とは言えない!)『Japanese Girl Piano Solo Live 2008』など、08年のベストのひとつと言いたい充実作だった。

 ただし唯一最大の弱点が、ソニー・ミュージック関連の音源を一切扱っていないことだ。7月号でも指摘したように、携帯の着うた関連が配信売り上げの9割を占める=PC配信の売り上げが伸びない、という日本のみの特異な状況は、それが大きな要因のひとつであることは、衆目の一致するところだろう。親会社が電気メーカーなので自社の携帯プレイヤーと競合するiPodを利するようなことはできない、という事情とともに、自社製品の価格決定権を他社(アップル)に委ねることに抵抗がある、とはさるソニー関係者から聞いた話だ。ただ米英など他国では普通に扱っているわけで、理由としては説得力に欠ける。ソニー所属アーティストの多くがiTunesストアでの扱いを望んでいるという話もあり、いずれ解決することを強く期待したい。

 iTunesストアに対抗すべくソニーが中心となって運営されているのが「mora」である。日本の大手メイカーのほとんどが参加しており、メジャー音源に関してはより幅広い。だがインディーズ関係は弱く、また独自音源の提供もほとんどされていないようだ。洋楽も全般的に弱い。

 そして特異な存在がナップスターである。iTunesストアやmoraがアイテムごとの課金なのに対して、ナップスターは定額制。つまり月毎に決まった額を支払えば、ほとんどの音源をフルサイズで、無制限にダウンロードして楽しむことができる。退会するとダウンロードした音源は聴けなくなるが、聴き放題で1280円からという月額会費は、試聴機代わりとしてもきわめて安い。邦楽に関しては弱いが、洋楽は掘ればけっこうレアなものも転がっている。

 そしてダンス・ミュージック関係ならビートポートが定番中の定番。ヴァイナルからCD、さらにデータ(PC)へとDJのスタイルが激変している状況、また流行性の強いダンス・ミュージックの特性から、作ったらすぐに出したいというアーティストの欲求に呼応するため、いまやテクノ系のレーベルやアーティストは12インチ・シングルではなくデジタル・データのみを供給する例も増えており、7月号でムードマン氏が指摘するように、最新のダンス・ミュージックを入手するならデータしかないという傾向は、もはや不可逆的なものと言っていい。ジャンル毎に細かくセグメントされ、売れ線も一目瞭然、さらに試聴システムもわかりやすい。DJ用のツールとして供給されているだけに無圧縮のWAVファイルや、MP3もビットレート320kbpsと高音質のファイルで提供しているのもありがたい。そのぶん価格はやや高め(ドル建て)だが、その価値は十二分にある。片っ端から試聴していると、買わないまでもなんとなくダンス・ミュージックの最新の潮流がわかってしまう(ような気がする)。いつでもどこでも品切れなど心配することなく手軽に入手できる。このメリットは、速さが命のダンス・ミュージックでは決定的だ。


ブライアン・イーノの配信に対する考え

 そして最後に、さきごろデヴィッド・バーンとの27年ぶりの共演盤『エヴリシング・ザット・ハプンズ・ウィル・ハプン・トゥデイ』を配信先行でリリースしたブライアン・イーノ御大のお言葉を掲載しておこう。さきごろ筆者がおこなった電話インタビューでの発言である。

 「配信先行でリリースすることになったのは、基本的には私がせっかちで気が短いからかな。1枚のレコードが完成したら、もう即座にリリースしたいんだ。はいできた、じゃあ今日リリースっていうのが理想だ(笑)。いや、冗談ではなく、特にポップ・ミュージックに関してはそう思う。ポップスは時とともにあるものだと思うし、それが作られた時の会話の中に息づいているようなものなんだ。だから、こうやってダウンロードですぐにリリースできるようになったという事実にすごく興奮してるよ。ほんと、メジャーのレコード会社と仕事していて、90年代なんかだといつも「では5月までに仕上げてくれ、そうしたら10月までに準備をしてリリースする」なんてことが普通だった。あれはほんとにひどいよ。まったく最悪だった。あんなことをやっていたら頭がおかしくなる。だって10月になったらもう完全に違うことをやっているわけだし、そんな昔に作った音をまた聴くなんてことはやりたくないわけ。新しいことをやりたいじゃないか。この作品は歴史であって、私は別の新しいことをやっているからね。私にとっては、いつも「後追い」で「遅すぎる」って感じてしまうんだ(笑)」

2009年11月号□レコミュニ(オトトイ)の新しい試み


日本でPC音楽配信が普及しない理由

 日本でPCによる音楽配信がなかなか普及しない理由はなんだろうか。「着うた」などのモバイル配信のみが突出して普及しているという特殊事情、PCで音楽を聴くという習慣が定着していない、ネット上でクレジットカードを使い買い物をすることに不安感がある……などさまざまな理由が考えられるが、ひとつに、「モノ」として残らないデータという形での提供に、まだまだ抵抗感が強いことが挙げられるだろう。

 本来音楽とは目に見えないものだが、それがレコード、CDなどパッケージ・ソフトの登場によって「カタチ」が与えられた。おかげで音楽はライヴの現場のみに限定されたものから、空間的にも時間的にも作品的にも大きな広がりを持つことになった。その過程で、パッケージ・ソフトも音楽と同様に、あるいはまったく別の形での愛着の対象になっていったのである。データでは所有欲を満たせない。聴いた気がしない。手応えがない。そんな意見を持つ人は多いだろう。たぶんに「慣れ」が大きい気がするが、おおげさにいえば個人の人生観・価値観の問題であり、こればかりは仕方ない。だがデータには別の問題もある。

 CDやレコードは、たとえ聴かなくなってもモノは残る。だがデータでは、うっかり消去してしまうと、あとには何も残らない。PCのトラブルやハードディスクのクラッシュでデータが破損・消失してしまっても、同様である。ダウンロード・サービスでは常につきまとう問題だが、たとえばPCシェアウエアでは、たとえトラブルがあってもパスワードさえ控えておけば、ほとんどの場合追加料金なしで再度ダウンロード可能だし、ヴァージョン・アップしたときも同様に無償提供される。だが音楽配信の場合、こうした救済措置はないのが一般的だ。PCの扱いにかなり慣れた者でも、不測のトラブルでデータが破損・消失する危険は常にあるわけで、そのあたりの不安が、音楽配信普及への壁になっていることは確かだろう。

 そこで、その救済措置をあらかじめ組み込んでしまおうという画期的なサービスが開始される。「レコミュニ」の「ライフタイム契約」という新サービスが、それだ。この記事が出るころ(10月20日)には記者発表されているはずだが、「ユーザーがダウンロードした楽曲を、PCの故障等のトラブルで破損/紛失してしまった際の救済処置として、低価格(1曲20円)で再度ダウンロードが出来るようにする」(レーベル向けの趣旨説明書より)というのが、その趣旨である。「ライフタイム契約」を実施することにより、ユーザーには万が一の時でも安心していただけることを保証します。また、安心感を与えることによって、ダウンロード・サービスの活性化を図ることが可能になり、その結果、アーティストや 販売タイトルの認知・売上促進に繋がると考えられます」(同)という。おそらく世界中を見渡してみても、このようなサービスを提供する音楽配信は、前例がないはず。すでにいくつものレーベルから賛同の声が届き、10月下旬もしくは11月上旬(この原稿を書いている時点では未確定)のサービス開始時には、かなりのレーベルの楽曲で、このサービスを享受できそうだ。これと同時に、レコミュニはサービス名をototoy(オトトイ)と改名(会社名はレコミュニのまま)し、本格的なリニューアルをはかる予定だという。

 レコミュニは今年になって、クラムボンやムーンライダーズの新曲をCD音質を上回る高音質データで提供するという試みで注目を集めてもいる。現状のCDの音質が、レコーディング時の音質からかなりダウンしたものでしかない(そうならざるをえない)ことは以前にも触れたが、いわばこうした制約を取っ払って、アーティストがレコーディングした音そのままを届けようとする高音質データ配信は、今後ますます拡大していくはずだし、またそうあるべきだと考える。まだジャズやクラシック、あるいはダンス・ミュージックではWAVファイルでの配信は一般的になりつつあるが、こうしてロックやポップスについてもおこなわれるようになれば、音楽ファンにみならずオーディオ・ファンにも朗報となるだろう。レコミュニの「ライフタイム契約」によると、MP3→WAVなど、異なるフォーマットで再発売された曲も、一定の手数料もしくは差額を払えばダウンロード可能になるという。これはシェアウエアで言うところの「ヴァージョン・アップ」と同じで、歓迎すべきサービスと言える。


独自路線を進むレコミュニ

 国内の個性的なインディーズを中心とした、大手配信サービスとはひと味異なるラインナップ、レコメンドや、ガイドとなるような「読ませる」記事の充実など、レコミュニは独自の路線を歩んでいる。レコメンドの必要性・重要性は、この連載でも何人もの方々が指摘されているが、従来の音楽雑誌が担ってきたような役割を、ショップであるレコミュニが果たしていることになる。客と店がマンツーマンでやりとりしてさまざまな情報を交換しレコードの売り上げにも結びつける、いわば巷の専門店のありかたを踏襲しているかのようだ。

 iTunesストアやmora、あるいはヤフーやHMV、ONGENのような総合ショップ、ナップスターのような特殊なシステムを持つショップ、ビートポートやレコミュニのような専門ショップ、音響メーカーのオンキョーが主催するe―オンキョー・ミュージックやリン・レコーズ等の高音質データ専門ショップなど、配信サービスもヴァラエティに富むようになって、選択の余地が増えてきた。また配信に消極的だった某メジャー・レーベルが大手配信サービス参入を噂される(注)など、徐々にPC配信を巡る状況は整備されつつある。

 そこでもう一度考えたいのが、冒頭に掲げた「PC配信が普及しない理由」のひとつ、多くの人たちがPCで音楽を聴く習慣を持たないという事実だ。最近はかなりマトモになってきたとは言うものの、PCにくっついているスピーカーはひどいシロモノだし、ましてノートパソコンではせいぜい安物のAMラジオ並みがいいところ。そんな状況で、ユーチューブやマイスペースで音源を聞きわかったように気になってしまう。これはとても危険だ。まして高音質データなど、宝の持ち腐れもいいところ。音楽配信各社は、まずそういう状況を改善すべく、まず「ちゃんとしたPCオーディオで音楽を聴く」という習慣のオルグから始めたほうがいいのではないか。

  (注)

  このころソニー・レコードがiTunesストアに近々参入するかも、という噂が業界に流れたが、結局実現したのは、この記事の2年後だった。

2010年1月号□デジタル時代の音楽ソフトを考える

 やはりロックはライヴの現場が圧倒的に面白い。この秋のイベント「DRIVE TO 2010」(注)にスタッフとして参加して、もっとも痛感したのはそこだった。お手軽につまみ食いしたユーチューブやマイスペースの情報でわかったような気になって、いざ目の前でナマ演奏を目にすると全然ちがう……ということがしばしばあった。実体をともなわない情報はただの記号に過ぎない。この連載の趣旨を根底から否定するようだが、これは本音である。

 ちょうど1年前に連載がスタートした『配信おじさん』。連載当初は、配信のみ発売のタイトルを紹介するような内容にするつもりだったが、いつのまにか音楽配信にゆかりの業界人のかたがたにお話をお聞きするというものになってしまった。しかしおかげでこれまであまり考える機会のなかった音楽業界の現状や未来に関して、あくまでも音楽配信を通してではあるが、考察することができたのは収穫だった。


フィジカル・メディアの激減、モバイル配信の伸び悩み

 さて、この1年間で音楽業界及び音楽配信はどのように推移してきたのか。一般法人日本レコード協会が発表する音楽ソフトの生産実績(金額ベース)を見てみよう(以下、すべて一般法人日本レコード協会の公式サイトhttp://www.riaj.or.jp/の資料を参照した)。

 それによると、2009年1月~9月のオーディオレコード(CD、アナログ、カセットなどフィジカル・メディア)は前年比85%、音楽ビデオ(DVD、テープなど)は93%で、両方をあわせた音楽ソフト全般(フィジカル)は86%と、長期凋落傾向に歯止めがかからない。ちなみに08年1月~9月は音楽ソフト全般で前年比97%だから、下げ幅がさらに加速し深刻化しているわけだ。

 次に有料音楽配信の実績を見てみよう。同じく2009年1月~9月の売り上げは、前年比わずか104%でしかない。08年までは前年比120%以上の勢いで伸びていたから、明らかに音楽配信の伸びは鈍化している。そのため、音楽配信の売上を加えても、音楽ソフト全体の前年比は89%と前年を大きく下回っている。前年まではフィジカルの売上げ低下を配信が補っていたのに、フィジカルの売り上げ減が加速し、さらに配信の伸び悩みもあって、カヴァーしきれなくなっているのである。

 さらに配信の内訳を見てみよう。PC配信(定額制も含む)の売り上げは前年比111%、それに対してモバイルはわずか101%と完全に頭打ちだ。金額ベースでもモバイルの伸びはPCの半分程度である。つまり音楽配信の伸び悩みはもっぱらモバイル配信の伸び悩みに起因しており、PC配信はむしろ堅実に伸びているのだ。だが配信全体の中でのPC配信のシェアは08年11%→09年12%と、まだまだ微々たるものでしかなく、フィジカルも含めた音楽ソフト全体の急激な売り上げ減をカヴァーするにはほど遠い、というのが現状である。

 とはいえ、CD、DVDなどほかのメディアが軒並みつるべ落としのように売り上げを落としているなか、曲がりなりにも二桁以上成長しているのはPC配信だけである。先がまったく見えない暗闇でもがいているような現状の音楽業界としては、これを伸ばさなければ未来はない。そして、欧米の状況を見てもPC配信はまだまだ伸びしろを残していることはあきらかだ。いまだiTunesストアへの参入をためらっている某大手メジャーも含め、音楽産業全体で考えバックアップしていかなければならない問題だろう。前月号で触れたように、PCで音楽を聴く習慣や方法などを、業界全体で広く一般層に知らしめる努力も必要だ。そしてPC配信のメインはほとんどクレジットカード決済であり、レコード業界のメイン顧客層である10代はクレジットカードを持てない。クレジットカードなしでも購入可能なモバイル配信が急激に普及したのはそういう理由もある。そのあたりの対策を考える必要があるかもしれない。


「デジタルに還元できるものや情報に対してお金を払うという感覚が希薄」

 とはいえ、情報はすべてネットで入手できる時代となって、商品がすべてデジタル・データに変換可能な〈音楽ソフトを売る業種〉というものが、きわめて大きな危機に瀕しているのは間違いない。

 先日ツイッター上で会話していたさい、印象に残ったのが、大阪在住だという大学生の言葉だ。「バイトもできない中学生からケータイを持つようになった世代というのは、デジタルに還元できるものや情報に対してお金を払うという感覚が希薄になったとは思います。僕が中学生の頃には、周りはみんな違法ダウンロードで音楽聴いてましたし」

 ネット上のほとんどの情報はタダで手に入るし、それが当然という感覚にわれわれはすでに慣らされている。そしてデジタルに変換可能な「モノ」もまた、コピーがコピーを生んで、ネットを媒介として無制限に配布されていく。正規であれ違法であれ、そうした形でインスタントに作られたコピーが広がっていくのは、もはやとどめようがない。モノには対価を払わねばならないという〈常識〉が、若い世代を中心に急激に崩壊しつつあることは確かなようだ。そして、そうして手に入れた〈モノ〉に執着や愛着など持ちようもないこともまた、確かである。

 先日あるライヴ・ハウスの店長と話していて出てきたのは「最近の若い子は音楽を好きなんじゃなくてバンドを好きなんですよ」という言葉。つまり、あるバンドを好きになったらもっといろんな音を知りたいと思い、芋づる式にいろんなバンドや音楽を聴くようになる、という、音楽好きなら当たり前の行動が、若い子にはないというのだ。ライヴに行っても対バンを見ない。フェスに行っても既知のバンドしか見ない。音楽そのものではなく、バンドのキャラクターを愛しているだけだから、好奇心の対象が広がっていかない。彼らにとって音楽はアーティストを引き立てるアイテムのひとつに過ぎない。CDを金を出して買うことはないが、Tシャツなど物販には金を使うという行動と、それは同根であるのかもしれない。

 だがそれもまた現実であり、時代の流れである。あるミュージシャンは、商品がデジタル・データに変換できる業種(出版、放送、音楽、映画などの第3次産業)すべてに同じような問題が起きている、と指摘していた。大きなパラダイム・シフトが起こりつつある。われわれのなすべきことは、疲弊し矛盾と欠陥をさらけ出しつつあるシステムをいちから組み立て直すことだろう。

  (注)

  2009年10月5日~11月9日に渡って東京・新宿ロフトで行われたインディーズ~オルタナティヴ・ロックのイベント。

2010年4月号□ナップスター・ジャパン撤退


DRMフリーの流れから取り残される日本

 今月は残念なニュースから。ナップスター・ジャパン㈱が今年5月末をもって全サービスを終了することを発表した。親会社のタワーレコード㈱のプレス・リリースによると、「ナップスタージャパンに対するライセンサーである米国Napster, LLC.が米国および欧州の音楽市場に対応するため、DRMフリーへのプラットフォーム移行を進めていることなどにより、ナップスタージャパンでは、楽曲の許諾およびシステムの運用等に対応するための大規模な支出なしには、今後、日本市場におけるユーザに対して現行のサービスの提供を継続することが困難になると判断したものです」ということである。

 ナップスターといえば日本で唯一のサブスクリプション型音楽配信サービス。毎月一定額を払えば、900万曲以上が聴き放題というシステムなら、ふだん聴けないアーティストやジャンルの音楽も気軽に接することができる。専用アプリケーションの使い勝手や扱い楽曲など問題点がなくもなかったが、特に本誌読者のようなディープな音楽ファンにとってはきわめて有用な存在だったはずだし、個人的にも仕事上でも仕事を離れても欠かせぬサービスだった。なので今回の全面撤退は残念でならない。海外ではラプソディーなど同種の定額制サービスがあるが、残念ながら日本国内からは使用不可能だ(裏技的にアカウントを作ることは可能なようだが)。今回の撤退がDRMフリー化への対応が原因というのは、なんともやりきれない。もちろんナップスターの利用者が、そうした経費をリクープできるだけの数に達していれば問題なかったわけだが。

 DRM(Digital Rights Management)とは、デジタル・コンテンツの利用や複製を制御・制限する技術で、当初、音楽配信で提供される音声データには暗号化などが施され、無断のコピーや再生などができないよう保護されていることが多かった。だが近年、DRMによって消費者の権利を制限することへの批判が高まり、一昨年にはソニーBMG、EMI、ワーナー、ユニバーサルという世界4大メジャー・レーベルがDRMフリー音源の配信に踏み切っており、DRMフリーはいまや世界的な潮流と言っていい状況になっている。米国ナップスターのDRMフリー化への移行は、それを反映したものと言えるだろう。

 だがこと日本ではDRM付き音源の配信がいまだ主流である。再三お伝えしているように日本では音楽配信の全売り上げの90%をモバイル(ケータイ)向け配信が占めるという特殊な事情があり、モバイル(ケータイ)向け配信(着うた、着うたフルなど)はDRMでがっちりと保護して販売する体制ができあがっており、またそれで十分な利益があがっているからである。いわば日本的、ガラパゴス的に発達したケータイ文化が、世界的なDRMフリーの流れから日本を置き去りにする大きな原因となっているわけだ。DRMフリーに対応したアマゾンMP3などのサービスも、日本には上陸してこない。

 とはいえ、1月号本欄でもお伝えしたように、着うたの売り上げは明らかに頭打ちとなっている。音楽配信全体では堅実に伸びているものの、その伸びの多くはPC配信によるもの。となれば今後はPC配信に力を入れるしかなくなるし、そうなればレーベル側もDRMフリー化の流れから無頓着ではいられなくなるはずだ。現に坂本龍一のコモンズ、ダンス・ミュージック専門のビートポートなど、DRMフリー音源の配信サイトはインディーズ系を中心に着実に増えている。ナップスターの撤退は残念だが、メジャー・レーベルがユーザーの正当な権利を制限するようなやり方は、いずれ淘汰されていくのは、コピー・コントロールCDの顛末が証明している。もちろん、特に若年層のケータイ・ユーザーの間でごく当たり前におこなわれている違法データの取引には、なんらかの対策が必要だろう。だが現在の音楽業界にとって大事なのは、そうした、ただはやりものを使い捨て的に聴くだけのユーザーではなく、深く広く音楽に関わろうとする本誌読者のような音楽ファンを増やしていくことと考える。

 正直な話、今回のナップスター撤退で日本に於ける音楽配信状況は一歩も二歩も後退したと判断せざるをえないが、先月号でも触れたクラウド・コンピューティングの一般化によって、購入したデータをローカルのストレージにダウンロードさせるのではなく、クラウド上にあるデータを有料でストリーミング配信するサブスクリプション型のスタイルが今後の音楽配信の主流になっていくとの予測もある(ただしナップスターはクラウド型ではない)。最大手のiTunesストアの動向も含め、今後の動きに注目したい。


新しいWEBメディアのあり方、オトトイ

 ところで、そうしたディープな音楽ファンにも見逃せない目立った動きを見せているのがオトトイだ。CDクオリティを超える高音質データや独自音源の提供のみならず、インタビューや論評、紹介記事など読み物も充実させ、いわば音楽雑誌とレコード店をウェブ上で合体させたような新しいメディアが構築されているのだ。音源はもちろんすべてDRMフリーで、インディーズのアーティストが主だが、メジャー・カンパニーの力が相対的に大きく低下している現在、オトトイの存在はメジャーからこぼれ落ちたものを補完するというより、ある種のカウンターもしくはオルタナティヴとして機能しているのである。

 最近のぼくの音楽環境はといえば、各レコード会社からのサンプルや、自分で購入するCDはすべてPCにリッピングして(ビットレート320kbpsのMP3(注)。ただしサンプルによってはPCからの再生を禁じているものもある)、さらに各配信サイトやアーティストのオフィシャル・サイトからダウンロードした音源とあわせ、PCからデジタルで取り出しDAC経由でプリアンプ→パワード・スピーカーで聴くことがほとんどだ。CDなどフィジカルで購入した音源と配信で購入した音源の割合は、4:‥6か、月によっては3:‥7ぐらいだろうか。ネット上で音を確認して、盛り上がっている気持ちのままにその場ですぐ入手することができることのできる音楽配信の手軽さと楽しさは、やはり何物にも代え難い。その意味でオトトイやナップスターのような優れたサービスがどんどん出てくることを望む。

  (注)

  現在はすべてApple Lossless形式で保存している。

2011年5月号□配信おじさん拡大版――ネットだから、配信だからできること――3・11直後の動きを追う

 発生から一ヶ月が経過した今も、恐怖と不安は拭い去られることはない。今まさにそこにある危機は、現在進行形で我々の生活のみならず精神をも蝕んでいるようだ。灯が消えたように暗く、静かになった夜の渋谷に、光とエネルギーが戻る時はくるのだろうか。

 後世になって今の時代が振り返られるとき、「3・11」が、歴史の転換点と位置づけられるのは間違いないだろう。そして音楽などカルチャーの分野でも、「3・11」以前と以降では、表現のフェーズが異なってきていることは明らかだ。「9・11」のときも、衝撃は大きかったが、「3・11」はごく身近な、我々の家族や友人たちが犠牲になったのだ。この空前にして(願わくば)絶後の危機を、どう乗り切っていけるのか。そのとき自分は何ができるのか。ぼくのような一介のライターでさえ、自らの無力を感じ途方もない空虚感を覚えている。真摯な表現者であれば、なおのことそうだろう。だがそこで意気阻喪してしまっては、音楽をやっている甲斐がない。そこでどんな行動をとるか。その表し方はさまざまだ。この駄文はあくまでも配信ネタの連載コラムだから、ネット上に展開されたミュージシャンの意志・態度表明を追っていきたい。ただし、筆者の目に触れたものに限られるし、当然すべてではない。


海外のアーティストたちの動き

 元オアシスのリアム・ギャラガーが音頭をとり、イギリスのミュージシャンたちが参加したチャリティ・コンサート「Japan Disaster Benefit Gig」。4/3にロンドンのブリクストン・アカデミーで催された。リアムの現在のバンド、ビーディ・アイやポール・ウエラー、プライマル・スクリーム、リチャード・アシュクロフトといった英国ロックの新旧大物たちが参加、その模様は英国のFM局XFMを通じて同局の公式サイトからストリーミング中継された。ぼくも聴いたが、どのアーティストも気合い十分の熱演で、単独でやれば十分にアリーナを満杯にできる連中が、こうして日本のために集ってくれたのは本当にありがたいことだ。アーティストも、スタッフもノーギャラで参加、会場も機材も無料で提供され、集まった寄金は2200万円。さらにビーディ・アイは期間限定でビートルズ「アクロス・ザ・ユニヴァース」のカヴァーを配信販売、収益はすべて被災者に寄付される。

 いっぽう福島原発の暴走で放射能汚染が懸念される中、海外アーティストの来日キャンセルが相次ぎ、ファンを嘆かせている。そんな中、たまたま震災直後に来日が決まっていたシンディ・ローパーは、まさに地震発生時に日本へと向かう機中だったが、そのまま来日。「音楽は、この世で最も力強い伝達手段のひとつ。人間は脈や鼓動のあるリズムの生き物で、リズムに身を置く時、私たちはものすごく自由になる。音楽を必要とする人々がいる限り、私は歌い続ける」(朝日新聞)と力強く語り、「私にできることは音楽。私の歌で少しでも勇気を、少しでも元気を与えることができるなら、それが私の仕事と思っています」と、予定通りの公演を行った。その最終日、3月18日のライヴはユーストリームで中継され、数万人が目撃している。親日家として知られ、これまで新潟地震などへの援助も惜しまなかった彼女だが、その真摯さと誠実さが改めて注目された。

 またジェーン・バーキンは、復興支援のために緊急来日し、4月6日に渋谷クアトロでフリー・ライヴを敢行。その模様はやはりユーストリームで中継された。

 ニューヨークでは日本のためのチャリティ・コンサートが連続しておこなわれ、オノ・ヨーコ、パティ・スミス、アントニー(アントニー&ジョンソンズ)、ソニック・ユース、チボ・マット、矢野顕子らが出演している。日本時間4月10日にはジョン・ゾーン、ルー・リード、坂本龍一、ビル・ラズウェル、フィリップ・グラスらが出演するチャリティーイベント〈Concert for Japan〉が催され、その様子はユーストリームにて中継されたはずだ。

 そしてレーベルを超越してジョン・レノン、U2、ボブ・ディラン、マドンナ、ブルース・スプリングスティーンなどが楽曲を提供したチャリティ・アルバム『SONGS FOR JAPAN』が、3月25日(金)午後10時にiTunesにて世界同時発売され、18カ国で1位となったことも記憶に新しいだろう。収益はすべて日本赤十字社に寄付される。日本ではユニバーサル・ミュージック所属の邦人アーティストが楽曲を提供した『アイのうた~東日本大震災チャリティ・アルバム』も配信されている。


オトトイのチャリティ・アルバム、トータス松本の「一日一歌」

 そしてインディーズ系音楽配信サイト「オトトイ」では、3月11日の震災を受け、翌12日に被災地救済支援コンピレーション『Play for Japan』の制作を発表。5日後の17日に112アーティストが112曲を提供した6枚組のコンピレーション・アルバムをリリースするという早業を披露。これなどは思い立ったら即座にリリースできる配信の強みであり、そして煩雑な専属契約に縛られることのないインディーズ・アーティストの自由さがあってこそ実現した企画だろう。その後4月1日には、第二弾として『Play for Japan vol.7~10』をリリースしている。こちらには74曲74アーティストの楽曲(すべて既存曲以外)が提供されている。

 またこのほか、震災にまつわる新曲を自らのウェブ・サイトやユーチューブ等で無料公開したり、あるいは有料配信して収益を寄付するなどの例は枚挙にいとまがない。歌うべきテーマと、聴かせる対象、歌う目的が明確なだけに、言い方は悪いが、ミュージシャンとしては激しくモチベーションをかき立てられるはずだ。きっかけは不幸なことだし、二度とあってはならないことだが、祈りにも似た音楽家たちの気持ちにはウソ偽りはないはずだ。ことは家族や友人、仲間たち、つまりは自分たちの問題なのである。

 なかでも際だっていたのが、「AC」のCM「日本の力を、信じてる」で、力強いメッセージを発している、ウルフルズのトータス松本。震災一週間後の3月19日から「一日一歌」と称して、毎日1曲を自らのウェブ・サイトで発表し始め、4月4日まで16曲をアップしている。震災をきっかけに作った曲も、そうでない曲もあるようで、弾き語りのデモ・テープに近いような内容だが、どの曲もトータスの真摯さと誠実さをうかがわせるものばかり。作るうち自分の創作・音楽活動について内省した様子がブログには記されている。


斉藤和義「ずっとウソだった」の衝撃

 いろいろなミュージシャンが震災をきっかけに作った曲は、被災者や、直接被災していなくても精神的にダメージを受けた者へ癒したり希望を与えるような歌がどうしても多くなるが、怒りや憤りをあらわにする音楽家もあらわれた。この原稿を書いている時点でもっともホットな話題である。

 4月7日未明、突然ユーチューブ上にシンガー・ソングライターの斉藤和義の楽曲「ずっとウソだった」がアップされた。斉藤自身のヒット曲「ずっと好きだった」を生ギター弾き語りで歌詞を変えセルフ・カヴァーしたものだが、これが強烈な反原発ソングになっているのだ。

 「この国を歩けば/原発が54基/教科書もCMも言ってたよ/安全です/ずっと、ウソだったんだぜ/ホント、クソだったんだぜ/何人が被爆すれば気がついてくれるの?/この国の政府/ずっとクソだったんだぜ/東電も、北電も、中電も、九電も」

 といったストレートなプロテストが、なんの素っ気もない固定カメラ映像で、ぶっきらぼうに歌われるインパクトは強烈だ。彼の怒りや苛立ちがひしひしと伝わってくる。4月4日のライヴで初披露したものらしいが、いまのところ斉藤自身によるコメントがなく、詳しい経緯は不明だ(なかには、歌っているのは本人ではない、という説もあるが、ここでは本人だという前提で話を進める)。(注1)

 しかしこの件がネット上で大きな話題となっているのは、楽曲のインパクトもさることながら、この動画がアップ直後に何者かによって削除され、ほかの誰かによって再アップされ……といういたちごっこを繰り返し、余計に騒ぎが大きくなり楽曲の存在が知られるという、いわゆるストライサンド効果(インターネット上で情報を隠蔽しようとすると、その隠蔽行為が逆に注目を集めてしまい、隠蔽しようとしていた情報がよりインターネット上で拡散してしまうこと)も大きいだろう。(注2)

 斉藤のようなメジャー・レーベル所属のアーティストがここまではっきりとした反原発ソングを歌った例としては、タイマーズ(忌野清志郎)の「ラヴ・ミー・テンダー」「サマータイム・ブルース」が思い出される(他にブルーハーツ、佐野元春なども歌っている)。斉藤自身も以前「青い光」という反原発を示唆する歌を歌っており、もともとそういう指向は持っていたようだ。だが演る側も聴く側も、今回は切実度がまるでちがう。政府、電力会社、大手メディアまでもがスクラムを組み、巨大利権である原発事業存続に向け血道を上げている現在、斉藤のような立場にある音楽家がこういう行動に出るのは、とてつもなく大きな勇気を必要とすることは容易に察することができる。だが、ここで声をあげなければ、表現者をやっている甲斐がないのではないか、とあえて挑発的に言っておきたい。言いたいことを言い、歌いたいことを歌わなければ、今の仕事を選んでいる意味がない。もちろん売文業者である我々も同じだ。

 斉藤の勇気ある行動が今後どういう波紋・影響を及ぼすか注目だ。もちろん彼のように直截なプロテスト・ソングに仕立てることに抵抗がある音楽家も多いだろう。表現の仕方はそれぞれでいいのだ。まずは声をあげる。行動する。そこからしか、なにも始まらない。

  (注1)

  その後、斉藤はさまざまなライヴで「ずっと好きだった」と「ずっとウソだった」をメドレーで歌っている。また中村達也とのマニッシュ・ボーイズでも反原発のメッセージ・ソングを歌っている。

  (注2)

  2013年4月12日現在、ユーチューブ上に、この動画は存在する。閲覧数は1297314回。

2011年11月号□アップルが音楽シーンにもたらしたもの


音楽聴取のスタイルを変えた

 去る10月5日、アップルのスティーブ・ジョブズが死んだ。ネット上はもちろん大騒ぎ、新聞も軒並み一面扱い、TVのワイドショーでも放送され、彼の存在の大きさを思い知らされた。ある意味でマイケル・ジャクソンが死んだとき以上の騒ぎだったかもしれない。ぼくはマッキントッシュ愛用者ではないが(注)、iPhoneやiPodは愛用しているし、iTunesストアは趣味の上でも仕事の上でもなくてはならない存在だ。数多くのクリエイターに支持され、独創的なアイディアに満ちた製品を送りだし続け、企業経営者としての振るまいというよりはある種のライフスタイルを象徴する存在として敬愛され、神がかり的と言われるプレゼン・パフォーマンスで耳目を引き続けたカリスマ性で、ジョブズはある種のロック・スターのような存在だったと言えるかもしれない。

 前述のように私はウインドウズ・ユーザーであり、アップル製品を単なる機械や道具であることを超えたロマンとして受け取るほどのつきあいも愛着もないけれども、音楽愛好家の一人として、ジョブズやアップル社が果たした役割はきわめて大きかったと考える。

 その最大のものはiPodのリリースだろう。ジョブズが2001年に発表した「デジタルハブ構想」は、マッキントッシュのコンピューターを中心にして、デジタルカメラやデジタル音楽プレイヤーなどさまざまな情報家電製品をネットワークで結び、それらのデバイスが扱うデジタル・データを編集・同期するハブとしてマッキントッシュが機能する、というものだった。そのために音楽再生/音楽データ管理アプリケーションのiTunesを開発し、さらにiTunesの機能を最大限に生かし、デジタルハブ構想を理想的に実現するためにiPodを開発するのである。

 大きな転機は、当初はマッキントッシュ専用だったiTunes及びiPodをウインドウズにも対応させたことだった。それを境に、ぼくたちの音楽生活は大きく様変わりしていくことになる。それまでも一部メーカーから簡易なMP3プレイヤーは発売されていたが、iPodは群を抜いた洗練されたデザインと無駄のない直感的なユーザー・インターフェイスで、たちまち大ベストセラーとなった。

 カセット→CD→MDと移り変わってきた携帯プレイヤー市場は、パイオニア的存在だったソニーのウォークマンが長いこと主導していたが、より軽く小さく手軽に大量の楽曲を持ち運べるiPodへと一気に主流が移ることになる。当初は1000曲程度の容量だったが、ごく一般的な音楽愛好者には十分で、自分のCDコレクションを丸ごとリッピングしてデータ化しパソコン内に蓄積、それを自動的に同期してiPodに移し、いつでもどこでも聞くことができるという、まったく新しい音楽ライフ・スタイルを提示したのである。

 そこで必然的に登場するのが、音楽配信サービスだ。ファイル共有ソフト・ナップスターによる違法ファイル流通の時代を経て、レコード会社主導による音楽ファイルの有料ダウンロード販売がいくつも立ち上げられ、伸び悩む中、ジョブズは2003年3月に満を持してiTunesミュージック・ストア(現iTunesストア)をスタートさせる。iPodとiTunes、そしてiTunesミュージック・ストアという3要素を連携・統合したビジネスモデルは利便性、手軽さなど使い勝手において他を圧倒し、iTunesミュージック・ストアは、たちまち音楽配信におけるシェアトップを独走することになる。これは音楽ソフト販売において、既存のレコード業界以外の企業が主導権を握った初めての例だったと思われる。アップルの強力なリーダーシップによって、商品ごとの価格がほぼ完全に統一されたことも成功の要因だったが、価格決定権をアップルに奪われた形のレコード会社には、これを不満に思う向きもあり、そのため日本の一部のレコード会社が、いまだiTunesストアへの商品提供に消極的なのは残念だ。

 いずれにしろジョブズ及びアップルは、有料音楽配信普及への大きな道筋をつけ、それは世界的なCD売り上げの急降下、そしてそれに伴う音楽業界の構造変化を呼び、結果として業界自体を大きく変えることになったのである。賛否両論はあるものの、CDから配信へという大きな動きを促進したのはアップルの功績なのだ。


音楽制作の現場を変えた

 そして音楽制作のサイドにたつと、現在の音楽制作/録音の圧倒的な主流が、プロトゥールズに代表される、いわゆるDAW(Digital Audio Workstation)と言われる、パソコンを中心としたシステム/環境であること、DAWソフトの多くがMacを前提として開発され、いまもなおウインドウズに比べ圧倒的なシェアを占めていることを考えれば、アップルは音楽が流通する現場のみならず、音楽が作られる現場をも大きく変えたということになる。ローコストで従来のプロの録音スタジオ同等の環境が構築可能なDAWシステムの普及が、音楽制作にまつわるコストを激減させ、音楽家のプライベート・スタジオ所有をごく当たり前のものとしたことを考えれば、これまた音楽業界の構造変化に、間接的とはいえ大きく関係していることになる。

 かっての「ウッドストック」の再来を夢見て、「USフェスティヴァル」という、一大イベントを2度に亘って自腹で主催し、推定2000万ドルという損害をこうむったとされる、アップル創業時のパートナーであり天才プログラマー、スティーヴ・ウォズニアックに比べれば、ジョブズがそれほどの音楽マニアだったという話は聞かない。だが、どっぷり浸かった人間ではなかったからこそ、常に先・先を見通すことができたのだろう。

 ジョブズ及びアップルが提案する「次」は、iTunes in the Cloudである。それは自分の音楽コレクションをいつでもどこでも聞くことができるという、iPodでアップルが提供した新しい音楽ライフ・スタイルの「次」に来るべきものだ。クラウド・コンピューティングの時代に対応したものだが、すでにグーグルやアマゾンが同様の動きを示しているし、アップルの優位性は必ずしも盤石ではない。定額聴き放題やハイレゾ音源の配信が主流になりつつある中で、iTunesストアも転機にある。ジョブズ後のアップルにも注目だ。

  (注)

  ところが2012年8月にMac Book Airを購入してから、すっかりMac愛好者になってしまい、ウインドウズ機はほとんど使わなくなってしまった。

2012年6月号□違法ダウンロード刑罰化は、なぜ既存の音楽業界を救わないか

 著作権法の改定で、違法ダウンロードの刑罰化が法制化される見通しが強まっている。現行の著作権法では、著作権者の許可のない違法ファイルのアップロードは処罰の対象となるが、ダウンロードについては罰則がなく、音楽業界などが罰則を求めていた。被害者の告訴がないと起訴できない親告罪で、成立すれば10月1日から施行される。

 もちろん、少なくとも私を含め本誌読者で違法アップロード/ダウンロードを積極的に擁護・正当化する人はいないだろう。だがこの改定案には疑問が多いとする識者は多い。ここで問題になるのが、一般ユーザーは何が違法ファイルか、すぐには識別できないということ。ネットでは無数の音楽データがダウンロード可能だ。たとえば海外DJによるミックステープの中に日本国内では著作権法違反の音源が含まれている場合、事前にそれを知ることはほとんど不可能だ。一般ユーザーが罪の意識もなく何気なくダウンロードしても、著作権者(あるいは警察)の胸三寸で刑事罰を加えられるのであれば、インターネット・ユーザーの萎縮化を招くことにしかならない。これは数年前の輸入権問題と同じ構図だ。この流れが進めば、いずれは非親告罪化の議論がわき上がってくるだろう。なぜなら、今回の著作権法改定が、首尾良く音楽業界の売り上げ回復に直結するかと言えば、大いに疑問だからだ。

 なぜか。閉め出されたダウンローダーたちは既存の商業音楽に向かうのではなく、むしろ別の文化を生み出していくからだ。日本経済新聞の5/7付けの記事「『ニコ動』で進行するコンテンツ革命、熱狂の舞台裏」http://s.nikkei.com/JiYm59では、ニコニコ動画上で素人のクリエイターたちが作り出すヴァーチャル・アイドルが歌い踊る「ボカロP」と言われる音楽ビデオが、10代から20代のネット・ユーザーを熱狂させている現状がリポートされている。「素人が作った曲を素人が歌い、素人がアレンジをして素人がプロモーションビデオを作」って、それを一般ユーザーが楽しむ。いわば「コンテンツの自給自足」が行われている、と記事は指摘する。ニコ動上にかって氾濫していた、既存の商業動画や音源を改変した二次創作、三次創作と言われる動画のほとんどは著作権者の許諾を得ない「違法ファイル」であり、著作権侵害を指摘された動画は次々と削除された。そこでニコ動はJASRACと包括契約を締結し、「JASRAC管理楽曲を演奏したり歌ったりした動画を投稿することは可能となったが、CD音源を勝手に使用することは許諾範囲に含まれておらず」、結果的にニコ動ユーザーたちは既存のメジャー・レーベルが提供する商業音楽から離れ、代わって彼らの需要に応えたのが、初音ミクなどのボーカロイド・ソフトによって素人クリエターたちが作り出したヴァーチャル・アイドルだった。

 つまり著作権の強化が商業音楽離れを生み、「ボカロP」というまったく新しい文化を生んだ。インターネットの登場により世の中の仕組みや情報伝達の構造が根本的に変わってしまった中、その激変に対応することができなかったツケをユーザーに回すことが果たしてビジネス判断として正しいのかどうか。違法ダウンロードの厳罰化より先にやるべきことがあるのではないか。

2012年9月号□タブレットを購入して電子書籍について考える

 去る7月、楽天の電子書籍サービス「kobo」がスタートした。ぼくは現物を手にとったわけでないので実際の使い勝手等には言及できないが、初期設定のトラブルが続出したり、書籍ストアの品揃えの貧弱さ、使い勝手の悪さなどが次々と指摘されたりしている。それでも三木谷社長は強気で、不具合は解消されたし売り上げは絶好調、年末までに日本語の書籍を20万点揃え、来年には電子書籍事業を黒字化すると豪語している。

 ぼく自身、今年になって単行本『NEWSWAVEと、その時代』をiOSアプリ専用の電子書籍としてリリースした。おかげさまで内容は好評だったが、デバイスが限られていることもあってか、正直なところ、売り上げは期待したほどにはあがっていない。もちろんモノによるだろうが、巷間期待されているほど電子書籍市場は伸びてないというのがこれまでの実感だった。

 だが先日、遅ればせながら旧型のiPadを中古で購入して、少し考えが変わった。人生初タブレットだったが、電子書籍を購入・閲覧する機会が圧倒的に増えたのである。iPhoneでちまちまと読むのではなく、実際の書籍に近いサイズのタブレットで読むのは予想したよりはるかに快適だ。場所をとらない。通信環境さえ整っていれば、いつでもどこでも購入できる。紙の書籍に比べると少し安いので、古本屋に転売できないデメリットも、そこで吸収できる。手垢がついたり折れ目が入ったりを気にする必要がない。特にCDやアナログ、本や雑誌など資料関係が家中に山積みになっていて家族から不興を買っているぼく(や本誌読者諸兄)には、スペースをとらずに済む電子書籍は非常にありがたい。iPadは汎用のタブレットだから少し重いので、寝っ転がって読むのは厳しいが、koboや、年内にも日本発売されると言われているアマゾンのキンドルのような専用のリーダーなら、許容範囲だろう。音楽配信だと圧縮音源による音質劣化などもネックになるが、書籍ならばそういう問題は少ない。

 ただ問題もある。現状の電子書籍は、そのメリットを十分に生かしているとは言い難い。ほとんどの書籍が紙の書籍(のデータ)をそのまま電子化しているだけで、電子書籍ならではの工夫や配慮がない。専用のリーダーだと難しいのかもしれないが、文中の必要事項にリンクを貼って閲覧できるようにするとか、音や映像を閲覧できるようにするとか。その手間をかけると価格も高くなってしまうかもしれないが、タブレットやPCで電子書籍を読む積極的な意義を作れば、普及も早まるはずだ。

 たとえば本誌のような音楽誌こそ、電子化する意味がある。レコ評の欄から各レコード会社の試聴サイトや映像サイトにリンクを貼る。アフィリエイトでその場で気軽に商品を買えるようにする。またバックナンバーも含め電子書籍にすることで、品切れになった昔の号も買えるようになる。有料会員制としてデータベースにアクセスできるようにしてもいい。たとえば「ジョン・レノン」と打ち込めばインタビューやレビュー等関連の記事が即座に取り出せるようにする……など、可能性は無限に広がる。本誌のような歴史のある老舗雑誌なら、バックナンバーは日本のポピュラー音楽研究において貴重な資料である。ビジネルモデルとしても成立すると思う。ぜひご検討いただきたいものだ。

2013年6月号□台湾初の配信サービス「KKBOX」が日本上陸

 音楽配信の主流はダウンロード型から定額制聴き放題ストリーミング型へ、プラットフォームもケイタイやPCからスマートフォンへと移行しつつあり、日本でもソニー・ミュージック・アンリミテッドやレコチョクBEST、DeNAのグルーヴィといったサービスが競い合っている状態だ。

 さてそんな中、台湾発の定額制サービス「KKBOX」が6月から日本でのサービスを開始することになり、日本語のパイロット版をいちはやく体験することができた。

 KKBOXは、従来KDDIが提供していたスマートフォン向けサービス「LISMOアンリミテッド powered by レコチョク」を「KKBOX」にリニューアルする形でローンチする。KKBOXは、台湾、香港、シンガポール、マレーシアで提供されており、台湾と香港だけで一千万を超えるユーザーを抱える人気サービスだという。日本向けではマルチデバイス(PC、スマートフォン、タブレット)で利用可能。OS、キャリアも問わない。料金は月額980円。楽曲は「LISMOアンリミテッド」と同じものに加え、中国、韓国、洋楽、邦楽など幅広い。

 台湾で人気の秘密は、自分が聞いている楽曲をリアルタイムで他のユーザーも聴けて、チャットもできる「一緒に聴く」という機能にあるようだ。つまりネットワーク上の仮想ラジオDJのようなもので、友達同士で楽しむだけでなく、さまざまな人達が選曲のセンスを競い合い、KKBOX上で人気のある「ユーザーDJ」もいる。台湾では著名アーティストが「一緒に聴く」に登場することもあるという。スポティファイがフェイスブックと連携することで大きく利用者を伸ばした例を引くまでもなく、今後の音楽配信にはSNS的な要素が不可欠との見方もある。好きな音楽をネタに仲間と語り合うのは音楽好きの楽しみのひとつだし、日本版で著名なアーティストが登場して好みの楽曲を紹介し、直接その場でコミュニケーションまでできるとなれば、聴いてみたいという向きは多いだろう。

 通常のヒット曲のほか、さまざまなテーマに沿ったチャンネル/プレイリストが公開されており、たとえばクラフトワークの台北公演の簡単なレポートとともに、当日演奏された楽曲がその場で聴けるという仕組みもある。

 PCとスマホ、両方で利用してみたが、やはりこういう用途だとスマホでの利用が圧倒的に気楽だし利便性も高い。もちろん検索機能もあるが、スマホだと特定の楽曲やアーティストを探しだして聴くというより、ジャンル毎に用意されたチャンネル――K―POPの最新ヒット、のような――を流して聴く、という用途に向いているように思った。ちなみに3G回線でも再生は問題ないし、電波が通じなくてもキャッシュで再生もできる。

 取り扱い楽曲は、パイロット版を聴く限り、やはり中国語や韓国語の音楽の充実が目立つ。アジアン・ポップス好きには嬉しいだろう。一方で洋楽や邦楽には、これといって他との大きな差別要素は見当たらない。メジャー系に関してはひと通り揃っているが、インディーズはまだまだ弱く、ベテランの洋楽マニアには物足りないかもしれない。だがこのサービスの想定するであろう若年層向けには、これで十分という気もした。

 日々新しいサービスが登場する音楽配信業界に、個性あるサービスが登場したことを歓迎したい。

製品版のご案内

 この電子書籍は、製品版の本文を一部抜粋した試し読み版です。全文は製品版でお楽しみください。

音楽配信はどこへ向かう? アップル、ソニー、グーグルの先へ…ユーザーオリエンテッドな音楽配信ビジネスとは? (impress QuickBooks) [Kindle版]

販売ページ(Kindleストア)はこちら→ http://goo.gl/BbRld

※楽天kobo、紀伊国屋Kinoppyなど各ストアでも順次取扱予定です。

著者紹介

小野島 大(おのじま だい)

音楽評論家。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)などがある。

https://www.facebook.com/dai.onojima

twitter: http://twitter.com/dai_onojima

【試し読み版】

音楽配信はどこへ向かう?

アップル、ソニー、グーグルの先へ…ユーザーオリエンテッドな音楽配信ビジネスとは

発行日 平成25年7月1日

著 者 小野島 大

発 行 Impress Business Development LLC

    〒102―0075 東京都千代田区三番町20番地

    (本の内容に関するお問い合わせ先)

    mail:quickbooks_info@impress.co.jp

発 売 株式会社インプレスコミュニケーションズ

    〒102―0075 東京都千代田区三番町20番地

Copyright © 2013 Dai Onojima  All rights reserved.

編 集 アマルゴン

企 画 株式会社デジカル

制 作 株式会社デジタルディレクターズ

●寄席手引 落語をもっと楽しみたい人のための入門エッセイ/青木修

落語をもっと楽しみたい人のための入門エッセイ

●みちくさ学会 研究報告第1集 自宅の近所・通勤通学路にあるもの/みちくさ学会

知れば景色が変わるみちくさのヒント

●発展する駅と「エキシューマー(EKI+CONSUMER)」の消費行動/加藤肇

駅から見えてくる消費社会の実態

●「封筒」会社と「メールマーケティング」会社の社長が語る「手紙」と「メール」から考えるマーケティングコミュニケーション/杉浦正樹;椎葉宏

マーケティングにおけるコミュニケーションのあり方

●苦手意識をなくす魔法の12ヶ条で「勝てるプレゼンター」になれる教科書/藤木俊明

上手いプレゼンよりも伝わるプレゼンターを目指せ

●[100文字・5ブロック・A4 1枚]速く作る仕組みで早期成約をめざす「勝てる企画書」をつくる教科書/藤木俊明

企画書はシンプルに。100文字書くことから始めよう

●ビジネスに差が付く iPhoneアプリ仕事術 仕事が加速するiPhone/iPad神アプリ・秀逸アプリ/徳本昌大

仕事がさくさく進むiPhoneアプリのすべて

●Androidアプリ仕事術 1/アーク・コミュニケーションズ(著)Androider+編集部(監修)

定番アプリを使いこなしてこそ、スマホが便利になる

●Androidアプリ仕事術 2/アーク・コミュニケーションズ(著)Androider+編集部(監修)

定番アプリを使いこなしてこそ、スマホが便利になる

●「仏教」実践“〝超”〟入門 電子書籍で読む“〝大人の教科書”〟/川辺秀美

実践的に仏教学びたい人の大人の教科書

【試し読み版】音楽配信はどこへ向かう?

2013年6月23日 発行 初版

著者:小野島 大
発行:Impress Business Development LLC

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