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詩集 海の紙片

つじばやし けい

kzm出版



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  この本はタチヨミ版です。

夏を添える

ピアノが小さな家を作り、
ギターがそこにぬくもりを添える。

海辺の駅で見た女のひとは、
美しい頬をしていた。
プラットホームで電車を待っている時
その頬を夏空に向けて、
小さく息を吐いた。

夏時間

星まで届くストローで

海の泡を吹き出す
夏服の少女。

海の紙片

白い壁に寄りかかったまま目を閉じて
魚群を思い浮かべる。

傾いた地軸を
アジサシがかすめ飛ぶ。

サンゴの腕に蝶がとまる。

満ち潮に合わせて
卵塊がいっせいに
海へ流れ出る。

海へ、星へ

枯れたら、
海へ行け。

星の言葉を、
聴け。

渦巻銀河
鳥葬
アンモナイトの化石。

星の子が梢を揺らすたび
新たな神話がこぼれ落ちる。

枯れたら、
海へ行け。

星の言葉を、
聴け

真夜中のファンタジー

リーフにそそぐ月明かり。
寝そべって 考えた。

飛ぶ本をどうしたら捕まえられるか。


ほうき星

あれは
月に向かって
プラウを漕ぐ人だ。


ペンギン

長い眠りの中で
奇妙な羽飾りを増やしている。


泡立つ星々の中に
また一冊の本が飛んで行き


ヤシの実が落ちる寸前に
燃え尽きて 姿を消す。

農夫

その男は
温室の中で
星をまきながら
旅を夢見ている。

たからもの

月に腰掛けて
釣り糸をたらすと

宙吊りの地球へ
サンダルが落ちていった

ノスタルヂオ

秋暮れの
薄い青空に浮かぶ月は

子供の頃見た クリーム・ウェハースの色
どうぶつビスケットの色

夜の梅林

死者の食べ物を
 口にすると

ヒトはここまで存在を
 失くしてしまうものなのか

 「梅、いいですね」

若い女の影が
 連れの男の影に

  照れたように 言った

珪藻土

沢鳴りの音がする。

草を踏むことで
柔らかくなる 僕の鼓動。


音を分解するプリズム。


草の上で待つ人には
何かが宿っている。

濡れた町のプロローグ

最初に子供が来て 水たまりを
のぞき込んだ

つづいてノラ猫が現れ 水たまりの
水を飲んだ

つづいて太陽が水たまりの上を
またぎ

つづいて風が立ち。

濡れた町に

秘めやかな波紋が 次第に拡がり

公園地図

空から降ってきた妖精を

瞼の上にのせると視力が戻る。


詩を書くことを許された子供は

老眼鏡を胸ポケットにしまうと

公園地図をつなぎあわせる。


そこはとてもとても静かな世界。

草原はまだ生きていた。

草原はまだ生きていた。

草の波を滑るヨット。
草原の中から
大きな気泡が浮かび上がってくる。

ぼくたちはその気泡から逃れるように
ジャイブを繰り返す。

稲妻が
うめき声を洩らしながら、
気泡を切り裂く。

草の波がひくひく喉を鳴らしている。
草原はもうすぐ死ぬ。
ぼくたちはジャイブを繰り返す。


子供の頃に無くしたはずの凧が
雲の上を飛んでいく。



  タチヨミ版はここまでとなります。


詩集 海の紙片

2013年7月4日 発行 初版

著  者:つじばやし けい
発  行:kzm出版

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