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詩誌街灯 創刊準備0号

枝常亜良太・川瀬杏香

街灯詩舎

photo by rika

序文に代えて

詩人よ
生み出す血によって
自らの迷いに迷いながら

詩人よ
生み出す詩によって
自らの魂を癒しながら

詩人よ
淋しい路上に立って
彷徨う孤独な魂の慰めであれ

<責任編集>
枝常亜良太

詩篇

川瀬杏香

photo by kawase kyoka

  眠れぬ夜



眠れぬ夜
目を瞑り
大地を叩く雨音を
ただじっと
聞いている

明日に想いを
馳せる事もなく
夢に願いを
託す事もなく
絶望した訳でもなく

眠れぬ夜
大地を潤す雨音を
横になり
ただじっと
聞いている

  余燼





蹴飛ばした太陽が
空を燃やして沈んだ
何故
今日という日は終わり
何故人は
土へとかえるのだろう

わからぬのなら
狂ってしまうか
耄碌してしまえばいい

そんな戯言は
満月には届かず
空耳となり
誰かの耳元をかすめて
消えゆく

夜の隣りで
さだめは有無を言わさず
朝にはまた日が昇り
それを見守る程の
余裕もない

ただ今は
夜が明けてはすぐに
夜を待つ
あなたが居て
わたしが居る

よせてはかえす
波のような
燻り続ける煙のような
夜の隣りで

  夜の魔力

幼き頃私は
夜を恐れていた
色を無くし黒い大きな
影絵の様になった山々が
私の心に覆い被さって
離れなかった
夏は水をはった水田が
私の足をひきずりこんで
げらげらと笑った

木造家屋の天井では
顔とは呼べぬ顔たちが
ぎょろりと眼をむき
手招きしていた
テレビコマーシャルの
ハーモニーは
耳鳴りの様に残り
私に夢を
見せようとはしなかった

いま思えば不思議で
しかし僅かながら
幼き頃の恐れはいまも
残っている
その恐れが何だったのか
答えを解いてみようと
私は夜に問いかけるが
暗闇に返事はなく
いまの私には
知る由も無い

  夜の魔力(二)


幼き頃恐れていた
夜の暗闇は
いまでは私に
自由と許しと
想像力を
与えてくれる
夜の闇は
醜くもあり
美しくもある

家路を急ぐ私の
耳に流し込んだ
メロディーは
様々な思いを
さらって
さらわれた思いは
闇が消してゆく

唯一夜だけが
私が
私でいられる時
なのかもしれないし
私が
別人でいられる時
なのかもしれない

夜を恐れていた
幼き頃よりも
ずっと

  口笛


生暖かい風
近づく口笛の
自転車の音
彼女は突然口笛を止めた
今日も独り
見えない何か
それとも彼女には見える
何かに
怒りや
哀しみをぶつけ
雄叫びのような声をあげて
ペダルをこぐ
私は幼心に明日は我が身と
思いながらも
彼女を奇異的な目で
見ていたに違いない

  口笛(二)

奇声を発しながら
夜道をゆく彼女を
奇異的な目で
見ていた私は
それでも彼女に
親近感を抱いていた

何故なら
患っている部分は
同じだと
感じていたからだ
そう
私も彼女も
何も変わりはしない
ひとつ違うのは
悪い言い方をすれば
彼女は運に
恵まれなかった

月日は流れ
彼女も年をとり
私も社会に出た
ある夜
私は溜め息まじりに
口笛をふきながら
ペダルをこいでいた

穏やかな表情で
自転車に乗る彼女と
すれ違った

  口笛(三)




さようなら

自転車の音

さようなら

口笛の

さようなら

脳の病

彼女は不幸だったのか
幸せだったのかそれとも

それを考える思考も
持ち合わせぬまま
生涯を終えたのだろうか


彼女にしかわからない

年老いた彼女の母親は
彼女の最期を見とどけ
哀しむと同時に安堵したのだろうか

母親にしかわからない

どちらにしても
彼女の母親も

一度は彼女の花嫁姿を
夢見たに違いない

さようなら

自転車の音

さようなら

口笛の

さようなら

脳の病

どうか空の上では平等しあわせ

詩篇

枝常亜良太

photo by rika

  いっぽんの街灯




孤独な魂から生まれし言葉は
月も見えぬ夜の闇をほうぼう彷徨ったあげく
いずれいっぽんの街灯になればそれでよい
いまも街路に迷いし魂に
たったいま独りぼっちの魂に
ほの暗い明かりを灯し黙して寄り添うだろう

  ちいさな窓




そぼふる雨に街はしらむ
ちいさな窓からみはるかす
蟻のいとなみ見るように
ちいさき人のくらし見ん
蟻の心は知らねども
ちいさき人はなにおもう
人は両手になに抱え
僕の窓から消えてゆき
けぶる窓から消えてゆき

  秋の日に


心根は朧げに
ゆらゆら揺れ、ゆらゆら揺れ

秋の陽射し水面には
光りの玉煌めき
冷たい水底に沈む
哀しみ隠すよに
ちらちら光る粒あふれ

絹のよに
秋の日は柔らかく
嗚呼、心根は朧げに
ゆらゆら揺れ、ゆらゆら揺れ

朧げな心根に目をつむり
川面を撫でる風に揺られよか
石の上
イトトンボ
秋の日に揺れるよに

  少女の窓に




軒下の雨粒が心を決めかねて迷っている。ふりやまぬ雨。庭先に植えられた低木の大きな葉は陰鬱な深緑に俯く。雨はひっきりなしに軒を叩き、その雨粒を除いて、次々に雨粒は落ちていく。粒の形をとどめることもなく。
窓には少女がぼんやりと落ちぬ雨粒を見つめている。ゆくべきか。ゆかぬべきか。少女は心を決めかねて迷っている。ゆかぬのはその雨粒が落ちぬせい、と自分に言い訳している。その雨粒が落ちることを願うのか、落ちぬことを願うのか、それすらわからない。
明日は晴れるでしょうか?明日は晴れるでしょうか?
少女の窓に今日も雨がふり、今日も落ちぬ雨粒を見つめている。

  小さなひかり

この
小さなひかり
胸に
灯したい

この
小さなひかり
空っぽの
胸に

外に
冷たい風
吹こうとも

この
僕の胸は
やせっぽちだけど

お日さまが
山の向こうに
沈んだら

この
小さなひかり
胸に
灯したい

やせっぽちの
僕の胸に

ひとりぼっちの
淋しい人よ

ここにおいで

この
小さなひかり
見つけて

  日曜の朝に
    ~ルー・リードに感謝を込めて





日曜の朝にあなたは
どこにいっちゃったの
いくら探しても見つけられない
もう僕の手の届かないところにいるの
僕はまだどうにもならないよ
なんにもできないんだ
思うこと
感じること
僕の歩いている道はどこに通じているの
あなたの道はどこに通じていたの
この世はどこを歩いても
どうにもならない道ばかり
思うこと
感じること
それだけが僕を支えてるんだ
やりきれない日々だけど
あなたを倣い
いつか辿り着く
素敵な日曜の朝を夢見ていよう

掌編 ~車窓~

あとがきに代えて  川瀬杏香





瞬きする度に変わる景色を見つめて
「私も、あの景色も本当に存在してるのかな」
なんて、あんまり純粋な瞳をして君が言うから、電車の心地よい揺れで夢見心地だった僕も、ぱっと目が覚めて君と同じ窓の向こうをしばらく眺めていたんだ。
ねぇ、何も答えない僕の答えを、君は知っているんだろう?
朝のやわらかな日差しは電車の速度にあわせて建造物や樹々の間をくぐりぬけ、時に優しく時に激しく僕たちを照らす。
「眩しくない?」
「平気だよ」
微笑む君に、僕はさっきの答えを返そうとしたんだけれど
「わかんないんでしょ?」
と言って無邪気に笑う君はさっきとは別人のようで、僕はそんな君が好きなのかもしれない。そして訊いておきながら「私も」と答える君は君で、わからない僕の事が好きなのだろうと思う。
僕たちは多分、どっちつかずでわからなくて我が儘な存在で、何かを決めつけてしまえるような崇高な存在じゃないんだ。ちっぽけな存在、人間。
だけど答えなんてなくても、きっと君が僕の存在を信じていてくれるから、僕だって心から笑えるんだ。だから明日も笑って生きるために、僕たちは優しい日差しを信じて歩いて行く。

跋文  枝常亜良太

男は理屈っぽくていけません。詩人は詩に語らしめるべきでしょうが、すこしだけ語ることをお赦し下さい。
或る日、川瀬さんの詩に触れた時のこと、とても不思議な感覚に襲われたのです。これらの詩は、私自身によって書かれるべきだったのではないか、そう思ったのです。ただ作風が似ているのだろうか、とも思い、落ち着いて読み直してみました。けっして作風は似ていません。そこにあったのは自らが発してもおかしくない感情であると気が付いたのです。彼女の詩に私は、自身の感情を投影し、こころは旅をしたのです。
或る日、表現とは、表に現わす事だと気付いた時、ただ思うことをやめ、我が身に降りてくる言葉たちを掴まえ、地上に引き摺り落として記録し、それを誰かに見てもらうための活動をしてきました。
なぜ書くのか、その理由は何もわかっていませんでした。自分自身が文芸作品を読む時、また音楽、絵画など芸術作品に触れる時、いったい何を求めているのか。深く考えたことがありませんでした。しかし、確かにその行為は、自分自身に必要な事であり、自分自身を救ってきたにちがいありません。
哀しいうたをうたって何の意味があるのか、という問いもあるでしょう。まったく救いの無い表現も存在します。それでも、表現された哀しみは、哀しみを抱えた魂の慰めになるでしょう。少なくとも私自身はそう信じています。
私の表現にもきっと人の心を振るわす何かがあると信じ、ここにいっぽんの街灯を建てました。私と川瀬さんで立てた街灯の電球はチカチカと弱い点滅を繰り返しています。気にかける人は少ないでしょう。
或る日、ある時、闇夜に迷う時、傍に在り、灯した明かりは孤独な人のいっときの支えとなり、ひとときの安堵をもたらす光りになれるでしょうか。その時、その心の震えは冷たい空気を伝わり、街灯の明かりを灯し続ける力となります。

初出

序文に代えて 【詩篇 詩人】 枝常亜良太 ・・・未発表
詩篇 川瀬杏香
眠れぬ夜 ・・・二〇〇九年四月二日 携帯小説☆フォレストノベル
余燼 ・・・二〇〇九年十一月二十七日 携帯小説☆フォレストノベル
夜の魔力 ・・・二〇〇九年十一月三十日 携帯小説☆フォレストノベル
夜の魔力(二) ・・・二〇〇九年十二月三日 携帯小説☆フォレストノベル
口笛(一) ・・・二〇〇九年四月十六日 携帯小説☆フォレストノベル
口笛(二) ・・・二〇〇九年四月十七日 携帯小説☆フォレストノベル
口笛(三) ・・・二〇〇九年十月五日 携帯小説☆フォレストノベル
詩篇 枝常亜良太
いっぽんの街灯 ・・・未発表
ちいさな窓 ・・・未発表
秋の日に ・・・未発表
少女の窓に ・・・未発表
小さなひかり ・・・未発表
日曜の朝に ・・・二〇一三年十月二十八日 Blog 地面の下に in the underworld
あとがきに代えて 【掌編 車窓】 川瀬杏香 ・・・二〇一〇年四月七日 携帯小説☆フォレストノベル

クレジット

【詩篇/表紙写真】
枝常亜良太
 詩人
 街灯詩舎同人
 近代詩復興委員会 氷島支部長

 blog:地面の下に in the underworld
 http://edatsune-a.blogspot.com
 Twitter
 @edatsunearata
 詩集 はなびら
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【詩篇/本文写真】
川瀬杏香
 学もないセンスもない、ただの詩人きどり。
 雑草のはしくれ。
 街灯詩舎同人

【写真寄稿】
rika

詩誌街灯 創刊準備0号

2013年12月11日 発行 初版

著  者:枝常亜良太・川瀬杏香
発  行:街灯詩舎

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