文藝サークル鉄塔のチラシ用として書いた小説を電子書籍化。
チラシは2013年11月4日「第十六回文学フリマ(http://bunfree.net/)」にて無料配布予定です。
たくさんの折り鶴が当ブースでお待ちしております。
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どうしても神様が欲しかったので、小さな祠をつくり、やってきた神様を捕獲することにした。私の家は俗にいう田舎の豪家で、駅の周りの土地はすべてじいちゃんの持ち物だ。ということは、この辺りに住む八百万の神々もすべてじいちゃんの持ち物ということだ。八百万の一匹ぐらい、孫にくれたって罰は当たらないだろう。
畳敷きの大広間に寝転がると、私は漫画を読みながら神が引っ掛かるのを待った。祠は日の当たりの良い縁側にこしらえてある。
午後一時を回り、少しうとうとしかけたとき、祠の奥からバッチーン! とバネのしなる音が聞こえた。恐る恐る祠を退けると、そこには首の長い鳥の形をした神が、苦しげに羽をばたつかせてネズミ捕りから逃げようともがいていた。鳥の首を掴むと、そうっと罠を解除する。
鳥は掌に収まるくらいの大きさで、羽の先は黒く、頭の天頂は赤かった。目の高さまで持ち上げると、私は神様に言った。
「お前は何の神様か」
鶴ヶ崎坂下神、と神様は答えた。聞いたことのない名前だ。何を司っているのか分からない。とにかく、
「私の願いを叶えてくれるか」
唯唯(イイ)、と神様は答えた。祟られたらどうしようと思ったが、懐の深い神で助かった。
さて問題はここからだ。正しい日本語で(じゃないと神様が理解できないと思うから)、願い事を言わなければならない。流れ星みたく三回繰り返して唱えた方が、神様も聞き取りやすかろう。よし、頑張ろう。私は大きく息を吸い込んだ。
「私の願……」
嚄!
承知、とばかりに神様は咆哮した。広げた翼を黄金色に輝かせ、私の手から飛び上がり不思議な舞を舞いつつ鱗粉のようなものをまき散らし、終いに一回転するとガラス戸を突き破って家の外へ飛び出して行ってしまった。
私は鶴ヶ崎坂下神の飛翔した空を仰いだ。ちっ、と舌打ちが漏れた。
その話をすると、じいちゃんは、がははははと腹を揺すって笑った。じいちゃんの晩酌に付き合うことは滅多になかったが、その夜は久々に酔いたい気分だった。「子供ビール」をごくごく飲みほす。
「八百万の神さんも、子供ん話ば聞いてくれるほど暇じゃなかっちゅうこっだ」
居間のテレビは、近隣の自然公園にタンチョウヅルの赤ちゃんが生まれたことを大々的に報じていた。ここ数年、なかなか繁殖に成功せず、一喜一憂を繰り返すばかりだったという。画面には卵色の雛が大写しになっている。
じいちゃんは何やらぶつぶつ言いながらテレビを見ていたが、
「みつこ、じいちゃん小遣いいげるから、明日自然公園行っちき」
「えぇ、何で?」
じいちゃんはにこにこしながら、尻の財布から夏目漱石を三枚取り出すと、花梨の座敷机の上に置いた。
「そん時に、ヒロシくんも誘えばよかろうもん」
裏面に刻まれた二匹の鶴を見ているうちに、私は頭が熱くなるのを感じた。子供ビールを飲み過ぎたのに違いない。
礼を言って三千円を受け取ると、嚄! じいちゃんは鶴の声を真似て答えた。
了
2013年9月26日 発行 初版
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