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この日調査訪問をした隣接世界は、言語や生活様式がこちらの世界と極めて近かったが、地名などの固有名詞に独特の差が見られた。
この写真の表示は、こちらの世界で言う東京メトロ東西線の駅である。この名称となった経緯を調査したかったが、この世界の住人は時空柱が複数存在していることを知らなかったため、過度干渉禁止の原則に従い詳しい調査は控えた。
この日は純粋な旅行としてこの隣接世界を訪れた。諸事情により長時間の滞在ができないことが予め分かっていたので、特徴的な観光地を訪問することにした。
この写真の案内表示は、こちらの世界の東京スカイツリー最寄り駅のものである。この世界のスカイツリーは形は同じだったが、名称が異なっていた。また、展望台からは広大な更地のような区画が一部認められた。案内板その他の表示から察するに、どこかの国や地域と交戦中と思われたが、滞在時間中にそれ以上の情報を得ることはできなかった。
この日の隣接世界訪問目的は他言できないため伏せておく。
この写真の標識は、ある地下鉄の駅にあったピクトグラムである。ピクトグラムには通常、誰が見ても内容が理解できる記号などが描かれているが、下の記号の意味が全く分からなかった。上の記号がトイレであることはこちらの世界と同じで、矢印の方向にも確かにトイレがあったが、下の記号に当たりそうな施設や物体はついに発見できなかった。
因みに、この記号以外の言語や単語はこちらの世界とほぼ完璧な互換性があった。
この日に訪れた隣接世界は、現代でありながら何らかの理由により終戦を迎えず戦争が継続している時空柱を意図的に選んで訪問した。
この写真の信号機は、新宿のとある交差点のものである。この世界には至る所に防空壕があり、定期的に街全体で避難訓練が行われていた。滞在期間は2週間であったが、その間昼に2回、夜に1回の避難訓練が行われた。頻度に規則性が無いことから、抜き打ちと思われる。避難訓練の主体がどの機関なのかは不明。
因みに、交戦対象はこちらの世界に存在しない国であった。戦後に大きく異なる道を辿った時空柱のようだ。
隣接世界は複数あるが、時空柱の時度によってはこちらの世界と似ても似つかない隣接世界も存在する。今回は、時度差の大きい時空柱のうち、いくつかの基準を満たした安全な時空柱を選んで訪問した。
この写真の表示板は、ある地点の踏切に設置されているものである。これを見ても分かるとおり、言語にほとんど互換性が無く、この表示も一見すると何を示しているのか分からない。以前から公式ルートで連絡を取り合っている現地当局担当者によれば、これはこちらの世界の「非常ボタン」に当たる単語らしい。
このように、重要な注意喚起表示であっても、意味が理解できないと大変危険である。これはこちらの日常生活でも同じことが言えるであろう。
今回の訪問先は、こちらの世界より時空柱に関する研究が進んでいる隣接世界で、目的は相互技術交換だった。
この写真の機器は、街の至る所に見られる「緊急時空柱ボタン」と呼ばれるものである。ある一定の法則に従い、規則的に配置されているが、こちらの世界には存在しないものである。平たく言えば時空柱の移動に失敗した場合に使うものらしい。下の記号はその際の鍵となる現在時空柱の座標とのことだが、こちらの世界の分類法と違うため、少なくとも我々が直感的に使うのは難しそうだ。
こちらの世界には緊急時空柱ボタンが無く、このような時空柱座標記号も使用していないと現地人に話したところ、逆に驚かれてしまった。「失敗した時にどう対処するのか」と。確かにそのとおりだ。
数ある隣接世界の中には、こちらの世界と言葉や常識が大きく違う世界も存在する。あまりにも時度差が激しい場合、安全を考慮して対象隣接世界への訪問をしないのが原則だが、事前検査や調査で安全性が確認できた場合に限って訪問することがある。
この写真は、そのような隣接世界の一つに訪問したときに撮影したもので、ある地下鉄駅入り口に掲示されていたものである。中央の記号及びルールの意味が全く理解できない。言語には互換性があるが、常識やルールの一部に全く互換性が無い例である。
今回の隣接世界訪問目的は、医薬品の開発に関する相互技術交換だった。
この写真の駅標識は、こちらの世界の東京メトロ半蔵門線半蔵門駅のものである。大部分がこちらの世界のものと一致しているが、やはりいくつかの地名に差異が認められる。隣の駅が「国会跡駅」となっているが、現地に行ってみると国会議事堂は存在しており、国会機能もこちらの世界と全く変わらなかった。現地人曰く「防衛上の理由でわざと国会議事堂が存在しないように装っている」とのことだが、果たしてどれだけ効果的なのか疑問である。
言語に互換性がある隣接世界の場合、差が出やすいのが地名などの固有名詞やいくつかの単語の語法で、次に差が出やすいのがそれらによって影響を受けている(あるいはその逆とも考えられるが)考え方や常識の違いである。この写真の事例は、それが現れている例の一つと言えるであろう。
今回の隣接世界訪問は、純粋に観光目的であった。
この写真の表示は、訪問先の隣接世界のエレベーターに貼られていたものである。これはある百貨店のエレベーターだが、この店舗に限らず、ありとあらゆる全てのエレベーターに同じ表示が貼られていた。車いす優先という意味は理解できるが、その隣の単語と記号はこちらの世界には存在しないもので、周囲を調べてみてもこれが何を意味するのか理解できなかった。こちらの世界でいうシルバーシートのような意味であろうか。
残念ながら、この隣接世界では他の時空柱の存在が知られていなかったため、これ以上の調査は控えた。
今回の訪問先は、以前から当局間レベルで定期的に連絡を取り合っている隣接世界で、この時も定期連絡のために訪問した。
写真の電話は、その隣接世界の公衆電話である。公衆電話といえば灰色、緑、ピンク、赤など、いくつかのカラーバリエーションがあるが、この隣接世界の公衆電話は昔から一貫してラベンダー色なのだという。「ラベンダー色=公衆電話」と連想できるくらい定着した色で、公衆電話全盛期にはラベンダーの花の絵が公衆電話を示す記号として広く知られていたそうだ。
私たちが普段意識しない道具や風景も、時空柱が変わると変化することがある。これはその良い一例と言えるであろう。
隣接世界へ行く方法は原理的には1通りしかないが、そのアプローチの仕方は知られているだけでも10種類程度存在する。どのアプローチが主流かは、その時空柱によって異なる。
この写真は、ある隣接世界で用いられている装置を写したものである。こちらの世界の消火栓に非常によく似ているが、構造は全く異なる。このようなデザインになった経緯は、現地人によると「使い勝手を追及したら、自然と消火栓に似てきた」とのこと。
この隣接世界には、時空の流れと水の流れが似ている、という思想があるのかもしれない。
ある事象について、考え方の違う複数人が取り扱うと、当然ながら結果も変わってくる。それはロゴマーク等でも同じで、「どんな形状が分かりやすいか」「どの形状はどんな意味になるか」は、時空柱ごとの世界で異なる場合がある。
この写真は、10年以上前に訪問した隣接世界の町並みを写したものである。中央のビルに見慣れないマークがあるが、これはこちらの世界の赤十字マークである。因みにこの隣接世界では「日本赤三叉」と呼称されていて、ロゴマークの由来は三叉神経とのことだった。
赤十字マークの由来はスイスの国旗だが、「赤三叉」マークは三叉神経が由来になっている辺り、この隣接世界では「紛争・災害地域における救護」などの考え方・捉え方が大きく異なっている可能性がある。
この写真に写っている本は、ある時空柱で購入した文芸誌である。安全性に問題無しと判断できたため、こちらの世界に研究用資料として持ち帰った。
一見するとごく普通の紙面だが、よく見ると縦書きの方向が左から右になっている。現地の協力者に話を聞いたところ、戦後、縦書き横書き問わず文章の表記は全て左から右に書くようになったという。こちらの世界の表記法を伝えたところ、協力者は「縦書きだけ右から左のままというのは非合理的で、理解できない」と感想を述べた。
普段私たちが疑問に思わない事柄も、時空柱によっては奇異に映る例である。
今回の訪問先は、一定の時空柱をいわゆる「縦移動」(つまり時間移動)することができる隣接世界だった。訪問目的は非公開とする。
この時空柱においては前後約20年の範囲内であれば縦移動が可能で、しかもかなり一般化されている(ただし横方向(=隣接世界)へ行くことはできない)。この写真のゴミ箱は、過去や未来からの訪問者のために設置されたゴミ箱である。時空柱移動専用の公共施設にこのようなゴミ箱があり、旅行者はどこから来たかによってゴミを分別しなければならない。
「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」等の分け方になっていない点も注目すべきだが、右端のゴミ箱の投入口だけ形状が異なっている点にも注目したい。この時空柱では、2020年代以降のゴミの形状は画一化されているのだろうか。
時度差が著しい場合、様々な事象がこちらの世界と大きく異なり、安易な訪問は非常に危険である(空気の組成が異なる隣接世界も当然ながら存在する)。だが、調査研究のためにどうしても訪れなければならないこともある。今回の訪問先は、「訪問005」で訪れた隣接世界と同じ時空柱である。
この写真の装置は、こちらの世界で言うAED(自動体外式除細動器)である。ご覧のとおり、言語に互換性がほとんど無いため、何が書いてあるのか全く分からない。現地当局の協力者兼通訳の話によると、仕組みや電圧などもこちらの世界のAEDと異なり、名称も直訳すると「簡易心室律動制御器」とのことだった。
注目すべきは、心臓に電流が走っているようなマークでこれが何の装置かある程度推測できることだ。記号やピクトグラムを作るロジックはこちらの世界と同じ辺り、非常に興味深い。
時度差が極めて小さい時空柱の場合、こちら側の時空柱とごく僅かな違いしかない世界が広がっていることが多い。
写真は、今回訪問した隣接世界の新宿コマ劇場跡地を撮影したものである。この時空柱では、コマ劇場跡地に大型ショッピングモールが建つようだ。我々の時空柱との違いといえばただそれだけである。
これまで挙げてきた隣接世界と比べて、研究の余地が無いように思われるかもしれないが、実はそうではない。なぜここにショッピングモールが建つことになったのか、そしてなぜこちら側の時空柱では建たなかったのか、経緯等を調べることで、社会学研究や都市工学研究等の最適なサンプルとなるからである。
この写真は、こちらの世界で言う地下鉄半蔵門線と東西線を足して2で割ったような路線の駅構内にあった表示板である。地名や区画の構造がかなり違うので、地理的にはどこなのか詳細は不明である。
上記路線名は、おそらくこちらの都営新宿線に相当する路線と思われるが、その下の「国鉄房蔵線」がこちらのJR何線に当たるのかが判然としない。路線図もこちらの世界のものと全く異なるものだったので、おそらくJRだろう、ということ以外は分からなかった。
このような隣接世界における地名、区画、鉄道の路線構造などの研究は、多時空柱の比較都市工学において大変重要なサンプルになる。
この写真は、かなり研究が進んでいる時空柱内で撮影されたものである。現地当局者とも頻繁に交流をしており、そこから得られた研究成果はこちらの世界にとって多大な利益となっている。
この看板は言うまでもなくこちらの世界で言うJRのものだが、当該時空柱においては "NR" となっている。因みに "Nippon Railway" の頭文字であり、意味はJRと同じである。
当該時空柱では、国鉄は民営化計画に失敗して単なる改組に留まり、英語での名称もわざわざ "Nippon" という日本語を残したために "NR" となった。「伝統ある旧国鉄を改組したものだから、日本語で表記したかった」ということらしいが、Railwayが英語である辺り、考え方に一貫性が無い。その辺の曖昧さは、我々の世界と似ているのかもしれない。
時空柱の移動には、時間の移動が伴う。単に「隣接世界に行く」と言った場合には、同じ時間座標で異なる時空柱に移動することを指すが、「訪問014」にも書いたように、縦方向の移動(時間移動)が主流な隣接世界も存在する。
この写真は、一般市民でも免許制によって時空柱の縦移動が認められている隣接世界のものである。こちらの世界の長野県長野市にあたる街の一角に、時空柱移動を管理する行政機関があり、そこを技術交流目的で訪問した。ある事情によりその建物自体は他時空柱に公開することはできないので、その案内表示だけを掲載した(因みに現地当局者の許可を得ている)。
看板に書かれている単語の構成も興味深いが、それよりも特筆すべきは周囲の「電線」である。これは実は移動時の時度差安定指数を一定に保つための工夫なのだそうだ。我々の時空柱にも類似技術が採用されているが、街の電線に混ぜて設置するのはかなり珍しいと言える。
2014年1月9日 発行 初版
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