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旅先で読む詩

つじばやし けい

KZM出版



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石垣島旅情1

空港内の解放感。
機内の窮屈さ。

雲を下にみる。
機体が傾き
海に浮かんだ豪華客船がたちまち空へ。
海が持ち上げられ。
いつの間にか客船が機体の上にある。
船も海も空の上だ。

(夏の山道で伝え聞いた 中間世界だ。)

*
暑さよりも湿気にやられた。
息をするのもつらい。
すぐに無言。
外で仕事なんてできやしない。
日陰の階段の上で仰向けになって昼寝している、警備員。


珊瑚が死滅した。
たった一軒しかない商店がつぶれていた。
島のなかは静かだ。
どーどー、っぽぽとなく鳩。
首輪をはめられたヤギ。
どこかで誰かが竹笛を吹いている。

木の実がこぼれ落ち、たちまち日に焼ける。
静かな村だ。
大潮でしかも引き潮のせいだ。

口を閉じたしゃこ貝をつま先でつついたら水鉄砲の反撃をくらった。

(原始の水が窓を伝って 小さな森を呑み込む。)

*
花が溢れる。
冷えたかふぇ。tシャツショップ。貝アクセサリーを売る店。
切られたマンゴーを市場の隅で貪る観光客の親子。

冷房の効いたかふぇから出られない。出たくない。

野良猫がどこにでもいる。愛想は良くないが。コンビニの駐車場を縄張りにしている白い野良猫。
どの野良もやせこけ目付きが悪い。

(電柱の影の中に
足の爪を剥がされた海賊が
縛り付けられている。)

島巡り

映画館の絵看板のような南国を旅すると

触れたものが全部燃える。
極限まで生い茂った南国植物。
湿度の高さにたちまち無言になる。

市場とは名前ばかりの市場でパインを二個買う。
揚げ菓子を買う。
かまぼこ屋でマセた子供が親としゃべってるが、
何を言ってるのか聞き取れない。

レンタサイクルのサングラス男。
一本のいなか道を。
遠浅なビーチも引き潮のせいで、
ただの綺麗な砂地となっている。

海岸の珊瑚の岩場で葉を食べていた野生ヤギの子供が、
食べるのに夢中になって家族とはぐれてしまい
悲しげな鳴き声をあげている。

砂漠の鉄搭のように素っ気ない 
シラフの月が昇る。
路のうえに散らばる影、影、影

それでも
夜の優しさは
旅人の心を なぐさめる。


気が付けば
騒がしかった中国人達も 寝静まっている。

そろそろ

詩のつづきを書きたくなる

思い出の町

真夜中緑色の自転車で思い出の町へいく。
今日は海辺の砂浜の上で夜を明かそうとおもう。
古い木造の集会所では真夜中なのに何かのダンス会をやっていた。
ひとつしかないコンビニでチョコレートを買おうとすると3人も並んでいて。僕の後ろに並んだ若い者は貧乏ゆすりをぼくにおしつけてくる。彼の息が臭いから、買うのをやめて、店の外の自販機で温かい缶コーヒーを買うと海へ向かう細い道路を走り別の店をさがそうとする。
雑貨屋もまだやっている。黄色い看板。
メガネ屋もやっていて、そのとなりの木工店みたいな小さな店もまだ明かりがついている。ストーブのそばでギターのようなものを作っているようだ。
道路は誰もいない。信号機だけが寒そうに潤んだ青色を点滅させている。
少しだけ目立つほてるが怪しげな明かりをはなっている。海の近くに。
そっちの方に自転車をこいでいくと、いつの間にか隣町に入っていた。思い出の町はすでに思い出のなか。

記憶術師




沼の足音が聞こえて
廃墟のなか。

記憶術師は
金網ごしに周囲の景色を眺め。

雲の上

小鳥のような好奇心にかられて
床板を外すと

雲の遊歩道
月神殿とヨーグルトの海

雲の上にいる限り
自分自身の足跡は残らない

月を写真に撮って
コーヒーを一緒に飲もう

今夜の月は雲の中

二本のストックをついて
坂道を上ってくる女性。

寝間着姿のままで素気なく
ぼくの前を通り過ぎる。

今夜の月は雲の中。
誰かが遠くで咳をした。

明日
目が覚めたら
風邪をひいているだろう。

Asian




仏頂面で山羊を煮る
街角の魔法使い。

雪の坂道

雪で一斉にリセットされた町
ふり返ると白い道があるだけ

雪の積もった長い坂道を上っていくと
何かいいことが待っていそうな気がする

お母さんが引くそりから
子供が滑り落ち雪まみれになった。
二人してうれしそうに顔をほてらせている。

湿った雪が電線から落ちる

ななかまどの実は雪をかぶって
ますます鮮やかな朱色に。

暗い月

馴れない手つきで
望遠鏡の中の暗さが
輪郭を変え

海沿いの
電車通りへと
降りて行く。


ようやく月が出た。

11月

窓の外を見たくて。

カレンダーは11月
空き瓶が転がり
いよいよ明日は旅行だ。

猫のひげの先に
ガラス繊維が引っ掛かって
眩しくて目を開けられない 。

ぼくの街

胸騒ぎの月明かり。

夜間専用押しボタン。
影のような犬を連れて
この道を通るのは初めて。

発酵した喫茶店。
街頭歌曲。
妖しい香りの中華料理店。

ぼくの街で
ぼくは旅人。

旅先で読む詩

2014年3月16日 発行 初版

著  者:つじばやし けい
発  行:KZM出版

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