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限りなく透明に近い調性

NERALT

MUSIC THEORY WORKSHOP JAPAN



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限りなく透明に近い調性

一体、調性とは何なのか。これは現代の音楽家を悩ませる大きなテーマですが、過去においては実はほとんど問題になっていませんでした。これほどまでに自明の概念として調性が浸透したことなど一度もなかったのです。

表1
表2

表の見方

 先ほどの表は、メロディがCのときに、どのようなコード、どのようなスケールを選択することができるか、を示した一覧表です。

(X,Y)座標での指示

 さてこの図のうち、今どの箇所を話しているかを示すために(X,Y)という座標系を使用することにします。例えば(1,1)と指示した場合にはROOTと書かれたグリッドを指すこととします。(1,2)であれば、Cとかいてあるグリッド。(2,1)であれば、Interval between Cとかいてあるグリッドです。

項目の意味

 (3,2)をみてください。「CM/P1/(ion,lyd,mix)」と書いてあります。これは「メロディがCの時に、CMコードを演奏することができて、このコードのRoot(ここではC)とメロディのCとのインターバルは完全一度、その場合に使えるスケールはイオニアン、リディアン、ミクソリディアンである」ということを示しています。

 もうひとつみてみましょう。(3,3)には「DbM/M7/(lyd,ion)」とかいてあります。これは「メロディがCの時に、DbMコードを演奏することができて、このコードのRoot(ここではDb)とメロディのCとのインターバルは長7度、その場合に使えるスケールはリディアン、イオニアンである」ということを示しています。

表2

 別の表でも確認してみましょう。右の表で、(5,2)には「Cm7/P1/(dor,aeo,phr)」と書かれています。これは同様に「メロディがCの時に、Cm7コードを演奏することができて、このコードのRoot(ここではC)とメロディのCとのインターバルは完全1度、その場合に使えるスケールはドリアン、エオリアンスケール、フィリジアンスケールである」ということを示しています。
 右の表で、(4,4)には「Dm/m7/(dor,aeo,phr)」と書かれています。これは同様に「メロディがCの時に、Dm7コードを演奏することができて、このコードのRoot(ここではD)とメロディのCとのインターバルは長2度、その場合に使えるスケールはドリアン、エオリアンスケール、フィリジアンスケールである」ということを示しています。

この表はどうやって割り出されたのか

 メロディがCの時に協和するコードは、キーを無視すれば無数にあります。その無数のコードを全て割り出したのがこの表というわけです。
 例えばキーCの時には、どんなコードがあうでしょうか?CMはもちろんあいます。他にもCM7もあいますし、Dm7もあいますし、FM7もあいますよね。Gsus47も、Amも、Bm7-5もあいます。じゃあキーDの時はどうでしょう。この場合、そもそもメロディである♮CがDメジャースケールには含まれないので、どうやらキーDには合わなそうですね。ではDbメジャーだったらどうでしょう。DbM7、Ebm6、Fm7、GbM、AbM、Bbm7、Cm7-5があいそうです。
 このように全てのキーのダイアトニックコードのうち、メロディのCとサウンドするコードを全てみつけて並べたのがこの表なのです。

スケールはどのように決められたのか

 表1の(3,2)をみてください。「CM/P1/(ion,lyd,mix)」と書いてあります。これは「メロディがCの時に、CMコードを演奏することができて、このコードのRoot(ここではC)とメロディのCとのインターバルは完全一度、その場合に使えるスケールはイオニアン、リディアン、ミクソリディアンである」ということを示していることは先ほど述べましたが、このスケールはどのように探しだされたのでしょうか。
 順をおって説明します。まずメロディがCですから、スケールにCが含まれている必要があります。次に、ここではコードはCMですのでこのコードを構成するノート(C,E,G)もスケールに含まれている必要があります。この3の条件を満たすスケールは、先ほどの3つしかないのです。
 もう少し詳細にみてみます。Cイオニアンスケールは、当然キーCの時にCからスタートするスケールです。これには(C,E,G)が全て含まれています。次にCリディアンスケールは、キーGのときにGからスタートするスケール=GメジャースケールをCから並び替えたものですが、これにも(C,E,G)が全て含まれています。Cミクソリディアンスケールは、キーFのときにFからスタートするスケール=Fメジャースケールを、Cから並び替えたものですがこれも(C,E,G)が全て含まれています。
 このように「メロディであるC」と「CMコードのコード構成音である(C,E,G)」が含まれるスケールをひたすら全キーで探していっただけです。

これは何に使えるのか?

 例えばメロディがC,C,Cと三回続く曲を作るとしましょう。その際に、この表のどのコードも使用することができます。例えば、Am7,DbM7,Dsus47といった具合にコードを続けることができます。
 キーは気にしなくてもいいのでしょうか?この3つのコードの連続からは、およそ特定のキーがみえてきません。問題ないのでしょうか?
 突然のセッションでこれをやってしまうと問題があります。しかし、作曲の段階ではほとんどキーを気にする必要はありません。演奏してみて、それが自分にとってサウンドすることを確認する必要はあります。この表に乗っているからといっても、演奏してみてあまりかっこよくない組み合わせであればそれはやめるべきですが。

なぜキーを無視しても成立するのか

 なぜキーもみえてこないバラバラのコードがサウンドしてしまうのでしょうか。
 簡単にいうとメロディのCが「軸」となり、この3つのコード「Am7,DbM7,Dsus47」に秩序を与えているのです。サウンドするために必要なのはキーではありません。秩序なのです。その秩序をキーが与えたり、スケールが与えたり、コードが与えたり、様々なものが秩序を与えます。ここではそれが「C」というメロディなのです。

メロディが与える秩序

 メロディが音楽に与える影響力の非常に強いことはよく知られていますが、ここまで調性を無視するようなことは一般的なポピュラーミュージックや古典的なクラシックでのセオリーでは紹介されません。しかしセオリーにはなくても実際にはかなりの程度このような技法が使われています。特に現代のブラックミュージックにこの技法が顕著だと私は考えています。

限りなく透明に近い調性

2014年4月 発行 初版

著  者:NERALT
発  行:MUSIC THEORY WORKSHOP JAPAN

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NERALT

Black Musicのキーボーディストとして都内各地で活動。またアイドルのバックバンド、音楽理論のレクチャー、Detroit Techno,Black MusicのDJとしても勢力的に活動。

渋谷OTO
(http://www.shibuya-oto.com/)にて毎月「Culture Milk」を開催。同イベント内にて日本初クラブでの音楽理論講義「Music Theory Work Shop」を不定期で開催中。

古典和声から印象派、12音技法までどんとこい!

blog http://neralt.blogspot.jp/
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