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この本はタチヨミ版です。
俺はベ―スの空気が好きだ
誰もが寡黙で やらねばならないことを知っている
無駄口をたたく者はない
黙々と食べ、休む
被災地の厳しい作業に疲れた身体を横たえる
ベ―スの人たちは被災民の痛みを知っているから
とても優しい 温かい
俺はベ―スの空気が好きだ
ゴム長靴、ハンマ― バ―ル 軍手 タオル類
食品が雑然と置かれている
少しわびしく だが どこかはりつめた空気。
前線基地の 確かに 活動している様だ
俺はベ―スの空気が好きだ
どこかわびしく 張りつめた空気。 ※ベ―ス=支援の前線基地
2011年5/2
津波は細胞が“外敵”を食いつくすかのよう
ゆっくり 恐ろしく 冷静に
田畑を浸食し、家々を飲み込んだ
スロモ―ションで襲いかかり
その冷静さは 破壊力の大きさに見合わない
自然の食い尽くし、襲いかかり
何か とてつもなく“怖い”
だが、
津波の襲いかかりは自然だ
気負わず “流体力学”通り
田畑を、家々を、人々を飲み込んでいった
ただ なされるまま。
人智で どうすることも出来なかった
巨大な自然の襲いかかりは
数え切れない人々を葬った
死者よ 深く眠れ、深く眠れ、深く眠ってくれ・・・
目覚めのときがくるまで・・・ 深く眠ってくれ・・・。
2011年5/2
どんなに 災害が起ころうとも
私達が被災者に心を寄せ
祈りのうちに 沈黙しようと
季節が来れば 仙台の桜は白気に咲いた
根元からに引きちぎられた 桜の木は
瓦礫のなか 花を咲かせた
5/2
津波の襲いかかった沿岸の地
黒々と水溜まりが残る
見渡すかぎりの荒廃
何もない――
それは 爆撃された地の様でもない
原爆が落ちた焼け野原とも違う
まさに 津波が引きさらった地の様だ
でたらめに 取り残された瓦礫の累々
そのでたらめは 汚い
だからと言って ゴミの山とも違う
でたらめに 瓦礫のゴミを置き残した
気まぐれな しかも “力学”通りの
私の眼には 気まぐれな“怪物”の駆け足跡
すさみは いかんともしがたく、
捨てさられた光景が どこまでも広がっていた 5/2
早朝、仙台駅にバスから降り立った
やれやれの寝不足の旅である
寒い、
ひとまず 駅舎に入った
駅ビルのブル―・シ―トの壁に「がんばれ 東北」の横断幕だ
寒く、頭が働かない
駅の派出所で元寺小路教会を聞く
若いお巡りさんは 駅舎外の回廊まで出できて
目的地を教えてくれた
塩竃駅の駅員の時もそうであった
駅員は電車の発車時間を書き記し、地図を示し
目的地を親切に教えてくれた
道の途中の新聞販売店の女店員は満面の笑顔で
三・十一の翌日の地元紙を出し、「これです」と渡してくれた
生と死は紙一重だ
一枚の張り紙が妻を津波から救った
たまたま 自転車に乗っていたから
津波を逃れられた
男性はいつものよう、徒歩で 散歩してたら
不自由な脚は津波を逃げきれなかった
家屋は土台からはがされ
隣家にぶつかり かろうじて
破壊のまま 流失を免れていた
コンクリの土台だけが 昼間 虚しく残っていた
家のなかはめちゃくちゃ
自分の眼で 家の状態を確かめて はじめて
「諦めがついた」とMさんが言った。
見るまでは一抹の期待を抱いていたのだ
「一生かかっても返せない 善意を頂きました 感謝しています」Mさんは言った
津波から逃げるMさんが、後を振り返ると
線路の隘路に人々の長蛇の列。
隘路の両側には海水が溢れていた
W町は災害を予想していなかったので
避難所は備蓄がなかった
被災者は暗闇なか 天井の高い体育館で、寒さに震え
その日の夜 過ごした
翌日、配給品は乾パンひとつであった、とMさん。
被災当初はこんな状態であった
身内を失った老婆が 一言も口をきかず 黙りこむ
そんな人が大勢いると、Mさんはつぶやいた
5/3
青年らは解体作業の下働きにかり出された
大きな石をハンマ―で砕き バ―ルで押し
危険な作業だ
解体業者は賃金をもらっている
ボランティアはただ働き、うまく利用されたのだ
ベ―スの責任者は怒った
その後、ボランティア・センタ―に要請、
「危険な作業をさせないでほしい」
センタ―は了承した
以後、危険な作業に従事しないが 責任者はふと、もらした。
引率者がその場で、断ればよかったのだ・・・
私は思う
断り切れなかったのか 断らなかったのか。
5/4
震災は多くのいのちを奪った
そんな中 妊婦が赤ん坊を生んだ
よいことだ
人はいのちを奪われる、他方、人のいのちが誕生する
家族もろとも 家屋は流失
財産も田畑も漁場も失った
いのちひとつをのぞき 全てをなくした
これからどうしたらよいのか?
どのように この先 生きていったらよいのか?
だが、海を恨まない 津波を恨まない
この希望のないのを何かに、収束させようとは思わない
これは“神の仕業”でも“天罰”でもない
今の この“希望のなさ”を“所有”しようとも思わない
この状態は“使用”するものなのだ
「死んだ方がましだ
家族のもとに逝きたい その方が楽だ」
しかし、この底なしの はい上がることもできない様に
いつまでも、留まろうとも思わないのだ
これを味わい尽くしているから、これを“使用”しなければならない
この“無”から 何かが立ち上がるのを じっと、辛抱強く待つ
今まで、経験したことのない“新しい生”が
立ち上がってくるかもしれないのを、恐れつつ
おののきつつ、待つ。
2011年5/5
海よ!泣き叫べ!
大地よ!泣き叫べ!
天に向かい 泣き叫べ!
声なき声が 泣いている
東北の冷たい大地は
今、雨が降っている
死者への手向けは満開の桜花
青葉城の桜が 雷神山の桜が
喪に服するように 白く咲いている
花よ!散るな 花よ!散るな
死者の“魂”が鎮まるまで
鎮まることのない“魂”のために 散ることはない
2011/5/6
タチヨミ版はここまでとなります。
2014年6月9日 発行 初版
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1946年、生まれ。明治大学文学部卒、業界紙・誌に勤める。今は無職。