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jacket

TM NETWORKのシングル「LOUD」とアルバム『DRESS2』は、いずれも2014年の音が響いてくる作品です。シングルとアルバムを聴きながら浮かんだ言葉を集めてつなぎ、記録しました。言葉と言葉の間から、かすかにでも音が聞こえたのなら、これに勝る喜びはありません。

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LOUD/DRESS2

FJK

http://inthecube.exblog.jp/



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INTRO

 二〇一四年四月二二日にTM NETWORKの新作がリリースされました。シングルは「LOUD」、そして一〇曲を収めたアルバムは『DRESS2』と名付けられています。かねてから告知されていたデビュー三〇周年の企画を「TM NETWORK 30th FROM 1984」と言い、第一期から第三期までが予定されています。その最初の活動が「LOUD」と『DRESS2』の発表から始まりました。
 本書はブログ(http://inthecube.exblog.jp/)に書いた文章をもとに、手なおしや再構成を行なったものです。

LOUD (PART1)

 二〇一四年四月二二日にTM NETWORKの新曲「LOUD」がシングルとしてリリースされました。リリースに先駆けて、ミュージック・ビデオが四月一〇日からYouTubeとniconicoで公開されています。曲の八割ほどを聴くことができ、メロディ、サウンド、歌詞、ハーモニーなど、TM NETWORKの魅力が存分に伝わってきます。
 小室さんの書くメロディが三人を結び付けていると言っていいかもしれません。TM NETWORKの魅力は、シンセサイザーを核にしたエレクトロニック・サウンドは言うまでもありませんが、三人で重ねる歌声の重要性が高まっています。二〇一二年のシングル曲「I am」からは、その魅力が一段と強まりました。三人が織り成すハーモニーはTM NETWORKだけが描ける三角形です。
 歌詞に出てくるいくつかの言葉に心惹かれます。♪とめどなくあふれる/涙はふかずに♪という歌詞には奥行きがありますよね。言葉の向こう側の、少し離れたところにある気持ち。それは少し考え、イメージし、手を伸ばすと指先に触れるのかもしれません。また、♪君が信じてる/あなたと叫ぼう♪という言葉の組み合わせもおもしろい。「君」をシュートしていたカメラが、一転して「君」の視線になり、「君」にとっての「あなた」をフレームに収める。「I am」でも感じたことですが、曲の中で視点が切り替わるのは、近年の小室さんが書く詞の特徴と言えるでしょう。
 少し時間を巻き戻してみます。僕らは、「LOUD」のデモ音源を二〇一二年に「35.664319, 139.697753(=渋谷公会堂)」で耳にしています。世に出るまで二年近くが費やされ、いくつかのプログラムが変更されて曲の位置づけも変わったかとは思いますが、こうして形になって聴けたのがとても嬉しいですね。TM NETWORKが二〇一二年から展開しているストーリーの終章とも言うべき「TM NETWORK 30th FROM 1984」。そのSeason1の始まりを、「LOUD」は告げます。

YouTube: http://youtu.be/M-RTeKXnpGg
niconico: http://www.nicovideo.jp/watch/1396926847

DRESS2 (PART1)

 シングル「LOUD」と同時にリリースされた『DRESS2』には、過去のTM NETWORKの曲をリメイクしたものが収録されています。TM NETWORKの文脈では「リプロダクション・アルバム」と呼ばれます。曲を生まれ変わらせる、という意味を込めているのかもしれません。一九八九年に『DRESS』というリプロダクション・アルバムが発表されましたが、当時はナイル・ロジャースをはじめとしたニュー・ヨークやロンドンのプロデューサーが曲を生まれ変わらせました。今作『DRESS2』では小室さんが音を作り変え、ボーカルやコーラスを録りなおすことで、新たな姿を見せています。ミックスは海外のエンジニアに委ねていますが、いくつかの曲は小室さん自身が手がけています。
 二〇一四年のライブ用に再構築した音を音源として聴いてもらう、という企画から始まったアルバムとのこと。そのためでしょうか、アルバムを聴いて湧き上がった高揚感はライブで得られるものと同じです。どの曲もイントロやアウトロを長くしたり、曲の構成を変えたりしているため、曲の変貌に驚きつつ、存分に楽しむことができます。ライブで音を浴びながら、このフレーズいいな、もっと聴きたいなと思うことが多くあるので、こうして音源として聴けるのはとても嬉しいですね。このアレンジを元にして、ライブ・ツアー「the beginning of the end」のサウンドは構築されましたが、当然のことながら、小室さんはいくつものひねりを加えてきました。
 ここでは、アルバム収録曲のうち前半の五曲について書いてみましょう。

COME ON LET'S DANCE 2014
GET WILD 2014
SELF CONTROL 2014
BE TOGETHER 2014
JUST ONE VICTORY 2014

 一九八六年から一九八八年にかけて制作・リリースされた曲が並びます。路線の確定、メディアへの露出、作品やツアーの規模の拡大など、この時期に積み上げたものは大きい。TM NETWORKが継続して活動できた直接の要因はここにあると言ってもいいでしょうね。そんなエネルギーに満ちた時期を、二〇一四年の感性で作り変えると、さて、どのようになったでしょうか。

COME ON LET'S DANCE 2014

 『DRESS2』の幕開けを飾るのは「COME ON LET'S DANCE」。新たに加えられた長いイントロは、原曲の要素をほとんど感じさせず、アルバム冒頭に収録されることの多いSEを聴いているかのようです。ピアノが奏でるフレーズはむしろ別の曲を彷彿とさせ、いつの間にやらマッシュ・アップを聴いている錯覚に陥ります。そんな中からギターの音が勢いよく飛び出し、激しくリフを刻み、四つ打ちに絡んできます。
 ギターを弾いているのは「バンナ」こと松尾和博さんです。一九九〇年代には小室さんの曲やglobeのライブに幾度も参加していました。彼のギター・プレイは激しいけれどもテクニカルなんですよね。ファンキーなギターとEDMがぶつかって、混ざり合う。スポーツカーのように疾走する感覚が曲を貫き、それにギターが一役買っていると言えるでしょう。やがてオリジナル・バージョンのイントロが響き渡り、曲は一気に加速します。
 オリジナルの発表は一九八六年。アルバム『GORILLA』に収録され、さらにリミックスで音の勢いが増し、そのバージョンはシングルとしてリリースされました。『GORILLA』はファンク・ミュージックの色を強めた作品です。CHICやAverage White Bandといったバンドの影響を受けたと、小室さんは語ります。ダンス・ミュージックの路線に舵を切ったアルバムですが、その方向性を決定づけたのが「COME ON LET'S DANCE」ですね。二〇一二年と二〇一三年のライブでは、「COME ON EVERYBODY」という曲の中に組み込まれる形で部分的に披露されました。そして二〇一四年、新たなアレンジにモデル・チェンジした「COME ON LET'S DANCE」を、フル・レングスで聴くことができます。
 二〇一三年にはDaft Punkとナイル・ロジャースが組み、ファレル・ウィリアムズが歌う「Get Lucky」がヒットしましたよね。さらにナイル・ロジャースはAVICIIとのコラボレーションも実現させており、EDMファンにも彼の弾くギターの音が届きました。ファンキーな音とエレクトロが混ざることで多くの音楽ファンを楽しませ、踊らせることができる。それは世界が証明しています。二〇一四年の音になった「COME ON LET'S DANCE」は、英語詞にすればEDMの世界マーケットに飛び込めるんじゃないかなと思います。世界を熱くさせ、踊らせるエネルギーを持ったサウンド。この曲がアルバムの先頭に配置されたのは、もっと多くの音楽ファンに聴いてもらいたい、踊らせたいという意思表示なのかもしれません。

GET WILD 2014

 TM NETWORKと言えば「GET WILD」。あるいは「GET WILD」と言えばTM NETWORK。この曲を世に知らしめたのはアニメ「シティハンター」であることは疑いの余地がありません。テレビと音楽の組み合わせが名実ともに力を持っていた時代、その流れをキャッチアップした曲です。
 一九八七年にシングルとしてリリースされてから、カバー曲も多く出たらしいのですが、本家TM NETWORKでも多くのリミックスやライブ・バージョンが発表されています。一九八九年には「GET WILD '89」、一九九九年には「GET WILD DECADE RUN」というタイトルでリリースされました。ライブでは必ず盛り上がる曲でありながら、ライブのたびに小室さんは手を加え、改造と呼べるくらいに大胆なアレンジを施します。TM NETWORKとともに進化し続ける曲、それが「GET WILD」です。
 二〇一四年の「GET WILD」は二〇一三年の音を下敷きにしています。夏のライブ「TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation-」で、これまでの形を変化させ、ソフト・シンセの音で組み立てた「GET WILD」が披露されました。このアレンジを踏襲して、ドラムを打ち込みでつくり、アウトロを長くしたものが、小室さんのEDMリミックス集『DEBF EDM 2013 SUMMER』の一曲として配信されました。そして、『DRESS2』には、二〇一三年の音源を新たな音でドレス・アップして、新たに録ったボーカルとコーラスを加えたものが収録されました。
 二〇一三年を出発点とする新型「GET WILD」の特徴は、ソフト・シンセで歪ませた太い音の存在です。EDM特有の歪んだ音はワブル・ベースと呼ばれます。このワブル・ベースがイントロ、Bメロ、間奏で鳴っていますが、特にBメロで担う役割は大きく、曲の印象を変えるインパクトがあります。イントロや間奏の音は何度も改造されてきましたが、Bメロに手を加えたのは二〇一三年が初めてです。Bメロの役割が、二〇一二年まではサビにつながるブリッジだとすれば、二〇一三年以降はカタパルトでしょうか。エネルギーを溜め込み、凝縮し、サビで一気に放出する。
 『DRESS2』に収録されたバージョンでは、ギターの存在が大きくなっています。二〇一三年の音にギターが重ねられ、オルタナティヴ・ロックかと思うくらいに鳴り続けています。オリジナルのころからダンス・ミュージックとロック・スタイルがせめぎ合い、火花を散らすのが「GET WILD」です。二〇一四年の改造においても、その精神は貫かれていることを確信しますね。

SELF CONTROL 2014

 「SELF CONTROL」のリミックスは、TM NETWORK名義では初めてですね。ライブでも頻繁に演奏される曲ですが、オリジナルの要素を多く残す傾向があります。大胆なアレンジが向かない曲なのだろうと思っていました。思い出すのは、FENCE OF DEFENSEの西村麻聡さんが企画したアルバム『POP meets JAZZ』で、この曲がスウィンギーなジャズにアレンジされたことですね。ウツがボーカルで参加しており、ソロ・コンサートでもそのアレンジで歌ったことがあります。とても気持ちよく、音を楽しむことができました。いい曲は多彩なアレンジに応えることができるんですね。
 一方で、小室さんは自らのライブ(ハードディスクから流す音源にシンセサイザーを弾いて音を重ねるスタイルのライブ)で、たびたび「SELF CONTROL」を披露していました。シンセサイザーの音色と強烈な四つ打ちで構築するサウンドは、二〇一三年に小室さんのソロ名義でリリースされたEDMリミックス集『DEBF EDM 2013 SUMMER』で聴けます。TM NETWORKとしては、二〇一二年のライブ「TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-」でこの曲を披露しており、アレンジはオリジナルと小室さんのソロ・プレイの路線を融合していました。二〇一四年になると、ソフト・シンセの音を駆使して、これまでよりもさらに大きくEDM側に踏み込みました。
 この曲は一九八七年のアルバム『Self Control』のタイトル曲であり、先行シングルにもなっています。TM NETWORKはこのアルバムでぐんと勢いを増し、「GET WILD」のヒットを生み出しました。「GET WILD」が売れた直接の要因はタイアップなので、二曲の間に因果関係はないと言えるのですが、本人たちは風のようなものを感じたと言っていますね。TM NETWORKの痕跡を遡ってみると、「COME ON LET'S DANCE」から「SELF CONTROL」へ、そして「GET WILD」のヒットに至る流れが見えてきます。それらを結ぶミッシング・リンクが存在したのでしょうか。メンバーやスタッフがそれぞれに試みてきたこと、挫折したこと、散発的にうまくいったことが、一九八七年に結実したと言えるかもしれません。「長い目で見る」と言うのは簡単ですが、いくらかの余裕があった一九八〇年代ですら忍耐力の要ることだったと思います。
 2014リプロダクションでは、いくつものシンセサイザーで新たな音をつくって重ね、キックの雰囲気やタイミングを細かく調整しています。太くて厚みのあるキックは軟らかく、粘り気を帯びています。音が残る感じ、ぎゅっと大地を足で捉えて走るイメージがあり、駆け抜けていくイメージの硬質な音とは趣きが異なります。このあたりの違いはEDMファンの感想を聞いてみたいですね。そして、パワフルに唸るキックの上でシンセサイザーのリフが際立ちます。もともとこの曲はシンセサイザーのリフで突き進む曲です。新たに加わった長いイントロの後半で、おなじみのリフが飛び出してくると曲は一段と熱を帯びます。初めて聴く人にも、このリフの輝きを感じてもらいたいですね。ダイレクトに響いてきて、とても気持ちいいんですよ。

BE TOGETHER 2014

 これもひとつのロックとEDMの接近と言えるでしょうか。2014リプロダクションの結果、「BE TOGETHER」はビートがより強調されました。スネアの音が印象的に響き、曲の輪郭をくっきりと際立たせています。オリジナルが持っていた疾走感はそのままに、スネアとキックの音が厚くなって駆け抜けます。弾丸のような短距離走をイメージしてもらうといいかと思いますが、僕はそこにもうひとつ軸を加えた走り、すなわちハードル走をイメージします。「サムライ・ハードラー」と呼ばれた為末大選手の走りを思い浮かべます。走っているときはもちろん走ること、跳ぶことに集中しているけれども、その前後ではインテリジェンスな観察や分析が働いている。そんな奥深さが小室さんの2014リプロダクションにも見られるんですよね。
 時間をぐるぐると巻き戻して、タイムマシンは一九八七年にたどり着きます。「BE TOGETHER」はアルバム『humansystem』に収録されました。BOΦWYを強く意識した曲だと小室さんは語っており、TM NETWORKとして珍しいくらいにビートを強調していました。一九八九年のリプロダクション・アルバム『DRESS』にも収録されており、雰囲気をがらりと変えて、一九八〇年代らしい煌びやかなサウンドで着飾っていましたね。
 その後、一九九九年には鈴木あみが歌うカバー曲がリリースされます。当時のJ-POPに親しんでいた方なら耳にしたことはあるかと思います。このバージョンが「BE TOGETHER」の存在を世に知らしめたと言っても過言ではなく、オリジナルがTM NETWORKだと知らない人も多かったでしょう。エレクトロニック・サウンドで構築され、テンポを落とした音は彼女の声質に合わせたようであり、爽やかで柔らかい曲に生まれ変わりました。
 さらに時を経て、二〇〇四年にはTM NETWORKとしてデビュー二〇周年を迎え、日本武道館でライブを行ないました。FENCE OF DEFENSEの演奏をバックにして「BE TOGETHER」が披露されます。力強さと勢いのあるバンド・サウンドでありながら、間奏ではトランス系の鋭いエレクトロニック・サウンドが鳴り響き、そのクロッシングがとても心地よかったことを覚えています。
 タイムマシンは二〇一四年に到着します。『DRESS2』に収録された2014リプロダクションでは、序盤からスネアの音がロックの疾走感を演出していますが、間奏に入ると一転してキックの音が突出し、ダンス・ミュージックらしさを強調します。ロックのタテノリとダンス・ミュージックのヨコノリがクロスし、リズムが瞬時に変化します。ロックとEDMのせめぎ合いが生まれ、それが予定調和を破壊します。変化を織り込み、それに瞬時に反応させることで、聴き手の興奮を高める。リズムは次第にタテノリに戻りますが、リズムが変化する前よりも体感速度のようなものが上昇しているんじゃないでしょうか。その感覚に包まれたまま、曲のエンディングまで突っ走ります。

JUST ONE VICTORY 2014

 2014リプロダクションで浮かび上がったTM NETWORKの魅力のひとつとして、深みを増すウツのボーカルが挙げられます。時間を積み重ねるごとにその歌声が輝いている。それは、ボーカルを新たに録音した二〇一二年の「I am」や二〇一三年の「Green days 2013」を聴いて感じていたことです。小室さんの分析によると、ウツの声は「信じられないくらい」に良く、その要因は倍音が出ていることだそうな。もちろん僕はプロフェッショナルな解析はできないけれども、声の変化は感じています。特に「JUST ONE VICTORY」のように緩めのテンポで進む曲は、歌声が際立ちますね。勢いだけでは歌えないし、感情表現に溺れると聴き手と気持ちがそろわない。ちょうどいいラインで歌声が響き、僕らに届いてくる。その距離が絶妙です。
 『DRESS2』の「JUST ONE VICTORY」は、オリジナルのイントロの前に加えられた、キックの反復が印象的ですね。ベースと一体となって生み出すグルーヴが気持ちいい。規則正しく反復する音は、どのような展開を見せるのか、聴き手に期待を抱かせます。そして、ある地点で火が点くように聞き覚えのあるイントロが始まり、音が弾け、勢いよく拡散していきます。蓄積された聴き手のエネルギーも、音に誘われて一気に放出される。この新たに加えられた音は、作り手によるアジテーションです。物を壊したり、言葉で挑発したりするのとは異なるかたちで聴き手を煽ります。
 2014リプロダクションのサウンドは、重心が下の方にある感じですね。スネアとキックがバランスよく鳴っていて、特定のジャンルを意識させないかなと思います。シンセサイザーの音で耳に残るのはStudiologic社のSledgeです。黄色い筐体が目を引くシンセサイザー。小室さんは二〇一三年から使い始めているのですが、Access社のVirus Indigo REDBACKやVirus TI Polarとも異なる音を出します。Indigo REDBACKがビームのような太い音、TI Polarがベルに近いチャーミングな音。Sledgeは重力を感じさせず、アイスピックのように鋭く輝く音を放ちます。氷を砕くときのきらめきを感じますね。この曲の終盤で聴けるSledgeの音は、かなりいいですよ。

LOUD (PART2)

 TM NETWORKの新曲「LOUD」のミュージック・ビデオが公開されてから一〇日ほど。アナウンスがあってからリリースを待ちわび、いよいよフル・レングスで聴くことができます。「LOUD」は、大きなホールで鳴り響くオーケストラの演奏を思わせる壮大な雰囲気の音から始まります。スネア・ドラムが舞台の幕を上げる役割を担うかのように、存在感を放ちながら鳴ります。聴く人を煽り、気持ちを高ぶらせ、次の展開への期待を高めに高めたところで、音は一転してエレクトロニック・サウンドらしさを強めます。
 分厚いキックと艶のあるベースが密に絡み合い、聴き手の心に響き、身体の中で共鳴する。ダンス・ミュージックのリズムでポップスの音にタフな印象を与えるのは、小室さんが重視してきたポイントですね。それでいて、サウンドは声を大事にします。三人の声の存在は、この「LOUD」でも強く感じますね。EDMに寄ったエレクトロニック・サウンドに三人の歌声が重なると、独特の雰囲気をまとい、TM NETWORKというフィルターを通したEDMになる。この重なりがポップスの良さとEDMの良さをうまい具合に引き出すんですよね。
 ミュージック・ビデオは何度も再生していたのですが、公開されていない部分をシングルで聴いて驚きましたね。テーマ・メロディを繰り返しながら、ドラマチックな展開を見せ、盛り上がっていきます。同じメロディ・ラインの音を少し上げたり、譜割を変えたりしながら繰り返すことで、聴き手を高揚させる。さらに、♪LOUD, LOUD LOUD, Shout it loud♪ のフレーズにもテーマ・メロディが潜り込み、いろいろな角度からメロディを楽しむことができるんですね。この仕掛けがあることで、聴けば聴くほど曲が好きになっていきます。

DRESS2 (PART2)

 『DRESS2』では、初期TM NETWORKの曲が二〇一四年のEDMサウンドに転生しました。特に、グループの軸をダンス・ミュージックにシフトする前に制作された曲、すなわち一九八四~八五年の曲の変貌には驚きましたね。デビューから間もないころに生まれた曲たちが、タイムマシンに乗って三〇年の時間を飛び越えて二〇一四年にたどり着き、鮮やかにドレス・アップしました。「RAINBOW RAINBOW」、「ACCIDENT」、「金曜日のライオン」などは思い切ったと言うべきか、やりたい放題やったと言うべきか、とにかく素晴らしいリプロダクションです。現在進行形のTM NETWORKを聴くことができますよ。
 小室さんが標榜するEDMサウンドにギターの音は欠かせません。『DRESS2』で言えば、マイク・スミスが「I am 2013」で弾いていますし、それ以外の曲ではバンナさんが弾いています。どちらのギターも、それぞれに特徴があって聴き応えがありますね。曲によっては、小室さんのソロ作品『TETSUYA KOMURO EDM TOKYO』のように、ソフト・シンセでつくり込んだギター音を重ねているのでしょうか。
 バンナさんが刻む音は、エレクトロニック・サウンドと混ざって曲の輪郭をくっきりと浮き上がらせています。二〇一三年のライブでは一歩引いたポジションでサウンドを支えていましたが、『DRESS2』では一転して、ぐっと前に出てきていますね。ライブ・ツアー「the beginning of the end」ではロックもファンクも巧みに弾きこなし、エレクトロに寄ったサウンドに厚みを与えていました。このアルバムの段階でもバンナさんのギター・プレイの素晴らしさを存分に味わうことができます。
 アルバムの後半に収録されている曲は以下のとおりです。

I am 2013
RAINBOW RAINBOW 2014
ACCIDENT 2014
金曜日のライオン 2014
永遠のパスポート 2014

 TM NETWORKの初期は、マーケットの隙間を探しながら、グループの軸をどこに置くか模索していた時期です。洋楽の雰囲気を感じさせるエレクトロ系か、親しみやすいメロディを載せたポップスか。『RAINBOW RAINBOW』、『CHILDHOOD'S END』、『TWINKLE NIGHT』といったアルバムが当時のアルバムなのですが、これらの作品を聴くと、いろいろなことを試している痕跡が見て取れますね。

I am 2013

 TM NETWORKの再始動をブーストするため、二〇一二年にリリースされた新曲が「I am」です。そして「I am 2013」はドラムを打ち込み、ダンス・ミュージックの色を強めたリミックスです。ギターの音が調整されており、多彩なギター・アンサンブルが鳴り響きます。二〇一三年のライブ「TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation-」の会場で販売されたシングルで聴くことができましたが、二〇一四年になってアルバム『DRESS2』にも収録されました。
 「I am 2013」はライブ「TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation-」の準備と同時に制作されており、ここからTM NETWORKはEDMに接近してゆきます。ライブでも、小室さんはステージにソフト・シンセを持ち込み、ハード・シンセを弾く時間と同じくらいソフト・シンセを弾き、マウスで調整を行なっていました。「CHILDREN OF THE NEW CENTURY」、「GET WILD」、「RESISTANCE」といった曲がEDMに染まり、新たな音の世界が目の前に開けたことを覚えています。
 翻って「I am 2013」を改めて聴いてみると、実験的な雰囲気を感じます。ソフト・シンセの音をTM NETWORKの中に、どのように、どれだけ混ぜていくのか探っている感がありますね。このリミックスを下敷きにした「I am -TK EDM Mix-」も同じシングルに収録されており、こちらはサウンドをさらにEDMに寄せている。シンセサイザーとギターの割合を逆転させ、間奏ではワブル・ベースが唸ります。
 二〇一三年の実験を経て、二〇一四年の『DRESS2』では確かな手応えを持ってEDMスタイルを貫いています。ウツのボーカルを活かしつつ、EDMらしさを醸す音が端々に埋め込まれている。そんな『DRESS2』のサウンドに至る流れを巻き戻してみると、「I am 2013」にたどり着くのです。このバージョンはTM NETWORKの曲がEDMの要素を取り入れるきっかけになったリミックスと言えるでしょう。

RAINBOW RAINBOW 2014

 EDMに寄せたアルバム『DRESS2』の中でも、一、二を争うくらいにEDMスタイルに染まった曲。それが「RAINBOW RAINBOW」です。この曲ではテーマ・メロディの存在が大きく、表現を変えながら曲をぐいぐい引っ張ります。技巧的に刻むエレクトリック・ギターや端々に絡みつくワブル・ベースを助演とするならば、スポットライトを浴びる主演の役者は、テーマ・メロディを鳴らすシンセサイザーですね。
 曲の頭からシンセサイザーの音を高らかに響かせ、その存在をこれでもかと強調しています。テーマ・メロディを奏でるシンセサイザーの音を変えたり、そこに歌を乗せたり外したりすることで、曲に動きが生まれ、聴き手の心と身体をダイレクトに刺激します。もっと踊ろうと言わんばかりのアッパーな曲に生まれ変わったわけですが、この変化に驚き、熱くなったファンは多いでしょう。
 TM NETWORKの新たな魅力のひとつは、三人が形づくる声のトライアングルです。「RAINBOW RAINBOW」でも、コーラスとリード・ボーカルが掛け合いに近い感じで組み合わさり、気持ちよい歌声を聞かせてくれます。2014リプロダクションでは、コーラスは低空飛行のように一定のラインをキープして淡々と響きます。木根さんの声が後ろ側、小室さんの声がフロントという位置関係ですね。
 小室さんのコーラスはラップに近いノリがあります。例えば一九九一年の「JUST LIKE PARADISE」や二〇〇七年の「RED CARPET」のように、小室さんがラップのようにコーラスを歌う曲がありますが、ヒップ・ホップともポップスとも言いがたい、ジャンルの境界線が溶解する独特の空気が漂います。二〇一四年の「RAINBOW RAINBOW」でも小室さんの声が屹立しています。声質をふまえた上で、自らの声を楽器のようなポジションで組み込む。それによって、オリジナルに漂っていたクールさに磨きがかかっていますね。
 『DRESS2』でこの曲がどのように変化するのか、大いに期待していました。TM NETWORKは一九八四年にデビューしましたが、「RAINBOW RAINBOW」はデビュー・アルバムのタイトルになった曲でもあります。かつて小室さんが「TM NETWORKにはdeadmau5(デッドマウス)とそっくりの曲がある」と述べたことがありますが、それはどの曲だろうと考えてみました。似ているかは定かではありませんが、そのときは「RAINBOW RAINBOW」が浮かびました。デビュー・アルバムの中ではポップスよりもエレクトロに近い雰囲気を醸しているんですよね。
 初期のライブでもオリジナルとは印象の異なるアレンジで演奏されていますし、一九八九年のリプロダクション・アルバム『DRESS』ではビートを強調したアレンジで再構築されています。小室さんの手でリミックスしたらどのように変化するのか、とても興味があったので、2014リプロダクションに選ばれたことはとても嬉しい。三〇年の時間をつなぐリミックスはどのようなものか、そしてそこから広がる新たな世界を想像しつつ、リリースを待ちました。答えは想像の先を行き、期待を超えました。

ACCIDENT 2014

 「ACCIDENT」は三番目にシングル・カットされた曲です。一九八五年のオリジナル・アルバム『CHILDHOOD'S END』のリード・シングルとなりました。SFの雰囲気やエレクトロを軸にしたデビュー・アルバムの路線を見直し、聴きやすいポップスに寄せた二作目が『CHILDHOOD'S END』です。その中でも「ACCIDENT」は歌謡曲の雰囲気を強く感じますね。なめらかなメロディと感情移入がしやすそうな歌詞が特徴的です。鋭利なサウンドで驚かせるというよりは、歌を聴かせることで曲を知ってもらうという意図があったのでしょう。結果としてこの路線も変更を余儀なくされ、翌年はファンクに挑戦することになります。
 TM NETWORKの中でも異質な存在である「ACCIDENT」を二〇一四年の音でドレス・アップするとどうなるか。聴き手を誘い込むような音、首筋に絡みつくような音が印象に残ります。プログレッシヴ・ロックを思わせる先の読めない展開が曲に緊張感を与え、ダイナミックに上下する波をつくり出す。それでいて、もともと持っている柔らかなメロディが気持ちをほぐしてくれ、ドラマチックな音の展開とバランスをとっていますね。さらに、歌詞と音の共鳴もポイントですね。ひとつのドラマが歌詞の中に描かれていて、そのドラマを音が彩り、深みを持たせています。伴奏にならずとも、音は歌を引き立てることができるし、音が屹立することで歌、そして言葉を輝かせることができるのです。
 オリジナルではサビ前に加えられていた♪How long do I have to live in the memory for you♪というコーラスがサビの後に移動し、アウトロでも繰り返されます。オリジナルでの役割はサビにつなぐブリッジでしたが、2014リプロダクションではテンポもアレンジも変え、異世界に飛ばされたような感覚に陥ります。コーラスは主に小室さんの声で繰り返され、これが実に中毒性がある。毒と言うのは言い過ぎですが、さらりと流せない、引きずり込まれそうな声が鳴り響きます。映像が切り替わり、文脈を断ち切るかのようなシーンが目に飛び込んでくる感じです。それは複雑に絡み合う物語を予感させますね。

金曜日のライオン 2014

 驚くほどに分厚いキックとまとわりつくベースの音がdeadmau5を彷彿とさせます。「金曜日のライオン」の2014リプロダクションは、タフなEDMサウンドで構築されています。歌モノとは思えないほどにキックが鳴り、前に飛び出してきていて、その迫力に圧倒されますね。試しにボーカル・トラックをミュートしてみたらどうなるでしょうか。EDMという文脈にすんなりとフィットするし、それこそdeadmau5がライブ・セットでプレイしていても違和感がないでしょう。deadmau5だけでなく、デヴィッド・ゲッタが鳴らすキックの音にも似たものを感じますね。小室さんは「洋楽の持つパワーは肉食的で敵わない」と述べていましたが、この曲ではその肉食的な音に挑戦してみたのかもしれません。
 一九八四年、この曲でTM NETWORKはデビューを飾りました。アルバム『RAINBOW RAINBOW』で録った曲のうち、どれをデビュー・シングルにするか意見が分かれたようですが、最終的には洋楽志向の「金曜日のライオン」が選ばれました。サブタイトルの「Take it to the lucky」は、最初はこちらがタイトルだったそうな。英語のタイトルだと売れないと言われたから日本語の「金曜日のライオン」を前に持ってきた、とのこと。確かに「Take it to the lucky」という歌詞は出てきますが、「金曜日」も「ライオン」も登場しません。「アフリカ」という言葉からイメージを膨らませるのみです。ビジネス的判断はともかく、「金曜日のライオン」というタイトルはこの曲のオリジナリティの確立に一役買っていたかもしれませんね。SFのようでもあるし、シリアスなドラマのようでもある。聴く人によってイメージは変化し、それぞれのオリジナルな世界が広がります。
 イントロを聴いただけではファンすらもこれがデビュー曲だとは気づきにくいですよね。途中からようやく輪郭が見え始め、それだと分かる。曲の全体を通して、オリジナルのフレーズからは想像できないフレーズを随所に差し込み、新旧の要素が複雑に結びつく構成になっています。オリジナルのフレーズと新たな音をつなぎ、一九八四年のメロディを二〇一四年に存在させる試みです。
 ただの同窓会にはしたくないと言い続けている小室さんですが、そうもいかない事情もあるわけで、『DRESS2』にはバランスを考えた痕跡が数多く感じられます。もちろんそれは妥協だとは思いませんし、旧来のファンも、新たに耳にするリスナーも、それぞれに楽しめる作品を小室さんは標榜しているはずです。願わくばそれらが分断されるのではなく、クロスする。「金曜日のライオン」の2014リプロダクションでは、一九八四年に生まれた素晴らしいメロディも、二〇一四年を切り取るエレクトロニック・サウンドも存分に楽しむことができます。

永遠のパスポート 2014

 『DRESS2』の最後を飾る曲は「永遠のパスポート」です。オリジナル・バージョンは『CHILDHOOD'S END』に収録されています。もともとはデビュー・アルバムの流れを汲んだ歌詞や音で構成されており、それは当時のライブ音源に残っています。『CHILDHOOD'S END』に収録された音源は、歌詞も音もデビュー盤の雰囲気からはかけ離れています。
 『CHILDHOOD'S END』の歌詞や音は、TM NETWORKの中でもソフトな部類に入るでしょう。シンセサイザーの音を使っていても、シンセサイザーを聴いている感覚を抱かせない工夫がなされているそうですね。とは言え、シンセサイザーの音はTM NETWORKのアイデンティティです。その印象を弱めていることに驚きますが、当時はヒット曲に恵まれず、軸をどこに定めるか決め切れなかった。迷いとも言えるこの時期を経て、一九八六年からはダンス・ミュージックの要素を取り入れることで、アイデンティティが確立してゆきます。
 「永遠のパスポート」の2014リプロダクションは、オリジナルの雰囲気を色濃く残し、とても気持ちのいいポップスに仕上がっています。EDMスタイルからは距離をとり、シンプルな印象を与えるサウンドです。シンセサイザーが形づくる音のレイヤーを楽しむことができますし、アコースティック・ギターのストロークや、エレクトリック・ギターによるソロ・プレイもいいですね。
 さらりと聞き流すこともできるけれど、ちょっと立ち止まって、第一印象の向こう側にあるものを探ってみるとおもしろいですよ。例えば、ワブル・ベースを思わせる音を短く刻み、サウンドのアクセントにしているのが分かります。音を伸ばしてマウスでいじればワブル・ベースと呼ばれ、ダブステップのカテゴリーに足を踏み入れる。けれども、ここではクリアな音を彩る音として、たとえるならドレスに合わせるピアスやリングのようなアクセサリーとして存在します。シンプルなサウンドもじっくりと耳を傾けることで、そのコーディネーションを楽しめますし、奥深さを垣間見ることができるでしょう。
 シンプルな音が支えるのはウツのボーカルです。歌にスポットライトを当ててみましょう。「永遠のパスポート」は特にメロディの優しさが際立つ曲であり、『DRESS2』では優しさが芯のあるものになって響き渡ります。アルバムやライブ・テイクを聴くと、それぞれ歌い方が異なっていました。さらに言えば、正式に録音する前のライブでも歌われており、これもまた歌の印象が異なります。一〇年、二〇年、三〇年と時間を積み重ねて、ウツの歌声はメロディの良さを最大限に引き出しています。それが実現しているのは、声の性質、技術や経験、そしてメロディとの相性といった要素が互いを打ち消すことなく組み合わさっているからでしょうね。

LOUD (PART3)

 「LOUD」のミュージック・ビデオは二〇一二年から二〇一三年までの物語とライブ・ツアー「the beginning of the end」をつなぐ内容です。ビデオは地上での潜伏活動を済ませた三人が宇宙船に乗り込むところから始まります。ウツ(の姿をした潜伏者)、木根さん(の姿をした潜伏者)の順に歩き、マントを肩にかけた小室さん(の姿をした潜伏者)が二人に続きます。小室さん(の姿をした潜伏者)は泥や埃で汚れていますが、宇宙船の通路を歩く途中、ゲートをくぐると汚れがきれいに消えます。そのまま三人は真っ白な通路を進み、ドアの向こう側に消えてゆきます。ドアの向こうにはやはり白い空間が広がります。
 「LOUD」の音楽に合わせ、部屋の奥へと進んでいく。奥には左右に開くドアがあり、その向こう側には同じ空間が待ち構えている。ドアがすっと開き、白い空間が現われ、再び進み、ドアが開く。同じ部屋がいくつもあるのか、時間がループしているのか。何もなくがらんとした部屋もあれば、たくさんの花が飾られている部屋もある。子供たちが走り回っていたり、3Dグラスをかけてスクリーンに映る映像を観たりしている。時として、TM NETWORKの三人が登場し、「LOUD」を歌う。あるいは、ベッドから起き上がる。本を読みながら浮かぶ。絵のない額縁の中を覗き込む。部屋から部屋へ、誘われるように、その先に進む。
 YouTubeやniconicoで公開されているのは曲の八割ほどです。その先では曲がプログレッシヴ・ロックのように劇的な変化を見せます。子供たちがコーラス隊のように並んで♪LOUD, LOUD LOUD, Shout it loud♪と歌い、三人も同じように声を重ねます。歌が終わり、最後のシーンは物語の鍵となる要素にフォーカスします。最後のドアが開くと、そこにはウツ(の姿をした潜伏者)が立っている。彼は白い衣装を身にまとい、白い布に包まれた赤ん坊を抱いています。やがて目の前がホワイトアウトし、物語は「the beginning of the end」にバトンを渡します。

LOUD/DRESS2

2014年6月21日 発行 初版

著  者:FJK
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