spine
jacket

Seeing is believing.

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中二病

三ッ星あさぎ

triangle stars



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◆◆◆

まるで空が落ちてきたように、丘を一面のブルーが覆う。
ネモフィラ、和名を瑠璃唐草(るりからくさ)と呼ぶ小粒の花の大群。
海から吹く風で、頭をひらひらと揺らしている。

宇宙からこの星を見たことのある飛行士たちは、こぞって「地球は青い」と言う。
ここは青い星。
青は海の色、空の色、この星を覆う色。
とてもとても大きな色。悠久の色。

地球を球体として目の前にしたことはないけれど、きっとこんな色に見えるんだ。

◆◆◆

よく使う言葉。
断定しない、あいまいにしておく魔法の言葉。

でもこのあいまいさが心地いい。
白にも黒にも振れることなく、中間にあるグレーの波を
ただ漂っていたい。
それが時に、自分を、誰かを救うこともあるだろう。

逃げすぎるのは禁物だけれども。
この緩さに身を浸すのも、たまにはいいだろう。



◆◆◆

パリ、シャルル・ド・ゴール空港からフランクフルト国際空港への機中にて。
まるで新しい世界が生まれる瞬間を見るような、光の産出。
地球は回り、そのたびに新しい朝が来る。
手のひらに乗る太陽が、何よりの証明だった。

◆◆◆

ドイツ・トラフェミュンデ。
バルト海に面し、リゾート地として国内でも親しまれているこの地に、夏ではなく12月に赴く。
理由は簡単だった。海が見たかったから。

真冬、日本より緯度の高いドイツのさらに北の海になんか行けば、肌を刺すごうごうとした風に晒され、波は荒れ、視界も吹雪で不良…なんて厳しい世界を想像していたからこそ、あっけに取られてしまった。

実際に行ってみれば、冬の東京より暖かく風のない穏やかな気候に、リゾート地の象徴たる、静かに静かに打ち寄せる波。
ドイツは南に行くほど寒い。不思議な国である。


さて、その砂浜にはたくさんのカモメたちがいて、皆「我関せず」という表情をしている。

しかし、こちらがしたり顔で、リューベックのクリスマスマーケットで手に入れたブレッツェル(ドイツのパン)を取り出すと、目の色がにわかに変わった。

少しだけ千切って放り投げると、一斉にその羽を目いっぱい広げて飛びつく。
しかしそこは競争社会。勝てるのはたったひとり。
冬の海よりよほど厳しい。

次第に自分の手のひら(の上のブレッツェル)ひとつで彼らが躍っているのを見るのが楽しくなってきて、何度も千切って与えた。
これが支配者たる者の愉悦というものか(笑)
そのうち、あるひとつのことを考えるようになっていた。

彼らはなぜ飛ぶのか?
こちらがパンを投げる度に、最大限羽を広げて。

答えは簡単だ。生きるためだ。
パンが彼らの血肉になるからだ。
生きることを惜しまない彼らは、いつも自分にできる最良の選択をする。
それが「翼を広げて飛ぶ」ということだっただけだ。

彼らは生きるために飛ぶ。
とてもシンプルだ。

◆◆◆

彼は宇宙から来たのかもしれない。

長くしなやかで美しい肢体。
一時も笑わずに閉じられた口と、ピアノ線のように細く、規則正しく並ぶ髭。
磨くほど透明度を増していく、翡翠石のような一対の瞳。
その生命体のすべてを埋め尽くす、どこまでも穢れのない白。

初めて出会ったのは、確か小学校5年生の林間学校。
そのときは同じ個体ではなかったけれど、初めて見る得体の知れない生き物に
目を奪われて立ち尽くした。






その白さは自ら発光する恒星のようでもあり、流れるような四肢は銀河のようでもあり。
だから、きっとこの「ホワイトタイガー」という生物は、本当は宇宙の彼方から、何億光年という未知の距離と時間と星の数を超えてある日突然やってきた、地球外生命体なのだという気がする。

いや、生命の連綿たる誕生の歴史を紐解けば、そうではないのかもしれないけれど…
それほどその個体の美しさは、この世界からはかけ離れていた。



ふと星を見るように、また何度でも会いたい。

●●☽

惑星や恒星の軌道計算したり研究したりしてる人ってすごいと思う。
まず時間の概念が圧倒的に違う。人間なんてせいぜい生きられて100年だけど
星から見れば、そのくらいの時間は赤子同然だ。
数万年、数億年単位でライフサイクルを繰り返す宇宙の営みは
人間の感覚では得られないものだと思う。
それを想像の域から、手を伸ばしているところがすごい。

その中で、金環日食だとか、彗星大接近とか、しし座流星群だとか、
惑星同士のすれすれ衝突だとか、宇宙には出会いも多いらしい。
とはいえ、同窓会で30年ぶりに会う旧友とはその桁がいくつも違うのだから、
一瞬の邂逅が奇跡そのもののように感じてしまう。

果てもなく、途方もない距離と時間のうちのたった数十年間を、
私たちは泳いでいく。

◆◆◆

学校の勉強で何が一番足りてないかって、
方程式の量でもなく漢字の試験でもなく生きた英語でもなく
「正解が無いこと」だ。

大人になって分かった。
世の中のことには大体正解が無い。
あのとき彼女に何を言えば良かったのかなんて、
友達が何を悔しくて泣いているのかなんて、
目の前の仕事をどの順番で片付けたら良いかなんて、
答えがあったら知りたいくらい。

というわけで、明確な答えを授けてもらえる学生時代が
いかに幸せかということを、いま学生をやっている人たちは
ありがたく受け取ったほうがいいですよ。

◆◆◆

人は意識のないときから
心臓自体は動いているわけで、
最初のアルゴリズムは母親が書いてくれるわけだけど、
意識が生まれて以降に、それを動かすのは
結局は自分自身の意志なんじゃないかと思う。

いつも「生きたい」と思って生きているわけではないけれど
心臓が止まっていないということは、何かやることもあって、
何かこれから出会うこともあって、そういうことなんだと思う。
ここに「0」が還ってくる日まで、まだしばらく動き続ける。

◆◆◆

スポーツを観るのが好きだ。

なぜかと言うと、シンプルだから。

ルールを覚えて、その中でいかに相手を出し抜き、勝つか。
そういうシンプルさが良い。
白黒微妙なこともなく(たまにそういう判定もあるけど…)、結果がはっきり出るのも清々しい。
自分が応援している選手やチームが勝ったら嬉しいし、負けたらもちろん悔しい。
そういう気持ちの動きも極めて理に適っていてシンプル。

12月、サッカーの最高峰の舞台、ヨーロッパチャンピオンズリーグ。
そのグループステージ最終節、ドイツ・ブンデスリーガの古豪チーム「シャルケ04」対スイスの強豪「バーゼルFC」の試合を観戦に行った。
シャルケはこのホームゲームで、何としても勝たなければならない。
そうでなければ、グループステージ敗退が決まるという、単純明快な試合だった。

試合は、ホームサポーターのいつにも増して気迫溢れる応援と叱咤が背中を押し、選手が躍動して2得点、失点ゼロでシャルケが勝利。
決勝リーグ進出の喜びを会場全体で噛みしめた。

選手たちはただ一点を向いてプレーしていた。その狂気とも言える心意気を感じた。
ただ「勝ち」に行くこと。
たぶん、試合が始まる前には、何かのため、誰かのためにプレーするということは
きっとみんなどこかで考えるんじゃないかと思う。
ただ、いったんホイッスルが鳴ってしまえば、ひたすら勝ちに行く。
勝ってどうなるか、それは試合が終わってから考える。

負けたら全く意味がない、とは思わないけど、
とにかくその瞬間を、「勝つ」ために生きている。
そういうシンプルさが好きだ。

◆◆❤

広い空が好きで、よく空の写真を撮る。
これは6月の暑い一日で、梅雨のさなかには珍しく晴れの日。
空を速い風に流されながらハートが流れていった。

愛は無限大。

◆◆◆

とあるなんでもない、6月の日曜日の午後。
梅雨もひとやすみでからっと晴れた暑い日。
カメラを持って出かけた。

目の前を、日曜なのにスーツを着たサラリーマンのおじさんが歩く。
暑さに少しうなだれるようにして、ただ足取りはいつも何かに急いでいる。
そんなおじさんのグレーのジャケットの背中に、木漏れ日の模様がスッと落ちる。
その繊細さはレース編みで出来ているかのように、とても綺麗だった。

そんな私の背にも同じように木漏れ日が落ちて、
後ろを通る誰かが目に留めてくれればいい。

◆◆◆

1月中旬、1年の中でも最も寒い時期。
小石川後楽園の池には、日が当たらない場所に薄氷が押し寄せるほど。

午後も深い時間になると、角度の小さい平板の日光が徐々に氷を溶かし、
陽だまりの水面はキラキラと輝いている。
池の上を音もなく滑っていく鴨。冷たくないのかな。

その鴨が、水面に反射した高層ビルの頂を掠めていく。
ビルの上には波紋が広がり、まるで最初から無かったと言わんばかりに世界は歪められていく。
その様を見て、日々社畜のごとく働くありふれた一会社員の私はニヤリとするのだった。

◆★◆

東ドイツの古都、ドレスデンのクリスマスマーケットは
世界最古と言われている。
600年近く前から続いている、聖なる伝統行事。

「伝統」は、人が受け継いでいくもの。
何世代もかけて、時を紡いでいくもの。
進化、あるいは退化を繰り返して、消えるものと、残るもの。
その長い時を、天を何周もして瞬く星が、静かに見届けている。

ドレスデンのクリスマスマーケットは、
地上に星が落ちてきたようにあちこちの灯りが輝いて
今を生きている人たちが
過去を生きた人たちに感謝の念を馳せ
未来を生きる人たちに希望を繋ぐ、そのために
温かなグリューワインを片手に、狭い路地を行き交っていく。

◆◆◆

ここまで読んでくださった、貴方に。
数えきれない感謝と、明日を歩むためのほんの少しの奇跡を。

◆PHOTO Index◆


表紙≪ 静岡県 清水
     エスパルスドリームプラザ

1≪ 香川県 女木島 『女根』

2≪ 神奈川県 鎌倉市

3-4≪ 山梨県 甲州市勝沼 ぶどうの丘

5≪ ドイツ ウルム

6≪ スペイン グラナダ アルハンブラ宮殿

7≪ 茨城県 ひたちなか市 ひたち海浜公園

8≪ 香川県 女木島

9≪ Air France パリ~フランクフルト機中





10≪ ドイツ トラフェミュンデ 
     リューベック湾

11≪ 東京都 千代田区 皇居東御苑

12≪ 埼玉県 南埼玉郡 東武動物公園

13≪ ドイツ ネルトリンゲン 
     リースクレーター博物館

14≪ 埼玉県 南埼玉郡 東武動物公園

15≪ 東京都 多摩市 聖蹟桜ヶ丘 
     桜ケ丘公園

16≪ ドイツ ゲルゼンキルヒェン 
     フェルティンス・アレーナ

17≪ 東京都 中央区 浜離宮恩賜庭園


18≪ スペイン グラナダ アルハンブラ宮殿

19≪ 茨城県 鹿嶋市 下津海水浴場

20≪ 茨城県 ひたちなか市 ひたち海浜公園

21≪ 東京都 文京区 小石川後楽園

22≪ ドイツ ドレスデン 
     アルトマルクト広場

23≪ 福島県 白河市 聯芳寺


中二病

2014年7月19日 発行 初版

著  者:三ッ星あさぎ
発  行:triangle stars

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Seeing is improving.

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