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2014年のライブ・ツアー「TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end」の記憶を記録しました。ライブの記憶と映像という記録、そしていくらかのイメージを編集してひとつのデータにまとめました。

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IR3

FJK

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 目 次

The Door Opens

PART1

PART2

PART3

PART4

PART5

The Door Closes

The Door Opens

 シンセサイザーの音が柔らかく鳴り響く。スクリーンにはシンプルな三角形がひとつ、浮かび上がる。三角形はゆっくりと回転しながら、スクリーンの上を漂う。別の三角形がひとつ、そしてもうひとつ、姿を見せると、三つの三角形がそれぞれに回って、近づいたり、時に離れたりする。それぞれの三角形を見えない線でつなぐと、もうひとつの三角形が浮かび上がる。それは、三つの点をリンクして、アクティベートするネットワーク。
 三角形が明滅し始める。三つの三角形が呼び寄せたのか、スクリーンには次から次へと新たな三角形が姿を現わし、漂い、明滅しながら、消えていく。太くて歪んだシンセサイザーの音が加わる。遠くにある三角形が勢いよく迫ってきては消え、迫ってきては消える。無数の三角形が七色に光り始める。三角形が連なって円を成し、回転しながら高速で迫っては消える。その軌跡は渦のように歪むサンバースト模様を描く。数え切れないほどの、それこそ星の数ほどもある三角形が現われ、ゆらゆらとうごめき、広がり、散って、姿を消す。その中でも、一定の軌跡を描く三角形の集合が、ひとつのイメージを浮かび上がらせる。底からゆらゆらと浮かび上がってくる三角形は、波紋を描き、青い水面を映し出す。横に動いていく三角形は、吹き抜ける風になびく緑の草原を形づくる。赤く輝き、形を留めずに揺らめく炎を描く三角形もある。地球を構成する青、緑、赤。
 三角形が遠ざかっていく。あるいは自分が巻き戻されているのか。気づくと、壁に囲まれた空間の中を漂っている。記憶も巻き戻され、二〇一二年、続けて二〇一三年のストーリーを再生する。三人の潜伏者は、メイン・ブレインと呼ばれる宇宙船を拠点にして、地球に降り立ち、いくつもの時代といくつもの場所を駆け巡り、地球のことを調査してきた。メイン・ブレインに帰還した三人は、自分たちに課されたミッションの仕上げにかかろうとしている。白い部屋の中を奥に向かって進む。TM NETWORKが演じる、TM NETWORKというフィクション。物語はいくつかの点をつなぎながら、終わりに向かって進む。目の前にあるグレーのドアが、すっと左右に開く。

PART1

 部屋の色はモノクロームに統一され、壁や床のほとんどは白く染まっています。光の反射は抑えられており、ぼんやりと白く光る箱の中に放り込まれたかのような感覚に囚われます。「TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end」の幕が開いたときに観客が目にしたのは、真っ白なステージです。楽器もなく、白い光に包まれた、からっぽなステージが目の前に広がっている。一体何が起きたのか、これから何が起こるのか。眼前に広がる空白を前にして、観客は驚きと期待に包まれます。
 シンセサイザーとベースとスネアとハイハットの音が高らかに鳴り響く中、ステージに楽器とマイク・スタンドがセットされます。小室さんと木根さんがステージに姿を現わします。ステージを照らす光は明滅し始める。ステージ奥の壁が左右に開き、ウツが姿を見せます。ウツは中央のスロープを歩き、一度立ち止まってから、再び歩いてマイク・スタンドの前に立つ。音が大きくなり、音が鳴るたびに観客席のボルテージを上げ、充分に上げたところで、一瞬のブレイクが音を断ち切る。観客の視線と期待を一身に受け、ウツが歌い始めます。
 曲は「LOUD」。二〇一四年四月二二日にリリースされた、TM NETWORKの最新シングルです。原型は二〇一二年には存在しており、二年近くの時間をかけて世に出ました。小室さんが紡ぐメロディは淀みなく流れ、心地良いポイントをつないでいきます。ウツの歌はインターフェースとして、メロディのいろいろな表情、たとえば鋭さ、柔らかさ、温かさを観客のもとへ届けてます。木根さんと小室さんも随所で歌い、三人の声が重なり、声でトライアングルを描きます。
 「LOUD」は、曲の後半でイントロと同じフレーズを繰り返します。それまでの流れを断ち切りつつ、一方でエネルギーがぎゅっと凝縮されていきます。そしてサビが繰り返される。蓄積されたエネルギーが音に込められ、間奏の前より壮大な、雄大な雰囲気をはらみます。ウツの歌声はたくましく、それでいて懐の広いあたたかみを帯びる。曲の最後を飾る♪僕らはもっともっとエモーショナルでいいのさ♪という言葉が優しく響き、余韻を残します。
 シングルで聴ける音に、ライブではさらに音を足していました。ソフト・シンセの音がぐっと前に出てきて、太いベースの音と混ざってタフなサウンドになる。シンセサイザーがサウンドの核になっていることがはっきりとわかります。ポップスの親しみやすさを持ちつつ、ソフト・シンセの音を主体にしてハード・シンセの音を組み合わせた、切れ味のある音はEDMとして聴くこともできる。プログレッシヴ・ロックのようなダイナミックな展開もある。ギターの音がタフに響く箇所では、ロックの雰囲気を感じることもできる。「LOUD」は光の当て方次第で表情を変える曲です。
 ドアが開くと、部屋の中央に大きくて透明なカプセルがあるのが見える。カプセルの中には、得体の知れない物体が入っている。それは無機物の塊にも見えますが、有機物を培養しているようにも見えます。潜伏者のうち、二人がそれぞれ端末を操作しています。時として何かを話し合い、時としてカプセルに近づいて中の様子を伺います。二人は何を考え、何を話し、何を操作しているのでしょうか。二人の表情からは、具体的な情報を読み取ることはできません。やがて、それぞれのタスクを終えると、二人はその場を去ります。
 音は物語の背景の一部と化します。ダブステップの要素を含む音を流しながら、小室さんはリアルタイムにソフト・シンセを重ねて厚みを出します。何が起きているか、これまでのライブを観ている観客にすらわからない状況の中、EDMスタイルを貫くインストゥルメンタルが鳴り響く。キックの音が強まり、ワブル・ベースを散りばめた音が会場を揺らします。物語を理解せんとする観客のヒントとなるのか、それとも謎を深めて謎の中に引き込もうとしているのか。目の前で起きていることは一体何なのか。物語は何を語ろうとしているのか。ドアが閉まり、それを合図にしたかのように、音の奔流が少しずつ収まっていきます。
 ソフト・シンセを筆頭に、いくつもの音が次々と重なり、溶け合っていく。音のレイヤーは緩やかに、けれども確実に厚みを増していきます。シンセサイザーとドラムスの音が交差し、やがてギターのリフが絡んでくる。一曲のインストゥルメンタルが成立するとまで思えるような、とても長くて起伏に富んだイントロが続きます。音はどんどん集まり、撚られ、太くなっていく。音に合わせて光が動きを速め、形も色も変えて、やがて、「COME ON LET'S DANCE」のアイデンティティとも言えるフレーズが飛び出します。
 一九八六年にリリースされた「COME ON LET'S DANCE」は、二〇一四年になって新たなアレンジを施されました。新たなバージョンはアルバム『DRESS2』の一曲目に収録され、二〇一四年型TM NETWORKのイメージを決定づけたと言えるでしょう。時間を巻き戻して、TM NETWORKの軌跡をたどると、いくつもの種類のダンス・ミュージックを取り込んできたことがわかります。その先鞭をつけたのは紛れもなく、1986年の「COME ON LET'S DANCE」でしょう。リリース当時からこの曲にはオリジナル・ミックスの他に二種類のリミックスが制作され、TM NETWORK流のダンス・ミュージックを模索していた様子が伺えます。
 TM NETWORKというフィルターを通して、ダンス・ミュージックをTM NETWORKらしい形で表現する。三十年が経ってもその姿勢が健在であること示すのが『DRESS2』であり、そのリードオフ・マンである「COME ON LET'S DANCE」です。EDMというスタイルをTM NETWORKで実現すると、こうなるという一例を提示している。小室さんはTM NETWORKを「モーター・ショーやNAMMのような、新たな試みの展示会」と位置づけています。『DRESS2』というブースの入口で来場者を迎え、強烈なインパクトを与えるのが「COME ON LET'S DANCE」の役割であり、アルバムへの期待を高めています。
 『DRESS2』はただのリメイク集ではありません。ライブのためにアレンジを一新した曲を先行して公開する企画です。過去にも、類似した手法がとられたことがあります。一九八八年には、発売前のコンセプト・アルバムの内容を示唆するライブを東京ドームで行ない、一九九〇年にはライブ・ツアーのゲネプロを公開しました。TM NETWORKのライブでは、多くの場合、音源とは異なる形にアレンジされたり新たな音が追加されたりします。既存の曲がいかに変わるかを楽しみにし、ライブ会場で驚くのがTM NETWORKのライブの醍醐味であるため、それを先に開示するのは手品のタネを見せるのに等しい。
 それもまた優れたマジシャンの思う壺か。『DRESS2』を聴いてライブを観たところ、やはり驚かされました。ライブではアルバムには入っていない音が多く重ねられており、事前に公開されていたのはアレンジの基礎部分だったのです。アレンジを知らなくても充分楽しめますが、知っていれば、その進化を楽しむことができる。各地を回りながら、小室さんは音をアップグレードして、エレクトロに寄せていきました。「COME ON LET'S DANCE」にも音が足され、アルバムに収録された音から乖離していきます。中でも小室さんが弾くハード・シンセ、Virus TIが鮮烈な印象を残しますね。ライブでのアレンジは、アルバムを土台にして、いくつかの要素をピックアップして強めて、さらに新たなパーツを組み込んでいる。
 強烈なインパクトを残して「COME ON LET'S DANCE」が終わると、空白の時間がわずかに生まれます。その空白をギターのカッティングが切り裂くと、一気にファンクの色が強まる。スポットライトがギタリストに当たります。このライブ・ツアーとアルバム『DRESS2』でサポートを務めたのは、「バンナ」と呼ばれる松尾和博さんです。バンナさんのファンキーなギターに導かれて「KISS YOU」が始まります。イントロで小室さんはシンセサイザーで作り込んだギター音を重ねます。シンセサイザーで構築し、さらにリアルタイムに歪ませる音は、曲にロックの熱を注入します。
 「KISS YOU」のオリジナル・ミックスは一九八七年にシングルとしてリリースされ、アルバム『humansystem』にはロック・スタイルを強調したリミックスが収録されました。オリジナルでは随所でホーン・セクションの音が目立っており、ファンキーなギター・サウンドとの絡みがとても魅力的です。一九八九年にはCHICのバーナード・エドワーズによってリミックスされ、シンセサイザーとスネアの音が目立ち、煌びやかでありながら同時に冷たい空気の漂う不思議な音をまといました。
 この曲はライブで披露される頻度が高く、その度にアレンジは変わりますが、音が多く重なるのが共通していますね。多彩な音のレイヤーに魅了されつつも、特に耳を傾けたいのがベースの音です。色気を漂わせる音。このライブ・ツアーではベースが「KISS YOU」の雰囲気を決定づけています。艶やかに熱っぽく相手を見つめるようでありながら、冷めた目で俯瞰するようなベースが、緩やかなテンポの中で絡みついてきます。心も身体も縛られる。
 ソフト・シンセの音をメインに据えたサウンドの中で、ギターの音が屹立します。バンナさんは間奏でギター・ソロを披露しており、色気のある音色が曲を彩ります。木根さんが弾くギターはステージ・セットや衣装に合わせたかのように白くデザインされており、アウトロではステージ前方に出てきて、ファンキーに刻むソロ・プレイを披露しました。TM NETWORKのライブには傑出したギタリストが参加することが多いため、木根さんはバック・ボーカルやパフォーマンスに注力することが多い。とは言うものの、その間を縫ったり支えたりする木根さんの音も欠かせません。このライブ・ツアーでは、「KISS YOU」を始めとして、各所で木根さんのギターを聴くことができます。

PART2

 メイン・ブレインの一室で、三つの物体が宙を舞います。クリスタルのような透明な材質でできており、細長くて、厚めの板のように見える。宙を漂い、回りながら、うっすらと色が移り変わっていく。記憶を遡ると、二〇一二年のライブ「TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-」で登場した三枚のパネルにたどり着きます。ステージに立ってさまざまな映像を表示した三枚のパネルはモノリスを表わしていました。TM NETWORKを映し出し、潜伏の記憶を映し出したモノリス。
 かつて姿を現わしたモノリスが、時間を越えて再び登場したのか。それとも、これらは別の役割を持った物体なのか。あるいは、メイン・ブレインの核に関わるものなのかもしれません。その核によって、モノリスは作り出されたのでしょうか。モノリスが核そのものとも考えられます。これまでに公開された物語にリンクしているのか、これから明らかになる物語の伏線なのか。語られない言葉は自らのイメージで埋めていく。ステージからは、柔らかくて、心を落ち着けてくれるメロディが鳴り響きます。潜伏者のひとりが音を奏でています。三つの物体は、ゆっくりと回転を続ける。
 ドラムの音を合図に「永遠のパスポート」が始まります。アルバム『DRESS2』でリメイクされた曲のひとつですが、オリジナルは一九八五年のアルバム『CHILDHOOD'S END』に収録されています。音の印象は異なるものの、オリジナルに漂う優しげな雰囲気はリメイクでも表現されています。ウツの声で届けられるメロディ、木根さんが弾くアコースティック・ギターが穏やかな風のように観客を包みます。ライブでは、小室さんがソフト・シンセをパーカッションのように使って音を重ねます。雨が地面に叩きつけられて跳ねるような、そんなイメージの音ですね。パーカッシブなソフト・シンセの音は跳ねるように突出し、サウンドの印象を軽快なものにしています。不意の雨を楽しんで歩くような明るさを感じます。雨の日もあれば、さわやかに晴れる日もある。
 間奏では木根さんがハーモニカを吹きます。木根さんのハーモニカは幾多のライブで披露されました。一九九〇年のアルバム『RHYTHM RED』を核にしたツアーでは「クロコダイル・ラップ」という曲でロックらしさを醸すハーモニカ・プレイを披露し、二〇〇〇~二〇〇一年のライブ・ツアー「TM NETWORK TOUR Major Turn-Round」では「STILL LOVE HER」の間奏で優しい音を届けてくれました。音もメロディも優しい「永遠のパスポート」では、ハーモニカの音が自然と曲に馴染み、調和して鳴り響きます。
 「永遠のパスポート」の歌詞は、日常の中に不意に転がってきたちょっとした非日常を綴っています。日常と非日常は背中合わせのような関係にあり、その割合はいつでも逆転し得る。日常の言葉で紡がれる光景は、非日常の裏返し。オーソドックスなラブ・ソングであっても、その背景にある物語によって文脈が変わり、イメージの広がり方も変わるでしょうね。
 宇宙から来た生命体が地球の日常に溶け込んだのだけど、宇宙に戻らねばならなくなり、心残りではあるけれど、何も明かさずに最後の日を過ごしている。自分の正体を明かしてしまおうか、やはり何も言わずに消えるべきか、と葛藤しながら、他愛もない時間を過ごす。「永遠のパスポート」には、デビュー当時のライブだけで披露された歌詞が存在します。原曲の物語を念頭に置いて、レコーディングされた音源の歌詞を読むと、歌詞に綴られた物語の捉え方が変わります。書き変えられたのではなく、視点を変え、光の当て方を変えたのが「永遠のパスポート」の物語なのだろう、と。
 心をえぐるような音が解き放たれ、「ACCIDENT」が始まる。オリジナルの雰囲気から大きく乖離しており、『DRESS2』の中でもその変化は随一ですね。オリジナルは『CHILDHOOD'S END』に収録され、シングル・カットもされました。歌謡曲の雰囲気を強く漂わせる曲でしたが、二〇一四年バージョンの「ACCIDENT」もメロディと歌詞は同じなのですが、サウンドに歌謡曲らしさは微塵も感じられない。
 TM NETWORKの曲は秋や冬のイメージが浮かぶことが多いのですが、『CHILDHOOD'S END』は夏の雰囲気を漂わせますね。初夏の風のように爽やかな曲もあれば、真夏の熱帯夜のような湿り気を帯びた曲もある。「ACCIDENT」は、どこか切なく、夏の熱気の中で孤独に沈んでいる。歌詞は離れていった恋人のことを思い出すひとりの人間を描きます。出会いも別れも、誰にでもある小さな出来事なのかもしれないけれど、当人にとっては深刻なことです。そうした小さな苦しみは誰にでもあるし、どこにでもある。その一方で、小さな喜びを感じる時もある。出会いと別れが描くスパイラル。そういった小さな気持ちの塊がいくつも、いくつも集まっているのがこの世界ですよね。ありふれてあふれているラブ・ソングも一人の人間を形づくるファクターだとするなら、潜伏者であるTM NETWORKが調査し、記録、そして報告する対象になる。
 ステージで小室さんが奏でるフレーズは、メロディを意識しているのか、あるいは歌詞の世界を表現しているのか、実に叙情的です。歌うようにシンセサイザーを弾く姿が印象に強く残ります。アルバムでも聴ける音にライブで重ねられた音を聴くと、ジャズの香りが漂っているように思いました。ポップスの明るさやプログレッシヴ・ロックの変則的な展開の合間に、渇いた空気を感じます。その空気が、ジャズを聴いているときに感じるものに近い。アウトロで小室さんが弾くSledgeの音はローズ・ピアノのように聞こえ、鮮烈なソロ・プレイは聴き手の心を侵食します。
 サバンナの地平線に沈む大きな夕陽をモチーフにしたかのような光がステージを包みます。いつかテレビのモニター越しに見た、アフリカの動物、赤味を帯びたオレンジ色の太陽。脳内のスクリーンには、夕陽を背にして歩く動物の群れが映し出され、鋭いエレクトロニック・サウンドが駆け巡ります。アルバム『DRESS2』、そしてこのライブ・ツアーの曲の中で、最もEDMの要素が多く含まれている曲は何か。答えは、この「金曜日のライオン」でしょう。オリジナルの要素を断片的に残しつつも、二〇一四年の音で再構築されています。
 「金曜日のライオン」はTM NETWORKのデビュー曲であり、一九八四年にリリースされました。当時の洋楽を意識したとされるサウンドは、デビュー・アルバムの中でもクールな雰囲気を漂わせています。「終了」というコンセプトを掲げた一九九四年のライブではバンドらしさを感じましたし、その十年後には「DOUBLE-DECADE」というコンセプトのもと、トランスの要素を多く含んだアレンジでプレイされました。そして二〇一四年は「30th FROM 1984」と銘打ち、EDMへの転生を遂げました。強烈な四つ打ちの中、シンセサイザーの音をプレゼンテーションしています。キックやベースの音は、TM NETWORKが作り上げてきたライブラリの中でも随一の厚さと重さを誇り、オリジナルよりもテンポを下げることで身体にずしりと響いてきます。キックやベースは曲を支える役割を果たすものだと思いますが、二〇一四年の「金曜日のライオン」では曲の核だと言っていいでしょうね。キックとベースの連鎖がEDMらしさを体現しているし、ダンス・ミュージックとしてこの上ない魅力を放っています。
 リメイクされた「金曜日のライオン」はインストゥルメンタルの部分が多く、歌はそれらをつなぐ役割を担っています。歌が分断されていると見ることもできますが、インストゥルメンタルとボーカルが等価の関係にあると言った方が適切でしょう。それがこの曲のダンス・ミュージックらしさを強調しているし、同時にTM NETWORKらしさを表現しています。こうして歌がサウンドの一部として楽器のように位置づけられる曲もあれば、ウツのボーカルが中心になる曲もある。TM NETWORKでは、曲やコンセプトの違いによってメンバーのポジションが変わります。誰かが前に出れば、他のメンバーは一歩下がる。三人が等しく前に出るときは、サポートのメンバーが曲を支える。ピッチの状況に応じて絶えず動き、フォーメーションを変えるサッカーに近い。小室さんが思い描くTM NETWORKとしての表現を実現するために、三角形は自在に形を変える。
 ライブでは、小室さんが鍵盤を弾く姿が印象に残ります。リメイクで追加されたメインのフレーズをソフト・シンセで弾き、Virus TI、そしてSledgeを弾いてソロ・プレイを披露します。ソフト・シンセに満ちたサウンドの中で、ハード・シンセの音は独特のプレゼンスを感じさせます。ダンス・ミュージックが流れる中で鍵盤を弾いて音を重ねる姿は、やはり小室さんを象徴するものです。EDMのDJは曲を流すだけでなく、それぞれのパフォーマンスでも魅せてくれます。Krewellaは姉妹によるボーカルで魅せるし、AVICII、Zedd、Afrojackが観客を煽る姿には個性があります。その仕草をすれば誰かがわかるくらいに。二〇一一年のDOMMUNEの記憶がよみがえります。指先から血を流すくらいに激しく鍵盤を弾く小室さんの姿が、インターネットを介して多くの人々の目に映りました。シンセサイザーに囲まれて鍵盤を弾くスタイルは、まさしく小室さんを象徴するものですよね。EDMスタイルに染まった「金曜日のライオン」の音を浴びながら、そのことを強く感じました。

PART3

 カプセルの中のそれは、以前よりも形が整っており、ところどころに曲線が見えます。脚のようなもの、腕のようなもの、指のようなもの。誰もいない部屋の中で培養がゆっくりと、そして確実に進んでいます。カプセル内では、ひとつの物体、いや、おそらくは生命体が生成されているようです。脈打つグラフ、人型のグラフィック。潜伏者のミッションとは一体何なのか。この生命体にはどのようなミッションが与えられるのか。潜伏者のひとりは、絶えず音を奏でています。拡散していた音が次第にまとまっていく。
 シンセサイザーがカラフルな音色を響かせます。シンセサイザーのリフを合図に「RAINBOW RAINBOW」が始まります。オリジナルは、一九八四年のデビュー・アルバムの表題曲になりました。アルバムの中でもエレクトロの要素が強く、デビュー曲「金曜日のライオン」と並び、当時の洋楽を意識した曲ですね。三十年が経ち、アニバーサリー・プロジェクトの幕開けとなったアルバム『DRESS2』にもリメイク版が収録されました。アレンジを一新し、二〇一四年のダンス・ミュージックに生まれ変わっています。『DRESS2』では「RAINBOW RAINBOW」と「金曜日のライオン」のミックスを、小室さんが手がけています。EDMの要素を多く組み込んだふたつの曲を小室さん自身がミックスする。何かしらの意図が介在したのかもしれません。
 シンセサイザーのリフが各所で冴え渡る曲です。中でもイントロの途中から入ってくるリフが、新型の「RAINBOW RAINBOW」の特徴であり、大きな魅力です。このリフはイントロが終わっても鳴り続け、その上にAメロが乗ります。リフで印象的なフレーズをつくり、それをもとに曲を組み立てていく方法は小室さんが得意としていますね。オリジナルとの違いを決定づけるのがこのリフですが、どれだけ繰り返されていてもまったく飽きないし、むしろ聴くたびに好きになる。音はクールなのに、それを浴びると身体は熱くなります。
 エレクトロニック・サウンドにギターの音が重なります。バンナさんのギターは小室さんの音の一部となり、TM NETWORKのサウンドを支える役割を担っています。リフを刻む姿は職人と言ってもいいでしょう。その役割はそのままに、「RAINBOW RAINBOW」の間奏ではギター・ソロを披露します。シンセサイザーの音をバックにして叙情的なフレーズを奏でる。一九九四年のライブ「TMN 4001 DAYS GROOVE」でこの曲が演奏されたときは、FENCE OF DEFENSEの北島健二さんがソロを弾きました。間奏のギター・ソロは「RAINBOW RAINBOW」を構成する重要な要素です。ギターをエモーショナルに奏でるほどに、シンセサイザーの音はシャープな印象を強めます。
 歌が終わり、アウトロに入る瞬間に生まれる一瞬の空白。音はすぐに呼び戻され、分厚いキックの音が力強く鳴り響きます。濃密な四つ打ちがステージと客席を支配します。キックとベースに導かれて、再びシンセサイザーが奏でるリフが覆いかぶさってくる。最後までこのリフが観客を踊らせ、楽しませてくれます。
 「RAINBOW RAINBOW」のエンディングでループしていたキックの音と入れ替わり、「BE TOGETHER」のイントロが始まります。リメイク版のイントロはオリジナルよりも長くなっています。絵の具を水の中に入れてゆっくり撹拌していくように、シンセサイザーの音が広がり、エネルギーを溜め込みます。アルバム『DRESS2』の音の上に、小室さんは新たなフレーズをソフト・シンセで弾いて重ねます。明るくてキャッチーなフレーズは、そこから発展させて新たな曲ができるかもしれません。小室さんはライブで弾いたフレーズをもとにして曲を書いたこともあります。新たな音の探究もさることながら、演奏しながら新たなメロディを見つけ出す姿勢は小室さんの特徴です。
 充分に蓄積されたエネルギーは、Ruyの叩くビートに合わせて一気に放出されます。曲は勢いよく発進し、音が音を後押して、スピードを上げていきます。「BE TOGETHER」はセット・リストのどこに置いてもライブを盛り上げ、加速させ、熱気を生み出すアクティブな曲です。ウツはマイク・スタンドからマイクを外して歌うし、木根さんはステージ上を移動して小室さんの近くで弾いたり、ドラム・セットのそばに行ったりします。サビに入る前の一瞬のブレイクでは、ウツと木根さんがくるりと回ります。体調の思わしくなかった二〇一三年のライブでもウツは回ったほどの定番のパフォーマンスです。そして、今回のライブ・ツアーの千秋楽では、二人とともに小室さんも回りました。鍵盤の端から端までを流して弾きながらその勢いで回る。ライブは一層盛り上がります。
 間奏ではRuyのプレイがフィーチャーされます。彼は二〇一二年と二〇一三年のライブでもTM NETWORKや他のサポート・ミュージシャンと共演し、キャリアの差を感じさせない演奏を披露してきました。特筆すべきは二〇一三年のライブで、葛城哲哉、松尾和博という二人のギタリストとともに演奏したことですね。シンプルに音で会話して、音だけで互いを認め合う。涼しい顔で歴戦のミュージシャンと渡り合う姿は格好良かった。このライブ・ツアーでもサウンドを支え、時としてバンドを引っ張るプレイを見せます。「BE TOGETHER」のコアは彼の叩くビートであることは疑いようもありません。
 ヒートアップした会場の空気を和らげ、ニュートラルに戻すかのように、空白の時間が訪れます。会場は闇に包まれ、観客は次に来る音を待つ。すっとスポットライトがステージを照らすと、ウツが歌い出します。この曲のタイトルは「CUBE」といい、ヴィンチェンゾ・ナタリの映画『CUBE』からとられていると考えられます。木根さんが曲を書きました。木根さんのエッセイによれば、ピアノを弾きながら作曲しているところに小室さんがやってきて、すぐに気に入り、その場でいくつかの音を録ったとのこと。「三十年にひとつの名曲」とは小室さんの評です。それだけ評価しているわけですから、小室さんは大いに触発されたのでしょう。アレンジも一筋縄ではいかず、それまでの曲にはない仕掛けを試みます。メロディと音と言葉が組み合わさって、強烈な印象を残します。
 「CUBE」は、二〇〇〇年にリリースされたアルバム『Major Turn-Round』に収録されました。曲はゆるやかなピアノの音から始まり、いつの間にか、ハモンドが鳴り始めます。ピアノとハモンドが重なる音を背景にして歌が入り、淡々と言葉を連ねていきます。やがて、歌の温度が一気に上がり、気持ちをぶつけるかのように言葉を吐き出すと、それに呼応するようにギターとベースが重なる。そのまま一気に盛り上がってクライマックスに到達するかと思いきや、ギターとピアノは姿を消し、代わりにモーグの音が響きます。残された音はメランコリックな響きを漂わせ、その静けさは徐々に世界の彩度を下げていく。モノクロームに染まる世界の中で、誰に語るでもなく、ウツは最後の一節を歌います。言葉だけを残して跡形もなく消えていくよう。曲の終わりとともにアルバムの幕が下ります。
 サポートの二人は袖に消え、ステージに立って「CUBE」を演奏するのはTM NETWORKの三人です。木根さんのアコースティック・ギター、小室さんのシンセサイザー、ウツの歌。シンプルな構成で、奥行きのある曲が披露されます。深海に向かって潜っていくようなメロディです。詞を書いたのはTM NETWORKの多くの作品に参加している小室みつ子さん。内省的な歌詞からは、からっぽな部屋の中にいて独白している誰かの姿が浮かびます。世界は大きなcube。自分の心は小さなcube。大きなcubeの中に転がっている小さなcube。小さなcubeの中に、自分は存在している。
 何かが違っていることに気づき、やがてその差異に思い至ります。アルバムに収録されたときと今回のライブでは、歌詞が変わっていました。♪密室みたいに世界は息苦しい♪という部分が♪屋根裏みたいに世界は息苦しい♪という言葉に変わりました。「屋根裏」も閉塞した空間ですが、「密室」のような行き場のない絶望ではなく、窓という外とつながるラインを持っています。そこには希望めいたものが残る、と考えられます。変化した歌詞は、もうひとつあり、それは最後のフレーズです。♪I don't care what's going on out of my empty cube♪が♪I don't care what's going on out of my empty cube. everyone♪になりました。その後に、♪I don't care what's going on out of my tiny and empty cube♪という言葉が続き、曲は終わります。
 誰もがcubeの中にいる。それぞれのcubeの中にいる。cube同士はつながっていない。cubeの外で起きる出来事に目を向けることはない。からっぽなcubeが自分の世界のすべて。けれども、いつしかそれはからっぽなだけではなく、退屈な、あまり愉快なものではないことに気づく。cubeの中にしか向かなかった意識が、外に向かうようになる。自分の声を聞いてほしい。聴いてほしい。からっぽだった心の中に、他者への意識が芽生える。cubeの中の心は揺れ動きます。cubeから抜け出したくない。同時に、変化を望んでいる。どこに向かっていくのか、どこにたどり着くのか、自分でもわからないけれど、大きなcubeの中で、小さなcubeがいくつも、揺れ動いている。

PART4

 潜伏者のひとりが端末に向かって作業を続けている。カプセル内の生命体を生成するための情報をいくつもインプットしています。プログラミングのような文字の羅列、DNA二重螺旋のような曲線、分子構造のような六角形の連なり、積分のグラフのような図形。宙を漂う三つの物体も見えます。
 メイン・ブレインにおいて、潜伏者たちは人間に似せた生命体、すなわちアンドロイドを生成しようとしているのでしょうか。カプセルの中で培養されているそれは、人間に似た曲線を見せています。曲線は曲線でも、特に柔らかなカーブを描く曲線。黙々と作業をこなす潜伏者の表情からは、その目的を読み取ることはできません。理解できるのは、時間が経つにつれ、カプセルの中のものが変化していることだけです。
 ドアが閉じる。音が変化し、滲み、広がり、白い空間に模様を描く。音はさらに変化し、四つ打ちの音が加わります。さらに音が変わり、歪んだエレクトロニック・サウンドが渦をつくり出します。そして、すべての音が消える。時間も止まります。その空白を遮り、ドラムの音が時間を呼び戻すと、その音をトリガーにして「I am」が始まります。
 音、メロディ、言葉を隅々まで味わい、イメージを広げたい。それが「I am」という曲です。二〇一二年にオリジナルがリリースされ、二〇一三年には「I am 2013」と題したリミックスが発表されました。二〇一四年に発売されたアルバム『DRESS2』で聴くことができます。「I am 2013」は、ソフト・シンセや四つ打ちによってエレクトロでコーティングされ、オリジナルと印象が異なっています。メロディが心地良く流れるのが「I am」の魅力ですが、音の印象が変わるとメロディが浮かび上がり、その魅力をダイレクトに感じることができます。このライブ・ツアーのアレンジは「I am 2013」を下敷きにしています。ステージの上ではさらにソフト・シンセの音が重ねられ、エレクトロニック・サウンドの比率が高まります。それは同時に、ウツの柔らかい歌声とのコントラストを高めている。
 ♪ほんの少しだけの遅れは/急いですぐ戻ってくればいい/群れに集う その瞬間は/明日はともかく みな喜ぶ♪ というフレーズの歌い方がとても優しい。ウツの歌い方はエモーショナルであり、深みのある優しさを感じます。これまではできる限りクールであり続けたというべきか、小室さんが書いた言葉やメロディを伝える役割を自らに課していたような気がしますね。ボーカリストとして自らの色をつけるよりは、むしろ薄めて、触媒に徹していた。その姿勢が少し変化したのかもしれません。いくつかのライブを経て、「I am」の世界、すなわち小室さんの内的なエリアにウツがぐっと近づいたのでしょうか。
 曲が最後を迎えると、音がすっと消え、代わりに光が潜伏者のひとりを照らす。潜伏者は「I am」から一部の言葉を切り取り、メロディから解き放ちます。その言葉、「Yes I am Yes I am Yes I am a human」は、あのカプセルに関する作業のひとつだったのかもしれません。人間になるための情報をインプットし、人間であることをインプットする。人間ではないけれども、カプセルの中の生命体は、「自分は人間ではない」ということを「意識しない」ようになっている。それは何のためか。
 続いて、「JUST ONE VICTORY」が演奏されます。アレンジは『DRESS2』に収録されているバージョンに基づいています。オリジナルは「CAROL」という物語のエンディング・テーマに位置づけられ、一九八八年のアルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991-』に収録されました。「CAROL」は一九八八年から一九八九年にかけて敢行された大規模なライブ・ツアーのコンセプトとなりました。物語は完結しましたが、二十五年の歳月を経て、ステージに呼び戻されます。二〇一三年のライブ「TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation-」では、観客の中に眠る「CAROL」の記憶を掘り起こすために、アルバムの曲を組み合わせた「CAROL SUITE」が披露されました。
 記憶のリトレース。その射程に入っていたのは2014年であり、特にその後半です。二〇一四年秋から二〇一五年にかけて予定されているライブ・ツアーは「CAROL」の完全版を軸にするとのこと。今回のライブ・ツアーはそのイントロダクションにあたります。したがって、このステージでは次の物語の伏線がいくつか張られているわけですが、「JUST ONE VICTORY」は、物語の最初にある「あらすじ」のようなものと考えられます。かつての物語「CAROL」を象徴する曲であり、その記憶にアクセスして常駐させておくことで、新たな物語を起動するスピードを高めようとしている。
 ステージではハード・シンセの音が強烈なプレゼンスを放ちます。それゆえか、木根さんのアコースティック・ギター、バンナさんのエレクトリック・ギターがともに引き立ちます。イメージとしてはYESの「Owner of A Lonely Heart」でしょうか。トレヴァー・ホーンによるアレンジは、かつてのYESのイメージをひっくり返すものであり、一九八〇年代を象徴するようなエレクトロニック・サウンドが印象に残りますよね。「JUST ONE VICTORY」で鳴っている音とは当然ながら異なりますが、シンセサイザーとギターがともに屹立しながら共存するという点では、似ているかなと思います。
 V-Synth GT、Kronos X、Nord Lead 4。Sledge、Virus TI、System-1、Virus Indigo 2 REDBACK。そして、Macのモニターに映し出されるソフト・シンセをコントロールするFantom-G6が二台。自分を取り囲むシンセサイザーを操ることで、小室さんはTM NETWORKのサウンドを構築します。ステージにひとり残った小室さんは、シンセサイザーのひとつに近づき、その鍵盤に指を乗せると、ギター音でメタリックなメロディを奏でます。「TIME TO COUNT DOWN」のイントロで聴けるフレーズです。最初はゆっくりと、そして勢いよく奏でます。TM NETWORKがTMNと名を変え、コンセプトを変えてロックに傾倒した時期の曲です。勢いに任せて鍵盤を叩き、気持ちの赴くままに音を歪ませます。
 別のシンセサイザーの前に立ち、今度はチェンバロやアコースティック・ギターを思わせる弦の音で柔らかいメロディを奏でます。メロディをつないでいくと、「SEVEN DAYS WAR」であることに思い至ります。同じシンセサイザーでピアノの音を呼び出し、「SEVEN DAYS WAR」の演奏を続けます。途中でシンセサイザーを変えて、同じ曲をピアノの音で奏でる。ソフト・シンセを操作してキックとベースの音を呼び出して走らせながら、ピアノの音で即興でメロディを奏でる。リズムを抜くと、再びピアノの音でスウィンギーな即興演奏を見せます。
 ソフト・シンセにプログラムされたサンプリング・フレーズを呼び出すと、赤く乱れる光がステージを包みます。聴いたことのない、けれども耳に届いた瞬間に心に点火するサンプリング・フレーズ。そのフレーズが繰り返される中、やがてキックとベースの音が会場を揺らすと、ひとつのEDMがここに生まれます。心躍るフレーズが一瞬にして会場を包み、観客を呑み込みます。EDMを聴いたことがなくても、そのフレーズはキャッチーだし、聴く人を虜にする。
 突如として小室さんが脚を振り上げ、三段に積まれたシンセサイザーのうち、一番上のV-Synth GTに足を乗せます。鍵盤が押し込まれ、「GET WILD」のサンプリング・フレーズが飛び出します。同時に、爆音と煙が立ち上がる。小室さんがV-Synth GTの鍵盤に指を叩きつけるたびに、「GET WILD」の断片が勢いよく放たれ、光が明滅します。これまで構築してきたライブの流れを断ち切るかのようです。
 ワブル・ベースの音が響きます。モデル・チェンジした「GET WILD」のイントロです。ワブル・ベースはダブステップでよく使われる音であり、新型「GET WILD」を象徴する音ですね。「GET WILD」のサンプリング・フレーズ、ワブル・ベース、Ruyのドラム、バンナさんのギターが重なり、音の奔流は激しさを増します。光も明滅して音を煽ります。やがて爆音とともに煙が上がり、それまで鳴らしていた音が一度、すっと引きます。一瞬の静寂の中からクリアなシンセサイザーの音が産声を上げ、「GET WILD」のメロディが奏でられます。
 「GET WILD」は常にダンス・ミュージックとロックの間を移ろってきました。どちらに寄るかはアルバムやライブのコンセプト次第ですが、二〇一四年は両者の中間に位置していると言えるでしょう。EDMとロックが背中を預けて並び立つ関係にある。ロックの色を濃くしている要因は、やはりギターですね。シンセサイザーの音で埋め尽くされたサウンドの中でギターの音は屹立しつつも、きっちりとサウンドを支えている。バンナさんが弾く銀色のエレクトリック・ギターARISTIDES 010がクールな音を出します。バンナさんの音はソフト・シンセの音に溶け込み、ところどころで前に出てくる音が気持ちいい。
 このライブ・ツアーの「GET WILD」はイントロも長ければ、アウトロも長い。もはや別の曲を前後に入れたと言ってもいいでしょう。イントロで聴かせたフレーズをアウトロでも流しつつ、観客を強烈な四つ打ちの嵐に巻き込んでいく。ユーロ・ビートからテクノへ、そしてトランスと、ダンス・ミュージックの歴史を追跡するように変化してきた「GET WILD」は、二〇一四年はEDMのスタイルをまといます。深みのあるキックとベース、そこに重ねる鮮やかなシンセサイザーの音。スタイルが変わるたびに新たな生命が吹き込まれ、新たな音楽体験をもたらします。

PART5

 カプセルの中の様子が変わっています。直立していた生命体は椅子に座らされています。頭部と思わしき部分には髪の毛らしきものが見え、長くて、肩のところで結んでいる。二人の潜伏者は視線を交わして、それぞれの作業を続けます。胸の高さまで上げた自分の両手を見ている、直立した少女の映像。白いワンピースと緑色のトップスを着ている。無数の三角形が、たくさんの花びらが舞うように、少女の周りを漂い、消えていきます。少女は手を下ろすと、前を見つめる。手を上げて、眺めて、下ろす。プログラムされた行動を繰り返す。二人の潜伏者は作業を終えたことを確認し合うと、その場を去ります。
 ドアが閉じると、身体が一気に引き戻されます。ドアが閉じます。重力から解き放たれたかのように、身体は前に進みます。ドアが開きます。メイン・ブレインの一室。身体は前に進み続け、またしてもドアがすっと開きます。同じような部屋がある。前進は止まりません。移動して、ドアが開き、部屋に入り、移動して、ドアが開く。音がスピードを上げます。キックとハイハットが刻むリズムが観客を包み込み、高揚感を与えます。音が加速し、音が音を加速させる。
 シンセサイザーのリフが飛び出し、一気に「SELF CONTROL」の世界が広がります。この曲を象徴するのが、冒頭から登場するシンセサイザーのリフですね。リフが、さわやかに駆け抜ける風のような曲、というイメージを決定づけています。「サビよりもイントロが盛り上がる」とは、曲を書いた小室さんの言葉ですが、確かにこのリフが鳴った瞬間にスイッチが入り、気持ちが盛り上がります。リフはイントロを走り抜けてAメロと一体化しており、Bメロを飛び越えると、サビで再びリフが駆け抜けていく。サビのメロディはリフと同じであり、音とボーカルが重なってこのメロディを届けてくれます。この曲から得られる爽快感は、曲を貫くシンセサイザーのリフに起因します。
 「SELF CONTROL」は一九八七にアルバムの先行シングルとしてリリースされ、その直後に発表したアルバムの表題曲になりました。アルバムは売り上げを伸ばし、「SELF CONTROL」の疾走する曲調そのままにTM NETWORKも加速していきます。その延長線上にあったのが「GET WILD」のヒットです。シンセサイザーを前面に押し出すことでTM NETWORKのイメージが確立しましたが、それはやはり「SELF CONTROL」のイントロがあったから。そう考えると、あのリフの魅力は思っている以上に大きく、TM NETWORKにとって重要だったと言えます。
 二〇一四のリメイクでは、四つ打ちの分厚い音にシンセサイザーのリフが乗り、風を切って疾走していきます。オリジナルでは、さわやかに駆け抜けるイメージが浮かびます。リメイクでは、キックやベースの音がタフさ、力強さを加えています。ライブ・ツアーでも四つ打ちが前に出てきており、粘り気があって密度の高いキックの音は全身にずしりと響く。速めのテンポで鳴るキックは、体内の鼓動と呼応して快感を生み出します。そこにシンセサイザーのリフを浴びると、気持ち良さは倍増します。時間が経つことで熟成されるメロディもありますし、こうしていつまでも瑞々しさを保つメロディもある。かつてTM NETWORKの背中を押したメロディは、新たな音に乗って、今もなお前に進む力となっています。
 記憶が巻き戻される。そこにあるのはバトン。バトンといえば、一九八七年のライブ「TM NETWORK FANKS CRY-MAX」で「SELF CONTROL」を演奏した時に登場しました。そのバトンは一九八八年のライブ・ツアー「KISS JAPAN DANCING DYNA-MIX TM NETWORK ARENA TOUR」で地球から空へ、そして宇宙へと送り出されました。同じバトンなのか、あるいは異なる意味、役割を持つ新たなバトンなのか。記憶とイメージが錯綜する中、潜伏者のひとりがバトンを手にします。
 潜伏者のひとりが、白い台の上に乗せられたカプセルに近づきます。これまで見てきたカプセルを小さくして、横に倒したような形をしている。プラスチックなのか、ガラスなのか、あるいは僕らが知らない素材なのか。透明なプレートで覆われたカプセルの中を一瞥すると、蓋を開け、持ち上げます。それは、カプセルの中で眠っています。それは、生まれてから幾ばくかの時間が経過した乳児、のように見える。
 「LOUD」のミュージック・ビデオを再生して、記憶を巻き戻してみましょう。メイン・ブレインの中で歌うTM NETWORK。歌う少女、叫ぶ少年。部屋のドアが次々と開き、部屋から部屋へと移動すると、最後の部屋には潜伏者のひとりが立っていました。その腕には、無邪気に眠る乳児が抱かれている。白い部屋、白い格好をした潜伏者、白い布に包まれた小さな生命。それを生命と呼ぶべきか否か、判断するための情報は開示されていません。許されているのは、いくつかの情報と過去の記憶をつないで、イメージすることです。
 記憶とイメージが錯綜する中、潜伏者のひとりがバトンを手にします。それを別の潜伏者が受け取り、カプセルの近くにいた潜伏者に歩み寄ると、バトンに込められた意味とともに手渡します。バトンを手にした潜伏者は、カプセルを見下ろすように近づき、中で眠るそれの側にバトンをそっと置きます。ゆっくりとカプセルの蓋を閉じる。カプセルはドアの向こうに消えます。
 潜伏者たちはモニター越しにメイン・ブレインの外を見つめる。やがて、光の塊がメイン・ブレインから発射され、一直線に進んでいきます。モニターには青い星が映し出され、カプセルを包む光の塊がそこに向かって飛んでいくのが見える。モニターはカプセルの着地点を表示しており、やがてある一点を示します。カプセルが向かうのは、一九七四年のロンドンです。「CAROL」という物語のプロローグに描かれていたのは、一九九一年のロンドン。主人公キャロルが「ガボール・スクリーン」の音とメッセージに出合い、不思議な世界に旅立つ。「CAROL」の始まりから時間を巻き戻し、その舞台であるロンドンに、カプセルは降り立つはずです。そこで綴られるのは物語の続きか、物語の意味か、あるいは新たな物語なのかもしれません。
 木根さんがアコースティック・ギターを鳴らし、最後の曲「BEYOND THE TIME」が始まります。別の物語のために書かれた曲が、時間と空間を飛び越えて、今のTM NETWORKの物語に組み込まれています。二〇一三年のライブでは地上から宇宙を見上げるように歌った曲を、今度は宇宙から地球を見つめる位置で歌う。丁寧に重ねられた音が、メイン・ブレインから旅立ったカプセルの行方を見守るように鳴り響きます。
 小室さんはソフト・シンセに加えて、いくつかのハード・シンセを弾きます。Kronos Xではピアノの音を奏でる。Virus TIはシンセサイザーの音を前に出すソロ演奏で使用します。そして、これまでのライブでも活躍してきたVirus Indigo 2 REDBACKも弾いており、その音に強く惹かれます。太くて力強く、輪郭がはっきりした音。ソフト・シンセや新たなハード・シンセを導入したことで、前面に出る機会は減りましたが、こうして重要な場面でそのプレゼンスを感じさせます。宇宙を舞台にした物語にフィットし、その悲喜交々に陰影をつける。音が立体的になると、イメージも平面を飛び出します。
 「BEYOND THE TIME」はライブの度に異なるイメージが浮かぶ曲です。二〇一二年のライブでは、中盤から後半に移行するところで、小室さんの静謐なキーボード・ソロからの流れを受けて披露されました。揺らめく音のレイヤーに触発され、宇宙を漂うイメージが浮かびました。二〇一三年のライブでは、TM NETWORKの三人がステージに揃ってから最初に演奏されました。宇宙からやってきて、地球に降り立つシーン。そして、「TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end」では、宇宙から地球を見据えるまなざしを感じます。それは俯瞰ではなく、コミットする視線。
 どこかに吸い込まれるように、すべての音が収束します。メイン・ブレインが宇宙に浮かんでいる。その中にいたはずなのに、いつの間にかそれを外から見ている。そこで起きたことが幻のようにも思えますが、記憶は確かに白い部屋の出来事を記録しています。やがてメイン・ブレインは暗闇の中に消えます。先ほどまで目にしていた光景が、音とともに記憶の中で鳴り響きます。

The Door Closes

 部屋の真ん中に置かれた大きなカプセルに、潜伏者のひとりが近づく。カプセルの中で少女が目を閉じ、椅子に座っている。白いワンピースと緑色のトップスをまとった、ブロンドの少女。潜伏者がカプセルのロック装置を解除する。少女は目を開けると、ゆっくりと立ち上がる。左手を胸のあたりまで上げると、それを見つめる。同じように右手を上げて、手のひらを眺める。その体勢のまま、首を動かして、自分の周りを見渡す。その顔には感情らしいものはなく、動きも緩慢であり、プログラムされた行動を遂行しているだけのように見える。前を向くと、足を前に出す。身体がカプセルの外に出る。
 少女をカプセルから解き放った潜伏者は、その様子をじっと見守っている。腕の動きと脚の動きが噛み合わず、その場で転ぶ少女を見て、訝しげな表情を見せる。プログラムした内容に不備があってエラーが発生したのか、それとも何か予期せぬ事態が起こっているのか。表情を変えないまま少女は立ち上がり、再び動き始める。次第にぎこちなさがなくなる。歩く。駆ける。くるくると回る。少女の動きが滑らかに、自然になっていく様子を、潜伏者は満足げに見ている。少女がステージに花咲くバレリーナのように回ると、後ろで結わえた髪もふわりと宙を舞う。その表情は柔らかく、あたたかい。踊ることが楽しくて、いつまでも回っている、プリマ・ドンナに憧れる少女。
 他のふたりの潜伏者がやってくる。ひとりはバトンを携え、少女に近づいた。動きを止めた少女は、近づいてきた潜伏者と向き合い、微笑む。差し出されたバトンを見つめ、それを受け取る。バトンを委ねられることもプログラムされていたのかもしれない。バトンの意味を知っているのか。言葉ではない何かにより、すべてを知っているのか。潜伏者は、バトンを持っていない方の少女の手をそっと握る。いつか、差し出されても握ることはなかった、華奢な手。潜伏者は少女の手を引くようにして歩き始める。少女とバトンと潜伏者はドアの向こうに消える。それを見送っていた、残されたふたりの潜伏者も姿を消す。音もなくドアが閉まる。

IR3

2014年10月25日 発行 初版

著  者:FJK
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FJK

イメージとノンフィクションが混ざり合う文章を書いています。

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