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C・ディケンズのクリスマス文学の名作“クリスマス・キャロル”をRoadQuが意訳・脚色。2013年のクリスマス公演のオリジナル脚本を再現。

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Road Qu の
クリスマス・キャロル

Road Qu

Road Qu出版



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Road Quのクリスマス・キャロル




Road Quのクリスマス・キャロル

  原作 C・ディケンズ
  意訳・翻案・演出 Road Qu

マーレイの幽霊

 スクルージとマーレイのふたりが興した会社、スクルージ・アンド・マーレイ商会は、共同経営者だったマーレイが亡くなってからも、会社の名はそのままでした。
 そこにある物全てが煤けたように古くて暗い事務所には、今は年老いたスクルージと、ただ一人の従業員しかおりません。
 その町で、スクルージの名を知らぬ者はいませんでした。
 あるいはその強欲さで、
 あるいはそのケチさで、
 あるいはその冷血さで。
 あるいはその疑り深さで
 金の亡者、守銭奴と言う言葉をそのまま表せば、その老人の姿になるに違いない、と町の者は誰一人疑いませんでした。なぜなら、たとえ夏の陽気な太陽の下であっても、スクルージと対面することで誰もが陰気になり、薄ら寒い気持ちになってしまうからでした。
 

 さて、それはクリスマスイブのお話。

 凍てつくような寒さに包まれた町では、そこここで人々の、その真冬の冷たさとは無縁の、暖かな笑い声と、祝福を交わす声、聖歌隊の美しい歌声が聞こえます。
 お互いの幸せを祝う言葉や、新年を迎えるお祝いの言葉が風に乗って町を飾る中で、スクルージだけは、その光景を不愉快さに満ちた苦々しい顔をして事務所の椅子に座っています。
 暖炉の火は今にも消えそうなささやかなもので、手をかざしてもちっとも暖かくなりません。もちろんスクルージにしてみれば、身体が暖かくなるほど薪をくべることは、無駄にお金を燃やしているのと同じですから、これでも火が強すぎるほどです。
 その証拠に、スクルージが雇っているただ一人の従業員、ロバートの側には、手元を照らすための、吐息でも消えてしまいそうに小さな炎しかありません。そのためにロバートは、外の凍てつく街中を歩く時と変わらない格好をしています。そして当然スクルージも同じような格好をしていましたが、スクルージはそれを何とも思っていません。
「メリー・クリスマス、伯父さん」
 事務所の扉が開かれ、スクルージを呼びかける明るい声がしました。スクルージの甥のフレッドが訪ねて来たのです。
「メリー・クリスマスだと? バカバカしい。それだからお前は貧乏なのだよ」
 スクルージは不機嫌にそう言いました。
「それじゃあ、僕よりもずっとたくさんお金を持っている伯父さんが、クリスマスをお祝いしないのは何故なんですか? しかめ面をしている理由がわからない」
 フレッドのその言葉は、皮肉でもなんでもなく、素直な問いかけでした。
「わしこそお前達みたいに、この年の瀬に金の支払いもろくに出来ないのが、へらへらとお祝いしている理由がわからん。お祝いする金があるなら、わしらへの支払いを先にするべきじゃないか」
 スクルージの言葉に、フレッドは目を丸くし、そして穏やかに言い返しました。
「伯父さん、世の中には、お金が全てじゃないと思っている人も沢山いるんですよ。それにクリスマスは、どんな人も、どんな人にも等しく優しくなれる唯一の時期じゃありませんか。そりゃあ、クリスマスは僕のポケットにお金を入れてはくれないけれど、お金では買えないものを与えてくれたし、これからも与えてくれると僕は信じているのです。だから僕はクリスマスをお祝いするんです」
 脇で聞いていたロバートが帳簿を書く手を止めてその言葉に聞き入り、大きく頷きましたが、スクルージと目が合ってしまい、慌てて帳簿をバラバラとめくりました。
「他人の話を盗み聞く時間に払う給料は一文もないぞ」スクルージはロバートにそう言ってから、フレッドを見て言いました。
「何を偉そうに」
 フレッドは微笑み返しました。
「そう怒らないで下さい。伯父さん、今晩は僕の家で一緒に夕食を食べましょうよ」
「一緒にだと? そんな事真っ平だ。要らん」
「なぜです? 伯父さんは僕が結婚してから、いや、結婚する前だって一度もお家に来て下さらない」
「さあ何故かな。用が無いのなら、さっさと帰れ」
 スクルージは、フレッドを半ば無理矢理に追い出しました。
 追い出されたフレッドは、表の窓越しにロバートと挨拶を交わして去って行きました。
「ここにもおめでたい奴がいる。うんざりだ」 フレッドと丁寧に挨拶を交わしたロバートに、スクルージが言いました。
 その時、フレッドと入れ違いに、仕立ての良い服を着た男が、事務所に現れました。
「スクルージ・アンド・マーレイ商会でございますね?」
 丁寧に挨拶をするその男の、上から下まで舐めるように見たスクルージは、不機嫌な表情を露にして言いました。
「一体、何の御用ですかな?」
「私は、このクリスマスの良き日に、皆様の慈悲と厚意に溢れた施しを募っておるのです。この凍てつくような厳しい冬にも、住まいも衣服も、食事すらろくに食べられない貧しい人々がおります。その人達のために、幾ばくかの寄付をお願いに参ったのでございます」
「そう言う人達のための、施設は無くなったのかね?」
「もちろんございますよ。救貧院も、教会の炊き出しも行われております」
「それは結構」
「それでは、ご寄付はおいくらと致しましょうか? お名前は?」
 男は懐から帳簿を取り出して尋ねました。
「それは無用」
「無記名で、と仰るのですか?」名前を書き込もうとする手を止めて、男は尋ねました。
「いや、そうじゃない。わしからの寄付は無用だと言いたいのだ。施設がちゃんとあるなら、わしが汗水たらして儲けたお金から支払った税金が使われているはずだ。それ以上何が要ると言うんだ?」
「ですが、その施設へ行く事すら出来ない、それこそ今日明日を生きられない人も沢山いるのです。その人達のために私達が寄付を募っているのですよ」
「貧しい者がそうなったのは、そいつらがやって来た行いの結果じゃないか。そんな事はわしの知った事ではない。生きられないなら死ねばいい。むしろそういう者はどんどんいなくなってくれた方が清々する。それでも施しがしたければ、今貴方が着ている立派な服を売るんですな」
 スクルージはそう言って、男を追い返しました。
 その後もスクルージは、事務所の前の道路に立って賛美歌を歌おうとした人達を追い散らしました。
 やがて日が暮れ、事務所を閉める時間になり、スクルージはロバートに言いました。
「明日は一日休むのかね?」
「ご都合がよろしければ」ロバートはそう答えました。
「都合? 良くないさ。そのためにわしは、お前の一日分の給料を無駄に支払うんだからな。それでもお前は丸一日休むんだろう? せめて明後日は早く出て来て欲しいもんだよ」
 スクルージはぶつぶつ文句を言いながら事務所を出て行きました。

 スクルージは帰り道に、到底流行っているとは思えない寂れた居酒屋で一人食事をすると、マーレイが住んでいた部屋に帰りました。スクルージが暮らしていた部屋は、事務所として貸し出しているので、今はそこを自分の部屋にしているのです。
 マーレイはスクルージと共に会社を興した共同経営者であり、唯一の友達でした。マーレイが死ぬまでそうあり続けたのは、スクルージと同じような考え方をしていたからでした。マーレイの葬儀に参列したのは、スクルージだけだったのです。
 マーレイの暗い部屋で、スクルージはパジャマに着替え、ベッドに座りました。
 その時です。
 部屋の扉に、マーレイの顔が浮かんでいるのが見えました。
 スクルージは、ぎょっとして廻りを見て回り、もう一度扉を見ました。
 そこにはやはりマーレイの顔があって、スクルージを見下ろしています。
 さっき居酒屋で飲んだ安酒に酔ってしまったのかと、スクルージが思った時です。
「それは違う、あの安酒のせいじゃない」
 と、扉のマーレイの顔が言い、ゆっくりと進み出ました。
「マーレイ、お前はもう七年も前に死んでいるんだぞ」
 かろうじてそう尋ねたスクルージに、半透明のマーレイは頷きました。
「そう、だから今はマーレイの幽霊だよ、スクルージ」
 マーレイはそう言って、スクルージに顔を近づけて続けました。
「いいかスクルージ、この姿を見ろ」
 マーレイは自分を指差しました。その身体は大きく重そうな鎖でがんじがらめに縛られています。
「この鎖は私が生きている間、溜め込むだけ溜め込んだものだよ。金、証券、権利書、生きている間はこれこそが私の人生全てだったが、今はそれが断ち切れない重い鎖となって私を縛り、私はどこへも逝けずさまよっているのだ。いいかスクルージ、よく聞け。お前の鎖は私の何倍もあるぞ」
 そう言うマーレイに、スクルージは言いました。
「死んでも財産を持って歩けるのなら本望じゃないのかね?」
 マーレイは首を横に振り、スクルージの側から離れました。
「スクルージ、今夜、君を三人の霊が訪ねる。これは君が救われる最後の機会だ。考えを改めろ。死んでからでは遅い」
 マーレイはそう言うと、スクルージの部屋から消えました。
「バカバカしい。悪酔いにも程がある」
 スクルージは吐き捨てるように言うと、ベッドに潜り込みました。

過去のクリスマスの霊

 時計の鐘が鳴り、スクルージは驚いて飛び起きました。
 そして、目の前に誰かが立っているのを見て、二度驚きました。
 それは人の姿をしています。しかし、男か女か、子供なのか年寄りなのかも判りません。なぜなら、スクルージの見ている前で、その印象がコロコロと変わるのです。それは白く輝く服を着て、ロウソクの炎を消すための火消しを大きくしたような帽子を持っています。
 これが夢でマーレイが言っていた霊の一人なのか、とスクルージが思った時です。
「さよう、私は過去のクリスマスの精霊だ。ついでに言っておくが、夢ではないぞ」
 と、その精霊は答えました。その声は、穏やかで優しく、しかし性別も歳も判らない声でした。
「その、過去のクリスマスの精霊様が、わしに何の御用ですか?」
 スクルージはしわがれた声で尋ねました。
「お前を救うためだよ」
 精霊のその言葉に、スクルージはうんざりしたように首を横に振りました。
「わしを救うために来たのなら、それは無用です。放っておいて下さればわしはぐっすりと眠れます。それこそが今の私の求めている救いです」
 スクルージはそう言って、ベッドに横になろうとしました。ところが彼は精霊に腕を掴まれ、引っぱり起こされました。
「さあ行くよ。一緒においで」
 精霊のその優しく穏やかな声とは裏腹に、スクルージの腕を引く力はとても強く、スクルージは引きずられるように、精霊の後に続きます。
 精霊はそのままスクルージを引きずって、壁に向かって行きます。
「待ってくれ! そっちは壁だ」
 スクルージが叫びましたが、彼と精霊は壁にぶつかる事無く、そのままするりと突き抜けました。

 その途端、スクルージは日の光を見ました。
 眩しさに目を細め、明るさに目が慣れたところで、廻りを見回したスクルージは目を見開きました。
 そこはスクルージが住んでいる街中ではありません。晴れ上がった空と、一面に雪が積もった一本の田舎道でした。半ば呆然と廻りを見回していたスクルージの目が輝きました。
「わしはここを知っているぞ!」
 スクルージは叫びました。
「わしはここで生まれ育ったんだ」
 事務所では絶対に聞く事がない、浮かれたような声で、スクルージは言いました。
「憶えていたようだね」
「忘れるものか」
 精霊の言葉に、スクルージはそう答えました。
 沸き上がる記憶に夢中になっているスクルージの腕を、精霊は再び引いて歩き出しました。
 やがてスクルージと精霊は、小さな田舎町に着きました。どこからか、子供達がはしゃぐ声が聞こえて来ます。
 角から現れたふたりの子供が、笑い声を上げながら、追いかけっこでもするようにスクルージの脇を通り抜けて行きました。
 スクルージは思わず振り返って、そのふたりの子供を名を呼びました。しかし、子供達はそのまま駈けて行ってしまいました。
「彼等からは君も私も見えないよ」精霊はそう言いました。
 精霊はスクルージを引っ張って、通りの角を曲がりました。スクルージはその先に何があるのかを知っていました。
 そこは、スクルージが通っていた小さな学校でした。
 ふたりは扉をくぐり抜けて、暗い廊下を進み、がらんとした教室に入りました。
「まだ子供がいるよ。独りぼっちで残っているね」
 教室の机の前で、一人で本を読んでいる子供がいます。
「あれは、わしだ」
 遠くから聞こえる、子供達のはしゃぎ声とは無縁の孤独な自分に、スクルージは湿った声で呟きました。
「さあ、次のクリスマスを見よう」
 精霊は微笑むと、スクルージの手を取りました。
 その途端に子供のスクルージが大きくなりました。
 しかし、大きくなってもスクルージは、独りぼっちな事に変わりはありませんでした。
 それを見ているスクルージは溜息を漏らしました。
 その時です。

「兄さん、兄さん!」と、呼びかける声が下かと思うと、スクルージ少年よりもずっと年下の女の子が飛び込んで来ました。
「お迎えに来たわよ。一緒に家へ行きましょう!」
 嬉しそうに笑いながら女の子が、少年の手を引っ張りました。
「この娘は、ずっと身体が弱かったが、とても良い心を持っていたね」
 精霊がそう言うと、スクルージは頷きました。
「大きくなって、子供を作って、死んでしまった。子供の名を知っているかね?」
 精霊はそう問いました。
「知っています。フレッドですよ」
「そう、お前の甥だよ」
 スクルージが物思いに耽りながら答えると精霊は頷き、その途端に風景が変わりました。
 そこは、今まで見ていた田舎ではなく、都会の大通りでした。大勢の人々が忙しそうに行き来しています。通りに面した店の玄関やショーウインドウが、華やかなクリスマスの飾り付けで輝いています。
「ここは知っているかい?」
 精霊がとある店の前に立ちました。
「もちろん!」スクルージは興奮した声で答え、店を覗き込みました。
「わしは町に出て来て、最初にここで働いたんだからな」
 店の中では年老いた、しかし活気に満ちた主が、店に居並ぶ少年達にあれこれと指示を出しています。
 店で働く少年の中に、成長したスクルージがいます。
 やがて店は閉められ、そこに勤める大勢の人々が店の主人の元に集まり、にぎやかなパーティーが始まりました。
 店の主人は、雇っている者を分け隔てなく労るので、皆からとても慕われていています。
 スクルージは我を忘れ、そのパーティーに集う人々と、共に働いていた友達の名を呼びながら、目を輝かせて見ていましたが、ふと我に帰り、今まで朗らかだった顔の眉間にしわを寄せ、精霊を見上げました。
「どうかしたのかい?」
 精霊が尋ねました。
「いや、なんでもない」スクルージは短く答えました。
「じゃあ先を急ぐよ。まだ次があるからね」
 精霊はスクルージに言いました。流れるように風景が変わりました。
 街角のベンチに、大人になったスクルージが座っています。少年時代の若く純粋な表情は陰り、その代わりに世間の裏を見る疑り深さと、お金へのどん欲さが現れています。
 ベンチのスクルージの隣には、彼よりも遥かに年下の美しい娘が掛けています。
 彼女の瞳には、涙が光っていました。
「貴方はもう、私の知らない人になってしまったわ」
 彼女のその言葉に、表情をはっとさせたのは、精霊の隣のスクルージでした。
「ベル、君はまたそんなことを言うのか? 僕が何になったって言うんだ?」
 ベンチのスクルージが問いかけました。
「貴方は、お金を稼ぐようになればなるほど、お金に取り憑かれてしまった」
「お金を稼ぐ事が悪いのか? 貧乏な頃は、朝に食べるパンも買えなかったんだぞ」
 ベンチのスクルージは、娘の言っている事が判りません。
「そうね。今はパンに困る事は無いわ。でも、私は貴方を失った気持ちになってしまった」
「ここにいるじゃないか」
 スクルージの言葉に、娘は首を横に振り、立ち上がりました。
「私達ふたりは、貧乏だったけれど、とても幸せだった。けれど今、そこに掛けている方は誰かしら? 私は貴方を、もう見知らぬ他人にしか思えない」
 彼女はそう告げて、スクルージの元を去って行きました。
「何故わしに、こんなものを見せるんだ? もうたくさんだ」
 精霊の隣のスクルージが呻くように言いました。
「いや、あと一つ見せよう」精霊が強引にスクルージの腕を掴んで引っ張りました。
 小さな家の中にふたりは立っています。
 その家の中は、先ほどの娘、ベルを取り囲むようにたくさんの子供達がはしゃいでいます。子供達を幸せそうに見守るベルの元に、彼女の夫が沢山のプレゼントを抱えて帰って来ました。
 子供達が歓声を上げて彼に群がり、プレゼントをもらって、それをベルに見せます。
彼はベルの隣に座って、子供達と一緒になって幸せそうにはしゃいでいます。

 その様子を見ているスクルージに、精霊が囁きました。
「もしかしたら、あそこに座っているのは、お前だったかもしれないね」
 その時彼、ベルの夫が思い出したように言いました。
「ああ、そうだ。今日、珍しい人を見かけたよ。君のよく知っている人だ」
「あら、どなたと?」
「スクルージさんだよ」
「まあ、それは、スクルージさん、お元気でしたか?」
 ベルが問うと、彼は少し考えながら答えました。
「どうかな。事務所は暗くて他に誰もいない様子で、彼だけだったんだ。なんだか、独ぼっちで寂しそうに見えたな」
 スクルージが思わず叫びました。
「もう何も見たくない! わしをここから連れて行け! ここ以外ならどこでも良い!」
「これは過去にあった事だよ。何も変わらないし換える事も出来ない」
 精霊は優しく、しかし有無を言わせぬ力で言いました。
「だから何だと言うんだ!」
 スクルージは精霊につかみかかり、火消しに似た形の帽子を頭からかぶせて引き下ろしました。
 その途端、精霊の姿は消え、スクルージは自分の部屋に立っていました。
 スクルージは、後悔の気持ちが溢れてくる事をどうにも出来ないまま、ベッドに倒れ込みました。

現在のクリスマスの霊

 時計の鐘の音が部屋中に響き、スクルージはまた目を覚ましました。起き上がったスクルージは、身構えるようにして部屋の中を見回しましたが、そこには何もいません。
 時計がコチコチと時を刻む音だけが聞こえます。
 その時、スクルージは赤い光が部屋に射し込んでいる事に気がつきました。それはスクルージが、時計の鐘の音に起こされたときから射し込んでいます。
 扉の隙間から漏れるその光に誘われるように、スクルージは立ち上がるとドアの前に立ちました。
「こちらへおいで」
 スクルージは扉の向こうから聞き慣れない声を聞き、手を扉の把手にかけました。
 扉を開けて、その先に進むと、そこは壁といい天井といい、一面が緑の葉で埋め尽くされていました。
 そして暖かい炎を上げる暖炉と、積み上げられるように置かれた御馳走、それにソファーが置かれています。そして、そのソファーには、微笑みをたたえた巨人がたいまつを持って座っています。
 彼がふたり目の精霊でした。
「さあ、おいで。もっと近くへ」
 精霊は楽しそうに大きな手をひらひらさせて、スクルージを招きました。
 その精霊は、白い毛皮で縁取られた濃い緑色の外套をまとい、つららの付いた柊の冠をかぶっています。
「私は今年のクリスマスの精霊だ」と、そのとても大きな精霊は名乗りました。
 おずおずと見上げるスクルージに、精霊は尋ねました。
「私を見た事が無いのかな?」
 スクルージは頷き、答えました。
「はい、全く」
「そうかい」精霊は、ただそう言うと、着ている外套を指差しました。
「それじゃあ出かけよう。ここに触れてごらん」
 スクルージは言われるままに、精霊の外套に手を触れました。

 その途端、暖炉も御馳走も、部屋一面の葉っぱも、部屋自体も消えてしまい、換わりに町中の通りが広がりました。
 雪が降り積もった道を人々や馬車が通って行きます。日が暮れてもその往来は絶える事無く、町中にある教会には大勢の人達が集まっています。教会の鐘が鳴り、そこに集う年老いた者も若い者も、裕福な者も貧しい者も幸せそうな笑顔を絶やしません。
 クリスマスの精霊は、その人達を祝福するように、持っているたいまつを振り、光の粉を振りかけます。すると、喧嘩をしていた者達も、上機嫌になって仲直りをしたのです。
「さて、次へ行こうかな」
 精霊がそう言うと、スクルージは彼の外套に触れました。
 するとふたりは、ロバートの家の前に立っていました。スクルージはおずおずと窓から家の中をのぞきました。
 そこではロバートの妻、それに息子のピーターと娘のベリンダが食卓を囲んで家族が揃うのを待っていました。そこに上の娘マーサが帰って来て、その後から、ロバートが末っ子のティムを肩車して教会から帰って来ました。
 家の中は途端ににぎやかになり、幸せそうな笑い声が外まで聞こえます。
 見ると、ロバートの家族は皆、古くてあちこちに継ぎをあてた服を着ていました。そして一番小さなティムは杖をつき、不自由な足をかばって歩いています。
 年に一度の御馳走を皆で食べ、楽しそうに話をしているロバート一家を精霊は祝福してたいまつを振りました。光の粉が舞います。
 小さなティムが祈って言いました。
「神よ。我々を祝福し給え――我々総ての人間を」
「メリー・クリスマス!」ロバートの声に、家族皆が続きました。
 スクルージは、ロバートの傍らにいる、見るからにやせ細っているティムの様子が気になりました。
「精霊殿、あの小さなティムは、元気になるのかね?」
 精霊は、スクルージをちらっと見て、答えました。
「私には、空いた椅子と、あの子の杖がしまい込まれているのが見える。今見える未来は、あの子が死ぬということだね」
「そんな」スクルージは声を震わせました。
「まだあんなに小さいじゃないか」
 スクルージがそう呟くと、精霊は言いました。
「そんな事はわしの知った事ではない。生きられないなら死ねばいい。むしろそういう者はどんどんいなくなってくれた方が清々する。と言ってたんじゃないのか?」
「ああ……」スクルージは言葉につまり、これ以上無いほどの後悔の表情を見せて俯きました。
「どんな人間が生きるべきで、どんな人間が死ぬべきか、それをお前は決められるのかい? 天から見ると、この貧しい一家の子供より、地位も名誉もお金もあるお前の方が下らないのかもしれないよ」
 精霊のその言葉に、スクルージは何も言えません。
 その時、祈りの言葉を捧げていたロバートが言いました。
「今日の御馳走を与えてくれたスクルージさんにも、この祝杯を捧げます」
 ロバートの言葉に、彼の妻は真顔になって言いました。
「御馳走を与えてくれたですって? ほんとに大した御馳走だわ。何故あんな奴に祝杯をあげられるの? あれほど憎らしくて、ケチで、冷血な奴に」
 妻の言葉に、ロバートは穏やかに言いました。
「今日はクリスマスだよ。許しておやり」
 ロバートの言葉に妻は、ため息をついて頷きました。
「じゃあ私も祈ります。あの人のためじゃない、貴方のために」
 彼女は無言で祝杯を上げました。
 それから再びロバートの家の中は楽し気な笑い声で賑やかになりました。
 スクルージは、その様を、それから小さなティムをじっと見ていました。
「さあ、もう少し見て回ろうか」
 精霊は、スクルージを促しました。

 ふたりはそれから様々な所の、様々なクリスマスのお祝いを見て回りました。鉱夫達の暮らす町、岬の灯台、暗い海を進む船。どんな所でも、クリスマスを祝う人々がいました。
「はっ! はっ! はっ!」という、心の底から笑っている声が、スクルージの耳に飛び込んで来ました。
 見ると、そこは甥のフレッドの家でした。明るい部屋の中で、フレッドは妻とその姉妹達と楽し気に笑い、その様を精霊が嬉しそうに眺めています。
 フレッドの隣では、とても美しい彼の妻が、まるで小さな娘のように、フレッドと一緒になって笑っています。
「ほんとに?」彼女は笑いながらフレッドに問いました。
「本当だとも。きっと伯父さんは、クリスマスにみんなが辛い事を忘れて笑っている事が、うらやましくてしょうがないのさ。だけどそんな事は言えないから、あのしかめ面で、バカバカしい! って言ってるんだよ」
 フレッドがそう言って、スクルージのしかめ面を真似すると、再び笑い声が溢れました。
「だけどね、僕は、あの人にもいつか判って欲しいんだ。目に見えるものの損得で生きるだけじゃ、心の財産はちっとも増えないってね。だから僕は、毎年毎年、クリスマスに上機嫌で訪ねてやるのさ」
 フレッドはそう言ってグラスを捧げ持ちました。
「じゃあ、乾杯。なんにせよスクルージ伯父さんにも」
 フレッドが言うと、皆は彼に続きました。
「スクルージ伯父さんに! メリークリスマス」
「お気に召さないとは思いますが、伯父さん、クリスマスおめでとうございます」
 スクルージが見ているのを知っているかのように、フレッドはそう締めくくりました。
 やがてフレッド達は、皆で唄ったり、ゲームを始めました。
 その楽し気な様子を、スクルージは楽しんで見ています。まるでフレッド達の中の一人になったかのように、微笑んで見ていました。いつもの彼を知る者がいたら、驚いて気を失うかもしれません。それほどに楽しそうな顔をしていました。
「さあ、次へ行くよ」
 精霊がスクルージに告げました。
「もう行かなければならないのか? わしはもう少し居たいのに」
 スクルージは名残惜しそうに、精霊とともにそこを離れました。
 精霊はスクルージを連れて慌ただしい速さで、色々な所を訪れます。そして、精霊が訪れた所には、必ず幸せが訪れました。
 その精霊の姿が、目に見えて老いてゆくことに、スクルージは気がつきました。
「精霊殿、わしには貴方が会った時よりも年老いて見えるのだが、気のせいですかな?」
「当然だよ。私の命は、クリスマスの今日一日の間だけだからね。真夜中には命が尽きる。もうそろそろだよ」
 驚くスクルージの耳に、どこからか鐘の音が聞こえて来ました。
 その時、精霊のまとっているローブの裾がもぞもぞと動き、奇妙なものがちらりと見えました。
「今動いたのは何です?」
「ああ、これかい?」
 スクルージの問いに、精霊は悲しげに答えると、ローブの裾をまくりました。
「よく見るんだ。スクルージ」
 そこには、精霊にしがみついている男女の幼児がいました。しかしその姿は、ボロ布をまとい、痩せこけた身体に年寄りのような顔をした、大層不気味で恐ろしいものです。
 スクルージはたじろぎながら精霊に問いました。
「これはまさか、精霊殿の子供なのですか?」
「これはね、人が産み出した子供達だよ。男の子は無知と名付けられ、女の子は貧困と名付けられた。いいかい? この双子には気をつけることだ。特に男の子の方には用心するんだよ。この子の額には滅亡と言う言葉が書いてある」
 精霊はスクルージに言いました。
「この双子を見たくないか? 居ない事にしてしまうかい? それとも、お前の目先の事のために目をつぶるかい? そうやって、この子達をもっと悪いものにすればいい。どんな結末がくるか見ていることだ」
 精霊の言葉にスクルージは、震えながら精霊に問いました。
「この子達を救う事は出来ないのですか?」
 精霊はスクルージを見返しました。
「そう言う人達のための、施設は無くなったのかね?」
 精霊は、スクルージの言葉を真似して繰り返しました。
 その時、十二時の鐘が鳴り響き、精霊の姿はこつ然と消えました。

未来のクリスマスの霊

 気がつくとスクルージは、暗い街の広場に立っていました。
 そして、いつの間にか目の前に、廻りの光と言う光を吸い込んでいるような、黒ずくめで背の高いものが立っています。
 未来のクリスマスの精霊です。
「貴方は、この先に起こるクリスマスを見せてくれるのですか?」
 スクルージが、気圧されながら問いましたが、黒い精霊は、何も答えません。ただ、スクルージに片手を差し出し、そのまま前の方を指し示しました。
 スクルージはえも言われぬ恐ろしさに、身がすくみました。
「こちらへ行けと言うのですか」
 スクルージが震えた声で問うと、黒い精霊は何も答えず、足音も立てずに歩き出しました。
 スクルージは何とも言えない不安を感じつつ、その後に続きました。
 街の大通りに出ると、数人の商売仲間が話し込んでいるのが見えました。
「それで? 彼は昨日亡くなったそうですな」
「ああ、誰にもみとられず、一人きりだったようだ」
「どうなるのかね。あの男が溜め込んでいた金は」
「さあね、俺達の所にこない事だけは確かだよ」
「お葬式はどうするんだろうね」
「おいおい、あいつの葬式なんかに誰が行くんだ?」
 その言葉に一同がどっと笑いました。
 スクルージはその会話を盗み聞きして、精霊を見上げて問いました。
「どなたか亡くなったようですね」
 精霊は黙ったまま歩き、暗く狭い路地裏へと入って行きました。
 路地裏には、ひっそりと質屋が立っています。数人の女達が隠れるようにしてそこへ入って行きました。
 質屋の主人は、女達が持ち込んだ、装飾品や文具、毛布などを値踏みしています。
「そろいも揃って、みんなあいつの所からぶんどって来たのかね?」
 主人が問うと、女達は悪びれもせず答えました。
「くたばっちまえば文句も言わないさ、生きてる間に人並みの事をしてればこんな事はしないよ」
 女達はどうやら、昨晩亡くなったという男の所から、物を盗んで来たようでした。
 スクルージは、質屋の主人と女達に、空恐ろしさを感じました。
「精霊殿、わしもいずれこんな人間になってしまうと言うのですか?」
 精霊は答えず、路地を歩きだしました。すれ違うふたり連れの男女の会話が聞こえます。
「彼が死んで、正直助かったよ」
「でも、私達の借金は誰が引き継ぐのかしら」
「大丈夫さ、あいつ以外なら誰でもいいよ」
 ふたりは重荷が解かれたような表情をしていました。
 やがて、歩いていた精霊は立ち止まりました。
 そこはロバートの家でしたが、静まり返っています。かつて小さなティムが座っていた椅子の脇に、小さな祭壇が祀られ、ロバートは涙目でそれを見やっています。彼の廻りには家族が取り囲むように立っています。
「あの子は亡くなったのか」
 スクルージは、胸が痛くなりました。
 そのとき、ロバートは顔を上げて涙を拭うと晴れ晴れとした顔で微笑みました。
「僕は本当に嬉しい」
 取り囲んだ家族は、大きく頷いて彼と抱き合いました。
 その途端、風景がまたも変わりました。彼の目の前に鉄で出来た門が現れました。
 そこは墓地でした。
 精霊はゆっくりと墓地の中を進み、埋葬され、新しい墓石が立てられた墓の前に立ち、それを指し示しました。

 スクルージは沸き上がる不安と恐怖に震えながら、その墓石に彫られた名前を読みました。
「エペネゼア・スクルージ……わしの名だ」
 言葉を失ったスクルージが精霊を見上げると、精霊はスクルージを指差しました。
「そんな」
 途端に精霊の黒い外套が視界一杯に広がったかと思うと、スクルージは闇の中に寝ていました。身体を動かすと、すぐに壁に当たり、身動きができません。
 そこは棺の中でした。
「精霊殿!」真っ暗な中でスクルージは声を限りに叫びました。
「良く解りました! わしにこんな未来は耐えられません! わしは心からクリスマスを祝います! 過去にも現在にも未来にも、心を入れ替えて生きます! 皆様の教えて下さった教訓を忘れません! ですから未来を換える事が出来ると仰ってください!」

スクルージ

 スクルージは悲鳴を上げて起き上がりました。
 そこはベッドの上です。
 スクルージは思わず自分の身体と顔をなで回しました。
 ほっと胸を撫で下ろすと同時に涙がこぼれます。
「おお、三人の精霊殿、マーレイ、ありがとう」
 その時、教会の鐘の音が聞こえてきました。
「おっと、こうしちゃいられん」
 ベッドから飛び出し、慌ただしく服を着替えたスクルージは、窓を開けました。
 晴れ渡った空と、冷たい空気がスクルージを迎えました。
 スクルージは晴れやかな顔で微笑むと、下を見て、そこにいる少年に声をかけました。
「おい、今日は何の日だい?」
「今日? クリスマスに決まってます!」
 少年がそう答えると、スクルージは笑いました。
「そう、クリスマスだとも!」
 スクルージは少年に言いました。
「そうだ! ちょっと一町向こうの鳥屋へ行って、七面鳥を買って来ておくれ」
「ご冗談でしょ!」少年は答えました。
「本気だとも! 店で一番大きいのをここに届けるように伝えておくれ。これはお駄賃だ。店の者を連れて来てくれたらもう一枚やろう」
 スクルージは少年に硬貨を投げました。
 少年は硬貨を受け取ると、鳥屋へ向けて飛んで行きました。
「ロバートに送ってやらなくちゃな。だが誰からかは秘密にしないとな」
 スクルージは楽しそうに笑いました。
 七面鳥が届けられ、それをロバートに送る手配をしたスクルージは、よそ行きの服に着替えて街に出ました。そして、昨日事務所から追い払った男を見つけて呼び止めました。
 そしてスクルージは、男に昨日の非礼を詫びて、耳打ちをしました。
「それは本気ですか!? スクルージさん」
 男は驚いた顔で聞き返しました。
 スクルージは彼の手に小切手を手渡しました。
「今までの分も入っています。どうかお願い致します」
 スクルージはそう言って男と握手をしました。
 それからスクルージは、フレッドの家へと向かいました。
 フレッドの家でスクルージは暖かく迎えられ、共に食事を楽しみました。
 そしてその翌朝早く、スクルージは事務所でロバートを待ち構えました。
 少し遅れて来たロバートをスクルージは、呼び止めました。
「君はどういうつもりでこんな時間に来たのかね?」
「誠に申し訳ありません、遅くなりました」
 ロバートは謝りました。
「確かに遅かった。つくづく思うが、わしはもう耐えられん」
 スクルージはそう言って、ロバートに詰め寄りました。
「そこでだ。わしはお前の給料を上げる事にした」
「どうかそれだけはお許しください。今ここを放り出されたら私達一家は路頭に迷ってしまいます」
 ロバートは震え上がりました。スクルージの言葉をろくに聞かず、首になるのだと思ったのです。
 スクルージは、さらに告げました。
「不満かね? ではもっと上げようじゃないか。家族の助けと小さなティムのためにもな」
「はあ!?」
 幻か幽霊でも見るように、ロバートはスクルージを見返しました。
「クリスマスおめでとう、ロバート」
 これ以上無いほどの上機嫌で笑顔になったスクルージが、ロバートの背中を軽く叩いて祝いました。

 それからスクルージは、ロバートの給料を上げ、日頃から困っている者に手を差し伸べる事を忘れず、毎年クリスマスには沢山の寄付をし、盛大に祝いました。ロバートの息子、小さなティムの第二の父親になり、そして街中で知らぬ者が無いほどに、一番の善人になったのです。

 あるいはその優しさで、
 あるいはその無欲さで、
 あるいはその暖かさで。
 あるいはその慈悲深さで

 神よ。吾々を祝福し給え――吾々総ての人間を!

RoadQuについて

音楽的朗読ユニットRoad Qu (ロード・クゥ)は、朗読と音楽が融合した、
単なる物語の朗読にBGM演奏を加えただけではない、
新しい物語の体験を演出する事を目指したパフォーマンスユニット。
二千十一年結成、二千十五年活動完了。


“RoadQuのクリスマス・キャロル” 初出 2013年12月21日 高松市、珈琲倶楽部 欅

付録

イラスト提供 うなぎねこ工房

ネコの模様の話

ネコの模様の話

初出 2011年11月19日 珈琲倶楽部 欅

ねこの模様の話 作:Road Qu


ねえ、知ってる?
裏道で見かける、ちょっと変な模様のネコ。
うん、あの縞ネコ。なんか顔の縞がずれてて、
お腹の縞模様がぼやけてて、
縞だか斑点だかわからなくなってるネコ。


アレね、生まれてくる前に自分で塗ったんだって。
あのネコだけじゃなくて、生まれてくるネコはみんなそう。


最初にネコの神様に筆と絵の具をもらうの。
白ネコになる子は何もいらないから簡単なんだって。


黒猫はおしゃれさんか、面倒くさがり。
頭から黒い絵の具をかぶっちゃう。だから出来上がりが早いの。
たまに一緒に生まれて来る隣の子のを取っちゃう子もいるんだって。
そしたら黒猫とぶちネコのきょうだいになるの。
片方は絵の具が足りなくて、仕方なくぶちに塗るからなんだって。


白黒のタキシード着てるみたいなかっこいい子は、
こだわり屋さん。だから、奇麗に縁取ってから塗っていくんだって。
つやつやになるように、黒い所を2回塗る子もいるんだって。


あとね、女の子と言えば三毛。あの三色は女の子の特権なの。
三つの色を、同じ割合できれいに揃えるのがステイタスなんだって。
でも、
ごく稀にね、男の子であの色に塗っちゃう子がいるんだけど、
そんな子はとっても珍しいから、生まれていく時に、
幸せを呼ぶ力も持っていくんだって。
いいよねえ。


こだわり屋さんで個性的と言えば、さびネコが一番かも。
だって、知らない人が見ると、
雑巾を絞ったような、
とか
インクをぶっちゃけたような、
とか言って笑うけど。
あの模様、個性的で一度見たら忘れないよね。
なかには芸術的な模様もあったりするし。
あれは自分で考えて描くんだって。


それでね、
一番難しいのは縞ネコやトラネコ。
だって、筆でていねいに塗らないと、奇麗にならないから。
あの縞ネコは、しっぽから塗り始めたそうだよ。
しっぽは簡単でしょ。
でも、簡単すぎてちょっと飽きたから、
今度は顔を描くことにしたの。
だけど顔は、難しいんだって。
途中で筆先から垂れた色があごについたり、右と左で違ったり。
あの子は失敗したり描き直したりしてるうちに、
生まれる時間が来ちゃったの。
だから慌てて背中の模様を描いてたら、
絵の具が乾いてなくて、滲んじゃったんだって。


面白いよね。
今度面白い模様のネコを見かけたら、
その模様、どうやって描いたか
尋ねてみると良いよ。

Road Qu のクリスマス・キャロル

2014年10月30日 発行 初版

著  者:Road Qu
発  行:Road Qu出版

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