spine
jacket

───────────────────────



金沢・鶴来 二〇一三

吉沢良子

Journey on



───────────────────────

一路金沢へ

 4月も半ばを過ぎたというのに、冬に逆戻り。
家出の季節を迎え、今回は金沢行きの飛行機に乗った。
いつもの出勤時間に家を出て、昼前には小松空港に着いた。
白山比咩神社に行くのが目的。
お天気次第で今日行くか明日行くかは様子見。
 
 日も差してきて良い感じと思ったのもつかのま、バスが海沿いの国道を走って行くにつれ雲行きは怪しくなってきた。



 金沢市内に着くころには雨がぽつぽつ降り出した。
チェックインには早いので、すこし歩いて行こうと香林坊でバスを降りた。
けれども降りて数分しないうちに、傘無しでは歩けないほど降って来た。
通りがかりのキャラクターショップのようなお店に飛び込んで傘が無いかと探す。
ビニール傘を買うのは不本意だったのだけrど、こごえる寒さに濡れるわけにもゆかなかった。
傘に書かれたキャラクター、石川テレビのゆるキャラ?その名も「石川さん」。
跳ね上げたような髪型が特徴的。
良く見たら、毛筆の石の字だ。

近江町市場

 チェックインにはまだ早い。けれどもザーザー降りなのでホテルに荷物だけ預けて向いにあったアーケード街になっている近江町市場へ。
まずは自宅へ土産がわりに食材探し。
父と祖母の故郷である新潟県の能生(糸魚川市)から金沢は富山県を挟んで結構距離があるけれど、同じ日本海側で地続きなので、同じような食材が買えると期待していたのだ。

 まずはお魚。めぎすという魚の一夜干し。
安いお魚なのであまり流通にはのらない地元消費される魚。
普通手もかけないので一夜干しにしてるところは少ないそう。
とても油があって焼くといわしに似た匂いがする。
一緒に送るのにおすすめされたのがハチメというお魚。
のどぐろ程ではないけどいいお値段だった。
それからスルメの一夜干し。

 つぎに八百屋さんを探す。
日曜なので半分くらい店は閉まっていたけれど、ひととおり覗いてみて良さげなお店で購入。
山菜には気持ち早かったようだ。
山うどを半箱、山ふき、地元産の筍、加賀きゅうり、金時草、しいたけを注文。
まとめて宅急便で送ってもらう。

 そろそろ私の胃袋にも食べ物を。
金沢カレーを食べてみたかったのだけど、なんとなく躊躇して入れなかった。ラーメンを一杯食べてホテルへ戻る。

金沢21世紀美術館

 一時間ほど休んで体を温めた。
雨も止んだようなので市内観光へ。

 日が暮れる頃行灯の灯る茶屋街を歩こうと、よく調べもせずとりあえず21世紀美術館へ向かった。
丸い円柱のかたちの建物の4か所ある入口を夜遅くまで開放していて市民が自由に出入りし通り抜けできるようになっている。
敷地内には広く見渡せる芝生の原に大きな木や作品が点在している。
おもしろい試みだと思う。
企画展は中央と地下で。
建物全体が死角のないガラス張りなのに、いまひとつそれを生かせてないかな。
立ち入り禁止の部屋が多く、控室として乱雑に使われているのが見えてしまう。
バックヤードも地下に持って行けばこの空間を無駄にせずにすむのに、などと思う。
もったいない。

大きなbeingが居そうな雲が

ひがし茶屋街

 兼六園を散歩するのは翌朝にしよう、とそこからひがし茶屋街を目指した。
金沢は広い街なのに地下鉄がない。そのためバスの路線も多く複雑だ。
結局周遊バスは一方通行で逆回りのバスがなく、路線バスに乗り途中から歩くことに。
観光マップで歩くと想像よりも距離がある。
歩いて歩いてやっとひがし茶屋街に。

 夕暮れにはちょっと早かったものの、お店が皆終いかけていた。
急ぎ足で土産ものなど探し、金箔の蔵を見学。
ここは昼のうちに歩くのが良いのかも。
一軒だけ遅くまで開いている喫茶店を見つけて一休み。

街からまちへ

 橋を挟んで向かいにある主計町へ。
浅野川沿いをぼんぼりにあかりが灯る前、立ち寄るところも無くそのまま駅をめざして歩いた。

 やっとのことで金沢駅に着くと、土産物屋さんも閉まった所だった。
治部煮が食べたいなと思いつつ、飲み屋さんに入る気力がなくうどんを一杯すすって宿へ戻った。
旅に出ても、ガイドブックを見てしまうとあそこもここも、見逃してはならないと言わんばかりに効率的に回ろうと考えてしまう。
特に街ではそういうモードが働いてしまうようだ。

 反省モードでゆっくり風呂に浸かり、明日はいよいよこの旅の目的地へ。

石川線

 ホテルをチェックアウトして金沢駅へ。
今日は晴れて良い天気になった。
百番街でお菓子をみて回る。たくさん買い込んで手荷物と一緒に宅急便で送ってもらう。
身軽になっていざ出発。

 西金沢駅から北陸鉄道石川線に乗り換える。
電車が止まっているのが見えたので小走りであわてて乗り込んだ。
途中自転車ごと乗ってくる人がいた。いろんな所でローカル線に乗ったけれど、これは初めて見た。
のんびりと走ってゆく。窓の外、山裾には竹林が多く見える。
終点の鶴来に到着した。

 ほどなくして来た小さなバスに乗って白山比咩神社へ。

白山比咩神社

 神社は白山のふもとにあるのかと思いきや、岐阜と石川の県境にある白山はまだまだ奥深く。
鶴来という町は手取川が海へ向けて流れる裾野にひろがる扇状地のいわば要の部分にあたる。
神社は小高い山の中腹のようなところにあり、杉並木の苔むした表参道を上ってゆく。
周辺ののどかな風景からすると意外なくらい立派なお社がそこにあった。
ここは加賀一宮だそうだ。
奥宮は白山にあるのだが、遥拝所がここにはある。
ともに参拝してお札をいただいてきた。

古の要所

 参道入り口にある「おはぎ屋」さんでお昼を食べる事にした。
十割そばと笹寿司。
能生や妙高にも形は違うが笹寿司があるので、そんなことをお話ししたら、店主から興味深いお話をたくさん伺った。
能生にも白山神社あり一度訪ねたことがあるのだが、ここ白山比咩神社と関係があったらしい。
この神社は神仏習合の神社であること。それ故失われた昔のままのまつりの形が能生には残っているようだとも聞いた。
加賀は平家の落人がたどり着いたことでこの辺は赤い幟なのだそうだ。
ここ一帯がその昔は要所だったということ、歴史や政治の流れ、そして十一面観音について、、、
 糸魚川周辺はJR東日本と西日本の境目なのだが文化圏としては西を向いている。言葉もそうだし、京都-福井あるいは加賀-経由で北へと人や物資が流れていたようすが想像できる。

 またバスで途中まで戻るつもりだったが、鶴来駅まで歩ける距離だと聞いてそうすることにした。
参道の左手の坂を上るとほどなくしてバイパスに出た。
金釼宮は左だが、山手の斜面にゴンドラが見えた。
あれが獅子吼スカイか。良いお天気だし、乗らない手はない。
もしや山の上まで行けば白山の姿が見えるのではないだろうか。

紅葉の新緑

白山は何処に

 ゴンドラの頂上駅に着くとぽつぽつ遊びに来ている人がいた。
風もありパラグライダー日和。心地良さそうに空遊していた。
遠く小松方面への山並みと、眼下に広がる扇状地、その向こうに浮かぶ雲と空と日本海。

 白山はどちらの方角ですかと売店で尋ねると、出て来て案内してくれた。
「ここからは近すぎて(手前の山に遮られて)白山は見えないんですよ。」と。
手取川は白山を源とする川。その源流を想像してみる。
近すぎてと言われたけれど、その頂は遠く遠く感じる。
片道5時間、登るのは容易では無いらしい。
行ってみたいと思う反面、生半可に立ち入ってはいけないのだろうという思いも。

ある春の日

しばらくのんびり空を眺めた後、山を下りてまたバイパスへ出た。
金釼宮までの道のりは思ったより遠かったけれど、道ばたには野の花が咲き、歩くうちになんだか楽しくなってきた。
そう、こんな一日が今の私には必要だったのだ。

 金釼宮で参拝し、ご朱印をいただいた。
そこから下校途中の小学生がいたずらしながら下りて行った地下道のような階段を私も行ってみることにした。
とりあえず駅に向かうには下って右方向だ。
しばらく歩くと駅前の大通りに出た。
けれども駅の入り口がまだ見えない。
距離感がわからなかったので小学生に追いつくと道を尋ねた。
もうしばらく歩くらしい。




 鶴来から西金沢へ戻り、今度は小松を目指す。
後は白山を眺めて、それから温泉に入りたいなと。
残念ながら加賀温泉郷まで足を延ばす時間はなかったので、
空港近くのホテルでお湯に浸かり、夕暮れに霞む白山を眺めた。

白山

金沢・鶴来 二〇一三

2015年1月24日 発行 初版

著  者:吉沢良子
発  行:Journey on

bb_B_00131565
bcck: http://bccks.jp/bcck/00131565/info
user: http://bccks.jp/user/126923
format:#002t

Powered by BCCKS

株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp

jacket