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── 電子雑誌なんか簡単だ!

第1回電子雑誌サミットレポート

仲俣暁生・古田靖・堀田純司・鷹野凌

日本独立作家同盟

電子雑誌なんか簡単だ!── 第1回電子雑誌サミットレポート

 2014年1222日にトークライブハウス高円寺パンディットで、「第1回電子雑誌サミット」が行われました。司会は『マガジン航』の仲俣暁生さん、登壇者は『AiR』の堀田純司さん、『トルタル』の古田靖さん、そして私、『月刊群雛』の鷹野凌です。

「雜誌をつくる」ことは、バンドを組むことや劇団をはじめることによく似てる。思い立ったら仲間を集め、コンセプトを決めたら、あとはパソコンとインターネットがあれば「雑誌」はすぐにできてしまう。そんな「インディペンデント電子雑誌」のさきがけである「AiR」「トルタル」「群雛」の発行人が高円寺に集結。創刊のいきさつから具体的な制作手法、プロモーションの仕方から気になる売れ行きまで、とことん話します。
『第1回電子雑誌サミット〜雑誌はすでに再起動(リブート)している』 Facebookイベントより
https://www.facebook.com/events/1537667876490058/


 このような呼びかけで、参加者の募集を開始したのが1128日。電子雑誌というテーマで、しかも年末の忙しい時期に、果たして人が集まるのだろうか? という危惧もあったのですが、おかげさまでなんと48時間で50名の枠が完売、当日は立ち見も出るほどの大盛況でした。

それぞれどんな雑誌?

 仲俣さんの『マガジン航』は、2009年10月創刊。発行元はボイジャーで、ウェブマガジンです。「本と出版の未来」を考えるためのメディアとして、電子書籍をはじめ、本や出版に起きている新たな動きを取材し、討議し、その結果やプロセス、問いかけを発信してきました。たくさんの書き手が参加している、オンラインコミュニティでもあります。私も何度か寄稿しています。
http://www.dotbook.jp/magazine-k/

 堀田さんの『AiR』は、2010年7月の創刊。iPadが発表されてから半年後のことです。書き手がいてデザインしてくれる人がいれば、出版社抜きで俺たちだけでも雑誌できるじゃん! という発想からのスタート。堀田さんの呼びかけによって、桜坂洋さん、岡田有花さん、瀬名秀明さん、吉田戦車さん、生協の白石さんなど、かなり著名な方々も参加しています。創刊号は約9000部ほど売れ、原稿用紙100枚の原稿を書いてもらった桜坂洋さんには、レベニューシェアで数十万円レベルのお支払いができたとか。ただし、2014年8月に出した4号目の『Air 4 KDP』は約900部と、号を重ねるごとに漸減しているそうです。
 2010年当時は、著者が出版社抜きで集まって本を出すというだけで、新聞社が取材してくれたりといった話題性があったそうです。要するに、先行者利益です。「最初は一発で逃げ切る予定だったのが、やってみたら面白かったから続けることにしたんです」と堀田さん。ただ、4年で4号。仲俣さんに「どうしてそうなっちゃったの?」とツッコミを入れられ、「(時事ネタを追いかけるなど)ちゃんとやってれば、それなりに稼げてたと思うんです。だけど、そういう週刊誌みたいな世界は、禿げるか、病気になるか、辞めるかになっちゃう。正直、負けてるところだと思ってます」とおっしゃっていました。
http://electricbook.co.jp/

 古田さんの『トルタル』は、2012年4月の創刊。EPUBを無料で配信しています。毎回、動画が入ってるのが一番の特徴です。売上はないので、参加者には誰にもお金は払っていません。「無料で出すメリットは、とにかくたくさんの人の目に触れることなんですよ」と古田さん。
 別冊含め6号の総計は、1万5000ダウンロードを超えているそうです。創刊時にはまだ電子書籍を読んだことがない人ばかりだったので、とにかく慣れてもらえるまでは無料でやろう、端金をレベニューシェアするくらいだったらそんなの捨てちゃって、そのぶん多くの人に知ってもらった方がメリットは大きい、という考え方に基づいています。
 ただ、実はずっと前から、有料化も検討しているそうです。ずっと0円でやってきたので、少し仕掛けを考えてからじゃないとできないなと思っているとか。無料から有料に変えるのは、無限大倍だという古田さんの言葉が非常に印象的でした。
http://kanakanabooks.com/

 『月刊群雛』は、2014年1月の創刊。インディーズ作家のコミュニティ、日本独立作家同盟から生まれた電子雑誌です。オンデマンド印刷版も同時発行しています。実は『トルタル』の無料配布に、強い対抗意識を燃やしていました。あれだけのクオリティの雑誌を無料で配信する先例があったら、後続が有料で売りづらくなってしまう! 参加者にもそれなりに印税配分をしたい! という思いです。それで、1号800円にしたのはいいけど、あまり売れてないのが正直なところだったりします。
http://www.gunsu.jp/

電子雑誌の参入障壁は何か?

 雑誌はコンテンツの束だから、書籍を書くのに比べたら格段に執筆者側の参加ハードルが低いし、依頼する側の編集者としても作りやすいはず。なのに、なぜ電子雑誌はこんなに少ないのか? という思いが、仲俣さんが電子雑誌サミットをやろうと思った理由の一つだったそうです。サミットの中でも、さまざまな要因が挙げられていました。
・電子雑誌の制作は難しいから?
・書き手などが集まらないから?
・バンドルされたコンテンツが好まれなくなっているから?
・手間のわりに儲からないから?
 時系列ではなく、これらの問題点に基づいた「まとめ」という形でレポートさせていただきます。

電子雑誌を作るのは、いまは簡単

 電子雑誌の制作は、難しいのでしょうか?
 『AiR』は当初、App Storeのアプリで配信されていました。出してみようと思い立ったのはいいけど、出す1カ月くらい前に「ビューワってのが要るらしいぞ」ということを知ったそうです。2010年当時はまだ、そんなところに大きなハードルがあったわけです。幸い、著名な作家が執筆陣にいて話題になっているからということで、広告とのバーターでビューワを無料で使わせてもらえることになったとか。
 『トルタル』も創刊時には、参加している人たち自身がまだ電子書籍を読んだことのない人ばかりだったそうです。サンプルを作って渡しても、読み方がわからない。「iBooksで開いてください」と伝えても、意味がわかってもらえない。だったら、とにかく慣れてもらえるまでは無料でやろう、というのが無料配信の経緯だそうです。当時はまだ、EPUB 3がIDPFの公式規格になったばかり。対応しているビューワも少なかったでしょうし、制作ノウハウもほとんどなかったでしょう。
 ところが『月刊群雛』創刊時には、制作ツールは有料・無料を問わず、既によりどりみどりでした。中でもBCCKSは、共有編集や印税配分など、複数のメンバーで雑誌を作るには必要充分な機能が備わっていました。『AiR』や『トルタル』の初期の頃を思うと、『月刊群雛』の制作は格段に簡単になっているように思います。BCCKSの方針が、作ったEPUBをどのように利用しても構わないといった、会員の囲い込みをしないオープン指向だというのも、ありがたいことでした。
 他にも例えば、ブログ感覚で執筆できるパブーや、でんでんコンバーター、Romancerなど、電子書籍が簡単に制作できるツールはいろいろあります。HTMLやCSSを知らなくても、EPUBは作れるのです。
・BCCKS
http://bccks.jp/
・パブー
http://p.booklog.jp/
・でんでんコンバーター
http://conv.denshochan.com/
・Romancer
https://romancer.voyager.co.jp/

「当方編集長、それ以外すべて募集」で構わない

 では、書き手が集まらないからでしょうか?
 堀田さんが『AiR』を始めたときは、iPad発売直後で「誰がどう考えても今やるべきだ」というのが見えていたので、執筆を依頼して断られたことってほとんどなかったそうです。編集者が場を作ってくれるなら、書き手は「乗った!」と思うタイミングだったとか。
 ただ、そういったタイミングの問題だけではなく、紙の雑誌が衰退していく中で、漫画家であれば単行本が出ないとか、小説家であれば短編を書く場がないといった問題は、どんどん顕在化しています。売れる作品と売れない作品の、二極化が進んでいるのです。堀田さんには、これまで紙の雑誌が担ってきた中間層を支える場を、自分で作りたいという思いがあるそうです。そして、そういう作品を発表する場があれば、書きたい人は以前より集めやすくなっているように思います。『月刊群雛』も、参加を早い者勝ちルールにしているせいもあるとは思いますが、募集開始から15分で掲載枠が埋まってしまうような号もありました。

 では、書き手以外の人はどうでしょうか? 古田さんがこんなことを言っていました。
「もし今日、この中で雑誌やりたいと思った人がいるなら、まず『当方編集長、それ以外すべて募集』って言えばいいんですよ」
 これは、バンドブームのころに「当方ボーカル、それ以外すべて募集」なんて冗談みたいな話があった、というところを下敷きとしています。自分がギターやベースを弾けなくても、ドラムを叩いたりキーボードを弾いたりできなくても、それは他の人にやってもらえばいいのです。
 『トルタル』も、創刊号はいろんな人に声をかけたけど、それ以降はFacebook上で勝手に仲良くなって、書いてくれる人、動画を作る人、音楽や映像の素材を提供してくれる人、プログラマなど、自然に集まってくるようになったそうです。どうせ無料なので、実験ラボのような、とくに出版の世界にこれまで関わりがなかったような人が、中にできるだけいるような状況を作ることを意識しているとか。
 『月刊群雛』を始めるとき、私自身に文芸の編集経験はありませんでした。情報誌や業界紙の経験は多少あったので、必要最低限の校正程度で済ませようと思っていました。ところが、校正、校閲、デザインなどを手伝ってくれる方が現れました。そういった方々に支えられてきたおかげで、1年間続けてこられたのです。
 どういうジャンルの、どういう雑誌を作りたいのか、どういう編集方針なのか。それによって、どういう人が集まるのかが決まってくるとは思いますが、まず「やります!」と一歩足を踏み出すことが何より重要なのだと思います。

ジャンルで売る方法もある

 では、バンドルされたコンテンツが好まれなくなっているからでしょうか? 余暇時間の奪い合いという観点からすると、この理由は比較的大きいように思います。
 実際のところ、音楽がアルバム単位から1曲単位でファイル買いになっていったように、ウェブも記事単位で読まれることが多いです。ソーシャルメディアや検索をきっかけにしてサイトを訪れても、その記事と、せいぜいもう1ページくらい読んで離脱してしまう人がほとんどでしょう。スマートフォンが普及してモバイルによるアクセスがどんどん増えているので、今後ますますそういう傾向は強くなるでしょう。
 紙の雑誌が売れなくなっているのは、読みたくもない部分までバンドルされているからだ、と説明されることが多いです。仲俣さん曰く「変な編集されて、読みたくないものまでセットで読まされたくない、という人もいるよね」と。ところが、目次でジャンプできるとはいえランダムアクセスがし辛い電子書籍に比べたら、紙の雑誌はパラパラめくって気になるところだけをつまみ読みしやすいメディアです。つまり、電子雑誌は紙の弱さと電子の弱さを兼ね備えてしまっているから、話題になりづらいのではないかと仲俣さんは考察します。

 コンテンツの売り方には、「タイトルで売る」方法と、「著者で売る」方法があると堀田さんは言います。タイトルで売るのは、キャラクタービジネス。『ONE PIECE』はみんな分かっても、作者の尾田栄一郎さんは知られていない。逆に文芸は、「東野圭吾」という著者名を最初に打ち出すことが多い、と。
 では、タイトルと著者以外に売る方法はないのでしょうか? いま堀田さん自身ができていないやり方として、「ジャンルで売る」方法があるそうです。例えば「新本格ミステリー」とか、太田克史さんの「新伝奇」とか、「新SF」とか。こういったジャンル売りを定着させていくには、例えば『トルタル』は「古田派だ!」というのをもっとを打ち出していく方がいいと思う、と提案します。
 つまり例えば、作品の掲載順には編集者の意図があるわけだから、「読んでもらえれば分かる」という態度ではなく、どういう意図でこの掲載順にしたのか、今後はきちっと読者に伝えていくべきだろう、と。そうすることによって、電子雑誌のようなバンドルされたコンテンツが、もっと世の中に受け入れられていくだろうというのです。
 私はこの話を聞いて、『月刊群雛』2015年01月号に載っている、鈴木みそさんのインタビューを思い出しました。「もっと雑誌に色があってもいい」という話です。

1つの作品を載せるかどうかを選んだ雑誌は、ランダムに選んだ雑誌より編集の個性が反映されるわけで。「これが好き」「これが嫌い」って選んだ上澄みが集まっていくのが、その雑誌の方向性だと思うんです。
『電子書籍で年間1000万円稼げちゃいました ── 漫画家・鈴木みそさんインタビュー(後編)』より
http://www.gunsu.jp/2014/12/GunSu-201501-interview-Miso-Suzuki.html


 例えば、読者アンケートの人気順で掲載順が決まる「ジャンプシステム」は比較的有名ですが、誌面の中でそういう競争原理が働いていることを知らなかったころと、知ったあととでは、読者の心理も変わるでしょう。知ってしまうと、自分の好きな作品をもっと応援しなければ、といった気持ちをより一層かき立てられるようになります。「ジャンプシステム」が良い悪いは別としても、雑誌の編集方針をもっと前面に押し出し、読者に理解してもらうよう努力する必要はあると思います。

儲けることを目的とするなら、他の手段の方がいい

 電子雑誌に参入する人が少ない理由は、手間のわりに儲からないから? 正直、ここが一番大きい気がします。
 『トルタル』は無料です。参加者の誰にも、1円もお金は入ってきません。
 『月刊群雛』は有料ですが、参加者にはレベニューシェアで数百円からせいぜい数千円レベルしかお返しできていません。
 『AiR』はこの中では一番稼げていますが、仲俣さん曰く「数十万円だと、売れない単行本の印税と同じくらい」ですから、ビジネスとして考えたら最低線をクリアできている程度で、世の中にもっと稼ぐことができる方法は他にいろいろあるでしょう。
 ぶっちゃけた話をすれば、例えば『進撃の巨人』みたいなごく一部のメガヒットを除けば、出版ビジネスなんて儲かりません。同じ時間を費やすなら、コンビニでバイトしていた方が稼げる、みたいな笑えない話もあったりします。
 裏を返せば、儲けることを目的としないのであれば、電子雑誌を作るハードルは非常に低くなります。ジンやリトルプレスのような紙の雑誌は、印刷と製本のコストがかかってしまう分、どうしても費用の回収を考えざるを得ません。ところが電子出版なら、そういうリスクは考えなくて済みます。オンデマンド(要求に応じて)で、読者の元へ届けられるのです。

だったら、儲けることを目的としない組織にしてしまおう

 というわけで、この電子雑誌サミットの時に、日本独立作家同盟を特定非営利活動法人(NPO法人)に改組する計画が動いていることを発表しました。どうせ儲からないんだったら、儲けることを目的としなければいい、という発想です。
 既存の商業出版を否定するつもりはありません。ただ、これまで出版産業を支えてきた取次や書店による伝統的な流通システムは、限界が来ています。営利企業は利益を出す必要があるため競争原理が強化された結果、著者が出版企画を持ち込んでも短期間で数千部以上の販売が見込める「売れそう」な本以外は企画段階で没になる傾向が強くなったり、逆に、ある程度安定した売上が見込めるベストセラーの類似書ばかりが次々に出版される傾向が顕著になったりといった状況も散見されます。
 その一方で、商業出版に頼らず、同人誌即売会や同人ショップ、インターネットを利用したセルフパブリッシングなど、「インディーズ出版」と呼ぶべき領域は徐々に拡大しつつあります。誰もがその気になれば、さほどコストをかけずとも出版「もの」になれる時代が到来しました。
 ところがインディーズ出版では、これまで出版社が果たしてきた重要な役割である、企画、編集、校正、校閲、デザインなどといった制作工程が、コストや知識・リソース不足によっておざなりにされがちで、ユーザーからは品質や信頼性に対する不安や不満の声があるのが現状です。マーケティングやプロモーションも、一人でできることには限界があります。著作権など法務面においても、知識不足によるさまざまなリスクを抱えているのが現状です。
 こういった課題解決を目的として、日本独立作家同盟を任意団体として立ち上げたわけですが、このままでは私が倒れた瞬間に活動も終わってしまいます。持続可能性の高い活動とするには、社会的信頼を得やすい法人の形にする方がいい。でも、儲けることが目的ではないので、NPO法人という組織形態を選びました。
 実はNPO法人化というのは、日本独立作家同盟の立ち上げ時や、『月刊群雛』創刊時には、まったく考えていなかったことです。2014年3月に、ウェブマガジンDOTPLACE編集長の内沼晋太郎さんから、こんなことを言われたのがきっかけです。

鷹野さんがやっていることって、公共性が高いと思うんです。少なくとも私的な利益のためにやっているふうには感じない。NPOにして寄付を集めたり、クラウドファンディングで資金調達することもありうるのではと思いました。
『掲載は〝早い者勝ち〟。インディーズ作家たちの雑誌の挑戦 鷹野凌 3/3「書きたい欲求と読まれるかどうかは、全然別のもの。』より
http://dotplace.jp/archives/9466


 この時初めて、そういえばそういう方法もあるな、と気づかされました。そこからNPO法人についていろいろ調べ、どういう形がいいかを考え、あちこち相談し、志を同じくしてくれる仲間を募り、計画を練り、議論を重ね、ようやくそろそろ設立申請ができそうな段階まで辿り着くことができたのです。電子雑誌を作るより、数段大変でした。やっぱり一人でできることにはおのずと限界があって、助けてくれる仲間がいたからこそここまで来られたのだと思います。
 詳細は、近日中に発表します。ご支援のほど、よろしくお願いいたします!

日本独立作家同盟

日本独立作家同盟は、インディーズ出版分野で活動する会員相互の協力により、伝統的手法では出版困難な作品の企画・編集・制作支援などを通じて品質向上を図り、著者の育成と知名度向上・作品の頒布を促進し、読者と著者のコミュニケーションを活性化することで、多種多様な出版文化の振興に貢献します。
http://www.allianceindependentauthors.jp/

電子雑誌なんか簡単だ!── 第1回電子雑誌サミットレポート

2015年1月22日 発行 初版

著  者:仲俣暁生・古田靖・堀田純司・鷹野凌
発  行:日本独立作家同盟

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