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この本はタチヨミ版です。
サイホンがコポコポ鳴っている。
コーヒーのいい香りがしてくる。かぐわしい香りに包まれたときだけ、いっとき、いやな浮世を離れ、夢見心地になる。
立ち上る白い湯気のむこうに、娘が見える。
娘・愛は、俺のことは無視するように、一心にケイタイのメールを打っている。
短いスカートと、歳に似合わない濃い化粧。休みの日なのに制服で出かけようとしている。
「おまえ、最近ちゃんと勉強しているのか」
と聞かずにはいられなかった。
まるで勉強しているようには見えなかったし、成績を苦にしているようにも見えなかったからだ。
前に見せられた成績はひどいものだった。
大学と名のつくところへ願書を出すのさえ、気恥ずかしくなるほど無残なものだった。
「将来のことを考えて、少しは勉強に身を入れたほうがいいぞ」
「将来ったって、何やってもたかが知れてるしね」
「高校生らしい、若者らしい夢はないのか」
「夢?夢って父さんみたいな夢のこと?実現しなきゃ、ただの妄想じゃん。妄想いっぱいの若者って、変態だよ」
娘は鼻で笑った。
確かに俺・松田豊太は、夢を追いかけて、何度も挑戦して、すべて失敗した。
しかし、わかったのは、文学賞なんてのは、はじめからデキレースだったってことだ。作品で選ばれるんじゃない、見た目のいい若い女か、エリートサラリーマンか、出版社子飼いの作家志望に決まってるんだ。その何よりの証拠に、受賞作品はどれも、毒にも薬にもならない出来栄えのうえ、恐ろしいくらいつまらなく、面白いくらい売れてないじゃないか。
思えば、賞をとって賞金を当て、さらにヒットさせて印税も手に入れると公言し続けたのもまずかった。言われるうちに、女房はいくらかアテにし、娘もそれなりに期待したのだろう。
いつまでも実現しないので、失望し、それは俺への侮りに変わった。
その女房・采子が、パートから正社員になりたいと言い出した。
推薦してくれる上司がいるという。
その上司らしい男と采子が買い物をしていたのを見たと、面白半分の忠告めかして、課の女子社員が、よけいなことを教えてくれた。
あげくに、ささいな言い合いのひょうしに、采子の口から離婚話が出た。
家庭は失敗だったと、わかりはじめたのがこのときだ。
采子とは職場結婚だった。
采子は、もう職場は辞めていたのに、夫の俺が出世しないのは、元の同僚に対しても職場全体に対してもひがみになると嘆いたものだ。
笑わせるな、何が職場だ。
三代目と取り巻きだけのためにある、とても会社とはいえないようなしろものじゃないか。
創業者が詐欺まがいの商法で太らせた小さな家具販売会社の身代を、二代目は無為のまま半分にし、三代目は傍観者然と三分の一にした。
このままでは自分の給料さえ危ないと感じた俺は、必死で営業一課をまとめ、みんなの尻を叩いた。俺が死に物狂いで駆けずり回っているとき、課長は何もしなかった。
ようやく経営がどうにか持ち直し、業績が少しだけ上向いたとき、昇進したのは課長のほうだった。
三代目はわざわざやってきて、ヒラのままの俺の前で、部長に昇進する課長を褒めちぎった。課長は、松田くんも課の一員としてよくやってくれましたと、申しわけ程度に俺を褒めた。三代目も、君も一課の一員としてよくやってくれた、ごくろうさん、といい、なぜか二人顔を見合わせて大笑いした。
俺はこれが気にいらなかった。
頭にきた。
俺はその場でつかつかと二人に近づくと、左右の手をそれぞれ三代目と課長の頭にまわし、力を込めていきなり二人の顔を拍子木のように激突させた。
鼻血を出してぶっ倒れた二人の上へ、懐から出した辞表を放り、すぐさま退職金を出せ、でないともう一度やってやるぞと凄んでみせた。
予期せぬテロに、三代目は小便をもらし、課長は涙を流した。
思えばこのとき、俺の中でひとつのタガがはずれ、ある種のやけっぱちな暴力趣味が顔をのぞかせたのだ。受け入れられなかった〝敗者〟は静かに消え行くのみなどと思っていた殊勝な心がけは消し飛んでいた。
これが昨日のこと。
会社のしくみの中では俺は意味をなしていないと悟り、長きに渡ったサラリーマン生活を自ら帳消しにし、人生の中で仕事も失敗だったと痛切に思い知ったときだ。
少なくとも、俺の子供には同じ轍は踏んでもらいたくない。
しかし娘は、
「大学なんかいかなくても、いくらでも暮らしていけるよ」
と開き直った。
「そうでもなかろう。なんだかんだいっても世の中ってやつは学歴社会、階級社会だ。思いがけないところで差別される。給料だって差がでるもんだ」
と言うと、
「その気になれば、お金なんかいくらでも稼げるから心配してない」
と気にもとめない。
「どんなアルバイトでもいいってもんじゃないぞ」
と言って、ハッと思い当たった。
「おまえ、まさか援交なんてやっちゃいまいな」
「友だちの中には、やってるってのもいるよ」
と、事もなげに言う。
「おまえはどうなんだ!」
「それだって、ひとつの仕事なんじゃない」
とはぐらかした。
「大人になれば、いろんな事情があって、止むを得ずそんな仕事をする人もいる。しかし、発育もしていない子供は利用されるだけだ」
「何やったっていいじゃない、その人の自由でしょ。ここは自由な国なんだから」
「履き違えるな!親にめんどうみてもらっているうちは、言うことを聞け!」
「あんたみたいな、失敗だらけのダメダメオヤジに、めんどうみてるなんて言われたくない。あたし、出かける!」
と、出ていこうとした。
「待て!まだ話は終わってない!」
と俺は愛の手をつかんだ。
「はなせ!さわるな、ダメダメオヤジ!」
と、愛はすかさずシャープペンシルを取り出し、なんたることか、短刀のように持って俺を刺そうとした。
「大嫌いだ!かあさんもあたしも、おまえなんか大嫌いだ!消えてなくなれ!」
娘はシャーペンを振り回して暴れた。
俺は普通に育てたはずだ。
やたら教育熱心というほどではないが、格別家庭を顧みないというほうではなかった。運動会にもいって応援したし、家族旅行にもいった。遊園地にもファミレスにも連れて行って、楽しく話して笑ったじゃないか。
しかし、娘の愛は、いつの間にか、見も知らぬバケモノになっていた。
なぜだ、何が悪かったんだ…
たまらず愛の顎にパンチをくらわせた。
娘はスイッチを切られたように倒れてのびた。
つまるところ、家庭は完全に失敗だったという結論を認めた。
女房は別れたがっている、娘は刺そうとするほど俺を嫌っている。
仕事も家庭も、人生の半分以上は失敗だった。
人生で無駄なことなんてない、なんてぬかす奴がいるが、俺がしてきたことは無駄に思えて仕方がない。
全身から力が抜けた。何のために今まで年齢を刻んできたんだろう。
五十五年。思えば楽しいこともあったが、今となってはすべて無意味に見えてくる。
ともかく、俺の人生は、一応ここで終わったと感じた。
仕事はやめた。家庭もやめるしかあるまい。
采子が欲しがっていた離婚届を出し、ハンコを押しておいた。
ローンの終わっている小さな家も貯金もすべて采子と愛にやることにし、家にあった現金二十万円だけを持って、終の棲家だと思っていた家を後にした。
もう、家に戻ることはない。もはや誰のためにも何のためにも何もしたくない。これからは余生だ。時が過ぎて寿命が尽きるのを待って、ひとり便々と暮らすだけでいい。
「しばらくだけど、どうしてる?」
声が聞きたくなって、おふくろにケイタイで電話した。
「ひさしぶりだねえ、おまえ、元気にしてるかい?」
おふくろの嬉しそうな声が聞こえた。
おふくろはいつだって俺の電話を待っている。おふくろはいつでも俺を励ましてくれ、何があっても元気づけてくれる、世界でただ一人の応援団だ。
「そろそろ定年が近いんじゃないのかい?」
「まあね、いま次の仕事を探してるんだ」
「みんな元気にしてるかい?会いたいねえ」
みんなとは愛と采子のことだ。
「元気だよ、心配するなよ」
と、ほんとうのところは言わずに切った。
さて、この先どうするべきか。
どこへ行くべきか。
あてもなければ義務もない。
さすらいのダメダメオヤジだ。
ともかく二十万円の食費が尽きるまでは生き延びられるだろう。いやさ、二十万円あれば、安い交通機関で、どれくらいの距離まで行けて、何日くらい喰えるものなのだろう。海外へ出たほうがいいのか、物価の安そうな。
などと考え、信号待ちしていると、すぐ前にタクシーが止まって、優雅な影が降り立った。
まさに優雅のひと言につきた。
すらりとした長身、柔らかな身のこなし、さらりとした長い髪、ぱっちりとした大きな目。
群衆の中でもすぐに居場所がわかる、華やかなベールに包まれているような美女だった。
俺はこの人に、口もとのホクロに見覚えがあった。
通勤の途中に、行きだか帰りだかに何度か目にしていた。思わず見とれ、ついつい目でその行く先を追ったものだった。
俺はてっきり、海外で活躍するモデルか、テレビなどの低級な媒体には姿を出さないタレントだろうと思っていた。それほど異質で、一般人とかけ離れた気品とオーラに満ちていたのだ。
彼女はすたすたと歩き、商店街に沿ってゆく。買い物だろうか。
俺はふと、彼女の後をつけてみようと思いたった。
いまの俺には目的も義務も使命もない。未来には何ひとつ予定もなく、誰への気がねもいらない。何をしようと、誰ひとり気にとめるものもいないだろう。
べつにストーカーになろうなんて大それたことを考えてはいない。彼女はくたびれたオヤジとはレベルが違いすぎる。
ほんの好奇心。憧れのタレントの気弱な追っかけのていど。美しいものを遠くから見守るだけだ。一度終わっているオマケの人生、迷惑さえかけなけりゃ、何をしでかしたっていいじゃないか。
はじめ彼女は商店街のブティックに入った。
ここでは名だたる高級品を扱っている。美女は安い店には入らないものなのだろう。そういえば、今彼女が身につけているものも、地味ながら高級感があふれ、さりげなくプロポーションを際立たせている。
なじみの店に何か予約したらしい彼女は、さらに歩いて靴店に入った。ここは手作りの高級品で有名らしいところだ。彼女はさらに歩き続け、俺は遠くから見守り続ける。途中何人かの男が振り返って彼女を見た。
彼女を追っていく俺は、いつの間にか妙な裏通りに来ていることに気づいた。
このあたりはいわくつきの一角で、とりあえずまじめで、職場と家庭を往復していた俺などは、つとめて近づかないようにしていた界隈だ。
と、彼女は、そのとあるビルの裏口らしいところから入っていったでないか。
まさかと思った。
あのひとに限ってそんなことはないだろう。
なにかの間違いだろうと思って、表通りへ出てみると、はたせるかな、そこには派手な風俗店の看板が林立していた。
遊郭街だった。
どうするべきか、俺はしばらく考えた。
彼女はこの中の一つへ入っていったのだ。
二十万あれば、さすがになんとかなるだろう。
俺は思い切って、彼女が入った店の正面から入ってみることにした。
最前の愛との言い争いの原因も頭をよぎる。
何より疑念を否定したかった。
よもや彼女はここの従業員ではあるまい。きっと事務係か手伝いか、経営者の娘なのだ。
あんなに気品のある人が〝そうである〟わけはない。よしんば、まかり間違って、そうだったとしても、上客専門の花魁だろう。少なくとも一見さんの前に姿を現わすはずがない。
しかし、
「マキです、よろしく」
と言って出てきたのは、さらに豪華な営業用らしいスーツに着替えてはいるが、まぎれもない彼女だった。
冷や汗が噴き出し、にわかに心臓病になりそうだった。
彼女は、驚き当惑する俺を、慣れた、親しみあふれる態度でリードし、やさしく包み込んだ。
たちまちそのゴージャスなスーツを脱ぎ捨て、目にしみるような小さな下着もさっと取り去ると、惜しげもなく全身をさらした。
裸身の彼女は、大理石の彫刻のようだった。
アンドロイドでも、これほど完璧な美しさを現出できないだろう。彼女に比べると、あくたれ女房の采子などは、石で追い払いたい野良メス犬も同然だ。
頭が真っ白になり、興奮しきって緊張しまくった俺は、我を忘れて、それこそサカリのついた野良オス犬のように夢中で彼女を抱きしめたものだった。
これについて詳しいことは言いたくない。
彼女と俺の、いや、彼女にとっては仕事のひとつにすぎないだろうが、俺にとっては一生大事にしたい俺だけの宝だからだ。
女王のベッドに呼ばれた下男のような気がした。
五十五年生きて、采子と結婚したこと、愛が生まれたことを別にすれば、最良の出来事かもしれないと思った。神は、ダメダメオヤジに最後の晩餐を与えてくれたのかもしれないと感謝した。
彼女は、性格もさっぱりと思い切りがよく、屈託がなかった。
彼女・マキは、やはりこの店のナンバーワンだった。〝太夫〟だったのだ。
彼女を狙ってやって来る客も多かろうと思われたが、主に一人の客の専属のようになっているという。ヒルズに住む青年社長だそうだ。
きょうはその社長が急用ができてキャンセルしたのと、ほかの従業員が風邪や急用で休んでしまったため、俺が、万に一つの僥倖に恵まれたというわけだ。
しかし、興奮からさめた俺は、欲望にまかせたさきほどの自分の行いを棚に上げて、マキに説教めいたことを言わずにはいられなかった。
「きみには女神か女王のような品格がある。もっと自分を高く見積もって、よりふさわしいところへいくべきじゃないのかい。そもそもなぜここへいるんだい?」
「お金が好きだから。うんとお金が欲しいから。手っ取り早く稼いで、ぜいたくがしたいから」
と答えた。
女神にしては下世話な理由だが、女神が言うのであれば、どんなことでもよしとするほかはない。
そんなにお金が好きならばと、俺は、料金十万円にプラスして、さらに気前よく十万円をご祝儀とばかりはずんだ。
マキは大いに喜んで、より恋人なみに親しくしてくれたばかりでなく、あまり他人には教えない、とっておきの秘密を教えると言って、口もとのホクロを指さした。
よく見て、と言う。
思わず吸い寄せられて見入ると、ホクロは一瞬、小さな小さなサソリに姿を変えた。
蠍が彼女の頬を這っていたのだ。
あっと驚いた俺に、マキは笑いながら、じつはホクロではなく、極小の精密なタトゥーなのだとあかした。ちょっとした皮膚の動きでサソリに見えるのだという。これも金のかかるオシャレに違いない。
さらに彼女は、俺の身の上話も聞いてくれたため、受け取ったご祝儀を返すとは言わなかったものの、無一文になった俺を心配してくれ、仕事がないならここで雇ってもらったら、と言ってくれた。現在、送迎車の運転手を募集しているのだという。バーテンさながらのユニホームを着て、ここへ来る客を駅や待ち合わせの場所へ送り迎えする役だ。格別愉快な仕事というわけではないが、宿代とめし代程度は稼げる。
かくて俺は風俗店の運転手になった。八つの徳を忘れた〝忘八〟とやらに近い、遊女屋の下働きってわけだ。
一度終わっているオマケの人生、何になっても誰が気にとめるというのだろう。
「かあさん、元気かい。
俺は前の会社を退職して、別な会社の運転手に就職したよ」
「おや、そうだったの。おまえはよく働くね。身体に気をつけてね。お金は足りているかい?かあさんの年金を分けてやろうか?」
「いや、そんな心配はいらないよ」
おふくろはいつだって俺のことを心配してくれ、俺が聞きたいと思っていることを言ってくれる。
ろくに孝行をしたこともない息子で、誰かからダメダメオヤジと言われる俺に。
専属の客がいるというマキは、それほどひんぱんに店に顔を出すわけではなかったが、以後、俺のことを意識して避けているような気がした。また説教めいたことを言われるのが嫌なのだろう。俺としても、気づいたことは、マキに対する思いは、愛情よりもアイドルに対する憧れに似ているということだった。
そのうち、ついにマキの常連という若社長が昼日中に堂々とやってきた。
いかにも有能そうで、いかにも得体の知れないその小僧は、アウディのスポーツタイプで店の前へ乗りつけた。運転手の俺は、そのスポーツカーを駐車場まで運ぶ役をおおせつかり、さすがにいささか情けないと感じた。
女神は崇めるものだ、占有するとは恐れ多い、などとぶつぶつひとり言を言いながら、触ったこともなかった高級車を恐る恐る駐車場に入れようとしていたとき、その通りを、白い杖をついたひとりの高校生が、ゆっくりと歩いてゆくのを見た。目が不自由らしい。
午後遅く、あきれるほど長時間を費やして、いまいましい用事を終えたらしい若社長のために、今度は車をとりに再び駐車場へいったとき、再びその高校生を見た。
今度は何人かの別の高校生に取り囲まれている。
抵抗できないまま小突き回されているのを見ると、どうやらからかわれているらしい。
続いて、その高校生がポケットから財布を出し、それを小突き回している連中が取り上げたのを見て、ゆすられているとわかった。
目の不自由な人間をよってたかって食いものにするとは、許しがたい健常者だ。
「何をしているんだ、おまえたち!」
俺はつめよって怒鳴りつけた。
「何だと!おめえにゃ、関係ねえだろう!」
と、ワル高校生たちはチンピラぶって立ちふさがった。
俺はいきなり左右の手で、手前にいた二人の頭をつかみ、三代目と課長のときのように激突させた。
奇襲にあわてふためいたワルガキどもは、財布を放り出して逃げだした。
遠慮する高校生を無理に車に乗せ、無理に聞き出した住所の自宅へ送り届ける。
かなり立派な邸宅だった。父親は文房具会社の社長をしているという。小金もちなのが狙われてゆすられていたわけだ。
出てきた父親にわけを話し、学校に知らせて、やめさせるようにすべきだと忠告したが、父親も困ったように、
「この子が必要ないと申しまして…」
と言う。
なるほど息子・正一も、
「お金で済むことなら、僕はトラブルは好みません」
と言う。
まったく、金持ちというやつにはイライラさせられる。
「そんなザマだから、悪い奴らにつけこまれるんです。すぐに解決できるものをほっておくから、ますます事態が悪くなるんですよ!」
と、俺は怒ってさっさと店へ帰った。
翌日、父親が店まで俺を訪ねてきて、詫びを入れた。
「昨日はああ言ってしまいましたが、せっかくのご好意を踏みつけにしてしまったようで、お詫びの申し上げようもありません」
と平謝りだ。
俺は、もういいと追い帰そうとしたが、
「つきましては…」
俺を見込んでもうひとつ相談があると切り出された。
なんと、高校生・正一の弟・正太のほうも、中学校でイジメに遭っているらしいというのだ。
「ときどき家からお金を持ち出すのは、ゆすりに遭っているからかもしれないんです。このことを学校に聞いても、イジメなどないと、まるでとりあってくれなくて…」
なんとかならないかという話だ。
風俗店の運転手が受ける相談ではないが、誰に言っても親身になってくれず、どうしていいかわからないという頼りない話。
ようするに、こいつも育ちがいいだけのダメダメオヤジだ。
「かあさん、元気か?」
「ああ、元気だよ。おや、おまえも前より元気そうだね」
「ああ、いまちょっと忙しいからかもしれないな。ところで、何か困ったことはない?」
「困ったこと?嬉しいことを言ってくれるのね、困ったときに助けてもらうと嬉しいもんだからね。でも、今は困っていることはないね。おまえも元気でやってるみたいだしねえ」
「かあさんに言われたとおりにやっているから元気なのかな。泣き虫だった小さいころ、よく言われたっけね、腕力より体力より相手を呑む気力だってね。まず気迫、そして高飛車に出ること、何よりも先手必勝。子供のころ小さい奴がデカいのをやりこめるのを見たけど、自分にはできっこないと思っていた。でも、わかったよ。いまごろになってかあさんの忠告に従ってるよ」
タチヨミ版はここまでとなります。
2015年2月13日 発行 初版
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屋根裏文士です。
青森県を舞台にしたホラー、アクション、コメディー、ファンタジーなどを中心に娯楽ものをいろいろ書いてます。
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