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── これは倫理と優しさについての問題です。

優しさの推論

米田淳一

日本独立作家同盟

作品概要

 『別冊群雛』2015年02月号の神楽坂らせん(かぐらざか・らせん)さんの『決めた日』の、「これは本当に問題作です!」というキャッチコピーになるほど、と思ったので、私も自分の創作の中心である『プリンセス・プラスティック』シリーズの舞台で、問題作を狙ってみました。作品世界のなかの時間軸では『プリンセス・プラスティック』の外伝で連載で掲載させてもらった『激闘!宇宙駆逐艦』の後日談として、つながっている話です。
 ほんと、問題であり、問題があり、困ったもんです。

優しさの推論 プリンセス・プラスティック・アディショナル

「2143年も今日から新年度か」
 シファ級女性サイズ女性型時空潮汐力戦艦の母艦〈ちよだ〉で、クルーやシファたちの整備士がそれぞれの仕事を切り上げ、ぞろぞろと食堂に集まってくる。
 艦内の時を告げる点鐘チャイムが鳴ったのだ。昼食の時間である。昔から船の時報は艦橋にある鐘を鳴らして知らせる。それを点鐘という。
 この〈ちよだ〉の艦内食堂には、観葉植物が飾られているだけでなく、一般的な艦艇と同じような隊員が趣味で飾っている模型やイラストのギャラリー、それに加えてグランドピアノまである。ピアノを弾く趣味のある隊員がいて、時々皆でその調べを鑑賞するのだ。そのために定期的に調律師を呼んだりしているほどである。
「さて、新年度最初の昼食はなんだろな」
「ほんと、正義の味方も宮仕え。僕ら連合艦隊隊員も特別職国家公務員だからなあ」
「そして宮仕え仕事で新年度って言ったら、お正月みたいなもんだもんねえ」
「学校の新学期のはじめももいまだに今日、4月1日からだもんなあ」
「そう。気を引き締めて、また1年がんばろう、って節目」
「節目か。そういや学校ガッコの先生、やたら節目って言ってたよなあ」
「でもさ、節目の記念日だらけだと、節だらけで『身』になるとこなくなっちゃうじゃん」
「『身』って言うなよ。竹の節と節の間は『節間』って呼ぶの」
「さすがもと生物部。でもね」
「まあね。たしかに緩急は必要だけどさ」
「さてさて。『整備士の、沖島さんに、昼がきたー』って」
「いくらなんでも古すぎだよ、それ。今は22世紀だぜ」
 みんな、ぞろぞろと食事のトレイを取っていく。
「あ、香椎さん」
 女性士官の香椎2尉が戦闘用レオタードのままでやってくる。相変わらずその長い足が眩しい。
「新年度初めからほんと、忙しくて、もー。こんなんじゃ、全然食べても食べてもおっつかないわ」
「それはいつものことでしょ」
 そう言いながら、厨房から司厨士の矢竹が香椎用の特別のトレイを出す。
「いつ見ても『香椎盛り』はすごいよね」
 皆が思わず、その大きなトレイに山盛りの料理に声を漏らす。
「1食5メガカロリー。正真正銘のメガ盛り。燃費悪いけど、それだけ燃やしてるからねえ。格闘戦と陸戦訓練で」
「燃費リッター100メートルの重戦車か、っつーかんじだし」
「誰が戦車よ!」
 香椎は戯れに怒る。香椎は警務長、この艦の警備担当であるとともに、陸戦のプロであり、体力が生命工学的に増強されているのだ。


※サンプルはここまでです。続いてインタビューをご覧ください。

米田淳一さんへのインタビュー

── まず簡単に自己紹介をお願いします

 YONEDENこと米田淳一(よねた・じゅんいち)です。『月刊群雛』ではいつもお世話になっております。
 SF小説『プリンセス・プラスティック』シリーズで商業デビューしましたが、自ら力量不足を感じ商業ベースを離れ、シリーズ(全14巻)を完結させパブーで発表中。他にも長編短編いろいろとパブーで発表しています。KindleストアやBCCKSでもがんばっていこうと思いつつ、現在事務屋さんも某所でやっております。でも未だに日本推理作家協会にはいますし、また、鉄道模型なんかを作るモデラーなこともしてます。
 ちなみに『プリンセス・プラスティック』がどんなSFかというと、1997年に発表した女性型女性サイズの戦艦シファとミスフィが要人警護の旅をしたり、高機動戦艦として空や宇宙をびゅんびゅん飛び回ったりする話です。というわけで艦船好き女の子好きです。

◆公式サイト:『モデラー推理・SF作家米田淳一の公式サイト・なければ作ればいいじゃん・2nd』
(アメブロはしんどいので更新はお引っ越ししました。もとのアメブロも残しますが)http://hokkyumaker.blogspot.jp/

── この作品を制作したきっかけを教えてください

 作中の22世紀の内閣調査庁・鳴門調査官(女性型女性サイズ戦艦シファのカレシ)は、今の国家公務員Ⅰ種試験よりしんどい「行政官A試験」というのに合格してその職についています。その試験の内容を考えているうちに、季節的な話題と結びついたのと、神楽坂らせんさんの『別冊群雛』の「問題作」に私も挑戦してみようと思ったのです。
 正直、レビュー書きながら、いいなあ、発想が自由で羨ましいなあ、と感じていたので。

── この作品のターゲットはどんな人ですか

 ゲームの「レイトン教授」シリーズみたいなものが好きな人は好きかも。私もああいうの好きなんですよ。ヘタですが……。

── この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか

 1カ月かかりました。筆は速いんですが、その分あとで構築やギミックの検証に時間がかかります……ムズカシイ。実はこういうの自分は苦手なのかも、とまで途中で思いつめました。

── この作品の制作にあたって影響を受けた作家や作品を教えてください

 国家公務員試験問題集の判断推理を元にしています。あと、なつかしのゲームブック。電子書籍という体裁だから、あれを復活させるのもありなんじゃないかなと。電子書籍端末のリンク機能使えば出来そうな。
 直接は『THE IDOLM@STER』(アイドルマスターのアニメ)の第9話「ふたりだから出来ること」のプリン争奪の話もヒントになってます。結構他のアニメでもこういう食べ物争奪のモチーフはあると思いますが、一番これに影響受けました。
 ほんと、食べ物の恨みは恐ろしいですからねえ。

── 注目している作家またはお気に入り作品を教えてください

 いっぱいいすぎて、個別に挙げるのはムズカシイのですが、とくにこの『月刊群雛』で書いてるみなさんには注目してます。いろんな可能性があって面白い。
 あと、「航宙船長まる」の吉村ことり(よしむら・ことり)さんにも注目してます。
 正直、他の方は、私がとくに注目しなくてもふつーに注目されまくってるので無問題だと思います。

── 今後の活動予定や目標を教えてください

 最近、実は『プリンセス・プラスティック』全14話のリメイクがしんどくなってしまって……。デビュー時の編集者だった講談社Kさんの言葉を思い出すと、前に書いていくしかないような気もするんですよね。でも前に進むためにはそこまでの過去を確実にしなくてはならないし。となるとリメイクは避けられないんじゃないかと。
 ほんと、私は電子書籍の時代の変化に乗ってみたり乗ろうとしてはぐれたりだなと思います。
 もっと自由に書いてみたい気もするんですが、正直、自分の書き手としての役割は変わりつつあるんじゃないかとも思って、すごく迷っています。
 同時にもうひとつやっている人生のテーマも、また新しい段階になりつつあるし。
 そこで正直、すごく迷走中です。

── 作品の宣伝はどのような手段を用いていますか

 宣伝活動は、正直今はあまり活発ではないですね。SNSもいろいろやってみて、Facebookページを作ってみたり、でんでんランディングページを作ってみたりしましたが、なかなか効果が芳しくない感じです。あと、Twitterも以前活発にやっていたんですが、今は思い出の向こうに置くことにして、ブログの更新告知を自動で流すばかりです。

── 作品を制作する上で困っていることは何ですか

 迷い、ですね。とくに今、創作の大きな方針ですごく迷っています。
 まあ、今の私はそういう時期なんでしょう。実際の生活には迷いはないんですが、創作、とくに自分自身の創作について迷いまくりです。
 それでも試行錯誤を続けるしかないと思うんですが。

── 最後に、読者へ向けて一言お願いします

 「立派な建築家には不遇の時代が必要」なんだそうです。
 今しんどい人も、暗黒面に落ちないでほしい。不遇な時代こそ、次の時代のための蓄積をする時ですから。
 その蓄積が慢性的に足りない私だからこそ、創作に迷っている今、本当にそう思います。

日本独立作家同盟

 日本独立作家同盟は、インディーズ出版分野で活動する会員相互の協力により、伝統的手法では出版困難な作品の企画・編集・制作支援などを通じて品質向上を図り、著者の育成と知名度向上・作品の頒布を促進し、読者と著者のコミュニケーションを活性化することで、多種多様な出版文化の振興に貢献します。
http://www.allianceindependentauthors.jp/

優しさの推論 ~プリンセス・プラスティック・アディショナル~

2015年3月24日 発行 初版

著  者:米田淳一
発  行:日本独立作家同盟

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