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詩誌街灯 vol.2 2015春

川瀬杏香
花咲風太郎
ハナサキミドリ
北井戸あや子
浩一




街灯詩舎

 目 次


  パネルディスカッション


  ピクニック


  短詩『無題』


  短詩『無題』


  どこかへ


  そこにある町 (北井戸あや子 ~花咲風太郎Remix)


  またゆうぐれがきて


  かのじょ


  冬の空


  万華鏡の憂鬱


  ただの夜


  サバイバー


  繕いもの


  残酷なこと


  愛すべきひとへ


  循環


  駅


  春の日に


  ひとかけら


  桜の花


跋文  花咲風太郎


初出


街灯詩舎既刊

序文に代えて

ねえ、ぼくらの心臓はなんだって
こんなにさびしく鳴るんだろうね
ふたり分に重ねてみても
どうしてかなしく響くのだろうね




   短詩『無題』  北井戸あや子

詩篇

北井戸あや子

  パネルディスカッション



流れるだけのテレビには、全部あるから
目と耳と口と、ああ、あとうるさいくらいの色彩
残り香、残虐に美しすぎて
画面の向こう、パネル一枚、たったそれだけにみんな奪われた
トゥシューズ、まわりつづくピアノ、彼女は遺棄されて今にも冒されていくよ、ほら、ほら
残酷、肌を割って流れ出した
届くのはいつになるのだろう
パネルにはたくさんの目
望まれた釘付け、貪り喰らう目

photo by ハナサキミドリ

  ピクニック




ラムネ菓子を頭の穴に詰め込んで
穴から逃げ出そうと足掻く憂愁に
ヘッドホンで蓋をする
水銀の海を見に行こう
肺まで満ちた多幸感に溺れながら

photo by 北井戸あや子

  短詩『無題』



トランクに
抜け殻の思い出詰めて
海に行く
かなしさだけが
右手に重く

  短詩『無題』



薄い木綿のハンカチはさみ
互いの唇の感触だけを
昼食代わりに食べあう真昼

  どこかへ





走る電車は眠気を乗せて
ガタガタタンタ
寂びれたトタンの酩酊は
朝の日差しに死んでいます
ガタガタタンタ
窓際に身を寄せてみたならば
外はすっかりパノラマ世界
ラジオドラマの情景模型
ああこのまま夢まで運んでいっておくれよ
なんて戯言じゃ
ガタガタタンタ
レールに浮いた赤錆も
かなしいままで笑えない
知らない町でも歩こうかな
コーヒーと紅茶の美味しい
静かなジャズの流れる喫茶店を
そういえば探していたっけ
降りてみよう
可憐な名のついた
次の次の駅で
ガタガタタンタ
僕だけを律儀に降ろす
オレンジの電車
去っていく

  そこにある町 (北井戸あや子 ~花咲風太郎Remix)





紫がかった白い花を
幾つか摘んで
古い白い小舟に乗る
湖へゆっくりと漕ぎ出しながら
誰かに教えてもらった歌を
唇でなぞる
通った道に浮かべるは
細切れにした思い出ばかり
捨てた分だけ
もうすぐの景色を積み込もう
穴のあいたこの舟は
ちょうど湖の真ん中で沈む
誰もいない町を出て
知らぬ誰かに会いに行く
誰もが沈んでいった場所へ
みんなが底にいる湖に
僅かばかりの花を抱いて

詩篇

浩一

  またゆうぐれがきて



またゆうぐれがきて
ぼくらはてんざいする
そしてへんざいする

そこここにともる
いえいえの まどのあかりも

よるになればきえる
ひとびとはねむる
こいびとたちもねむる


こいびとたちのまどから
くらいまどから
たましいが
ひとりでにさまよいでて

ふらふらとそらにのぼり

ほしにちかく
つきのとなりで
おしゃべりをする
ひそひそばなしをする

ひっそりと
むつまじく
いつものように
こいびとたちのめざめるまで・・・・・・

またゆうぐれがきて
ぼくらはてんざいする
そしてへんざいする

photo by ハナサキミドリ

  かのじょ



ふしぜんなくらい明るい
かのじょの笑い声の高さが
かのじょの悲しみの
深さです

だから
夜になると
かのじょは
ベッドのなかで真顔になります

ふたつの瞳は
だれもしらない
湖の
水面をみつめています

ずっと

じっと

うごかない背中で
水面をみつめているのです

  冬の空

冬の空の青さを見あげていると
鼻の先まで
まっ青に染まってしまう

流れるのは
涙ではなくて
少ししょっぱい鼻水

丘のうえにたって
ああこのまま
いつか
いろいろかんちがいしたまま
しんでゆくんだろうなあ
と思う

冬の空の青さを見あげていると
指の先まで
まっ青に染まってしまう

詩篇

川瀬杏香

  万華鏡の憂鬱




憂鬱である。
憂鬱で憂鬱で死んでしまいたい
のではなく、死にたくないから
憂鬱なのである。
初めて見たあの日から、ずっと。
それなのに残酷なもので、この
憂鬱は死ぬまで続き、死んで終
わるのである。
嗚呼、憂鬱である。

photo by 川瀬杏香

  ただの夜




ある夜、わたしは比喩をわすれる。
消灯時間がきても、灯りを消さないでほしいと
願うだけ。
夜はただの夜で、眠るほかに何もありはしない。
何時になればこの身体は、わたしのものになる
のだろう。わたしはこの身体をわたしのものに
して、大切な人たちとの約束を握りしめて歩き
続けてゆきたいのだ。歩き続けてゆく。
ただ、それだけだ。

  サバイバー




どんなにからだが癒えようとも、心は
八分にも満たないまま。
今日も、わたしたちは死にたくないから
生きている。
死にたくないから、生きてゆくのだ。
孤独と不安と憂鬱で満ちた震える魂で
望みかかえて。

  繕いもの




老眼の眼をほそめ、針に糸を通して、彼女が
器用な手つきで繕いものをしている。
ほつれた糸は無いもののように。
ただ、ひたすらに繕ってゆく。
それは家族や社会、そのいちぶとしての一本
の糸である自分、または一枚の布である自分
自身を繕うかのように。ただ、ひたすらに。
ほつれた糸は無いもののように。

  残酷なこと



雛鳥になる前に冷たく凍えてしまった卵を見て、彼女は私に好奇心に満ちた瞳で「剥いてみろ」と言った。彼女の喜ぶ顔が見たくて、ふわふわの雛鳥を埋葬してあげたくて、丁寧に慎重に剥いた卵のなかにはふわふわなどはなく、後悔と嗚咽の込み上げるような姿しかなく彼女はわたしに「残酷な子ね」と吐き捨てた。そのあと二人でお墓をつくり卵を埋めて手を合わせたのだが、いまだに卵の姿がちらついて残酷なわたしを罰するのだ。けれども彼女は「剥いてみろ」と言ったことなど微塵も憶えていないだろう。忘れるということはとても大切なことなのだが、それもそれで残酷なことである。

  愛すべきひとへ



例えば愛されることが
順番制だとしたら
わたしの番は
一億二七〇〇万番目
いつか必ず
いつか必ず
そう信じながら
年老いて
死んでゆくのでしょう
けれどもわたし
本当は
一番が好きなのです
愛すべきひとへ
わたしも大人になって
あなたへの
無償の愛は死にました
弁償してください

詩篇

花咲風太郎

  循環




なにかを見て
なにか言うこと
僕のからだを巡り
そうして出てくるものが
つまり僕という代物で
僕から出てきたものは
だれかのどこかにはいり
叶うことなら
深い深いところにはいり
それがだれかのからだを巡り
あなたという代物がでてくるなら
それが
僕にとっての
あなたであるなら
それはそれはすてきなことで
僕はずっとあなたを見て
なにかを言うだろう
僕はそうして
あなたに
出たり入ったりするだろう

  駅


次の駅で降りよう
いまはここで休もう
次の列車もやり過ごそう
ここにいてもいいでしょう?

だれもいない午後を
架線にとまる鳥たちを
ぼんやりと眺めていよう

目の前に
横たわる
線路は続いてる
その先の曲がり角で
行き先は見えないけれど
線路は続いてるんだって

桜の花が咲いたら
出発しようか

桜の花が散ったら
出発しようか

紫陽花の咲き誇るころ
ここを出ようか

紫陽花の枯れるころ
ここを出ようか

  春の日に

僕ら同じ春の日に

僕ら同じ空の下

僕ら同じ春の陽に向かい顔あげて


それぞれの蕾

柔らかに膨らみ

生暖かい風が撫でてゆけば


春の陽はやさしくて

僕らふらふら揺れながら

生ぬるいあくびを吐くばかり


冷たい夜の来るまでは

ぽかんと何も無い空を

ぽかんと大きな口をあけ

何も無い春の空を

阿呆のように眺めていよう

  ひとかけら



もしかしたら
言葉は音になって
空気中を漂い
あなたの耳から侵入する
かもしれない

もしかしたら
言葉は文字になって
どこかに刻まれ
あなたの目から侵入する
かもしれない

僕は知りたい
あなたに侵入した言葉が
いまどこにいるのか
あなたの形のよいくちびるから漏れる
心地よい囁き
そのひとかけら

あなたのうつくしい指先から
この世界に放たれるその一文字
やさしい筆致
そのひとかけら

僕だけが知っている
そのひとかけら
そのひとかけらに
たしかに僕がいること

僕のひとかけら
そのひとかけらに
いつのまにかあなたがいること

そんな
掌にのるようなちっぽけなこと
それが
僕が生きていること

  桜の花

桜の花を愛でながら

いつかの道を歩きましょ

ひとり日暮れに

しょぼくれて

泣いたあの子はどこいった

あの日あしたの約束を

交わした角を曲がりましょ

あの日転んだ砂利道は

桃色じゅうたん敷きつめた

花びらの道を帰りましょ

きみといっしょに帰りましょ

photo by ハナサキミドリ

跋文  花咲風太郎

街灯詩舎の活動開始から約一年。
『詩誌街灯』創刊準備0号から始まり、川瀬杏香さんの第一詩集のリリース、そしてようやく『詩誌街灯』創刊号2014秋をリリースできました。
決して多くの成果が上がった一年ではありませんでした。
しかしながら何もない場所からスタートした結果としては、とてつもなく大きな成果と感じています。
また昨年末には新しい仲間というかけがえのない成果を得ることもできました。
創刊号に参加した写真のハナサキミドリさん。
Twitterで多くの言葉を表現し続けている北井戸あや子さん。
現在はサービス終了してしまった携帯小説サイト「フォレストノベル」で詩作品を発表していて、新しい場を求めていた浩一さん。

2015年は、私と川瀬杏香さんを合わせ、五人でのスタートとなりました。
ここに集ったメンバーは、みな時流に寄らず個々の表現を貫いています。おそらくは表現だけでなく、世間との折り合いをつけるのも上手くない個の集まりです。
仲間を作り、一緒に何かをしていくことの苦手な人間が奇跡的に集まっているのです。社会との折り合いに苦しみながら、他者との関係を自らの表現によって希求しています。
したがって表現そのものは決して他者を遠ざけるようなものではありません。反対に難解な表現で一般読者を遠ざけてしまっている現代詩と一線を画する詩表現になっていると思います。

新しい街灯詩舎は、2015春号のリリースで始まります。
この街灯の下に偶然通りがかった人、またこの灯りを求めて足を止められた人に、大切な言葉たちが届きますように。

平成二十七年四月十日
 花咲風太郎blog空と雲と詩と~『2015年の街灯詩舎』を加筆訂正

初出

序文に代えて
【短詩 無題】 北井戸あや子 ・・・二〇一四年十二月七日 twitter
詩篇 北井戸あや子
パネルディスカッション ・・・未発表
ピクニック ・・・未発表
短詩 無題 ・・・二〇一四年十二月十八日 twitter
短詩 無題 ・・・二〇一四年十二月十四日 twitter
どこかへ ・・・未発表
そこにある町 (~花咲風太郎Remix) ・・・未発表
詩篇 浩一
またゆうぐれがきて ・・・二〇一四年十月九日 現代詩フォーラム
かのじょ ・・・二〇一四年十一月十三日 現代詩フォーラム
冬の空 ・・・二〇一四年十二月二十六日 現代詩フォーラム
詩篇 川瀬杏香
万華鏡の憂鬱 ・・・二〇一〇年九月二十六日 携帯小説☆フォレストノベル
ただの夜 ・・・二〇一二年八月二十四日 携帯小説☆フォレストノベル
サバイバー ・・・未発表
繕いもの ・・・二〇一三年九月三十日 携帯小説☆フォレストノベル
残酷なこと ・・・二〇一四年三月十一日 現代詩フォーラム(削除)
愛すべきひとへ ・・・二〇一四年八月五日 現代詩フォーラム
詩篇 花咲風太郎
循環 ・・・未発表
駅 ・・・未発表
春の日に ・・・未発表
ひとかけら ・・・二〇一五年二月二十日 現代詩フォーラム
桜の花 ・・・未発表

街灯詩舎既刊

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川瀬杏香
詩集『In The Dark 詩の駅』 BCCKS
詩を愛するひと、絶望と希望の間にあるひと、今を生きるすべてのひとへ。
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『詩誌街灯 創刊準備0号』 街灯詩舎同人誌 BCCKS
或る日、ある時、闇夜に迷う時、傍に在り、灯した明かりは孤独な人のいっときの支えとなり、ひとときの安堵をもたらす光りになれるでしょうか。その時、その心の震えは冷たい空気を伝わり、街灯の明かりを灯し続ける力となります。(跋文より)
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『詩誌街灯 創刊号 2014秋』 街灯詩舎同人誌 BCCKS
愉しい歌も
哀しい歌も
どこかで
希望の灯りとして届くことを願って(跋文より)
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ありがとうございました。

詩誌街灯 vol.2 2015春

2015年4月10日 発行 初版

著  者:川瀬杏香・花咲風太郎・ハナサキミドリ・北井戸あや子・浩一
発  行:街灯詩舎

bb_B_00133274
bcck: http://bccks.jp/bcck/00133274/info
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東京都品川区上大崎 1-5-5 201
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【詩篇】
川瀬杏香
 街灯詩舎同人
 創作詩・自己啓発ブログ:『ちいさなひなた』
 ツイッタ―@chiisanahinata

【詩篇/表紙デザイン/キャラクターデザイン】
花咲風太郎
 街灯詩舎同人
 blog:『空と雲と詩と』

【写真】
ハナサキミドリ
 街灯詩舎同人

【詩篇】
北井戸あや子
 街灯詩舎同人
 ツイッター@kitaido_A

【詩篇】
浩一
 街灯詩舎同人

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