── 未来からの贈り物は、何が望ましいですか
〈既刊小説・再録〉
美樹、和也、男女それぞれの視点で描いた連作形式の小説です。
恋人の和也の母親が乳がんの手術を受けることを知った美樹は、十七年前に亡くなった母のことを思い出す。
病院のディルームで和也の母親を見舞った美樹は、その後の出来事で仕合わせを実感する。
「仕合わせ」という言葉には、運命や巡り合わせという意味があるそうです。日本独自の言葉であり、中国から伝わった言葉の「幸せ」とは意味が異なります。一般的な「幸せ」は良い意味として使われますが、「仕合わせ」は良いこと悪いこと両方を含む言葉らしいですね。
金曜日の夜、恋人の美樹と食事をする予定にしていたのに、彼女に断りの連絡を入れることになった。
病院の駐車場に着いたのは、午後九時過ぎだった。
夜間出入口の扉を開けると、通路の左手に守衛の窓口があった。そこで手続きを済ませ、エレベーターを目指して進んだ。
面会時間は午後八時までなので、人通りはない。節電のため、必要最低限の照明しかない通路は、薄暗かった。
七階でエレベーターを降りるとホールも薄暗く、ひっそりとしていた。左側の壁一面は大きな腰窓になっていて、休憩用の二人掛けソファが窓の下に置かれている。
右側の通路を進んでいくと、蛍光灯が煌々と照り付けるナースステーションがみえた。詰所で看護師に声をかけ、紙袋を渡した。
紙袋には、家に仕舞い込んでいた新装のパジャマ二組とタオル類が入っている。治療方針の変更で、母の入院期間が予定より長引いたので、着替え用として持ってきたものだ。
薄暗い病室の通路に目を向けると、奥のほうで人影がうごめいているのがみえた。芯がぶれているような動きで、ゆら、ゆら、左右に小さく揺れている。
その人影は、ゆっくりとした足取りで近づいて来るのだ。髪は肩のあたりまであり、小柄で細いかたちをしている。近づいてくる人影が、母だと気付くのに時間はかからなかった。
不安を抱えながらの入院生活を送っているせいだろうか、母のうりざね顔は少し痩せて、元気があるようには思えなかった。乳がんの手術を終えてから三日が過ぎていた。
五年後に還暦を迎える母は、背丈がぼくのあごのあたりまでしかない。
「急に用事を言いつけてごめんね」と母は言った。
「うん。着替えのパジャマ、持ってきたから」
「売店で気にいったパジャマがなくて、助かったわ。車で来たんだろ。気をつけて帰らないとね」
母はさびしそうに、ほほ笑んだ。
ぼくは母と別れて、エレベーターホールに向かった。大きな腰窓に近づくと外灯に照らされた駐車場がみえる。
ふと、不安な表情をした母の顔が目に浮かんだ。それは手術の日にみせた母の顔だった。
当日の午後、緑色の手術衣の母は、点滴台を従え手術室に向かった。看護師は母と肩を並べて歩き、その後ろに父とぼくが、そして叔母と弟がその後を追った。
途中で何度も立ち止まった母は、か細い肩で息をとるように上下させた。初めての手術に、不安を隠せなかったようだ。その都度、看護師がそっと肩を抱くようにして寄り添い、歩行を促した。
母は手術室の扉の前でふり返って、心細いほほ笑みを口もとににじませながら、ぼくたち家族に、軽く手をふった。
病院の駐車場で車に乗り込むと、ぼくは美樹に電話をかけた。
四、五回、呼び出し音が耳に響くと、美樹の声が聞こえた。
※サンプルはここまでです。続いてインタビューをご覧ください。
はじめまして、幸田 玲(こうだ・れい)と申します。
自営業の傍ら、小説を書いています。今年の秋から電子書籍の販売を開始して、生業とインディーズ作家の活動で、兼業を目指します。
ボイスドラマにも関心を寄せていますので、公開している掌編小説の中から取り上げた作品を、自ら脚本化し、業界の方の協力でボイスドラマとしてプロデュースしています。
今回『月刊群雛』に掲載した掌編小説『未来からの贈り物』は、5月中にボイスドラマ『未来からの贈り物』として、YouTubeで公開される予定です。
◆寄稿先:『小説家になろう』
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◆Twitter:(@bestplanning)
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◆Google+:
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知人のお見舞いに病院を訪れ、お話を聞いたのがきっかけです。
深みのある小説を描きたいと思っていますので、30代以降の読者様に読んで頂きたいと思っています。ですが、この作品の読者様に高校生の方がいて、
「命の大切さを改めて教えてくれるような、素敵なお話でした」と感想を頂いたときは、とてもうれしくなりました。
ツイッターで、定期的に宣伝しています。
松本清張(まつもと・せいちょう)氏、司馬遼太郎(しば・りょうたろう)氏、山崎豊子(やまざき・とよこ)氏、池波正太郎(いけなみ・しょうたろう)氏、山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)氏、乃南アサ(のなみ・あさ)氏、宮部みゆき(みやべ・みゆき)氏、連城三紀彦(れんじょう・みきひこ)氏、桐野夏生(きりの・なつお)氏、その他の作家で、心躍る作品に注目します。
今年の秋から電子書籍の販売を開始して、インディーズ作家の活動で兼業を目指します。
読者様の心にふれることができるような、物語を描きたいと思っています。
精進していきますので、よろしくお願い致します。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
日本独立作家同盟は、インディーズ出版分野で活動する会員相互の協力により、伝統的手法では出版困難な作品の企画・編集・制作支援などを通じて品質向上を図り、著者の育成と知名度向上・作品の頒布を促進し、読者と著者のコミュニケーションを活性化することで、多種多様な出版文化の振興に貢献します。
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2015年4月23日 発行 初版
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