この本はタチヨミ版です。
その年の夏にアタシはある不思議な少年に出会ったんだよ……。
<新作読み切り・小説>
僕が中学生だった頃、おばあちゃんが体調を崩して入院した。
初めて僕がお婆ちゃんのお見舞いに行ったときのことだった。その時はお母さんも一緒にお見舞いに来ていたんだけど、お母さんが「なにか飲み物買ってくるわね」って病室から出ていったあと、おばあちゃんは突然こんな話をし始めたんだ。
あんな不思議な出来事、忘れたくても忘れられるもんじゃないよ。あんたのお母さんがいると「またそんな変な話をして」って言われるから今話すんだけどね、あれはアタシが高校二年生だった年だから一九八七年の年のことだね。その年の夏にアタシはある不思議な少年に出会ったんだよ……。
ところで誠二や、あんた「タイムスリップ」とかとかいうものを信じているかい?
なんでいきなりそんなことを聞くのかって? そりゃ、あんたも中学生になってそういうオカルトチックなものに興味を持ち始める年頃かなと思ったからだよ。なにかおかしいかい?
というのは冗談で。じつはその時に会った少年というのがその「タイムスリップ」してきた子だったんだよ。
何言ってんだって顔をしているね。まあそうだろう、あんたのお母さんも初めてこの話を聞いた時はあんたと全く同じような顔をしていたよ。
で、その時は夏休みでアタシは文芸部の活動があったから学校に行こうと駅で電車を待っていたんだよ。あんたも知っていると思うけど、アタシが子供の時に住んでいた町ってすんごい田舎町でさ、電車が一時間に一本しか来ないんだよ。で、そんな駅なもんだからアタシ以外に人なんて誰もいないし、電車が来るまで暇だったからホームの端にあったオレンジ色のベンチに座って本を読んでたんだよ。
で、ふと顔を上げた時だったかな、すうっとホームの端に男の子が現れたんだよ。ほんとに自然にさ。
で、その子の格好がぱっと見た感じ高校生っていうのは分かるんだけど、どうもそのあたりじゃ見たことの無い制服だったのさ。で、どうにもその子が何者だったのかが気になったアタシはその子の後ろから声をかけたんだよ。「君、見慣れない制服だけど、どこから来たの?」ってね。
そうしたらその子なんか困ったような顔をしながら「ああ、こんにちは」とだけ返してきたんよ。で、半分ふざけながらアタシが
「いきなりすうって現れたけど、もしかして君、宇宙人ってやつ?」
そう言ったら今度その子アタシの質問を無視して「君、いつからそこにいたの」って聞き返してきたからアタシもどういうことだろうと思って「え?」って言って黙り込んじゃってさ。そうしたらその子も黙り込んじゃうもんだからしばらく静かになっちゃって。で、しょうがなかったからその子が手に持っていた物を指さして無理やり話題を変えたんだよね。
ところでその子が手に持っていたものって何だと思う? スマホだったんだよ。あれ? 案外反応薄いな。まああんたがまだ生まれるか生まれてないかって時期のもんだからね。パッとしないのは当然か。あんたのお母さんにこの話をしたときは丁度スマホが一部で出始めていた時だったから結構いい反応してくれたんだけどねぇ。アタシもその子が持っていたスマホそっくりのスマホが発売された時はとても驚いたよ。
タチヨミ版はここまでとなります。
2015年6月24日 発行 初版
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