この本はタチヨミ版です。
── イークロンとその仲間たちの戦闘の記録。〈連載小説・第2回〉
── 最後のギソウはギソウじゃない。〈連載小説+挿絵・最終回〉
── 儲からないのになぜ続けるの?
〈ゲストコラム〉
ご存知であればありがたいし、そうでないとちょっと寂しいのだが、私はライターとしていくつかの連載を持ち、日々忙しく働かせていただいている。それに加え、個人メディアとして、小寺信良氏とともに『小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」』を毎週金曜に発行している。メルマガとしては、この前身として、2012年から2014年の間、インプレスのメールマガジンプラットフォーム「MAGon」を通じ、『西田宗千佳のRandomTracking』として隔週で発行していた。
正直、昔も今もたいして儲かっているわけではない。労働単価的にいえば、この時間をもっと別のことに使った方がいい。
だがそれでも、当面私はメルマガを止めるつもりはない。赤字にならない限りは。
ライターである私にとってメルマガをやることがどういう意味を持っているのか、そして、今はどんなつもりでやっているのか。そのへんをちょっとまとめてみたいと思っている。まずは、どうしてメルマガを始めることになったのかをお話ししよう。メルマガ発刊当時に考えていたことは、今でも変わっていない。むしろ「その通りだった」と確信は強まっている。
メルマガをやるべきか……と考えはじめたのは、2011年の秋だったと記憶している。2010年以降、電子書籍ビジネスの勃興に関する書籍を複数書いたこともあり、「いかにして自らの原稿を人々に届けるか」という命題を考える機会が多かった。幸運にも、原稿を依頼していただける機会は多かったし、特に連載をもっているメディアとは、非常に良好な関係にあった。(幸せなことに、その点はいまだ変わっていない。)
だが、それでも不満はあった。
記事は、人に求められねば世に出て行かない。紙媒体にしろウェブ媒体にしろ、やはり注目が集まる題材が求められる。また、媒体にはそれぞれ「枠」がある。それぞれ持っている読者が異なっており、それに合わせた、言葉にならないレギュレーションがある。
こうしたことは、取材する側にとっては制約条件のひとつである。取材先によっては、「いつ、どこに掲載されるのか」が明確でない取材には対応してくれない時もあるからだ。また、「いくつかの話題の中の一つ」として扱われることを嫌うところもある。会見などはともかく、単独である程度情報を持つ人を引き出すには、色々と難しさがあるのも事実だ。
しかし本来取材とは、「一本で一つの話題」にすることを前提に組み立てるべきものではない。複数の取材先にあたり、妥当性を確認した上で記事にするのが正道だ。
紙の媒体が強かった時には、そうしたことがそれなりにできていた。掲載の予定がなくても「この媒体で将来的に記事にする」ということを掲げ、取材を重ねて記事を作ることも珍しくなかった。色々言われることも多いが、新聞や雑誌の強みは、そうしたことを許すコスト構造にある。
フリーランスとして仕事をしていると、コスト構造的にも媒体制約的にも、そうした多面的な取材が難しくなる。日常的な取材を積み重ね、それを「多面的なソースの一つ」として価値を組み立てる一助としているが、取材する上での制約をなんとか少なくしたい……、と常々考えていた。
そこで登場したのがメルマガだ。
正直な話をすれば、「マガジン」にすることに興味はなかった。今もあんまりない。しかし、個人が興味深いと思った事項に関する記事をまとめ、定期的に読者に届ける、という媒体には興味があった。ウェブとも書籍とも違う「ミニ電子書籍」という形が存在しうる、と考えていたからだ。
いまでこそ、文字数が数万字以下の「ミニ電子書籍」的なものはたくさんあるが、2011年頃、そうした考え方はまだメジャーとは言いがたかった。電子書籍は「紙とは異なる形」が求められている。当時はそこで、ネットとの親和性や更新の仕組み、映像や音などを組み込んだものの可能性が語られがちだったが、筆者は「それは違う」という結論に達していた。「読む」行為は大きな変化がない。そこでの変化を起こすのは大変だし、そもそも読者が望んだものかもわからない。だが、それを届ける行為は大きく変わりうる。「紙で届けられない本とはなにか」を考えると、「長すぎて出版できない本」か「短すぎて出版できない本」になるのではないか……というのが、筆者のひとつの結論だった。
タチヨミ版はここまでとなります。
2015年7月28日 発行 初版
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