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ゾフィは、このゆゆしき事態に憤る。握った拳をテーブルにぶつけ、一同を睨みつける。
「何としても、ナルトGTの壊滅だけは、阻止せねばならん!」
ただし左手には、丁度程よい温もりを残した焼き芋を手にしている。
「いや、ナルトGTは……」
「煩い!黙れ!」
其処は、エルザ達の宿泊している、そこそこ良い宿だ。
そこそこ……というのは、集落にはそもそも、それほど良い宿はない。特に観光目的ではないこの集落には、尚更のことだった。
ちなみに呵られたのは、ナルトGTの壊滅的危機を呟いた先ほどの農夫である。
集まっているメンバーは、ゾフィを筆頭に、ため息がちなレーラ。エルザに、ヴェルヘルミナである。
「一つの貴重な種が、この世から消えようとしているのだぞ!?我らがアカデミーが、そのような事態に手を拱いているなど、あり得ぬわ!」
更にゾフィは、立ち上がり拳を振り回し、政治家の演説のように力説するのであった。
「ところで、ヴェルヘルミナさん。これほどの結界を展開するのですから、敵は多数ですか?」
「いえ。具体的な数は解りかねますが、レーラ殿もお分かりでしょうが、集落の周囲に騒めく嫌な気配が纏わり付いています。可成りの執着を感じます。初期に放たれた火薬の量はさほどでは無いのですが、気配的な余裕から察するに、恐らく可成りの温存率を感じます」
ゾフィが興奮している間に話を進める、二人であった。
「私が、外へ出て、一度周囲を伺いましょうか?」
エルザはダークエルフの狂戦士である。その戦闘能力は、人間の比では無く、当然エルフの剣士よりも格段に強い。多少だが魔法も使える。
彼女が外周を一回りするということは、一騎当千の活躍が望めるはずだが、レーラは首を振った。状況が本当なら、敵襲が矢張り大がかりすぎる。
「貴女は村長です。御身を大事に願います」
いくら勇敢であったとしても、彼女はなくてはならない人間なのだ。旧知の仲だというのもあり、レーラはより慎重になった。
「ええい、七面倒くさいの。だったら、森中を爆撃してくれるわ」
「止めて下さい。それこそナルトGTも粉々になってしまいますよ?」
「くぅ!イモ質か!味なマネを!」
ゾフィは相当に悔しがるが、そもそも人質、いやイモ質を取られたわけではない。
「ゾフィ様、ノっておられれますね……」
ヴェルヘルミナとレーラにコソコソと話かける。確かに見ていて面白いのだが、レーラとしては頭痛の種である。ほとほと呆れるだけなのだが、彼女の実力は百余年の付き合いであり、信頼はしている。
「エルザさんは、状況が把握出来次第亜人種部隊の指揮及び、殲滅行動の支援をお願いします。ヴェルヘルミナさんには、万事があっては結界が壊れてしまいます。待機を。まずは私とゾフィで、周囲を探索してきます」
レーラが淡々と仕切り始めると、二人は快く頷いてくれる。
いくらエルフの防御魔法とダークエルフの攻撃力が優秀であったとしても、至近距離での大量の火力を受けきることも、受け流すことも出来ない。
すでに、村に広大な結界を張っているヴェルヘルミナが戦闘に加わったとしても、それほど多くの事が出来るわけではない。
ゾフィもレーラも剣士筋ではないが、人間が相手の場合、寧ろ魔法の方が有効なのである。
「では、行こうかの」
一通り状況の整理できたゾフィが腰を上げる。
二人は、村を守っている結界を出ることになるのだが、この時はあえて上空からではなく、結界をすり抜けるようにして表へでるのであった。
結界は、薄ら紫がかっているため、彼女達がそれをすり抜けたことは、誰にも解ることなのだが、すり抜けられることに驚嘆したのは、ヴェルヘルミナだった。
先ほどの農夫も、結界付近まで付き合わされているのだが、彼女達の何がすごいのかが理解出来ない。
「あの人達そんなに凄いのかい?」
と、ヴェルヘルミナの表情を判断基準にするしかない。
「私の張った結界を部分的に解除しながら、再構築しているのです。それを息一つ乱さずとは、流石としか言いようがありません。エルフ族双方合わせても、五指に入るほどです」
「へぇ……」
農夫は説明に驚くばかりだ。
いくら彼が無学でも、エルフが人間よりも遙かに魔法に長けていることくらいは知っている。
その中でも、五本の指に入るとなると、それはほぼ、魔術師の頂点に等しい。
二人は森の中に身を投じる。
一見無防備に見えるが、彼女達は五感に神経を集中させ、周囲に気を配っている。
「まぁ。ちらほらと、視線を感じるのう」
「ですね。彼等からすれば、一見して、集落に結界を張ったのは、私か貴女のように錯覚しているでしょうけど……」
それも狙いの一つだった。村全体に結界を張れるほどの術者など、そういるわけもなく。そんな存在が、集落に三人も居合わせる事など、まずない。
「あとは、魚がえさに食いつくのをまつだけ……といったところかのぅ」
「幸い、エルフもダークエルフも、単独で森に出歩くことは、そう珍しい事でもありませんしね……」
ただ、盗賊に襲われている集落から、態々足を踏み出すという者は、なかなかいないだろう。
特に二人がそれを失念していた訳ではない。アカデミーには、彼女達以外にも腕の立つ人材はそれなりにいる。アカデミーが駆けつけたのだろう事くらいは、彼等も理解しているだろうし、手練れが周囲の探索を行っているだろうことぐらいの認識はしているだろう。
「来ます!」
レーラが気配を察知した瞬間、炸裂するような一発の銃声がすると同時に、複数の弾丸が撃ち込まれる。得物はショットガンのようだ。そう一撃で仕留める必要はないのだ。ダメージを与えてから殺せば良い。彼等の常套手段である。いくら美麗であるエルフ族であったとしても、アカデミーに所属し、しかも外を探索するような人材相手に、確立の低い一発秘中を狙うよりか、徐々に力を削ぐ方がより確実なのだ。
それに、適度な距離を置くことが出来る。ヒットアンドウェイという訳だが、弾丸の到達速度より早く結界を張るレーラには、全く通じない方法だ。
レーラは無造作だったが、彼女達の右側には、複数の鉛玉が空中停止していた。防御魔法が鉛玉の運動エネルギーを吸収しきると、それらは地面に転がり落ちる。防御魔法にも色々な種類はあるが、基本的に周囲に危害が及ぶような魔法をレーラは好まない。
一方ゾフィは、非常にリラックスをした表情をしている。厳密にいうと、警戒していない訳ではないが、それに対する真剣さはない。
「一人というわけでもないようだが……」
ゾフィは、軽く周囲を伺う。
アカデミーに対する警戒網はすでに敷かれているというわけだ。だとしたら、彼等は退散すべきなのに、何故かまだこの集落に執着している。
「貴奴らも、ナルトGT狙いか?」
「まさか。それに『も」とは、なんですか?他に心当たりがあるのですか?」
「何を言うか。里直属の……」
「止めて下さい。話がややこしくなります。種芋でも貰って、育てれば良いでしょう?」
「ぬかせ。七面倒くさい」
「では、サヴァラスティア農園にでも、持って帰れば良いではないですか」
「おお!すれば、食べ放題じゃの!」
それは明暗だと、ゾフィは手堤を打つ。サヴァラスティア農園とは、彼女達のよく立ち寄る農園で、ある意味実家的な場所でもある。
現在諸事情で、農園主はいないのだが、アカデミーが代理管理しており、ストームやフィルにも大いに関係する場所である。
二人は、気配の逃げていった場所へと、無防備のままに歩き始める。それは間違い無く、誘い込まれる儘という感じがしないでもないのだが、盗賊達からしても、アカデミーの職員に居座られては、襲撃もあったものではない。
まずは厄介払いをしようという所なのだろう。それにしても、可成り手慣れているようだ。
「囲まれましたね……」
「うむ……」
勿論そんなことは十分理解した上での前進だ。
そんな彼女達が、足を止めた瞬間だった。
樹木の上から構えられた、ショットガンやら拳銃やらで、一斉攻撃を受ける。
しかし、今度はゾフィが両腕を広げて、周囲に結界を張る。非常に反射率の高いその防御魔法は、あらゆるものを弾き返す。弾けた弾丸が、周囲を激しく傷つけるが、それそのものは彼女の責任ではないし、レーラもそれを咎めはしない。
跳弾の危険性から、彼等が至近距離に詰め寄ってくることも無い。
それに、長時間の猛攻に耐える必要性も加味している。
吸収系の防御魔法は、物質のエネルギーを吸収するまで、エネルギーを放出し続けるため、非常に魔力の消費が激しいのだ。
二人は、メリットデメリットを選択し、使い分けているに過ぎない。
ゾフィが、防御魔法を張っている間に、レーラは弓を構えて、次々に樹上の盗賊を射抜き、落として行く。
彼女の弓が防御魔法を貫けるのは、彼女の高等技術があるからであり、それは集落を出る時に使った結界の部分解除と再構築の応用である。
「一人くらいは生かしておけよ」
「解っています」
エルフは、ダークエルフと違い、戦闘による無駄な死人を出すことを好まないが、全体的な利益のための排除理念は、ダークエルフよりも強い。この場合、盗賊の絶対的殲滅は、それに相当する。規律に対して冷徹なのは、エルフと言えた。
十分ほどが過ぎ、派手に飛び交っていた銃声も収まり、再び森には、静寂が訪れるのだった。
「やれやれ、防御魔法はあまり得意ではないのじゃ、疲れさせるでないわ」
ゾフィはは少々肩が凝ったようで、幾度か首を左右に傾けながら、首の筋肉を解す。
「貴女は、ローブに装飾を施しすぎなのです。杖も重量がありすぎです」
「細かいのう。お主こそ、化粧の一つくらい覚えよ。だからいつまで経ってもストーム殿の側妻にしてもらえんのじゃ」
「ス、ストームさんは関係ありません!それに側妻などと下品な!」
妙に動揺するレーラだった。
ストームはフィルと結婚しているし、一生レインについて行くと決めているレーラにとって、その話題は所謂秘めたる想いなのだ。そもそも人間で百も年下の彼が、そう言う対象になるとは、彼女心も想いも寄らなかった。
兎に角ストームは純情なのだ。その純情さは、妻であるフィルに対してだけでなく、仲間に対しても言えることで、そう言う彼の一面は非常に穏やかで心地よい。フェアを好み、献身的なのである。
「まぁよいわ」
ゾフィは、何気なく歩き出すと思うと、レーラの弓に胸板を打ち抜かれ、俯せに倒れ込んでいる盗賊の一人に近づいた。
「のう。主等少し、火遊びがすぎやせぬか?」
「うぐ!」
彼は痛みで会話もままならないようだ。
「話が違う……じゃ……ねぇか。こんな強えぇなんて、聞いてねぇよ!」
確かに、彼の言うとおり自分達が現れたのが運の尽きだとは思う。自分達が他に奔走していたのなら、彼等の略奪は思いのままだったのだろう。
それに、村にはエルザとヴェルヘルミナもいる。
捕まえた盗賊一人を、集落に連れ帰り、自白をさせたところ、武器の出回りどころは、今一はっきりしないらしい。勿論トップの人間は知っているだろうが、先兵部隊は、矢張り主だったことを理解していない。
強い武器を手に入れ、集落を襲撃し、略奪することだけを考えており、当に組織の末端なのである。
これまでも、何らかの形で、これらの武器の横流しはあった。密造という事も考えられるが、基本的な絶対量と精密性の問題で、一団が武装できるケースは希である。鋳造にしろ削り出しにしろ技術はいるし、問題は弾薬である。
ただ、一つだけ判明したことは、アカデミーの手練れが必ず現れるという伝達が行き渡っていたことだった。
本体の居場所はどこなのか?という事も訊ねたが、彼等は、移動式の武器庫を用意しているようで、正確な位置は解らないらしい。
どうやらトレーラークラスのものが、が保管庫として使われている可能性がある。
特にそれが末恐ろしいとはゾフィも思わなかったが、彼が最期に漏らした言葉が気になる。
「我々には奥の手がある」
確信めいたその一言が、二人には、妙にはっきりと印象づけられていた。
そして、最期とは文字通り最期であり、用が済めば其れまでの事である。特に拷問を用いて、彼を撲殺した訳ではなく、魔法で強制的に彼の情報を引き出したまでだ。
「お主も酷よのう」
ゾフィは、あるがままの人間である。普段様々なモノに執着を見せているようだが、思いの外執着がない。
いや、そうではないのだが、そうではないのだ。
どうとなる事に関しては、無関心とでもいおうか。譬えこの盗賊が何らかの理由で、復讐にこようとも、自分達の身に何ら危険があるわけではない。
「生かしてどうするんですか?」
「まぁ……そうだのぅ」
執着がないからこそ、レーラのそれにも反対する必要もない。理解しうる事と言えば、彼女が自らの保身のためにそうしたわけではないということだ。
確かにその場に自分もいたし、自分の身も危険に晒されたわけだが、彼女の結論はそこにない。如何に対象が自分が大事に思っている人間に、危害を加えようとしたか否かなのである。
レーラは、今後の放心もあり、携帯電話を取る。だが通話が出来ない。完全にジャミングされている。
「ダメですね」
「むぅ。まぁ帰れば良いだけのことなのだがのぅ。しかし、どうやって、こんな広範囲に?」
残念ながら、魔法の気配でもないかぎり、彼女達にそれを理解する術はない。強いて言うなら、オーバーテクノロジーの成せる技なのだ。
しかし、それだけの技術を盗賊風情がどのようにして手に入れたのかが疑問である。
「矢張り、いつものように手早く討伐してしまうに限るかのぅ」
考えても解らないものは解らないのだ。盗賊風情には、精々剣や弓という、原始的な武器が似合っていると思う。この時代、持ち合わせても、数丁の銃やショットガン程度だ。しかも、弾薬の量はそれほど潤沢でもない。
大半は対アカデミー用に所持しているという感じである。いくらエルフ達が優秀だと言っても、彼女達のように神がかった反射神経で、防御に対応出来る訳ではないのだ。
「本体に逃げられてしまう可能性もありまよ?」
「致し方在るまい?何時までもこの集落の交易を停止させたままにはゆくまいて」
「確かに……」
「それで怒るストーム殿でもあるまい?」
ゾフィはチラリとレーラを見る。確かに生真面目なレーラが頭を下げてしまえば、寧ろ彼の方が平謝りしてしまいそうになるのだ。ゾフィは色っぽく甘えればそれで片が付く。
後で、彼がフィルに抓られるだけのことなのだ。
「解りました。では、参りましょうか!」
「ウム」
二人が決断をした直後だった。凄まじい轟音と共に、集落の空気が揺れる。それが何発も続くのだ。
「何事ぞ!?」
ゾフィは五月蠅さに耐えかねて、両耳を塞ぎ、しゃがみ込む。
レーラは立ってこそいるが、可成り辛そうだ。勿論エルザもヴェルヘルミナも、耳を塞いで蹌踉めいている。
彼女達の五感の鋭さが徒となっているのは、言うまでもない。
「砲撃だ!結界が破れたぞ!」
男が一人、彼女達の集まっている部屋に慌てた様子で飛び込んでくる。
ヴェルヘルミナは結界を広範囲に展開させている。よって、全体の強さや、修復能力は非常に弱いものとなってしまっているのだ。それでも単純な重火器では、早々穴など空くはずもない。だとしたら、最低でもダイナマイト級の爆薬が必要になる。それも、一つや二つでは足らない。
「やれやれ……、どうなっておる」
ゾフィはゆったりと歩き出す。そんな場合ではないのだが、自分の生命そのものが危険にさらされているわけではない。
一方レーラは、素早く行動を起こし、弓を片手に、表に飛び出す。
「私の結界が!」
ヴェルヘルミナも急ぐ。彼女の場合は自負の問題だ。
二人がいるのは、集落の中心地で爆発の起こった東の砦までは、30秒もかからない。彼女達は、人間が百メートルを全力で走るよりも速い速度で、その距離を走る事が出来る。勿論ゾフィも例外ではない。ヴェルヘルミナはシャーマンであるが、それでも身体能力は人間より上で、彼女らが身体的に劣っているのは、飽くまでデミヒューマンレベルでの話なのである。
到着時に、ヴェルヘルミナは多少息を乱していたが、レーラは何食わぬ顔をしている。それが二人の根本的な体力の差だと言えた。
砦では、デミヒューマンの混合兵団と盗賊達が、応戦し合っている。結界は破られたが、どうやら彼等が集落の門を破られるのを阻止しているようだ。
盗賊達が無闇に爆薬で吹き飛ばさないのは、そもそもの絶対量が少ないからであり、単発では、集中して張り巡らされた、部分的な結界に対しては、あまり効果がないからだ。
それこそ、雨霰のように弾丸を撃ち続けなければならない。
ヴェルヘルミナの張った結界は、集落に十分な準備を与えており、防衛力も手堅い。
「ヴェルヘルミナ。穴の空いた部分に結界を張り直して下さい」
「解りました。サポートお願い致します!」
二人は会話を交わすと。レーラは腰元の短剣を抜き、一っ飛びで五メートルはある外壁を一っ飛びで乗り越え、門前に出ると、敵味方入り乱れる魔法や重火器の嵐をくぐり抜け、結界付近に張り付いていた盗賊共を次から次へと切り倒して行く。
レーラが飛び込んだことで、重火器を使用している者達は同士討ちを恐れ、その手を止めてしまった。
レーラは防御魔法を駆使しつつ、至近距離での攻撃を止めない。
外門を守る兵士達は彼女に続くことはない。それは、エルザが予め指揮した結果だ。勢いに任せて飛び出ると、より多くの犠牲者が出てしまう。
「ウィンドネイル!」
レーラは、あまり詠唱を必要としない魔法を一つ唱える。
効果範囲は半径二メートルほどに限られるが、それでも範囲魔法であり、人間程度であれば十分な殺傷効果を得られる。そして、怯んだ隙に、更に数名斬り殺す。
ミスリル銀で作り上げられたナイフは、魔力との相性が良く、魔法を付与することで、衰えを知らない切れ味を保持しているため、彼女の猛攻も衰える事はない。
「本当に人間とは、欲深く罪深き生き物ですね!」
レーラの怒りは静かだが、その裁きは冷徹である。彼女は一人たりとも、生かして於くつもりはない。
敵を倒す度に、美しいブロンドも、きめ細やかで色白い肌も、純白の衣も、みるみる返り血で染まって行く。
そんな彼女の鬼神ぶりに喚起したのは、同族のエルフではなく、寧ろ交戦意欲高い、ダークエルフ達だった。静観を好むエルフに於いて、レーラの存在は異色といえる。彼等にとってこれ以上面白いショーはない。
つい、我も我もと、身を乗り出したくなるのだ。
「お待ちなさい!もうじき穴が塞がります!」
穴がふさがってしまえば、外から内へ入る手段はない。どれくらい残っているか解らない重火器を持った盗賊相手に飛び出すことは、自殺行為と言えた。
ヴェルヘルミナの一言に、身を乗り出していた彼等も、冷静さを取り戻す。
その直後の事だった。
ゴ!という、大気を一気に駆け抜ける赤色の光線とが、彼女達の後方から、街スレスレの頭上を駆け抜ける。
恐らく直径は、二メートルほどだっただろう。怪光線と言わざるを得ないそれに、レーラもヴェルヘルミナも、表情が強ばり、振り返らざるを得なくなる。
何が起こったのか?誰もがパニックに陥りそうになる。
「バカ!レーラ!前を見ぬか!」
後方で現場指揮を執っていたエルザが櫓から身を乗り出し、気を取られた彼女の少し前方を指さす。
エルザの言葉に我に戻ったレーラが彼女の指さす方向を見ると、マシンガンを構えた男がレーラに標的を合わせている。
レーラは急いで、防御魔法を張り、それを防ぎに掛かる。
当然のように、防御魔法で弾丸は弾かれる。そのはずだった。確かに、弾丸は弾かれているが、それと同時に彼女の張ったシールドが、ボロボロと砕け始める。
「レーラ中へ!!」
結界を張り終えたヴェルヘルミナが叫ぶ。
異常だった。いくら至近距離だといっても、これほど脆く防御魔法が砕ける訳が無いと、彼女自身も動揺を隠せない。
レーラは、崩れかけた防御魔法を盾に数発の弾丸を短剣で弾きながら、ヴェルヘルミナの張った結界の内側へと逃れる。
しかし、その間に二発ほど、胸と腹に弾丸を受ける事になる。
「レーラ!」
エルザが櫓から飛び降り、レーラの前に出ると、ヴェルヘルミナの張った結界を突き抜ける弾丸の嵐を、二本の剣で捌きながら、これを凌ぐ。
ヴェルヘルミナの結界は、確かに弾丸に破られはしているが、彼女が直ぐにそれを再構築しているため、直ぐに閉じられ、盗賊の侵入までは許さなかった。
「早く二人を助けないか!」
ヴェルヘルミナの一言で、オーク達が急いで門を開け、レーラを担ぎ、門の内側へと戻る。エルザが弾き返しきれなかった弾丸だが、結界で威力が弱まっているため、頑強なオーク達の筋肉に阻まれ、彼等は致命傷とはならなかった。
「レーラ!」
門の内側にまで担ぎ込まれたレーラは呼吸を苦しそうにしている。
「大丈夫です」
レーラは、口から血を吹き出しながらも、エルザに視線を送ると、彼女はそれを理解したよにレーラを抱えて走り出す。
まるで、それは救護のためと言うより、大衆から身を遠ざけるかのようだった。
ヴェルヘルミナは、結界を維持し続ける。
「ゾフィが……」
レーラは力なく項垂れながら、彼女のみを案じる。
恐らくゾフィの性格だ。いい加減そうで無頓着そうでも、彼女の勘は鋭い。生真面目なエルフとは違い、裏というものに対して、非常に勘が働くのだ。
恐らく逆方向から、何かが仕掛けられるということを理解していたのだろう。だがそれにしても、実弾以上の物が用いられるとは思いも寄らなかった。それは明らかに自分達の誤算といえた。
「解った。喋るな!周到な奴だ!リレイズを掛けていたいたとはな……」
「伝令を……お願い……します」
「承知した。後は一人でどうにかなるな?」
「……」
レーラは、声にこそ出さなかったが。こくりと頷く。
一方砲撃のあった西門側には、ゾフィが立っていた。警備も手薄で当に狙い目だった。
砲撃は彼女の頭上数メートルの部分を通過し、結界に大穴を空けている。つまり、それほどの威力だったのだ。
「馬鹿め……主は生真面目すぎるのじゃ……それでは、何も守れないではないか」
冷めた表情で、目の前の盗賊達を冷めた金色の瞳で、見下すゾフィがそこにいる。
「主等、地獄にすらゆけると思うなよ」
そして、彼等をぐっと睨みを利かせたゾフィの背中から、右側だけの黒色の翼が広げられるのだった。
【作品名】Am(Aマイナー)劣化天使
第三話 異端児
【著 者】城華兄 京矢
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【注意書き】
作品内の登場人物及び団体名は全て架空のものであり、存在するものではありません。
作品内の人物名及び設定等は、作者に帰属するものとし、これを無断に転載及び流用することを禁ずる。
登場人物のイメージを無断に掲載することを禁ず。
二次創作においては、著しく作品の品質を阻害しない限り、Googleプラスにて許諾を得た後、可能と致します。
また、二次作品におけるトラブルに関しては、当事者同士の責任とさせていただきます。
2015年8月15日 発行 初版
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