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── 雨の中出会った猫は、夏への案内人。

オルガニゼイション5
猫。あるいは夏へのスフィア
(サンプル版)

波野發作

NPO法人日本独立作家同盟

〈連載小説・第3回〉

作品概要

 夏休みの間、ジェシカは紅葉商店の上のペントハウスで一人暮らし。本に埋もれた生活の中、雨の日に出会った猫・ディックとの同棲生活もはじまり、充実した日々を送っていた。そんな中、秋葉あきば先生から新商品のモニターを頼まれ、ペントハウスで試用を始めることに。自分の好きな夢が見られるというそのアイテムは、確実に作動するものではないようで、夢は見られたり見られなかったり、また情報の読み込ませ方もよくわからないという代物だった。ジェシカは丁寧な調査レポートを作り、秋葉先生に報告をしたのだった。しかし、このアイテムにはメーカーも予想していなかった、特殊な機能が秘められていて……。夢を見せる球体スフィアの真の能力とは一体なんなのか。ジェシカとディックがその謎を解き明かす、かもしれない。スラップスティック系SFコメディ連載第3話!

猫。あるいは夏へのスフィア

  過去も未来も存在せず、あるのは現在と言う瞬間だけだ。
       by トルストイ(ロシアの文豪)

 木下節子の事件が起こる前のひと夏、ジェシカ・ボクスとジェシカの猫〈ディック〉は、紅葉商店のある古ぼけたビルの屋上に住んでいた。アント王子と同じ高校に通い始めた当初は、ジェシカはアント宅に居候していたのだが、夏休みに入りアントが里帰りをすることになったので(実際はちょっと地元の戦争に駆り出されたのだが)、店への通勤のことも考えてこのビルのペントハウスに引っ越したのだった。以前は画家志望の学生が暮らしていたが、急に売れてメジャーになってニューヨークに行ってしまったので二年ほど空き家になっていたらしい。家財道具などが残っていたが、使っても捨てても自由だと言われたので、ジェシカは大いに活用して夢の一人暮らしを満喫していた。最初の晩に、画家のベッドに寝てみたが、落ち着かなくて寝付けなかったので、事務所から空きダンボールを持ってきてベッドの上に置き、そこで寝ることにした。最初の夜はカレーライスを食べる夢を見た。食べたことはなかったが、美味しそうだったので翌日作って食べてみた。ここのキッチンは使い勝手がよかった。ペントハウスのせいか陽当たりもよく、ユニットバス完備で実に快適だったが、一つだけ欠点があった。この家はなんと、鍵が十一もあったのである。ビルの敷地への鍵、入り口の脇のセキュリティパネルの鍵、外扉の鍵、バックスペースの鍵、エレベーターの電源パネルの鍵、エレベーターの鍵(夜間使うためのもの)、最上階の仕切りの鍵、管理用エリアの鍵、屋上へ続くドアの鍵、ペントハウスの鍵が二つである。いや、猫用の扉の鍵も入れれば十二である。十二番目の鍵は、ジェシカがここで暮らすようになってから取り付けたものなので、元々は十一の鍵だった。日中はほとんど必要ないが、ビルの営業が終わったあとに出入りする場合は、本当に必要になる。実に面倒なので、ジェシカは夜に出歩くことはしなくなった。日が暮れてから訪ねてくる者もいないので、別段困ることはなかったし、クラスメイトが押し掛けても敷居が高いので、簡単に諦めてくれるというメリットもあった。夏休みに入ってすぐの頃、イークロンたちが引っ越し手伝いますなどと言って来ようとしたのだが、特に運ぶものもなかったので、丁重に断った。彼らはそれでも何か手伝わせてと食い下がったが、アントが割り込んできて、そのまま4人ともテンピリアに傭兵として連れていってしまった。近衛兵に欠員が出たので、臨時補充兵として採用するのだという。報酬は悪くないので、生きて帰ってこられれば彼らにとってもいいアルバイトになるだろう。ただ、銀河通貨ギオールが地球の通貨に換金できないことを、彼らはたぶん知らされていないだろう。

 近隣のビルのネオンやライトアップのおかげで、夜でも屋上は明るかった。眠るには困るが、本を読むにはちょうどいい。屋上にはアイスクリームのロゴが書いてある古いベンチが置いてあり、ジェシカは夏休みの間中、仕事のない時間は片っ端から本を読みあさっていた。この国の文芸書から各種専門書、別の国の別の言語のもの、フィクションからノンフィクションまで無差別に読みまくっていた。もちろん惑星外の文献も、秋葉先生やキャプテン・ハック、航海士のボン・ボヤージらから借りて読んでいた。午前中は近くの予備校に潜り込んで、地球の高校受験の勉強をしていた。ジェシカは元々記憶力も知能も相当に優れているため、ひと夏しっかり鍛えれば、アントの通う高校の中堅ぐらいの成績にはなるだろう。さらにもう一年経てば、学年首位も無理な話ではないはずだ。


※サンプルはここまでです。続いてインタビューをご覧ください。

波野發作さんインタビュー

── まず簡単に自己紹介をお願いします

 毎度あり。お初の方には、姓は波野。名は發作、前後合わせて「ナミノハッサク」といいます。ハツの字は旧字体です。新字体だと「発作ほっさ」なので旧字体にしました。もちろんペンネームです。兼業作家です。ライターとか編集とか本名の方では長年いろいろやってます。昨年インディーズ作家デビューしましたが、今後も波野名義でちょいSF寄りのミステリーもどきを主に書いていきます。他の活動については公式サイトをご覧ください。

◆公式サイト:『NAMINO_WORKS』
http://naminow.com/

── この作品を制作したきっかけを教えてください

 『月刊群雛』2015年02月号『ヴェニスンの商店』、04月号『ガッデンの箱娘』が自分の中で好評だったので、思い切って連載での掲載を挙手して、これで連載は3号目です。物語としては5話目になります。連載タイトルは『オルガニゼイション』です。ジェシカがどんなキャラなのかは、過去作をご覧ください(宣伝)。もう折り返し地点ですね。後半戦も盛り上げていきますので、最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

── この作品の制作にあたって影響を受けた作家や作品を教えてください

 今回はSFの定番、タイムマシンものです。夏(8月)の発売号ということで、ロバート・A・ハインライン著/福島正実(ふくしま・まさみ)訳『夏への扉』から書き出しの雰囲気をお借りしました。果たしてこれがタイムマシンなのか、なんなのかといえば、それは読む人次第ですかね。あと、猫の名前の由来は言わずもがな。

── この作品のターゲットはどんな人ですか

 SFもの全般が好きな人。群雛を毎号読んでいる人。少なくとも2015年02、04、07、08月号は読んでいる人。あと、猫が好きな人。

── この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか

 今回のストーリーはプロットを考えながら1日で書きあげました。キャラが勝手に動いてくれるので、だいぶ楽させてもらいました。〈DP〉(※作中参照)のネタ自体は、1年ほど前にぼくの小説『ストラタジェム;ニードレスリーフ』のために用意したものです。今回そっちからのキャラやネタにもちょっとだけ言及してますね。合わせてお読みいただければ幸いであります。
 それとこの場を借りて謝辞を。長ったらしい名前の玩具会社の社名の読み方を教えてくれた酒井康弘さんと、間を取り持ってくれた小林基弘さん、本当にありがとうございました。こんな小説になりましたが、どうですか?

── 作品の宣伝はどのような手段を用いていますか

 毎度のように自前のWebサイト、アプリで紹介、SNSでモゴモゴ言うなど。あと、群雛に関わることそのものが宣伝になってるっぽい。

── 作品を制作する上で困っていることは何ですか

 夏が暑いことです。

── 注目している作家またはお気に入り作品を教えてください

 東京国際ブックフェアで買った、サミュエル・R・ディレイニー著『ドリフトグラス』(国書刊行会刊)の装丁がものすごく白いんです。

── 今後の活動予定や目標を教えてください

 12月号で連載が終わる予定なのですが、そのあと書き下ろしを加えて単行本を電子書籍でリリースしようかなと考えています。書き下ろしのネタは、今回ジェシカたちは夏休みだったわけなんですが、その間アントら他の連中は何をしていたのか、その辺を書けたらなと思っています。彼らはジェシカたちと関係ないところで、人知れず結構な騒動に巻き込まれていたんですけどね。それはまた別のお話。

── 最後に、読者へ向けて一言お願いします

 次回は〈方程式〉です。

NPO法人日本独立作家同盟とは

 NPO法人日本独立作家同盟は、文筆や漫画などの作品を、自らの力で電子書籍などのパッケージにして世に送り出している、インディーズ作家の活動を応援する団体です。伝統的な出版手法である、出版社から取次を経て書店に書籍を並べる商業出版「以外」の手段、すなわち、セルフパブリッシング(自己出版)によって自らの作品を世に送り出す・送り出そうとしている方々をサポート対象としています。

 当法人の活動目的は、誰もが情報発信者になれる時代における、作家や作品の知名度向上(Promotion)、作品の品質向上(Quality)、作家と読者のコミュニケーション活性化(Communication)などを促進することにより、多種多様な出版文化の振興に貢献することです。情報交換や交流などを目的としたコミュニティの運営、インディーズ作家を応援するマガジン『月刊群雛』の発行、ウェブメディア『群雛ポータル』によるセルフパブリッシング関連の情報発信、勉強会やセミナーの運営などの事業を行っています。詳細は、公式サイトの[法人概要]をご覧ください。

◆NPO法人日本独立作家同盟公式サイト:
http://www.allianceindependentauthors.jp/

オルガニゼイション(サンプル版)

2015年8月20日 発行 初版

著  者:波野發作
発  行:NPO法人日本独立作家同盟

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