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Am ― 劣化天使 ― 第四話 風雲児

城華兄 京矢

城華兄 京矢



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其処には、漆黒の片翼を持つゾフィが立っていた。
不適なほどに自信に満ちた眼差しで、目の前の盗賊を見据えたゾフィの背中には、右側だけに翼がある。幅は一メートルほどの翼だが、艶やかな漆黒のそれは、まるで闇に棲む住人のもののようだ。
「やれやれ。まさか盗賊如きにこの力を使うとは思わなんだが、少々やり過ぎたのう」
ゾフィは怪光線の予想がついていた。
恐らく、間違い無くオーバーテクノロジーの成せる技であり、アカデミーが利用禁止を定めている、武器の一つだ。
勿論武器の一般利用そのものを基本的に禁じてはいるが、その圧倒的な破壊力は、間違い無く世界のバランスを崩すものである。
「アカデミーは、悪魔すら作っているのか!?」
ダークエルフに漆黒の翼は、確かにキメラと思われても仕方がない。そんな種族は見たことも聞いたこともない。
「黙れ子悪党」
そう言ったゾフィが、杖を軽く横に一つ払うと、一面の木々をなぎ倒し吹き飛ばし、周囲は爆炎に包まれる。
森の中にあった集落の西門前は、あっという間に開けてしまい。そこらには、なぎ倒され、へし折れた樹木が散乱している。
当然そこに、盗賊共の姿などある筈もない。途轍もなく圧倒的な力を、まるでため息でもつくように振るう彼女は、確かに悪魔と思われも仕方がないが……。
「誰が悪魔じゃ失敬な。誰がルシファーを屠ったと思うとる」
彼女にとって、可成り心外な発言だったようで、腕組みをして、ツンと拗ねてしまう。ただ、それを語る相手は、どこにもいない。
「少なくとも、ゾフィ様ではありませんが……」
漸く到着したエルザだが、すでに事は済んでしまっており、変わり果てた森の状態に呆れ果てながら、そう言う。
「細かいことを言うな。少なくとも、我も力になったはずじゃ!」
「……」
微妙な否定と肯定を混ぜたエルザの視線がゾフィに向けられる。
「解った解った。ちと言い過ぎた!」
ゾフィが観念した様子で、正直に答えると、エルザはペコリと頭を下げる。
ゾフィのことを敬愛しているエルザではあるが、見栄を張るのも限度はあるのだ。それだけは正さなければ、ゾフィの名誉にも傷が付くというものである。
「にしても。相変わらず扱いづらいのぅ」
「仕方がありませんね。違いすぎますから」
違いすぎるというのは、力の下限である。加減の下限だ。いくら彼女がそっと力を振るったつもりでも、元々の威力が大きいため、それが背一杯の手加減なのだ。
だが、少しするとその漆黒の翼は、まるで咲き誇った花が散るようにして、はらはらと綻び始め、風に乗り消えてしまう。
「ふむ。少し遊び・・が過ぎたようじゃ」
彼女の使う翼の力には、限界があるのだ。だからこそ、使う場面を選択しなければならない。しかしながら、広範囲に吹き飛ばした森の中に潜む盗賊達は、総て消し飛ばされてしまったはずで、彼等が再び攻めてくるにしても、それ相応の時間が必要である。
「一旦集落に戻るかの。レーラの事も気がかりじゃ」
「はい。私はヴェルヘルミナの支援もありますので、東側の砦に戻ります」
ゾフィは、深追いをすることなく、戻る事にする。エルザは、東側の状況を確認するつもりだ。集落の安全は守られているが、矢張りヴェルヘルミナにも限界はある。エルザは、彼女が気がかりでならないようだ。
それでも時間はまだある。そう思ったゾフィは、集落の中央にある滞在先にまで戻ると、リビングには其処には平然と立っているレーラがいた。
「済みません。回復に力を使い切ってしまいました」
「こちらも、先ほどの一撃で、使ってしもうた」
お互い正直なものだ。こういうことは隠すと良い結果にならないということは、よく理解していた。
「ゾフィ。貴女は普段から、力を無駄遣いしすぎるのです」
「抜かせ。バーサーカーでもないお主が、あれほどの接近戦を熟せたのも、コソコソと使っておったからではないか」
そう言われてしまうと、返す言葉もないレーラは、ため息がちにふっと息を吐くのだった。
「それよりゾフィ。この弾丸ですが、私の防御魔法を破壊しました。異常です」
「そればかりは、ストーム殿の仕事だのぅ。まぁ、印が彫り込まれておるから、呪術を施して居るのじゃろうが……」
ゾフィは、眼前に近づけたそれをじっくりと見る。
どうやら、それがレーラのシールドや、今ヴェルヘルミナが張り巡らせているシールドを貫通している仕組みらしい。
「まぁそれはともあれ……怪我人のお主は、黙って指をくわえて見ておれ」
ゾフィはそう言ってレーラに背中を向けるのであった。
「どうするつもりです?」
確かに方法が無いではないのだろう。翼の力がなくとも、彼女は優秀な魔導師である。勿論レーラも立派なエルフ族の戦士である。
心配げなレーラに対して、ゾフィは、一瞬クールな笑みを浮かべる……が。
「ムフ、ムフフフ、ムホホ……」
「何ですか、気味の悪い……」
勝ち誇り、尚且つ堪えられないといった感じで、笑い出すゾフィのそれがあまりにも、滑稽且つ気味悪く、レーラは一瞬引いてしまうのであった。
「何のう。日頃の節約の成果というものは、こういう所に出てしまうのかのう」
ゾフィはそれが可笑しそうに、懸命に堪えがら、意味ありげに言う。それから、ローブのポケットから、真っ黒なケースを取りだし、その蓋を開く。
そこには、十枚ほど、銀色の羽根が収められていた。
「一見ケチケチ使っているようでも、質より量ということじゃ。我は、ぱぱ!っと済ませてしまうからのぅ。おかげで漸くストックがここまでたまってのう」
ゾフィはそれがさも自慢げに、レーラに見せびらかす。
それに対して、レーラは無言で同じように白いケースを取り出し、中身をゾフィに見せる。そして、羽根はゾフィより一枚多い。
レーラがため息をつくと同時に、沈黙の時間が少しだけ流れる。
「何故うぬの方が一枚多いのじゃ!」
「小さな積み重ねの差です」
「ほう!言うたわ!死にかけた上で一枚の差とは、様ぁないのう!」
お互い負けず嫌いである事だけは確かだが、ゾフィの言い分にも確かに一理はある。ただ、一枚の差は、矢張り一枚なのだ。
「二人ともまた、喧嘩してる!」
その時、二人にとっては、本当に聞き覚えのある声がしたのだ。その人物とはレインである。
彼女の出で立ちは、レーラのようにギリシャ神話を思わせる衣でもなく、ゾフィのようにゴージャスな魔導師のローブでもなく、事もあろうかミリタリールックである。
黒いブーツにミリタリーパンツ、ウエストに巻かれた上着に、白いタンクトップ。小ぶりではあるが、スポーツブラで整えられたバストライン。
美しくもあどけなくもある、童顔で瞳も目元もはっきりと大きい、少し癖毛がちで茶髪の活発そうな美少女が腰元に手をやり、少し頬を膨らませて、其処に立っている。
アジア系の彼女は、レーラやゾフィのように鼻筋が高いわけではないため、それがより表情を幼くさせてみせるが、そんな彼女とて、優に百歳は超えている。
「レイン様」「レイン殿」
レーラとゾフィは、ほぼ同時に驚きながら、彼女の存在を認識する。
この二人を驚かせるということが、どれだけ恐ろしいことなのかということは、彼女達の関係を知るものでしか分からない話だが、そもそもエルフの五感に引っかからないということが凄まじいのだ。
特に二人は、レインの足音や気配などをよく知っている。それだけに彼女が近くに来れば、本来解りそうなものなのだ。
譬えそれが、爆風吹き荒れる戦場であったとしてもである。
 
一見して怒っていた彼女だが、次の瞬間二人の手を引き、引き寄せると同時に、二人をギュッと抱きしめる。
「使いすぎでもダメだけど、出し惜しみもダメだよ」
心配が溢れる穏やかなレインの声だった。彼女が自分達を責めたいわけではないということくらい、二人はとうの昔に知っている。だが、改めてそう言われると、彼女はどこまでも、自分以上に、自分達の事を気に掛けているのだということを理解せずにはいられない。
「でもさ。それだけストックが貯まっちゃうってことは、天使化が進んじゃってるね」
レインとしては、それが心配でならなかったようだ。なければない方が良い。そんな力なのだと彼女は思っている。嬉々として受け入れるには、あまりに強すぎる力なのだ。
「何をおっしゃいます。共に歩むと決めた仲ではありませんか」
「何をおっしゃる。共に行かんとちこうた仲ではないですか」
二人は、ほぼ同時にそう言い。恐れることなく、自分達より頭一つ低いレインの肩を抱く。
「ともあれ、ここは私に……いや、我々にお任せ下さい」
レーラは、そう言ってチラリとゾフィを見ると、言い直したことに対して、ゾフィはうんうんと頷いている。
「して、レイン殿がこうしてお目見えすると言うことは、何が?」
ゾフィは、改めてそれを訊ねる。
そうすると、レインもコクリと頷く。彼女がここへ訪れたのは、勿論この場所の通信環境が途絶しているからなのだが、それだけなら二人に任せておけばよいのである。
「これ……」
レインは、自分の携帯電話を取りだし、テーブルの上に立てる。彼女の携帯もスマートフォンタイプであり、矢張りこの方が、色々と重宝することが多いのだ。
其処には、乾いた血で描かれたような「T」というロゴをバックに、覆面をした人間が、演説台に両手をつきながら、カメラ目線を配っていた。
「我々はトゥルーブラッド!人類至上主義者である!あらゆる手段を用い、この世の汚れた血を総て根絶することをここに誓う!」
彼が非常に強い口調の演説を行うと同時に、カメラがパンされ、捕らえられたホビットの青年の首を撥ねる映像が流される。
理由は単純だ。エルフやダークエルフは非常にその気配に敏感であり、彼等に捕まる事がまず無いからである。ドワーフとオークは力が強く、束縛が難しい。基本的に戦闘となり、可成り大事となるのだ。
それに比べホビットは、非常に温厚で人懐こく、戦闘力は決して高いとは言えない。要するに一番捕まえやすい弱者なのである。
恐らく交易中に拿捕されたに違いない。
何という惨い映像だろう。酷く恐怖し、硬直した表情のまま、首が転げ落ちる瞬間まで、鮮明に映し出されていた。
その瞬間、怒りに震えたレインの瞳が、通常のブラウンから、燃えるような銀色に変化する。
「我らに任せられよ」
ゾフィは、怒りに我を忘れてしまいそうなレインの肩をポンと叩き、冷静さを取り戻させる。
そうすると、レインはふぅっと、一つ大きな深呼吸を入れる。すると、彼女の瞳もいつも通り、綺麗なブラウンに戻る。
「許せないよ。何が純血トゥルーブラツドだよ……百年かけてやっとここまできたのに……」
レインの想いが言葉に滲み出る。
百年前とは、ルシファーが倒れ、世界の垣根が取り払われ、まだデミヒューマンと人間が警戒しあっていた頃である。
特に人肉食種だったオークやライカンスロープと、人間との価値観の差は、埋めがたいものだったのだ。
人肉職種のデミヒューマンの中でも、ルシファーの影響から解放された種族達の多数は、それ以降人肉を好んで食する事はなくなった。この百年はまさに歩み寄りのための時間だったといえる。
「端的に言うと、今回の武器供与は、このトゥルーブラッドの所行だと?」
「加えて言えば、トゥルーブラッドは、アカデミーの離反者とも……」
レーラとゾフィが立て続けに解を導き出すと、レインはコクリと頷く。いわば身内の不始末だと言える。彼女は自らその制裁に乗り出しに来たのである。
だが、ここで矛盾が生じてしまうのだ。何故なら、彼等を排除しようとする自分達の力は、圧倒的なものがあり、いわば虐殺的行為になりかねないからだ。言わば思想排除である。
「まぁ、向こうが正義を翳して戦うというのであれば、此方は此方の正義を翳すまで……であろう?」
ゾフィは、不敵に笑う。しかも何とも力の抜けた笑みである。実は彼女のこういう一面に救われることが、非常に多いレインだった。道徳では語れない、ひねた理屈である。
レーラがレインの理を支え、ゾフィが矛盾を和らげる。彼女らは、そんな関係だった。
「私は東に向かう。南北は二人に任せる。一掃して構わない」
レインはそう言うと、二人に背中を見せて、部屋を出て行くのだった。華奢な背中が何とも痛々しい。しかしこの百年の間、抗争の根幹には、いつも人間が関わっていた。デミヒューマンは戦闘こそ好むが、虐殺を繰り返すのはゴブリンくらいなものだ。
それでも彼等が用いるのは、精々斧や短剣くらいなもので、世界の均衡を崩すほどのものではないのだ。

現状、人間が尤も殺生与奪の糧に、思想を振りかざしている。
レインが出た行った後、二人は、それぞれケースの中から一枚ずつ羽根を取りだし、掌の中でそれをエネルギーに変える。
すると、ゾフィは右に、レーラは左に、それぞれの背中に片方だけの翼が姿を現し、ゾフィが漆黒の翼で、レーラは純白の翼と、ここにおいても、対照的な存在だった。
「私が北に向かいます。宜しいですか?」
「どちらでも良いわ。あの方以上に、派手な花火を上げようぞ」
二人は、肩を並べて部屋を出るのであった。
 
それぞれの、行動が始まる。
 
東門では、すでに疲弊した、ヴェルヘルミナが漸く結界を支えていたが、レインが横を通りかかり、彼女の肩に手を触れるだけで、それが嘘のように精気を取り戻すことが出来る。
「もうちょっとだけ、踏ん張っててね!」
レインは行儀良く並んだ白い歯を零しながら、振り返り、ヴェルヘルミナの労をねぎらう。
「はい!」
彼女達の関係を知らない周囲のデミヒューマンには、何のことか理解出来ないが、その中において、オーク達だけは、彼女を見るだけで恍惚とした表情を浮かべる。
「あの人が、そうウガ……」
まるで至高のデザートを腹一杯に満たしたような幸福感に満たされた表情をしている。確かにレインは、その戦闘的な服装とは裏腹に、非常に良い香りがするのだ。だが、オーク達の感じている香りは、それ以上のものなのである。
他の者には、それが分からなかったが、確かに彼女の香りは、一つ飛び抜けて良い。エルフ達もそれを感じてはいた。
レインは、ヴェルヘルミナの結界を突き抜けるが、それはゾフィやレーラのように静かなものではなく、歩いて抜けるだけのシンプルなものだった。
つまり、結界を強引に破壊しながら、外へ踏み出したのである。
それから、腰のナイフシース―から、白銀に光る二本一対のサバイバルナイフを抜き出すと同時に、迫り来る弾丸を総て、それで叩き落としに掛かる。
それそのものは、エルザにも可能なものなのだが、その持続時間と正確性が圧倒的に異なり、格段の速度である。
そして、ただ叩き落としているだけではない。必要な弾数を、相手に叩き返しているのだ。
しかも、表情一つ返ることもない。
淡々とルーチンワークのようにそれを熟して行く彼女が其処にいた。
そして、レインは一歩ずつ前に進み、ついには、マシンガンを構えていた男の前にまでやってくる。
彼女は、必要な敵を殺しながら、敢えて彼だけを生かしていたのだ。
「ば……ばば、バケモノ!!」
取り乱しながら、どれだけ至近距離で、彼女にマシンガンを乱射しても、それを総て叩き落としてしまう。
「そうだよ」
何の感情も躊躇もなく吐き出された、たった一言が、盗賊を震え上がらせた。
レインは、彼の持っていたマシンガンを、ナイフで真っ二つに叩き斬り、掌底を鳩尾に一撃入れ、失神させるのだった。
「アンタからは、嫌な匂いがぷんぷんするから、生かしておいてあげる」
レインはそう言って、軽々と彼を担ぎ、村に戻るのだった。それと同時に、北と南で、天の怒りを示したような轟音が轟き、十数メートルにも及ぶ、土煙と瓦礫が巻き上がるのだった。それは、津波のように、集落の外周へと向かい、広がって行く。
「ゴメンね。森を傷つけたかったわけじゃないんだけど……」
レーラとゾフィに、半端な力を振るわせたばかりに、取り返しの付かないことになることは避けたかったのだ。それで二人を失えば、自分が後悔してしまう。それがどれだけ身勝手な言い訳なのかは、彼女自身も解っているつもりなのである。
集落の中央に彼女達は再び集まる。
「矢張り、出し惜しみは良くないのう」
ゾフィは解決の早さに満足した様子だったが、レーラはとくに反応はない。レインの願うことならば、彼女はそれに対してなんの不満もないのである。
「そうだね。でも、何でもかんでも力で解決しちゃったら、此奴等と同じだなって、嫌気さしちゃっうけど」
レインは担いでいた男を其処に投げ出す。
手足はすでに縛られて、身動きの出来ない状況となっていた。
「拷問でもかけますか?」
レーラが物騒な一言を言うが、これ自体は今更の会話なのである。
「それはフィルに任せるよ」
「そうですね」
彼からはトゥルーブラッドとの繋がりを聞き出さなければならない。レインは、レーラと会話しながら、西側の空を見つめる。直感的な彼女の視線の配り方は、付き合いのない者であれば、ボンヤリとして見えて、思考のほどが理解出来ないが、二人は、レインが何を考えているのか、直ぐに理解が出来る。
「行かれるのですか?」
「うん。後片付けしとかないとね……」
そう言って、背中越しに手を振りながらレインは前に進み、二人は、レインのその指示に従い、集落に止まることにする。
そして、彼女の背を見つめる事、数秒の事。
レインの背中から完全なる一対の翼が現れる。タンクトップはその勢いで裂けてしまったが、彼女はアンダーウェアを身につけており、事なきを得ている。
薄青く銀色に輝く一対の翼、それと同時に変化した、銀色の頭髪と銀色の瞳は、先ほどの幼げな彼女の風貌を、神々しく神秘的に変化させた。
 
彼女のその姿に、集落の人々は騒めく。ミリタリーパンツを履いた天使など、聞いたことがない。それこそレーラの着ているような、衣の方が余程それに似つかわしい。
「レイン殿のあの姿は、いつ見ても震えがくるのぅ」
絶対的な力すら感じされるそのオーラに対して、ゾフィは自らの両肩を抱いて、ウットリとしている。しかし、それ以上に今にも失神してしまいそうなレーラが其処にいた。
「なんと神々しい……」
その恍惚とした表情は、自慰に浸りきった直後のように、何とも生々しいものだった。そして翼を持つその姿こそが、レーラの心酔する、レインの姿なのである。
 
レインは、大地を一蹴りして、ふわりと宙に浮く。しかし、その優美さとは裏腹に、あっという間に数百メートルほどの高さにまで達する。
「確か、西から東にこう……」
レインは、怪光線が結界を貫いたルートを再確認する。勿論そこに存在するとは限らないのだが、まるで総てを見透かしたかのように、一点を見つめる。
「まぁ、あれだけ大きな力だから、カモフラージュしてもばれちゃうよね」
恐らく周囲を制圧したことで、彼等は撤退を決めているはずだ。アカデミーの反乱分子となれば、当然それなりの事態を想定しているはずだが、レインがどれだけの力を振るうのか?ということそのものは、トップシークレットである。
ゾフィ、レーラ、レインが普段単独で動く理由には、そう言った側面もあるのだ。
レインは軽く右手を真横に上げ、掌を下に向けた状態で、力を集中させる。するとそこには、青白いソフトボール大の、球体が浮かび上がるのだった。
同時に、レインが見定めていた方角に、薄青い半球対が浮かび上がる。
「無駄。これ、魔法じゃないから」
レインはそう言うと、軽く振りかぶると同時に、それを目下に見えるシールドに投げつけるのだった。その速度は軽く音速を超えており、まるで落雷が迸るように、空気を裂き、突き進む。
直後シールドを突き抜け、大爆発を起こす。集落から随分離れていたため、爆風に晒されることはないが、軽くはなったその一撃でさえ、地形を大きく変えてしまうほどのものだった。
当に跡形もなく、木っ端微塵というわけだ。
圧倒的な勝利を手にしても、レインにはなんの感慨も無い。ただ背中を向けその場を立ち去るのであった。
 
集落に戻ると、最悪の状況から解放された村人達は、安堵のため息をつき、すでにゾフィ達を囲んでいた。仕事だとはいえ、村人から見れば、彼女達はヒーローだったに違いない。
レインは、天使様と崇められる始末だったが、其処には照れくささも喜びも無い。ただ何となく、救われた命が其処にあるのだということだけが唯一の救いかのように、静かに微笑み、祝福の輪の中に入る。
 
一応の解決を見たレイン達は、アカデミーの本部へと戻る事にする。
 
場所はストームのオフィスとなる。
「バッッッッカじゃないの!このだめ猫!」
帰還早々フィルの罵声がレインに飛ぶ。
「うひ!」
レインは、自分よりも半分ほど高い位置から、フィルに怒鳴られ、肩をすくめている。そこには、度を過ぎた悪戯を呵られたかのように、そろりと目を開けるレインがいた。
「アンタ、折角の証拠焼き払うとかあり得ない!」
「だって、アレ間違い無くフタマル式エルカノンⅡ型だったよ!物証取るまでも……」
「そんなミリオタな知識いらないわよ!人間事焼き払ったら、尋問も出来ないでしょ!」
再びレインの頭の上から怒鳴るフィルだった。その度にレインは、肩をすくめて大人しく呵られている。
「ま、まぁフィル。隊長も反省してるし……」
ストームは、我妻であるフィルを宥めている。そして、ストームにそう言われてしまうと、フィルは、そっぽを向いて腹立たしそうにしても、それ以上何も言えなくなってしまうのだ。
「結局あの男も、盗賊連合の頭って以外の事意外は、殆ど解らずじまいだし。ただ……」
フィルは唯一得た手がかりの結論に入る。
「デカいことをやろう。なんて、そそのかされて、アレだけの火力渡されれば、調子にも乗るわね」
それが事の成り行きの一端というわけだ。
レインは、刻印の施された弾丸を指に持ち、その謎について少々考える。
「まさか抗魔弾なんて持ち出すなんてな……」
そう言ったストームとしては、それが少々気がかりだった。抗魔弾は、当に対魔法戦闘用兵器であり、開発プロセスそのものは存在していたものなのだ。ただ、製造ラインそのものは、アカデミーには、現在存在していない。
「どのみちこんなモノ。量産なんて、早々出来やしないわ」
フィルが、レインから取り上げた抗魔弾を、無造作に近くのゴミ箱にそれを放り投げてしまうのだった。大事な証拠品といいながら、彼女もその扱いである。
 
「それよりか。フィル様もストーム殿も、折角のナルトGTが冷めてしまいますぞ?」
緊張感のないゾフィーが、それをおいしそうに、ホクホクと食べているのである。
普段呆れてそれを眺めているレーラだが、この時ばかりは黙々と焼き芋を食べている。ゾフィの横で、彼女と同じ行動に恥ずかしさを感じているらしく、頬を赤くしている。ただ、手は止められないようだ。
「そうね。雌猫叱りつけたら、お腹が空いたわ」
フィルは、ウキウキと焼き芋を食べているゾフィの前に座り、立っているレインの手を引っ張り、自分の横に座らせる。
「アンタが守ったものも、ちゃんとここにあるわよ」
フィルは、あまり表情を作らなかったが、湯気立つ焼き芋を半分に割り、その片方をレインに渡す。
「うん!」
漸く見せたレインのその表情に、一同がクスリと笑うのであった。
 



【作品名】Am(Aマイナー)劣化天使
 第四話 風雲児
 
【著 者】城華兄 京矢
 
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【注意書き】
作品内の登場人物及び団体名は全て架空のものであり、存在するものではありません。
作品内の人物名及び設定等は、作者に帰属するものとし、これを無断に転載及び流用することを禁ずる。
登場人物のイメージを無断に掲載することを禁ず。
二次創作においては、著しく作品の品質を阻害しない限り、Googleプラスにて許諾を得た後、可能と致します。
また、二次作品におけるトラブルに関しては、当事者同士の責任とさせていただきます。

Am ― 劣化天使 ― 第四話 風雲児

2015年8月23日 発行 初版

著  者:城華兄 京矢
発  行:城華兄 京矢

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城華兄 京矢

長編小説の出版を目指しております。

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