第一章　ケミカルウォッシュはニートの心

　世界中の野外イベントやクラブをツアーし、帰国したらミックスＣＤやソロアルバムを出して、一ひと段落したらまた海外ツアー。あぁ人気ＤＪは辛いねぇ……。
　と言える日はいつになるんだろう。今はまだ電話一本でホテルや個人宅、小さなパーティへ出張してレコードを回すドサ回りＤＪさ。小さな一歩を踏み出したと言えば聞こえはいいが、女優を目指してまずはＡＶデビューみたいな、トム・クルーズになるはずだったのに今の仕事は汁男優みたいな？　汁男優知らない？　汁男優ってのはＡＶ男優だけど顔は出ない、セックスはしない、精子ブッカケるだけの男優のことさ。通称汁男シルダンって言うんだけど。まぁ今のオレはそんなとこ。全米制覇のはずがやっとアメリカ村まで来ました～みたいな。
　あ、まだ名乗ってなかったっけ、耳と心に健康ヘルスをお届けデリバリーする、真の意味でのデリバリー・ヘルス。デリヘルＤＪ五所川原、あだ名はゴッシー、ＹＯＲＯＳＩＫＵ。
　職業はもちろんＤＪ、と言いたいが残念。普段は引越しのアルバイトで生計を立ててるしがない男さ。日雇いなんで割りと自由ってか生活は苦しい、みたいな。まぁ、そんなとこ。世話になってる引越し会社もリストラとかで、バイトが減っちゃってさ、時間の空いてる時は渋谷に有るうちの店『メチャガク』に顔を出して客待ちもしてんだ。システムは御一人様九〇分千五百円、三名～九名まで四千円、それ以上は人数×六百円、交通費別。