この本はタチヨミ版です。
この作品はフィクションです。
実在の人物、団体、事件などとはいっさい関係ありません
ママね、東京に住んでいたの。こんな田舎の町じゃない。本当よ。
小学生までずっと東京に住んでた。友達もいた。他と同じ子供だった。
その時はね、将来の夢はアイドルになる事だったの。でも、アイドルにはなれなかった。追い続けて、なれなかったんじゃない。あいつに奪われたの。自分の父親に。
小学六年の時よ。いきなり引っ越す事になった。
あいつの父親、おじいちゃんが死んだの。急性心不全っていうの。いきなり胸が苦しくなって、そのまま逝っちゃった。
おじいちゃん、農業をやっていたんだ。レタスとキャベツを作ってた。私は、二回しか会った事がない。あいつとおじいちゃん、仲が悪かったから。
あいつだけじゃない。親戚とか兄弟とかも、滅多におじいちゃんに会いに行かなかったみたい。
葬式の時、久しぶりにみんな顔を合わせたの。私もそこにいた。
みんなひそひそ話をしていた。あの頃はわからなかったけれど、最近になってわかったの。
お金。遺産。
誰がどれ位貰えるのか。奥さんは死んじゃっているから、財産は全部長男だろうとか。
生きている間に贈与しておけば、もっと税金は安くすんだのにとか。
飲み会が終わって、親戚を帰した後に、兄弟三人で話し合いが始まったの。おじいちゃんの遺産をどうするか。畑をどうするかって。
ママとか、他の人達は別の部屋で聞き耳をたてながら、片付けをしていた。私は部屋の隅っこでゲームをしていたの。
あいつは長男。下二人は東京で働いてる。あいつより大きな会社に勤めてる。
あいつはその頃、自動車の下請け会社に勤めてた。二十代で四回目も仕事を変えてた。いつも同じ理由。会社が嫌になった。もう、あんな所では働けないって言うの。
原因は言わなくてもわかる。人間関係。あいつ、自分の意見が通るまで、諦めない人だから。いつも誰かとケンカしていた。
それまでの仕事は何をしていたのかわからない。でも、たぶんサラリーマン。家に帰ると、すぐに他人の愚痴を言ってた。
取引先がどうとか。同僚が仕事ができないとか。ずっと他人を貶してた。あの人が、友達とか仲間を連れてきた事なんてない。
なんであんな奴と、ママが結婚したのかわからない。
兄弟三人、最初は静かな声で話してた。でもね、段々と声が大きくなった。おい、とか。そんなの認めねえとか。
その時、あいつが大声で言ったの。
「俺が農業を継ぐから、財産は全てもらう」
そしたら、大きな物音が聞こえたの。怒鳴り声も。周りの女の人達、みんな駆け出していったわ。
私は怖くなって、ゲームに集中しようとしたの。物音も怒鳴り声も聞こえなくなった。
誰かが、農業の経験はあるのかって聞いたら、
「通信教育を受けてた。だから大丈夫」
わからなかったら、周りの奴らに聞けばいい。そう言っていた。
こっちの部屋に来た時、みんなあいつの悪口を言ってた。あいつのどうしようもない性格はみんな知ってる。すぐに嫌になって、放置するに決まっている。だったら、土地を売った方がいいって。
タチヨミ版はここまでとなります。
2015年11月5日 発行 2版
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