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── やさし、くされて、くすぐ、ったい。

Zにやさしく
(サンプル版)

くにさきたすく

NPO法人日本独立作家同盟

〈読切小説〉

作品概要

 もちろんテーマを持って書いてはいますが、それは胸の内にしまっておいて、皆様の読書体験のお邪魔にならない程度に語ります。
 一括りにショートショートと言えど様々なタイプの作品があると思いますが、僕は言葉遊びのショートショートを書くことが多いです。2015年07月号の『ポースター』でも、言葉遊びをメインに置いていました。今回は、言葉遊びちょいと控えめな作品になっています。
 半分日常、半分非日常、ほんのちょっぴりハロウィンテイストのショートショートをお楽しみくださいませ。

Zにやさしく

 駅前のコンビニ。昼時。
 店内はサラリーマンやOLといった客でごった返していた。
 サトシはただひたすら真面目にレジ入力をこなしていたが、ふと手を止めた。
 レジ前の客は一瞬きょとんとする。しかし、乱雑な髪の隙間からのぞく灰色の顔に気付くと、すぐやさしい顔つきになった。サトシはそんな客に見向きもせず、隣のレジで接客している店長の元へ、足を引きずりながら歩いていった。何かを求めるがごとく両手を前に出して一歩一歩ゆっくりと進む。そのほうがバランスをとりやすいのだ。
 店長の元へたどり着くと、くぐもった声でつっかえながら言った。
「店、長。やはり体、調が、すぐれな、いので……」
「そうか。じゃあ帰っていいぞ。気をつけてな」
 サトシが全てを言うまでもなく、店長はやさしい目で許可を出した。
「あ、そうそう。アレ、お前のじゃないか?」
 店長は一旦バックヤードにひっこみ、何かを手にして戻ってきた。差し出された手の中をサトシは覗き込む。しばらくするとぼんやりとした視界の中に人の耳が浮き上がってきた。
「ええ、と、右の耳で、すね……」
 髪をゆっくりとかき上げて自分の右耳を確認する。かき上げた拍子に髪がパラパラと抜け落ちたが、耳はいつもの位置にちゃんとあった。強く引っ張れば取れてしまうかもしれないが、試してみようとは思わなかった。体は腐っていく一方だが、毎日服用している薬のおかげで脳はある程度正常に機能していた。自分を傷つけることにはブレーキをかけられる。他人に危害を加えることもない。
 しかし、この体がゾンビ──いわゆる『ゼット』になってしまったのがいつのことだったか、何が原因だったかは、はっきりと思いだせない。
「ぼくの、は取れて、いないようで、す。お客さ、んのでしょう、か……」
「そうか。じゃあ保管しておこう」
 そう言って店長は接客に戻った。
 サトシは重い動作で帰り支度をして、レジカウンターから出た。サトシが抜けたので店長のレジ前の列は倍に膨れ上がっている。その列の脇をずるずると歩いていく。客たちの視線に包まれる。どれもがやさしく慈愛に満ちたものだ。いつもドジばかりして、叱られていたサトシにとって、この視線は妙にくすぐったいものであった。死んだも同然の人間に似合わない表現だが、生きた心地がしないと感じていた。
 いたずらに入店音を繰り返す自動ドアを抜け、やっと外へ出たところで、走ってきた子供がサトシの足にぶつかった。
 衝撃で膝の皮膚が少しはがれたか──感覚が鈍く確証は得られない。後で見て確かめるしかない。
「痛ってー。あ! ゼットだ!」
 子供は無邪気に叫ぶ。遅れてやってきた母親らしき若い女が子供をたしなめる。
「申し訳ありません。お怪我はありませんか?」


※サンプルはここまでです。続いてインタビューをご覧ください。

くにさきたすくさんインタビュー

── まず簡単に自己紹介をお願いします

 くにさきたすくです。電子ショートショート作家と名乗っています。略すと電ショ家です。
 一五〇〇~三〇〇〇字程度の作品ばっかり書いてます。
 ショートショート研究会に所属しております。

 電子書籍は二冊発行しております。どちらもショートショート集です。
『空論オンパレード』
http://kuron-onparade.tumblr.com/
『ポンコツ×ショート』
http://ponkotsu-short.tumblr.com/

◆ブログ:『ショートショート+』
http://taskuni.hatenablog.com/
◆Twitter:
https://twitter.com/taskuni/

── この作品を制作したきっかけを教えてください

 今号から読切掌編枠がレギュラー化ということでしたので、掌編ジャンルを盛り上げるために力になれればいいなと思い参加しました。

── 今後の活動予定や目標を教えてください

 現在『小説家になろう』にて『ふぁぼ⇒ショートショート』を連載中です。現在Twitterにて連載ページへのリンクを固定ツイートにしてあります。それに「お気に入り」が付いただけ連載を続けるという試みをしております。
◆小説家になろう:『ふぁぼ⇒ショートショート』
http://ncode.syosetu.com/n9211cv/

 と、ショートショート研究会のメンバーでブログを製作しております。
◆ブログ:『【小説】喫茶N』
http://cafe-n.shortshort.club/

 あと、今年中にもう一冊電子書籍を発行できればいいなと思っています…………っていうのを前に書きました。この号が発行されるころには……鋭意製作中であります。

── 最後に、読者へ向けて一言お願いします

 こんごと、も、よろ、しくおねが、いいたしま、す。

NPO法人日本独立作家同盟とは

 NPO法人日本独立作家同盟は、文筆や漫画などの作品を、自らの力で電子書籍などのパッケージにして世に送り出している、インディーズ作家の活動を応援する団体です。伝統的な出版手法である、出版社から取次を経て書店に書籍を並べる商業出版「以外」の手段、すなわち、セルフパブリッシング(自己出版)によって自らの作品を世に送り出す・送り出そうとしている方々をサポート対象としています。

 当法人の活動目的は、誰もが情報発信者になれる時代における、作家や作品の知名度向上(Promotion)、作品の品質向上(Quality)、作家と読者のコミュニケーション活性化(Communication)などを促進することにより、多種多様な出版文化の振興に貢献することです。情報交換や交流などを目的としたコミュニティの運営、インディーズ作家を応援するマガジン『月刊群雛』の発行、ウェブメディア『群雛ポータル』によるセルフパブリッシング関連の情報発信、勉強会やセミナーの運営などの事業を行っています。詳細は、公式サイトの[法人概要]をご覧ください。

◆NPO法人日本独立作家同盟公式サイト:
http://www.allianceindependentauthors.jp/

Zにやさしく(サンプル版)

2015年9月27日 発行 初版

著  者:くにさきたすく
発  行:NPO法人日本独立作家同盟

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