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ビッグ君
ビッグ
「オレってビッグ? 」
「え? 」
こんな簡単な質問に答えられない所を見ると、こいつは反ビッグ派に所属してるに違いない。
何と言っても最初の返事が疑問形だった。そんなことじゃあ、この先思いやられる。
第一、ビッグ過ぎだろ…
「何が? 」
こいつ、マジに舐めてる。ビッグか、ビッグじゃないか、今聞いているのはそこだ。
最近、マクドナルドで食うのを止めた。オレにとって高過ぎる。
「オレってビッグかって聞いてんだよ。」
「そうじゃねえに決まってんだろ? 」
その眼は、とても小さな、だが猛烈に邪悪な光に満ちていた。
「奴はトンデモない物を盗んで行きました。…あなたのビチグソです。」
「ほォ… 」
怪盗ルパンのようなシルクハットを被ったマント姿の男と、気の弱そうな税理士風の男が、向かい合って話をしている。
「この男は、もう何であれ意味のあることしかしたくないそうなんです。とにかくこいつに意味のあることだけを指示して頂けませんか? 」
「…意味のあるって、ではこの人にとって何が重要なのかについてのデータをもらえませんか? そうでなければこの人にとって意味のある指示を下すことは難しい。そもそも、この人とは? 」
胸ポケットから出ているハンカチの柄をよく見ると「嵐」と書いてある。
「何? 誰が誰で、誰の胸ポケットのハンカチです? 」
「実は、ここまでの四頁の中に、ヒントが隠されておるそうなんです。」
クワガタそっくりの男が言った。
「鬼気迫る告白ですな。」
「まあ、そう言って頂ければ、奴も生き延びたかいがあったという物です。」
二人の会話はツイキャスで実況されていた。
「二人? 」
「まず、ツイキャスについて教えて下さい。」
それから彼は、オレがインターネットについて一体どれくらいの知識を持っているのか、根掘り葉掘り聞き始めた。三木谷と孫、漫喫、声優、まあそんな感じだ。
「浅いな。」
「ていうかインターネットでもなくない? 」
じゃあ一体何がインターネットだというのか。
一九九二年 八月 神戸
二○一五年 十月 神戸
突如訪れた、二十三年のブランク…
「ここが三木谷かあ。」
「おいでやす。」
そこは、火の海だった。
「これで10頁まで行けたら、取って置きのクイズを出してやる。
第一問、バーサーカー・結婚。だーれだ? 」
まだ7頁、ということは、これは取って置きのクイズではない、ということなのだろう。
お前もしかして、ネトウヨだろ?
ネトウヨだった。
50年前のことを未だにネチネチ言って来る。ということは最低50年は生きているということになる。何の話かと言えば、森のことだ。
「森は生きている」ババーン。
「全てが茶番というのは何とかならないのでしょうか? 」
カシャッ カシャッ
「せめて、活字の大きさを自由に変えることは出来ないのですか? 」
カシャッ カシャカシャカシャッ
「この記者会見はとんでもない失敗かと思ったら、トランスフォーマー・パート8。変形し過ぎてオレ、女。より」
ここまで読み、隼人はスマホから顔を上げた。
「耐えられない。」
それこそが、もっとも正直な感想だった。
文字数も徹底的に少なく、別に精神的に負荷が掛かるようなヘビーな内容という訳でもないのに、この苦痛は何だろう。何にも繋がって行かないことの苦痛とでもいうのか。とにかくここで費やされる時間の無駄さだけが確実な気がして、それを強要されていることの辛さに頭がクラクラした。
「もしもし、ジャンボ尾崎? 」
ふいにつけたテレビから流れてきた女芸人のネタに、思わずふきだす。
人を笑わせるというのは本来こういうことをいうではないのか? それともこの文章の狙いは笑わせることではないのか?
数年ぶりに友人からメールがあったと思ったら、小説を書いたから読んで欲しいとあった。見ればPDFファイルが一つ添付されており、それが冒頭の文章である。
「何がビッグ君だよ… 」
隼人は心底落胆してそうつぶやいた。正直、彼にはもっと期待していたのだ。彼とは若かりし頃、お笑いコンビを組んでいた。
真・火花 (完)
2015年10月9日 発行 初版
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初めまして。 薄い本をいっぱい出したいです。