spine
jacket

───────────────────────



SIKEINⅡ

シケイン

シケイン出版



───────────────────────

       シケインⅡ
                     シケイン

「バンドやろうぜ! 」
 放課後の教室、いつもの面子で何となくダベっている所へ、これまたいつもの面子であるクラスメートの武田が、いつになく張り切って近寄ってきた。

「何だよ突然。」
 ったく。藪から棒にもほどってもんがあんだろうに。はいはい。聞くだけ聞いてみましょうか。
 
「バンド名だけは決まってるんだ。」
「ていうかお前、楽器出来んのかよ? 」
 多分、世界中の放課後の教室で、これまで無限に繰り返されて来たんじゃないかっていうよくあるワンシーンだ。これは。 

「そんなことは問題じゃねえ、バンド名はハードボイルドワンダーランド。どう、凄くねえ? 」
「何が? 」
「これで世界の終わりと対バンしたら、世界の終わりとハードボイルドワンダーランドになるじゃん! 」

 武田の言ってることはぼんやり分かったけど、その面白味を正直オレは100%は分かってない。何か元になるネタがあるらしいが、それが何だかオレは分かっていないんだろうなあということだけ今は分かっている。だから聞いてみた。

「何それ? 」
「知らねーのかよ! 村上春樹の小説の題名じゃん。」
「知らない。」

 無反応。その場にいた他の3人も知らなかったみたいだ。

「これだから10代のリテラシー半端ねえよ。最悪だよ。」

 お前も10代だろうが。武田は頭の形がコーラ瓶に似ていて、何か仲間内で浮き出すとコーラ瓶扱いされて野次られる。またそれが始まりそうな予感をつんざいて、倉持が言った。

「100人ぐらいが思いついて、5人くらいがブログで書いてそうなこと実際にやるってどうなんだろうね。でも本当にやってみたら何か反響とかあるのかな。」

「何だよ尻。知ってるんじゃん。」

 倉持は、グラビアアイドル・倉持由香のキャッチフレーズ「尻職人」から転じて、時折「尻」と呼ばれているクラスの女子。
 ここ最近特に、こうしてなぜか数人で残ってダベっている時に、何となくそこに居る。
 倉持が乗ったので、オレもここぞとばかり被せた。

「ダサいんじゃないの。それって。」

「もうさ、そんなこと言ったら何も出来ないじゃん。尻そういうとこあるよな、いっつも。ネットばっか見てんじゃねーの? 」

 武田が猛然と倉持を指差して文句を垂れる。
 
「尻って呼ぶのやめてよ。でも菊池君の言うとおりだと思う。ダサいよ。」

「ダサかったらなんだよ? 今ダサいとかダサくないとか言ってる奴が一番ダサいって兄ちゃんが言ってたぞ。なあ、じゃあハードボイルドワンダーランドじゃなくていいからさ、何かバンドやんねえ? 」
 え?

「目的の中心がなくなったのにまだやりたいの? 」
 さすがにびっくりして突っ込んだ。

「だって何か今、乗ってんだよオレ! 」

 確かに物凄く興奮していることだけは伝わってくるが、逆にお前が盛り上がる程に萎えて来るこっちの気持ちには気付いてるだろうか?

「あたし、キーボード出来るよ。」
 あれ?

「おい、やる気になってくれたのかよ? 」
 倉持乗った? 萎えてたのオレだけ?

「うーん、正直武田君がどんなバンドやりたいか次第なんだけど、わたし、ちゃんMARIみたいなのやりたいな。」
「ちゃんマリって? 」
 何だよ武田。何も知らないのはお前の方だろ。オレも知らない。

「ゲスの極み乙女。のキーボードの女の子だよ。」倉持がフォローした。

「ゲスの極み…ってあのハマカーンの? お前ハマカーン好きなの? バンドじゃねえじゃん。」
「全然面白くないから。ショパンとか間奏でガッツリ弾くああいうのやりたいって言ってるの。」

 ゲスの極み乙女。がバンド名で、あのキーボードの女の人のことを言ってるんだということは分かる。それ以上はよく知らん。倉持、ピアノ弾けるのか。

「よし、菊池、お前、ベース弾ける? 」
 は? 冗談でしょ。

「無理無理。オレやるって言ってないし。」
「バカヤロウ! やる前からそんなこと言ってたら何もはじまんねーだろ。おれがギターボーカルで、お前がベース、倉持がキーボードで、ドラムがイイダ、これでよくねえ? 」

 とどめの一撃を刺すように、武田がその場に居て今まで一言も発していない湖茂田に急にドラムを割り振った。
 湖茂田は近所にあるスーパーのコモディイイダにちなんで、皆からイイダと呼ばれている。太っている。

「そんでさ、学祭出ようぜ! 」
「ぜってー嫌だよ! てか無理だよ! 」
 思わず声が出た。

「無理無理無理無理うるせーなー…じゃあいいよ。お前は外れろ。」
 え?

「オレと尻はやるだろ? 」
「尻、禁止で。」
 そう言いつつ、倉持はやるのか。

「イイダは? 」
「えー、…どっちかっていうとあたしの方が大きいよね、お尻。」 
 ボソッと言ったイイダもまた、何を考えているのか分からない。倉持の幼馴染でいつも一緒にいる。 

「大きいって言うか、お前は単にデブなんだよ。どうすんだ、やんのか? 」
 言い忘れたがイイダも女子だ。

「あたしはこの娘がやるならやる。」

 この娘? おいおい、何だよこのイケイケどんどんなノリは。まあいいや。ちょい待て。

「ていうか武田、お前、ギター出来んのかよ? 」

「お前にはもう関係ねえだろ。オレたちのバンドなんだからよ。」

 こういう風に言われたら、何か突然寂しくなって、やっぱオレもやるって挙手すると思うだろ? ダチョウ倶楽部の芸みたいに。でも、今日日の中学生は忙しいのだ。

「やらせて下さい! 」

 土下座していた。

                       <了>


          第二話 バンド名を考える へ続く


SIKEINⅡ

2015年10月13日 発行 初版

著  者:シケイン
発  行:シケイン出版

bb_B_00139133
bcck: http://bccks.jp/bcck/00139133/info
user: http://bccks.jp/user/135482
format:#002t

Powered by BCCKS

株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp

UNO千代

初めまして。 薄い本をいっぱい出したいです。

jacket