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戯曲『HIKAKIN』

HAKAISHA

UNO千代出版



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戯曲『HIKAKIN』
                HAKAISHA

「ハロー、YouTUBE」
「ハロー、ヒカキン。」

「元気? 」
「元気です。」
「いい感じでやってる? 」
「いい感じっす。」

「とはいえあのHIKAKINと比べたらまだまだでしょ。」
「そうっすね。」

「分かってる? あのHIKAKINだよ。」
「分かってますよ。」

「BlackBrainじゃないよ? 」
「何すかそれ? 」

「漫画の題名。」
「何で今出したんすか。」

「…出したくなかったから。」
「じゃあ普通出さないでしょ。」

「出さないかな? 」
「よく分かんないっす。」


「…てな訳でね。」
「なんすか。」

「もうそろそろパチもんみたいなの、やめた方がいいと思うんだよ。その、ヒカキンて名乗るとか。」

「え… 」
「だってお前、ヒカキンじゃないじゃん。」

「いや、ヒカキンっすよ。」
「違うだろ? 」

「いや、だから、あのHIKAKINではないですけど、ヒカキンですよ。ちゃんと。」
「だからそういうのをやめようって言ってんだよ。」

「何でっすか。」

「だって、おんなじ名前じゃんか。」

「違いますよ。…例えば『エヴァンゲリオン』と『エヴァンゲリヲン』は違うでしょ? オとヲが。」
「もっと言うと『ヱヴァンゲリヲン』だけどな。『エ』じゃなくて『ヱ』。」

「あれ、何でなんです? 」
「それはその…権利の… 憶測で物を言わすのやめてくれるかな? 」

「ほら、違うわけじゃないすか。」
「いや、あれは明らかに文字が違ってんじゃん。表象が違うじゃん。」

「でも口に出して言う時は同じですよね? 」
「微妙に違うだろ。」
「じゃあ言ってみてくださいよ。」

「エヴァンゲリオン。」
「と? 」
「ヱヴァンゲリヲン。」
「ほら。」
「うるせーよ。」

「だから、そういう意味で言ったらオレのも違いますよね? 」

「続ける気あんの? 」
「ありますよ。」
「じゃあさ、もし続けていって、結構支持されて、ファンとか増えちゃったら、どうしようと思ってるわけ? 」

「…何か困ることあります? 」
「あるだろ。」
「ないっすね。」
「てかすでにこの時点でクレームとかあるだろ。おんなじ名前でやってんだから。」

「いや、これは神に誓って言いますけど、オレ、一度だってローマ字で綴ったことは無いんすよ。HIKAKINって。だから、全く別物です。」
「それはお前だけが納得してるロジックだろ。全然説得力ねえよ。クレームあるだろ? 」

「…コメント覧 塞いでるからなあ… 」
「お前… それでよくYou Tuberやってられんな。2ちゃんとかで言われてるだろ。」
「いや、スレはあるけど過疎ってますね。」
「あ、そう。」

「そもそも動画自体そんな閲覧数ないんで。」

「お前… ヤバい。話しかけるんじゃなかった。」
「今更っすよ。」

「代表的な投稿なんだっけ? 」
「えーと… 『タンスを担ぎながら『さざんかの宿』を歌ってみた』が結構伸びてます。」

「お前… 何歳なんだっけ? 」
「32です。」

「一番何て言っていいか分かんない年齢だな。…よくそのテーマ選んだな。」
「そうすか? 」

「副業? 」
「そうっすね。」
「本業は? 」
「バイトっす。」
「それ本業っていうの? 」

「考えたことなかったっす。」
「考えろよ。」
「考えるな、感じろ。一番好きな言葉っす。」
「それここで出すなよ。」
「すんません。」

「まだ続けてくの? 」
「そうっすね。当面は。」

「バイト何してんの? 」
「何っていうか… 代行サービスに登録してるんすよ。」
「何それ? 何の代行? 」
「主に力仕事っすね。地下鉄の工事とか。細かいプラスチックのチップ麻袋に詰めたりとか。」

「そういうところに呼ばれるんだ。」
「まあ、そうっす。」

「ほとんどカイジじゃん。」
「カイジっすね。」
「カイジっすねじゃねえよ。」
「すんません。」

「まあ、じゃあ頑張ってよ。」
「はい。」

「オレは名前変えた方がいいと思うけどね。」
「あー… でもそれは… 」
「嫌なんだ? 」
「ポリシーっていうか… 変えるとしたら何がいいっすかね? 」
「ポリシーじゃねえのかよ? 」

「ポリシーでもなかったっすね。何でもいいっす。」

「じゃあ、すぐ変えな。そしたら… 」

「そしたら?  」

           エンディングテーマ・坂本龍一『KOKO』

               戯曲『HIKAKIN』(了)

戯曲『HIKAKIN』

2015年10月15日 発行 初版

著  者:HAKAISHA
発  行:UNO千代出版

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UNO千代

初めまして。 薄い本をいっぱい出したいです。

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