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SIKEINⅡ(2)

シケイン

シケイン出版



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    第二話「バンド名を考える」
                     SIKEINⅡ

「顔上げろよ。」
「え? 」
 
「やりてえんなら最初っからそう言やいいんだよ。」

 いや、ボクはただ、みんなを盛り上げようと…

「これでメンバー揃ったし、無事結成出来そうだな。」
 武田、お前ただこの新バンド始めるにあたって、マウント取りたかっただけだろ?

「いやー、超ワクワクしねえ? 思いつきで言ったのに、もうバンド結成だぜ?。凄くね? 」

 実質結成出来てねんだよ。
 こういうところは楽天的な武田が羨ましい。オレは何をやるにしてもまず現実的なことから考えていくので、正直この時点では不安要素しかなくて、どちらかというと気が重い。思わず本音が漏れる。

「バンド組むって、多分言うだけなら簡単で、そん時が一番盛り上がんだよ。理想しかないから。その内現実が見えて、嫌になって終わんだよ。」
「暗えなあ。そういうのいらねえから。お前、今からでも降りていいんだぜ? 」

「だってさ、お前は兄貴の影響とかでギター触ったりしたことあんだろ? 倉持だってピアノ弾けるみたいだし、オレは本当にド素人でさ… 」
「大丈夫だよ。どうせベースなんて聴いてるやつ誰もいねえから。」

 …え?

「そんなことないと思うけど。」倉持。

「聴いてないっていうか、聴こえない人も多いらしいぜ。低い音域だから。そしたらカッコだけ様になってたらいいんだから、楽勝だろ? 」
 ベーシストに聞かれたら間違いなくぶん殴られる。ハマ・オカモトに。

「ええーっ… 」
 倉持は不服そうだ。

「課長までとは行かなくても、ファンキーなベース弾いて欲しいなあ。」

 課長? ファンキー? ファンキーってなんや?
 父親が関西弁なので、つい関西弁で想像してしまった。

「まあ細かいことはおいおいでいいじゃん? 」
 お前が一番大雑把なんだよ。言いだしっぺの癖に。
 だが確かにそうだ。

「てか楽器どうすんだよ? 」
 楽器、練習場所、肝心の外堀がまるで埋まってない。

「ベースとギターは兄ちゃんが何本かずつ持ってるから借りれるよ。小さなやつならアンプも貸せると思うし。」やるなら初めは武田の兄貴頼みになりそうだ。

「ドラムとキーボードは? 」
「実はキーボードはないんだよね。ピアノはあるけど。」倉持が言った。

「そんでドラムセットなんて当然ないだろ? 第一やる場所がねえし。」
 うちの学校には軽音楽部はない。部活を新たに作るとなると、これまた大変な道のりになる。

「そんなこと、どうにでもなるって。」
 なんねえだろ? 武田の楽観はいつも根拠なんてない。

「なあ、まずはバンド名決めねえ? 」

 結局そこか。それがしたいだけか。

「ちょっと待てよ。本当に何処で練習すんだ? ドラムとキーボードどうすんだよ? 」
「だからさ、今日そこを確定させる必要ある? 今出来ることをやろうぜ。しかもテンション上がることをさ! バンド名考えたくね? かっけえヤツ。」

 オレは、無意味なことをするのが嫌いだ。だからどうしても、本当に活動出来るかどうかも分からないバンドの名前を考えるのに時間を使いたくないという気持ちが先立ってしまう。が、一方で確かに名前とかそういうのが、メンバーの士気を高めたりするのに効果がありそうなのは分かる… 

「あたし、あれ好きなんだぁ。けいおん。」
 イイダが口を開いた。けいおん?

「あたしも! あれでアニメまた見るようになったもん。」
 何? 何の話が始まったんだ?

 イイダも倉持も武田も、バンドとかアニメとか、今日はオレには全然免疫のないジャンルから色々出てきて、何か熱が出そうだ。

「そうそう。だからこの放課後の集まり? 結構イメージ重ねてたかも。バンドって武田君から聞いた時、来たーって感じしたし。」

 その『けいおん! 』というアニメは、女子高の軽音楽部の話で、主人公たちは主に放課後に和気あいあいとダベったりお茶したりしていたのだそうだ。そうか。そのノリが追体験したくて、倉持は毎日残ってたのか。

「かわいいバンド名がいいよね。」
 イイダが? …そうだろう。女子はそう言うだろう。でも武田がギターボーカルやっててかわいい名前って… 頭がコーラ瓶なんだぞ…

「いいねいいね。じゃんじゃん候補だそうぜ! 」
 お前はバンド名を考えるゲームがしたいだけだろ。

「俺はかっけえのがいいから、何なら2つ作ろうぜ! バンド。」
 だからそれがフィクションなんだっての。

 まあ気持ちは分かる。名前をつける楽しさ。

 でも今となっては正直、オレにはそれこそが苦痛の種だ。
 何故なら小学校低学年の時、自分で考えた怪獣やヒーローに名前を付けて盛り上がっていた時と同じ種類の興奮だということが容易に想像付くから。
 分かるだろうか? 新しいポケモンの名前を覚えるのと同じ。何かやってるようで、実は何にもしてない。やれもしないバンドの名前を考えるのに、時間を使いたくない。

「なあ、LINEでグループ作ろうぜ。バンドの。」
「あー、…あたし携帯とか持ってない。」
 イイダは持ってないらしい。てかこうやって既成事実を作っていくって、武田って結構やっぱり天然に策士なんだとそこは感心する。

「そっか。じゃあ菊池と尻だけでもいいからとりあえず作ろうぜ。そこでもバンド名出し続けよう。」
 考える時間を出来るだけ引き伸ばしてまで楽しみたいのか。

「ええ… やだなあ… 」
 倉持は引いてるが、武田はさっそくスマホを触ってる。

 と思ったらオレの携帯が鳴った。

『ryo2があなたを「新バンド」に招待しました。』
 武田亮二で、アカウント名がryo2。

「ほら、早く承諾しろよ。」
 強引だ。だがリーダーには必要な資質だ。まあ多少は可能性や面白みを感じているので、承諾する。嫌がっていた割には倉持もすんなり加入した模様。

「名前ってさ、候補でもあんの? オレ、別に何でもいいんだけど。」
「嘘つけよ。ハードボイルドワンダーランドにケチつけてたじゃねえか。」
 だって、それは。

「いやー、何か長いなと思って。」
 本当はもっと色々別に理由があるけど、価値観で対決しなきゃいけないのが一番面倒くさいので、無難な理由を言っておく。どういうのがカッコイイとか言ったって、双方どうせ根拠はない。

「いいんだよ! 長くて。長くて、略させるのがいいんだって。」
「そうかな? 」

 武田が皆に向けて開いた右手の指を、左手で一本づつ折りながら、ゆっくり言いはじめた。

「いいか? レッチリ、マンウィズ、アジカン…、ベガス、クリープ、セカオワ…、バンアパ、ヘイスミ… 」
 やかましいわ!

「あはは。超ウケる。」
 超ウケてる?!

「つーかもう本当に好きに付けていいわ。どうでも良くなってきた。」
 何か疲れた。

「おい! 楽しもうぜ! 」
 どうやらこの件を楽しむ資質がなさそうだ。オレには。

「お前、小学校の時さ、ヒーローとか怪獣とかの名前考えるセンス、凄かったじゃん。まだ覚えてるよ。マーライオン鮫とか。」
 武田、そこを今暴露せんでくれ。ディティールはいい感じで忘れてたのに…

「ええ? 何それ? 」倉持もいちいち食いつかんでくれ。

「こいつのオリジナルの怪獣。何か世界の名所的な物と生物が混じってんの。子供心に超衝撃受けてたんだけど。」

「ああーあたしもやったー。プリキュア的なやつで。」
 子供はカスタマイズの天才だからな。でも…

「だから嫌なんだけど。」
「ええ? 」

 幼稚っぽくて嫌なんです。その行為自体が。大体今となっては「マーライオン鮫」に乗れんだろ。

「やっぱインパクト重視で行きたいよね。何ていうかさ。」
 スルーすんなよ。だし、インパクト重視ってさ、その加減が難しいんだろ? 誰だってインパクトは欲しいんだよ。でも行き過ぎてると恥ずかしいから、突っ込まれても大丈夫なやつか、もう開き直ったような滅茶苦茶なやつとか付ける訳で… いや、それって結局何でもいいってことじゃん?

「とにかくオレは、武田とか倉持とかが考えてくれたらそれでいいよ。マジで何でもいい。名前とか、本当に。」

 と、言ってしまってからまた考える。この発想、『寄生獣』のミギーと同じこと言ってないだろうか。…つまり、名前なんてどうでもいい=本質だけを見ている自分アピール=遊び(余裕)のない人間=子供 

 むしろ、名付けで盛り上がる=人生を楽しむ余裕=大人 なのでは…

 でも、世界の終わりと対バンして云々って言ってるやつが、大人な訳あるだろうか? 

「菊池、それじゃダメだよ。皆で本気になって考えねえと。」
「え? 」

 何か、武田の瞳が澄んでいる。

「一人でも嘘気でやってる奴がいたら、上手く行かない気がする。」

「嘘気ってことは… ないけど。 …思いつかないだけで。」
 何だろう、急に武田が大人びて見えた。普段いい加減なだけに、余計に。

 まさか… これが… 人間力?!

「今、LINEで送った。」
「は? 」倉持、静かだと思ったら、打ってたのか。てか仕事早え!

『ドンゲバビー(don’t give up be)/TANTANS/痛い中学生/ゆさゆさず/エンピツ/消しゴム/分度器 』anna

 これは… 

「センスがあるのかないのか分からねえ。」
 武田でさえ?

「あたし、本当にやるならキーボード買おっかな。」
 おっと?!

「マジか! 」
「うん。てか元からちょっと欲しかったんだ。赤いnord lead。ちゃんMARIと同じやつ、electro 3だったかな? 何か超欲しくなってきた。」

 武田がオレの肩に手を置いて言った。

「そういうことだ。」

                (つづく?)

SIKEINⅡ(2)

2015年10月15日 発行 初版

著  者:シケイン
発  行:シケイン出版

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UNO千代

初めまして。 薄い本をいっぱい出したいです。

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