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詩誌街灯 vol.3 2015秋

川瀬杏香
花咲風太郎
北井戸あや子
夕鷹
ハナサキミドリ




街灯詩舎

 目 次


  序文に代えて 砂城 ~夕鷹

  ■詩篇 夕鷹


  花


  椿の花


  こどく


  硝子玉


  夏の日

  ■詩篇 川瀬杏香


  ぼくらは少女


  剪定


  蜂


  四十四分発


  無題

  ■詩篇 北井戸あや子


  無題


  無題


  無題


  無題


  無題


  無題

  ■詩篇 花咲風太郎


  確信


  花咲け


  天竺鼠


  瓶詰め


  やがて


跋文  花咲風太郎


初出


街灯詩舎既刊

序文に代えて



砂の城は

ほんとうの

城にはなれない

城になりたがってもいない

海へ

帰りたがっている




   『砂城』  夕鷹

詩篇

夕鷹

  花


花が散って実をなせば
わたしのつとめは終わりです
だからその実を摘むのです

光を集め水を飲み
咲かせては呼び掛けて
実をなせると思う頃

ひとはその実を摘むのです

まだ終わりではないのだと
咲けなくなるその日まで
ひとはその実を摘むのです

やがてくたびれきった姿を見
冬も近い夕暮れに
今度はわたしを摘むのです

わたし自身を摘むのです

  椿の花

椿の花
触れて気づいた
その冷たさ

落ちるには
まだ早い

誰彼じゃなく
そう決めて

なのに大抵
首から落ちる

影はわたしの手の中に

いつかは秘め事
他の娘が実を結ぶ

日影でないなら
もう逝きたい
深緑葉でいられないなら

咲けた咲けた赤 斑

落ちた落ちた落下した

露に濡れた
地面は苔の
深み鳥

表情薄く
劇的に
赤い着物の伏す鮮烈

爪先の
一つ拾って
手放した

踏まれようとも
目を閉じない
赤い斑の娘は言った

影はわたしの手の中に

paint by 夕鷹

  こどく


みんなといるときが
いちばん
こどくだったよ
楽しいふりして
ごめんなさい

今ではもう
みんな色々なものになっちゃって
おいてけぼり

今はこどくさえ
理解できないんだ

  硝子玉


ひとの目がもしも硝子玉なら
わたしはそれを綺麗だと思ったかもしれない

廊下が映す
天井のように

ひとの目が
それを映し出すだけなら
わたしはいつだって覗きこみたいと思ったかもしれない

空に忠実であり
海に寛大である
彼らのように

思考することをせず
感情を有する

もしも瞳がそういうものなら
わたしはきっと
覗けたに違いない

そして誰にもそのことを話さず
忘れてしまうだろう

  夏の日


やまももの赤い
果肉
夏の色

山の縁が
川底に映る
薄暮れる

何の音か
あの声は
蝉の落ちる
生まれる
音か

ガード向こうに
水流れ
エメラルド原石

夏は熟れ過ぎて
落ちずに
ゆれる

静かにゆれる

ああ
山に日が
入る

paint by 夕鷹

詩篇

川瀬杏香

  ぼくらは少女



ぼくらはだれにも
摘みとられまいとしながら
だれかに
摘みとられる夢をみていた
淡い闇にかおりをかくして
摘みとられる夢をみている
ぼくらは少女

photo by ハナサキミドリ

  剪定




ぼんやりとしたの昼下がり
窓の外から小気味良く
何か剪定する音がする

遠くでわおおん犬が哭く

小さなアパートの一室で
耳そばだてて考える

例えば剪定鋏で
犬の毛を、もしくはもっと
痛々しいものを
剪定してなどいないだろうか

なんと恐ろしい光景だろう
なんと恐ろしい想像だろう

夕刻までには
近所の庭木が美しく丸みを帯び
佇んでいるに違いない

  蜂




ひとりの夜は訳もなく
隣人の足音に耳傾ける
干渉を嫌いながら
心のずっと奥のほうに
蜜を渇望する
卑しい蜂を飼っている

  四十四分発



トンネルでもないのに
構内を
ごうと風が吹き抜ける
台風二十三号の仕業らしい
震えながら
四十四分発の列車を待つ
冷えた下肢と詩歌と
鉄の塊なに想う
再び
ごうと風が吹き抜ける
否、警笛の音と共に
列車が来る

photo by ハナサキミドリ

  無題


*
夜も更けて
紅芋ふかす
皺深し
*
飯を食う
真の醍醐味
皿洗い
*
電球の
灯りの届く
その場所で
*
この心
ころしてしまえ
生きるため
いちどはしんだ
ちいさな心
*
ふうと吹く
風に魅せられ
あきのそら
残暑の名残
清める塩飴
*
むっつりと
気が多いのは
このわたし
みな愛してる
死ぬまで大事
*
泣かないで
きみが泣くなら
ぼくも泣く
*
山を越え
ぴあのの音色
響かせて
*
生真面目で
実直だなんて
レッテル貼り
無理して真面目
演じてました
*

詩篇

北井戸あや子

  無題



ぼくの身体がすべて硝子になってくれたら
心臓がいちばん脆い造りになればいいなと思うのです
心臓の吐くぼくの血流は
只ひとつのぼくを穿き続ける弾丸なんです
あぜ道に咲いていた、きみの好きな彼岸花
ぼくはそれを毎日食べています
一日かけて花弁を、ひとつずつ食べています
いつかぼくに彼岸花が咲いたなら
その時は、きみにぼくを摘んでほしいと思います

photo by ハナサキミドリ

  無題



浅き夢明け散りうつろいて
だれかは逝ってしまったけれど
咲くように枯れてしまったけれど
見つけたものは楽しそう
青を横切る飛行機の雲

  無題



ゴミ箱をひっくり返して
掻き集めた幸福を噛み締めている
私は
幸福を噛み締めているという無様な思い込みを抱き締めながら
滴る脈を数えつつ福寿草を口にする
家族の音で耳を塞いで
花瓶からサルビアを抜く
私は幸福の夢を見る幻覚を視ている

  無題



いつからか、逃げた先には
空があり、土があり、風があり
寒々しい光とやらで、身を切り売りしなければ
息も許されない生となった
擦り切れの思い出を外套代わりに羽織って
どれだけ時が流れても
空はただ空であり、土もまた土であり
なにも変わらず、ただあり続けていた
その先には
逃げた過去から逃げ続けている、変われない俺もいた

  無題



別れもおもえばうつくしい夢
傷んで光る毛先が奇麗
くだりの電車でさようなら
枕木から見た星空、綺麗

  無題


喝采は鳴り響き
天井のあたりでやっと壊れだす
ぼくを受け止めるはずだった手は
もうさびしくなくなった喝采へ向けられている
ぼくを支えるにはきっと、頼りなかったさびしい喝采
ぼくの背を押したのは、ちからない拍手のてのひら
数えてもそれは変わらずに、いつも通り、さびしい喝采
割れる声も涙もいらない
さびしい喝采、抱えきれないような、さびしい喝采
ずっとあなたを離さずにいたかった
さようならか、さようならだ

photo by 北井戸あや子

詩篇

花咲風太郎

  確信

どこにもいかない


ここにいるよ


雲がでんと座っている


澄んだ空のあの高い建物の隣に梃子でも動かぬとばかりどっしり腰を下ろしている

それなのに君は目を離すと君は建物の陰に隠れようとしている

見つめていれば分からぬぐらいに微かな歩みでもって君はどこへ往くの?

あの確信はとうに消えてしまったの?

やがて蒼い空滲むように散り散りになった君はいつか暗い顔して雨を降らしている

あの高い建物が在った確かに在ったその更地の前でロープの外側で僕は佇む


誰もいない更地に


花が咲いている

  花咲け



花咲け大地

叶わぬ夢も

素知らぬ顔で

天まで昇れ

いずれは雲に

やがては雨に

今日もどこかで花が咲く

色とりどりの花が咲く

  天竺鼠

僕の胸から
からから音が
ほらほらご覧
天竺鼠が駆けていら
滑車からから
草臥れて草臥れて眠るまで
健気な鼠が駆けていら
天竺鼠は胸のなか
天竺目指して駆けてるの
からからフィルムを廻してら
草臥れて草臥れて眠るまで
僕だけに
僕だけの物語り
上映中

  瓶詰め

大海を漂う
瓶詰めの手紙

ゆきつ戻りつ
繰り返しに飽かず

コルクの栓で
固く閉じた瓶のなか
むせるほどに夢を満たし

流れる

時を知らない
瓶のなか

流れる

誰も知らない
瓶のなか

流れる

僕は知らない
瓶のなかで

  やがて



やがて降る雨は
僕らを同じ軒下に
やがて吹く風は
僕らを同じ吹きだまりに
やがてくる夜は
僕らを同じ街灯の下に
誰もがなにごとか為そうと
足掻き今日も過ぎてゆく
とうに同じ空の下に
とうに同じ星に立ち
やがて同じ土になり
塵も芥も僕もあなたも混じり合う
やがて吹く風は
なにごともなかったような
そんな明日を連れてくるだろう
口笛でも吹きながら

photo by 花咲風太郎

跋文  花咲風太郎

これでよいと公開を決める判断の難しいことよ。公開した本の跋文で話すには言い訳がましい内容である。
完璧な作品、完璧な構成か?否。我々の目指すものは完璧な物であるか?これも否、である。ここに送り出す一冊は完成品でありながら、完成したものでない。
詩誌街灯は0号を含め四冊目となる。一冊一冊が異なる顔を持ち、それぞれの個性のままに、どこか出っ張り、どこかへこみのある容貌である。やたらと泣く子もいれば、陽気な奴や、怒りっぽく乱暴なのもそのままに世に出て、誰かを待っているのだ。
ここに置かれた一冊は、感傷であり、情景の暴露であり、揺れ動く情緒の発現である。
この一冊が求める誰かに届いたときに。その心の奥の一隅に届いたときに。ひとりひとりに揺れ動く情緒となり、完成すると信じて今回も世に送り出すこととする。


二〇一五年十月吉日

初出

序文に代えて
砂城 夕鷹 ・・・二〇〇九年七月七日 携帯小説☆フォレストノベル

詩篇 夕鷹
花 ・・・E☆エブリスタ
椿の花・・・E☆エブリスタ
こどく ・・・二〇一五年九月六日 Twitter
硝子玉 ・・・未発表
夏の日 ・・・二〇〇九年八月十九日 携帯小説☆フォレストノベル

詩篇 川瀬杏香
ぼくらは少女 ・・・二〇一二年五月一日 携帯小説☆フォレストノベル
剪定 ・・・未発表
蜂 ・・・未発表
四十四分発 ・・・未発表
無題 ・・・未発表

詩篇 北井戸あや子
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表

詩篇 花咲風太郎
確信 ・・・未発表
花咲け ・・・二〇一五年五月二十六日 現代詩フォーラム
天竺鼠 ・・・未発表
瓶詰め ・・・未発表
やがて ・・・二〇一五年八月二十日 Twitter

街灯詩舎既刊

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川瀬杏香
詩集『In The Dark 詩の駅』 BCCKS
詩を愛するひと、絶望と希望の間にあるひと、今を生きるすべてのひとへ。
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『詩誌街灯 創刊準備0号』 街灯詩舎同人誌 BCCKS
或る日、ある時、闇夜に迷う時、傍に在り、灯した明かりは孤独な人のいっときの支えとなり、ひとときの安堵をもたらす光りになれるでしょうか。その時、その心の震えは冷たい空気を伝わり、街灯の明かりを灯し続ける力となります。(跋文より)
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『詩誌街灯 創刊号 2014秋』 街灯詩舎同人誌 BCCKS
愉しい歌も
哀しい歌も
どこかで
希望の灯りとして届くことを願って(跋文より)
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『詩誌街灯 vol.2 2015春』 街灯詩舎同人誌 BCCKS
この街灯の下に偶然通りがかった人、またこの灯りを求めて足を止められた人に、大切な言葉たちが届きますように。(跋文より)
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ありがとうございました。

詩誌街灯 vol.3 2015秋

2015年10月23日 発行 初版

著  者:川瀬杏香・花咲風太郎・ハナサキミドリ・北井戸あや子・夕鷹
発  行:街灯詩舎

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街灯詩舎 同人紹介

花咲風太郎
 blog:『空と雲と詩と』
 ツイッター@h_futaro

川瀬杏香
 創作詩・自己啓発ブログ:『ちいさなひなた』
 ツイッタ―@chiisanahinata

北井戸あや子
 ツイッター@kitaido_A
 LyricJungle参加

浩一
今回は休載しました。

夕鷹
今回より参加しました。
 エブリスタ 『漂流便箋』『ステイション』
 ツイッター@takanoeki

ハナサキミドリ
写真

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